説明

金属酸化物担持カーボン及びそれを用いた燃料電池用電極

【課題】耐食性が高く、触媒の使用量を低減できる電池用触媒等に用いることができる金属酸化物担持カーボン及びそれを用いた高出力で耐久性の高い燃料電池用電極を提供する。
【解決手段】本発明の金属酸化物担持カーボンは、カーボン粒子と、前記カーボン粒子に担持されたアモルファス状の酸化白金と、前記カーボン粒子に担持されたセリウムを含む金属酸化物粒子とを含むことを特徴とする。また、本発明の燃料電池用電極は、上記本発明の金属酸化物担持カーボンを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物担持カーボン及びそれを用いた燃料電池用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属粒子、合金粒子、金属酸化物粒子等を担体粒子に担持させたものは、消臭、抗菌、自動車排ガスの浄化、燃料電池、NOx還元等の各種触媒として多用されている。この種の触媒の担体粒子としては主に、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化コバルト等の金属酸化物やカーボン等が用いられている。特に、導電性を有するカーボン粒子を担体として用いた触媒は燃料電池の電極用触媒として有効なものである。
【0003】
中でも、白金とルテニウムとの合金粒子をカーボン担体上に担持させたものや、酸化モリブデン、酸化セリウム等の特定の金属酸化物粒子を助触媒として、これを金属白金微粒子と共にカーボン担体上に担持させたものは、優れた燃料電池の電極用触媒として知られている。また、酸化セリウムや酸化ジルコニウム等の耐食性酸化物粒子に白金粒子を担持させたものを、カーボン担体上に担持させることにより、白金粒子同士の凝集を抑えることができる燃料電池用触媒が提案されている(特許文献1)。さらに、酸化白金及び酸化ルテニウムを共にカーボン上に担持させることにより、製造工程で水素ガス等を用いずに作製することができる燃料極用電極触媒が提案されている(特許文献2)。
【特許文献1】特開2004−363056号公報
【特許文献2】特許第2890486号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような金属粒子、合金粒子、金属酸化物粒子等を担体粒子に担持させた従来の触媒は、燃料電池等の電極用触媒に使用した場合において、その耐食性が未だ十分ではないという問題があった。例えば、これまでの金属白金粒子を用いた燃料電池の電極用触媒では、使用過程における金属白金粒子のCO被毒による劣化や、100℃以上の温度雰囲気と常温とのヒートサイクルを繰り返すことによる白金粒子同士の固着や粒成長を完全に防ぐことができなかったため、その触媒能が著しく低下するという問題があった。このため、従来の燃料電池用電極では、触媒能の低下を予め見込んで、その触媒能の低下を補うために多量の触媒を使用する必要があった。
【0005】
また、白金を酸化物として利用する場合でも、その触媒能を金属白金と同等程度にまで向上させるために、酸化ルテニウム等の高価な貴金属元素を重ねて使用しなければならず、全体の触媒量が増加するという問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題を解決したもので、耐食性が高く、触媒の使用量を低減できる燃料電池用触媒等に用いることができる金属酸化物担持カーボン及びそれを用いた燃料電池用電極を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の金属酸化物担持カーボンは、カーボン粒子と、前記カーボン粒子に担持されたアモルファス状の酸化白金と、前記カーボン粒子に担持されたセリウムを含む金属酸化物粒子とを含むことを特徴とする。
【0008】
本発明の燃料電池用電極は、上記本発明の金属酸化物担持カーボンを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、耐食性が高く、触媒の使用量を低減できる電池用触媒等に用いることができる金属酸化物担持カーボン及びそれを用いた高出力で耐久性の高い燃料電池用電極を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(実施形態1)
先ず、本発明の金属酸化物担持カーボンを説明する。本発明の金属酸化物担持カーボンは、カーボン粒子と、カーボン粒子に担持されたアモルファス状の酸化白金と、カーボン粒子に担持されたセリウムを含む金属酸化物粒子とを含んでいる。
【0011】
通常、電極触媒に用いる白金は、金属粒子の状態で存在しなければ高い触媒能が発現しないと言われているが、本発明においては、触媒能を持つ白金を、金属粒子又は酸化物粒子としてではなく、アモルファス状の酸化白金の状態でカーボン粒子に担持させ、且つ少なくともセリウム(Ce)を含む金属酸化物粒子を同時にカーボン粒子に担持させることにより、白金粒子の固着や粒成長を防止して、耐食性が高く、触媒の使用量を低減しても触媒能が低下しない電極用触媒を提供できる。これにより、貴重な資源である白金の使用量を従来の電極用触媒と比べて大幅に減らすことができる。
【0012】
即ち、酸化白金は、アモルファス状に担持させることにより、より効率的に金属酸化物粒子及びカーボン粒子との接点を設けることができる。上記のとおり、通常、白金は酸化物粒子の状態では、金属白金粒子と比較してほぼ活性を持たず、例えば、固体高分子型燃料電池の電極用触媒としては触媒能を発揮しないが、酸化白金をアモルファス状にすることで、酸化物状態でありながら電極用触媒として使用した際には、金属白金粒子を用いた場合と同様の活性を引き出すことができる。また、この際、白金は酸化物の状態であるために、凝着による粒子の粗大化、酸化による劣化、COによる被毒等が起こらない。
【0013】
本発明の金属酸化物担持カーボンは、主として電極用触媒に用いられるが、電極用触媒以外にも、水素化、脱水素、酸化の反応に対する触媒として機能するため、各種化学物質合成の際の触媒としても用いることができる。
【0014】
上記アモルファス状の酸化白金と、上記金属酸化物粒子とは、複合体を形成していてもよい。ここで、複合体を形成するとは、アモルファス状の酸化白金と金属酸化物粒子とが、接触又は固着している状態をいう。また、上記複合体を形成している場合であっても、アモルファス状の酸化白金の一部が、酸化セリウムと接触又は固着することなくカーボン粒子上に存在していてもよい。
【0015】
上記カーボン粒子としては、例えば、カーボンブラック、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
上記セリウムを含む金属酸化物粒子は、ジルコニウム(Zr)、鉄(Fe)、スズ(Sn)、サマリウム(Sm)、ハフニウム(Hf)、ガドリニウム(Gd)、イットリウム(Y)、イッテルビウム(Yb)、ランタン(La)、ホルミウム(Ho)及びエルビウム(Er)からなる群から選ばれる少なくとも一種の元素をさらに含むこともできる。これらを含むことにより、本来であればほぼ導電性を持たないセリウムの酸化物に電気伝導性を与えることとなり、カーボン粒子間の電気伝導を阻害することがなく、電極用触媒として使用した場合にはより高い出力を得ることが期待できる。
【0017】
上記金属酸化物粒子の粒子径は、1nm以上20nm以下が好ましく、より好ましくは1nm以上10nm以下である。金属酸化物粒子の粒子径は、1nm未満でも触媒としての特性に大きな影響はないと考えられるが、金属酸化物の格子間隔は通常0.5nm前後であることが多く、金属酸化物粒子の粒子径が1nm未満となると、結晶構造上、格子点の数が少なすぎるために安定な結合が起こらず、酸化物の構造を保持することが難しくなるため、結晶構造を持つ金属酸化物粒子を作製すること自体が困難となる。また、金属酸化物粒子の粒子径が20nmを超えると、触媒としての特性が完全に失われることはないが、十分な比表面積が得られないために触媒としての性能が低下する傾向にある。通常、金属酸化物粒子は、一次粒子として単分散状態でカーボン粒子に担持される。
【0018】
本発明おいて、上記金属酸化物粒子の粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)写真の粒子の大きさを測定して求めることができる。しかし、20nm未満のような微粒子においては、1つの粒子内で多結晶構造をとることは稀であり、ほとんどの場合に単結晶の粒子となる。従って、担持された金属酸化物粒子の粒子径は、TEM写真から求める方法の他に、粉末X線回折スペクトルから求められる平均結晶子サイズからも求めることができる。特に、粒子径が数nm以下であるような微粒子の場合には、TEM写真等から目視で粒子径を求める際の測定誤差が大きく、平均結晶子サイズから求めることが好ましい。但し、多結晶構造を持つ粗大な粒子が存在している場合には、その粗大粒子に含まれる結晶子のサイズを測定している可能性もあるため、平均結晶子サイズから求められた粒子径と、TEMで観察される粒子の大きさに整合性があるかどうかを確認することが必要である。
【0019】
また、本発明の金属酸化物担持カーボンでは、酸化白金がアモルファス状態であるため、TEM写真を撮影しても酸化白金を判別することが難しく、カーボン粒子及び担持された金属酸化物粒子のみが観測される。さらに、粉末X線回折のような構造解析においても、アモルファス状である場合には酸化白金の回折線が現れない。これらの理由により、酸化白金の存在を分析する際には、まず蛍光X線分析(XRF)あるいはICP発光分光分析等の組成分析により相当量の白金元素の存在を必ず確認し、その上で、粉末X線回折(XRD)により、白金由来のいずれの構造も現れずアモルファス構造をとっていることを確認した上で、X線光電子分光(XPS)あるいはX線吸収微細構造分析(XAFS)等により白金の酸化状態を確認することが必要である。
【0020】
上記カーボン粒子の平均粒子径は、20nm以上70nm以下であることが好ましく、30nm以上50nm以下がより好ましい。カーボン粒子の平均粒子径が20nm未満でも最終生成物である金属酸化物担持カーボンの触媒能において問題はないが、合成過程において粒子径が小さいために凝集が激しく、均一に分散することが困難となるおそれがあるため、カーボン粒子の平均粒子径は20nm以上が好ましい。また、カーボン粒子の平均粒子径が70nmを超えた場合、最終生成物の金属酸化物担持カーボンの触媒能が完全になくなることはないが、比表面積が小さくなるため触媒能が低下するおそれがあるため、カーボン粒子の平均粒子径は70nm以下が好ましい。
【0021】
本発明おいて、平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)写真から観察される100個の粒子の粒子径の算術平均から求めるものとする。
【0022】
本発明の金属酸化物担持カーボンの平均粒子径は、上記粒子径の金属酸化物粒子及び上記平均粒子径のカーボン粒子を用いると、20nm以上90nm以下となる。
【0023】
上記酸化白金の担持量は、酸化白金と金属酸化物粒子との合計重量に対して、5重量%以上50重量%以下であることが好ましい。5重量%未満でも触媒としての作用が完全になくなるわけではないが、その触媒能が発現しにくくなる場合があり、十分な出力を得るために全体としての触媒量を増やさなくてはならなくなり、そのため電極膜厚を増大させる必要が生じ、膜厚増加に伴う電極性能の低下を招くため、5重量%以上とすることが好ましい。また、50重量%より多くても触媒としての作用は認められるが、一部の酸化白金がアモルファスとならずに粒子状に結晶成長して析出してしまい、全ての白金元素を有効に触媒反応に作用させることができなくなるため、好ましくない。
【0024】
また、上記酸化白金と上記金属酸化物粒子との合計担持量は、金属酸化物担持カーボンの全体の重量に対して、5重量%以上50重量%以下であることが好ましい。合計担持量が5重量%未満では、酸化白金量が少なくなるためにその触媒能が発現しにくくなるおそれがあり、また、50重量%を超えると、金属酸化物の含有量が多くなるためにカーボン粒子の表面に単層で被着せずに、金属酸化物粒子同士が重なり合ったり、または、凝集してしまうおそれがある。
【0025】
次に、本発明の金属酸化物担持カーボンの製造方法の一例について説明する。
【0026】
先ず第一に、白金イオン及びセリウムイオンを含む水溶液を調製する。金属酸化物粒子を構成する金属元素としてセリウム以外の金属元素を含有させる場合には、ジルコニウム、鉄、スズ、サマリウム、ハフニウム、ガドリニウム、イットリウム、イッテルビウム、ランタン、ホルミウム、エルビウム等の金属のイオンも上記水溶液に含める。また、最終生成物のセリウム酸化物構造内に安定に含有し得る元素であれば、上記金属イオン以外の金属イオンを上記水溶液に含めることもできる。但し、アモルファス状の酸化白金と金属酸化物粒子とを同時に担持した場合において、触媒としての機能を最大限に発現させるために、上記水溶液には、少なくともセリウムイオンとジルコニウムイオンを含めることが好ましい。
【0027】
次に、上記金属イオンを含む水溶液中に、例えばカーボンブラック等のカーボン粒子を分散させる。この際、最終生成物である金属酸化物担持カーボンの全体の重量に対して、酸化白金と金属酸化物粒子との合計担持量が5重量%以上50重量%以下となるように、上記水溶液中にカーボン粒子を分散させる。
【0028】
上記カーボン粒子としては、水溶液に対する分散性を上げるために表面処理を施したものを用いることが好ましい。カーボン粒子の表面処理は、次のようにして行う。即ち、約90℃の硝酸水溶液中にカーボン粒子を分散させ、3〜5時間攪拌して酸化処理した後、120〜200℃の範囲で水熱処理を施す。その後、水洗、ろ過して表面処理したカーボン粒子を得る。酸化処理における硝酸水溶液の温度は、約90℃程度であれば多少の温度差はあってもよいが、100℃になると水分の蒸散が激しくなるため、100℃未満であることが好ましい。水熱処理は120〜200℃の範囲であれば問題ないが、より効果的な処理を行うために、150℃以上で4時間以上の処理を行うことが好ましい。
【0029】
以上のようにして、カーボン粒子を金属イオンを含む水溶液中に分散させた後、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の一般的なアルカリ剤を加えて中和させ、カーボン粒子の表面に構成金属の化合物を沈着させた後、乾燥することにより、カーボン粒子の表面に前駆体微粒子を析出させる。乾燥させる雰囲気は、特に限定されるものではないが、空気中での乾燥が最も簡便かつ低コストであり好ましい。
【0030】
さらに、このようにして得られた微粒子担持カーボンを乾燥した後、加熱処理を施す。加熱処理としては、空気中で300℃以下の温度での熱処理、あるいは、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気中での熱処理を複数種組み合わせて行うことが好ましい。この際、酸素が存在する雰囲気下では、300℃を超えると担体であるカーボン粒子の燃焼が始まるおそれがあり好ましくない。また、還元雰囲気下では吸着された前駆体微粒子が酸化物にならず、金属白金が析出してしまう場合があるため適切ではない。特に、水素等が含まれる還元雰囲気において高温で熱処理を行うと、白金とセリウム等の金属との合金粒子が析出する場合がある。不活性ガス雰囲気中での加熱処理の温度は200〜1000℃の範囲が好ましい。
【0031】
以上の製造方法により、カーボン粒子に、アモルファス状の酸化白金と、少なくともセリウムを含む金属酸化物粒子とが担持した金属酸化物担持カーボンを得ることができる。なお、酸化白金のみがアモルファス状となるのは、酸化白金の結晶化条件が、セリウム等を含む金属酸化物粒子の結晶化条件とは異なり、セリウム等を含む金属酸化物粒子の結晶化条件で加熱処理等を行うことにより、酸化白金のみがアモルファス状に形成されたもと思われる。
【0032】
(実施形態2)
次に、本発明の燃料電池用電極の一例を図面に基づき説明する。本実施形態では、実施形態1の金属酸化物担持カーボンを用いて作製される燃料電池用電極である膜電極接合体(MEA)について説明する。
【0033】
図1は、膜電極接合体の一例を示す模式断面図である。図1において、膜電極接合体10は、固体高分子電解質膜1の厚み方向の片側に配置された空気極2と、他の片側に配置された燃料極3と、空気極2の外側に配置された空気極用ガス拡散層4と、燃料極3の外側に配置された燃料極用ガス拡散層5とを備えている。
【0034】
固体高分子電解質膜1としては、例えば、ポリパーフルオロスルホン酸樹脂膜、具体的には、デュポン社製の“ナフィオン”(商品名)、旭硝子社製の“フレミオン”(商品名)、旭化成工業社製の“アシプレックス”(商品名)等の膜を使用できる。また、ガス拡散層4、5としては、多孔質のカーボンクロスあるいはカーボンシート等を使用できる。
【0035】
膜電極接合体10の作製方法は特に限定されず、次の一般的な方法が適用できる。即ち、エタノール、プロパノール等の低級アルコールを主成分とする溶媒に、実施形態1の金属酸化物担持カーボンと、高分子材料と、さらに必要に応じてバインダ等とを混合し、マグネチックスターラー、ボールミル、超音波分散機等の一般的な分散器具を用いて分散させて、触媒塗料を作製する。この際、塗料の粘度を塗布方法に応じて最適なものとすべく、溶媒量を調整する。実施形態1の金属酸化物担持カーボンは、空気極用の触媒塗料と燃料極用の触媒塗料の両方に用いてもよいが、いずれか一方のみに用いてもよい。実施形態1の金属酸化物担持カーボンを用いない電極には、従来から用いられている例えば白金担持カーボン粒子等の触媒を用いることができる。
【0036】
次に、得られた触媒塗料を用いて空気極2あるいは燃料極3を形成するが、この後の手順としては、一般的には下記の3種の方法(1)〜(3)が挙げられる。
【0037】
(1) 得られた触媒塗料を、バーコータ等を用いて、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリイミドフィルム、PTFEコートポリイミドフィルム、PTFEコートシリコンシート、PTFEコートガラスクロス等の離型性基板上に均一に塗布し、乾燥させて、離型性基板上に電極膜を形成する。次に、この電極膜を剥し取り、所定の電極サイズに裁断する。このような電極膜を作製し、それぞれを空気極及び燃料極として用いる。その後、上記電極膜を固体高分子電解質膜の両面に、ホットプレスあるいはホットロールプレスにより接合させた後、空気極及び燃料極の両側にガス拡散層をそれぞれ配置し、ホットプレスして一体化させ、膜電極接合体を作製する。
【0038】
(2) 得られた触媒塗料を、空気極用ガス拡散層及び燃料極用ガス拡散層にそれぞれ塗布し、乾燥させて、空気極及び燃料極を形成する。この際、塗布方法は、スプレー塗布やスクリーン印刷等の方法がとられる。次に、これらの電極膜が形成されたガス拡散層で、固体高分子電解質膜を挟み、ホットプレスして一体化させ、膜電極接合体を作製する。
【0039】
(3) 得られた触媒塗料を、固体高分子電解質膜の両面に、スプレー塗布等の方法を用いて塗布し、乾燥させて、空気極及び燃料極を形成する。その後、空気極及び燃料極の両側にガス拡散層を配置し、ホットプレスして一体化させ、膜電極接合体を作製する。
【0040】
以上のようにして得られた膜電極接合体10において、空気極2側及び燃料極3側のそれぞれに集電板(図示せず)を設けて電気的な接続を行い、燃料極3に水素を、空気極2に空気(酸素)をそれぞれ供給することにより、燃料電池として作用させることができる。
【実施例】
【0041】
以下のようにして金属酸化物担持カーボンを作製した。
【0042】
(実施例1)
<CeO2:PtO=90:10(重量比)・40重量%/カーボン>
先ず、カーボン粒子であるCABOT社製のカーボンブラック“バルカンXC−72”(登録商標、平均粒子径30nm)を、90℃の3mol/Lの硝酸水溶液中に分散させ4時間攪拌した後、150℃で4時間加熱する水熱処理を施し、その後、水洗、ろ過して、表面処理を施したカーボン粒子を得た。
【0043】
次に、塩化セリウム七水和物2.57g及び塩化白金酸六水和物0.32gを水300mLに溶解し、セリウムイオンと白金イオンとを含む水溶液を調製した。また、これとは別に、当量の水酸化ナトリウム水溶液を100g準備した。上記セリウムイオン及び白金イオンを含む水溶液に、上記表面処理を施したカーボン粒子2gを加え、超音波で分散させた後、攪拌しながら上記水酸化ナトリウム水溶液を1時間かけて滴下し、セリウム及び白金を含む化合物をカーボン粒子の表面に沈着させた。その後、水洗、ろ過して、90℃で乾燥させ、前駆体であるセリウムと白金の化合物を担持したカーボン粒子を得た。
【0044】
続いて、このカーボン粒子について、空気中において280℃で1時間の仮焼を行った後、窒素雰囲気中において600℃で加熱処理し、さらに再度、空気中において250℃で1時間の加熱処理を行い、金属酸化物担持カーボン粒子を得た。
【0045】
このようにして得られたカーボン粒子について、粉末X線回折スペクトル測定を行った。その結果を図2に示す。図2から、本実施例のカーボン粒子について、酸化セリウム構造の明確な単一相のピークが現れていることが確認された。図2には、比較のために後述する比較例1で得られた酸化セリウム(CeO2)担持カーボン粒子のスペクトルも同時に示しているが、本実施例のスペクトルと比較例1のスペクトルがほぼ一致したことより、本実施例のカーボン粒子に酸化セリウム(CeO2)が担持していることが確認された。また、本実施例のカーボン粒子には白金元素が含まれているにもかかわらず、図2において棒グラフで示した酸化白金構造を表すピークは現れておらず、白金は何らかのアモルファス状態であることが確認された。この際、回折ピークの半値幅から求めた酸化セリウムの平均結晶子サイズは6.9nmであった。さらに、本実施例のカーボン粒子についてX線光電子分光(XPS)分析を行ったところ、図3に示すように、XPSスペクトルのPt−4f軌道のピークが約73eVに現れた。この結果から、Ptが2価の状態をとる酸化物であることを確認した。また、TEM観察を行った結果、約5〜8nmの粒子がカーボン粒子の表面に担持されている様子が確認された。以上より、本実施例のカーボン粒子は、カーボン粒子の表面に、アモルファス状の酸化白金と、酸化セリウム粒子とが担持し、さらにアモルファス状の酸化白金と酸化セリウム粒子とが複合体を形成していることが分かった。
【0046】
最後に、本実施例のカーボン粒子について、蛍光X線分析により組成比を確認したところ、CeO2とPtOとの重量比が90対10であり、CeO2とPtOとの合計担持量が、カーボン粒子の全体の重量に対して、40重量%であることが分かった。
【0047】
(実施例2)
<CeO2:PtO=70:30(重量比)・40重量%/カーボン>
実施例1の金属酸化物担持カーボン粒子の作製方法において、塩化セリウム七水和物2.01g及び塩化白金酸六水和物0.98gを水300mLに溶解し、セリウムイオンと白金イオンとを含む水溶液を調製した以外は、実施例1と同様にして金属酸化物担持カーボン粒子を得た。
【0048】
このようにして得られたカーボン粒子について、実施例1と同様にして、粉末X線回折スペクトル測定を行ったところ、実施例1と同様に酸化セリウム構造の明確な単一相のピークが現れていることが確認され、且つ酸化白金構造を表すピークは現れておらず、白金は何らかのアモルファス状態であることが確認された。この際、回折ピークの半値幅から求めた酸化セリウムの平均結晶子サイズは10.6nmであった。さらに、XPS分析を行ったところ、実施例1と同様にPtが2価の状態をとる酸化物であることが確認された。また、TEM観察を行った結果、約10nmの粒子がカーボン粒子の表面に担持されている様子が確認された。以上より、本実施例のカーボン粒子は、カーボン粒子の表面に、アモルファス状の酸化白金と、酸化セリウム粒子とが担持し、さらにアモルファス状の酸化白金と酸化セリウム粒子とが複合体を形成していることが分かった。
【0049】
最後に、本実施例のカーボン粒子について、蛍光X線分析により組成比を確認したところ、CeO2とPtOとの重量比が70対30であり、CeO2とPtOとの合計担持量が、カーボン粒子の全体の重量に対して、40重量%であることが分かった。
【0050】
(実施例3)
<(Ce,Zr)O2:PtO=90:10(重量比)・40重量%/カーボン>
実施例1の金属酸化物担持カーボン粒子の作製方法において、塩化セリウム七水和物2.13g、塩化酸化ジルコニウム八水和物0.56g及び塩化白金酸六水和物0.23gを水300mLに溶解し、セリウムイオン、ジルコニウムイオン及び白金イオンを含む水溶液を調製した以外は、実施例1と同様にして、金属酸化物担持カーボン粒子を得た。
【0051】
このようにして得られたカーボン粒子について、実施例1と同様にして、粉末X線回折スペクトル測定を行ったところ、セリウム−ジルコニウム酸化物固溶体構造の明確な単一相のピークが現れていることが確認され、セリウムとジルコニウムとは分離せずに固溶体を形成しており、且つ酸化白金構造を表すピークは現れておらず、白金は何らかのアモルファス状態であることが確認された。この際、回折ピークの半値幅から求めた酸化物粒子の平均結晶子サイズは12.1nmであった。さらに、XPS分析を行ったところ、実施例1と同様にPtが2価の状態をとる酸化物であることが確認された。また、TEM観察を行った結果、約10〜15nmの粒子がカーボン粒子の表面に担持されている様子が確認された。以上より、本実施例のカーボン粒子は、カーボン粒子の表面に、アモルファス状の酸化白金と、金属酸化物粒子とが担持し、さらにアモルファス状の酸化白金と金属酸化物粒子とが複合体を形成していることが分かった。
【0052】
最後に、本実施例のカーボン粒子について、蛍光X線分析により組成比を確認したところ、(Ce,Zr)O2とPtOとの重量比が90対10であり、(Ce,Zr)O2とPtOとの合計担持量が、カーボン粒子の全体の重量に対して、40重量%であることが分かった。
【0053】
(実施例4)
<(Ce,Zr,La)O2:PtO=90:10(重量比)・40重量%/カーボン>
実施例1の金属酸化物担持カーボン粒子の作製方法において、塩化セリウム七水和物1.92g、塩化酸化ジルコニウム八水和物0.51g、塩化ランタン七水和物0.25g及び塩化白金酸六水和物0.32gを水300mLに溶解し、セリウムイオン、ジルコニウムイオン、ランタンイオン及び白金イオンを含む水溶液を調製した以外は、実施例1と同様にして、金属酸化物担持カーボン粒子を得た。
【0054】
このようにして得られたカーボン粒子について、実施例1と同様にして、粉末X線回折スペクトル測定を行ったところ、実施例3と同様にセリウム−ジルコニウム酸化物固溶体構造の明確な単一相のピークが現れていることが確認され、また、実施例3のピーク位置に比べて、ランタンを置換したことによるピーク位置のずれが見られた。このことから、セリウム、ジルコニウム及びランタンは分離せずに固溶体を形成していることが分かった。さらに、酸化白金構造を表すピークは現れておらず、白金は何らかのアモルファス状態であることが確認された。この際、回折ピークの半値幅から求めた酸化物粒子の平均結晶子サイズは5.1nmであった。さらに、XPS分析を行ったところ、実施例1と同様にPtが2価の状態をとる酸化物であることが確認された。また、TEM観察を行った結果、約5nmの粒子がカーボン粒子の表面に担持されている様子が確認された。以上より、本実施例のカーボン粒子は、カーボン粒子の表面に、アモルファス状の酸化白金と、金属酸化物粒子とが担持し、さらにアモルファス状の酸化白金と金属酸化物粒子とが複合体を形成していることが分かった。
【0055】
最後に、本実施例のカーボン粒子について、蛍光X線分析により組成比を確認したところ、(Ce,Zr,La)O2とPtOとの重量比が90対10であり、(Ce,Zr,La)O2とPtOとの合計担持量が、カーボン粒子の全体の重量に対して、40重量%であることが分かった。
【0056】
(実施例5)
<(Ce,Zr,Ho)O2:PtO=90:10(重量比)・40重量%/カーボン>
実施例1の金属酸化物担持カーボン粒子の作製方法において、塩化セリウム七水和物1.92g、塩化酸化ジルコニウム八水和物0.51g、塩化ホルミウム六水和物0.22g及び塩化白金酸六水和物0.32gを水300mLに溶解し、セリウムイオン、ジルコニウムイオン、ホルミウムイオン及び白金イオンを含む水溶液を調製した以外は、実施例1と同様にして、金属酸化物担持カーボン粒子を得た。
【0057】
このようにして得られたカーボン粒子について、実施例1と同様にして、粉末X線回折スペクトル測定を行ったところ、実施例3と同様にセリウム−ジルコニウム酸化物固溶体構造の明確な単一相のピークが現れていることが確認され、また、実施例3のピーク位置に比べて、ホルミウムを置換したことによるピーク位置のずれが見られた。このことから、セリウム、ジルコニウム及びホルミウムは分離せずに固溶体を形成していることが分かった。さらに、酸化白金構造を表すピークは現れておらず、白金は何らかのアモルファス状態であることが確認された。この際、回折ピークの半値幅から求めた酸化物粒子の平均結晶子サイズは7.2nmであった。さらに、XPS分析を行ったところ、実施例1と同様にPtが2価の状態をとる酸化物であることが確認された。また、TEM観察を行った結果、約5〜10nmの粒子がカーボン粒子の表面に担持されている様子が確認された。以上より、本実施例のカーボン粒子は、カーボン粒子の表面に、アモルファス状の酸化白金と、金属酸化物粒子とが担持し、さらにアモルファス状の酸化白金と金属酸化物粒子とが複合体を形成していることが分かった。
【0058】
最後に、本実施例のカーボン粒子について、蛍光X線分析により組成比を確認したところ、(Ce,Zr,Ho)O2とPtOとの重量比が90対10であり、(Ce,Zr,Ho)O2とPtOとの合計担持量が、カーボン粒子の全体の重量に対して、40重量%であることが分かった。
【0059】
(比較例1)
<CeO2・30重量%/カーボン>
実施例1の金属酸化物担持カーボン粒子の作製方法において、塩化白金酸六水和物を用いずに、塩化セリウム七水和物1.85gのみを水300mLに溶解し、セリウムイオンを含む水溶液を調製した以外は、実施例1と同様にして、金属酸化物担持カーボン粒子を得た。
【0060】
このようにして得られたカーボン粒子について、実施例1と同様にして、粉末X線回折スペクトル測定を行った。その結果を図2に示す。図2から、本比較例のカーボン粒子について、酸化セリウム構造の明確な単一相のピークが現れていることが確認された。この際、回折ピークの半値幅から求めた酸化セリウムの平均結晶子サイズは7.3nmであった。また、TEM観察を行った結果、約7〜8nmの粒子がカーボン粒子の表面に担持されている様子が確認された。
【0061】
最後に、本比較例のカーボン粒子について、蛍光X線分析により組成比を確認したところ、酸化セリウムの担持量が、カーボン粒子の全体の重量に対して、30重量%であることが分かった。
【0062】
(比較例2)
<PtO・10重量%/カーボン>
実施例1の金属酸化物担持カーボン粒子の作製方法において、塩化セリウム七水和物を用いずに、塩化白金酸六水和物0.55gのみを水300mLに溶解し、白金イオンを含む水溶液を調製し、その水溶液中に表面処理を施さずに“バルカンXC−72”2gを加えて分散させた以外は、実施例1と同様にして前駆体である白金の化合物を担持したカーボン粒子を得た。次に、このカーボン粒子について、空気中において270℃で1時間の加熱処理を行い、金属酸化物担持カーボン粒子を得た。
【0063】
このようにして得られたカーボン粒子について、実施例1と同様にして、粉末X線回折スペクトル測定を行ったところ、酸化白金構造のブロードな単一相のピークが現れていることが確認された。この際、回折ピークの半値幅から求めた酸化白金の平均結晶子サイズは3.6nmであった。また、TEM観察を行った結果、約3nmの粒子がカーボン粒子の表面に担持されている様子が確認された。
【0064】
最後に、本比較例のカーボン粒子について、蛍光X線分析により組成比を確認したところ、酸化白金の担持量が、カーボン粒子の全体の重量に対して、10重量%であることが分かった。
【0065】
(比較例3)
<CeO2:Pt=90:10(重量比)・40重量%/カーボン>
実施例1の金属酸化物担持カーボン粒子の作製方法において、塩化白金酸六水和物を用いずに、塩化セリウム七水和物2.57gのみを水300mLに溶解し、セリウムイオンを含む水溶液を調製し、その水溶液中に予めカーボン粒子に白金粒子を担持した白金担持カーボン粒子(白金担持量6.2重量%、白金粒子の平均粒子径5nm)2.13gを加えて分散させた以外は、実施例1と同様にして前駆体であるセリウムの化合物を担持した白金担持カーボン粒子を得た。次に、このカーボン粒子について、窒素雰囲気において550℃で1時間の加熱処理を行い、金属酸化物担持カーボン粒子を得た。
【0066】
このようにして得られたカーボン粒子について、実施例1と同様にして、粉末X線回折スペクトル測定を行ったところ、酸化セリウム構造のピークと、金属白金のピークとが現れていることが確認された。この際、回折ピークの半値幅から求めた酸化セリウムと金属白金の平均結晶子サイズは、それぞれ11.8nmと5.6nmであった。また、TEM観察を行った結果、約10nmの酸化セリウム粒子と、約5nmの金属白金粒子とがカーボン粒子の表面に担持されている様子が確認された。
【0067】
最後に、本比較例のカーボン粒子について、蛍光X線分析により組成比を確認したところ、CeO2とPtとの重量比が90対10であり、CeO2とPtとの合計担持量が、カーボン粒子の全体の重量に対して、40重量%であることが分かった。
【0068】
次に、実施例1〜5及び比較例1〜3で得られた金属酸化物担持カーボン粒子の触媒特性を評価するため、燃料電池用の膜電極接合体(MEA)を作製し、それを用いて燃料電池としての出力特性を調べた。膜電極接合体を構成する電極に上記のような金属酸化物担持カーボン粒子を使用する場合、空気極と燃料極とでは、最大の効果が得られる金属酸化物担持カーボン粒子の酸化物組成(カーボン粒子に担持されている金属酸化物の組成)が異なる。そこで、一律に評価を行うために、燃料極に金属酸化物担持カーボン粒子を用いた電極膜を用い、空気極には以下に示す標準電極膜を用いた。
【0069】
<金属酸化物担持カーボン粒子電極膜の作製>
実施例1〜5及び比較例1〜3の金属酸化物担持カーボン粒子1重量部を、ポリパーフルオロスルホン酸樹脂の5重量%溶液であるアルドリッチ(Aldrich)社製の“ナフィオン(Nafion)”(商品名、EW=1000)9.72重量部及びポリパーフルオロスルホン酸樹脂の20重量%溶液であるデュポン(DuPont)社製の“ナフィオン(Nafion)”(商品名)2.52重量部及び水1重量部に添加し、均一に分散するよう混合液を充分に攪拌して触媒塗料を調製した。次に、PTFEフィルム上にこの触媒塗料を、白金担持量が0.03mg/cm2となるように塗布して乾燥した後、剥がし取って金属酸化物担持カーボン粒子電極膜を得た。
【0070】
<標準電極膜の作製>
白金を50重量%担持させた田中貴金属工業社製の白金担持カーボン“10E50E”(商品名)を用いて、上記と同様にして触媒塗料を調製した後、PTFEフィルム上に、白金担持量が0.5mg/cm2となるように塗布して乾燥した後、剥し取って標準電極膜を得た。
【0071】
<膜電極接合体の作製>
固体高分子電解質膜としては、デュポン社製のポリパーフルオロスルホン酸樹脂膜“Nafion 112”(商品名)を所定のサイズに切り出して用いた。この固体高分子電解質膜の両面に、先に作製した金属酸化物担持カーボン粒子電極膜と標準電極膜とを重ね合わせ、温度160℃、圧力4.4MPaの条件でホットプレスを行い、これらを接合した。次に、あらかじめ撥水処理を施した東レ社製のカーボン不織布“TGP−H−120”(商品名)を、電極膜を形成した固体高分子電解質膜の両面にホットプレスで接合し、膜電極接合体を作製した。
【0072】
<出力特性の評価>
以上のようにして得られた膜電極接合体を用いて、燃料電池の出力特性として、最大出力密度(mW/cm2)を測定した。測定の際には、膜電極接合体を含む測定系を60℃に保持し、燃料極側に60℃の加湿・加温した水素ガスを供給し、空気極側に60℃の加湿・加温した空気を供給して測定を行った。その結果を表1に示す。また、表1では、金属酸化物粒子の組成と粒子径(担持粒子径)も示した。
【0073】
【表1】

【0074】
表1から明らかなように、実施例1〜5の金属酸化物担持カーボン粒子を用いた燃料電池は、酸化白金を担持させたカーボン粒子を用いたにもかかわらず、最大出力密度の低下が認められないことが分かる。これは、実施例1〜5の金属酸化物担持カーボン粒子では、酸化白金がアモルファス状であり、且つ少なくともセリウムを含む金属酸化物粒子と複合体を形成しているため、触媒能が十分に発揮されたものと思われる。
【0075】
一方、酸化白金を担持せずに酸化セリウム粒子のみを担持させた比較例1では、電極としての特性がほとんど現れず、酸化セリウム粒子のみでは触媒能を持たないことが分かる。また、酸化白金粒子のみを担持させた比較例2でも、電極としての特性は使用に耐えるものではなく、従来考えられている通りに、単なる酸化白金粒子の状態では触媒能をほとんど持たないことが分かる。
【0076】
<耐酸化性の評価>
金属酸化物担持カーボン粒子の空気中での酸化に対する耐性を評価するために、代表的な組成を有するものとして、実施例5及び比較例3の金属酸化物担持カーボン粒子を用いて、これらの空気中での物性変化を測定した。測定に際しては、それぞれのカーボン粒子について、前もって空気中において150℃で48時間の酸化処理を行った。
【0077】
上記酸化処理後の各金属酸化物担持カーボン粒子について、粉末X線回折スペクトル測定を行って、結晶構造を調べたところ、実施例5の金属酸化物担持カーボン粒子では酸化セリウム構造が現れ、処理前と比較して変化がなかった。一方、比較例3の金属酸化物担持カーボン粒子では、処理前は「酸化セリウム構造+金属白金構造」の2相であったが、酸化処理後には「酸化セリウム構造+金属白金構造+酸化白金(PtO)」の3相が観測された。
【0078】
さらに、それぞれの粒子についてTEM観察を行ったところ、実施例5の金属酸化物担持カーボン粒子では約7〜8nmの粒子がカーボン粒子上に担持されている様子が観測され、処理前と比較して粒子径にほぼ変化はなかった。一方、比較例3の金属酸化物担持カーボン粒子では、約10nmの酸化物粒子及び約8〜9nmの白金粒子がカーボン粒子上に担持されている様子が観測され、処理前の約5nmの白金粒子と比較して、粒子径が増大したことが認められた。
【0079】
次に、酸化処理後の各金属酸化物担持カーボン粒子を用いて、前述と同様にして膜電極接合体を作製し、出力特性の評価を行った。その結果、実施例5の金属酸化物担持カーボン粒子を用いた場合では、その最大出力密度が179mW/cm2であり、比較例3では91mW/cm2であった。以上の耐酸化性評価及び出力特性評価の結果を表2に示す。
【0080】
【表2】

【0081】
表2から明らかなように、空気中での酸化を経た後には、実施例5の金属酸化物担持カーボン粒子では結晶構造、担持粒子径ともにほぼ変化がないのに対して、比較例3の金属酸化物担持カーボン粒子では、結晶構造が「金属白金」から「金属白金+酸化白金」へと変化し、担持粒子径も増大していることが分かる。このため、実施例5の金属酸化物担持カーボン粒子を用いた燃料電池では出力の低下が少ないのに対して、比較例3の金属酸化物担持カーボン粒子を用いた燃料電池では出力特性が著しく低下したものと思われる。
【0082】
以上のように、白金元素をアモルファス状態の酸化白金とし、且つ酸化セリウム構造を持つ金属酸化物粒子と共にカーボン上に担持させた本発明の金属酸化物担持カーボンは、固体高分子型燃料電池の電極用触媒として有用であることが分かる。また、アモルファス状の酸化白金は、それ以上の酸化による劣化が起こり得ず、白金−白金間の金属結合が存在しないために凝着による粒子の粗大化による劣化も起こり得ないという点で、本発明の金属酸化物担持カーボンは、触媒の劣化を防ぎ、耐久性を高めることができ、触媒使用量を減らすことができる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
以上のように本発明の金属酸化物担持カーボンは、電極用触媒として優れた触媒能を発揮でき、それを用いた高出力の燃料電池用電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の燃料電池用電極である膜電極接合体の一例を示す模式断面図である。
【図2】実施例1の金属酸化物担持カーボン粒子及び比較例1の金属酸化物担持カーボン粒子の粉末X線回折スペクトルを示す図である。
【図3】実施例1の金属酸化物担持カーボン粒子中のPt−4f軌道のXPS測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0085】
1 固体高分子電解質膜
2 空気極
3 燃料極
4 空気極用ガス拡散層
5 燃料極用ガス拡散層
10 膜電極接合体(MEA)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン粒子と、前記カーボン粒子に担持されたアモルファス状の酸化白金と、前記カーボン粒子に担持されたセリウムを含む金属酸化物粒子とを含むことを特徴とする金属酸化物担持カーボン。
【請求項2】
前記アモルファス状の酸化白金と、前記金属酸化物粒子とは、複合体を形成している請求項1に記載の金属酸化物担持カーボン。
【請求項3】
前記金属酸化物粒子は、ジルコニウム、鉄、スズ、サマリウム、ハフニウム、ガドリニウム、イットリウム、イッテルビウム、ランタン、ホルミウム及びエルビウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素をさらに含む請求項1又は2に記載の金属酸化物担持カーボン。
【請求項4】
前記金属酸化物粒子の粒子径が、1nm以上20nm以下であり、前記カーボン粒子の平均粒子径が、20nm以上70nm以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属酸化物担持カーボン。
【請求項5】
前記金属酸化物担持カーボンの平均粒子径が、20nm以上90nm以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属酸化物担持カーボン。
【請求項6】
前記酸化白金の担持量が、前記酸化白金と前記金属酸化物粒子との合計重量に対して、5重量%以上50重量%以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属酸化物担持カーボン。
【請求項7】
前記酸化白金と前記金属酸化物粒子との合計担持量が、前記金属酸化物担持カーボンの全体の重量に対して、5重量%以上50重量%以下である請求項1〜6のいずれか1項に記載の金属酸化物担持カーボン。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の金属酸化物担持カーボンを含むことを特徴とする燃料電池用電極。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−123860(P2008−123860A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−306953(P2006−306953)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】