説明

金属粒子または金属化合物粒子のコロイド分散液および分離膜の完全性試験方法

【課題】分散状態を安定化させた金コロイド分散液とそれを用いた分離膜の分画層の評価方法を提供することにある。
【解決手段】本発明は、(1)平均粒子径が10〜30nmの金属粒子または金属化合物粒子、(2)SH基を含有する水溶性分散剤、(3)タンパク質、および(4)溶媒を含む金属粒子または金属化合物粒子のコロイド分散液である。また、コロイド分散液を用いた分離膜の完全性試験方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は疎水性高分子からなる分離膜の分画層を評価するのに適した金属粒子または金属化合物粒子のコロイド溶液および分離膜の完全性試験を行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分離膜においてその分離性能を評価することは、開発途上においても、または、製品の性能を検査する場合においても重要なプロセスである。例えば、血液浄化膜のような血液から尿毒素を分離することが目的である分離膜の場合、尿素やβ2−ミクログロブリンなどの指標となる物質を用いて、分離特性を実験的にダイレクトに測定し、その性能を判定するのが一般的である。特に国内では、日本透析医学会にて性能の測定方法や特定の指標における基準などが決められており、評価方法としては完成されており、基本的な実験設備および基本的な知識があれば簡便に評価できるようになっている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
一方、分離対象がウイルスであるウイルス除去膜の場合では、対象となるウイルスを用いて、もしくは、モデルとなるウイルスを用いて、分離膜のウイルス阻止能力を評価する方法が一般的である(例えば、特許文献1参照)。ところが、ウイルスを用いた評価を実施するためには、微生物やウイルスの取り扱いを許可された専用の実験室や設備、さらに専門的な知識が必要となる上に、宿主微生物の培養にかかる時間が必要であるため、設備的、時間的に制約が多く、実施することが困難である場合が多い。
【0004】
そこで、一般的にウイルスは球状に近い多面体構造であるので、ターゲットとするウイルスと同じサイズの球状物質を用いてウイルス阻止能力の代替評価に用いる方法がある(例えば、特許文献2、3、非特許文献2参照)。ここでは球状物質として、金コロイドを用いて、銅アンモニア法再生セルロース性多孔中空糸膜やポリフッ化ビニリデンにグラフトで親水化処理した膜について、完全性試験を実施している。しかしながら、この方法は全ての素材の膜に利用できる方法ではなく、例えば、グラフト重合などによる化学的な親水化処理をしていない疎水性高分子からなる膜においては、金コロイドを濾過すると、分散状態が不安定になり、金コロイドの分散が変化し、凝集してしまい目的の粒径の評価を行うことができない。
【0005】
以上のように、ウイルス除去膜のような分離対象の評価が特別な施設や技術を要する場合、ウイルス除去能を簡便に評価することは困難であった。なかでも代替評価となりうる金コロイドを用いる方法は、基材の性質によって分散状態が変化しやすいことから、すべての膜素材のものについて評価することが難しかった。本発明者らは、前記課題を解決するために、金コロイドの分散状態について鋭意検討した結果、金コロイドのサイズを変化させず、安定化させる方法を見出し、いずれの膜素材についてもウイルスを用いず金コロイドにて代替評価できる金コロイド分散液とそれを用いた分画層の可視的評価方法の発明に至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2003−509189号公報
【特許文献2】特開2006−55784号公報
【特許文献3】特開平07−132215号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本透析医学会誌 1996年 29号 p1231
【非特許文献2】J. Membrane Science, 2006, 278, p3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、疎水性高分子からなる膜について、分散状態を安定化させた金コロイドを濾過した後にその断面を観察することで、金コロイドの粒子の粒径における分離層を可視的に評価できる金コロイド分散液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は以下の構成を有する。
1.(1)平均粒子径が10〜30nmの金属粒子または金属化合物粒子、(2)SH基を含有する水溶性分散剤、(3)タンパク質、および(4)溶媒を含む金属粒子または金属化合物粒子のコロイド分散液。
2.金属粒子または金属化合物粒子が金、銀、白金、ロジウム、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム、鉄、銅から選ばれる少なくとも一種である。
3.SH基を含有する水溶性分散剤がアミノ酸、オリゴペプチドから選ばれる少なくとも一種である。
4.タンパク質がアルブミン、スキムミルク、カゼインから選ばれる少なくとも一種である。
5.溶媒が水、有機溶媒から選ばれる少なくとも一種である。
6.コロイド溶液中の金属粒子または金属化合物粒子の含有量が0.001〜0.1%である。
7.コロイド溶液中のSH基を有する水溶性分散剤の含有量が0.05〜0.5%である。
8.コロイド溶液中のタンパク質の含有量が0.01〜0.5%である。
9.金属粒子または金属化合物粒子のコロイド分散液を用いた分離膜の完全性試験方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の金属粒子または金属化合物粒子のコロイド分散液は、膜を構成する基材を選ばず評価できる方法であり、また手法においては、特別な施設は必要なく簡便に評価できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】均一分散した金コロイド(20nm)のプラズモン共鳴吸収によるスペクトルの一例。
【図2】凝集した金コロイド(20nm)のプラズモン共鳴吸収によるスペクトルの一例。
【図3】膜で金コロイドがトラップされている様子を示す光学顕微鏡像の一例。
【図4】膜中に金コロイドがほとんど残存していない様子を示す光学顕微鏡像の一例。
【図5】濾過中に金コロイドが凝集し、内表面に赤紫色の凝集粒子が観察される様子を示す光学顕微鏡像の一例。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明者らは、前記課題を解決するために、ウイルスの代替となる安定な金属粒子または金属化合物粒子のコロイド分散液の調整方法とそれを用いた分画層の評価方法について検討した。金コロイドの分散状態はイオンなど外表面の影響を受けやすく、例えば水溶液から緩衝液へと環境を変化させただけで凝集してしまう。この微妙な分散状態をコロイド粒子のサイズが大きくならないような小さな物質でコーティングすることにより分散状態が環境変化によって変わりにくいこと、この状態で分離膜を通過させた後に分画層の解析が凝集の影響なしで行えることを見出し本発明に至った。
【0014】
本発明において、疎水性高分子からなる膜とは、その主たる構成材料が疎水性高分子からなる膜を意味する。膜の材料として使用される一般的な疎水性高分子としては、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデンなどがあり、これらが該当する。このような疎水性高分子からなる膜については、親水化処理をする場合が多いが、本発明においては、グラフト重合などの化学的修飾による親水化処理を除き、ポリマーアロイ、製膜後の物理的コーティングなどを含む。
【0015】
本発明において、ポリマーアロイ成分としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、デンプンおよびその誘導体、酢酸セルロースなどの高分子が例示される。中でも、ポリビニルピロリドンが好ましい。これらは単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。
【0016】
本発明において、金属粒子または金属化合物粒子が金、銀、白金、ロジウム、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム、鉄、銅から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。金がより好ましい。
【0017】
本発明において、使用する金コロイドのサイズは10nm〜30nmが適切である。このサイズである理由は、例えば、ヒトの血液から製造される製薬工程の場合、さまざまなウイルスに汚染されている可能性があり、その中でも、比較的サイズが小さいウイルスとして、ヒトパルボウイルス、脳心筋炎ウイルス、A型肝炎ウイルス、ポリオウイルス1型などがある。これらのウイルスのサイズは約18〜30nmであり、この小さなウイルスを除去することができれば、その他のサイズの大きなウイルスによる汚染も防止できると考えられるからである。金コロイドは、市販の試薬(例えば、シグマ社、British Bio Cell社)を使用する。また、分散液中の金属粒子または金属化合物粒子の含有量は、0.0001〜0.1重量%の範囲が好ましく、より好ましくは0.001〜0.05重量%であり、更に好ましくは0.001〜0.01重量%である。金属粒子または金属化合物粒子の含有量が高すぎると、分散液の分散安定性が低下する可能性があり、一方含有量が低すぎると測定感度の点より問題が生じる可能性がある。
【0018】
イオンなどによる分散液の環境影響による凝集を防いだり、分散状態を安定化させるために、金コロイド表面をコーティングすることが好ましい。コーティングする物質は、金コロイドのサイズが大きく変化しないようにできるだけ小分子が好ましく、また以後の濾過試験を行う上で水溶性の物質が好ましい。さらにコーティング後の金コロイド表面が電気的に中性であることが好ましい。コーティングする物質が大分子である場合、使用する金コロイドのサイズが大きくなり、もう一つの目的である膜の分画層の解析が正確に行えなくなるので好ましくない。またコーティング物質にコートされたのち、金コロイドが水に不溶性になってしまうと、濾過実験の実施が困難になるので好ましくない。また、界面活性剤にてコーティングした場合には、金コロイドを含有した状態でミセルを形成する可能性があり、コロイド粒子のサイズが目的のサイズでなくなるので好ましくない。さらに、コーティング後の粒子が電気的に中性でない場合は、コーティング粒子間で凝集したり、膜との相互作用が起こるなど、濾過実験が正確に行えなくなるので好ましくない。
【0019】
このような条件を満たす物質としてSH基を含有する水溶性分散剤が好ましく、アミノ酸、オリゴペプチドから選ばれる少なくとも一種がより好ましい。オリゴペプチドが更に好ましく、還元型グルタチオンが最適である。グルタチオンは水溶性の物質であるので、金コロイドへのコーティング処理が水溶液中で行えるので容易である。還元型グルタチオンが持つSH基は、金コロイドの表面と相互作用し、コロイド粒子表面をSH基を介してコーティングすることが可能である。分子が小さいのでコーティング層の立体障害も少なく、均一にコーティングできると考えられる。また、金コロイドの表面をグルタチオンがSH基を介してコーティングした状態では、コーティング粒子は水溶性であるし、コーティング粒子の表面は電気的に中性であり、コーティング粒子同士が会合したりするエネルギーが低く、会合、凝集の可能性が低いので均一に溶液中に分散できるので好ましい。コーティングに用いるグルタチオンの量は、市販の金コロイドを用いた場合、最終的な金コロイド分散液中の濃度として0.05%から0.5%の範囲が好ましい。市販の金コロイドの濃度は0.01%であるので、安定化後の分散液の金コロイドの濃度がその半分の0.005%になると考えると、グルタチオンの量は少なくとも金コロイドの量の数倍量は必要であることから、グルタチオンの分散液中の濃度は0.05%以下ではコーティングが十分になされず好ましくない。また、グルタチオンの分散液中の濃度が0.5%以上である場合には、分散液を調製する際のグルタチオン原液の濃度が高くなり溶解時間を要するため簡便に分散液を調製するには好ましくない。
【0020】
本発明において、還元型グルタチオンでコーティングした金コロイドは薄いタンパク溶液中に分散させることが好ましい。タンパク溶液には物質の表面を保護する効果があり、例えば、ELISA(Enzyme-Linked Immunosorbent Assay)などではプレートの表面保護のために牛血清アルブミン(BSA)を使用したりする。これと同様に、タンパク溶液に分散させることで、この分散液の使用目的とする膜による濾過工程において、コーティングされた金コロイドが吸着などの膜との相互作用を抑制する効果がある。タンパクとしては、分子量が10万以下のものが好ましく、安価で、水溶性のものが好ましい。分子量が10万以上である場合には、分子サイズが金コロイドのサイズと変わらなくなり、評価する膜に目詰まりするなどして、金コロイドによる膜の分離層の評価を妨害する可能性があるので好ましくない。このような条件を満たすタンパクとして、BSAやスキムミルク、カゼインなどが好ましい。処理液に添加するタンパクの濃度は、金コロイド分散液中に0.01%から0.5%の範囲が好ましい。0.5%以上である場合には、濾過実験にて目詰まりが無視できなくなる可能性があるので好ましくなく、0.01%以下では保護効果が十分でなく好ましくない。
【0021】
本発明において、金コロイド分散液の分散状態は膜による濾過においても変化がないことが好ましい。分散状態の変化は金コロイド分散液の可視光領域の吸光度を測定することで評価できる。通常10〜30nmのサイズの金コロイドは、分散液中で赤い色である。この液を分光光度計にてスペクトルを測定すると、金プラズモン共鳴吸収による530nm付近にピークを持つスペクトルを示す(図1)。一方、分散状態が変化し凝集した金コロイドは、青い色に変化し、吸光度スペクトルにおいても530nmのピークは小さくなり、新たに840nm付近にピークが見られるようになる(図2)。分散状態の変化はこのように、分光光度法により評価することができる。分散状態に変化がないとする基準は、色調の変化がないこと(青くなっていない)、スペクトルにおいて840nm付近の吸光度が上昇していないことで判断できる。分散状態が均一でないといことは、金コロイドが凝集しているということであり、コロイド粒子が当初のサイズの何倍にもなっていることを意味しているので膜の分画層を評価する上で好ましくない。
【0022】
このようにして調製した分散状態が安定な金コロイドを用いて濾過処理した膜について、その断面を光学顕微鏡で観察すると、金コロイドが膜中に留まった部分が赤い色を呈しているので、可視的にその分画層を観察、評価することができる。一方、濾過中に分散状態が変化し、凝集した金コロイドでは、濾過後の膜の断面を観察すると金コロイドが留まった部分が青くなっているので、目的のサイズの粒子で評価が行えたかどうか確認することができる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の有効性について実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例における物性の評価方法は以下の通りである。
【0024】
(濾過と断面観察)
評価する膜について、濾過できる形態に加工する。中空糸膜の場合はモジュール、平膜の場合はカートリッジにし、プライミングが必要な場合は、蒸留水で十分にプライミングし湿潤化する。調製した分散液を1barの加圧をかけて濾過する。濾過量は10L/m2とする。濾過後、同量の蒸留水で再度濾過する。膜は室温で乾燥させる。乾燥により、膜が縮むものについては、凍結乾燥する。乾燥後の膜を剃刀で断面が観察できるように軸に対して垂直に、または平行にカットする。断面がまっすぐ上を向くように試料台に固定したのち、光学顕微鏡で断面の金コロイドの残存状態を観察する。試料が薄いなど断面カットが困難な場合は、樹脂で包埋した後に断面をカットして観察してもよい。
【0025】
(評価膜作製)
ポリエーテルスルホン(住友ケムテック社製スミカエクセル(登録商標)4800P)20.0重量部、ポリビニルピロリドン(BASF社製コリドン(登録商標)K90)5.5重量部、n-メチルピロリドン(三菱化学社製)33.53重量部、トリエチレングリコール(三井化学社製)40.97重量部を60℃で混合溶解し、製膜原液とした。ニ重管ノズルの環状部から上記製膜原液を中心部から芯液としてトリエチレングリコールを吐出し、n-メチルピロリドン27重量部、トリエチレングリコール33重量部、RO水40重量部からなる凝固浴にて凝固し、十分に洗浄した後、乾燥して中空糸膜を作製した。この中空糸膜を組み込んだモジュールを作成した。
【0026】
(実施例1)
(金コロイド分散液の調製)
市販の20nm金コロイド均一液(シグマ社製)(微量のクエン酸含有、安定剤、分散剤は非含有)6mlと2.0%牛血清アルブミン(ナカライテスク社製)水溶液3mlを混合した後、0.4%グルタチオン(還元型)水溶液3mlを添加した。
【0027】
(中空糸膜の分画層評価)
上記で作製したモジュールに、調製した金コロイド分散液を1barの加圧下で濾過した。金コロイド分散液を10L/m2濾過した後に同量の蒸留水で再度濾過した。濾過に用いた金コロイド分散液と濾液について、分光光度計にてスペクトルを測定した。また膜の断面について光学顕微鏡で観察した(図3)。結果を表1に示した。
【0028】
図3に示されるように、膜断面に金コロイドの残存している部分が赤色に着色した状態で観察される。特に赤く残っている部分が20nmのサイズの粒子の分画層であり、この膜の場合、外表面付近に20nmのサイズの粒子が分離される層があることがわかる。また、濾過原液については金コロイドのプラズモン共鳴によるピークが527nmでみられた。濾液については吸収はなく、全ての20nmのサイズの金コロイドがすべて膜中にトラップされたことが確認された。
【0029】
(実施例2)
(金コロイド分散液の調製)
市販の30nm金コロイド均一液(British Bio Cell社製)(微量のクエン酸含有、安定剤、分散剤は非含有)6mlと0.04%スキムミルク分散液3mlを混合した後、0.2%グルタチオン(還元型)水溶液3mlを添加した。
【0030】
(中空糸膜の分画層評価)
上記で作製したモジュールに調製した金コロイド分散液を1barの加圧下で濾過した。金コロイド分散液を10L/m2濾過した後に同量の蒸留水で再度濾過した。濾過に用いた金コロイド分散液と濾液について、色調を観察した。また膜の断面について光学顕微鏡で観察した。結果を表1に示した。
【0031】
実施例1と同様に膜断面に金コロイドの残存している部分が赤色に着色した状態で観察される。特に赤く残っている部分が30nmのサイズの粒子の分画層であることがわかる。また、濾過原液については金コロイドのプラズモン共鳴による赤色が目視で確認できた。濾液について、分光光度計で測定したところ、吸収はなく、全ての30nmのサイズの金コロイドが膜中にトラップされたことが確認された。
【0032】
(実施例3)
(金コロイド分散液の調製)
市販の10nm金コロイド均一液(シグマ社製)(微量のクエン酸含有、安定剤、分散剤は非含有)6mlと0.4%カゼイン分散液3mlを混合した後、2%グルタチオン(還元型)水溶液3mlを添加した。
【0033】
(中空糸膜の分画層評価)
上記で作製したモジュールに調製した金コロイド分散液を1barの加圧下で濾過した。金コロイド分散液を10L/m2濾過した後に同量の蒸留水で再度濾過した。濾過に用いた金コロイド分散液と濾液について、色調を観察した。また膜の断面について光学顕微鏡で観察した(図4)。結果を表1に示した。
【0034】
図4から膜断面に金コロイドが残存して赤色に着色した部分がほとんどなく、コロイド粒子がほとんどもれ出てしまったことがわかる。濾過原液は赤色であった。また、濾液は金コロイドのプラズモン共鳴によるピークが527nmでみられ、濾過後も凝集していないことが確認できた。
【0035】
(実施例4)
(金コロイド分散液の調製)
市販の20nm金コロイド均一液(シグマ社製)(微量のクエン酸含有、安定剤、分散剤は非含有)6mlと0.004%BSA溶液3mlを混合した後、0.4%グルタチオン(還元型)水溶液3mlを添加した。
【0036】
(中空糸膜の分画層評価)
上記で作製したモジュールに調製した金コロイド分散液を1barの加圧下で濾過した。金コロイド分散液を10L/m2濾過した後に同量の蒸留水で再度濾過した。濾過に用いた金コロイド分散液と濾液について、色調を観察した。また膜の断面について光学顕微鏡で観察した。結果を表1に示した。
【0037】
金コロイド分散液は赤色であったが、膜の断面には内表面に赤紫色の金コロイドが残存しており、濾過中に金コロイドが凝集したことが示唆され、20nm粒子の分画層を正しく評価することができなかった。
【0038】
(実施例5)
(金コロイド分散液の調製)
市販の20nm金コロイド均一液(シグマ社製)(微量のクエン酸含有、安定剤、分散剤は非含有)6mlと0.4%BSA溶液3mlを混合した後、0.04%グルタチオン(還元型)水溶液3mlを添加した。
【0039】
(中空糸膜の分画層評価)
上記で作製したモジュールに調製した金コロイド分散液を1barの加圧下で濾過した。金コロイド分散液を10L/m2濾過した後に同量の蒸留水で再度濾過した。濾過に用いた金コロイド分散液と濾液について、色調を観察した。また膜の断面について光学顕微鏡で観察した。結果を表1に示した。
【0040】
金コロイド分散液は赤色であったが、膜の断面には内表面に青色の金コロイドが残存しており、濾過中に金コロイドが凝集したことが示唆され、20nm粒子の分画層を正しく評価することができなかった。
【0041】
(比較例1)
(金コロイド分散液の調製)
市販の20nm金コロイド均一液(シグマ社製)(微量のクエン酸含有、安定剤、分散剤は非含有)6mlを蒸留水6mlで希釈した。
【0042】
(中空糸膜の分画層評価)
上記で作製したモジュールに調製した金コロイド分散液を1barの加圧下で濾過した。金コロイド分散液を10L/m2濾過した後に同量の蒸留水で再度濾過した。濾過に用いた金コロイド分散液と濾液について、色調を観察した。また膜の断面について光学顕微鏡で観察した(図5)。結果を表1に示した。
【0043】
金コロイド原液は赤色であったが、図5から濾過後の膜の内表面には赤紫色の粒子が観察され、濾過中の金コロイドが凝集したことが示唆され、20nm粒子の分画層を正しく評価することができなかった。
【0044】
(比較例2)
(金コロイド分散液の調製)
市販の20nm金コロイド均一液(シグマ社製)(微量のクエン酸含有、安定剤、分散剤は非含有)6mlと100mMリン酸緩衝液6mlを混合した。調製した液は赤色から青色へ変色し、金コロイドが凝集したことが示唆された。
【0045】
(比較例3)
(金コロイド分散液の調製)
市販の20nm金コロイド均一液(シグマ社製)(微量のクエン酸含有、安定剤、分散剤は非含有)6ml、0.2%グルタチオン(還元型)水溶液6mlを添加した。
【0046】
(中空糸膜の分画層評価)
上記で作製したモジュールに調製した金コロイド分散液を1barの加圧下で濾過した。金コロイド分散液を10L/m2濾過した後に同量の蒸留水で再度濾過した。濾過に用いた金コロイド分散液と濾液について、色調を観察した。また膜の断面について光学顕微鏡で観察した。結果を表1に示した。
【0047】
金コロイド分散液は赤色であったが、膜の断面には内表面に赤紫色の金コロイドが残存しており、濾過中に金コロイドが凝集したことが示唆され、20nm粒子の分画層を正しく評価することができなかった。
【0048】
(比較例4)
(金コロイド分散液の調製)
市販の20nm金コロイド均一液(シグマ社製)(微量のクエン酸含有、安定剤、分散剤は非含有)6mlと0.2%BSA溶液6mlを混合した。
【0049】
(中空糸膜の分画層評価)
上記で作製したモジュールに調製した金コロイド分散液を1barの加圧下で濾過した。金コロイド分散液を10L/m2濾過した後に同量の蒸留水で再度濾過した。濾過に用いた金コロイド分散液と濾液について、色調を観察した。また膜の断面について光学顕微鏡で観察した。結果を表1に示した。
【0050】
金コロイド分散液は赤色であったが、膜の断面には内表面に青色の金コロイドが残存しており、濾過中に金コロイドが凝集したことが示唆され、20nm粒子の分画層を正しく評価することができなかった。
【0051】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、水溶液の中からウイルスを除去する目的で使用されるウイルス除去膜のウイルス除去能評価方法に関する。ウイルス除去に寄与している分画層を可視化することができるので、ウイルス除去膜の開発における構造解析や生産においての工程管理に簡便に利用できる特性を持つ。したがって、産業の発展に大きく寄与できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)平均粒子径が10〜30nmの金属粒子または金属化合物粒子、(2)SH基を含有する水溶性分散剤、(3)タンパク質、および(4)溶媒を含む金属粒子または金属化合物粒子のコロイド分散液。
【請求項2】
金属粒子または金属化合物粒子が金、銀、白金、ロジウム、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム、鉄、銅から選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載の金属粒子または金属化合物粒子のコロイド分散液。
【請求項3】
SH基を含有する水溶性分散剤がアミノ酸、オリゴペプチドから選ばれる少なくとも一種である請求項1または2に記載の金属粒子または金属化合物粒子のコロイド分散液。
【請求項4】
タンパク質がアルブミン、スキムミルク、カゼインから選ばれる少なくとも一種である請求項1〜3いずれかに記載の金属粒子または金属化合物粒子のコロイド分散液。
【請求項5】
溶媒が水、有機溶媒から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜4いずれかに記載の金属粒子または金属化合物粒子のコロイド分散液。
【請求項6】
コロイド溶液中の金属粒子または金属化合物粒子の含有量が0.001〜0.1%である請求項1〜5いずれかに記載の金属粒子または金属化合物粒子のコロイド分散液。
【請求項7】
コロイド溶液中のSH基を有する水溶性分散剤の含有量が0.05〜0.5%である請求項1〜6いずれかに記載の金属粒子または金属化合物粒子のコロイド分散液。
【請求項8】
コロイド溶液中のタンパク質の含有量が0.01〜0.5%である請求項1〜7いずれかに記載の金属粒子または金属化合物粒子のコロイド分散液。
【請求項9】
請求項1〜8いずれかに記載の金属粒子または金属化合物粒子のコロイド分散液を用いた分離膜の完全性試験方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−136305(P2011−136305A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−299108(P2009−299108)
【出願日】平成21年12月29日(2009.12.29)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】