説明

金属被覆断熱保温材

【課題】本発明の目的は、配管破断による非常用炉心冷却系統ポンプ作動時に、配管破断に伴う保温材の破壊屑等が非常用炉心冷却系統ストレーナの目詰まりを起し、非常用炉心冷却系統ポンプ停止の原因となることがない金属被覆断熱保温材を提供することにある。
【解決手段】本発明の金属被覆断熱保温材は、配管設備を断熱保温するための保温材及び該保温材を被覆するための金属被覆材より構成される金属被覆断熱保温材において、前記保温材が樹脂系発泡体または無機系多孔体より構成されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種配管設備、特に、原子力発電プラントの配管や機器等の配管設備を断熱被覆するための金属被覆断熱保温材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、原子力発電プラントにおいては、原子炉から延出するように配管された配管や、付設されている各種機器等は断熱保温材により被覆されている。また、特許文献1には、金属製ケースの内部に多数の金属薄板が積層状に充填配置される金属反射型保温装置において、前記金属薄板に、格子状に型押しされたリブと、前記格子状リブで区画される面部分にあって、金属薄板間で異なる位相部位に前記リブより高く型押しされた突起とが設けられ、金属薄板は前記突起高さで規制される間隔をとって積層されていることを特徴とする金属反射型保温装置が開示されている。また、特許文献2には、断熱保温すべき配管や機器の外側に、軸方向および周方向に複数個に分割された保温体を配置し、かつ該保温体の周方向接合部の1つが配管の頂上部に位置するように配置し、前記接合部の周方向両側に変形防止用金属板を取り付けて成ることを特徴とする断熱保温装置が開示されている。また、特許文献2の[0013]段落には、保温体として、金属薄板を層状に積層しケース状の金属板で覆ってなる金属保温材、ロックウール等の繊維質保温材や、シリカ、珪酸カルシウム等の成形保温材を金属ケースで被覆してなる金属被覆保温材が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特許第3375482号公報 特許請求の範囲
【特許文献2】特開2000−35192号公報 特許請求の範囲 [0013]
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような保温材のうち、金属薄板を積層してなる金属製保温材は、加工が難しく、また、費用も掛る。また、珪酸カルシウムを使用した金属被覆保温材は、珪酸カルシウムの加工が難しく、複雑な形状のものに精度良く適応させることが困難であった。
【0005】
そこで、従来、ロックウールを使用した保温材が多用されている。ところが、配管破断による原子炉冷却材喪失事故[原子炉に繋がっている配管の破断等により原子炉内の冷却材(炉水)が流出する事象]時には、原子炉に注水するため非常用炉心冷却系統ポンプが自動起動し原子炉に注水されるが、水源であるサプレッションプールに異物が存在して該ポンプに吸い込まれてポンプ等に悪影響を与えることがあるため、サプレッションプールの該ポンプへの吸い込み口には非常用炉心冷却系統ストレーナ(金網)が設置されている。配管が破断すると、保温材に使用されているロックウールも破損して飛散し、サプレッションプール中の水に混入し、非常用炉心冷却系統ストレーナの目詰まりの原因となることが考えられる。非常用炉心冷却系統ストレーナが目詰まりを起こすと、該ポンプの吸水圧力が低下して該ポンプを停止させなければならない事態を生ずる。ここで、非常用炉心冷却系統ストレーナは、サプレッションプール中の水位の中程に設置されており、該ポンプを停止することにより非常用炉心冷却系統ストレーナに吸引されたロックウール等をサプレッションプールの底部に落下させ、それによって該ポンプを再稼働させることができる構成となっている。
【0006】
従って、本発明の目的は、配管破断による非常用炉心冷却系統ポンプ作動時に、配管破断に伴う保温材の破壊屑等が非常用炉心冷却系統ストレーナの目詰まりを起し、非常用炉心冷却系統ポンプ停止の原因となることがない金属被覆断熱保温材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は、配管設備を断熱保温するための保温材及び該保温材を被覆するための金属被覆材より構成される金属被覆断熱保温材において、前記保温材が樹脂系発泡体または無機系多孔体より構成されることを特徴とする金属被覆断熱保温材を提供することにある。
【0008】
また、本発明の金属被覆断熱保温材は、配管設備が原子力発電プラントの配管設備であることを特徴とする。
【0009】
更に、本発明の金属被覆断熱保温材は、樹脂系発泡体がシリコーンフォーム及び/またはポリイミドフォームであることを特徴とする。
【0010】
更に、本発明の金属被覆断熱保温材は、無機系多孔体がフォームグラス、パーライト系多孔体及び/または珪酸カルシウム系多孔体であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の金属被覆断熱保温材は、無機質多孔体が、非晶質珪酸、補強繊維及び充填材を含有する原料を成形し硬化させてなる多孔質成形体であって、前記原料にアルカリ金属化合物を含有するpH8〜13の水溶液又は水分散液を添加し、加熱することなく硬化させてなる多孔質成形体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、保温材として使用される樹脂系発泡体や無機系多孔体の比重が水よりも軽いため、配管破断による非常用炉心冷却系統ポンプ作動時に、配管破断に伴い発生する保温材の破壊屑等がサプレッションプールの水中に沈降することなく、水面を浮遊し、それによって非常用炉心冷却系統ストレーナの目詰まりを起し、非常用炉心冷却系統ポンプ停止の原因となることがない金属被覆断熱保温材を提供することができるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の金属被覆断熱保温材は、各種配管設備を保温するための保温材及び該保温材を被覆するための金属被覆材より構成されるもので、前記保温材として樹脂系発泡体または無機系多孔体を使用することを特徴とするものである。
【0014】
ここで、樹脂系発泡体としては、例えばポリイミドフォーム、シリコーンフォーム等を使用することができる。ポリイミドフォームは、主成分がポリイミド樹脂から構成されるもので、密度4〜10kg/m、最高連続使用温度300℃、熱伝導率0.046W/mKを有するものである。また、シリコーンフォームは、主成分がシリコーンゴムから構成されるもので、密度270〜330kg/m、最高連続使用温度150℃、熱伝導率0.036W/mKを有するものである。
【0015】
また、無機系多孔体としては、フォームグラス、パーライト系多孔体、珪酸カルシウム系多孔体等を使用することができる。フォームグラスは、主成分がガラスから構成されるもので、密度100〜150kg/m、最高連続使用温度400℃、熱伝導率0.036W/mKを有するものであります。また、パーライト系多孔体は、パーライト粉末に少量の水ガラス又はコロイダルシリカを添加してなる混練物を所定形状の型枠に流し込むことにより得られるもので、密度200〜350kg/m、最高連続使用温度500℃を有するものである。更に、珪酸カルシウム系多孔体は、珪酸カルシウム粉末に少量の水ガラス又はコロイダルを添加してなる混練物を所定形状の型枠に流し込むことにより得られるもので、密度200〜350kg/m、最高連続使用温度500℃を有するものである。
【0016】
また、本発明の金属被覆断熱保温材を原子力発電プラント以外の用途に使用する場合には、無機質多孔体として、非晶質珪酸、補強繊維及び充填材を含有する原料を成形し硬化させてなる多孔質成形体であって、前記原料にアルカリ金属化合物を含有するpH8〜13の水溶液又は水分散液を添加し、加熱することなく硬化させてなる多孔質成形体を無機質多孔体として使用することもできる。この多孔質成形体は、非晶質珪酸、補強繊維、充填材及びアルカリ金属化合物を含有するpH8〜13の水溶液又は水分散液が混合されたスラリーを脱水成形し、加熱することなく、例えば5〜40℃の硬化温度で硬化させることにより得ることができる。なお、アルカリ金属化合物を含有する水溶液又は水分散液は、アルカリ金属水酸化物水溶液又は水に接する表面の一部又は全部がSi−OM(M:アルカリ金属)に置換しているアルカリ金属処理非晶質珪酸を含む水分散液であることができる。この多孔質成形体は、密度200〜500kg/m、最高連続使用温度900℃を有するものである。なお、この多孔質成形体は、本願出願人により特願平2005−198478号として既に提案されている。
【0017】
なお、原子力発電プラントの配管設備に断熱保温材を施工するに際して、保温材は予め所定の寸法、形状とした成形体として施工現場に搬入するのが普通であり、例えば、保温材を構成する上記材質の中で、ポリイミドフォーム、シリコーンフォーム及びフォームグラスは、予めブロック形状の成形体を作製し、この成形体から所定の寸法、形状に切断加工することにより保温材とすることができる。また、シリコーンフォーム、パーライト系多孔体、珪酸カルシウム系多孔体は、所定の寸法、形状の型枠に流し込み、硬化させることにより保温材とすることができる。なお、ポリイミドフォームを切断加工するに際しては、加熱時の収縮を考慮して所定寸法よりも若干大きくすることが好ましい。
【0018】
なお、本発明の金属被覆断熱保温材において、金属被覆材の形状、構成等は特に限定されるものではなく、現在保温材としてロックウールを使用している金属被覆断熱保温材における金属被覆材の構成と同様のものを使用することができ、例えばステンレス鋼板、アルミニウム板等から構成することができる。
【実施例】
【0019】
実施例1
ステンレス鋼板を用いて、内寸100mm×500mm×500mmのボックスを作製した。次に、ポリイミドフォーム(密度6kg/m)から105mm×530mm×530mmの保温材を切り出し、得られた保温材をボックスの内部へ、ボックスの開口部から装填した。次に、ボックスの開口部へステンレス鋼板製の外装板をリベットにより取り付けることにより本発明の金属被覆断熱保温材を得た。
【0020】
実施例2
まず、ステンレス鋼板を用いて、内寸100mm×500mm×500mmのボックスを作製した。次に、シリコーンフォームを構成する主剤及び硬化剤をよく混合した混合した物をボックスの内部へ、ボックスの開口部から注入し、硬化させることにより保温材(密度300kg/m)を得た。次に、ボックスの開口部へステンレス鋼板製の外装板をリベットにより取り付けることにより本発明の金属被覆断熱保温材を得た。
【0021】
実施例3
パーライト粉末90質量%及び水ガラス10質量%よりなる混合物をボックスの内部へ、ボックスの開口部から注入し、硬化させることにより保温材(密度250kg/m)を得た以外は、実施例2と同様にして本発明の金属被覆断熱保温材を得た。
【0022】
実施例4
微粉非晶質ケイ酸59質量%、炭化珪素30質量%、ガラス繊維1質量%、セラミック繊維10質量%よりなる混合物に、外掛で5質量%のニップシールNA水分散液を混練してなる混練物を所定形状のモールドに投入して加圧成形(成形圧1.5MPa)することにより成形体(密度380kg/m)を得た。該成形体から100mm×500mm×500mmの寸法の保温材を切り出し、得られた保温材をボックスの内部へ、ボックスの開口部から装填した。次に、ボックスの開口部へステンレス鋼板製の外装板をリベットにより取り付けることにより本発明の金属被覆断熱保温材を得た。
【0023】
上記実施例1から4で得られた金属被覆断熱保温材中の保温材を粉砕し、得られた粉砕物を水に投入すると、水面を浮遊しており、従って、保温材の粉砕物がサプレッションプールの水中に設置された非常用炉心冷却系統ストレーナの目詰まりの原因となる恐れがないことが確認できた。
【0024】
なお、上記実施例1ないし4においては、単に、ステンレス鋼板製のボックスに保温材を装填した基本的形態の金属被覆断熱保温材を例示したが、本発明の金属被覆断熱保温材はこれに限定されるものではなく、直管、エルボ、ティ・バルブ等の形状、口径、曲げ角、保温材の厚さ、周囲状況等を勘案して本発明の金属被覆断熱保温材の分割数、形状等を適宜決定することができ、それらを組み合わせて配管設備の金属被覆断熱保温材とすることができることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の金属被覆断熱保温材は、各種配管設備、特に、原子力発電プラントの配管設備を断熱保温するための金属被覆断熱保温材として好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管設備を断熱保温するための保温材及び該保温材を被覆するための金属被覆材より構成される金属被覆断熱保温材において、前記保温材が樹脂系発泡体または無機系多孔体より構成されることを特徴とする金属被覆断熱保温材。
【請求項2】
配管設備は、原子力発電プラントの配管設備である、請求項1記載の金属被覆断熱保温材。
【請求項3】
樹脂系発泡体は、シリコーンフォーム及び/またはポリイミドフォームである、請求項1または2記載の金属被覆断熱保温材。
【請求項4】
無機系多孔体は、フォームグラス、パーライト系多孔体及び/または珪酸カルシウム系多孔体である、請求項1または2記載の金属被覆断熱保温材。
【請求項5】
無機質多孔体は、非晶質珪酸、補強繊維及び充填材を含有する原料を成形し硬化させてなる多孔質成形体であって、前記原料にアルカリ金属化合物を含有するpH8〜13の水溶液又は水分散液を添加し、加熱することなく硬化させてなる多孔質成形体である、請求項1記載の金属被覆断熱保温材。