説明

金属線または金属条の表面処理方法ならびに表面処理装置

【課題】VOCの発生を抑制して環境への影響を抑制できると共に、金属表面の付着物の除去力の向上および金属表面の酸化の抑制が可能で、コストの低減が図れる金属線または金属条の表面処理方法ならびに表面処理装置を提供する。
【解決手段】金属線または金属条10を気液混相流体と接触させて表面処理する表面処理方法であって、前記気液混相流体を構成する液体は、直径が1マイクロメートル以上100マイクロメートル以下の液滴である。前記金属線または金属条10は、銅線または銅条である。前記気液混相流体を構成する液体は、水を主成分とする。前記気液混相流体の平均温度は、40℃以上沸点以下である。前記気液混相流体に含まれる酸素のモル分率は、1百分率以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属線または金属条の表面処理方法ならびに表面処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属線または金属条例えば銅線または銅条の製造においては、原料銅線を冷間圧延により所定の断面形状に加工した後、銅線または銅条の表面の付着物を洗浄等により除去する表面処理が行われている。表面の付着物としては、圧延加工に用いられる潤滑油や、圧延加工の際に発生する銅粉などが含まれる。
【0003】
従来の付着物の除去方法として、例えば非特許文献1に開示されているように、有機溶剤に浸漬することにより潤滑油を溶解して除去する技術(従来技術1)が知られている。また、非特許文献2に開示されているように、液中において被洗浄物に超音波を照射することにより微粒子を除去する技術(従来技術2)が知られている。これらの技術は必要に応じて組み合わせて用いられている。
【0004】
図6は従来の銅条の洗浄装置を概略的に示す図、図7は図6の要部を概略的に示す図である。図6において、11は洗浄前の銅条リール(洗浄前の銅条をリールに巻き取ったもの)1から銅条10を送り出すアンコイラ(送り出し装置)であり、12は洗浄後の銅条リール(洗浄後の銅条をリールに巻き取ったもの)2を形成するリコイラ(巻取装置)である。アンコイラ11とリコイラ12との間には、銅条1を送り出す送り出しローラ15と、銅条1を洗浄処理(表面処理)する洗浄処理装置(表面処理装置)を構成する洗浄処理室(表面処理室)21と、洗浄後の銅条を乾燥処理する乾燥処理装置を構成する乾燥処理室22とが順に設けられている。
【0005】
図7に示すように、洗浄処理室21内には洗浄液を収容した洗浄液槽213が設けられ、洗浄処理室21には銅条を導入する導入口211と、銅条10を排出する排出口212と、銅条10を洗浄液槽213内に導くように配置されたガイドローラ214とが設けられている。前記洗浄処理室21において、前記有機溶剤による洗浄処理(従来技術1)または液中での超音波照射による洗浄処理(従来技術2)が行われることになる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】すぐ使える洗浄技術(工業調査会、2001年)、p.262
【非特許文献2】すぐ使える洗浄技術(工業調査会、2001年)、p.138
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来技術1にかかる問題点は、有機溶剤が揮発することに伴い作業環境や大気の汚染を引き起こす可能性があることである。平成17年改正の大気汚染防止法によれば、2010年までに揮発性有機化合物(Volatile Organic Compound; 以下VOCという。)の発生量を2000年度比で30%削減することが求められている。
【0008】
銅条ならびに銅線は全長が長く、リール等に巻いてもリールの直径ならびに幅が大きいため、材料全体を密閉した装置内に収納することが困難である。そのため、一般には、装置外部にアンコイラ11やリコイラ12を設置し、銅条ないし銅線は導入口211から洗浄処理室21の内部に導入されて処理された後、排出口212から洗浄処理室21の外部に送り出され、外部に設置されたリコイラ12により新たなリールに巻き取られる。
【0009】
すなわち、洗浄処理室21は導入口211ならびに排出口212という少なくとも2つの開口部を介して外部の大気と通じており、密閉することが難しい。そのため、有機溶剤を回収するためには洗浄処理室21の開口部から有機溶剤が漏洩しないような大風量で吸引する設備を導入する必要があり、さらにまた、回収した有機溶剤の処理作業が発生するという、新たな課題が生じる。
【0010】
この対策として、有機溶剤を用いずに水を用いる場合があるが、この場合、金属表面が酸化するという新たな問題が生じる。銅をはじめとする金属材料の表面が酸化すると、その後の、例えば樹脂のコーティング工程において樹脂と金属との密着性が低下したり、また例えばめっき工程においてピットと呼ばれる孔が生成するなどの問題が発生する。
【0011】
一方、上記従来技術2にかかる問題点は、除去力が必ずしも十分高くはないことである。なお、除去力の向上を目的として超音波出力を増加させると、超音波振動子が破損する可能性が高くなり、装置管理にコストがかかるという新たな問題が生じる。
【0012】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、VOCの発生を抑制して環境への影響を抑制できると共に、金属表面の付着物の除去力の向上および金属表面の酸化の抑制が可能で、コストの低減が図れる金属線または金属条の表面処理方法ならびに表面処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明のうちの第1の発明は、金属線または金属条を気液混相流体と接触させて表面処理を行う表面処理方法であって、前記気液混相流体を構成する液体は、直径が1マイクロメートル以上100マイクロメートル以下の液滴であることを特徴とする。
【0014】
前記金属線または金属条は、例えば銅線または銅条であってもよい。前記気液混相流体を構成する液体は、水を主成分とすることが好ましい。前記気液混相流体の平均温度は、40℃以上沸点以下であることが好ましい。前記気液混相流体に含まれる酸素のモル分率は、1百分率以下であることが好ましい。
【0015】
第2の発明は、気液混相流体を構成する液体を生成する流体生成工程と、金属線または金属条を前記気液混相流体と接触させて表面処理する表面処理工程と、表面処理後の前記気液混相流体を廃棄する排液工程と、を備え、前記気液混相流体を構成する液体は、直径が1マイクロメートル以上100マイクロメートル以下の液滴であり、前記流体生成工程は水を主成分とする液体を電気分解する工程を含み、該電気分解において陽極または陰極のうち選択された一方の電極近傍で生成した液体を液体A、他方の電極近傍で生成した液体を液体Bとするとき、前記流体生成工程では気液混相流体が液体Aを用いて生成され、前記排液工程は表面処理後の前記気液混相流体と液体Bを混合する混合工程とを含むことを特徴とする。
【0016】
第3の発明は、金属線または金属条の導入口と、気液混相流体の発生装置と、前記気液混相流体を前記金属線または金属条と接触させて表面処理を行う表面処理室と、金属線または金属条の排出口と、を備え、前記気液混相流体を構成する液体は、直径が1マイクロメートル以上100マイクロメートル以下の液滴であることを特徴とする。
【0017】
前記気液混相流体の温度を40℃以上沸点以下に制御する温度制御装置を備えることが好ましい。大気の蒸留により酸素のモル分率濃度が1百分率以下の窒素ガスを生成する窒素ガス生成装置と、前記窒素ガスを用いて前記気液混相流体を生成する気液混相流体生成装置と、を備えることが好ましい。水を主成分とする液体の電気分解を行う電解処理室と、電気分解により前記電解処理室の陽極または陰極のうち選択された一方の電極近傍で生成した液体を液体A、他方の電極近傍で生成した液体を液体Bとするとき、液体Aを用いて前記気液混相流体を生成する気液混相流体生成装置と、表面処理後の前記気液混相流体を前記液体Bと混合する混合装置と、を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、VOCの発生を抑制でき、労働作業環境並びに大気環境への影響を抑制できる。また、金属表面の付着物の除去力が向上し、金属表面の酸化を抑制でき、有機溶剤のような回収処理を必要とせず、コストの低減が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態に係る表面処理装置を示す図である。
【図2】第1実施形態に係る表面処理装置の効果を示す図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る表面処理装置を示す図である。
【図4】第2実施形態に係る表面処理装置の効果を示す図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係る表面処理装置を示す図である。
【図6】従来の銅表面処理装置を概略的に示す図である。
【図7】図6の要部を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明を実施するための形態を添付図面に基いて詳述する。
【0021】
本発明に係る金属条例えば銅条の洗浄処理方法(表面処理方法)並びに洗浄処理装置(表面処理装置)の第1実施形態について図1を参照しながら説明する。
【0022】
洗浄前の銅条リール1に巻かれている銅条10は、アンコイラ11から送り出しローラ15により送り出され、洗浄処理装置210を構成する洗浄処理室(表面処理室)21の導入口211より洗浄処理室21の内部に入り、排出口212より洗浄処理室21の外部に出る。上記洗浄処理室21の前壁部に導入口211が形成され、後壁部に排出口212が形成されている。洗浄処理室21内には導入口211から排出口212に向って銅条10を水平に案内するガイドローラ215が設けられている。
【0023】
洗浄処理室21内には気液混相流体の発生装置ないし気液混相流体生成装置である気液混相流体生成ノズル101が配置され、気液混相流体生成ノズル101に接続されている2本の配管のうち一方の配管(液体配管)110は、流量調節バルブ111、流量計112およびポンプ113を介して液体タンク114に接続され、他方の配管(気体配管)120は流量調節バルブ121、流量計122と圧力調節器123を介してガスボンベ124に接続されている。前記気液混相流体生成ノズル101は、下方を向いた状態で銅条10の上方に配置され、気液混相流体を銅条10に向って霧状に吐出するようになっている。洗浄処理室21内の下方には洗浄廃液を受ける廃液受け部216が形成され、この廃液受け部216から図示しない廃液管により洗浄処理室21の外部に排出されるようになっている。
【0024】
ここで、ポンプ113、圧力調整器123、および流量調節バルブ111,121を適切な値に設定することにより、気液混相流体生成ノズル101に液体とガス(気体)が供給され、気液混相流体生成ノズル101より吐出された気液混相流体を銅条10の表面と接触させることにより、銅条10の表面が洗浄処理される。
【0025】
汚染が除去されるメカニズムは、本発明者らの検討の結果、以下の様である。すなわち、付着物である金属粉や加工潤滑油は、衝突する液滴から運動エネルギーを受け取り、その大きさが金属表面との付着エネルギー以上である場合、金属表面から脱離する。また加工潤滑油など水に不溶性の油性汚染を、水を主体とする気液混相流体と接触させる場合、油性汚染は気液混相流体を構成する液滴に溶解することができないため、液滴と気体の界面に集合する。しかし、金属表面は一定膜厚の液体膜に覆われているため、液滴と気体の界面に集合できなかった油性汚染は、ある確率で金属表面に再付着する。
【0026】
従って、気液混相流体が持つ気液界面の面積が大きいほど洗浄能力が高く、気液混相流体を形成する液体量が同一であれば液滴径が小さいほど洗浄能力が高い。本発明者らの検討によれば、適切な液滴径の上限は100μmである。一方、液滴径の下限は液滴の蒸発速度で決まる。すなわち、ノズル先端で液滴が形成しても被洗浄金属表面に到達する前に蒸発するならば洗浄には寄与しない。本発明者らの検討の結果、液滴径が1μm以上であればノズルと被洗浄金属表面との距離を適切に保つことにより、液滴が蒸発する前に洗浄処理を行うことができる。
【0027】
さらに、温度が高いほど油性汚染は粘性が低下し、金属表面から液滴の気液界面への移動がスムーズになる。本発明者らの検討の結果、気液混相流体の温度が40℃以上になると気液混相流体による洗浄除去の効率が向上し、この温度は実用に供されている加工潤滑油の多くがこの温度以上で粘性が大きく下がることと一致することを確認した。
【0028】
さらにまた、気液混相流体に含まれる酸素の濃度が低いほど、金属表面の酸化を抑制することができ、1%以下であることがより望ましいことを確認した。
【0029】
実施例として金属条として圧延加工完了後の銅条10を、ガスボンベ124として空気ボンベを、液体タンク114として純水が充填された水タンクを、それぞれ用いて、銅条表面の圧延加工潤滑剤の除去性を評価した。比較例として、図7の洗浄装置を用いて、有機溶剤、純水、マイクロバブル水のそれぞれに銅条を浸漬し、銅条表面の圧延加工潤滑剤の除去性を評価した。なお、比較例に掲げた有機溶剤としては35℃に加温したデカンを、マイクロバブル水としては特許文献1(特開2003−154205号公報)に記載された方法で生成させたマイクロバブル水を、それぞれ用いた。
【0030】
結果を図2に示す。純水浸漬、マイクロバブル水浸漬に比較して、気液混相流体洗浄を用いると、より短時間で残留汚染濃度を低減させることができる。
【0031】
本発明の第2実施形態に係る洗浄処理装置を図3に示す。洗浄処理装置210を用いて、40℃以上沸点以下の気液混相流体を発生させ、第1実施形態と同様の銅条表面の洗浄処理を行った。なお、気液混相流体を沸点以下(未満)にするのは、気液混相流体の液滴が蒸発するのを防ぐためである。図3に示すように、一方の配管(液体配管)110には液体を加熱するヒータ(液体ヒータ)115が設けられ、他方の配管(気体配管)120には気体を加熱するヒータ(気体ヒータ)125が設けられている。ヒータ115,125は、気液混相流体の温度を40℃以上沸点以下に制御する温度制御装置の一部を構成している。結果を図4に示す。純水浸漬、マイクロバブル水浸漬、ならびに室温付近の気液混相流体洗浄と比較して、高温の気液混相流体洗浄が優れており、有機溶剤浸漬とほぼ同等の洗浄性能が得られている。
【0032】
ここで、より好適な温度範囲について検討を行った結果、表1に示すような結果が得られた。すなわち、40℃以上の液体を用いたときに残留汚染濃度は目標(5mg/m2以下)を満足することが分かる。なお、表1における洗浄剤の水は水を用いた気液混相流体を示している。洗浄時間は5秒である。表1における比較例1及び参考例1は、前記第1実施形態で説明した評価に相当するものである。表1における実施例1〜実施例3は、気液混相流体の温度を70℃、60℃、40℃にした場合の実施例であり、参考例1は気液混相流体の温度が20℃の場合である。気液混相流体の温度の上昇に伴い残留汚染濃度が減少し、洗浄力が温度に依存していることが分かる。
【0033】
【表1】

【0034】
本発明の第3実施形態に係る洗浄処理装置について図3を参照して説明する。本実施形態では、金属条として圧延加工完了後の銅条を、ガスボンベ124として一定量の酸素を添加した窒素ボンベを、水タンク114として純水が充填されたタンクを、それぞれ用いて、70℃の気液混相流体を発生させ、銅条表面の圧延加工潤滑剤除去後の表面の酸化膜厚さを評価した。結果を表2に示す。この結果から明らかなように、酸素濃度が1.0%以下であれば酸化膜の厚さは10nm以下となり、銅条表面の酸化を抑制することができる。なお、表2の参考例2,3は、酸素濃度が2.0%と20%の場合であり、実施例4〜6は、酸素濃度が0.1%、0.5%、1.0%の場合である。
【0035】
【表2】

【0036】
本発明の第4実施形態に係る洗浄処理装置について図5を参照して説明する。気液混相流体を構成する液体として、pH(pHは水素イオン指数である。)が9以上14以下のアルカリ性液体を用いることが付着物の除去力をさらに向上させる上で好ましい。アルカリ性液体は、水を主たる成分とする液体を電気分解することにより生成することができる。本実施形態では、水電解により陽極水ならびに陰極水を発生させ、それらを用いて気液混相流体を生成し、第1実施形態と同様の銅条表面の洗浄処理を行った。
【0037】
図5において、アンコイラ11より送り出された銅条10は、洗浄処理室21の導入口211より洗浄処理室21の内部に入り、排出口212より洗浄処理室21の外部に出る。洗浄処理室21内には気液混相流体生成ノズル101が配置され、気液混相流体生成ノズル101に接続されている2本の配管のうち一方の配管110は、流量計112およびポンプ113を介して電解処理室である電解槽51に、他方の配管120は流量計122と圧力調節器123を介して窒素ボンベ124に、それぞれ接続されている。さらに電解槽51は、電極A521が配置されているA極室52と、電極B531が配置されているB極室53の2室に、イオンの移動を妨げない隔壁54によって分離されている。A極室52、B極室53の一方を陽極、他方を陰極として電解を行うことで、電解水を気液混相流体生成ノズル101に供給することができる。
【0038】
ポンプ113、圧力調整器123、および流量調節バルブ111,121を適切な値に設定することにより、気液混相流体生成ノズル101に電解水とガスが供給され、ノズル101より吐出された気液混相流体を銅条の表面と接触させることにより、銅条の表面は洗浄処理される。銅条の表面に吐出された気液混相流体は、洗浄廃液として廃液受け部216から廃液管172により洗浄処理室21の外部に排出される。
【0039】
電解槽51のB極室53で生成した電解水は、ポンプ171を介して配管170によって輸送され、外部の混合部(混合装置)71で前記廃液管172により排出される洗浄廃液と混合され、最終廃液として排出される。なお、前記電解槽51のB極室53で生成した電解水は、ポンプ171を介して配管170によって輸送され、洗浄処理室21内の廃液受け部216で洗浄廃液と混合され、最終廃液として排出されるようになっていてもよい。
【0040】
以上の洗浄装置を用いて、電解槽51に0.1mol/Lの硫酸カリウム水溶液を充填し、電極A521を陰極として水の電解を行い、第1実施形態と同様に銅条表面の洗浄処理を行い、最終廃液の水素イオン指数を評価した。比較例3として、図3に示す装置を用いて、ガスボンベとして窒素ボンベを用い、水タンクに0.01mol/Lの水酸化カリウム水溶液を充填して、第3実施形態と同様に銅条表面の洗浄処理を行った。
【0041】
結果を表3に示す。本実施例7においては最終廃液の水素イオン指数は7.2であり、油水分離処理ののち下水への廃棄あるいは河川放流が可能であるが、比較例3での水素イオン指数は12と高く、油水分離処理に加えて中和処理が必要となる。
【0042】
【表3】

【0043】
なお、本実施例では水電解槽に0.1mo1/Lの硫酸カリウム水溶液を充填したが、これに限定されることなく適切な濃度と電解質の水溶液を用いることができる。また、本実施例では電極Aを陰極としたが、これに限定されることなく、洗浄により除去すべき汚染物質の種類に応じて、電極Aを陽極として用いても良い。例えば除去すべき汚染がエステルを含むような圧延潤滑油を主成分とする場合は、電極A521を陰極とすることでA極室52に生成するアルカリ性の水溶液を用いると、エステルが加水分解することにより効率よく除去することができる。このときB極室53には酸性の溶液が生成している。
【0044】
また、例えば除去すべき汚染が金属石鹸といわれる金属イオンとカルボン酸からなる塩を主成分とする場合は、電極A521を陽極とすることでA極室52に生成する酸性の水溶液を用いると、金属石鹸が溶解することにより効率よく除去することができる。このときB極室53にはアルカリ性の水溶液が生成している。いずれの場合も、B極室53で生成した電解水を洗浄廃液と混合することにより洗浄廃液は中和されるので、さらなる中和処理は不要となる。
【0045】
以上、本発明の実施形態を図面により詳述してきたが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲での種々の設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 洗浄前の銅条リール
2 洗浄後の銅条リール
10 銅条
11 アンコイラ
12 リコイラ
15 送り出しローラ
21 洗浄処理室
22 乾燥処理室
51 電解槽(電解処理室)
52 A極室
53 B極室
54 隔壁
55 直流電源
71 混合部(混合装置)
101 気液混相流体生成ノズル
111,121 流量調節バルブ
112,122 流量計
113 ポンプ
123 圧力調整器
124 ガスボンベ
125 ヒータ
171 液体ポンプ
172 廃液管
211 導入口
212 排出口
213 洗浄液槽
214 ガイドローラ
215 ガイドローラ
216 廃液受け部
521 電極A
531 電極B

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属線または金属条を気液混相流体と接触させて表面処理を行う表面処理方法であって、前記気液混相流体を構成する液体は、直径が1マイクロメートル以上100マイクロメートル以下の液滴であることを特徴とする金属線または金属条の表面処理方法。
【請求項2】
前記金属線または金属条は、銅線または銅条であることを特徴とする請求項1に記載の金属線または金属条の表面処理方法。
【請求項3】
前記気液混相流体を構成する液体は、水を主成分とすることを特徴とする請求項1または2に記載の金属線または金属条の表面処理方法。
【請求項4】
前記気液混相流体の平均温度は、40℃以上沸点以下であることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の金属線または金属条の表面処理方法。
【請求項5】
前記気液混相流体に含まれる酸素のモル分率は、1百分率以下であることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の金属線または金属条の表面処理方法。
【請求項6】
気液混相流体を構成する液体を生成する流体生成工程と、金属線または金属条を前記気液混相流体と接触させて表面処理する表面処理工程と、表面処理後の前記気液混相流体を廃棄する排液工程と、を備え、前記気液混相流体を構成する液体は、直径が1マイクロメートル以上100マイクロメートル以下の液滴であり、前記流体生成工程は水を主成分とする液体を電気分解する工程を含み、該電気分解において陽極または陰極のうち選択された一方の電極近傍で生成した液体を液体A、他方の電極近傍で生成した液体を液体Bとするとき、前記流体生成工程では気液混相流体が液体Aを用いて生成され、前記排液工程は表面処理後の前記気液混相流体と液体Bを混合する混合工程とを含むことを特徴とする金属線または金属条の表面処理方法。
【請求項7】
金属線または金属条の導入口と、気液混相流体の発生装置と、前記気液混相流体を前記金属線または金属条と接触させて表面処理を行う表面処理室と、金属線または金属条の排出口と、を備え、前記気液混相流体を構成する液体は、直径が1マイクロメートル以上100マイクロメートル以下の液滴であることを特徴とする金属線または金属条の表面処理装置。
【請求項8】
前記気液混相流体の温度を40℃以上沸点以下に制御する温度制御装置を備えることを特徴とする請求項7に記載の金属線または金属条の表面処理装置。
【請求項9】
大気の蒸留により酸素のモル分率濃度が1百分率以下の窒素ガスを生成する窒素ガス生成装置と、前記窒素ガスを用いて前記気液混相流体を生成する気液混相流体生成装置と、を備えることを特徴とする請求項7または8に記載の金属線または金属条の表面処理装置。
【請求項10】
水を主成分とする液体の電気分解を行う電解処理室と、電気分解により前記電解処理室の陽極または陰極のうち選択された一方の電極近傍で生成した液体を液体A、他方の電極近傍で生成した液体を液体Bとするとき、液体Aを用いて前記気液混相流体を生成する気液混相流体生成装置と、表面処理後の前記気液混相流体を前記液体Bと混合する混合装置と、を備えることを特徴とする請求項7乃至9の何れかに記載の金属線または金属条の表面処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−209450(P2010−209450A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60031(P2009−60031)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】