説明

金属線材伸線方法

【課題】伸線ダイスへの不溶性蓄積不要物の進入を防止でき、伸線処理される金属線材の表面荒れや延性劣化を防止できる金属線材伸線方法を提供する。
【解決手段】金属線材8をエマルジョン潤滑液5の満たされた潤滑液槽6中で伸線ダイス7によって伸線処理する金属線材伸線方法において、一定時間伸線処理に使用されたエマルジョン潤滑液槽6内のエマルジョン潤滑液5を遠心分離機3に送って遠心分離機にて30G以上150G以下の重力加速度で遠心分離処理することによってエマルジョン潤滑液5中の不溶性蓄積不要物を除去した後に伸線処理に使用するエマルジョン潤滑液5として潤滑液槽6に戻して伸線処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸線処理される金属線材の表面荒れや延性劣化を防止できるとともに伸線ダイスの寿命の向上を図ることの可能な金属線材伸線方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤ補強用スチールコードの素線に用いられるブラスメッキスチールワイヤのような金属線材の製造においては伸線機を用いた湿式伸線処理が行なわれており、伸線機で使用される潤滑液としては、エマルジョン潤滑液が用いられる。エマルジョン潤滑液とは、界面活性作用を有する乳化剤によって、油分が水中に微粒粒子となって分散、浮遊して水分と油分とが混合された状態で安定に保たれた潤滑液である。このように、油成分を界面活性剤で乳化させたエマルジョン潤滑液(以下、潤滑液と略す)は、伸線機において伸線処理に使用され続けることで、潤滑液中の、金属粉、メッキ粉、劣化油分などの異物(以下、不溶性蓄積不要物という)が増加する。そして、伸線の際に不溶性蓄積不要物が伸線機の伸線ダイスと金属線材との間に侵入することによって、伸線ダイスと金属線材との潤滑性が低下し、金属線材の表面荒れや延性劣化、及び、伸線ダイスの寿命の悪化を招く。このため、伸線機にて伸線処理に一定時間使用された潤滑液を遠心分離機に送って遠心分離機によって潤滑液に数1000G程度の重力加速度を加えることで潤滑液中の不溶性蓄積不要物を分離除去する方法が知られている。
【特許文献1】特開2002−45609号公報
【特許文献2】特開平5−57314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、伸線機で使用された潤滑液に遠心分離機で数1000G程度の重力加速度を加えると、潤滑液中の水分と油分とが分離してしまい、このような水分と油分とが分離した潤滑液を用いて伸線処理を行うと、潤滑液の潤滑性能が低下して伸線ダイスと金属線材との潤滑性が低下する。また、金属線材の表面の酸化や時効硬化による金属線材の延性劣化を抑制しようとして潤滑液を冷却して金属線材の温度を低く保つようにした場合、潤滑液中の油分の粒子の径が大きくなって、潤滑液の伸線ダイスへの引き込み性が悪くなり、伸線ダイスと金属線材との潤滑性が低下するので、伸線された金属線材の表面が酸化したり、時効硬化によって金属線材の延性が劣化する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、金属線材をエマルジョン潤滑液の満たされた潤滑液槽中で伸線ダイスによって伸線処理する金属線材伸線方法において、一定時間伸線処理に使用されたエマルジョン潤滑液槽内のエマルジョン潤滑液を遠心分離機に送って遠心分離機にて30G以上150G以下の重力加速度で遠心分離処理することによってエマルジョン潤滑液中の不溶性蓄積不要物を除去した後に伸線処理に使用するエマルジョン潤滑液として潤滑液槽に戻して伸線処理を行うことを特徴とする。
一定時間伸線処理に使用されたエマルジョン潤滑液を遠心分離機で遠心処理することによってエマルジョン潤滑液中に含まれた20μmを超える粒子を除去したことも特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、遠心分離機にて30G以上150G以下の重力加速度で遠心分離処理することによって不溶性蓄積不要物の除去された潤滑液を潤滑液槽に戻して伸線処理を行うことで、伸線機の伸線ダイスへの不溶性蓄積不要物の進入を防止でき、伸線処理される金属線材の表面荒れや延性劣化を防止できるとともに、伸線ダイスの寿命が向上する。
遠心分離処理によって粒径20μmを超える粒子の除去された潤滑液を潤滑液槽に戻して伸線処理を行うことで、潤滑液の伸線ダイスへの引き込み性が良くなり、伸線ダイスと金属線材との潤滑性が向上するので、伸線処理される金属線材の表面荒れや延性劣化を防止できるとともに、伸線ダイスの寿命が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
図1を参照し、金属線材伸線方法の実現に用いる伸線装置を説明する。伸線装置1は、伸線機2、遠心分離機3、潤滑液タンク4を備える。伸線機2は、潤滑液5(即ち、油成分を界面活性剤で乳化させたエマルジョン潤滑液)の満たされた潤滑液槽6、潤滑液槽6の潤滑液5中に配置された複数の伸線ダイス7、金属線材8の巻出部9及び巻取部10などを備える。
表面にブラスメッキが施されたブラスメッキスチールワイヤのような金属線材8が潤滑液5中の伸線ダイス7に通されて伸線される。一定時間使用された潤滑液槽6内の潤滑液5が管11を経由して遠心分離機3に送られる。遠心分離機3に送られてきた潤滑液5に30G以上150G以下の重力加速度が加わるように遠心分離機3を駆動して潤滑液5中の不溶性蓄積不要物を分離除去する。30Gより小さい重力加速度で遠心分離処理を行うと潤滑液5中の不溶性蓄積不要物を分離除去できず、このような潤滑液5を伸線処理に使用すると、不溶性蓄積不要物が伸線ダイス7と金属線材8との間に侵入することによって、伸線ダイス7と金属線材8との潤滑性が低下し、金属線材8の表面荒れや延性劣化、及び、伸線ダイス7の寿命の悪化を招く。また、150Gより大きい重力加速度で遠心分離処理を行うと潤滑液5中の水分と油分とが分離してしまい、この水分と油分とが分離した潤滑液5を用いて伸線処理を行うと、潤滑液5の潤滑性能が低下して伸線ダイス7と金属線材8との潤滑性が低下する。
さらに、遠心分離機3による遠心分離処理によって、粒径20μmを超える粒子を除去する。遠心処理によって除去された不溶性蓄積不要物と粒径20μmを超える粒子とが排出管12を経由して遠心分離機3の機外に排出される。そして、遠心分離機3から不溶性蓄積不要物及び粒径20μmを超える粒子が除去された潤滑液5が遠心分離機3から管13を経由して潤滑液タンク4に送られる。潤滑液タンク4から潤滑液5が管14を経由して伸線機2の潤滑液槽6に送られる。つまり、潤滑液タンク4→潤滑液槽6→遠心分離機3→潤滑液タンク4→潤滑液槽6というように潤滑液5を循環させながら伸線処理を行う。
以上によって、遠心分離機3による遠心分離処理によって不溶性蓄積不要物及び粒径20μmを超える粒子の除去された潤滑液5が潤滑液槽6に供給される。不溶性蓄積不要物の除去された潤滑液5を潤滑液槽6に戻して伸線処理を行うことで、伸線ダイス7への不溶性蓄積不要物の進入を防止でき、伸線される金属線材8の表面荒れや金属線材8の延性劣化を防止できるとともに、伸線ダイスの7寿命が向上する。粒径20μmを超える粒子の除去された潤滑液5を潤滑液槽6に戻して伸線処理を行うことで、潤滑液5の伸線ダイス7への引き込み性が良くなり、伸線ダイス7と金属線材8との潤滑性が向上するので、伸線処理される金属線材8の表面荒れや延性劣化を防止できるとともに、伸線ダイス7の寿命が向上する。
即ち、潤滑液槽6内で一定時間伸線処理に使用された潤滑液5を遠心分離機3に送って遠心分離処理によって不溶性蓄積不要物及び粒径20μmを超える粒子の除去された潤滑液5を伸線処理に使用する潤滑液5として潤滑液槽6に戻して伸線処理を行うことで、表面荒れや延性劣化のない優れた金属線材8を得ることができるとともに、伸線ダイス7の寿命の向上を図ることが可能となった。
尚、遠心分離機3は、比重の違うものが混在した液を遠心力によって分離できるものであればよい。例えば、回転する容器の内部に潤滑液5を導入してスラッジを分離し、分離されたスラッジを容器内の内周壁に堆積し、この堆積したスラッジを定期的に排出する遠心分離機を用いればよい。
【実施例】
【0007】
約0.82重量パーセントの炭素を含有する直径5.5mmの高炭素鋼線材に、直径が約1.7mmになるまで繰り返し乾式伸線を施した後に、パテンティングのような熱処理、及び、ブラスメッキ処理を加えて準備した線材を上記伸線機にて伸線処理し、最終線径が直径0.30mmのスチールコード用ブラスメッキスチールワイヤを製造した。そして、伸線機2の潤滑液槽6で一定時間使用に供された潤滑液5を遠心分離機3に送り、50G、100G、150Gでそれぞれ潤滑液5を遠心分離処理した結果、処理後の潤滑液5の清浄度は良く、この潤滑液5を潤滑液槽6に戻して伸線処理を行った場合に伸線ダイス7の寿命が向上した。伸線機2の潤滑液槽6で一定時間使用に供された潤滑液5を遠心分離機3に送り、200Gで潤滑液5を遠心分離処理した結果、50G、100G、150Gで遠心処理した場合と比べて、処理後の潤滑液5の清浄度は悪く、この潤滑液5を潤滑液槽6に戻して伸線処理を行った場合に伸線ダイス7の寿命も短くなった。伸線機2の潤滑液槽6で一定時間使用に供された潤滑液5を遠心分離機3に送り、20Gで潤滑液5を遠心分離処理した結果、50G、100G、150Gで遠心処理した場合と比べて、処理後の潤滑液5の清浄度は悪く、また、20μmを超える粒子が残ったため、この潤滑液5を潤滑液槽6に戻して伸線処理を行った場合に伸線ダイス7の寿命も短くなった。
【産業上の利用可能性】
【0008】
本発明は、銅線のような金属線材の伸線方法にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】金属線材伸線方法に用いる伸線装置を示す図(最良の形態1)。
【符号の説明】
【0010】
1 伸線装置、2 伸線機、3 遠心分離機、5 エマルジョン潤滑液、6 潤滑液槽7 伸線ダイス、8 金属線材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属線材をエマルジョン潤滑液の満たされた潤滑液槽中で伸線ダイスによって伸線処理する金属線材伸線方法において、一定時間伸線処理に使用されたエマルジョン潤滑液槽内のエマルジョン潤滑液を遠心分離機に送って遠心分離機にて30G以上150G以下の重力加速度で遠心分離処理することによってエマルジョン潤滑液中の不溶性蓄積不要物を除去した後に伸線処理に使用するエマルジョン潤滑液として潤滑液槽に戻して伸線処理を行うことを特徴とする金属線材伸線方法。
【請求項2】
一定時間伸線処理に使用されたエマルジョン潤滑液を遠心分離機で遠心処理することによってエマルジョン潤滑液中に含まれた20μmを超える粒子を除去したことを特徴とする請求項1に記載の金属線材伸線方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−142746(P2008−142746A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−333365(P2006−333365)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】