説明

金属膜形成方法及び該方法により得られる金属膜

【課題】大気圧で熱処理した場合に比べて、電気抵抗を大幅に低減した金属膜を得る。
【解決手段】金属コロイド粒子が金属粒子と粒子表面に配位修飾した保護剤とにより構成され、保護剤が分子中に窒素又は酸素のいずれか一方又はその双方を含む炭素骨格を有し、かつ窒素、酸素、窒素を含む原子団及び酸素を含む原子団からなる群より選ばれた1種又は2種以上をアンカーとして金属粒子表面に配位修飾した構造を有し、保護剤がハイドロキシアルキル基を分子構造に含み、金属コロイド粒子を水系又は非水系のいずれか一方の分散媒又はその双方を混合した分散媒に所定の割合で混合して分散させた金属コロイドを基材表面に塗布する工程と、塗布した金属コロイド中の分散媒を自然乾燥により除去する工程と、基材を1.0×103Pa以下の真空雰囲気下、200℃以下で熱処理することにより、基材表面に金属膜を形成する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温で熱処理することなく、金属コロイドを用いて金属膜を形成するための方法及び該方法により得られる金属膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
導電性を有する金属膜を形成する方法として、本出願人らは、所定の構造を有する金属コロイドを基材に塗布、吹付け、印刷、吐出又は転写した後、金属コロイドを有する基材を所定の雰囲気下、15〜450℃の温度で1〜60分間保持することによって得られる比抵抗1×10-3Ω・cm以下の導電膜付き基材を開示している(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】国際公開第2006/001310号パンフレット(第97〜100頁段落[0223]〜[0226]、請求の範囲[27]、[69])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1に示される導電膜付き基材の製造方法では、300℃を越えるような高い温度で熱処理して導電膜を得る場合、膜を形成する基材の材質が制限されるといった問題を有していた。
【0004】
本発明の目的は、大気圧で熱処理した場合に比べて、電気抵抗を大幅に低減した金属膜を形成できる、金属膜形成方法及び該方法により得られる金属膜を提供することにある。
【0005】
本発明の別の目的は、低温での熱処理にも関わらず、金属コロイド中に含まれる金属コロイド粒子を構成する金属そのものが有する電気抵抗に近い電気抵抗を有する金属膜を形成できる、金属膜形成方法及び該方法により得られる金属膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、金属コロイド粒子が金属粒子と粒子表面に配位修飾した保護剤とにより構成され、保護剤が分子中に窒素又は酸素のいずれか一方又はその双方を含む炭素骨格を有し、かつ窒素、酸素、窒素を含む原子団及び酸素を含む原子団からなる群より選ばれた1種又は2種以上をアンカーとして金属粒子表面に配位修飾した構造を有し、保護剤がハイドロキシアルキル基を分子構造に含み、金属コロイド粒子を水系又は非水系のいずれか一方の分散媒又はその双方を混合した分散媒に所定の割合で混合して分散させた金属コロイドを基材表面に塗布する工程と、塗布した金属コロイド中の分散媒を自然乾燥により除去する工程と、基材を1.0×103Pa以下の真空雰囲気下、200℃以下で熱処理することにより、基材表面に金属膜を形成する工程とを含むことを特徴とする金属膜形成方法である。
【0007】
請求項1に係る発明では、上記構造を有する金属コロイドを基材表面に塗布し、塗布した金属コロイド中の分散媒を自然乾燥により除去した後、基材を1.0×103Pa以下の真空雰囲気下で熱処理することにより、大気圧雰囲気下で熱処理した場合に比べて、電気抵抗を大幅に低減した金属膜を形成できる。また、200℃以下と低温での熱処理にも関わらず、金属コロイド中に含まれる金属コロイド粒子を構成する金属そのものが有する電気抵抗に近い電気抵抗を有する金属膜を形成できる。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明であって、保護剤に含まれる窒素が、アミノ基、アミド基及びイミド基からなる群より選ばれた少なくとも1種を由来とする金属膜形成方法である。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1に係る発明であって、保護剤に含まれる酸素が、カルボニル基、カルボキシル基、アルデヒド基及びアミド基からなる群より選ばれた少なくとも1種を由来とする金属膜形成方法である。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項1に係る発明であって、金属コロイド粒子を構成する金属粒子が、Au、Ag、Pt、Cu、Pd、Ni、Zn、Ru、Rh、In及びIrからなる群より選ばれた1種又は2種以上である金属膜形成方法である。
【0011】
請求項5に係る発明は、請求項1に係る発明であって、金属コロイド粒子を構成する金属粒子が、Auである金属膜形成方法である。
【0012】
請求項6に係る発明は、請求項1に係る発明であって、金属コロイド粒子の平均粒子径が、1〜60nmの範囲である金属膜形成方法である。
【0013】
請求項7に係る発明は、請求項1に係る発明であって、金属コロイド粒子の形状が、球状、多角状又はアメーバ状を有する粒状粒子である金属膜形成方法である。
【0014】
請求項8に係る発明は、請求項1に係る発明であって、金属コロイドの基材への塗布方法が、塗布、吹付け、印刷、吐出及び転写からなる群より選ばれた1種又は2種以上の方法である金属膜形成方法である。
【0015】
請求項9に係る発明は、請求項1に係る発明であって、金属コロイドの基材への塗布方法が、インクジェット方式、ディスペンサ方式、スクリーン印刷方式、反転印刷方式、スリットコート方式及びスプレー方式からなる群より選ばれた1種又は2種以上の方法である金属膜形成方法である。
【0016】
請求項10に係る発明は、請求項1に係る発明であって、基材が、ガラス、プラスチック、金属、木材、タイルを含むセラミック、セメント、コンクリート、石、繊維、紙及び皮革からなる群より選ばれた材質である金属膜形成方法である。
【0017】
請求項11に係る発明は、請求項1に係る発明であって、金属コロイドを塗布した基材の熱処理が、基材を1.0×103Pa以下の真空雰囲気下、200℃以下で1〜60分間保持することにより行われる金属膜形成方法である。
【0018】
請求項12に係る発明は、請求項1ないし11いずれか1項に記載の方法により得られた金属膜である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の金属膜形成方法は、金属コロイド粒子が金属粒子と粒子表面に配位修飾した保護剤とにより構成され、保護剤が分子中に窒素又は酸素のいずれか一方又はその双方を含む炭素骨格を有し、かつ窒素、酸素、窒素を含む原子団及び酸素を含む原子団からなる群より選ばれた1種又は2種以上をアンカーとして金属粒子表面に配位修飾した構造を有し、保護剤がハイドロキシアルキル基を分子構造に含み、金属コロイド粒子を水系又は非水系のいずれか一方の分散媒又はその双方を混合した分散媒に所定の割合で混合して分散させた金属コロイドを基材表面に塗布し、塗布した金属コロイド中の分散媒を自然乾燥により除去した後、基材を1.0×103Pa以下の真空雰囲気下で熱処理することにより、大気圧雰囲気下で熱処理した場合に比べて、電気抵抗を大幅に低減した金属膜を形成できる。また、200℃以下と低温での熱処理にも関わらず、金属コロイド中に含まれる金属コロイド粒子を構成する金属そのものが有する電気抵抗に近い電気抵抗を有する金属膜を形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0021】
本発明の金属膜形成方法は、金属コロイドを基材表面に塗布する工程と、塗布した金属コロイド中の分散媒を自然乾燥により除去する工程と、基材を1.0×103Pa以下の真空雰囲気下、200℃以下で熱処理することにより、基材表面に金属膜を形成する工程とを含むことを特徴とする。
【0022】
本発明の方法において使用する金属コロイドは、金属コロイド粒子を水系又は非水系のいずれか一方の分散媒又はその双方を混合した分散媒に所定の割合で混合して分散させることにより形成される。金属コロイドを構成する金属コロイド粒子は、金属粒子と粒子表面に配位修飾した保護剤とにより構成される。また金属粒子表面に配位修飾した保護剤は、分子中に窒素又は酸素のいずれか一方又はその双方を含む炭素骨格を有し、かつ窒素、酸素、窒素を含む原子団及び酸素を含む原子団からなる群より選ばれた1種又は2種以上をアンカーとして金属粒子表面に配位修飾した構造を有する。更に、保護剤はハイドロキシアルキル基を分子構造に含む。
【0023】
このように、金属膜を形成する金属コロイド中の金属コロイド粒子を構成する保護剤が分子中に窒素又は酸素のいずれか一方又はその双方を含む炭素骨格を有し、かつ窒素、酸素、窒素を含む原子団及び酸素を含む原子団からなる群より選ばれた1種又は2種以上をアンカーとして金属粒子表面に強固に配位修飾した構造を有しているので、この金属コロイド粒子を分散媒に分散させた金属コロイドは極めて高い安定性が得られる。この結果、高濃度の金属コロイドとすることができ、粘度変化も少ない。また保護剤の分子構造中に含まれるハイドロキシアルキル基は反応性が高いため、あらゆる基材に対して化学結合をする。具体的には、図1に示すように、保護剤の一端がXで表される保護剤配位修飾部位をアンカーとして金属粒子(図1ではAu粒子)表面に結合することによって、金属粒子表面に対しては保護剤が強固に結合されるため、金属コロイド自体の安定性が得られる。また保護剤の他端に位置するRで表される保護剤末端部位がコロイド最表面となり、この保護剤末端部位を反応性の高いハイドロキシアルキル基としたため、基材との密着性に優れる。
【0024】
保護剤がXで表される保護剤配位修飾部位をアンカーとして金属粒子表面に結合していることは、例えばNMR、GPC、TG−DTA、FT−IR、XPS、TOF−SIMS、X線小角散乱分析(Small Angle X-ray Scattering;SAXS)、可視紫外分光、ラマン分光(Surface Enhanced Raman Scattering;SERS)、X線吸収分光(X-ray Absorption Fine Structure;XAFS)等の分析手段などによって確認することができる。上記分析手段により、保護剤がどのような元素又はどのような原子団によってアンカーされているかも確認することができる。
【0025】
また、金属粒子同士は自発的に自己組織化して最密充填を行い、反応性の官能基との間で縮合反応する。従って、このような金属コロイド粒子を用いた金属コロイドを基材表面に塗布して得られる金属膜は強度が高く、粒子間で有機−無機ハイブリッドバルク化するものと考えられるため、反応しない保護剤からなる金属コロイド、もしくは反応性の低い保護剤からなる金属コロイドを用いて作製した金属コロイド含有塗膜形成物に比べると比較的膜強度が高い。
【0026】
本発明の形成方法では、上記性質を有する金属コロイドを基材表面に塗布し、塗布した金属コロイド中の分散媒を自然乾燥により除去した後、基材を1.0×103Pa以下の真空雰囲気下で熱処理することにより、その技術的理由は解明されていないが、大気圧雰囲気下で熱処理した場合に比べて、電気抵抗を大幅に低減した金属膜を形成できる。また、200℃以下と低温での熱処理にも関わらず、金属コロイド中に含まれる金属コロイド粒子を構成する金属そのものが有する電気抵抗に近い電気抵抗を有する金属膜を形成できる。
【0027】
本発明において使用する金属コロイドにおいて、金属コロイド粒子を構成する保護剤に含まれる窒素としては、アミノ基、アミド基及びイミド基からなる群より選ばれた少なくとも1種を由来とすることが好適である。また、金属コロイド粒子を構成する保護剤に含まれる酸素は、カルボニル基、カルボキシル基、アルデヒド基及びアミド基からなる群より選ばれた少なくとも1種を由来とすることが好適である。
【0028】
金属コロイド粒子を構成する金属粒子の金属種としては、例えば、Au、Ag、Pt、Cu、Pd、Ni、Zn、Ru、Rh、In及びIrからなる群より選ばれた1種又は2種以上が挙げられる。このうち、Auが特に好ましい。これらの金属粒子を生成させる金属化合物としては、塩化金酸、シアン化金カリウム、塩化銀、硝酸銀、硫酸銀、シアン化銀、塩化白金酸、テトラクロロヘキサアミン白金、硝酸パラジウム、塩化パラジウム、塩化イリジウム酸、塩化イリジウム、塩化ルテニウム、硝酸ルテニウム、塩化ロジウム、硝酸ロジウム、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、酢酸銅、塩化亜鉛、塩化インジウムなどの金属塩を用いることができる。還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウム、トリメチルアミンボラン、ジメチルアミンボラン、ターシャリーブチルアミンボラン、2級アミン、3級アミン、次亜リン酸塩、グリセリン、アルコール、過酸化水素、ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、ホルムアルデヒド水溶液、酒石酸塩、ブドウ糖、N-N-ジエチルグリシンナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ガス、硫酸第1鉄などを用いることができる。
【0029】
金属コロイド粒子を構成する金属粒子の平均粒子径は1〜60nmの範囲内が好適である。また、金属コロイド粒子の形状は球状、多角状又はアメーバ状を有する粒状粒子である。特に、本発明で使用する金属コロイド粒子は、粒子径が例えば0.1〜60nmであるものは安定性に優れる。粒子径が60nmより大きいと自重によって自然沈降する現象が見られる。また粒子径が0.1nm未満では発色効果が小さくなる。
【0030】
本発明において使用する金属コロイドは前述したように高い安定性を有するため高濃度とすることができる。従来の方法によって得られる金属コロイド濃度は概ね1重量%以下であるが、本発明において使用する金属コロイドは濃度10重量%以上の高濃度にすることができる。しかも、このような高濃度の金属コロイドにおいてもコロイド液が安定であり、前述したように粘度変化が小さい。例えば、金属粒子がAuを含む金属コロイドの場合、Au濃度は0.1〜95重量%の範囲内で安定であり、分散媒には有機溶剤でも水でも扱うことができる。金属コロイド中のAu濃度は、10〜60重量%の範囲内がより好ましい。
【0031】
金属コロイド粒子の製造方法は特に限定されず、金属コロイド粒子に対する上記結合構造が得られる製造方法であれば良いが、具体的な製法の一例としては、非水系において、アミノアルコールと金属化合物とを混合し、還元剤の存在下で金属化合物を還元することによって、窒素をアンカーとして上記アミノアルコールからなる保護剤が金属粒子表面に結合した金属コロイド粒子を得ることができる。
【0032】
本発明の金属膜形成方法では、先ず、金属コロイドを基材に塗布、吹付け、印刷、吐出及び転写からなる群より選ばれた1種又は2種以上の方法により塗布する。塗布する方法としては、インクジェット方式、ディスペンサ方式、スクリーン印刷方式、反転印刷方式、スリットコート方式及びスプレー方式からなる群より選ばれた1種又は2種以上の方法が挙げられる。使用される基材としては、ガラスやプラスチック、金属、木材、タイルを含むセラミック、セメント、コンクリート、石、繊維、紙、皮革などの材質が挙げられる。次いで、塗布した金属コロイド中の分散媒を自然乾燥により除去する。自然乾燥により金属コロイドに含まれる分散媒を取除くことによって、低抵抗の金属膜を形成し易くする。
【0033】
次に、基材を1.0×103Pa以下の真空雰囲気下、200℃以下で1〜60分間保持して熱処理することにより、基材表面に金属膜を形成する。熱処理は0.1〜9.0×102Paの真空雰囲気下、70〜200℃の温度で10〜40分保持することが特に好ましい。
【0034】
熱処理雰囲気を1.0×103Pa以下の真空雰囲気としたのは、1.0×103Paよりも高い雰囲気では、200℃以下の低温で熱処理しても、形成した金属膜に所望の導電性が発現しないためである。熱処理温度を200℃以下としたのは、200℃を越える温度でも、金属コロイド中に含まれる金属コロイド粒子を構成する金属そのものが有する電気抵抗に近い電気抵抗を有する金属膜を形成することはできるが、200℃を越える温度で性質が劣化してしまったり、変質してしまうような基材への金属膜形成には対応することができないためである。保持時間は1〜60分間が好ましい。その理由は、上記温度範囲内で保持時間が1分未満であると、溶媒或いは保護剤の分解或いは脱離が不十分であるか、或いは焼結が不十分であるため、所望の導電性が発現しない場合があるためである。また保持時間が60分を越えても、得られる金属膜の電気抵抗値はさほど変わらないため、生産性やコストの面で好ましくない。
【0035】
このように本発明の金属膜形成方法では、上記構造を有する金属コロイドを基材表面に塗布し、塗布した金属コロイド中の分散媒を自然乾燥により除去した後、基材を1.0×103Pa以下の真空雰囲気下で熱処理することにより、大気圧雰囲気下で熱処理した場合に比べて、電気抵抗を大幅に低減した金属膜を形成できる。また、200℃以下と低温での熱処理にも関わらず、金属コロイド中に含まれる金属コロイド粒子を構成する金属そのものが有する電気抵抗に近い電気抵抗を有する金属膜を形成できる。
【0036】
上記形成方法により得られた本発明の金属膜は、金属コロイド中に含まれる金属コロイド粒子を構成する金属そのものが有する電気抵抗に近い電気抵抗を有する。具体的には1×10-3Ω・cm以下の低抵抗の金属膜となる。本発明の金属膜は、配線材として使用することができる。
【実施例】
【0037】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0038】
<合成1>
金属塩として塩化金酸を、保護剤前駆体として2−アミノエタノールを、還元剤としてジメチルアミンボランをそれぞれ用意した。先ず、2−アミノエタノール5.00gにジメチルアミンボランを適量添加した。また、金属濃度が4.0重量%になるように塩化金酸を溶解したメタノール液を徐々に投入して混合溶液を調製した。この混合溶液の調製は60℃に保温し、混合溶液をマグネチックスターラーで攪拌しながら行い、金属コロイド粒子が生成して赤色を呈するまで還元反応させた。次に、還元反応を終えた混合溶液を室温にまで冷却し、冷却後、混合溶液を限外濾過法により脱塩を行い、水を分散媒とした金属コロイドを得た。この金属コロイドに水に適宜添加して濃度を調節し、金属コロイド粒子を水に分散させた濃度50重量%の金属コロイドを得た。
【0039】
得られた金属コロイドをTOF−SIMS分析したところ、AuとCNからなるクラスターイオンが優勢に検出された。更に、NMR(C,H)により分析した結果を併せることにより、金属コロイド中の金属コロイド粒子を構成する保護剤分子は、窒素にてAu粒子表面に配位修飾していることが判った。
【0040】
<合成2〜23>
金属塩、保護剤前駆体、還元剤及び分散媒の種類を次の表1及び表2に示す化合物にそれぞれ変更した以外は、合成1と同様の方法により各種金属コロイドを得た。なお、表1及び表2中の保護剤前躯体の種類欄において、記号(A)〜(J)で示される化合物を表3に示す。
【0041】
また、合成2〜23でそれぞれ得られた金属コロイド粒子の保護分子構造についてもNMR、TOF−SIMS、FT−IR、SAXS、可視紫外分光、SERS、XAFS等の各種分析手法を組合わせて解析することにより確認した。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

<実施例1〜5>
基材として、20mm×20mm×1mm厚のガラス基板を用意し、このガラス基板表面に、合成9で得られた50重量%濃度の金属コロイドをスピンコート法により塗布した。スピンコートは、ガラス基板を1000rpmの回転速度で回転させ、金属コロイドを基板に滴下しながら1分間回転し続けることにより行った。次いで、金属コロイドを塗布したガラス基板を室温で自然乾燥して金属コロイド中の分散媒を除去した。次に、ガラス基板を次の表4に示す条件で熱処理することにより、ガラス基板表面に金属膜を形成した。具体的には、1.1Pa〜9.3×102Paまでの真空雰囲気、室温での自然乾燥〜200℃での温度で30分間保持する熱処理を行った。
【0045】
<比較例1〜4>
基材として、20mm×20mm×1mm厚のガラス基板を用意し、このガラス基板表面に、合成9で得られた50重量%濃度の金属コロイドをスピンコート法により塗布した。スピンコートは、ガラス基板を1000rpmの回転速度で回転させ、金属コロイドを基板に滴下しながら1分間回転し続けることにより行った。次いで、金属コロイドを塗布したガラス基板を室温で自然乾燥して金属コロイド中の分散媒を除去した。次に、ガラス基板を次の表4に示す条件で熱処理することにより、ガラス基板表面に金属膜を形成した。具体的には、1.0×105Paの大気圧雰囲気、室温での自然乾燥〜200℃での温度で30分間保持する熱処理を行った。
【0046】
<比較例5及び6>
基材として、20mm×20mm×1mm厚のガラス基板を用意し、このガラス基板表面に、合成9で得られた50重量%濃度の金属コロイドをスピンコート法により塗布した。スピンコートは、ガラス基板を1000rpmの回転速度で回転させ、金属コロイドを基板に滴下しながら1分間回転し続けることにより行った。次いで、金属コロイドを塗布したガラス基板を室温で自然乾燥して金属コロイド中の分散媒を除去した。次に、ガラス基板を次の表4に示す条件で熱処理することにより、ガラス基板表面に金属膜を形成した。具体的には、1.5×104Pa及び2.5×103Paの真空雰囲気、70℃での温度で30分間保持する熱処理を行った。
【0047】
<比較例7及び8>
基材として、20mm×20mm×1mm厚のガラス基板を用意し、このガラス基板表面に、合成9で得られた50重量%濃度の金属コロイドをスピンコート法により塗布した。スピンコートは、ガラス基板を1000rpmの回転速度で回転させ、金属コロイドを基板に滴下しながら1分間回転し続けることにより行った。次いで、金属コロイドを塗布したガラス基板を室温で自然乾燥して金属コロイド中の分散媒を除去した。次に、ガラス基板を次の表4に示す条件で熱処理することにより、ガラス基板表面に金属膜を形成した。具体的には、1.0×105Paの大気圧雰囲気及び8.5×102Paの真空雰囲気、300℃での温度で30分間保持する熱処理を行った。
【0048】
<比較試験>
実施例1〜5及び比較例1〜8で得られた金属膜の電気抵抗値を測定した。その結果を表4にそれぞれ示す。また、実施例1〜4及び比較例1〜8で得られた金属膜における、熱処理工程での温度及び圧力条件と金属膜の電気抵抗の関係を図2に示す。
【0049】
【表4】

表4及び図2より明らかなように、実施例1〜5と比較例1〜4のそれぞれの熱処理温度で比較すると、真空雰囲気下にて熱処理することにより、得られる金属膜の電気抵抗値が大幅に下がっており、真空雰囲気での熱処理が効果的であることが確認された。また比較例5及び6では、実施例2と同様に、真空雰囲気下、70℃にて熱処理したにも関わらず、比較例2の大気圧雰囲気下で熱処理した場合に比べて、金属膜の電気抵抗値の差があまり見られなかった。このことから、電気抵抗値を低減することができる真空雰囲気の条件は、実施例1〜5のように、1.0×103Pa以下にまで高める必要があることが判った。実施例2と実施例5の金属膜の電気抵抗値を比較すると、実施例5のように真空度を1.1Paと大幅に高めても、実施例2の102Pa台の真空度とそれほど大差がないことが判った。更に、300℃の熱処理温度では、比較例7の大気圧雰囲気下での金属膜の電気抵抗値も、金属Auそのものが有する電気抵抗値に近づいている為か、比較例7及び比較例8の電気抵抗値の差は小さく、300℃の熱処理温度では真空雰囲気下での熱処理の効果が見られなかった。このことから、真空雰囲気は、200℃以下の温度における熱処理に効果的であることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の金属膜形成方法は、低温での熱処理で低抵抗の金属膜を形成することができるため、樹脂フィルムといったフレキシブル基材に対して金属膜を形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の金属コロイド粒子の模式図。
【図2】実施例1〜4及び比較例1〜8で得られた金属膜における熱処理工程での温度及び圧力条件と金属膜の電気抵抗の関係を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属コロイド粒子が金属粒子と前記粒子表面に配位修飾した保護剤とにより構成され、前記保護剤が分子中に窒素又は酸素のいずれか一方又はその双方を含む炭素骨格を有し、かつ前記窒素、酸素、窒素を含む原子団及び酸素を含む原子団からなる群より選ばれた1種又は2種以上をアンカーとして金属粒子表面に配位修飾した構造を有し、
前記保護剤がハイドロキシアルキル基を分子構造に含み、
前記金属コロイド粒子を水系又は非水系のいずれか一方の分散媒又はその双方を混合した分散媒に所定の割合で混合して分散させた金属コロイドを基材表面に塗布する工程と、
前記塗布した金属コロイド中の分散媒を自然乾燥により除去する工程と、
前記基材を1.0×103Pa以下の真空雰囲気下、200℃以下で熱処理することにより、前記基材表面に金属膜を形成する工程と
を含むことを特徴とする金属膜形成方法。
【請求項2】
保護剤に含まれる窒素が、アミノ基、アミド基及びイミド基からなる群より選ばれた少なくとも1種を由来とする請求項1記載の金属膜形成方法。
【請求項3】
保護剤に含まれる酸素が、カルボニル基、カルボキシル基、アルデヒド基及びアミド基からなる群より選ばれた少なくとも1種を由来とする請求項1記載の金属膜形成方法。
【請求項4】
金属コロイド粒子を構成する金属粒子が、Au、Ag、Pt、Cu、Pd、Ni、Zn、Ru、Rh、In及びIrからなる群より選ばれた1種又は2種以上である請求項1記載の金属膜形成方法。
【請求項5】
金属コロイド粒子を構成する金属粒子が、Auである請求項1記載の金属膜形成方法。
【請求項6】
金属コロイド粒子の平均粒子径が、1〜60nmの範囲である請求項1記載の金属膜形成方法。
【請求項7】
金属コロイド粒子の形状が、球状、多角状又はアメーバ状を有する粒状粒子である請求項1記載の金属膜形成方法。
【請求項8】
金属コロイドの基材への塗布方法が、塗布、吹付け、印刷、吐出及び転写からなる群より選ばれた1種又は2種以上の方法である請求項1記載の金属膜形成方法。
【請求項9】
金属コロイドの基材への塗布方法が、インクジェット方式、ディスペンサ方式、スクリーン印刷方式、反転印刷方式、スリットコート方式及びスプレー方式からなる群より選ばれた1種又は2種以上の方法である請求項1記載の金属膜形成方法。
【請求項10】
基材が、ガラス、プラスチック、金属、木材、タイルを含むセラミック、セメント、コンクリート、石、繊維、紙及び皮革からなる群より選ばれた材質である請求項1記載の金属膜形成方法。
【請求項11】
金属コロイドを塗布した基材の熱処理が、前記基材を1.0×103Pa以下の真空雰囲気下、200℃以下で1〜60分間保持することにより行われる請求項1記載の金属膜形成方法。
【請求項12】
請求項1ないし11いずれか1項に記載の方法により得られた金属膜。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−95182(P2008−95182A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−225247(P2007−225247)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】