金属膜を有する樹脂成形品の製造方法
【課題】常圧の無電解めっき液を用いた安価な処理により、樹脂成形品の材料などにかかわらず汎用的に、高い密着性を有する金属膜を樹脂成形品に形成できる製造方法を得る。
【解決手段】少なくとも一方の表面が、金属微粒子を分散させたポリアミド系樹脂から形成されている樹脂シート10を、樹脂成形品5を成形する金型73内に、ポリアミド系樹脂が金型73と接した状態で設置することと(S1)、樹脂シート10が設置された金型73内に溶融樹脂を充填して、樹脂シート10と溶融樹脂とが一体化してなる樹脂成形品5を成形することと(S2)、アルコールを含有した無電解めっき液に樹脂成形品5を常圧下で浸漬させることと(S3)を含む製造方法が提供される。
【解決手段】少なくとも一方の表面が、金属微粒子を分散させたポリアミド系樹脂から形成されている樹脂シート10を、樹脂成形品5を成形する金型73内に、ポリアミド系樹脂が金型73と接した状態で設置することと(S1)、樹脂シート10が設置された金型73内に溶融樹脂を充填して、樹脂シート10と溶融樹脂とが一体化してなる樹脂成形品5を成形することと(S2)、アルコールを含有した無電解めっき液に樹脂成形品5を常圧下で浸漬させることと(S3)を含む製造方法が提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属膜を有する樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用ヘッドランプユニットのリフレクター等の光反射体を、樹脂材料で形成する試みがなされている。この場合、樹脂成形品の表面に金属膜を形成する必要がある。このような試みでは、同時に、熱硬化性樹脂に替えて、量産性に優れたポリエステル樹脂やポリカーボネート樹脂等の熱可塑性樹脂を利用して形成する試みもなされている。ヘッドランプユニット内の温度はランプの発熱により上昇するため、リフレクターには、160℃〜180℃の温度でも金属反射膜の剥離などが生じることがない耐熱性が必要とされる。
【0003】
樹脂成形品に金属反射膜を形成する方法には、プラズマ活性化処理により成形品の表面を活性化した後に金属を蒸着させる方法(ダイレクト蒸着法)がある。しかしながら、この方法でヘッドランプユニット、ヘッドランプ用リフレクターの基材などの樹脂成形品に金属膜を形成した場合、樹脂成形品が高温環境下に長時間さらされることになるので、基材ポリマーから金属膜が剥離して、金属膜が曇ってしまうという問題があった。金属膜が剥離する原因としては、たとえば、基材ポリマーの熱膨張や変形、ポリマー内での加熱分解ガスの発生などが考えられる。
【0004】
基材ポリマー内での加熱分解ガスの発生を抑制する方法として、例えば、樹脂成分を改良する手法が開示されている(特許文献1)。そして、この特許文献1の樹脂組成物では、末端カルボキシル基量を特定量以下とすることにより、基材ポリマー内での熱分解ガスの発生を抑えている。しかしながら、特許文献1の樹脂成分には、離型材が含まれていない。そのため、特許文献1の組成の樹脂を用いてたとえばヘッドランプユニット、ヘッドランプ用リフレクターなどの大型で複雑な(又は高精度な)三次元形状の成形品を成形した場合、離型不良が生じて成形品を所望の形状に形成できない。なお、特許文献2には、樹脂成分の離型剤を改善することで、樹脂成形品の離型性を改善する手法が開示されている。
【0005】
金属膜を有する樹脂成形品には、上述した自動車用ヘッドランプユニットやリフレクターの他にもたとえば、レーザビームプリンターや複写機等での光走査に用いるfθミラー、プロジェクションテレビの光路折曲に用いる大型ミラーなどがある。従来、これらのプラスチックミラーでは、成形金型の高精度な鏡面を樹脂成形品の表面へ転写し、その樹脂成形品の表面に蒸着等によって金属反射膜を形成していた。
【0006】
しかしながら、蒸着等によって金属反射膜を形成した場合、蒸着装置が高価であるために設備費用が嵩んでいた。特に、大面積の成形品を形成する場合、1バッチ(1回の蒸着処理)で形成できる成形品の個数が少なくなるため、生産性が悪く、量産性を確保するためには高価な蒸着装置を複数台使用する必要があった。
【0007】
従来、この蒸着法のコスト問題を克服するために代替方法が開示されている。1つの代替方法は、成形金型内に金属シートを設置した後、成形金型へ熱可塑性樹脂を射出充填する方法である(特許文献3)。この金属シートをインサート成形する方法では、金型内で金属シートと熱可塑性樹脂とを一体化できるので、成形後の蒸着処理が不要になる。しかしながら、この方法では、反射面として機能させる金属シートの反射率が低くなる。しかも、反射面として機能させる金属シートは金型に密着させられることによって所望のミラー形状に形成されるので、金型内で真空吸引して金属シートを金型に密着させる処理を実施したとしても、自由曲面などの複雑な三次元形状の金型に対して金属シートを適切に密着させる(トレースさせる)ことが困難であった。そのため、この代替方法で得られたプラスチックミラーの品質は、蒸着法で得られたものより劣った。
【0008】
さらに別の代替方法として、樹脂フィルムにアルミ、銀といった金属反射膜を蒸着した金属反射フィルムを、金属シートの替わりにインサート成形に用いる方法がある(特許文献4)。金属シートの替わりに金属反射フィルムを用いることで、金属シートを使用した場合と比べて反射面の反射率を高くできる。しかしながら、金属シートの替わりに金属反射フィルムを用いたとしても、自由曲面などの複雑な三次元形状の金型に対して適切に金属反射フィルムを密着させる(トレースさせる)ことは困難であった。また、成形品の形状がたとえば自由曲面のように複雑な形状である場合、成形時に蒸着フィルムを曲面状に変形させる過程においてフィルムに過大な張力が作用して、フィルムに蒸着させた金属反射膜に亀裂が生じることもあった。この現象は、蒸着等によりフィルム上に形成した金属膜での金属の結合力が、金属シートでの金属の結合力と比べて弱いことに起因する。
【0009】
なお、金属反射フィルムの金属膜の亀裂を避けるために、特許文献5のように成形後の樹脂成形品に対して金属反射フィルムを加熱圧着(プレス)することも考えられるが、この場合でも金属反射フィルムを所望の形状に変形させることには変わりがないので、加熱圧着(プレス)時に金属膜に亀裂が発生しないことを保障しきれない。しかも、射出成形後に別工程として加熱圧着(プレス)工程が必要になるので、上述した2つの代替方法より量産性が低下する。
【0010】
ところで、上述した蒸着法や代替方法の他にも、無電解メッキ法を用いて樹脂成形品に金属膜を形成することができる。無電解メッキ法は、成形品を無電解メッキ液に浸漬させるので、蒸着法に比べて安価に金属膜を形成できる。しかも、樹脂成形品の形状が自由曲面などの複雑な形状であったとしても、その複雑な形状の表面に金属膜を形成できる。
【0011】
しかしながら、無電解メッキ法では、メッキ処理前に樹脂成形品の表面をクロム酸等のエッチング液で粗化する必要があるため、使用可能な樹脂が、エッチング液で浸漬可能なABS樹脂などに限られる。なお、ポリカーボネートなどのその他の材料でも無電解メッキが可能なグレードの材料が市販されているが、これらの材料はポリカーボネートなどにABSやエラストマーを混合したものである。そして、これらの材料で成形品を得たとしても、リフレクターで要求される耐熱性やミラーで要求される反射性能を得ることができなかった。
【0012】
また、本発明者らは、無電解メッキ法を改良して、樹脂成形品に金属膜を形成するための別の方法を提案した(特許文献6)。この独自の方法では、まず、金属錯体等の金属微粒子を超臨界流体等の二酸化炭素に溶解させ、この金属微粒子および超臨界流体を射出成形中の金型内へ導入することで、樹脂成形品の表面に無電解メッキの触媒核を偏析させる。次いで、樹脂成形品を無電解メッキ液に浸漬させる。このように射出成形方法で製造した樹脂成形品の表面に無電解メッキの触媒核を付与しているため、エッチング前処理をすることなく無電解メッキが可能である。また、樹脂成形品の樹脂材料としてエッチング液で浸漬されない材料を使用しても、無電解メッキが可能である。
【0013】
発明者らは、この他の方法も提案した(特許文献7)。他の方法では、まず、金属錯体等の金属微粒子を超臨界流体等の二酸化炭素に溶解させ、この金属微粒子および超臨界流体を押出成形中の樹脂シートに接触させることで、金属微粒子が分散した樹脂シ−トを作製する。次いで、該樹脂シートをインサート成形して、樹脂成形品の表面に無電解メッキの触媒核を偏析させる。さらに、樹脂成形品を無電解メッキ液に浸漬させる。この方法でも、射出成形方法で製造した樹脂成形品の表面に無電解メッキの触媒核を付与しているため、エッチング前処理をすることなく無電解メッキが可能であり、且つ、エッチング液で浸漬されない材料を使用しても、無電解メッキが可能である。
【0014】
しかしながら、特許文献6および7の方法で製造された樹脂成形品に対して、無電解メッキを常圧環境下で実施した場合、樹脂成形品の表面の触媒核からメッキが成長してしまい、樹脂成形品に対して高い密着性を有する金属膜を形成できなかった。高い密着性を有する金属膜を形成するためには、無電解メッキ液に超臨界二酸化炭素を混合する必要があった。そして、超臨界二酸化炭素を使用するため、高圧容器などの高価な装置が必要であった。
【0015】
なお、絵柄がインキにより印刷された樹脂製シートをプリフォームして成形時の金型内へ装着したり、インサート成形したりすることで加飾成形する方法(特許文献8)が知られているが、絵柄の印刷状態を維持するためには、印刷済みのシートを成形時に大きく屈曲させないようにする必要がある。また、プリフォーム時あるいは成形時に印刷済みのシート全体を溶解させてしまうと、印刷がきれいに残らない。
【0016】
【特許文献1】特開2000−35509号公報
【特許文献2】特開2005−97563号公報
【特許文献3】特開平5−315829号公報
【特許文献4】特開平3−82513号公報
【特許文献5】特開2004−148638号公報
【特許文献6】特許3866102号公報
【特許文献7】特許3914961号公報
【特許文献8】特開平7−156197号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
以上のように、樹脂成形品に対して金属膜を形成するためにダイレクト蒸着法や蒸着法を採用した場合には、蒸着装置が高価であるために生産コストが嵩んだ。しかも、ダイレクト蒸着法で形成した金属膜は、成形品を加熱環境下で使用する場合に剥離した。また、金属シートまたは金属反射フィルムと樹脂とを一体成形する代替方法では、自由曲面などの複雑で且つ高い表面精度が要求される金属膜を形成できなかった。また、無電解メッキ法では、表面粗化のエッチング前処理のために使用可能な樹脂材料が制限されてしまったり、超臨界二酸化炭素を併用して使用可能な樹脂材料を増やして汎用性を得たとしても高価な高圧容器などを使用しなければ高い密着性を有する金属膜を形成できなかった。
【0018】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、常圧の無電解めっき液を用いた安価な処理により、樹脂成形品の材料などにかかわらず汎用的に、高い密着性を有する金属膜を樹脂成形品に形成できる製造方法を得ることにある。また、本発明はさらに、樹脂成形品に対して所望のパターンで金属膜を形成できる製造方法を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の態様によれば、金属膜を有する樹脂成形品の製造方法であって、少なくとも一方の表面が、金属微粒子を分散させたポリアミド系樹脂から形成されている樹脂シートを、上記樹脂成形品を成形する金型内に、上記ポリアミド系樹脂が上記金型と接した状態で設置することと、上記樹脂シートが設置された上記金型内に溶融樹脂を充填して、上記樹脂シートと上記溶融樹脂とが一体化してなる上記樹脂成形品を成形することと、アルコールを含有した無電解めっき液に上記樹脂成形品を常圧下で浸漬させることとを含む製造方法が提供される。
【0020】
この態様では、金属微粒子を分散させたポリアミド系樹脂が表面となるように樹脂シートと溶融樹脂とを一体化して樹脂成形品を形成し、さらにこの樹脂成形品を無電解めっき液に浸漬させることで、ポリアミド系樹脂に分散させた金属微粒子からメッキを成長させて、樹脂成形品に金属膜を形成できる。
【0021】
しかも、ポリアミドは吸水性が高くてめっき液が浸透するので、親水性のポリアミド系樹脂に分散させた金属微粒子からメッキを成長させることができる。そのため、樹脂成形品を構成する溶融樹脂の材料に関係なく汎用的に、樹脂成形品に金属膜を形成できる。たとえば、溶融樹脂として、無電解めっき液で金属膜を形成できない疎水性の樹脂材料を用いたとしても、この疎水性の樹脂材料で構成された樹脂成形品に対して金属膜を形成できる。
【0022】
本態様において、無電解めっきの方法、無電解めっき液の種類などは任意であるが、たとえば、公知の銅めっき、ニッケルリンめっき、リッケル−ホウ素めっき、コバルトめっき、パラジウムめっきなどを用いることができる。その中でも、ニッケルリンめっきでは、金属膜の密着性が高くなるので望ましい。
【0023】
ところで、無電解めっき液にアルコールを混ぜるとめっきの反応速度が遅くなる。この理由は定かでないか、恐らく硫酸ニッケル等の金属イオンが水分子に溶けている周囲を金属イオンを溶解させないアルコールがとりまいているため、金属イオンが還元しにくくなるためと推定される。また、アルコールを添加すると金属イオンが析出する等、めっき浴が不安定になるので、通常は無電解めっき液にアルコールを混ぜることはしない。しかしながら、この方法では敢えて無電解めっき液にアルコールを混ぜる。これによりメッキ成長を遅らせて、親水性のポリアミド系樹脂に無電解めっき液を深く浸透させ、樹脂シートの内部の金属微粒子からメッキを成長させることができる。その結果、樹脂成形品(樹脂シート)の内部から成長した金属膜を形成することができ、アルコールを使用しないために樹脂成形品(樹脂シート)の表面(最表面)の金属微粒子からメッキが成長した場合に比べて、樹脂成形品と金属膜との密着強度を格段に高くできる。また、このように無電解めっき液にアルコールを混ぜることにより、たとえば無電解めっき液、樹脂成形品などに対して高圧を加えることなく高い密着性を有する金属膜を形成できるので、常圧下で無電解めっき処理を実施して高い密着性を有する金属膜を安価に形成できる。
【0024】
本態様において無電解めっき液と混合させるアルコールは任意であるが、ポリアミド系樹脂に浸透しやすいという観点から表面張力が低いアルコールが望ましい。アルコールの表面張力は少なくとも水の値(73dyn/cm、20℃)よりも小さいことが望ましく、より望ましくは20℃のときの表面張力が50dyn/cm以下である。このようなアルコールとしては、例えば、エタノール(22.3dyn/cm)、2プロパノール(23.8dyn/cm)、エチレングリコール(46.5dyn/cm)、2−メトキシエタノール(31.8dyn/cm)、2−エトキシエタノール(28.2dyn/cm)、1−メトキシー2−プロパノール(27.1dyn/cm)、1−エトキシー2−プロパノール(25.9dyn/cm)、1,3−ブタンジオール(37.8dyn/cm)、tert−ブチルアルコール(19.45dyn/cm)、2(2−メトキシプロポキシ)プロパノール(28.8dyn/cm)などがある。
【0025】
また、めっき液と混合させて高温度(メッキ反応温度)に熱するという観点からは、アルコールの引火点および沸点がめっき処理温度よりも高いことが望ましい。無電解ニッケルリンめっきの場合、めっき温度が60〜90℃程度なので、沸点が60℃且つ引火点が40℃以上のアルコールが望ましい。そして、表面張力が低く且つこの温度条件を満たすアルコールとしては、たとえば、1,3−ブタンジオール(沸点:207.5℃、引火点:121℃)、2−メトキシエタノール(沸点:124.6℃、引火点:43℃)、1−エトキシー2−プロパノール(沸点:132.2℃、引火点:43℃)、2(2−メトキシプロポキシ)プロパノール(沸点:190.0℃、引火点:74℃)などがある。
【0026】
なお、めっき液におけるアルコールの混合量は任意であるが、20vol%以上且つ60vol%以下の混合量が望ましい。アルコールの混合量が20vol%より少ないと、ポリアミド系樹脂に対するめっき液の高い浸透性が得られなくなる。また、60vol%より多いと、アルコールとめっき液とが分離し易くなるからである。
【0027】
このように本態様では、金属微粒子を分散させたポリアミド系樹脂から形成されている樹脂シートを用いて樹脂成形品自体に無電解メッキの触媒核となる金属微粒子を分散させた後、常圧下で樹脂成形品の無電解メッキを実施するので、成形品の溶融樹脂(樹脂材料)および形状に関係なく汎用的に、成形品に対して金属膜を形成できる。しかも、金属膜は樹脂成形品の内部から成長して高いアンカリング効果を得られるので、高い密着性を有する。したがって、耐熱性および耐久性が要求される自動車のヘッドランプユニットやそのリフレクターを成形する場合、高い反射率特性や自由曲面などの複雑な形状が要求される光学部品のミラーなどを成形する場合、装飾めっき等の耐久性が要求される成形品を成形する場合、樹脂成形品の表面に電気回路を形成するMID(Molded Interconnect Device:立体成形回路部品)や電磁シールド成形体を成形する場合などに好適に利用できる。
【0028】
しかも、本態様の製造方法では、蒸着等のドライプロセスや高圧容器などを用いずに金属膜を形成するので、金属膜を有する樹脂成形品を安価なプロセスで製造できる。また、樹脂成形品を成形した後に無電解メッキ液に常圧下で浸漬するだけなので、成形品が大面積で及び/又は複雑な形状を有していたとしても、高い密着性の金属膜を有する樹脂成形品を大量生産できる。
【0029】
なお、本態様では、ポリアミド樹脂を表面に有する樹脂成形品をアルコール含有めっき液に浸漬する前に、還元剤が溶解した水溶液に樹脂成形品を浸漬させてもよい。この無電解メッキの前処理により、樹脂成形品の表面に形成されて且つ触媒核が付与されたポリアミド系樹脂に対してめっき液が浸透し易くなる。また、ポリアミド系樹脂の内部でのめっき反応性を高めることができる。そのため、めっき膜の密着性がより高まる。この理由として、水分子に溶解した還元剤はポリアミド表面には存在しにくく、めっき処理までの短時間の間にポリアミド内部に存在すると推定される。そのため、表面よりもポリアミド内部でめっきの還元反応がおきやすくなるためと考えられる。この前処理に使用する還元剤としては、めっきに用いることのできる還元剤が望ましく、たとえば次亜燐酸、次亜燐酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、ホルマリン、ヒドラジン、ジメチルアミンボランなどが望ましい。特にニッケルリンめっきを実施する場合には、前処理の還元剤として、次亜燐酸または次亜燐酸ナトリウムが望ましい。
【0030】
また、本態様で使用する樹脂シートは、少なくとも一方の表面が、金属微粒子を分散させたポリアミド系樹脂から形成されているものであればよく、たとえば、ポリアミド系樹脂の1層で形成されたシートであっても、ポリアミド系樹脂の層とその他の樹脂の層とが重なったシートであってもよい。特に、上記樹脂シートの他方の表面が、上記ポリアミド系樹脂とは異なる樹脂であって且つ上記金型内へ充填される上記溶融樹脂と溶融接着する樹脂から形成されていてもよい。例えば極性の高いポリアミド系樹脂と密着性の低い非極性材料の樹脂とを重ねた樹脂シートでは、金型に充填される溶融樹脂と相溶しやすい樹脂により樹脂シートの他方の表面(接着面)を形成できるので、金型内で充填樹脂と樹脂シートとをより強固に一体化できる。この他にも、多層共押し出し成形法によりポリアミド系樹脂シートと他方の表面の樹脂シートとを貼り合わせて、これらの樹脂シートの間に互いの樹脂の相溶性を高める接着層(樹脂成分)を含む樹脂シートでもよい。また、金型に充填される溶融樹脂と樹脂シートとの密着性を高めるために、樹脂シートの他方の表面(接着面)に、UV処理、コロナ放電処理、プラズマ処理などで官能基を付与した樹脂シートでもよい。なお、樹脂シートは、押し出し成形で成形されても、キャスト法で成形されてもよい。また、樹脂シートは、金型内の熱風で半溶融させて金型に貼り付ける場合があるので、非延伸で且つ屈曲性に富むシートが望ましい。
【0031】
樹脂シートのポリアミド系樹脂の種類は任意であり、たとえばナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン46、ナイロン11、ナイロン12、ナイロンMXD6、ナイロン6T、ナイロン9T、アラミド樹脂などでよい。この中でも、コストの観点および製造および取り扱いのし易さの観点から、ナイロン6(融点225℃)またはナイロン66(融点265℃)が望ましい。
【0032】
また、金属微粒子は、無電解メッキの触媒核として機能すればよく、たとえばパラジウム錯体、パラジウム錯体の変性物およびパラジウム金属微粒子から選択された少なくとも1つの微粒子であればよい。
【0033】
そして、上記樹脂シートは10〜200μmの厚さでもよい。樹脂シートが10μmより薄くなると、充填樹脂が接触した際に樹脂シートが部分的に破けやすくなり、品質が安定しなくなり、量産性が損なわれる。また、樹脂シートを200μm以下の薄さにすると、金型に樹脂シートを設置した状態で金型内へ溶融した熱可塑性樹脂を充填することで、樹脂シートが全体的に溶融し且つ冷却後に充填された樹脂と一体化できる。なお、充填される樹脂の温度は、たとえばポリアミド樹脂の軟化温度である200℃以上、より好ましくは230℃以上にすることが望ましい。
【0034】
また、樹脂シートを200μm以下の薄さにすると、樹脂シートが容易に変形して金型に密着できるので、金型から樹脂シートが浮いたり、金型内に溶融樹脂を充填する際にその浮いた部分が破断したりし難くなる。その結果、金型の形状に基づく形状の樹脂成形品を量産できる。たとえば金型の形状が自由曲面などの複雑であっても、その複雑な形状を転写した形状の樹脂成形品を量産できる。しかも、その複雑な形状の樹脂成形品の表面は、金属微粒子を分散させたポリアミド系樹脂で構成されているので、アルコールを含む常圧の無電解メッキにより金属膜を形成でき、複雑な形状の樹脂成形品に対して高い密着性を有する金属膜を安価に形成できる。
【0035】
なお、本態様で製造した樹脂成形品として、めっきによる金属膜と密着できるポリアミド系樹脂の表面と、ポリアミドよりも熱膨張係数や吸水性の低い樹脂から形成されている内部とを有する樹脂成形品を形成できる。このような樹脂構造では、ポリアミド系樹脂を含む樹脂シートを200μm以下の薄さにすることで、ポリアミド系樹脂の熱や水分による寸法変化を抑制できる。そのため、ポリアミド系樹脂のみで樹脂成形品を形成した場合に比べて、熱衝撃による金属めっき膜の剥離やクラックの発生を抑制でき、しかも、吸湿による寸法変化に起因した金属膜の光学特性の変化を抑制できる。
【0036】
特に、上記樹脂シートが10〜150μmの厚さである場合、上記金型内に上記溶融樹脂を充填する前に、上記金型内に設置した上記樹脂シートを加熱、加圧、真空吸引のいずれか1つの方法により上記樹脂シートを上記金型に密着させることを含んでもよい。例えば、上記金型内に設置した上記樹脂シートを加熱することは、上記金型内に設置した上記樹脂シートに対して熱風を当てることによりなされればよい。あるいは、金型温度がある程度高いか、加圧力が高ければ、加圧エアー、N2等の加圧ガスをシートに吹き付けることで、シートを金型表面にトレースさせることができる。あるいは、短時間の間に真空吸引することで、薄いシートを金型に密着させることができる。これら方法を複合的に採用してもよい。
【0037】
150μm以下の厚さの樹脂シートは熱で軟化し易いので、金型内で熱風を当てることで、ブロー成形のように樹脂シートを金型表面に薄い皮膜として固着させることができる。また、樹脂シートは金型と隙間無く密着する。したがって、樹脂シートが金型に隙間無く密着した状態で金型内へ溶融樹脂を充填できるので、樹脂シートの破損などを防止しつつ、金型を転写した形状の樹脂成形品を成形できる。しかも、樹脂シートは熱風を用いて金型内で成形されるので、金型に入れる前に樹脂シートを成形する必要が無く(プリフォームの必要が無く)、しかも、樹脂シートを金型の形状に合わせて精度良く成形できる。また、樹脂シートが150μm以下の薄さになると、樹脂成形品において金型に充填した樹脂の物性がより強調されるようになるので、金型に充填する樹脂の選択により成形品の機械的特性および熱的物性を作り込むことができる。なお、樹脂シートの厚さが150μmより厚くなると、金型内で樹脂シートに熱風を当てたとしても、複雑な形状の金型に対して樹脂シートが隙間無く密着し難くなる。したがって、樹脂シートとして150μmより厚いものを使用する場合には、金型内に設置する前に樹脂シートを金型の形状に合わせて所望の形状に成形(プリフォーム)した後、この金型の形状に合わせて成形された樹脂シートを射出成形用の金型内に設置するとよい。公知のプリフォーム法により樹脂シートを粗成形するために必要なシート厚みは、成形後の形状をある程度維持する観点から50um以上が望ましい。
【0038】
また、本態様では、さらに、上記樹脂成形品を上記無電解めっき液に浸漬させる前に、上記樹脂成形品に対してレーザを照射して上記樹脂成形品から上記ポリアミド系樹脂を部分的に除去してもよい。
【0039】
樹脂成形品に対してレーザを照射して上記樹脂成形品から上記ポリアミド系樹脂を部分的に除去することにより、樹脂成形品の表面のポリアミド系樹脂を所望のパターンにすることができる。たとえば、樹脂成形品の表面に、回路用の配線パターンなどを形成できる。そして、このように所望のパターンとされたポリアミド系樹脂に対して常圧の無電解メッキを実施することにより、樹脂成形品に対して所望のパターンの金属膜を形成できる。また、レーザの照射によりポリアミド系樹脂を所望のパターンに形成しているので、線幅が狭い(数ミクロン〜数ミリオーダーの幅)のファインパターンにおいて、選択めっきが可能となる。なお、レーザによる除去し易さを考慮した場合、ポリアミド系樹脂(樹脂シート)の厚さは100μm以下が望ましく、さらに30μm以下がより望ましい。また、ポリアミド系樹脂を部分的に除去するために用いることができるレーザの種類には、CO2レーザ、YAGレーザなどがある。この中でも、成形品の表面に微細なパターンでポリアミド系樹脂を形成できるので、YAGパルスレーザが望ましい。
【0040】
また、本態様では、上記樹脂シートを上記金型内に設置することが、上記樹脂シートを上記金型の成形面の一部において部分的に設置することを含んでもよい。
【0041】
金型の成形面の一部において樹脂シートを部分的に設置することにより、樹脂成形品の表面のポリアミド系樹脂を所望のパターンにすることができる。そして、このように所望のパターンとされたポリアミド系樹脂に対して常圧の無電解メッキを実施することにより、樹脂成形品に対して所望のパターンの金属膜を形成できる。しかも、樹脂シート自体を部分的に配設することで金属膜を所望のパターンに形成しているので、金属膜を形成しない表面積が大きい場合には、レーザで樹脂成形品からポリアミド系樹脂を部分的に除去した場合に比べて有利である。このように、樹脂シートを部分的に配設する方法は、レーザにより樹脂を部分的に除去する方法に比べて、マクロ的な部分(数ミリ〜数センチ幅のオーダー以上の大面積の部分)の選択めっきを容易に実現できる。逆に、レーザを用いて樹脂成形品からポリアミド系樹脂を部分的に除去する方法では、細かいパターンを形成する場合に有利である。なお、樹脂シートを部分的に配設する方法と、レーザにより樹脂を部分的に除去する方法とを組み合わせて使用してもよい。
【0042】
ところで、本態様において樹脂シートの作製方法は任意である。樹脂シートは、例えば金属微粒子とポリアミドの樹脂ペレットとを押し出し機で溶融混錬して押し出すことで連続的に形成できる。この他にもたとえば、ポリアミド樹脂製の樹脂シートなどに対して、金属微粒子を溶解させた高圧二酸化炭素を接触させてもよい。具体的にはたとえば、金属微粒子を溶解させた高圧二酸化炭素とポリアミド樹脂製の樹脂シートとを高圧容器内で接触させるバッチ法と、金属微粒子を溶解させた高圧二酸化炭素と溶融したポリアミド系樹脂とを押し出し成形機の金型内で接触および浸透させる押し出し成形法とがある。高圧二酸化炭素を用いて樹脂シートに金属微粒子を分散させた場合、金属微粒子は樹脂シートに均一に分散する。高圧二酸化炭素以外のアルコール等の溶媒を用いて金属微粒子を分散させてもよい。
【0043】
樹脂シートの押し出し成形法では具体的にたとえば、少なくとも一方の表面がポリアミド系樹脂から形成されている樹脂シートを押出成形により成形する時に、上記金属微粒子の元となる金属錯体が溶解した高圧二酸化炭素を、成形前の溶融樹脂または押し出し金型内の樹脂と接触させればよい。これにより、少なくとも一方の表面が、上記金属微粒子を分散させたポリアミド系樹脂から形成されている樹脂シートを生成することができる。
【0044】
樹脂シートのバッチ法では具体的にはたとえば、少なくとも一方の表面がポリアミド系樹脂から形成されている樹脂シートを押出成形により成形し、上記樹脂シートを高圧容器に収容し、さらに上記金属微粒子の元となる金属錯体が溶解した高圧二酸化炭素を上記高圧容器へ導入すればよい。これにより、樹脂シートの少なくとも一方の表面が、上記金属微粒子を分散させたポリアミド系樹脂から形成されている表面になる。しかも、押出成形により樹脂シートを形成した場合には長尺の樹脂シートを連続的に形成できるので、長尺の樹脂シートに対して金属錯体を連続的に接触させて、金属錯体(金属微粒子)が分散した樹脂シートを効率よく成形できる。複数の樹脂成形品に用いる樹脂シートを連続的に且つ一括して形成できる。そのため、樹脂成形品毎に金属微粒子を分散させる処理を実施する必要が無い。また、押出成形により樹脂シートを形成した場合には、インサート成形後の余剰のシートを樹脂ペレットと共に再度溶融して混錬することで再利用できる。
【0045】
また、この樹脂シートのバッチ法において、ポリアミド製シートは、無機物から形成されているセパレータを挟んで巻かれて高圧容器に収容されてもよい。無機物から形成されているセパレータとしては、たとえばアルミメッシュシート、SUS製のメッシュシート、ガラスクロスなどが好適である。これらのセパレータは高圧二酸化炭素を通過できるので、拡散性の高い高圧二酸化炭素がセパレータを介してポリアミド製シートの全面に均一に拡散して浸透できる。
【0046】
このように液体状態あるいは超臨界状態の高圧二酸化炭素に金属錯体等の金属微粒子を溶解させた後、この高圧二酸化炭素と樹脂シートとを接触させることで、樹脂シートのポリアミド系樹脂層にダメージを与えることなく且つ樹脂シート中に金属微粒子を凝集させることなく、樹脂シートの内部に速やかに金属微粒子を拡散(分散)させることができる。また、金属錯体は、高圧二酸化炭素に溶解された後に樹脂シート内に拡散させられるので、有機溶媒を用いずとも樹脂シートに対して金属錯体を均一に分散できる。
【0047】
なお、金属錯体としては、例えば、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)、ジメチル(シクロオクタジエニル)プラチナ(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトヒドレート銅(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトプラチナ(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナト(トリメチルホスフィン)銀(I)、ジメチル(ヘプタフルオロオクタネジオネート)銀(AgFOD)等を用いることができる。この中でも、パラジウム錯体がめっきの触媒核としてのコストおよび機能面においてバランスがとれていて好適である。
【0048】
また、樹脂シートには金属錯体を浸透させているが、無電解メッキの際の樹脂シート中の金属微粒子は、金属錯体がその酸化物等へ変性したものであってもよい。また、めっきの触媒活性を高めるために、無電解メッキ前にメタル化させたものであってもよい
ポリアミド系樹脂層(樹脂シート)内で金属錯体をメタル化する方法は任意であるが、たとえば、ポリアミド系樹脂層(樹脂シート)に還元剤を浸透させた後に、金属錯体を溶解させた高圧二酸化炭素にポリアミド系樹脂層(樹脂シート)を接触させればよい。これにより、低温(常温)のままで、ポリアミド系樹脂層(樹脂シート)に浸透した金属錯体を還元してメタル化できる。この他にもたとえば、低温(常温)の高圧容器内で金属錯体を溶解させた高圧二酸化炭素と樹脂シートとを接触させて金属錯体を樹脂シートに浸透させた後、高圧容器内の温度を上げることで、ポリアミド系樹脂層(樹脂シート)に浸透した金属錯体を熱還元してメタル化できる。さらに他にもたとえば、無電解めっき処理の前に上述した還元処理を実施することでも、金属錯体や金属酸化物を還元してメタル化できる。
【発明の効果】
【0049】
以上のように、本発明では、常圧の無電解めっき液を用いた安価な処理により、樹脂成形品の材料などにかかわらず汎用的に、高い密着性を有する金属膜を樹脂成形品に形成できる。また、本発明ではさらに、樹脂成形品に対して所望のパターンで金属膜を形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下、本発明の金属膜を有する樹脂成形品の製造方法の実施例を、図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施例は本発明の好適な具体例であり、本発明はこれに限定されない。
【0051】
図2は、以下の各実施例における、金属膜を有する樹脂成形品の製造方法の全体の処理の流れを示す工程図である。各実施例では、バッチ法または押し出し成形法を用いて金属微粒子が浸透したポリアミド系樹脂製シートを作製し(S1)、プリフォーム法(インサート射出成形前、金型に配設する前に事前にシートを金型のキャビティ形状に成形しておく方法をプリフォーム法と定義する)または直接成形法(インサート射出成形の樹脂充填前に射出成形用の金型内でシートをキャビティ表面に密着させておく方法)を用いて樹脂成形品をインサート成形し(S2)、さらに、常圧の無電解メッキ液を用いて樹脂成形品に金属膜を形成した(S3)。また、この金属膜を金属下地膜として利用して所望の金属体を形成し、この金属体を樹脂成形品の放熱体、導電体などとして利用した。まず、各工程で使用する要素技術について説明する。
【0052】
[バッチ法を用いたポリアミド系樹脂製シートの作製方法]
バッチ法では、シート状に形成されたポリアミド系樹脂製シートに、金属微粒子を溶解させた加圧二酸化炭素を接触させることで、金属微粒子が浸透したポリアミド系樹脂製シートを作製する。
【0053】
図2は、金属錯体などの金属微粒子をポリアミド系樹脂製シート1に浸透させるためのバッチ装置の構成図である。バッチ装置は、主に、巻きつけた長尺のポリアミド系樹脂製シート10を収容する高圧容器11と、粉状の金属錯体を収容する溶解槽12と、液体二酸化炭素ボンベ13とを含む。粉状の金属錯体には、ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジム(II)錯体を用いた。
【0054】
長尺のポリアミド系樹脂製シート10は、ナイロン6、ポリフタルアミドなどのポリアミド樹脂を含み、幅40cmおよび長さ20mに形成されている。また、以下の実施例では25〜300μmの範囲内の厚さを有する。そして、図3に示すように、長尺のポリアミド系樹脂製シート10は、アルミ製メッシュのセパレータ9と重ねて丸められて、穴が多数あいたアルミ製筒8に周囲に巻きつけられる。
【0055】
そして、セパレータ9と重ねてアルミ製筒8に巻きつけられた長尺のポリアミド系樹脂製シート10は、高圧容器11に収容される。このとき、アルミ製筒8には、高圧容器11の中央に形成されて且つ多数の孔が形成された支持筒26が挿入される。その後、蓋を閉じて圧力容器11を密閉した。
【0056】
ついで、高圧容器11に高圧二酸化炭素を導入して、金属錯体をポリアミド系樹脂製シート10に浸透させた。具体的には、圧力6MPa且つ常温25℃の液体二酸化炭素を液体二酸化炭素ボンベ3から排気させ、40℃に温調した配管14を通過させてガス化させた後、圧力計16が20MPaを示すようにポンプ15にて昇圧した。これにより、50℃に温調されたバッファ容器17の内圧は20MPaとなる。また、バッファ容器17において20MPa且つ50℃の環境下に置かれて超臨界状態になった高圧二酸化炭素は、圧力計19の表示が15MPaになるように減圧弁18で減圧した。自動弁20が開くと、15MPaの超臨界状態の高圧二酸化炭素は、高圧容器11の下部および上部の導入排出口27,28から、密閉された圧力容器11へ導入される。
【0057】
高圧容器11に導入された超臨界二酸化炭素は、循環ポンプ22により高圧容器11および溶解槽12の間を循環する。実際には、循環ポンプ22を数分間駆動して、逆止弁21の方向に高圧二酸化炭素を数分間循環させた。そして、溶解槽12には金属錯体が仕込まれているので、溶解槽12において金属錯体が超臨界二酸化炭素に溶解する。また、金属錯体が溶解した超臨界二酸化炭素は圧力容器11内に拡散し、ポリアミド系樹脂製シート10に浸透する。これにより、ポリアミド系樹脂製シート10に金属錯体が浸透する。
【0058】
なお、背圧弁25の圧力はあらかじめ15MPaに調整した。また、循環する超臨界二酸化炭素の圧力が下がると、自動弁20から超臨界二酸化炭素が補充される。これにより、高圧容器11および溶解槽12を循環する超臨界二酸化炭素の圧力は15MPaに維持される。また、圧力計23は圧力容器11の内圧である15MPaを表示する。
【0059】
ポリアミド系樹脂製シート10に金属錯体を浸透させた後、循環ポンプ22を停止した。また、高圧容器11を50℃にて30分間保持した後、圧力容器11内部の温度を図示しない温調機にて120℃まで昇温した。これにより、ポリアミド系樹脂製シート10に浸透した金属錯体は熱還元されて金属微粒子となり、シートに固定化される。なお、上述した昇温により圧力容器11の内圧も上昇することになるが、この圧力上昇分の余剰な二酸化炭素は背圧弁25から逃げる。背圧弁25の先(排気側)には、図示しない遠心分離機が設置されており、排気に含まれる金属錯体と減圧された二酸化炭素を分離して回収できる。回収した金属錯体は再利用できる。
【0060】
ポリアミド系樹脂製シート10に金属微粒子を固定化した後、自動弁25を閉鎖し、さらに自動弁24を開放した。これにより、圧力容器11内の高圧二酸化炭素が排気される。また、圧力容器11の内圧が常圧に戻った後、圧力容器11を開き、ポリアミド系樹脂製シート10を治具とともに取り出した。
【0061】
以上のように、バッチ法により、金属錯体、その熱変生物または金属微粒子が浸透した長尺のポリアミド系樹脂製シート10を得ることができる。また、金属微粒子は、ポリアミド系樹脂製シート10の両面に略均一に浸透できる。
【0062】
[押し出し成形法を用いたポリアミド系樹脂製シートの作製方法]
押し出し成形法では、金属微粒子を溶解させた加圧二酸化炭素をポリアミド系樹脂と接触させた後、接触後のポリアミド系樹脂をシート状に形成することで、金属微粒子が浸透したポリアミド系樹脂製シートを作製する。
【0063】
図4は、金属錯体などの金属微粒子を浸透させたポリアミド系樹脂製シート10を形成するための押出し成形装置の構成図である。押出し成形装置は、主に、溶融樹脂をフィルム(シート)状に形成するTダイ41と、Tダイ41へ溶融樹脂を連続的に供給する可塑化シリンダー42と、液体二酸化炭素ボンベ43と、金属錯体を5wt%溶解したフッソ溶液を収容する容器44とを含む。
【0064】
なお、本発明において樹脂シート10に浸透させる金属微粒子は任意であるが、本実施例においては金属錯体であるヘキサフルオロアセチルアセトナ(II)を用いた。また、容器44には、金属錯体と相溶し且つ高圧二酸化炭素に可溶な液状のフッソ化合物Perfluorotripentylamine(分子式:C15F33N(シンクエスト・ラボラトリー製、分子量:821.1、沸点:220℃)と金属錯体とを混合して、金属錯体を5wt%溶解するように調合されたフッソ溶液を収容した。
【0065】
そして、ポリアミド系樹脂製シート10を形成する場合、まず、自動弁46を開放して、金属錯体を5wt%溶解したフッソ溶液を、フィルター45を介してシリンジポンプ47内部に吸引した。さらに、シリンジポンプ47においてフッソ溶液を15MPaに昇圧した。また、自動弁49を開放して、液体二酸化炭素ボンベ43からシリンジポンプ50へ液体二酸化炭素を吸引し、さらにシリンジポンプ50において液体二酸化炭素を15MPaに昇圧した。
【0066】
2つのシリンジポンプ47,50に同じ圧力の流体を吸引した後、2つのシリンジポンプ47,50の流量比を制御しながら駆動して、金属錯体を5wt%溶解したフッソ溶液と高圧二酸化炭素とを混合する。これにより、液体の高圧二酸化炭素に、金属錯体およびフッソ溶液が溶解する。この混合流体(液体)は、圧力計52、逆止弁53、手動バルブ54および導入口55を介して可塑化シリンダー42へ供給される。なお、液体の高圧二酸化炭素と金属錯体を5wt%溶解したフッソ溶液との混合比は、たとえば20:1とすればよい。
【0067】
可塑化シリンダー42では、シリンダー42内に減圧部56を構成するためのベント構造を有する単軸スクリュー57が回転している。そのため、ホッパ58から供給されたポリアミド系樹脂のペレットは、温度200〜230℃に温調された可塑化シリンダー42にて可塑化溶融された後、単軸スクリュー57回転にしたがって送り出されて、ベント部56で急減圧される。また、混合流体は、この減圧部56において可塑化シリンダー42へ導入される。したがって、金属錯体およびフッソ溶液が溶解した液体の高圧二酸化炭素は、減圧部56において急減圧された溶融樹脂と混合される。これにより、溶融樹脂には、金属錯体およびフッソ溶液が分散する。
【0068】
金属錯体およびフッソ溶液が分散した溶融樹脂は、単軸スクリュー57の回転にしたがって可塑化シリンダー42から押し出され、Tダイ41によりフィルム(シート)状に形成される。Tダイ41より押出されたフィルム(シート)状のポリアミド樹脂は冷却ロール59等を通過した後、巻き取られる。本実施例においては、Tダイ41の押出し口における図示しないギャップを調整して、例えば50μmの厚さの無延伸特性のポリアミド系樹脂製シート10を成形した。
【0069】
以上のように、押し出し成形法により、金属錯体などが分散した長尺のポリアミド系樹脂製シート10を得ることができる。なお、押し出し成形法で使用可能なTダイ41の押出し口の形状は任意の形状とすることができる。そして、Tダイ41の押出し口の形状を変えることで、金属錯体などが分散した長尺のポリアミド系樹脂を、シート以外の形状に形成することができる。
【0070】
なお、液体のフッソ化合物に金属錯体を混合溶解した後に高圧二酸化炭素にさらに溶解させることで、金属錯体を加圧二酸化炭素に溶解できる。また、この方法で溶解することで、金属錯体を5wt%溶解したフッソ溶液42と液体高圧二酸化炭素との混合比を一定にでき、混合流体(液体)中の金属錯体の量をも一定にできる。また、混合流体中で、金属錯体は液体のフッソ化合物に保護された状態で存在するので、高温度の溶融樹脂に接触させたときに金属錯体が熱分解したり凝集したりし難くなり、溶融樹脂への金属錯体の分散性が悪化しないようにできる。また、フッソ化合物は樹脂の表面にブリードアウトしやすい性質を有するので、フッソ化合物により保護された金属錯体も樹脂の表面付近に偏析しやすくなる。また、金属錯体を高圧二酸化炭素と直接に接触させる溶解槽などを用いなくても、高圧二酸化炭素に溶解させる金属錯体の濃度を一定に維持でき、しかも、高圧二酸化炭素に対して途切れることなく連続的に安定した量の金属錯体を供給できる。また、シリンジポンプ47の上流側に設置されて常圧下にある収容容器44に、金属錯体を5wt%溶解したフッソ溶液を補充することで、フッソ溶液を途切らすことなく連続に供給できるので、押し出し成形法においてポリアミド系樹脂製シート10の連続生産が可能となる。
【0071】
[プリフォーム法を用いた樹脂成形品のインサート成形方法]
樹脂成形品のインサート成形方法では、樹脂成形品を形成する射出成形装置を使用する。図5および図6は、射出成形装置の一部を示す断面図である。射出成形装置は、主に、可動金型71および固定金型72からなって溶融樹を成形する金型73と、金型73へ溶融樹を射出する可塑化シリンダー74とを含む。
【0072】
まず、あらかじめ公知のプリフォーム成形を行った。図8に示すように、プリフォームでは、図8(A)の樹脂シート10を準備し、図8(B)に示すように図示しない赤外線ヒーターを用いた間接加熱源によって樹脂シート10をさらして軟化させた後、図8(C)に示す射出成形用金型71を模した金型79に樹脂シート10を重ねて圧力1MPaの加圧エアーを吹き付け、金型79から取り外すことにより、図8(D)に示すような箱型形状のシート10とした。
【0073】
次いで、射出成形用の金型71内に金属微粒子が分散して且つプリフォームされたシート10を挿入しインサート成形した。まず、プリフォーム法により箱型形状に形成されたポリアミド系樹脂製シート10を金型73に密着させた。具体的には、ついで射出成形用金型の可動金型33のキャビティ13表面にシート2を挿入し、真空引き用の溝34より真空吸引して固定化した。その後、図6に示すように、任意の温度に温調された可塑化シリンダー74内の溶融樹脂をスクリュー75の前進により金型73内に射出充填する。その後、金型73で型締めをした後、金型73を離型した。これにより、樹脂成形品5を得た。
【0074】
なお、本発明において、インサート(インモールド)成形にて射出成形する充填樹脂材料の種類は任意であり、例えば、ポリエステル系等の合成繊維、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、アモルファスポリオレフィン、ポリエーテルイミド、ポリエチレンテレフタレート、液晶ポリマー、ABS系樹脂、ポリアミドイミド、ポリ乳酸等の生分解性プラスチック、ナイロン樹脂等及びそれら複合材料を用いることできる。また、充填樹脂には、ガラス繊維、カーボン繊維、ナノカーボン等、各種無機フィラー等を混練させた樹脂材料を用いることもできる。また、充填樹脂は樹脂シート材料と同じポリアミド系樹脂でも異種でもよいが、シート材料との接着性を高めるために同一材料であってもよい。
【0075】
以上のように、プリフォーム法を用いて、表面に金属微粒子が分散したポリアミド系樹脂層6を有する樹脂成形品5を得ることができる。なお、プリフォーム法では、ポリアミド系樹脂製シート10に軟化させあと加圧エアーを吹き付けて引き伸ばし、シート10をプリフォーム用金型79にあわせた形に変形させるので、ポリアミド系樹脂製シート10にある程度の強度などが要求される。実際には、50μm以上の厚さのシートは、プリフォーム用の加圧エアーで引き伸ばされたことにより断裂することなく、しかも、プリフォーム用の金型79から取り外した後にも成形形状を維持できて、プリフォーム成形することができた。
【0076】
また、ポリアミド系樹脂製シート10として200μm以下の薄さのシートを使用した場合には、射出成形時に溶融樹脂が接触することによってシート10が溶融したり薄膜化したりできる。そのため、射出成形後のシート層6の形状は、厳密には、プリフォーム前のシート10の形状に維持されない。また、プリフォームしたシート10の形状が金型73に密着できる形状でなくとも、且つ、金型73が深絞り等の屈曲した複雑な形状であっても、金型73の表面をトレースした良好な外形形状の樹脂成形品5を得ることができる。
【0077】
[直接成形法を用いた樹脂成形品のインサート成形方法]
本発明においては、薄肉シートを射出成形直前にキャビティ形状に塑性変形させるプリフォームなしで、直接成形することができる。シートが薄く形状を維持しにくい場合においても、加熱、加圧、真空の少なくとも1種類以上の方法で金型鏡面に密着させることができる。
【0078】
本実施例のインサート成形方法では、金型のキャビティ表面形状をトレースした治具を用いてポリアミド系樹脂製シートを所望の形状にならわせた後、その状態のシートを治具とともに射出成形装置の金型に配設して、樹脂成形品を得る。このように治具を用いて射出成形装置の金型にシートを配設するようにすることで、薄いシートを射出成形装置の金型に対して因れたりすることなく配設することができる。なお、シートは、射出成形装置の金型に直接配設してもよい。
【0079】
具体的には、まず、図8(A)に示すように、成形品と表面が同形状の固定化治具81に対して、金属微粒子が分散したポリアミド系樹脂製シート10を配置した。その後、図8(B)に示すように、固定化治具81を150℃に加熱し、シート10を加圧および加熱したエアーで加熱し、且つ、固定化治具81の内外に設けられた真空吸引溝82よりエアーを吸引して、シート10を固定化治具81の表面に固定した。これにより、ポリアミド系樹脂製シート10は、成形品の表面形状に形成される。
【0080】
次いで、図9に示すようにシート10が張り付いた固定化治具81を可動金型71に対向して配置し、さらに図10に示すように固定化治具81と可動金型71とでシート2を挟んだ状態で、固定化治具81の真空吸引を切る。その後、図示しない別系統のエアー回路より固定化治具81の表面に加圧エアーを流動させると同時に、可動金型71の真空吸引溝76から真空吸引する。これにより、図11に示すように、成形品の表面形状に形成されたシート10は、固定化治具81から剥がされて、可動金型71に密着する。なお、図9では、樹脂シート10は可動金型71のみに設置されており、金型73の成形面の一部において部分的に設置されていることになる。
【0081】
直接成形法によりポリアミド系樹脂製シート10を可動金型71に密着させた後、図12に示すように、金型73を閉じて、任意の温度に温調された可塑化シリンダー74のスクリュー75を前進させる。これにより、可塑化シリンダー74の溶融樹脂は金型73内に射出充填する。その後、金型73の型締めをした後に金型73を離型して、樹脂成形品5を得た。たとえば図13に示すように、表面が凹鏡面のリフレクター形状の成形品5を成形した。なお、図13では、リフレクター5の凹鏡面の中央部に貫通孔4が形成され、この貫通孔4から図の右へ向かってポリアミド系樹脂製シート10の一部が飛び出しいている。このような場合にはその突出部位をカットすることで、図14に示すような最終的な樹脂成形品5を得ることができる。
【0082】
以上のように、直接成形法を用いて、表面に金属微粒子が分散したポリアミド系樹脂層6を有する樹脂成形品5を得ることができる。また、直接成形法では、固定化治具81を用いてポリアミド系樹脂製シート10を所望の金型形状に形成した上で、加圧エアーを用いてポリアミド系樹脂製シート10を金型73に密着させるので、ポリアミド系樹脂製シート10が90μm以下の薄いものであっても破損させることなく金型73に密着させることができる。
【0083】
[アルコール含有した常圧の無電解メッキ液を用いた樹脂成形品への金属膜の形成方法]
上述したプリフォーム法または直接成形法を用いて、たとえば図14に示すように、表面に金属微粒子が分散したポリアミド系樹脂層6を有する樹脂成形品5を得ることができる。この樹脂成形品5では、下記の無電解めっき法により、成形品5の内部の金属微粒子からめっき膜(金属下地膜)を成長させることができる。本実施例では無電解Ni−P(ニッケルリン)めっき液を使用した。
【0084】
まず、還元剤である次亜燐酸が10vol%溶解しており且つNaOHによりpHが7に調整された還元液を用意し、この還元液に上述したプリフォーム法または直接成形法で形成した樹脂成形品5を5分間浸漬させた。この無電解メッキ処理前の還元処理により、樹脂成形品5の表面の親水性のポリアミド系樹脂層6が膨潤し、しかも、ポリアミド系樹脂層6内の金属錯体などの金属微粒子(パラジウム)を活性化できる。
【0085】
その後、還元液から取り出した樹脂成形品5を水洗いして、成形品5の表面に付着した還元剤を除去した。次に、水洗いした樹脂成形品5を、アルコールを45vol%含有した無電解ニッケルリンめっき液に浸漬した。アルコールには1,3−ブタンジオールなどを使用し、めっき液の温度は70℃とした。無電解めっきの原液には奥野製薬工業製ニコロンDKを用いた。
【0086】
以上のように、常圧下の無電解メッキ処理により、たとえば図15に示すように、樹脂成形品5の表面に金属膜3を形成した。たとえば図14の樹脂成形品5に対して常圧下の無電解メッキ処理を実施して、図15に示すようにリフレクター5の凹鏡面および貫通孔4について金属膜3を形成できる。なお、さらにこの金属膜3を下地膜として電解メッキなどを実施することで、下地膜3の上に厚い金属膜を形成できる。この所望のパターンの下地膜3の上に他の金属膜を重ねることで、所望の電気特性の導電体などを形成できる。
【0087】
なお、ポリアミド系樹脂層は親水性を有する。そのため、上述した還元剤を用いた還元処理およびそれに付随する水洗い処理を実施しないで、プリフォーム法または直接成形法を用いてインサート成形した樹脂成形品5をそのまま常圧下の無電解メッキ液に浸漬しても、樹脂成形品5に金属膜3を形成できる。
【0088】
次に、以上の各要素技術を組み合わせて使用した各実施例を説明する。表1には、各実施例で使用した材料やプロセスの組合せなどを示す。
【0089】
【表1】
【実施例1】
【0090】
本実施例では、25、50および90μmの厚さのナイロン6製のシート10を準備し、上述した高圧二酸化炭素を用いたバッチ法(図2、図3を参照)を用いてこれらのシート10に金属微粒子を浸透させた。
【0091】
また、本実施例では、金属微粒子を浸透させたシート10を用いて、上述した直接成形法を用いたインサート成形法(図8〜図14)により、プラスチックミラー形状の樹脂成形品5を形成した。インサート成形では、成形樹脂としてのポリフタルアミド(ソルベイ・アドパンストポリマーズ(株)製、アモデルAS−1566)を320℃に加温して金型73へ射出充填した。ポリフタルアミドは、ポリアミド系の樹脂であり、高耐熱且つ低膨張係数の物性を有する。
【0092】
また、本実施例では、上述したアルコール含有した常圧の無電解めっき法(図15)により、樹脂成形品5の表面にニッケルリンめっき膜3を1μmの厚さで形成した。
【0093】
本実施例では、さらに、ニッケルリンめっき膜3を下地膜として、ニッケルリンめっき膜3の上に、レベリング効果のある光沢剤を含有させた電解Niめっき膜を2μmの厚さで形成し、その表面を平滑化させた。また、置換銀めっき(メルテックス製、アルファスター)により、平滑化された表面のNiをAgに置換した。Agめっきの膜厚は100nmとした。また、ディッピング法により、Agめっき膜の上に、有機(アクリル)−無機(SiO2)ハイブリット材料(JSR製グラスカ)の保護膜を5μmの厚さで形成した。
【0094】
以上の処理により、本実施例では、金属膜3を有する樹脂成形品5としてプラスチックミラーを形成した。そして、このプラスチックミラーは、ポリフタルアミド樹脂で構成されているので、耐熱性があり且つ寸法精度も高く、高温環境下でも反射膜(3)の形状を維持できた。しかも、樹脂成形品5の表面には平滑なナイロン6の層が形成され、しかも、エッチング液で表面を粗化することなくその表面に反射膜(3)を形成しているので、所望の形状において平滑で且つ信頼性の高い反射面を有するプラスチックミラーが得られた。
【0095】
また、本実施例のプラスチックミラーの中心部における絶対反射率(正反射)は、シート10の厚さの違いに関係なく95〜97%(測定波長550nm)と高い値が得られた。また、本実施例のプラスチックミラーに対して、温度80℃且つ湿度95%RHの環境下に100時間放置する環境試験を行ったところ、めっき膜(3)の膨れ、白濁は認められなかった。また、環境試験の前後における反射率の低下は、3%以内であった。
【実施例2】
【0096】
本実施例では、90および200μmの厚さのナイロン6製のシート10を準備し、上述した高圧二酸化炭素を用いたバッチ法(図2、図3)を用いてこれらのシート10に金属微粒子を浸透させた。
【0097】
また、本実施例では、金属微粒子を浸透させたシート10を用いて、上述したプリフォームを用いたインサート成形法(図5、図6、図7)により、箱型形状の樹脂成形品5を形成した。インサート成形では、ナイロン6(ガラス繊維20%入り、三菱エンジアリングプラスチックス製ノバミッド1013GH20)およびポリカーボネート(ガラス繊維20%入り、三菱エンジアリングプラスチックス製GS2020MR2)を成形樹脂として用いて、それぞれを250℃および350℃に加温して金型73へ射出充填した。インサート成形により形成された樹脂成形品5の表面は、元のシート10の表面粗さよりも金型73の鏡面の表面粗さに近くなっており、平滑化して光沢感が向上した。これは、金型73へ射出充填された高温の溶融樹脂が、金型73に接したシート10に接触し、この接触によりシート10が溶解し、さらにその後に溶融樹脂とともにシート10が金型73の形状に固化されたためである。
【0098】
また、本実施例では、実施例1と同様に上述したアルコール含有した常圧の無電解めっき法(図15)により、樹脂成形品5の表面にニッケルリンめっき膜3を1μmの厚さで形成した。また、さらに公知の装飾めっきを実施した。具体的には、光沢剤の入った電解Cuめっきを40μmの厚さに形成し、半光沢電解Niめっきを10μmの厚さに形成し、光沢Niめっきを10μmの厚さに形成し、さらに、Crめっきを0.5μmの厚さに形成した。本装飾めっき成形品5は、成形樹脂がガラス繊維入りで表面性が得にくい材料であるにもかかわらず、ABSを用いためっき品と遜色ない光沢性が得られた。
【0099】
そして、本実施例の成形品5について、−40℃の環境下に1時間保持することと、および100℃の環境下に1時間保持することを繰り返すヒートショック試験を行った。その結果、本実施例の成形品5では、インサート成形に使用したシート10の厚みが90μmまたは200μmであっても、20サイクルの試験の後において金属膜3の膨れ、クラックは発生しなかった。
【0100】
また、本実施例の成形品5は、ガラス繊維で強化したナイロン6とポリカーボネートとを成形樹脂に使用している。このように熱膨張係数をガラス繊維により抑制したナイロン6にポリカーボネートを組み合わせて使用することで、金属膜3の熱膨張係数と樹脂の熱膨張係数との差に起因して発生し且つ熱衝撃時に金属膜3と樹脂との界面において発生する内部応力を抑えて、めっき膜3の剥離を回避できた。
【実施例3】
【0101】
本実施例では、ナイロン6層およびポリプロピレン層(PP層)を120μmの厚さの2層化されたシート10を用い、上述した高圧二酸化炭素を用いたバッチ法(図2、図3)にてこのシート10に金属微粒子を浸透させた。
【0102】
また、本実施例では、金属微粒子を浸透させた2層のシート10を用いて、上述したプリフォーム法を用いたインサート成形法(図5、図6、図7)により、箱型形状の樹脂成形品5を形成した。なお、シート10は、ナイロン6の層が金型73に接触した状態で金型73に配設した。成形樹脂には、ポリプロピレン(日本ポリプロ製ノバテックMA3H)を用いた。PPは安価で最も汎用性の高い樹脂材料であるが耐薬品性に優れ且つ吸水性も低いため、それだけで樹脂成形品5を形成した場合には常圧下の無電解メッキ処理により密着力の高いめっき膜3を形成できない。
【0103】
また、本実施例では、実施例2と同様に上述したアルコール含有した常圧の無電解めっき法(図15)により、樹脂成形品5の表面にニッケルリンめっき膜3を1μmの厚さで形成し、さらに公知の装飾めっきを実施した。
【0104】
そして、本実施例の成形品5について、ABSの自動車部品用めっき規格に準じて、−40℃の環境下に1時間保持することと、および80℃の環境下に1時間保持することを3回繰り返すヒートサイクル試験を行った。その結果、本実施例の成形品5においては、インサートしたシート10やめっき膜3が剥離、膨れることはなかった。たとえばインサートしたシート10のエッジ部において剥離や膨れが生じなかった。
【0105】
また、本発明のインサート成形方法によれば、表層に強固なめっき膜3が形成できるポリアミド層を有するシート10をインサート成形し、しかも、そのシート10の裏面のPP層と成形樹脂のPPとが一体化できるので、めっきが困難で安価なPP成形品5に従来のABSと同等のめっき膜3を形成できる。なお、金型73に対してめっき用シート10を部分的に設置することで、樹脂成形品5に対してマスキング処理などをすることなく、樹脂成形品5に対する部分めっきが可能となる。
【実施例4】
【0106】
本実施例では、上述した高圧二酸化炭素を用いた押し出し法(図4)を用いて、金属微粒子を浸透させたナイロン6製のシート10を形成した。シート10は50μmの厚さに形成した。
【0107】
また、本実施例では、金属微粒子を浸透させたシート10を用いて、実施例1と同様に上述した直接成形法を用いたインサート成形法(図8〜図14)により、ミラー形状の樹脂成形品5を形成した。
【0108】
また、本実施例では、上述した常圧の無電解めっき法(図15)により、樹脂成形品5の表面にニッケルリンめっき膜3を1μmの厚さで形成し、さらにニッケルリンめっき膜3の上に実施例1と同様のメッキ膜および保護膜を重ねた。
【0109】
そして、実施例1と同様に、高温多湿環境試験の前後の反射特性を評価した。本実施例のように押し出し成形法により金属微粒子を浸透させたポリアミドシート10を形成した場合でも、実施例1と同様に耐候性や反射特性に優れたプラスチックミラーが得られたことを確認できた。
【実施例5】
【0110】
本実施例では、25μmの厚さのナイロン6製のシート10を準備し、実施例1と同様に上述した高圧二酸化炭素を用いたバッチ法(図2、図3)を用いてこのシート10に金属微粒子を浸透させた。
【0111】
また、本実施例では、実施例1と同様に、上述した高圧二酸化炭素を用いた直接成形法を用いたインサート成形法(図8〜図14)により、箱型の樹脂成形品5を形成した。
【0112】
その後、樹脂成形品5の表面に金属膜3が部分的に形成されるように、本実施例では、図16〜図18に示すように、金型73内にシート10を部分的に設置して成形するとともに、樹脂成形品5にレーザ光を照射して、樹脂成形品5の表面にナイロン6の層6が部分的に形成されるようにした。
【0113】
具体的には、まず、金属微粒子の分散したポリアミドシート10をラフパターンにカットして、金型73に固定化する。シート10の表面に金型73への接着層を設けたり、金型73表面にシート10を固定化する凹部を設けることなどの工夫により、ミリメートル〜センチメートルのオーダーの幅でシート10を金型73に固定できる。本実施例では、まず、最小線幅が2cmとなるようにカットされたシート10を固定治具81に仮固定し、その後、固定治具81を金型73に押し当てた状態で金型73および真空吸引溝76から真空吸引をして、シート10を金型73に転移させた。
【0114】
その後、実施例1と同様な成形方法により、ポリフタルアミド樹脂を用いてインサート成形した。これにより、図16に示すように、ポリフタルアミド樹脂による成形品本体5の表面に、ポリアミドシート10が部分的に一体化した樹脂成形品5が得られる。
【0115】
その後、図17に示すように、樹脂成形品の表面のポリフタルアミド樹脂製のシート10に対して、CO2レーザ光91を照射してレーザ描画した。これにより、樹脂成形品5の表面には、ポリフタルアミド樹脂製のシート10についてレーザ光が照射されなかった部分が残存する。また、残存したシートの線幅(パターン線幅)は、0.4mmであった。
【0116】
次に、本実施例では、上述したアルコール含有した常圧の無電解めっき法により、樹脂成形品5の表面にニッケルリンめっき膜3を1μmの厚さで形成し、さらにアルコールを含有しない常圧の無電解ニッケル/銅合金めっき液を用いて金属膜を15μmの厚さで形成し、アルコールを含有しない常圧のニッケルリンめっき液を用いて金属膜を5μmの厚さで形成し、且つ、Au置換めっきにより金属膜を0.5μmの厚さで形成した。これにより、図18に示すように、残存する樹脂シート10の表面に金属膜3が形成される。
【0117】
これにより、樹脂成形品5の表面に、たとえば図19に示すような電気回路パターン2を部分的に形成できた。なお、図19は、上述した一連のメッキ処理の中の、ニッケルリンめっき後の状態での電気回路パターン2である。
【0118】
また、本実施例の樹脂成形品5について、温度260℃にて10分間アニール処理したところ、電気回路パターン(選択めっき部分)2に膨れや剥離は認められなかった。このように、本実施例の樹脂成形品5は温度260℃での10分間のアニール処理に耐えられるので、ハンドリフロー耐性に問題がない。
【実施例6】
【0119】
本実施例では、250および300μmの厚さのナイロン6製のシートを用いて、実施例2と同じバッチ方法(図2、図3)およびプリフォーム法(図5、図6、図7)で金属膜3を有する樹脂成形品5を形成した。また、インサート成形時に使用する成形樹脂には、実施例2のガラス繊維入りナイロン6を用いた。
【0120】
そして、インサート成形により形成された樹脂成形品5の表面は、実施例2の成形品5とは異なり、シート10の表面性と同等であった。これは、シート10の厚さが増したことにより、インサート成形時にシート10が十分に溶融せず、その結果として金型73に密着しなかったためであると考えられる。特に、ポリアミドは結晶性樹脂で融点が200℃以上と高いため、ガラス転移温度以上で軟化するポリカーボネート等に比べて軟化溶融し難い。その結果、ポリアミドは、射出成形時にシート10の樹脂と完全に一体化しにくい。この結果から、成形品5の表面性を金型73の表面性に近づけるためには、実施例2のようにシート10を薄肉化することが必要であることが解る。
【0121】
また、本実施例では、実施例2と同様に上述したアルコール含有した常圧の無電解めっき法(図15)により、樹脂成形品5の表面にニッケルリンめっき膜3を1μmの厚さで形成し、且つ公知の装飾めっきを実施した。
【0122】
そして、本実施例の成形品5について実施例2と同様なヒートショック試験を行ったところ、数サイクルの後にめっき膜3に膨れが発生した。剥離部分の断面構造を電子顕微鏡で観察したところ、シート10とめっき膜3との界面において剥離は認められず、成形品5の内部のポリアミド樹脂部分が引き伸ばされて破断していた。線膨張係数の大きいナイロン6樹脂シート10が熱膨張したときに、ポリアミド樹脂部分が熱衝撃に耐えられなくなったと推察される。
【0123】
このように下地樹脂材料の物性を生かし、かつ成形品5の表面平滑性を両立させるためには、本発明のポリアミドシート10の厚みは250μm未満であることが望ましい。なお、ポリアミドシート10の厚さが10μm以下になると、シート10の成形が困難になる。これらの結果により、望ましいシート厚みは10〜200μmとなる。
【実施例7】
【0124】
本実施例では、無電解めっき液に混合するアルコールとして1−エトキシー2−プロパノールを用いた以外は、実施例2と同様の方法で金属膜を有する樹脂成形品5を得た。
【0125】
そして、本実施例の成形品5は、実施例2の成形品と同様にヒートッショクに強く、且つ表面性が良好であった。
【実施例8】
【0126】
本実施例では、シート10の材料として芳香族ナイロンであるポリフタルアミド(ナイロン6T)を用い、且つシート厚みを100μmとした以外は、実施例1と同様の方法で金属膜3を有する樹脂成形品5を得た。
【0127】
そして、本実施例の成形品5は、実施例1の成形品5と同様に密着性および耐候性に優れた反射膜が得られた。
【0128】
[比較例1]
本比較例では、ナイロン6のシート10の厚みを25,40μmとした以外は、実施例2と同様の方法で金属膜3を有する樹脂成形品5を得ることを試みた。
【0129】
しかしながら、プリフォームしたシート10の一部が破損してしまい、成形樹脂の充填硬化中にシート10を適切に金型73へ固定できなかった。このように、40μm以下の薄いシート10をプリフォームした場合、シート10を金型73に適切に固定できなかった。
【0130】
なお、実施例4、5では25,50μmの厚さのナイロン6のシート10を使用しているが、直接成形法によりシート10を金型に固定できた。直接成形法に適したシート膜厚の範囲は樹脂材料により強度が異なり、また形状によりシートの延伸量が異なるので任意であるが、ナイロン6の場合にはシート10の膜厚が10〜90μmであるとき直接成形法によりシート10を金型73に適切に固定できた。また、ナイロン6の場合、シート10の膜厚が25μmから40μmのときにはプリフォーム法でシートを射出成形の金型に挿入できる形状に成形できなかった。
【0131】
[比較例2]
本比較例では、シート10の厚さを200μmとするとともに、常圧下での無電解メッキに使用する無電解めっき液にアルコールを含めなかった以外は、実施例1と同様の方法で金属膜3を有する樹脂成形品5を得た。
【0132】
そして、実施例2と同様にヒートショック試験を行ったところ、本比較例のめっき成形品5では、1サイクルのヒートショックによりめっき膜3が膨れた。このことから、常圧下での無電解メッキにより形成した金属膜3の密着性を高めるためには、無電解めっき液にアルコールを添加する必要があることが判った。
【0133】
[比較例3]
本比較例では、樹脂シート10として厚み100μmのポリカーボネートシートを用いるとともに、成形樹脂としてガラス繊維入りのポリカーボネート樹脂を用いた以外は、実施例2と同様の方法で金属膜3を有する樹脂成形品5を得た。
【0134】
そして、実施例2と同様にヒートショック試験を行ったところ、本比較例のめっき成形品5では、1サイクルのヒートショックによりめっき膜3の一部が剥離した。詳しく調べたところ、めっき膜3が樹脂成形品5の内部から成長してないことが判った。これは、シート5の材料に吸水性の低い樹脂を用いたため、アルコールを含有した無電解めっきを実施しても、めっき膜3が樹脂成形品5の内部へ浸透できなかったことが原因と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明の金属膜を有する樹脂成形品の製造方法では、常圧の無電解めっき液を用いた安価な処理により、樹脂成形品の材料などにかかわらず汎用的に、高い密着性を有する金属膜を樹脂成形品に形成できる。また、本発明ではさらに、樹脂成形品に対して所望のパターンで金属膜を形成できる。したがって、本発明の製造方法は、耐熱性および耐久性が要求される自動車のヘッドランプユニットやそのリフレクターを成形する場合、高い反射率特性が要求される光学部品のミラーなどを成形する場合、装飾めっき等の耐久性が要求される成形品を成形する場合、樹脂成形品の表面に電気回路を形成するMIDや電磁シールド成形体を成形する場合などに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】図1は、金属膜を有する樹脂成形品の製造方法を示す工程図である。
【図2】図2は、金属微粒子を樹脂シートに浸透させるためのバッチ装置の概略構成図である。
【図3】図3は、図1中の高圧容器に収容される樹脂シートを示す斜視図である。
【図4】図4は、金属微粒子を浸透させた樹脂シートを形成するための押出し成形装置の概略構成図である。
【図5】図5は、金型に樹脂シートがプリフォームされた状態における射出成形装置の部分断面図である。
【図6】図6は、金型に成形樹脂が射出充填された状態における射出成形装置の部分断面図である。
【図7】図7(A)〜(D)は、プリフォーム工程の説明図である。
【図8】図8は、固定化治具を用いて樹脂シートを直接成形する工程の説明図である。(A)は位置決め状態であり、(B)は成形中の状態である。
【図9】図9は、樹脂シートが張り付いた固定化治具を、可動金型に位置決めした状態における射出成形装置の部分断面図である。
【図10】図10は、樹脂シートを固定化治具と可動金型とで挟み込んだ状態における射出成形装置の部分断面図である。
【図11】図11は、樹脂シートを可動金型に密着させた状態における射出成形装置の部分断面図である。
【図12】図12は、金型へ成形樹脂を射出充填した状態における射出成形装置の部分断面図である。
【図13】図13は、射出成形装置により形成された樹脂成形品の断面図である。
【図14】図14は、リフレクター形状の樹脂成形品の断面図である。
【図15】図15は、金属膜を有するリフレクター形状の樹脂成形品の断面図である。
【図16】図16は、樹脂シートが部分的に配設された樹脂成形品の部分断面図である。
【図17】図17は、樹脂シートが部分的に配設された樹脂成形品に対して、レーザ描画をしている状態での樹脂成形品の部分断面図である。
【図18】図18は、金属膜が形成された樹脂成形品の部分断面図である。
【図19】図19は、金属膜による電気回路パターンが形成された樹脂成形品の部分拡大図である。
【符号の説明】
【0137】
3 金属膜
5 樹脂成形品
10 樹脂シート
11 高圧容器
73 金型(射出成形用の金型)
79 金型(プリフォーム用の金型)
91 レーザ光
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属膜を有する樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用ヘッドランプユニットのリフレクター等の光反射体を、樹脂材料で形成する試みがなされている。この場合、樹脂成形品の表面に金属膜を形成する必要がある。このような試みでは、同時に、熱硬化性樹脂に替えて、量産性に優れたポリエステル樹脂やポリカーボネート樹脂等の熱可塑性樹脂を利用して形成する試みもなされている。ヘッドランプユニット内の温度はランプの発熱により上昇するため、リフレクターには、160℃〜180℃の温度でも金属反射膜の剥離などが生じることがない耐熱性が必要とされる。
【0003】
樹脂成形品に金属反射膜を形成する方法には、プラズマ活性化処理により成形品の表面を活性化した後に金属を蒸着させる方法(ダイレクト蒸着法)がある。しかしながら、この方法でヘッドランプユニット、ヘッドランプ用リフレクターの基材などの樹脂成形品に金属膜を形成した場合、樹脂成形品が高温環境下に長時間さらされることになるので、基材ポリマーから金属膜が剥離して、金属膜が曇ってしまうという問題があった。金属膜が剥離する原因としては、たとえば、基材ポリマーの熱膨張や変形、ポリマー内での加熱分解ガスの発生などが考えられる。
【0004】
基材ポリマー内での加熱分解ガスの発生を抑制する方法として、例えば、樹脂成分を改良する手法が開示されている(特許文献1)。そして、この特許文献1の樹脂組成物では、末端カルボキシル基量を特定量以下とすることにより、基材ポリマー内での熱分解ガスの発生を抑えている。しかしながら、特許文献1の樹脂成分には、離型材が含まれていない。そのため、特許文献1の組成の樹脂を用いてたとえばヘッドランプユニット、ヘッドランプ用リフレクターなどの大型で複雑な(又は高精度な)三次元形状の成形品を成形した場合、離型不良が生じて成形品を所望の形状に形成できない。なお、特許文献2には、樹脂成分の離型剤を改善することで、樹脂成形品の離型性を改善する手法が開示されている。
【0005】
金属膜を有する樹脂成形品には、上述した自動車用ヘッドランプユニットやリフレクターの他にもたとえば、レーザビームプリンターや複写機等での光走査に用いるfθミラー、プロジェクションテレビの光路折曲に用いる大型ミラーなどがある。従来、これらのプラスチックミラーでは、成形金型の高精度な鏡面を樹脂成形品の表面へ転写し、その樹脂成形品の表面に蒸着等によって金属反射膜を形成していた。
【0006】
しかしながら、蒸着等によって金属反射膜を形成した場合、蒸着装置が高価であるために設備費用が嵩んでいた。特に、大面積の成形品を形成する場合、1バッチ(1回の蒸着処理)で形成できる成形品の個数が少なくなるため、生産性が悪く、量産性を確保するためには高価な蒸着装置を複数台使用する必要があった。
【0007】
従来、この蒸着法のコスト問題を克服するために代替方法が開示されている。1つの代替方法は、成形金型内に金属シートを設置した後、成形金型へ熱可塑性樹脂を射出充填する方法である(特許文献3)。この金属シートをインサート成形する方法では、金型内で金属シートと熱可塑性樹脂とを一体化できるので、成形後の蒸着処理が不要になる。しかしながら、この方法では、反射面として機能させる金属シートの反射率が低くなる。しかも、反射面として機能させる金属シートは金型に密着させられることによって所望のミラー形状に形成されるので、金型内で真空吸引して金属シートを金型に密着させる処理を実施したとしても、自由曲面などの複雑な三次元形状の金型に対して金属シートを適切に密着させる(トレースさせる)ことが困難であった。そのため、この代替方法で得られたプラスチックミラーの品質は、蒸着法で得られたものより劣った。
【0008】
さらに別の代替方法として、樹脂フィルムにアルミ、銀といった金属反射膜を蒸着した金属反射フィルムを、金属シートの替わりにインサート成形に用いる方法がある(特許文献4)。金属シートの替わりに金属反射フィルムを用いることで、金属シートを使用した場合と比べて反射面の反射率を高くできる。しかしながら、金属シートの替わりに金属反射フィルムを用いたとしても、自由曲面などの複雑な三次元形状の金型に対して適切に金属反射フィルムを密着させる(トレースさせる)ことは困難であった。また、成形品の形状がたとえば自由曲面のように複雑な形状である場合、成形時に蒸着フィルムを曲面状に変形させる過程においてフィルムに過大な張力が作用して、フィルムに蒸着させた金属反射膜に亀裂が生じることもあった。この現象は、蒸着等によりフィルム上に形成した金属膜での金属の結合力が、金属シートでの金属の結合力と比べて弱いことに起因する。
【0009】
なお、金属反射フィルムの金属膜の亀裂を避けるために、特許文献5のように成形後の樹脂成形品に対して金属反射フィルムを加熱圧着(プレス)することも考えられるが、この場合でも金属反射フィルムを所望の形状に変形させることには変わりがないので、加熱圧着(プレス)時に金属膜に亀裂が発生しないことを保障しきれない。しかも、射出成形後に別工程として加熱圧着(プレス)工程が必要になるので、上述した2つの代替方法より量産性が低下する。
【0010】
ところで、上述した蒸着法や代替方法の他にも、無電解メッキ法を用いて樹脂成形品に金属膜を形成することができる。無電解メッキ法は、成形品を無電解メッキ液に浸漬させるので、蒸着法に比べて安価に金属膜を形成できる。しかも、樹脂成形品の形状が自由曲面などの複雑な形状であったとしても、その複雑な形状の表面に金属膜を形成できる。
【0011】
しかしながら、無電解メッキ法では、メッキ処理前に樹脂成形品の表面をクロム酸等のエッチング液で粗化する必要があるため、使用可能な樹脂が、エッチング液で浸漬可能なABS樹脂などに限られる。なお、ポリカーボネートなどのその他の材料でも無電解メッキが可能なグレードの材料が市販されているが、これらの材料はポリカーボネートなどにABSやエラストマーを混合したものである。そして、これらの材料で成形品を得たとしても、リフレクターで要求される耐熱性やミラーで要求される反射性能を得ることができなかった。
【0012】
また、本発明者らは、無電解メッキ法を改良して、樹脂成形品に金属膜を形成するための別の方法を提案した(特許文献6)。この独自の方法では、まず、金属錯体等の金属微粒子を超臨界流体等の二酸化炭素に溶解させ、この金属微粒子および超臨界流体を射出成形中の金型内へ導入することで、樹脂成形品の表面に無電解メッキの触媒核を偏析させる。次いで、樹脂成形品を無電解メッキ液に浸漬させる。このように射出成形方法で製造した樹脂成形品の表面に無電解メッキの触媒核を付与しているため、エッチング前処理をすることなく無電解メッキが可能である。また、樹脂成形品の樹脂材料としてエッチング液で浸漬されない材料を使用しても、無電解メッキが可能である。
【0013】
発明者らは、この他の方法も提案した(特許文献7)。他の方法では、まず、金属錯体等の金属微粒子を超臨界流体等の二酸化炭素に溶解させ、この金属微粒子および超臨界流体を押出成形中の樹脂シートに接触させることで、金属微粒子が分散した樹脂シ−トを作製する。次いで、該樹脂シートをインサート成形して、樹脂成形品の表面に無電解メッキの触媒核を偏析させる。さらに、樹脂成形品を無電解メッキ液に浸漬させる。この方法でも、射出成形方法で製造した樹脂成形品の表面に無電解メッキの触媒核を付与しているため、エッチング前処理をすることなく無電解メッキが可能であり、且つ、エッチング液で浸漬されない材料を使用しても、無電解メッキが可能である。
【0014】
しかしながら、特許文献6および7の方法で製造された樹脂成形品に対して、無電解メッキを常圧環境下で実施した場合、樹脂成形品の表面の触媒核からメッキが成長してしまい、樹脂成形品に対して高い密着性を有する金属膜を形成できなかった。高い密着性を有する金属膜を形成するためには、無電解メッキ液に超臨界二酸化炭素を混合する必要があった。そして、超臨界二酸化炭素を使用するため、高圧容器などの高価な装置が必要であった。
【0015】
なお、絵柄がインキにより印刷された樹脂製シートをプリフォームして成形時の金型内へ装着したり、インサート成形したりすることで加飾成形する方法(特許文献8)が知られているが、絵柄の印刷状態を維持するためには、印刷済みのシートを成形時に大きく屈曲させないようにする必要がある。また、プリフォーム時あるいは成形時に印刷済みのシート全体を溶解させてしまうと、印刷がきれいに残らない。
【0016】
【特許文献1】特開2000−35509号公報
【特許文献2】特開2005−97563号公報
【特許文献3】特開平5−315829号公報
【特許文献4】特開平3−82513号公報
【特許文献5】特開2004−148638号公報
【特許文献6】特許3866102号公報
【特許文献7】特許3914961号公報
【特許文献8】特開平7−156197号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
以上のように、樹脂成形品に対して金属膜を形成するためにダイレクト蒸着法や蒸着法を採用した場合には、蒸着装置が高価であるために生産コストが嵩んだ。しかも、ダイレクト蒸着法で形成した金属膜は、成形品を加熱環境下で使用する場合に剥離した。また、金属シートまたは金属反射フィルムと樹脂とを一体成形する代替方法では、自由曲面などの複雑で且つ高い表面精度が要求される金属膜を形成できなかった。また、無電解メッキ法では、表面粗化のエッチング前処理のために使用可能な樹脂材料が制限されてしまったり、超臨界二酸化炭素を併用して使用可能な樹脂材料を増やして汎用性を得たとしても高価な高圧容器などを使用しなければ高い密着性を有する金属膜を形成できなかった。
【0018】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、常圧の無電解めっき液を用いた安価な処理により、樹脂成形品の材料などにかかわらず汎用的に、高い密着性を有する金属膜を樹脂成形品に形成できる製造方法を得ることにある。また、本発明はさらに、樹脂成形品に対して所望のパターンで金属膜を形成できる製造方法を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の態様によれば、金属膜を有する樹脂成形品の製造方法であって、少なくとも一方の表面が、金属微粒子を分散させたポリアミド系樹脂から形成されている樹脂シートを、上記樹脂成形品を成形する金型内に、上記ポリアミド系樹脂が上記金型と接した状態で設置することと、上記樹脂シートが設置された上記金型内に溶融樹脂を充填して、上記樹脂シートと上記溶融樹脂とが一体化してなる上記樹脂成形品を成形することと、アルコールを含有した無電解めっき液に上記樹脂成形品を常圧下で浸漬させることとを含む製造方法が提供される。
【0020】
この態様では、金属微粒子を分散させたポリアミド系樹脂が表面となるように樹脂シートと溶融樹脂とを一体化して樹脂成形品を形成し、さらにこの樹脂成形品を無電解めっき液に浸漬させることで、ポリアミド系樹脂に分散させた金属微粒子からメッキを成長させて、樹脂成形品に金属膜を形成できる。
【0021】
しかも、ポリアミドは吸水性が高くてめっき液が浸透するので、親水性のポリアミド系樹脂に分散させた金属微粒子からメッキを成長させることができる。そのため、樹脂成形品を構成する溶融樹脂の材料に関係なく汎用的に、樹脂成形品に金属膜を形成できる。たとえば、溶融樹脂として、無電解めっき液で金属膜を形成できない疎水性の樹脂材料を用いたとしても、この疎水性の樹脂材料で構成された樹脂成形品に対して金属膜を形成できる。
【0022】
本態様において、無電解めっきの方法、無電解めっき液の種類などは任意であるが、たとえば、公知の銅めっき、ニッケルリンめっき、リッケル−ホウ素めっき、コバルトめっき、パラジウムめっきなどを用いることができる。その中でも、ニッケルリンめっきでは、金属膜の密着性が高くなるので望ましい。
【0023】
ところで、無電解めっき液にアルコールを混ぜるとめっきの反応速度が遅くなる。この理由は定かでないか、恐らく硫酸ニッケル等の金属イオンが水分子に溶けている周囲を金属イオンを溶解させないアルコールがとりまいているため、金属イオンが還元しにくくなるためと推定される。また、アルコールを添加すると金属イオンが析出する等、めっき浴が不安定になるので、通常は無電解めっき液にアルコールを混ぜることはしない。しかしながら、この方法では敢えて無電解めっき液にアルコールを混ぜる。これによりメッキ成長を遅らせて、親水性のポリアミド系樹脂に無電解めっき液を深く浸透させ、樹脂シートの内部の金属微粒子からメッキを成長させることができる。その結果、樹脂成形品(樹脂シート)の内部から成長した金属膜を形成することができ、アルコールを使用しないために樹脂成形品(樹脂シート)の表面(最表面)の金属微粒子からメッキが成長した場合に比べて、樹脂成形品と金属膜との密着強度を格段に高くできる。また、このように無電解めっき液にアルコールを混ぜることにより、たとえば無電解めっき液、樹脂成形品などに対して高圧を加えることなく高い密着性を有する金属膜を形成できるので、常圧下で無電解めっき処理を実施して高い密着性を有する金属膜を安価に形成できる。
【0024】
本態様において無電解めっき液と混合させるアルコールは任意であるが、ポリアミド系樹脂に浸透しやすいという観点から表面張力が低いアルコールが望ましい。アルコールの表面張力は少なくとも水の値(73dyn/cm、20℃)よりも小さいことが望ましく、より望ましくは20℃のときの表面張力が50dyn/cm以下である。このようなアルコールとしては、例えば、エタノール(22.3dyn/cm)、2プロパノール(23.8dyn/cm)、エチレングリコール(46.5dyn/cm)、2−メトキシエタノール(31.8dyn/cm)、2−エトキシエタノール(28.2dyn/cm)、1−メトキシー2−プロパノール(27.1dyn/cm)、1−エトキシー2−プロパノール(25.9dyn/cm)、1,3−ブタンジオール(37.8dyn/cm)、tert−ブチルアルコール(19.45dyn/cm)、2(2−メトキシプロポキシ)プロパノール(28.8dyn/cm)などがある。
【0025】
また、めっき液と混合させて高温度(メッキ反応温度)に熱するという観点からは、アルコールの引火点および沸点がめっき処理温度よりも高いことが望ましい。無電解ニッケルリンめっきの場合、めっき温度が60〜90℃程度なので、沸点が60℃且つ引火点が40℃以上のアルコールが望ましい。そして、表面張力が低く且つこの温度条件を満たすアルコールとしては、たとえば、1,3−ブタンジオール(沸点:207.5℃、引火点:121℃)、2−メトキシエタノール(沸点:124.6℃、引火点:43℃)、1−エトキシー2−プロパノール(沸点:132.2℃、引火点:43℃)、2(2−メトキシプロポキシ)プロパノール(沸点:190.0℃、引火点:74℃)などがある。
【0026】
なお、めっき液におけるアルコールの混合量は任意であるが、20vol%以上且つ60vol%以下の混合量が望ましい。アルコールの混合量が20vol%より少ないと、ポリアミド系樹脂に対するめっき液の高い浸透性が得られなくなる。また、60vol%より多いと、アルコールとめっき液とが分離し易くなるからである。
【0027】
このように本態様では、金属微粒子を分散させたポリアミド系樹脂から形成されている樹脂シートを用いて樹脂成形品自体に無電解メッキの触媒核となる金属微粒子を分散させた後、常圧下で樹脂成形品の無電解メッキを実施するので、成形品の溶融樹脂(樹脂材料)および形状に関係なく汎用的に、成形品に対して金属膜を形成できる。しかも、金属膜は樹脂成形品の内部から成長して高いアンカリング効果を得られるので、高い密着性を有する。したがって、耐熱性および耐久性が要求される自動車のヘッドランプユニットやそのリフレクターを成形する場合、高い反射率特性や自由曲面などの複雑な形状が要求される光学部品のミラーなどを成形する場合、装飾めっき等の耐久性が要求される成形品を成形する場合、樹脂成形品の表面に電気回路を形成するMID(Molded Interconnect Device:立体成形回路部品)や電磁シールド成形体を成形する場合などに好適に利用できる。
【0028】
しかも、本態様の製造方法では、蒸着等のドライプロセスや高圧容器などを用いずに金属膜を形成するので、金属膜を有する樹脂成形品を安価なプロセスで製造できる。また、樹脂成形品を成形した後に無電解メッキ液に常圧下で浸漬するだけなので、成形品が大面積で及び/又は複雑な形状を有していたとしても、高い密着性の金属膜を有する樹脂成形品を大量生産できる。
【0029】
なお、本態様では、ポリアミド樹脂を表面に有する樹脂成形品をアルコール含有めっき液に浸漬する前に、還元剤が溶解した水溶液に樹脂成形品を浸漬させてもよい。この無電解メッキの前処理により、樹脂成形品の表面に形成されて且つ触媒核が付与されたポリアミド系樹脂に対してめっき液が浸透し易くなる。また、ポリアミド系樹脂の内部でのめっき反応性を高めることができる。そのため、めっき膜の密着性がより高まる。この理由として、水分子に溶解した還元剤はポリアミド表面には存在しにくく、めっき処理までの短時間の間にポリアミド内部に存在すると推定される。そのため、表面よりもポリアミド内部でめっきの還元反応がおきやすくなるためと考えられる。この前処理に使用する還元剤としては、めっきに用いることのできる還元剤が望ましく、たとえば次亜燐酸、次亜燐酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、ホルマリン、ヒドラジン、ジメチルアミンボランなどが望ましい。特にニッケルリンめっきを実施する場合には、前処理の還元剤として、次亜燐酸または次亜燐酸ナトリウムが望ましい。
【0030】
また、本態様で使用する樹脂シートは、少なくとも一方の表面が、金属微粒子を分散させたポリアミド系樹脂から形成されているものであればよく、たとえば、ポリアミド系樹脂の1層で形成されたシートであっても、ポリアミド系樹脂の層とその他の樹脂の層とが重なったシートであってもよい。特に、上記樹脂シートの他方の表面が、上記ポリアミド系樹脂とは異なる樹脂であって且つ上記金型内へ充填される上記溶融樹脂と溶融接着する樹脂から形成されていてもよい。例えば極性の高いポリアミド系樹脂と密着性の低い非極性材料の樹脂とを重ねた樹脂シートでは、金型に充填される溶融樹脂と相溶しやすい樹脂により樹脂シートの他方の表面(接着面)を形成できるので、金型内で充填樹脂と樹脂シートとをより強固に一体化できる。この他にも、多層共押し出し成形法によりポリアミド系樹脂シートと他方の表面の樹脂シートとを貼り合わせて、これらの樹脂シートの間に互いの樹脂の相溶性を高める接着層(樹脂成分)を含む樹脂シートでもよい。また、金型に充填される溶融樹脂と樹脂シートとの密着性を高めるために、樹脂シートの他方の表面(接着面)に、UV処理、コロナ放電処理、プラズマ処理などで官能基を付与した樹脂シートでもよい。なお、樹脂シートは、押し出し成形で成形されても、キャスト法で成形されてもよい。また、樹脂シートは、金型内の熱風で半溶融させて金型に貼り付ける場合があるので、非延伸で且つ屈曲性に富むシートが望ましい。
【0031】
樹脂シートのポリアミド系樹脂の種類は任意であり、たとえばナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン46、ナイロン11、ナイロン12、ナイロンMXD6、ナイロン6T、ナイロン9T、アラミド樹脂などでよい。この中でも、コストの観点および製造および取り扱いのし易さの観点から、ナイロン6(融点225℃)またはナイロン66(融点265℃)が望ましい。
【0032】
また、金属微粒子は、無電解メッキの触媒核として機能すればよく、たとえばパラジウム錯体、パラジウム錯体の変性物およびパラジウム金属微粒子から選択された少なくとも1つの微粒子であればよい。
【0033】
そして、上記樹脂シートは10〜200μmの厚さでもよい。樹脂シートが10μmより薄くなると、充填樹脂が接触した際に樹脂シートが部分的に破けやすくなり、品質が安定しなくなり、量産性が損なわれる。また、樹脂シートを200μm以下の薄さにすると、金型に樹脂シートを設置した状態で金型内へ溶融した熱可塑性樹脂を充填することで、樹脂シートが全体的に溶融し且つ冷却後に充填された樹脂と一体化できる。なお、充填される樹脂の温度は、たとえばポリアミド樹脂の軟化温度である200℃以上、より好ましくは230℃以上にすることが望ましい。
【0034】
また、樹脂シートを200μm以下の薄さにすると、樹脂シートが容易に変形して金型に密着できるので、金型から樹脂シートが浮いたり、金型内に溶融樹脂を充填する際にその浮いた部分が破断したりし難くなる。その結果、金型の形状に基づく形状の樹脂成形品を量産できる。たとえば金型の形状が自由曲面などの複雑であっても、その複雑な形状を転写した形状の樹脂成形品を量産できる。しかも、その複雑な形状の樹脂成形品の表面は、金属微粒子を分散させたポリアミド系樹脂で構成されているので、アルコールを含む常圧の無電解メッキにより金属膜を形成でき、複雑な形状の樹脂成形品に対して高い密着性を有する金属膜を安価に形成できる。
【0035】
なお、本態様で製造した樹脂成形品として、めっきによる金属膜と密着できるポリアミド系樹脂の表面と、ポリアミドよりも熱膨張係数や吸水性の低い樹脂から形成されている内部とを有する樹脂成形品を形成できる。このような樹脂構造では、ポリアミド系樹脂を含む樹脂シートを200μm以下の薄さにすることで、ポリアミド系樹脂の熱や水分による寸法変化を抑制できる。そのため、ポリアミド系樹脂のみで樹脂成形品を形成した場合に比べて、熱衝撃による金属めっき膜の剥離やクラックの発生を抑制でき、しかも、吸湿による寸法変化に起因した金属膜の光学特性の変化を抑制できる。
【0036】
特に、上記樹脂シートが10〜150μmの厚さである場合、上記金型内に上記溶融樹脂を充填する前に、上記金型内に設置した上記樹脂シートを加熱、加圧、真空吸引のいずれか1つの方法により上記樹脂シートを上記金型に密着させることを含んでもよい。例えば、上記金型内に設置した上記樹脂シートを加熱することは、上記金型内に設置した上記樹脂シートに対して熱風を当てることによりなされればよい。あるいは、金型温度がある程度高いか、加圧力が高ければ、加圧エアー、N2等の加圧ガスをシートに吹き付けることで、シートを金型表面にトレースさせることができる。あるいは、短時間の間に真空吸引することで、薄いシートを金型に密着させることができる。これら方法を複合的に採用してもよい。
【0037】
150μm以下の厚さの樹脂シートは熱で軟化し易いので、金型内で熱風を当てることで、ブロー成形のように樹脂シートを金型表面に薄い皮膜として固着させることができる。また、樹脂シートは金型と隙間無く密着する。したがって、樹脂シートが金型に隙間無く密着した状態で金型内へ溶融樹脂を充填できるので、樹脂シートの破損などを防止しつつ、金型を転写した形状の樹脂成形品を成形できる。しかも、樹脂シートは熱風を用いて金型内で成形されるので、金型に入れる前に樹脂シートを成形する必要が無く(プリフォームの必要が無く)、しかも、樹脂シートを金型の形状に合わせて精度良く成形できる。また、樹脂シートが150μm以下の薄さになると、樹脂成形品において金型に充填した樹脂の物性がより強調されるようになるので、金型に充填する樹脂の選択により成形品の機械的特性および熱的物性を作り込むことができる。なお、樹脂シートの厚さが150μmより厚くなると、金型内で樹脂シートに熱風を当てたとしても、複雑な形状の金型に対して樹脂シートが隙間無く密着し難くなる。したがって、樹脂シートとして150μmより厚いものを使用する場合には、金型内に設置する前に樹脂シートを金型の形状に合わせて所望の形状に成形(プリフォーム)した後、この金型の形状に合わせて成形された樹脂シートを射出成形用の金型内に設置するとよい。公知のプリフォーム法により樹脂シートを粗成形するために必要なシート厚みは、成形後の形状をある程度維持する観点から50um以上が望ましい。
【0038】
また、本態様では、さらに、上記樹脂成形品を上記無電解めっき液に浸漬させる前に、上記樹脂成形品に対してレーザを照射して上記樹脂成形品から上記ポリアミド系樹脂を部分的に除去してもよい。
【0039】
樹脂成形品に対してレーザを照射して上記樹脂成形品から上記ポリアミド系樹脂を部分的に除去することにより、樹脂成形品の表面のポリアミド系樹脂を所望のパターンにすることができる。たとえば、樹脂成形品の表面に、回路用の配線パターンなどを形成できる。そして、このように所望のパターンとされたポリアミド系樹脂に対して常圧の無電解メッキを実施することにより、樹脂成形品に対して所望のパターンの金属膜を形成できる。また、レーザの照射によりポリアミド系樹脂を所望のパターンに形成しているので、線幅が狭い(数ミクロン〜数ミリオーダーの幅)のファインパターンにおいて、選択めっきが可能となる。なお、レーザによる除去し易さを考慮した場合、ポリアミド系樹脂(樹脂シート)の厚さは100μm以下が望ましく、さらに30μm以下がより望ましい。また、ポリアミド系樹脂を部分的に除去するために用いることができるレーザの種類には、CO2レーザ、YAGレーザなどがある。この中でも、成形品の表面に微細なパターンでポリアミド系樹脂を形成できるので、YAGパルスレーザが望ましい。
【0040】
また、本態様では、上記樹脂シートを上記金型内に設置することが、上記樹脂シートを上記金型の成形面の一部において部分的に設置することを含んでもよい。
【0041】
金型の成形面の一部において樹脂シートを部分的に設置することにより、樹脂成形品の表面のポリアミド系樹脂を所望のパターンにすることができる。そして、このように所望のパターンとされたポリアミド系樹脂に対して常圧の無電解メッキを実施することにより、樹脂成形品に対して所望のパターンの金属膜を形成できる。しかも、樹脂シート自体を部分的に配設することで金属膜を所望のパターンに形成しているので、金属膜を形成しない表面積が大きい場合には、レーザで樹脂成形品からポリアミド系樹脂を部分的に除去した場合に比べて有利である。このように、樹脂シートを部分的に配設する方法は、レーザにより樹脂を部分的に除去する方法に比べて、マクロ的な部分(数ミリ〜数センチ幅のオーダー以上の大面積の部分)の選択めっきを容易に実現できる。逆に、レーザを用いて樹脂成形品からポリアミド系樹脂を部分的に除去する方法では、細かいパターンを形成する場合に有利である。なお、樹脂シートを部分的に配設する方法と、レーザにより樹脂を部分的に除去する方法とを組み合わせて使用してもよい。
【0042】
ところで、本態様において樹脂シートの作製方法は任意である。樹脂シートは、例えば金属微粒子とポリアミドの樹脂ペレットとを押し出し機で溶融混錬して押し出すことで連続的に形成できる。この他にもたとえば、ポリアミド樹脂製の樹脂シートなどに対して、金属微粒子を溶解させた高圧二酸化炭素を接触させてもよい。具体的にはたとえば、金属微粒子を溶解させた高圧二酸化炭素とポリアミド樹脂製の樹脂シートとを高圧容器内で接触させるバッチ法と、金属微粒子を溶解させた高圧二酸化炭素と溶融したポリアミド系樹脂とを押し出し成形機の金型内で接触および浸透させる押し出し成形法とがある。高圧二酸化炭素を用いて樹脂シートに金属微粒子を分散させた場合、金属微粒子は樹脂シートに均一に分散する。高圧二酸化炭素以外のアルコール等の溶媒を用いて金属微粒子を分散させてもよい。
【0043】
樹脂シートの押し出し成形法では具体的にたとえば、少なくとも一方の表面がポリアミド系樹脂から形成されている樹脂シートを押出成形により成形する時に、上記金属微粒子の元となる金属錯体が溶解した高圧二酸化炭素を、成形前の溶融樹脂または押し出し金型内の樹脂と接触させればよい。これにより、少なくとも一方の表面が、上記金属微粒子を分散させたポリアミド系樹脂から形成されている樹脂シートを生成することができる。
【0044】
樹脂シートのバッチ法では具体的にはたとえば、少なくとも一方の表面がポリアミド系樹脂から形成されている樹脂シートを押出成形により成形し、上記樹脂シートを高圧容器に収容し、さらに上記金属微粒子の元となる金属錯体が溶解した高圧二酸化炭素を上記高圧容器へ導入すればよい。これにより、樹脂シートの少なくとも一方の表面が、上記金属微粒子を分散させたポリアミド系樹脂から形成されている表面になる。しかも、押出成形により樹脂シートを形成した場合には長尺の樹脂シートを連続的に形成できるので、長尺の樹脂シートに対して金属錯体を連続的に接触させて、金属錯体(金属微粒子)が分散した樹脂シートを効率よく成形できる。複数の樹脂成形品に用いる樹脂シートを連続的に且つ一括して形成できる。そのため、樹脂成形品毎に金属微粒子を分散させる処理を実施する必要が無い。また、押出成形により樹脂シートを形成した場合には、インサート成形後の余剰のシートを樹脂ペレットと共に再度溶融して混錬することで再利用できる。
【0045】
また、この樹脂シートのバッチ法において、ポリアミド製シートは、無機物から形成されているセパレータを挟んで巻かれて高圧容器に収容されてもよい。無機物から形成されているセパレータとしては、たとえばアルミメッシュシート、SUS製のメッシュシート、ガラスクロスなどが好適である。これらのセパレータは高圧二酸化炭素を通過できるので、拡散性の高い高圧二酸化炭素がセパレータを介してポリアミド製シートの全面に均一に拡散して浸透できる。
【0046】
このように液体状態あるいは超臨界状態の高圧二酸化炭素に金属錯体等の金属微粒子を溶解させた後、この高圧二酸化炭素と樹脂シートとを接触させることで、樹脂シートのポリアミド系樹脂層にダメージを与えることなく且つ樹脂シート中に金属微粒子を凝集させることなく、樹脂シートの内部に速やかに金属微粒子を拡散(分散)させることができる。また、金属錯体は、高圧二酸化炭素に溶解された後に樹脂シート内に拡散させられるので、有機溶媒を用いずとも樹脂シートに対して金属錯体を均一に分散できる。
【0047】
なお、金属錯体としては、例えば、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)、ジメチル(シクロオクタジエニル)プラチナ(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトヒドレート銅(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトプラチナ(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナト(トリメチルホスフィン)銀(I)、ジメチル(ヘプタフルオロオクタネジオネート)銀(AgFOD)等を用いることができる。この中でも、パラジウム錯体がめっきの触媒核としてのコストおよび機能面においてバランスがとれていて好適である。
【0048】
また、樹脂シートには金属錯体を浸透させているが、無電解メッキの際の樹脂シート中の金属微粒子は、金属錯体がその酸化物等へ変性したものであってもよい。また、めっきの触媒活性を高めるために、無電解メッキ前にメタル化させたものであってもよい
ポリアミド系樹脂層(樹脂シート)内で金属錯体をメタル化する方法は任意であるが、たとえば、ポリアミド系樹脂層(樹脂シート)に還元剤を浸透させた後に、金属錯体を溶解させた高圧二酸化炭素にポリアミド系樹脂層(樹脂シート)を接触させればよい。これにより、低温(常温)のままで、ポリアミド系樹脂層(樹脂シート)に浸透した金属錯体を還元してメタル化できる。この他にもたとえば、低温(常温)の高圧容器内で金属錯体を溶解させた高圧二酸化炭素と樹脂シートとを接触させて金属錯体を樹脂シートに浸透させた後、高圧容器内の温度を上げることで、ポリアミド系樹脂層(樹脂シート)に浸透した金属錯体を熱還元してメタル化できる。さらに他にもたとえば、無電解めっき処理の前に上述した還元処理を実施することでも、金属錯体や金属酸化物を還元してメタル化できる。
【発明の効果】
【0049】
以上のように、本発明では、常圧の無電解めっき液を用いた安価な処理により、樹脂成形品の材料などにかかわらず汎用的に、高い密着性を有する金属膜を樹脂成形品に形成できる。また、本発明ではさらに、樹脂成形品に対して所望のパターンで金属膜を形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下、本発明の金属膜を有する樹脂成形品の製造方法の実施例を、図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施例は本発明の好適な具体例であり、本発明はこれに限定されない。
【0051】
図2は、以下の各実施例における、金属膜を有する樹脂成形品の製造方法の全体の処理の流れを示す工程図である。各実施例では、バッチ法または押し出し成形法を用いて金属微粒子が浸透したポリアミド系樹脂製シートを作製し(S1)、プリフォーム法(インサート射出成形前、金型に配設する前に事前にシートを金型のキャビティ形状に成形しておく方法をプリフォーム法と定義する)または直接成形法(インサート射出成形の樹脂充填前に射出成形用の金型内でシートをキャビティ表面に密着させておく方法)を用いて樹脂成形品をインサート成形し(S2)、さらに、常圧の無電解メッキ液を用いて樹脂成形品に金属膜を形成した(S3)。また、この金属膜を金属下地膜として利用して所望の金属体を形成し、この金属体を樹脂成形品の放熱体、導電体などとして利用した。まず、各工程で使用する要素技術について説明する。
【0052】
[バッチ法を用いたポリアミド系樹脂製シートの作製方法]
バッチ法では、シート状に形成されたポリアミド系樹脂製シートに、金属微粒子を溶解させた加圧二酸化炭素を接触させることで、金属微粒子が浸透したポリアミド系樹脂製シートを作製する。
【0053】
図2は、金属錯体などの金属微粒子をポリアミド系樹脂製シート1に浸透させるためのバッチ装置の構成図である。バッチ装置は、主に、巻きつけた長尺のポリアミド系樹脂製シート10を収容する高圧容器11と、粉状の金属錯体を収容する溶解槽12と、液体二酸化炭素ボンベ13とを含む。粉状の金属錯体には、ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジム(II)錯体を用いた。
【0054】
長尺のポリアミド系樹脂製シート10は、ナイロン6、ポリフタルアミドなどのポリアミド樹脂を含み、幅40cmおよび長さ20mに形成されている。また、以下の実施例では25〜300μmの範囲内の厚さを有する。そして、図3に示すように、長尺のポリアミド系樹脂製シート10は、アルミ製メッシュのセパレータ9と重ねて丸められて、穴が多数あいたアルミ製筒8に周囲に巻きつけられる。
【0055】
そして、セパレータ9と重ねてアルミ製筒8に巻きつけられた長尺のポリアミド系樹脂製シート10は、高圧容器11に収容される。このとき、アルミ製筒8には、高圧容器11の中央に形成されて且つ多数の孔が形成された支持筒26が挿入される。その後、蓋を閉じて圧力容器11を密閉した。
【0056】
ついで、高圧容器11に高圧二酸化炭素を導入して、金属錯体をポリアミド系樹脂製シート10に浸透させた。具体的には、圧力6MPa且つ常温25℃の液体二酸化炭素を液体二酸化炭素ボンベ3から排気させ、40℃に温調した配管14を通過させてガス化させた後、圧力計16が20MPaを示すようにポンプ15にて昇圧した。これにより、50℃に温調されたバッファ容器17の内圧は20MPaとなる。また、バッファ容器17において20MPa且つ50℃の環境下に置かれて超臨界状態になった高圧二酸化炭素は、圧力計19の表示が15MPaになるように減圧弁18で減圧した。自動弁20が開くと、15MPaの超臨界状態の高圧二酸化炭素は、高圧容器11の下部および上部の導入排出口27,28から、密閉された圧力容器11へ導入される。
【0057】
高圧容器11に導入された超臨界二酸化炭素は、循環ポンプ22により高圧容器11および溶解槽12の間を循環する。実際には、循環ポンプ22を数分間駆動して、逆止弁21の方向に高圧二酸化炭素を数分間循環させた。そして、溶解槽12には金属錯体が仕込まれているので、溶解槽12において金属錯体が超臨界二酸化炭素に溶解する。また、金属錯体が溶解した超臨界二酸化炭素は圧力容器11内に拡散し、ポリアミド系樹脂製シート10に浸透する。これにより、ポリアミド系樹脂製シート10に金属錯体が浸透する。
【0058】
なお、背圧弁25の圧力はあらかじめ15MPaに調整した。また、循環する超臨界二酸化炭素の圧力が下がると、自動弁20から超臨界二酸化炭素が補充される。これにより、高圧容器11および溶解槽12を循環する超臨界二酸化炭素の圧力は15MPaに維持される。また、圧力計23は圧力容器11の内圧である15MPaを表示する。
【0059】
ポリアミド系樹脂製シート10に金属錯体を浸透させた後、循環ポンプ22を停止した。また、高圧容器11を50℃にて30分間保持した後、圧力容器11内部の温度を図示しない温調機にて120℃まで昇温した。これにより、ポリアミド系樹脂製シート10に浸透した金属錯体は熱還元されて金属微粒子となり、シートに固定化される。なお、上述した昇温により圧力容器11の内圧も上昇することになるが、この圧力上昇分の余剰な二酸化炭素は背圧弁25から逃げる。背圧弁25の先(排気側)には、図示しない遠心分離機が設置されており、排気に含まれる金属錯体と減圧された二酸化炭素を分離して回収できる。回収した金属錯体は再利用できる。
【0060】
ポリアミド系樹脂製シート10に金属微粒子を固定化した後、自動弁25を閉鎖し、さらに自動弁24を開放した。これにより、圧力容器11内の高圧二酸化炭素が排気される。また、圧力容器11の内圧が常圧に戻った後、圧力容器11を開き、ポリアミド系樹脂製シート10を治具とともに取り出した。
【0061】
以上のように、バッチ法により、金属錯体、その熱変生物または金属微粒子が浸透した長尺のポリアミド系樹脂製シート10を得ることができる。また、金属微粒子は、ポリアミド系樹脂製シート10の両面に略均一に浸透できる。
【0062】
[押し出し成形法を用いたポリアミド系樹脂製シートの作製方法]
押し出し成形法では、金属微粒子を溶解させた加圧二酸化炭素をポリアミド系樹脂と接触させた後、接触後のポリアミド系樹脂をシート状に形成することで、金属微粒子が浸透したポリアミド系樹脂製シートを作製する。
【0063】
図4は、金属錯体などの金属微粒子を浸透させたポリアミド系樹脂製シート10を形成するための押出し成形装置の構成図である。押出し成形装置は、主に、溶融樹脂をフィルム(シート)状に形成するTダイ41と、Tダイ41へ溶融樹脂を連続的に供給する可塑化シリンダー42と、液体二酸化炭素ボンベ43と、金属錯体を5wt%溶解したフッソ溶液を収容する容器44とを含む。
【0064】
なお、本発明において樹脂シート10に浸透させる金属微粒子は任意であるが、本実施例においては金属錯体であるヘキサフルオロアセチルアセトナ(II)を用いた。また、容器44には、金属錯体と相溶し且つ高圧二酸化炭素に可溶な液状のフッソ化合物Perfluorotripentylamine(分子式:C15F33N(シンクエスト・ラボラトリー製、分子量:821.1、沸点:220℃)と金属錯体とを混合して、金属錯体を5wt%溶解するように調合されたフッソ溶液を収容した。
【0065】
そして、ポリアミド系樹脂製シート10を形成する場合、まず、自動弁46を開放して、金属錯体を5wt%溶解したフッソ溶液を、フィルター45を介してシリンジポンプ47内部に吸引した。さらに、シリンジポンプ47においてフッソ溶液を15MPaに昇圧した。また、自動弁49を開放して、液体二酸化炭素ボンベ43からシリンジポンプ50へ液体二酸化炭素を吸引し、さらにシリンジポンプ50において液体二酸化炭素を15MPaに昇圧した。
【0066】
2つのシリンジポンプ47,50に同じ圧力の流体を吸引した後、2つのシリンジポンプ47,50の流量比を制御しながら駆動して、金属錯体を5wt%溶解したフッソ溶液と高圧二酸化炭素とを混合する。これにより、液体の高圧二酸化炭素に、金属錯体およびフッソ溶液が溶解する。この混合流体(液体)は、圧力計52、逆止弁53、手動バルブ54および導入口55を介して可塑化シリンダー42へ供給される。なお、液体の高圧二酸化炭素と金属錯体を5wt%溶解したフッソ溶液との混合比は、たとえば20:1とすればよい。
【0067】
可塑化シリンダー42では、シリンダー42内に減圧部56を構成するためのベント構造を有する単軸スクリュー57が回転している。そのため、ホッパ58から供給されたポリアミド系樹脂のペレットは、温度200〜230℃に温調された可塑化シリンダー42にて可塑化溶融された後、単軸スクリュー57回転にしたがって送り出されて、ベント部56で急減圧される。また、混合流体は、この減圧部56において可塑化シリンダー42へ導入される。したがって、金属錯体およびフッソ溶液が溶解した液体の高圧二酸化炭素は、減圧部56において急減圧された溶融樹脂と混合される。これにより、溶融樹脂には、金属錯体およびフッソ溶液が分散する。
【0068】
金属錯体およびフッソ溶液が分散した溶融樹脂は、単軸スクリュー57の回転にしたがって可塑化シリンダー42から押し出され、Tダイ41によりフィルム(シート)状に形成される。Tダイ41より押出されたフィルム(シート)状のポリアミド樹脂は冷却ロール59等を通過した後、巻き取られる。本実施例においては、Tダイ41の押出し口における図示しないギャップを調整して、例えば50μmの厚さの無延伸特性のポリアミド系樹脂製シート10を成形した。
【0069】
以上のように、押し出し成形法により、金属錯体などが分散した長尺のポリアミド系樹脂製シート10を得ることができる。なお、押し出し成形法で使用可能なTダイ41の押出し口の形状は任意の形状とすることができる。そして、Tダイ41の押出し口の形状を変えることで、金属錯体などが分散した長尺のポリアミド系樹脂を、シート以外の形状に形成することができる。
【0070】
なお、液体のフッソ化合物に金属錯体を混合溶解した後に高圧二酸化炭素にさらに溶解させることで、金属錯体を加圧二酸化炭素に溶解できる。また、この方法で溶解することで、金属錯体を5wt%溶解したフッソ溶液42と液体高圧二酸化炭素との混合比を一定にでき、混合流体(液体)中の金属錯体の量をも一定にできる。また、混合流体中で、金属錯体は液体のフッソ化合物に保護された状態で存在するので、高温度の溶融樹脂に接触させたときに金属錯体が熱分解したり凝集したりし難くなり、溶融樹脂への金属錯体の分散性が悪化しないようにできる。また、フッソ化合物は樹脂の表面にブリードアウトしやすい性質を有するので、フッソ化合物により保護された金属錯体も樹脂の表面付近に偏析しやすくなる。また、金属錯体を高圧二酸化炭素と直接に接触させる溶解槽などを用いなくても、高圧二酸化炭素に溶解させる金属錯体の濃度を一定に維持でき、しかも、高圧二酸化炭素に対して途切れることなく連続的に安定した量の金属錯体を供給できる。また、シリンジポンプ47の上流側に設置されて常圧下にある収容容器44に、金属錯体を5wt%溶解したフッソ溶液を補充することで、フッソ溶液を途切らすことなく連続に供給できるので、押し出し成形法においてポリアミド系樹脂製シート10の連続生産が可能となる。
【0071】
[プリフォーム法を用いた樹脂成形品のインサート成形方法]
樹脂成形品のインサート成形方法では、樹脂成形品を形成する射出成形装置を使用する。図5および図6は、射出成形装置の一部を示す断面図である。射出成形装置は、主に、可動金型71および固定金型72からなって溶融樹を成形する金型73と、金型73へ溶融樹を射出する可塑化シリンダー74とを含む。
【0072】
まず、あらかじめ公知のプリフォーム成形を行った。図8に示すように、プリフォームでは、図8(A)の樹脂シート10を準備し、図8(B)に示すように図示しない赤外線ヒーターを用いた間接加熱源によって樹脂シート10をさらして軟化させた後、図8(C)に示す射出成形用金型71を模した金型79に樹脂シート10を重ねて圧力1MPaの加圧エアーを吹き付け、金型79から取り外すことにより、図8(D)に示すような箱型形状のシート10とした。
【0073】
次いで、射出成形用の金型71内に金属微粒子が分散して且つプリフォームされたシート10を挿入しインサート成形した。まず、プリフォーム法により箱型形状に形成されたポリアミド系樹脂製シート10を金型73に密着させた。具体的には、ついで射出成形用金型の可動金型33のキャビティ13表面にシート2を挿入し、真空引き用の溝34より真空吸引して固定化した。その後、図6に示すように、任意の温度に温調された可塑化シリンダー74内の溶融樹脂をスクリュー75の前進により金型73内に射出充填する。その後、金型73で型締めをした後、金型73を離型した。これにより、樹脂成形品5を得た。
【0074】
なお、本発明において、インサート(インモールド)成形にて射出成形する充填樹脂材料の種類は任意であり、例えば、ポリエステル系等の合成繊維、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、アモルファスポリオレフィン、ポリエーテルイミド、ポリエチレンテレフタレート、液晶ポリマー、ABS系樹脂、ポリアミドイミド、ポリ乳酸等の生分解性プラスチック、ナイロン樹脂等及びそれら複合材料を用いることできる。また、充填樹脂には、ガラス繊維、カーボン繊維、ナノカーボン等、各種無機フィラー等を混練させた樹脂材料を用いることもできる。また、充填樹脂は樹脂シート材料と同じポリアミド系樹脂でも異種でもよいが、シート材料との接着性を高めるために同一材料であってもよい。
【0075】
以上のように、プリフォーム法を用いて、表面に金属微粒子が分散したポリアミド系樹脂層6を有する樹脂成形品5を得ることができる。なお、プリフォーム法では、ポリアミド系樹脂製シート10に軟化させあと加圧エアーを吹き付けて引き伸ばし、シート10をプリフォーム用金型79にあわせた形に変形させるので、ポリアミド系樹脂製シート10にある程度の強度などが要求される。実際には、50μm以上の厚さのシートは、プリフォーム用の加圧エアーで引き伸ばされたことにより断裂することなく、しかも、プリフォーム用の金型79から取り外した後にも成形形状を維持できて、プリフォーム成形することができた。
【0076】
また、ポリアミド系樹脂製シート10として200μm以下の薄さのシートを使用した場合には、射出成形時に溶融樹脂が接触することによってシート10が溶融したり薄膜化したりできる。そのため、射出成形後のシート層6の形状は、厳密には、プリフォーム前のシート10の形状に維持されない。また、プリフォームしたシート10の形状が金型73に密着できる形状でなくとも、且つ、金型73が深絞り等の屈曲した複雑な形状であっても、金型73の表面をトレースした良好な外形形状の樹脂成形品5を得ることができる。
【0077】
[直接成形法を用いた樹脂成形品のインサート成形方法]
本発明においては、薄肉シートを射出成形直前にキャビティ形状に塑性変形させるプリフォームなしで、直接成形することができる。シートが薄く形状を維持しにくい場合においても、加熱、加圧、真空の少なくとも1種類以上の方法で金型鏡面に密着させることができる。
【0078】
本実施例のインサート成形方法では、金型のキャビティ表面形状をトレースした治具を用いてポリアミド系樹脂製シートを所望の形状にならわせた後、その状態のシートを治具とともに射出成形装置の金型に配設して、樹脂成形品を得る。このように治具を用いて射出成形装置の金型にシートを配設するようにすることで、薄いシートを射出成形装置の金型に対して因れたりすることなく配設することができる。なお、シートは、射出成形装置の金型に直接配設してもよい。
【0079】
具体的には、まず、図8(A)に示すように、成形品と表面が同形状の固定化治具81に対して、金属微粒子が分散したポリアミド系樹脂製シート10を配置した。その後、図8(B)に示すように、固定化治具81を150℃に加熱し、シート10を加圧および加熱したエアーで加熱し、且つ、固定化治具81の内外に設けられた真空吸引溝82よりエアーを吸引して、シート10を固定化治具81の表面に固定した。これにより、ポリアミド系樹脂製シート10は、成形品の表面形状に形成される。
【0080】
次いで、図9に示すようにシート10が張り付いた固定化治具81を可動金型71に対向して配置し、さらに図10に示すように固定化治具81と可動金型71とでシート2を挟んだ状態で、固定化治具81の真空吸引を切る。その後、図示しない別系統のエアー回路より固定化治具81の表面に加圧エアーを流動させると同時に、可動金型71の真空吸引溝76から真空吸引する。これにより、図11に示すように、成形品の表面形状に形成されたシート10は、固定化治具81から剥がされて、可動金型71に密着する。なお、図9では、樹脂シート10は可動金型71のみに設置されており、金型73の成形面の一部において部分的に設置されていることになる。
【0081】
直接成形法によりポリアミド系樹脂製シート10を可動金型71に密着させた後、図12に示すように、金型73を閉じて、任意の温度に温調された可塑化シリンダー74のスクリュー75を前進させる。これにより、可塑化シリンダー74の溶融樹脂は金型73内に射出充填する。その後、金型73の型締めをした後に金型73を離型して、樹脂成形品5を得た。たとえば図13に示すように、表面が凹鏡面のリフレクター形状の成形品5を成形した。なお、図13では、リフレクター5の凹鏡面の中央部に貫通孔4が形成され、この貫通孔4から図の右へ向かってポリアミド系樹脂製シート10の一部が飛び出しいている。このような場合にはその突出部位をカットすることで、図14に示すような最終的な樹脂成形品5を得ることができる。
【0082】
以上のように、直接成形法を用いて、表面に金属微粒子が分散したポリアミド系樹脂層6を有する樹脂成形品5を得ることができる。また、直接成形法では、固定化治具81を用いてポリアミド系樹脂製シート10を所望の金型形状に形成した上で、加圧エアーを用いてポリアミド系樹脂製シート10を金型73に密着させるので、ポリアミド系樹脂製シート10が90μm以下の薄いものであっても破損させることなく金型73に密着させることができる。
【0083】
[アルコール含有した常圧の無電解メッキ液を用いた樹脂成形品への金属膜の形成方法]
上述したプリフォーム法または直接成形法を用いて、たとえば図14に示すように、表面に金属微粒子が分散したポリアミド系樹脂層6を有する樹脂成形品5を得ることができる。この樹脂成形品5では、下記の無電解めっき法により、成形品5の内部の金属微粒子からめっき膜(金属下地膜)を成長させることができる。本実施例では無電解Ni−P(ニッケルリン)めっき液を使用した。
【0084】
まず、還元剤である次亜燐酸が10vol%溶解しており且つNaOHによりpHが7に調整された還元液を用意し、この還元液に上述したプリフォーム法または直接成形法で形成した樹脂成形品5を5分間浸漬させた。この無電解メッキ処理前の還元処理により、樹脂成形品5の表面の親水性のポリアミド系樹脂層6が膨潤し、しかも、ポリアミド系樹脂層6内の金属錯体などの金属微粒子(パラジウム)を活性化できる。
【0085】
その後、還元液から取り出した樹脂成形品5を水洗いして、成形品5の表面に付着した還元剤を除去した。次に、水洗いした樹脂成形品5を、アルコールを45vol%含有した無電解ニッケルリンめっき液に浸漬した。アルコールには1,3−ブタンジオールなどを使用し、めっき液の温度は70℃とした。無電解めっきの原液には奥野製薬工業製ニコロンDKを用いた。
【0086】
以上のように、常圧下の無電解メッキ処理により、たとえば図15に示すように、樹脂成形品5の表面に金属膜3を形成した。たとえば図14の樹脂成形品5に対して常圧下の無電解メッキ処理を実施して、図15に示すようにリフレクター5の凹鏡面および貫通孔4について金属膜3を形成できる。なお、さらにこの金属膜3を下地膜として電解メッキなどを実施することで、下地膜3の上に厚い金属膜を形成できる。この所望のパターンの下地膜3の上に他の金属膜を重ねることで、所望の電気特性の導電体などを形成できる。
【0087】
なお、ポリアミド系樹脂層は親水性を有する。そのため、上述した還元剤を用いた還元処理およびそれに付随する水洗い処理を実施しないで、プリフォーム法または直接成形法を用いてインサート成形した樹脂成形品5をそのまま常圧下の無電解メッキ液に浸漬しても、樹脂成形品5に金属膜3を形成できる。
【0088】
次に、以上の各要素技術を組み合わせて使用した各実施例を説明する。表1には、各実施例で使用した材料やプロセスの組合せなどを示す。
【0089】
【表1】
【実施例1】
【0090】
本実施例では、25、50および90μmの厚さのナイロン6製のシート10を準備し、上述した高圧二酸化炭素を用いたバッチ法(図2、図3を参照)を用いてこれらのシート10に金属微粒子を浸透させた。
【0091】
また、本実施例では、金属微粒子を浸透させたシート10を用いて、上述した直接成形法を用いたインサート成形法(図8〜図14)により、プラスチックミラー形状の樹脂成形品5を形成した。インサート成形では、成形樹脂としてのポリフタルアミド(ソルベイ・アドパンストポリマーズ(株)製、アモデルAS−1566)を320℃に加温して金型73へ射出充填した。ポリフタルアミドは、ポリアミド系の樹脂であり、高耐熱且つ低膨張係数の物性を有する。
【0092】
また、本実施例では、上述したアルコール含有した常圧の無電解めっき法(図15)により、樹脂成形品5の表面にニッケルリンめっき膜3を1μmの厚さで形成した。
【0093】
本実施例では、さらに、ニッケルリンめっき膜3を下地膜として、ニッケルリンめっき膜3の上に、レベリング効果のある光沢剤を含有させた電解Niめっき膜を2μmの厚さで形成し、その表面を平滑化させた。また、置換銀めっき(メルテックス製、アルファスター)により、平滑化された表面のNiをAgに置換した。Agめっきの膜厚は100nmとした。また、ディッピング法により、Agめっき膜の上に、有機(アクリル)−無機(SiO2)ハイブリット材料(JSR製グラスカ)の保護膜を5μmの厚さで形成した。
【0094】
以上の処理により、本実施例では、金属膜3を有する樹脂成形品5としてプラスチックミラーを形成した。そして、このプラスチックミラーは、ポリフタルアミド樹脂で構成されているので、耐熱性があり且つ寸法精度も高く、高温環境下でも反射膜(3)の形状を維持できた。しかも、樹脂成形品5の表面には平滑なナイロン6の層が形成され、しかも、エッチング液で表面を粗化することなくその表面に反射膜(3)を形成しているので、所望の形状において平滑で且つ信頼性の高い反射面を有するプラスチックミラーが得られた。
【0095】
また、本実施例のプラスチックミラーの中心部における絶対反射率(正反射)は、シート10の厚さの違いに関係なく95〜97%(測定波長550nm)と高い値が得られた。また、本実施例のプラスチックミラーに対して、温度80℃且つ湿度95%RHの環境下に100時間放置する環境試験を行ったところ、めっき膜(3)の膨れ、白濁は認められなかった。また、環境試験の前後における反射率の低下は、3%以内であった。
【実施例2】
【0096】
本実施例では、90および200μmの厚さのナイロン6製のシート10を準備し、上述した高圧二酸化炭素を用いたバッチ法(図2、図3)を用いてこれらのシート10に金属微粒子を浸透させた。
【0097】
また、本実施例では、金属微粒子を浸透させたシート10を用いて、上述したプリフォームを用いたインサート成形法(図5、図6、図7)により、箱型形状の樹脂成形品5を形成した。インサート成形では、ナイロン6(ガラス繊維20%入り、三菱エンジアリングプラスチックス製ノバミッド1013GH20)およびポリカーボネート(ガラス繊維20%入り、三菱エンジアリングプラスチックス製GS2020MR2)を成形樹脂として用いて、それぞれを250℃および350℃に加温して金型73へ射出充填した。インサート成形により形成された樹脂成形品5の表面は、元のシート10の表面粗さよりも金型73の鏡面の表面粗さに近くなっており、平滑化して光沢感が向上した。これは、金型73へ射出充填された高温の溶融樹脂が、金型73に接したシート10に接触し、この接触によりシート10が溶解し、さらにその後に溶融樹脂とともにシート10が金型73の形状に固化されたためである。
【0098】
また、本実施例では、実施例1と同様に上述したアルコール含有した常圧の無電解めっき法(図15)により、樹脂成形品5の表面にニッケルリンめっき膜3を1μmの厚さで形成した。また、さらに公知の装飾めっきを実施した。具体的には、光沢剤の入った電解Cuめっきを40μmの厚さに形成し、半光沢電解Niめっきを10μmの厚さに形成し、光沢Niめっきを10μmの厚さに形成し、さらに、Crめっきを0.5μmの厚さに形成した。本装飾めっき成形品5は、成形樹脂がガラス繊維入りで表面性が得にくい材料であるにもかかわらず、ABSを用いためっき品と遜色ない光沢性が得られた。
【0099】
そして、本実施例の成形品5について、−40℃の環境下に1時間保持することと、および100℃の環境下に1時間保持することを繰り返すヒートショック試験を行った。その結果、本実施例の成形品5では、インサート成形に使用したシート10の厚みが90μmまたは200μmであっても、20サイクルの試験の後において金属膜3の膨れ、クラックは発生しなかった。
【0100】
また、本実施例の成形品5は、ガラス繊維で強化したナイロン6とポリカーボネートとを成形樹脂に使用している。このように熱膨張係数をガラス繊維により抑制したナイロン6にポリカーボネートを組み合わせて使用することで、金属膜3の熱膨張係数と樹脂の熱膨張係数との差に起因して発生し且つ熱衝撃時に金属膜3と樹脂との界面において発生する内部応力を抑えて、めっき膜3の剥離を回避できた。
【実施例3】
【0101】
本実施例では、ナイロン6層およびポリプロピレン層(PP層)を120μmの厚さの2層化されたシート10を用い、上述した高圧二酸化炭素を用いたバッチ法(図2、図3)にてこのシート10に金属微粒子を浸透させた。
【0102】
また、本実施例では、金属微粒子を浸透させた2層のシート10を用いて、上述したプリフォーム法を用いたインサート成形法(図5、図6、図7)により、箱型形状の樹脂成形品5を形成した。なお、シート10は、ナイロン6の層が金型73に接触した状態で金型73に配設した。成形樹脂には、ポリプロピレン(日本ポリプロ製ノバテックMA3H)を用いた。PPは安価で最も汎用性の高い樹脂材料であるが耐薬品性に優れ且つ吸水性も低いため、それだけで樹脂成形品5を形成した場合には常圧下の無電解メッキ処理により密着力の高いめっき膜3を形成できない。
【0103】
また、本実施例では、実施例2と同様に上述したアルコール含有した常圧の無電解めっき法(図15)により、樹脂成形品5の表面にニッケルリンめっき膜3を1μmの厚さで形成し、さらに公知の装飾めっきを実施した。
【0104】
そして、本実施例の成形品5について、ABSの自動車部品用めっき規格に準じて、−40℃の環境下に1時間保持することと、および80℃の環境下に1時間保持することを3回繰り返すヒートサイクル試験を行った。その結果、本実施例の成形品5においては、インサートしたシート10やめっき膜3が剥離、膨れることはなかった。たとえばインサートしたシート10のエッジ部において剥離や膨れが生じなかった。
【0105】
また、本発明のインサート成形方法によれば、表層に強固なめっき膜3が形成できるポリアミド層を有するシート10をインサート成形し、しかも、そのシート10の裏面のPP層と成形樹脂のPPとが一体化できるので、めっきが困難で安価なPP成形品5に従来のABSと同等のめっき膜3を形成できる。なお、金型73に対してめっき用シート10を部分的に設置することで、樹脂成形品5に対してマスキング処理などをすることなく、樹脂成形品5に対する部分めっきが可能となる。
【実施例4】
【0106】
本実施例では、上述した高圧二酸化炭素を用いた押し出し法(図4)を用いて、金属微粒子を浸透させたナイロン6製のシート10を形成した。シート10は50μmの厚さに形成した。
【0107】
また、本実施例では、金属微粒子を浸透させたシート10を用いて、実施例1と同様に上述した直接成形法を用いたインサート成形法(図8〜図14)により、ミラー形状の樹脂成形品5を形成した。
【0108】
また、本実施例では、上述した常圧の無電解めっき法(図15)により、樹脂成形品5の表面にニッケルリンめっき膜3を1μmの厚さで形成し、さらにニッケルリンめっき膜3の上に実施例1と同様のメッキ膜および保護膜を重ねた。
【0109】
そして、実施例1と同様に、高温多湿環境試験の前後の反射特性を評価した。本実施例のように押し出し成形法により金属微粒子を浸透させたポリアミドシート10を形成した場合でも、実施例1と同様に耐候性や反射特性に優れたプラスチックミラーが得られたことを確認できた。
【実施例5】
【0110】
本実施例では、25μmの厚さのナイロン6製のシート10を準備し、実施例1と同様に上述した高圧二酸化炭素を用いたバッチ法(図2、図3)を用いてこのシート10に金属微粒子を浸透させた。
【0111】
また、本実施例では、実施例1と同様に、上述した高圧二酸化炭素を用いた直接成形法を用いたインサート成形法(図8〜図14)により、箱型の樹脂成形品5を形成した。
【0112】
その後、樹脂成形品5の表面に金属膜3が部分的に形成されるように、本実施例では、図16〜図18に示すように、金型73内にシート10を部分的に設置して成形するとともに、樹脂成形品5にレーザ光を照射して、樹脂成形品5の表面にナイロン6の層6が部分的に形成されるようにした。
【0113】
具体的には、まず、金属微粒子の分散したポリアミドシート10をラフパターンにカットして、金型73に固定化する。シート10の表面に金型73への接着層を設けたり、金型73表面にシート10を固定化する凹部を設けることなどの工夫により、ミリメートル〜センチメートルのオーダーの幅でシート10を金型73に固定できる。本実施例では、まず、最小線幅が2cmとなるようにカットされたシート10を固定治具81に仮固定し、その後、固定治具81を金型73に押し当てた状態で金型73および真空吸引溝76から真空吸引をして、シート10を金型73に転移させた。
【0114】
その後、実施例1と同様な成形方法により、ポリフタルアミド樹脂を用いてインサート成形した。これにより、図16に示すように、ポリフタルアミド樹脂による成形品本体5の表面に、ポリアミドシート10が部分的に一体化した樹脂成形品5が得られる。
【0115】
その後、図17に示すように、樹脂成形品の表面のポリフタルアミド樹脂製のシート10に対して、CO2レーザ光91を照射してレーザ描画した。これにより、樹脂成形品5の表面には、ポリフタルアミド樹脂製のシート10についてレーザ光が照射されなかった部分が残存する。また、残存したシートの線幅(パターン線幅)は、0.4mmであった。
【0116】
次に、本実施例では、上述したアルコール含有した常圧の無電解めっき法により、樹脂成形品5の表面にニッケルリンめっき膜3を1μmの厚さで形成し、さらにアルコールを含有しない常圧の無電解ニッケル/銅合金めっき液を用いて金属膜を15μmの厚さで形成し、アルコールを含有しない常圧のニッケルリンめっき液を用いて金属膜を5μmの厚さで形成し、且つ、Au置換めっきにより金属膜を0.5μmの厚さで形成した。これにより、図18に示すように、残存する樹脂シート10の表面に金属膜3が形成される。
【0117】
これにより、樹脂成形品5の表面に、たとえば図19に示すような電気回路パターン2を部分的に形成できた。なお、図19は、上述した一連のメッキ処理の中の、ニッケルリンめっき後の状態での電気回路パターン2である。
【0118】
また、本実施例の樹脂成形品5について、温度260℃にて10分間アニール処理したところ、電気回路パターン(選択めっき部分)2に膨れや剥離は認められなかった。このように、本実施例の樹脂成形品5は温度260℃での10分間のアニール処理に耐えられるので、ハンドリフロー耐性に問題がない。
【実施例6】
【0119】
本実施例では、250および300μmの厚さのナイロン6製のシートを用いて、実施例2と同じバッチ方法(図2、図3)およびプリフォーム法(図5、図6、図7)で金属膜3を有する樹脂成形品5を形成した。また、インサート成形時に使用する成形樹脂には、実施例2のガラス繊維入りナイロン6を用いた。
【0120】
そして、インサート成形により形成された樹脂成形品5の表面は、実施例2の成形品5とは異なり、シート10の表面性と同等であった。これは、シート10の厚さが増したことにより、インサート成形時にシート10が十分に溶融せず、その結果として金型73に密着しなかったためであると考えられる。特に、ポリアミドは結晶性樹脂で融点が200℃以上と高いため、ガラス転移温度以上で軟化するポリカーボネート等に比べて軟化溶融し難い。その結果、ポリアミドは、射出成形時にシート10の樹脂と完全に一体化しにくい。この結果から、成形品5の表面性を金型73の表面性に近づけるためには、実施例2のようにシート10を薄肉化することが必要であることが解る。
【0121】
また、本実施例では、実施例2と同様に上述したアルコール含有した常圧の無電解めっき法(図15)により、樹脂成形品5の表面にニッケルリンめっき膜3を1μmの厚さで形成し、且つ公知の装飾めっきを実施した。
【0122】
そして、本実施例の成形品5について実施例2と同様なヒートショック試験を行ったところ、数サイクルの後にめっき膜3に膨れが発生した。剥離部分の断面構造を電子顕微鏡で観察したところ、シート10とめっき膜3との界面において剥離は認められず、成形品5の内部のポリアミド樹脂部分が引き伸ばされて破断していた。線膨張係数の大きいナイロン6樹脂シート10が熱膨張したときに、ポリアミド樹脂部分が熱衝撃に耐えられなくなったと推察される。
【0123】
このように下地樹脂材料の物性を生かし、かつ成形品5の表面平滑性を両立させるためには、本発明のポリアミドシート10の厚みは250μm未満であることが望ましい。なお、ポリアミドシート10の厚さが10μm以下になると、シート10の成形が困難になる。これらの結果により、望ましいシート厚みは10〜200μmとなる。
【実施例7】
【0124】
本実施例では、無電解めっき液に混合するアルコールとして1−エトキシー2−プロパノールを用いた以外は、実施例2と同様の方法で金属膜を有する樹脂成形品5を得た。
【0125】
そして、本実施例の成形品5は、実施例2の成形品と同様にヒートッショクに強く、且つ表面性が良好であった。
【実施例8】
【0126】
本実施例では、シート10の材料として芳香族ナイロンであるポリフタルアミド(ナイロン6T)を用い、且つシート厚みを100μmとした以外は、実施例1と同様の方法で金属膜3を有する樹脂成形品5を得た。
【0127】
そして、本実施例の成形品5は、実施例1の成形品5と同様に密着性および耐候性に優れた反射膜が得られた。
【0128】
[比較例1]
本比較例では、ナイロン6のシート10の厚みを25,40μmとした以外は、実施例2と同様の方法で金属膜3を有する樹脂成形品5を得ることを試みた。
【0129】
しかしながら、プリフォームしたシート10の一部が破損してしまい、成形樹脂の充填硬化中にシート10を適切に金型73へ固定できなかった。このように、40μm以下の薄いシート10をプリフォームした場合、シート10を金型73に適切に固定できなかった。
【0130】
なお、実施例4、5では25,50μmの厚さのナイロン6のシート10を使用しているが、直接成形法によりシート10を金型に固定できた。直接成形法に適したシート膜厚の範囲は樹脂材料により強度が異なり、また形状によりシートの延伸量が異なるので任意であるが、ナイロン6の場合にはシート10の膜厚が10〜90μmであるとき直接成形法によりシート10を金型73に適切に固定できた。また、ナイロン6の場合、シート10の膜厚が25μmから40μmのときにはプリフォーム法でシートを射出成形の金型に挿入できる形状に成形できなかった。
【0131】
[比較例2]
本比較例では、シート10の厚さを200μmとするとともに、常圧下での無電解メッキに使用する無電解めっき液にアルコールを含めなかった以外は、実施例1と同様の方法で金属膜3を有する樹脂成形品5を得た。
【0132】
そして、実施例2と同様にヒートショック試験を行ったところ、本比較例のめっき成形品5では、1サイクルのヒートショックによりめっき膜3が膨れた。このことから、常圧下での無電解メッキにより形成した金属膜3の密着性を高めるためには、無電解めっき液にアルコールを添加する必要があることが判った。
【0133】
[比較例3]
本比較例では、樹脂シート10として厚み100μmのポリカーボネートシートを用いるとともに、成形樹脂としてガラス繊維入りのポリカーボネート樹脂を用いた以外は、実施例2と同様の方法で金属膜3を有する樹脂成形品5を得た。
【0134】
そして、実施例2と同様にヒートショック試験を行ったところ、本比較例のめっき成形品5では、1サイクルのヒートショックによりめっき膜3の一部が剥離した。詳しく調べたところ、めっき膜3が樹脂成形品5の内部から成長してないことが判った。これは、シート5の材料に吸水性の低い樹脂を用いたため、アルコールを含有した無電解めっきを実施しても、めっき膜3が樹脂成形品5の内部へ浸透できなかったことが原因と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明の金属膜を有する樹脂成形品の製造方法では、常圧の無電解めっき液を用いた安価な処理により、樹脂成形品の材料などにかかわらず汎用的に、高い密着性を有する金属膜を樹脂成形品に形成できる。また、本発明ではさらに、樹脂成形品に対して所望のパターンで金属膜を形成できる。したがって、本発明の製造方法は、耐熱性および耐久性が要求される自動車のヘッドランプユニットやそのリフレクターを成形する場合、高い反射率特性が要求される光学部品のミラーなどを成形する場合、装飾めっき等の耐久性が要求される成形品を成形する場合、樹脂成形品の表面に電気回路を形成するMIDや電磁シールド成形体を成形する場合などに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】図1は、金属膜を有する樹脂成形品の製造方法を示す工程図である。
【図2】図2は、金属微粒子を樹脂シートに浸透させるためのバッチ装置の概略構成図である。
【図3】図3は、図1中の高圧容器に収容される樹脂シートを示す斜視図である。
【図4】図4は、金属微粒子を浸透させた樹脂シートを形成するための押出し成形装置の概略構成図である。
【図5】図5は、金型に樹脂シートがプリフォームされた状態における射出成形装置の部分断面図である。
【図6】図6は、金型に成形樹脂が射出充填された状態における射出成形装置の部分断面図である。
【図7】図7(A)〜(D)は、プリフォーム工程の説明図である。
【図8】図8は、固定化治具を用いて樹脂シートを直接成形する工程の説明図である。(A)は位置決め状態であり、(B)は成形中の状態である。
【図9】図9は、樹脂シートが張り付いた固定化治具を、可動金型に位置決めした状態における射出成形装置の部分断面図である。
【図10】図10は、樹脂シートを固定化治具と可動金型とで挟み込んだ状態における射出成形装置の部分断面図である。
【図11】図11は、樹脂シートを可動金型に密着させた状態における射出成形装置の部分断面図である。
【図12】図12は、金型へ成形樹脂を射出充填した状態における射出成形装置の部分断面図である。
【図13】図13は、射出成形装置により形成された樹脂成形品の断面図である。
【図14】図14は、リフレクター形状の樹脂成形品の断面図である。
【図15】図15は、金属膜を有するリフレクター形状の樹脂成形品の断面図である。
【図16】図16は、樹脂シートが部分的に配設された樹脂成形品の部分断面図である。
【図17】図17は、樹脂シートが部分的に配設された樹脂成形品に対して、レーザ描画をしている状態での樹脂成形品の部分断面図である。
【図18】図18は、金属膜が形成された樹脂成形品の部分断面図である。
【図19】図19は、金属膜による電気回路パターンが形成された樹脂成形品の部分拡大図である。
【符号の説明】
【0137】
3 金属膜
5 樹脂成形品
10 樹脂シート
11 高圧容器
73 金型(射出成形用の金型)
79 金型(プリフォーム用の金型)
91 レーザ光
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属膜を有する樹脂成形品の製造方法であって、
少なくとも一方の表面が、金属微粒子を分散させたポリアミド系樹脂から形成されている樹脂シートを、上記樹脂成形品を成形する金型内に、上記ポリアミド系樹脂が上記金型と接した状態で設置することと、
上記樹脂シートが設置された上記金型内に溶融樹脂を充填して、上記樹脂シートと上記溶融樹脂とが一体化してなる上記樹脂成形品を成形することと、
アルコールを含有した無電解めっき液に上記樹脂成形品を常圧下で浸漬させることとを含む製造方法。
【請求項2】
上記樹脂シートは10〜200μmの厚さである請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
上記樹脂シートは10〜150μmの厚さであり、且つ、
上記金型内に上記溶融樹脂を充填する前に、上記金型内に設置した上記樹脂シートを加熱、加圧、真空吸引の少なくともいずれか1つの方法により上記樹脂シートを上記金型に密着させることを含む請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
上記金型内に設置した上記樹脂シートを加熱することは、上記金型内に設置した上記樹脂シートに対して熱風を当てることによりなされることを含む請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
上記樹脂シートは50〜200μmの厚さであり、且つ、
上記樹脂シートを上記金型内に設置することが、
上記金型内に設置する前に上記樹脂シートを上記金型の形状に合わせて成形することと、
上記金型の形状に合わせて成形された上記樹脂シートを射出成形用の上記金型内に設置することとを含む請求項1または2記載の製造方法。
【請求項6】
上記樹脂シートを上記金型内に設置することが、
上記樹脂シートを、上記金型の成形面の一部において部分的に設置することを含む請求項1から5のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項7】
さらに、上記樹脂成形品を上記無電解めっき液に浸漬させる前に、上記樹脂成形品に対してレーザ光を照射して上記樹脂成形品から上記ポリアミド系樹脂を部分的に除去することを含む請求項1から6のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項8】
さらに、上記アルコールを含有した無電解めっき液に上記樹脂成形品を常圧下で浸漬させる前に、上記ポリアミド樹脂を表面に有する上記樹脂成形品を還元剤が溶解した水溶液に浸漬させることを含む請求項1から7のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項9】
上記ポリアミド系樹脂は、6ナイロンまたは66ナイロンである請求項1から8のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項10】
上記樹脂シートの他方の表面は、上記ポリアミド系樹脂とは異なる樹脂であって且つ上記金型内へ充填される上記溶融樹脂と溶融接着する樹脂から形成されている請求項1から9のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項11】
上記金属微粒子は、パラジウム錯体、パラジウム錯体の変性物およびパラジウム金属微粒子から選択された少なくとも1つの微粒子である請求項1から10のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項12】
さらに、少なくとも一方の表面がポリアミド系樹脂から形成されている樹脂シートを押出成形により長尺に成形し、上記表面が露出するように長尺の上記樹脂シートを巻いて高圧容器に収容し、さらに上記金属微粒子の元となる金属錯体が溶解した高圧二酸化炭素を上記高圧容器へ導入することにより、少なくとも一方の表面が、上記金属微粒子を分散させたポリアミド系樹脂から形成されている樹脂シートを生成することを含む請求項1から11のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項13】
さらに、少なくとも一方の表面がポリアミド系樹脂から形成されている樹脂シートを押出成形により成形する時に、上記金属微粒子の元となる金属錯体が溶解した高圧二酸化炭素を、成形前の溶融樹脂または金型内の樹脂と接触させることにより、少なくとも一方の表面が、上記金属微粒子を分散させたポリアミド系樹脂から形成されている樹脂シートを生成することを含む請求項1から11のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項1】
金属膜を有する樹脂成形品の製造方法であって、
少なくとも一方の表面が、金属微粒子を分散させたポリアミド系樹脂から形成されている樹脂シートを、上記樹脂成形品を成形する金型内に、上記ポリアミド系樹脂が上記金型と接した状態で設置することと、
上記樹脂シートが設置された上記金型内に溶融樹脂を充填して、上記樹脂シートと上記溶融樹脂とが一体化してなる上記樹脂成形品を成形することと、
アルコールを含有した無電解めっき液に上記樹脂成形品を常圧下で浸漬させることとを含む製造方法。
【請求項2】
上記樹脂シートは10〜200μmの厚さである請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
上記樹脂シートは10〜150μmの厚さであり、且つ、
上記金型内に上記溶融樹脂を充填する前に、上記金型内に設置した上記樹脂シートを加熱、加圧、真空吸引の少なくともいずれか1つの方法により上記樹脂シートを上記金型に密着させることを含む請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
上記金型内に設置した上記樹脂シートを加熱することは、上記金型内に設置した上記樹脂シートに対して熱風を当てることによりなされることを含む請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
上記樹脂シートは50〜200μmの厚さであり、且つ、
上記樹脂シートを上記金型内に設置することが、
上記金型内に設置する前に上記樹脂シートを上記金型の形状に合わせて成形することと、
上記金型の形状に合わせて成形された上記樹脂シートを射出成形用の上記金型内に設置することとを含む請求項1または2記載の製造方法。
【請求項6】
上記樹脂シートを上記金型内に設置することが、
上記樹脂シートを、上記金型の成形面の一部において部分的に設置することを含む請求項1から5のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項7】
さらに、上記樹脂成形品を上記無電解めっき液に浸漬させる前に、上記樹脂成形品に対してレーザ光を照射して上記樹脂成形品から上記ポリアミド系樹脂を部分的に除去することを含む請求項1から6のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項8】
さらに、上記アルコールを含有した無電解めっき液に上記樹脂成形品を常圧下で浸漬させる前に、上記ポリアミド樹脂を表面に有する上記樹脂成形品を還元剤が溶解した水溶液に浸漬させることを含む請求項1から7のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項9】
上記ポリアミド系樹脂は、6ナイロンまたは66ナイロンである請求項1から8のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項10】
上記樹脂シートの他方の表面は、上記ポリアミド系樹脂とは異なる樹脂であって且つ上記金型内へ充填される上記溶融樹脂と溶融接着する樹脂から形成されている請求項1から9のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項11】
上記金属微粒子は、パラジウム錯体、パラジウム錯体の変性物およびパラジウム金属微粒子から選択された少なくとも1つの微粒子である請求項1から10のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項12】
さらに、少なくとも一方の表面がポリアミド系樹脂から形成されている樹脂シートを押出成形により長尺に成形し、上記表面が露出するように長尺の上記樹脂シートを巻いて高圧容器に収容し、さらに上記金属微粒子の元となる金属錯体が溶解した高圧二酸化炭素を上記高圧容器へ導入することにより、少なくとも一方の表面が、上記金属微粒子を分散させたポリアミド系樹脂から形成されている樹脂シートを生成することを含む請求項1から11のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項13】
さらに、少なくとも一方の表面がポリアミド系樹脂から形成されている樹脂シートを押出成形により成形する時に、上記金属微粒子の元となる金属錯体が溶解した高圧二酸化炭素を、成形前の溶融樹脂または金型内の樹脂と接触させることにより、少なくとも一方の表面が、上記金属微粒子を分散させたポリアミド系樹脂から形成されている樹脂シートを生成することを含む請求項1から11のいずれか一項記載の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2010−69761(P2010−69761A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−240730(P2008−240730)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】
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