説明

金属酸化物粒子、金属酸化物粒子担持体及びそれらの製造方法

【課題】表面を何にも被覆されることなく、狭い粒子径分布を有し、かつシングルナノサイズの粒子径を有する金属酸化物粒子を提供する。
【解決手段】本発明の金属酸化物粒子は、鉄を含む金属酸化物粒子であって、前記金属酸化物粒子の平均粒子径は1nm〜7nmであり、前記金属酸化物粒子の粒子径の変動係数は15%以下であり、前記平均粒子径に対して±20%の範囲内の粒子径を有する前記金属酸化物粒子の割合は90%以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種金属酸化物触媒又は磁性粒子として利用可能な、鉄を含む金属酸化物粒子、その金属酸化物粒子担持体及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネタイト等に代表される鉄酸化物や、鉄を含む各種複合酸化物は、その磁気物性を利用した磁気記録媒体、あるいは各種金属酸化物触媒として利用されている。これらは、磁気記録媒体として利用される場合には高密度化のために微粒子化が求められており、金属酸化物触媒として利用される場合には各種担体上に担持される場合が多く、活性面積を大きくするためにより小さなナノサイズ微粒子が用いられる。
【0003】
これらの鉄酸化物微粒子の作製方法としては、金属塩水溶液とアルカリ水溶液とを反応させて共沈させる共沈法や、ゾル−ゲル法、あるいは、原料となる金属化合物を混合して高温焼成した後、粉砕することで得られるものが多い。しかしながら、これらの従来の方法を元にした製造方法によって、粒子径分布の非常に狭い、シングルナノサイズ(10nm未満)の微粒子を得ることは困難であった。ここで、粒子径分布の広い微粒子を得た後、遠心分離法や磁気分離法等により粗大粒子を除去し、粒子径や粒子径分布を調節することは可能であるが、シングルナノサイズのような超微粒子ではこの分離は非常に難しく、かつ、所望の粒子径を持つ微粒子の収率が大きく低下することとなる。
【0004】
一方従来、鉄酸化物微粒子の作製方法として次のような技術も開示されている。例えば、特許文献1には、共沈法によりマグネタイト微粒子を製造するに際し、鉄塩水溶液にアルコールアミンを添加した後にアルカリを添加することにより、平均粒子径が5〜10nmのマグネタイト微粒子を製造する方法が開示されている。
【0005】
特許文献2には、少なくとも親水性基を有する単位を含むオリゴマー骨格を有し、その骨格の末端がポリフルオロアルキル基からなる含フッ素オリゴマーの存在下で、塩化鉄のアルカリ加水分解による磁性酸化鉄の生成反応を行うことにより、含フッ素オリゴマーで表面修飾された10nm程度の一次粒子径を有するをマグネタイト粒子を製造する方法が開示されている。また、特許文献3には、分子量が1000以下の修飾物で表面修飾することにより、平均粒子径が1〜20nmのマグネタイト粒子が得られることが開示されている。
【0006】
特許文献4には、Feイオン含有液又は水酸化鉄含有液にパルス衝撃波を伴うジェット噴流を衝突させることにより、3〜50nmの一次粒子径を有するマグネタイト粉末を製造する方法が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開2004−182526号公報
【特許文献2】特開2005−289794号公報
【特許文献3】特開2003−112925号公報
【特許文献4】特開2006−248872号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
鉄酸化物微粒子は、特に各種金属酸化物触媒として利用される場合には活性面積を上げるために、また、磁気記録媒体として利用される場合には記録密度の向上のために、それぞれさらなる微粒子化が望まれている。特に触媒として利用される場合に、非常に狭い粒子径分布を持ち、かつ反応表面が何物にも被覆されていない鉄酸化物微粒子及びこの鉄酸化物微粒子を担体上に担持した鉄酸化物微粒子担持体が望まれている。しかし、このような鉄酸化物微粒子としては、現状では最小粒子径が高々10nm程度のものを得るのが限界である。
【0009】
特許文献1では、最小で平均粒子径が5nmのマグネタイト粒子が得られるとされているが、実際にはその粒子径分布は4〜12nm程度と広いものであった。また、特許文献2及び特許文献3では、微粒子状のマグネタイト粒子が得られるとされているが、得られたマグネタイト粒子は表面修飾されたものであり、金属酸化物触媒には適さない。さらに、特許文献4では、3〜50nmの一次粒子径を有するマグネタイト粉末が得られるとされているが、最大粒子径が50nmと非常に粒子径分布が広く、シングルナノサイズの微粒子のみで構成される粉末を得ることはできない。
【0010】
本発明は、上述の状況に照らしたもので、表面を何にも被覆されることなく、狭い粒子径分布を有し、かつシングルナノサイズの粒子径を有する金属酸化物粒子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の金属酸化物粒子は、鉄を含む金属酸化物粒子であって、前記金属酸化物粒子の平均粒子径は、1nm〜7nmであり、前記金属酸化物粒子の粒子径の変動係数は、15%以下であり、前記平均粒子径に対して±20%の範囲内の粒子径を有する前記金属酸化物粒子の割合は、90%以上であることを特徴とする。
【0012】
本発明の金属酸化物粒子担持体は、導電性担体と、前記導電性担体に担持された上記本発明の金属酸化物粒子とを含むことを特徴とする。
【0013】
本発明の金属酸化物粒子の製造方法は、親水性のアルコールに鉄塩を溶解させてアルコール溶液を作製する工程と、前記アルコール溶液に有機酸又はリン酸を加えてゲル化させてゲル状固体を作製する工程と、前記ゲル状固体を乾燥させて前駆体粒子を作製する工程と、前記前駆体粒子を150℃〜600℃の温度で加熱する工程とを含む金属酸化物粒子の製造方法であって、前記アルコール溶液の鉄イオン濃度が、0.1mol/L以上であり、前記アルコール溶液の水分濃度が、70容量%以下であることを特徴とする。
【0014】
本発明の金属酸化物粒子担持体の製造方法は、親水性のアルコールに鉄塩を溶解させると共に、導電性担体を加えて分散させてアルコール分散溶液を作製する工程と、前記アルコール分散溶液に有機酸又はリン酸を加えてゲル化させてゲル状固体を作製する工程と、前記ゲル状固体を乾燥させて前駆体粒子を作製する工程と、前記前駆体粒子を150℃〜600℃の温度で加熱する工程とを含む金属酸化物粒子担持体の製造方法であって、前記アルコール分散溶液の鉄イオン濃度が、0.1mol/L以上であり、前記アルコール分散溶液の水分濃度が、70容量%以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の金属酸化物粒子は、その表面が何物にも被覆されておらず、その平均粒子径が1〜7nmであり、かつその粒子径分布も非常に狭いものであり、磁気記録媒体、あるいは、各種金属酸化物触媒として有用な材料として使用できる。
【0016】
また、本発明の金属酸化物粒子担持体は、特に金属酸化物触媒として有用な材料として使用できる。
【0017】
また、本発明の金属酸化物粒子の製造方法は、上記本発明の金属酸化物粒子を合理的に製造できる。
【0018】
また、本発明の金属酸化物粒子担持体の製造方法は、上記本発明の金属酸化物粒子担持体を合理的に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の金属酸化物粒子は、鉄を含み、平均粒子径が1nm〜7nmであり、金属酸化物粒子の粒子径の変動係数が15%以下であり、平均粒子径に対して±20%の範囲内の粒子径を有する金属酸化物粒子の割合が90%以上である。
【0020】
本発明の金属酸化物粒子は、その表面が何物にも被覆されておらず、その平均粒子径が1〜7nmのシングルナノサイズであり、かつその粒子径分布も非常に狭いものであり、磁気記録媒体、あるいは、各種金属酸化物触媒として有用な材料として使用できる。
【0021】
上記金属酸化物粒子は、酸化鉄粒子とすることができる。酸化鉄としては、FeO、Fe(マグネタイト)、α型Fe及びγ型Feがある。この中で、特にこのマグネタイト等の磁性を持つ酸化鉄粒子は磁気記録媒体として好適に使用できる。
【0022】
上記金属酸化物粒子は、鉄と他の金属との複合酸化物粒子とすることもできる。鉄以外の金属を含有することにより、金属酸化物粒子に各種の特性を付与できる。鉄以外の金属としては、例えば、ランタン、セリウム、ネオジム、サマリウム等のランタノイドや、ストロンチウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、及び鉄以外の遷移金属などから一種以上を選択して用いることができる。
【0023】
本発明おいて、平均粒子径及び変動係数は、透過型電子顕微鏡(TEM)写真から観察される100個の粒子の粒子径から求めるものとする。また、変動係数(%)とは、下記式(1)で与えられるものである。
【0024】
変動係数(%)=〔金属酸化物粒子の粒子径の標準偏差(nm)/金属酸化物粒子の平均粒子径(nm)〕×100 ・・・(1)
【0025】
標準偏差の値は、平均粒子径の大小に関わらず、平均値からのずれの絶対値を表すのに対し、変動係数は、平均粒子径に対する相対的な分布のばらつきを表すことができる。従って、変動係数が15%以下の限定がない場合には、たとえ平均粒子径に対して±20%の範囲内の粒子径を有する金属酸化物粒子の割合が90%以上であったとしても、この範囲から外れた残り10%の粒子が数μmもあるような粗大粒子である場合であっても本発明に含まれることになる。しかしながら、このように極端な粗大粒子が混入することは、本発明では好ましくない。そこで、本発明では、変動係数を15%以下とすることにより、このような粗大粒子の混入した金属酸化物粒子を排除したものである。
【0026】
本発明の金属酸化物粒子はシングルナノサイズの微粒子であり、その磁気物性を利用したさまざまな用途に応用できる。磁気記録媒体として用いる場合には、特にその粒子径が微小であり、かつ、粒子径分布が狭いことで記録密度の向上を図ることが可能であり、また、各種触媒として用いる場合には、特に5nm以下のような超微粒子であり、かつ、粒子径が均一な分散体であることが好ましく、このような超微粒子では大きな比表面積を得られるために、高い触媒能を実現することが可能となる。
【0027】
また、本発明の金属酸化物粒子担持体は、導電性担体と、導電性担体に担持された上記本発明の金属酸化物粒子とを含んでいる。本発明の金属酸化物粒子担持体は、各種酸化物触媒として使用できる機能性材料となる。特に、磁性を有する鉄含有酸化物微粒子を、導電性担体上に白金等の貴金属粒子とともに担持させたものは、酸素や水素等のガス分解用の触媒として有用なものとなる。
【0028】
上記導電性担体は、カーボン粒子であることが好ましい。カーボン粒子は、導電性が高く、化学的、物理的物性が安定しているからである。カーボン粒子としては、例えば、カーボンブラック、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
また、本発明の金属酸化物粒子の製造方法は、親水性のアルコールに鉄塩を溶解させてアルコール溶液を作製する工程Aと、アルコール溶液に有機酸又はリン酸を加えてゲル化させてゲル状固体を作製する工程Bと、ゲル状固体を乾燥させて前駆体粒子を作製する工程Cと、前駆体粒子を150℃〜600℃の温度で加熱する工程Dとを備えている。
【0030】
工程Aにおいて、親水性のアルコールを用いるのは、鉄塩を均一に溶解させるためである。親水性のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等の低沸点アルコールが好ましい。沸点が100℃以上のアルコールは、乾燥に時間を要するため好ましくない。
【0031】
また、工程Aにおいて用いる鉄塩の構成元素としては、C、N、H、O及びFe以外の元素を含まないことが好ましい。例えばCl、S等が含まれると、これらの元素が不純物として残留するため、本発明の金属酸化物粒子を磁気記録媒体又は各種金属酸化物触媒として用いる場合に好ましくないからである。
【0032】
工程Bにおいて、上記アルコール溶液中の鉄イオンと有機酸又はリン酸とが結合して素早くゲル化し、鉄イオンが均一に分布した状態でゲル状固体が形成される。工程Bで用いる有機酸としては、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、ギ酸、酢酸及びステアリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機酸を用いることができる。
【0033】
工程Cにおいて、ゲル状固体を乾燥することにより水分が除去され、鉄イオンが均一に分布した状態で粉末状の前駆体粒子となる。乾燥温度は、20℃〜80℃とすればよい。
工程Dで加熱するのは、アルコール、有機酸又はリン酸等の残留物を除去するためである。
【0034】
上記アルコール溶液の鉄イオン濃度は、0.1mol/L以上であることが必要である。0.1mol/Lを下回ると、工程Bにおいてゲル状固体を形成することができないからである。上記鉄イオン濃度は、0.4mol/L以上がより好ましく、0.6mol/L以上が最も好ましい。これによりさらに粒子径分布を狭くできるからである。上記鉄イオン濃度の上限値は特に限定されず、鉄イオンの可溶限界濃度であってもよい。
【0035】
上記アルコール溶液の水分濃度は、70容量%以下であることが必要である。70容量%を超えると、工程Bにおいてゲル状固体を形成することができなくなるからである。上記アルコール溶液の水分濃度は、50容量%以下がより好ましい。これにより、ゲル化時間をより短縮できるからである。上記アルコール溶液の水分濃度の下限値は特に限定されないが、上記アルコール溶液は水分を含まないのが最も好ましい。
【0036】
工程Aにおいて、アルコールに鉄塩以外の金属塩をさらに加えて溶解させることにより、鉄と他の金属との複合酸化物粒子を製造することができる。Fe以外の金属元素としては、例えば、ランタノイドやアルカリ土類金属から選ばれる元素、及び遷移金属元素などから一種以上を選択して用いることができる。鉄塩以外の金属塩の構成元素としても、前述と同様の理由で、C、N、H、O及び当該金属以外の金属元素を含まないことが好ましい。
【0037】
工程Aにおいて、アルコールに鉄塩を溶解させるとともに、導電性担体を加えて分散させることにより、金属酸化物粒子担持体を製造することができる。
【0038】
以下、本発明の鉄含有金属酸化物粒子の製造方法及び鉄含有金属酸化物粒子担持体の製造方法についてより具体的に説明する。
【0039】
<ゲル状固体の作製>
先ず、第一に、親水性のアルコールに鉄塩を溶解させ、鉄イオンを含むアルコール溶液を作製する。アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール等の低沸点アルコール類が使用できるが、親水性のないブタノール等のアルコール類、及び、沸点が100℃以上のアルコールは好ましくない。高沸点アルコールが好ましくないのは、作製したゲル状固体を完全に乾燥させる際に、なるべく低い温度環境での作業を可能にするためであり、高温での乾燥処理は粒子の粗大化の一因となるためである。中でも、使用時の利便性を考慮してエタノールを用いることが最も好ましい。また、これらのアルコール溶液に水が含まれていてもよいが、その水分濃度は50容量%以下にすることが好ましい。これより水分濃度が高くても、約60〜70容量%までは、60℃程度の熱をかけるなどの処理を施せばゲル状固体を形成することができるが、ゲル化するまでの時間が長くなり、特に担体を分散させた溶液をゲル化させる場合には好ましくない。
【0040】
上記鉄塩としては、酢酸鉄、硝酸鉄等のように、Fe以外の構成元素がC、N、H、Oである鉄塩が好ましい。塩化鉄、硫酸鉄等のように、Cl、S等を構成元素として含む鉄塩を用いた場合でも、ゲル状固体を形成し、微粒子を作製することは可能であるが、最終生成物においてこれらの元素が不純物として残留するため、好ましくない。これは、複合酸化物粒子を作製する際に用いる、Fe以外の金属元素を構成元素とする金属塩に関しても同様である。これらの鉄塩、及び各種金属塩をアルコール中に溶解させるが、その際、鉄イオン濃度は0.1mol/L以上とし、0.4mol/L〜可溶限界濃度とすることが好ましい。鉄イオン濃度が、0.1mol/Lより低い場合には、ゲル状固体を形成することができないからである。
【0041】
さらに、鉄含有金属酸化物粒子を担体上に担持させる場合には、担体粒子を上記アルコール溶液中に分散させる。担体粒子としては、目的用途に応じて適宜選択でき、酸性のアルコール溶液中で溶解しないものであれば、どのような粒子であっても使用できる。分散方法は、超音波分散法やマグネチックスターラー、攪拌機等を用いる方法等、どのような方法でもよいが、ゲル化させる前に攪拌子や攪拌羽根等は取り除いておく必要がある。
【0042】
その後、第二に、上記アルコール溶液中に酸を加えて、溶液をゲル化させ、鉄を含むゲル状固体を作製する。ゲル化剤としての酸は、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、ギ酸、酢酸、ステアリン酸等の有機酸が使用できる。この後の加熱処理工程で分解するものであれば、いずれを用いてもよい。また、金属のリン酸化合物の微粒子を作製する場合には、ゲル化剤としてリン酸を使用する。この場合には、目的当量のリン酸を上記アルコール溶液中に加える。これらの有機酸又はリン酸を、上記アルコール溶液中に手早く加えて溶解させ、数分間静置することで、ゲル状固体が得られる。
【0043】
次に、このゲル状固体から水分を完全に蒸散させて乾燥させると、ゲル状固体の乾燥粉末が得られる。乾燥温度は、20℃〜80℃の範囲であることが好ましい。これより高い温度で乾燥させる場合はアルコールの沸点に注意し、沸点より低い温度で乾燥させる。沸点より高い場合には、破砕する場合があり、好ましくない。また、20℃より低くても問題はないが、乾燥に時間がかかり効率的ではない。乾燥させる雰囲気は、空気中が最も簡便でコストもかからないため、好ましい。
【0044】
上記ゲル状固体の乾燥粉末を得ることにより、鉄イオン及び他の金属イオンが原子レベルで完全に均一に分散した前駆体粒子が得られる。特に、担体上に担持させる目的の場合には、担体表面に鉄イオン及び他の金属イオンが原子レベルで分散担持されるため、均一な担持体を得ることができる。また、複合金属酸化物を得る場合には、原子レベルで各種金属が混合されるために、元素比の偏りのない複合酸化物を得ることができる。
【0045】
<加熱処理>
上記により得られた前駆体粒子を加熱処理し、鉄含有金属酸化物粒子を得る。加熱処理の雰囲気は、空気、酸素、窒素、水素、アルゴン等の雰囲気から、目的の酸化物種に適した雰囲気を選択すればよい。例えば、鉄元素単独の前駆体粒子を用いる場合には、酸素又は空気中で熱処理を行えば、温度によりα酸化鉄(α型Fe)又はγ酸化鉄(γ型Fe)が得られ、窒素中で熱処理を行えばマグネタイト(Fe)が得られる。このほかの酸化物に関しても、目的に応じて雰囲気を適宜選択すればよい。加熱処理温度もまた、目的とする酸化物種に応じて選択すればよい。前述の例を用いれば、α酸化鉄を得る場合には400℃で加熱し、γ酸化鉄を得る場合には200〜250℃で熱処理を行う。また、マグネタイトを得る場合には200〜600℃の温度範囲から適宜選択して熱処理を行う。この場合には、熱処理温度により生成する粒子径が異なるものが得られる。
【0046】
以上のようにして、平均粒子径が1nm〜7nmであり、変動係数が15%以下であり、かつ平均粒子径に対して±20%の範囲内の粒子径を有する粒子の割合が、90%以上である鉄含有金属酸化物粒子あるいは鉄含有金属酸化物粒子担持体を得ることができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
硝酸鉄(III)九水和物5.12gをエタノール20mLに溶解し、鉄イオンを含むエタノール溶液(鉄イオン濃度:0.63mol/L、水分濃度:0容量%)を調製した。このエタノール溶液にクエン酸2gを加えて手早く溶解させると、約2分後にエタノール溶液はゲル化し、ゲル状固体が形成された。このゲル状固体を空気中において60℃で完全に乾燥させ、前駆体粒子を得た。
【0049】
次に、この前駆体粒子について、窒素雰囲気中において300℃で1時間の加熱処理を行い、酸化鉄粒子を得た。
【0050】
このようにして得られた酸化鉄粒子について、粉末X線回折スペクトル測定を行った結果、マグネタイト(Fe)の明確なピークが現れていることが確認された。また、TEM観察を行い、粒子径が約5nmの粒子であることを確認した。このTEM写真から求めた酸化鉄粒子100個の平均粒子径は5.2nm、変動係数は9%であり、5.2nmの±20%の範囲内(4.2〜6.2nm)の粒子径を有する酸化鉄粒子の割合は96%であった。
【0051】
(実施例2)
実施例1で調製した鉄イオンを含むエタノール溶液(鉄イオン濃度:0.63mol/L、水分濃度:0容量%)に、さらにカーボン粒子であるCABOT社製のカーボンブラック“バルカンXC−72”(登録商標、平均粒子径30nm)を3g加えて超音波分散させた以外は、実施例1と同様にして前駆体粒子を得た。その後、この前駆体粒子について、窒素雰囲気中において500℃で2時間の加熱処理を行い、酸化鉄粒子担持カーボン粒子を得た。
【0052】
このようにして得られた酸化鉄粒子担持カーボン粒子について、粉末X線回折スペクトル測定を行った結果、実施例1と同様のマグネタイトの明確なピークと共に、約25度付近に非常にブロードなカーボンに由来するピークが現れた。この粉末X線回折スペクトルを図1に示す。また、TEM観察を行った結果、粒子径が約5nmの微粒子がカーボン上に担持されていることが確認された。このTEM写真から求めたカーボン上に担持された酸化鉄粒子100個の平均粒子径は5.4nm、変動係数は11%であり、5.4nmの±20%範囲内(4.3〜6.5nm)の粒子径を有する酸化鉄粒子の割合は96%であった。この酸化鉄粒子担持カーボン粒子のTEM写真を図2に示す。
【0053】
(実施例3)
前駆体粒子を窒素雰囲気中において500℃で加熱処理する代わりに、空気中において200℃で2時間の加熱処理を行った以外は、実施例2と同様にして酸化鉄粒子担持カーボン粒子を得た。
【0054】
このようにして得られた酸化鉄粒子担持カーボン粒子について、粉末X線回折スペクトル測定を行った結果、γ酸化鉄(γ型Fe)の明確なピークと共に、約25度付近に非常にブロードなカーボンに由来するピークが現れた。また、TEM観察を行った結果、粒子径が約3.5nmの微粒子がカーボン上に担持されていることが確認された。このTEM写真から求めたカーボン上に担持された酸化鉄粒子100個の平均粒子径は3.4nm、変動係数は8%であり、3.4nmの±20%範囲内(2.7〜4.1nm)の粒子径を有する酸化鉄粒子の割合は98%であった。この酸化鉄粒子担持カーボン粒子のTEM写真を図3に示す。
【0055】
(実施例4)
先ず、カーボン粒子であるCABOT社製のカーボンブラック“バルカンXC−72”(登録商標、平均粒子径30nm)上に、平均粒子径2nmの白金粒子を20重量%担持させた白金担持カーボン粒子を準備した。
【0056】
次に、実施例1で調製した鉄イオンを含むエタノール溶液に、上記白金担持カーボン粒子3gを予め水8gで湿らせてから加えて超音波分散させた以外は、実施例1と同様にして前駆体粒子を得た。最終的なエタノール分散溶液の鉄イオン濃度は0.45mol/L、水分濃度は28.6容量%であった。その後、この前駆体粒子について、窒素雰囲気中において500℃で2時間の加熱処理を行い、酸化鉄粒子/白金粒子担持カーボン粒子を得た。
【0057】
このようにして得られた酸化鉄粒子/白金粒子担持カーボン粒子について、粉末X線回折スペクトル測定を行った結果、マグネタイト及び白金(Pt)の明確なピークと共に、約25度付近に非常にブロードなカーボンに由来するピークが現れた。また、TEM観察を行った結果、粒子径が約5nmの酸化鉄粒子及び粒子径が約2nmのPt粒子がカーボン上に担持されていることが確認された。このTEM写真から求めたカーボン上に担持された酸化鉄粒子100個の平均粒子径は4.2nm、変動係数は13%であり、4.2nmの±20%範囲内(3.4〜5.0nm)の粒子径を有する酸化鉄粒子の割合は92%であった。
【0058】
(実施例5)
実施例1で調製した鉄イオンを含むエタノール溶液(鉄イオン濃度:0.63mol/L、水分濃度:0容量%)に、クエン酸に代えて、85%のリン酸水溶液1.46g及び酢酸1.3gを加えて溶解させた以外は、実施例1と同様にして前駆体粒子を得た。最終的なエタノール溶液の鉄イオン濃度は0.55mol/L、水分濃度は1.1容量%であった。その後、この前駆体粒子について、窒素雰囲気中において500℃で2時間の加熱処理を行い、酸化鉄粒子を得た。
【0059】
このようにして得られた酸化鉄粒子について、粉末X線回折スペクトル測定を行った結果、リン酸鉄(FePO)の明確なピークが現れていることが確認された。また、TEM観察を行い、粒子径が約7nmの粒子であることを確認した。このTEM写真から求めた酸化鉄粒子100個の平均粒子径は6.7nm、変動係数は11%であり、6.7nmの±20%範囲内(5.4〜8.0nm)の粒子径を有する酸化鉄粒子の割合は93%であった。
【0060】
(実施例6)
実施例1で調製した鉄イオンを含むエタノール溶液(鉄イオン濃度:0.63mol/L、水分濃度:0容量%)に、クエン酸に代えて、リンゴ酸2.1gを加えて溶解させた以外は、実施例1と同様にして酸化鉄粒子を得た。
【0061】
このようにして得られた酸化鉄粒子について、粉末X線回折スペクトル測定を行った結果、実施例1と同様にマグネタイトの明確なピークが現れていることが確認された。また、TEM観察を行い、粒子径が約6nmの粒子であることを確認した。このTEM写真から求めた酸化鉄粒子100個の平均粒子径は5.9nm、変動係数は10%であり、5.9nmの±20%範囲内(4.7〜7.1nm)の粒子径を有する酸化鉄粒子の割合は92%であった。
【0062】
(比較例1)
硝酸鉄(III)九水和物1gをエタノール/水の混合溶液(エタノールと水との容量比=20:80)100mLに溶解し、鉄イオンを含むエタノール溶液(鉄イオン濃度:0.02mol/L、水分濃度:80容量%)を調製した。このエタノール溶液にクエン酸1gを加えて溶解させたがゲル化せず、60℃の熱をかけても液体のままであった。この溶液を空気中において60℃で蒸発乾燥させ、前駆体粒子を得た。その後、この前駆体粒子について、窒素雰囲気中において300℃で2時間の加熱処理を行い、酸化鉄粒子を得た。
【0063】
このようにして得られた酸化鉄粒子について、粉末X線回折スペクトル測定を行った結果、実施例1と同様にマグネタイトの明確なピークが現れていることが確認された。また、TEM観察を行った結果、粒子径が3〜20nmの範囲にある粒子径分布の広い粒子が観測された。このTEM写真から求めた酸化鉄粒子100個の平均粒子径は11.1nm、変動係数は37%であり、11.1nmの±20%範囲内(8.9〜13.3nm)の粒子径を有する酸化鉄粒子の割合は55%であった。
【0064】
(比較例2)
硝酸鉄(III)九水和物0.5gをエタノール20mLに溶解し、鉄イオンを含むエタノール溶液(鉄イオン濃度:0.06mol/L、水分濃度:0容量%)を調製した。このエタノール溶液にクエン酸1gを加えて溶解させたがゲル化せず、60℃の熱をかけても液体のままであった。この溶液を空気中において60℃で蒸発乾燥させ、前駆体粒子を得た。その後、この前駆体粒子について、窒素雰囲気中において300℃で2時間の加熱処理を行い、酸化鉄粒子を得た。
【0065】
このようにして得られた酸化鉄粒子について、粉末X線回折スペクトル測定を行った結果、実施例1と同様にマグネタイトの明確なピークが現れていることが確認された。また、TEM観察を行った結果、粒子径が6〜15nmの範囲にある粒子径分布の広い粒子が観測された。このTEM写真から求めた酸化鉄粒子100個の平均粒子径は9.7nm、変動係数は21%であり、9.7nmの±20%範囲内(7.8〜11.6nm)の粒子径を有する酸化鉄粒子の割合は69%であった。
【0066】
(比較例3)
硝酸鉄(III)九水和物5.12gをエタノール/水の混合溶液(エタノールと水との容量比=10:90)20mLに溶解し、鉄イオンを含むエタノール溶液(鉄イオン濃度:0.63mol/L、水分濃度:90容量%)を調製した。このエタノール溶液にクエン酸1gを溶解させたがゲル化せず、60℃の熱をかけても液体のままであった。この溶液を空気中において60℃で蒸発乾燥させ、前駆体粒子を得た。その後、この前駆体粒子を窒素雰囲気中において300℃で2時間の加熱処理を行い、酸化鉄粒子を得た。
【0067】
このようにして得られた酸化鉄粒子について、粉末X線回折スペクトル測定を行った結果、実施例1と同様にマグネタイトの明確なピークが現れていることが確認された。また、TEM観察を行った結果、粒子径が10〜25nmの範囲にある粒子径が大きな粒子が観測された。このTEM写真から求めた酸化鉄粒子100個の平均粒子径は16.5nm、変動係数は29%であり、16.5nmの±20%範囲内(13.2〜19.8nm)粒子径を有する酸化鉄粒子の割合は74%であった。
【0068】
実施例1〜6及び比較例1〜3の金属酸化物粒子の製造条件、物性等を表1に示す。表1において、粒子割合とは、平均粒子径に対して±20%の範囲内の粒子径を有する金属酸化物粒子の割合を示す。
【0069】
【表1】

【0070】
表1から明らかなように、実施例1〜6で得られた酸化鉄粒子においては、いずれの場合も平均粒子径は1〜7nmの範囲内であり、変動係数も15%以下で小さく、また、各平均粒子径に対して±20%の範囲内の粒子径を有する酸化鉄粒子の割合は90%以上であり、粒子径分布が非常に狭く、粒子径が均一な微粒子が得られていることが分かる。また、各酸化鉄粒子は、目的とした結晶構造の単一相の粒子が得られており、残留不純物等の混入がない。
【0071】
一方、比較例1〜3では、エタノール溶液中の鉄イオン濃度が0.1mol/L以上及び水分濃度が70容量%以下という条件の両方又はいずれか一方が外れているため、有機酸を加えてもゲル化せず、溶液を無理に蒸発乾固させたことによって、平均粒子径の大きなものとなっている。また、比較例1〜3の酸化鉄粒子は、変動係数も21〜37%と大きく、各平均粒子径に対して±20%の範囲内の粒子径を有する酸化鉄粒子の割合も55〜74%に留まるなど、粒子径分布の比較的広い粒子となっていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上のように、鉄イオンと有機酸又はリン酸との結合反応を利用してゲル状固体を作製し、このゲル状固体を完全に乾燥させることで得られる前駆体粒子について、加熱処理を施すことによって、粒子径がシングルナノサイズであり、かつ、粒子径分布の狭い金属酸化物粒子を作製することが可能となることが分かる。このような微粒子の金属酸化物粒子あるいは、これを担体上に担持させた金属酸化物粒子担持体は、微粒子であり、かつ粒子径が均一であることから磁気記録媒体として、あるいは、微粒子であり、かつ表面に異物が存在しないことから、活性表面積が増大することを利用した各種触媒として、それぞれ有用な材料となる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】実施例2で得られた酸化鉄粒子担持カーボン粒子の粉末X線回折スペクトルを示す図である。
【図2】実施例2で得られた酸化鉄粒子担持カーボン粒子のTEM写真を示す図である。
【図3】実施例3で得られた酸化鉄粒子担持カーボン粒子のTEM写真を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄を含む金属酸化物粒子であって、
前記金属酸化物粒子の平均粒子径は、1nm〜7nmであり、
前記金属酸化物粒子の粒子径の変動係数は、15%以下であり、
前記平均粒子径に対して±20%の範囲内の粒子径を有する前記金属酸化物粒子の割合は、90%以上であることを特徴とする金属酸化物粒子。
【請求項2】
前記金属酸化物粒子は、酸化鉄粒子である請求項1に記載の金属酸化物粒子。
【請求項3】
前記金属酸化物粒子は、鉄と他の金属との複合酸化物粒子である請求項1に記載の金属酸化物粒子。
【請求項4】
導電性担体と、前記導電性担体に担持された請求項1〜3のいずれかに記載の金属酸化物粒子とを含むことを特徴とする金属酸化物粒子担持体。
【請求項5】
前記導電性担体は、カーボン粒子である請求項4に記載の金属酸化物粒子担持体。
【請求項6】
親水性のアルコールに鉄塩を溶解させてアルコール溶液を作製する工程と、
前記アルコール溶液に有機酸又はリン酸を加えてゲル化させてゲル状固体を作製する工程と、
前記ゲル状固体を乾燥させて前駆体粒子を作製する工程と、
前記前駆体粒子を150℃〜600℃の温度で加熱する工程とを含む金属酸化物粒子の製造方法であって、
前記アルコール溶液の鉄イオン濃度が、0.1mol/L以上であり、
前記アルコール溶液の水分濃度が、70容量%以下であることを特徴とする金属酸化物粒子の製造方法。
【請求項7】
前記アルコール溶液の水分濃度が、50容量%以下である請求項6に記載の金属酸化物粒子の製造方法。
【請求項8】
前記アルコール溶液を作製する工程において、前記アルコールに前記鉄塩以外の金属塩をさらに加えて溶解させる請求項6又は7に記載の金属酸化物粒子の製造方法。
【請求項9】
前記有機酸は、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、ギ酸、酢酸及びステアリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機酸である請求項6〜8のいずれかに記載の金属酸化物粒子の製造方法。
【請求項10】
親水性のアルコールに鉄塩を溶解させると共に、導電性担体を加えて分散させてアルコール分散溶液を作製する工程と、
前記アルコール分散溶液に有機酸又はリン酸を加えてゲル化させてゲル状固体を作製する工程と、
前記ゲル状固体を乾燥させて前駆体粒子を作製する工程と、
前記前駆体粒子を150℃〜600℃の温度で加熱する工程とを含む金属酸化物粒子担持体の製造方法であって、
前記アルコール分散溶液の鉄イオン濃度が、0.1mol/L以上であり、
前記アルコール分散溶液の水分濃度が、70容量%以下であることを特徴とする金属酸化物粒子担持体の製造方法。
【請求項11】
前記アルコール分散溶液の水分濃度が、50容量%以下である請求項10に記載の金属酸化物粒子担持体の製造方法。
【請求項12】
前記アルコール分散溶液を作製する工程において、前記アルコールに前記鉄塩以外の金属塩をさらに加えて溶解させる請求項10又は11に記載の金属酸化物粒子担持体の製造方法。
【請求項13】
前記有機酸は、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、ギ酸、酢酸及びステアリン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機酸である請求項10〜12のいずれかに記載の金属酸化物粒子担持体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−62238(P2009−62238A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−232880(P2007−232880)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】