説明

金属酸化物ゾル及びその製造方法

【課題】バナジウム成分とチタン成分とを含有し、保存安定性に優れた金属酸化物ゾル、特に脱硝触媒として有用な金属酸化物ゾルを提供することを目的とする。
【解決手段】バナジウム成分とチタン成分とを含有し、バナジウムに対してチタンが、TiO/V(質量比)として0.25〜1であることを特徴とする金属酸化物ゾルである。
また、アルカリ性のバナジン酸塩水溶液と酸性のチタン塩水溶液とを混合して得られたゲルから副成分を除去した後、50〜150℃で加熱することを特徴とする前記金属酸化物ゾルの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バナジウムとチタンとを含有する金属酸化物ゾル及びその製造製法に関する。更に詳しくは、高濃度でバナジウムを含有し、特に脱硝触媒として有用な金属酸化物ゾル及びその製造製法に関する。
【背景技術】
【0002】
五酸化バナジウムは、二酸化硫黄を三酸化硫黄に酸化する酸化触媒として、古くから硫酸の製造に使用されている。また、リン酸や酸化モリブデンと複合化してベンゼン、ブタン、ブテンなどの酸化に、或いはマレイン酸の製造にも使用されている。特に近年、脱硝触媒としてバナジウムは注目されている。ところで五酸化バナジウムを含む触媒の製造に当たっては、五酸化バナジウム単独で用いる場合もあるが、多くの場合は、シリカ、アルミナあるいは酸化チタン等の担体上に担持したり、他の酸化物と複合化させて用いることが多く、このような場合にはバナジウム溶液あるいはバナジウムの酸化物または各種塩類の分散液として触媒製造に供される。
【0003】
従来、担持法としては混練法、含浸法、共沈法等が知られており、例えば、酸化バナジウムのスラリー状の溶液やバナジウムの各種塩類等の前駆体溶液に担体を浸してから乾燥、焼成する含浸担持法が最も一般的であるが、溶液に担体を浸した後に沈殿剤を加えて担体上に沈殿を析出させる担持法、あるいは担体上に直接溶液をスプレーする担持法等も一部行われている。
一般に担持触媒の性能は、触媒元素の担持状態によって大きく影響される。即ち、バナジウムを担体上に担持させる場合、バナジウム含有溶液の安定性や分散状態が悪く、担持工程で沈殿が生じたりするときは、担体上でバナジウムが局在化し、活性が低下したり、担体への吸着力が不足して所望の担持量が得られない。また、極端な場合は局所的に凝集したバナジウムが担体上から脱落する場合もあり、この様な場合は触媒の性能が著しく低下するだけでなく、安定的に触媒を製造することができない。
【0004】
これらの問題を解決するために、希薄な溶液を用いて多重担持させる方法や、分散性を改善したり、担体への吸着力を向上させるため薬剤を添加する方法も提案されているが、工程が複雑になったり、処理コストが増加するなど、必ずしも有効な方法ではない。一方、少量の溶液を用いて触媒元素と担体を高濃度で混練する方法も開発されているが、バナジウム触媒の場合均一分散された担持体を得ることが難しい。
【0005】
バナジウムを含浸担持させる際等に一般的に用いられているバナジウム源としては、五酸化バナジウム、バナジン酸アンモニウム、硫酸バナジル等が挙げられる。これらの化合物は容易に入手でき、且つ安価であるために、工業用原料として利用しやすいが、五酸化バナジウム、バナジン酸アンモニウムの溶解度は五酸化バナジウム換算で1質量%以下であるため、均質な原料溶液を得ようとすると大量の水で溶解させる必要がある。このような低濃度では、含浸用溶液としては生産性が悪く経済的に利用することができない。そこで、本願出願人は、アルカノールアミンやヒドロキシカルボン酸を用いて、バナジウムを高濃度で含有し、且つ、有害なガスを放出するような酸や他の金属イオンを含まない酸化バナジウム溶液を提案した(特許文献1、2)。
【0006】
ところで、細孔を有する担体上に担持させるためには、ゾル形態であることが要望されている。酸化バナジウムゾルの製造方法に関しては、従来より種々の技術が開示されており、例えば、特許文献3記載の酸化バナジウムゾルの製造方法は、バナジウムのアルコキシドを加水分解する方法であるが、この他にも熱加水分解法、溶融法、イオン交換法、過酸化水素に溶解させる方法等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−58866号公報
【特許文献2】特開2006−169025号公報
【特許文献3】特開平6−59392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1及び2記載の酸化バナジウム溶液中には、コロイド粒子が僅かながら含有されていることが記載されているが、酸化バナジウムの大部分は溶解しており、ゾルとは言い難いものである。
【0009】
一方、特許文献3記載の酸化バナジウムゾルの製造方法は、特殊な設備を要したり高価な原料を必要とするため、工業的生産に適しているとは言い難い。また、バナジウムをVとして4質量%以上の濃度で含有するゾルを製造することは困難であった。また、前記各公知の方法も、原料、設備等経済性、ガス発生等環境の問題、ゾル安定性等に一長一短があり直ちに採用できるものではない。一般的に、バナジウムゾルは、低濃度では粘度の低い液であるが、濃度が高くなるにつれて、粘度が高く、ペースト(ゼラチン)状となり、取扱いが困難になる傾向がある。
【0010】
このようなことから、バナジウムを含有するゾルであって、且つ、保存安定性に優れ、担持工程等で沈殿の発生を見ない金属酸化物ゾルが強く要請されていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明者らは、バナジウムを含有した安定な金属酸化物ゾルについて鋭意検討する中で、チタンを共存させることにより保存安定性に優れた金属酸化物ゾルが得られることを見出し、係る知見に基づき本発明を完成したものである。
【0012】
即ち、本発明は、[1] バナジウム成分とチタン成分とを含有し、バナジウムに対してチタンが、TiO/V(質量比)として0.25〜1であることを特徴とする金属酸化物ゾルに関する。
また、本発明は、[2] バナジウム成分がVとして2〜10質量%である上記[1]の金属酸化物ゾルに関する
更に、本発明は、[3] 上記[1]又は[2]の金属酸化物ゾルであって、さらに、安定化剤として、アンモニア及び/又はアミン化合物を、安定化剤/V(モル比)=0.05〜0.5の割合で含有する金属酸化物ゾルに関する
また、本発明は、[4] アミン化合物が、アルキルアミン、芳香族アミン、脂環式アミン、アルカノールアミン及び水酸化第四級アンモニウムからなる群より選ばれた1種以上の化合物である上記[3]の金属酸化物ゾルに関する。
また、本発明は、[5] アルカリ性のバナジン酸塩水溶液と酸性のチタン塩水溶液とを混合して得られたゲルから副成分を除去した後、50〜150℃で加熱することを特徴とする上記[1]又は[2]の金属酸化物ゾルの製造方法に関する。
更にまた、本発明は、[6] 前記50〜150℃で加熱する前又は後に、安定化剤として、アンモニア及び/又はアミン化合物を、安定化剤/V(モル比)=0.05〜0.5の割合で添加することを特徴とする上記[5]の金属酸化物ゾルの製造方法に関する。
また、本発明は、[7] アミン化合物が、アルキルアミン、芳香族アミン、脂環式アミン、アルカノールアミン及び水酸化第四級アンモニウムからなる群より選ばれた1種以上の化合物である上記[6]の金属酸化物ゾルの製造方法に関する。
更にまた、本発明は、[8] 副成分除去の程度が、限外ろ過膜を使用したときのろ液の電気伝導度が20mS/m以下となるまで副成分を除去することである上記[5]〜[7]のいずれかの金属酸化物ゾルの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の金属酸化物ゾルは、触媒として用いられるバナジウム成分とチタン成分とが共存してゾル化されており、更に保存安定性に優れているため、脱硝触媒をはじめとした各種用途において優れた効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の金属酸化物ゾルと、対照の五酸化バナジウムとアナターゼ型酸化チタンゾルのX線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の金属酸化物ゾルについて詳細に説明する。
本発明の金属酸化物ゾルは、金属元素として実質的にバナジウムとチタンのみを含有し、バナジウムに対してチタンが、TiO/V(質量比)として0.25〜1であることを特徴とするものである。ここで、金属元素として実質的にバナジウムとチタンのみを含有し、の意味は、原料中の不純物に由来する金属元素を除いてバナジウムとチタン以外の金属元素を含まないということである。また、以下において、バナジウム濃度はVとしての濃度であり、チタン濃度はTiOとしての濃度である。
【0016】
上記の通り、TiO/V(質量比)は0.25〜1であるが、前記質量比が1を超えるとバナジウムの特性を十分発揮することができなくなる。一方、前記質量比が0.25未満になると、沈殿が発生し易くなり、また増粘し易くなるため、均一性及び取扱上の点から好ましくない。前記質量比のより好ましい範囲は0.33〜1である。
【0017】
次に、本発明の金属酸化物ゾル中のバナジウム濃度について云えば、2〜10質量%が好ましい。2質量%未満では濃度が低いために経済的ではない。また、10質量%を超えると粘度が高くなりゾルとしての安定性が得られ難くなる。より好ましいバナジウム濃度は、3〜10質量%であり、さらに好ましくは4〜10質量%であり、さらにより好ましくは4〜8質量%である。一方、金属酸化物ゾル中のバナジウムとチタンの濃度の合計量は、20質量%以下であることが好ましいが、より好ましくは15質量%以下である。特に、前記TiO/V(質量比)が0.45より小さくなるときは、前記合計量は10質量%以下であることが好ましい。
【0018】
本発明の金属酸化物ゾルは、バナジウムとチタンの前記質量比及び濃度に於いて、必要に応じて、さらに安定化剤として、アンモニア及び/又はアミン化合物を含有させることにより、一層安定性を増大させることができる。安定化剤の割合は、安定化剤/V(モル比)=0.05〜0.5の割合が好ましい。0.05未満ではその安定化効果が充分でなく、0.5を超えても使用量に見合う効果が得られない。前記安定化剤の割合は、更に好ましくは0.1〜0.5である。
【0019】
アミン化合物としては、アルキルアミン、芳香族アミン、脂環式アミン、アルカノールアミン及び水酸化第四級アンモニウムからなる群より選ばれた1種以上であることが好ましい。アルキルアミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、n−プロピルアミン、n−ブチルアミン等が例示できる。芳香族アミンとしては、ベンジルアミン、フェネチルアミン等が例示できる。脂環式アミンとしては、ピペリジンが例示できる。アルカノールアミンとしては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が例示できる。また、水酸化第四級アンモニウムとしては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム等が例示できる。このうち、水酸化テトラメチルアンモニウムが特に好ましい。
【0020】
次に、本発明の金属酸化物ゾルの製造方法について説明する。
先ず、金属元素として実質的にバナジウムのみを含有するアルカリ性のバナジン酸塩水溶液と、金属元素として実質的にチタンのみを含有する酸性のチタン塩水溶液を作製する。
【0021】
前記バナジン酸塩水溶液に用いるバナジウム原料としては、金属元素として実質的にバナジウムのみを含有するバナジウム化合物を用いる。前記バナジウム化合物として、酸化バナジウム、例えば五酸化バナジウム、三酸化バナジウム、二酸化バナジウム等、あるいは、バナジン酸塩、例えばバナジン酸アンモニウム、あるいはまた、シュウ酸バナジルを例示することができる。殊に本発明では、共雑塩が少なく、比較的安価な五酸化バナジウムを用いることが好ましい。上記バナジウム原料をアルカリ剤に溶解させることにより、アルカリ性のバナジン酸塩水溶液を作製する。アルカリ剤は、金属元素を実質的に含まないものであり、アンモニア、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、重炭酸アンモニウムあるいは尿素の分解液が好例として挙げられる。このうち操作の利便性からアンモニアが好ましい。アルカリ剤の濃度は、前記バナジウム化合物が溶解すれば特に制限は無く適宜設定すればよいが、アンモニアを用いるときの濃度の目安として10〜30質量%程度が好ましい。前記バナジン酸塩水溶液中のバナジウム濃度は、1〜10質量%程度が好ましい。
【0022】
一方、チタン塩水溶液としては、金属元素として実質的にチタンのみを含有する、チタンの塩化物の水溶液または硫酸チタン水溶液が好ましい。チタンの塩化物の水溶液としては、塩化チタン水溶液、オキシ塩化チタン水溶液を例示することができる。固形のチタン塩を用いるときは、チタン塩を塩酸または硫酸に溶解させることにより、酸性のチタン塩水溶液を作製することができる。本発明では、オキシ塩化チタン水溶液が特に好ましいチタン塩水溶液として挙げられる。チタン塩水溶液中のチタン濃度は、1〜40質量%程度が好ましい。
【0023】
次に、前記アルカリ性のバナジン酸塩水溶液と前記酸性のチタン塩水溶液とを混合してゲルを得る。両水溶液の混合割合は、両水溶液の種類と濃度に応じて両水溶液の量を適宜設定して、上記の通りTiO/V(質量比)が0.25〜1となるように混合する。このとき、バナジウムとチタンの合計濃度は、0.2〜5質量%となる範囲が好ましい。前記合計濃度が0.2質量%未満でもゾルの製造は可能であるが、経済的でない。一方、前記合計濃度が5質量%を超えると、混合時の反応が激しく、また得られるゲルの凝集性も強くなるため、最終的に分散性の良いゾルが得られ難くなる。従って、前記合計濃度が5質量%を超えるときは、予め反応槽に水を入れておくか、いずれか一方あるいは両方の水溶液を水で希釈しておくことが望ましい。
【0024】
得られるゲルのpHは、概ね0.5〜6の範囲内となることが好ましく、より好ましくは、1〜4である。pHの調整のために、必要に応じて塩酸を添加してもよい。
また、両水溶液の混合方法については特に制限は無く、いずれか一方の水溶液に他方の水溶液を添加してもよいし、両水溶液を同時に反応槽に添加してもよい。また、必要に応じて加熱してもよく、両水溶液の混合前から各水溶液を加熱してもよいし、混合後に加熱してもよい。加熱温度は、70〜200℃が好ましく、より好ましくは70〜100℃である。加熱時間は適宜設定すればよい。
【0025】
次いで、上記ゲルから副成分を除去する。副成分除去の方法としては、イオン交換樹脂を用いる方法、あるいは限外ろ過膜を用いた限外ろ過等が挙げられるが、本発明に於いては、限外ろ過が好ましい。限外ろ過に於いては、ろ液の電気伝導度が20mS/m以下となるまで不純物である副成分を除去することが好ましい。前記電気伝導度以下にすることにより、過剰の鉱酸イオン、アンモニウムイオン等の不純物である副成分を充分除去することができる。この副成分除去により、次の加熱工程でゾル化させることができる。
【0026】
次に、副成分を除去したゲルを、50〜150℃で加熱することによりゾル化して、本発明の金属酸化物ゾルを得る。前記加熱温度は70〜140℃がより好ましく、さらに好ましくは80〜120℃である。加熱時間は加熱温度とゾル化の程度に応じて適宜設定すればよいが、目安として1〜24時間程度である。得られるゾルのpH範囲は、概ね1〜5程度である。
尚、製造条件等により金属酸化物ゾル中の金属酸化物の濃度が低くなるときは、濃縮して高濃度化することができる。濃縮方法については特に制限はなく、常圧または減圧下での加熱等によって濃縮することができる。また、上記限外ろ過によっても濃縮することができる。濃縮した場合であっても、本発明の金属酸化物ゾルは、上述のようにバナジウム濃度は10質量%以下、バナジウムとチタンの濃度の合計量は20質量%以下が好ましい。
【0027】
以上により、本発明の金属酸化物ゾルを得ることができるが、本発明の金属酸化物ゾルには上述のように、必要に応じて更に安定化剤を含有させることができる。安定化剤の種類は上記の通りであるが、添加のタイミングは、副成分を除去したゲルを、50〜150℃で加熱する前又は後である。安定化剤の添加量は、安定化剤/V(モル比)=0.05〜0.5の割合であり、上述の金属酸化物ゾルに含有させる量と同じである。
【0028】
さて、本発明金属酸化物ゾルの特性について云えば、本発明の金属酸化物ゾルは、これを100℃で加熱乾燥させたものをX線回折で分析すると、回折角2θが26度付近にわずかにアナターゼ型酸化チタンのピークが認められるが、大部分は明瞭なピークが認められないことからアモルファス状に近い形態であると判断できる。この例として、上記条件で測定した結果を図1に示した。図1における本発明の金属酸化物ゾルは、TiO/V(質量比)が1であり、バナジウム濃度が6.4質量%のもの(下記実施例4)を用いた。対照は、五酸化バナジウム(試薬)と、100℃で加熱乾燥させたアナターゼ型酸化チタンゾル(タイノック(登録商標)A−6:多木化学(株)製。TiO濃度:6%、pH10)である。
図1より、本発明の金属酸化物ゾルは、バナジウムとチタンが別個に存在することなく、両者が酸化物、或いは水酸化物として均一に複合化された無定形の状態で存在しているものと推定される。そしてこのような無定形複合化がゾル安定化の大きな要因の一つになっているものと推定される。
【0029】
本発明の金属酸化物ゾルは、バナジウム成分とチタン成分が均一に分散していることから、触媒、とりわけ脱硝触媒として有用であるが、センサー、光メモリー、光変色素子、2次電池、蛍光体、顔料等に利用され、特にナノサイズを要求される機能性材料に好適である。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の詳細を実施例を挙げて説明するが、本発明はそれらの実施例によって限定されるものではない。尚、特に断らない限り%は全て質量%を示す。
また、バナジウムとチタンは特に断らない限り、それぞれV2O5とTiO2を意味する。
実施例に用いた原料は、試薬あるいは工業薬品として入手できるものを用いた。
【0031】
〈分析〉
(1)金属酸化物ゾル中のバナジウムとチタンの合計濃度は、磁性るつぼに一定量の試料を計り取り、電気炉中500℃で1時間焼成することにより求めた。
(2)バナジウムとチタンの質量比は、試料を100℃で乾燥させた後、蛍光X線装置(PHILIPS製 PW-2400)を用いて測定した結果から算出した。
(3)バナジウムとチタンの各濃度は、(1)と(2)より算出した。
(4)ゾルの粘度は、ゾルの温度を25℃にした後、E型粘度計で測定した。
【0032】
[1]洗浄ゲル(副成分除去ゲル)の作製
90℃まで加温したイオン交換水3900gに、五酸化バナジウム(新興化学工業(株)製 FFF)をA(g)と20%アンモニア水をB(g)添加した(A、Bは表1参照。以下、C、Dも同様)。五酸化バナジウムが完全に溶解してほとんど無色透明な液となったところへ、オキシ塩化チタン水溶液(東邦チタニウム(株)製 TiO2=27.5%、Cl=32.8%)をC(g)と36%塩酸をD(g)添加し、90℃に保持した状態で30分間撹拌し、ゲルを得た。
このゲルを放冷後、限外ろ過装置(限外ろ過膜として分画分子量10000である型式SLP-1053(旭化成(株)製)を使用)を用いて、ろ液の電気伝導度が20mS/m以下になるまで洗浄し、バナジウムとチタンの濃度の合計が約2.0%のゲルを得た(これを「洗浄ゲル」と云う)。
尚、上記分析(2)の蛍光X線装置を用いた方法で洗浄ゲル2の塩素濃度を求めると、0.007%であった。
【0033】
【表1】

【0034】
[2]金属酸化物ゾルの製造
上記で得られた各洗浄ゲルに、表2の安定化剤を添加した。表2中のNH3は、20%アンモニア水であり、TMAHは25%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液である。
次に、120℃/5時間の水熱処理を行いゾル化させてチタンとバナジウムを含有する金属酸化物ゾルを得た後、エバポレーターで濃縮した。
濃縮後の金属酸化物ゾル中のバナジウムとチタンの各測定濃度、pH、及び粘度を表2に示した。
【0035】
【表2】

【0036】
表2のゾルについて、室温で5日間静置保存し、ゾルの安定性について調べた。5日経過後の状態は、実施例1〜6では沈殿発生が認められなかったが、比較例1と2では沈殿発生が認められた。
以上より、本発明の金属酸化物ゾルは、チタンとの共存により沈殿発生し難い安定なゾルであることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バナジウム成分とチタン成分とを含有し、バナジウムに対してチタンが、TiO/V(質量比)として0.25〜1であることを特徴とする金属酸化物ゾル。
【請求項2】
バナジウム成分がVとして2〜10質量%である請求項1記載の金属酸化物ゾル。
【請求項3】
請求項1又は2記載の金属酸化物ゾルであって、さらに、安定化剤として、アンモニア及び/又はアミン化合物を、安定化剤/V(モル比)=0.05〜0.5の割合で含有する金属酸化物ゾル。
【請求項4】
アミン化合物が、アルキルアミン、芳香族アミン、脂環式アミン、アルカノールアミン及び水酸化第四級アンモニウムからなる群より選ばれた1種以上の化合物である請求項3記載の金属酸化物ゾル。
【請求項5】
アルカリ性のバナジン酸塩水溶液と酸性のチタン塩水溶液とを混合して得られたゲルから副成分を除去した後、50〜150℃で加熱することを特徴とする請求項1又は2記載の金属酸化物ゾルの製造方法。
【請求項6】
前記50〜150℃で加熱する前又は後に、安定化剤として、アンモニア及び/又はアミン化合物を、安定化剤/V(モル比)=0.05〜0.5の割合で添加することを特徴とする請求項5記載の金属酸化物ゾルの製造方法。
【請求項7】
アミン化合物が、アルキルアミン、芳香族アミン、脂環式アミン、アルカノールアミン及び水酸化第四級アンモニウムからなる群より選ばれた1種以上の化合物である請求項6記載の金属酸化物ゾルの製造方法。
【請求項8】
副成分除去の程度が、限外ろ過膜を使用したときのろ液の電気伝導度が20mS/m以下となるまで副成分を除去することである請求項5〜7のいずれか1項記載の金属酸化物ゾルの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−140252(P2012−140252A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292066(P2010−292066)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000203656)多木化学株式会社 (58)
【Fターム(参考)】