説明

金属錯体、有機電界発光素子用組成物および有機電界発光素子

【課題】耐久性が高く、有機電界発光素子の湿式成膜法で形成される有機層に有用な金属錯体であって、溶剤溶解性に優れ、湿式成膜法により、高効率、長寿命な有機電界発光素子を提供できる金属錯体を提供する。
【解決手段】有機電界発光素子に用いられる金属錯体であって、下記式で算出されるレーザー脱離イオン化質量分析におけるR値(%)が、12以下であることを特徴とする金属錯体。
R値(%)=Idecomp/I×100
ここで、Idecompは脱配位子イオン強度を表し、Iは金属錯体イオン強度を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子用に用いられる金属錯体に関するものであり、詳しくは、耐久性、溶剤に対する溶解性が優れており、成膜性、湿式プロセス適性に優れた有機電界発光素子用の金属錯体に関する。本発明はまた、この金属錯体を含む有機電界発光素子用組成物と、この金属錯体を用いた高効率、長寿命な有機電界発光素子、並びにこの有機電界発光素子を用いた有機ELディスプレイおよび有機EL照明に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、薄膜型の電界発光素子としては、無機材料を使用したものに代わり、有機薄膜を用いた有機電界発光素子の開発が行われるようになっている。有機電界発光素子は、通常、陽極と陰極との間に、正孔注入層、正孔輸送層、有機発光層、電子輸送層などを有し、特に発光層には、赤、緑、青などの発光材料が含まれている。
【0003】
このような有機電界発光素子は、実用化にむけて、効率および寿命の改良が求められており、特に発光層の材料として耐久性の高い燐光発光材料が求められている。
【0004】
従来、燐光発光材料としては、Irなどの金属を中心金属として有する有機金属錯体が有望視され、以下に示すイリジウム錯体などが提案されているが(例えば特許文献1)、合成プロセスがいまだ未知の部分が多く、製造時の性能が安定しないなどの問題を抱えていた。
【0005】
【化1】

【0006】
一方、有機電界発光素子の各層の形成方法としては、蒸着成膜法や湿式成膜法がある。蒸着成膜法では、テレビやモニタ用の中・大型フルカラーパネルなどを製作する場合、歩留まりの観点で課題を有する。そのため、中でもこれら大面積の用途には湿式成膜法が好適であるが、湿式成膜法で有機電界発光素子の各層を形成するためには、各層を形成する材料が溶剤に溶解し、かつ湿式成膜後にも素子として高い性能を有する材料であることが必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2002/44189号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものである。
即ち、本発明は、耐久性が高く、有機電界発光素子の湿式成膜法で形成される有機層に有用な金属錯体であって、溶剤溶解性に優れ、湿式成膜法により、高効率、長寿命な有機電界発光素子を提供できる金属錯体および有機電界発光素子用組成物を提供することを課題とする。
本発明は、また、この金属錯体を用いて、高効率、長寿命の有機電界発光素子と、この有機電界発光素子を用いた有機ELディスプレイおよび有機EL照明を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討した結果、レーザー脱離イオン化質量分析においてR値(%)が12以下である金属錯体を用いることにより、安定的に長寿命、高輝度かつ高効率な有機電界発光素子を提供できることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
本発明(請求項1)の金属錯体は、有機電界発光素子に用いられる金属錯体であって、下記式で算出されるレーザー脱離イオン化質量分析におけるR値(%)が、12以下であることを特徴とする。
R値(%)=Idecomp/I×100
ここで、Idecompは脱配位子イオン強度を表し、Iは金属錯体イオン強度を表す。
【0011】
請求項2の金属錯体は、請求項1において、該金属錯体に含まれる金属が、Ir、Pt、Pd、Cu、Zn、Ag、Rh、Ru、Os、AuおよびReからなる群より選ばれる金属であることを特徴とする。
【0012】
請求項3の金属錯体は、請求項1または2において、該金属錯体が、分子内に、置換基を有していてもよいアルキル基を有することを特徴とする。
【0013】
本発明(請求項4)の有機電界発光素子用組成物は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の金属錯体および溶剤を含有することを特徴とする。
【0014】
本発明(請求項5)の有機電界発光素子は、陽極、陰極、およびこれら両極間に設けられた発光層を有する有機電界発光素子であって、該発光層が、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の金属錯体を含有することを特徴とする。
【0015】
本発明(請求項6)の有機ELディスプレイおよび本発明(請求項7)の有機EL照明は、この有機電界発光素子を用いたものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の金属錯体は、高耐久性であり、溶剤に対する溶解性が高く、また、湿式成膜法で形成される有機電界発光素子の有機層に好適であり、この有機金属錯体を用いて、高効率、かつ長寿命な有機電界発光素子を提供することができる。
【0017】
従って、本発明の金属錯体を用いた有機電界発光素子は、フラットパネル・ディスプレイ(例えばOAコンピューター用や壁掛けテレビ)、車載表示素子、携帯電話表示や、面発光体としての特徴を生かした光源(例えば、複写機の光源、液晶ディスプレイや計器類のバックライト光源)、表示板、標識灯への応用が考えられ、その技術的価値は高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の有機電界発光素子の実施の形態を示す断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定されない。
【0020】
[金属錯体]
本発明の金属錯体は、有機電界発光素子に用いられる金属錯体であって、下記式で算出されるレーザー脱離イオン化質量分析におけるR値(%)が、12以下であることを特徴とする。
R値(%)=Idecomp/I×100
ここで、Idecompは脱配位子イオン強度を表し、Iは金属錯体イオン強度を表す。
【0021】
ここで、レーザー脱離イオン化質量分析(以下「LDI−MS分析」と略記する。)とは、次のような方法で測定されるものである。
金属錯体サンプルを試料プレートに塗布し、MALDI−MS装置内にセットし、窒素レーザーなどのレーザーを照射して検出されるピークを観測する。
本方法によると金属錯体サンプルは、場合により一部配位子を脱離し、金属錯体そのものの分子イオンピーク(M)あるいはプロトン付加イオン(M)ピークとともに、脱配位子イオンあるいはそのプロトン付加イオンピークを産出する。この際、別法(HPLC法等)により分析しても、脱配位子成分が検出されなかったことから、ここで検出された脱配位子イオンはレーザー照射により生じたイオン種と推測される。
すなわち、LDI−MS分析によると、レーザー照射下で分子が励起し、その状態での安定性により、場合により一部分解し、脱配位子イオンを生成する。同レーザー強度下に産生した脱配位子イオンの生成率は、錯体の配位強度を反映しているもの、すなわち、錯体の安定性を表すものと考えられる。そこで、脱配位子イオン強度(Idecomp)/金属錯体イオン強度(I)比(R値)を以下のように算出した。
R値(%)=Idecomp/ID×100
この値を用いて錯体の安定性を評価することができる。
【0022】
R値(%)が大きい値をもつものほどレーザー照射での分解が起きやすく、不安定である。R値(%)は12以下、さらに好ましくは10以下、最も好ましくは8以下である。
【0023】
なお、LDI−MS分析は、具体的には次のようにして実施される。
【0024】
<LDI−MS分析方法>
材料Aのトルエン(純正化学、特級)溶液をLDI−MS(MALDI−MS)専用試料プレート上に均一に塗布、風乾させて試料スポットを作製する。
なお、試料プレートには装置純正品のほか、試料濃縮やイオン化促進効果をもたせるため種々の表面処理がほどこされた市販プレートを用いることもできるし、EL素子を貼付したプレートを使用することもできる。また、試料溶液の乾燥は風乾のほか、減圧乾燥など様々な方法をとることができる。さらにイオン化促進の目的で、種々の芳香族化合物、脂肪族化合物、または無機塩類をマトリックス物質として用いることもできる。
このようにして得られた試料プレートを装置内にセットし、減圧下にLDI−MS分析する。レーザー強度はドーパントイオン(主ピーク)強度が検出器飽和しない程度(<10シグナルカウント)になるように設定すればよいが、より具体的にはシグナルカウントが6×10未満となるように調整して測定を行う。6×10未満の、なるべく大きなシグナルカウントの方が高い精度で測定できる。そのような条件として、例えば、アプライドバイオシステムズ社製「Voyager−DE STR」(分析装置)のレーザー強度設定としては、200〜1000程度が好ましい。このレーザー強度の値は無単位である。なお、後掲の実施例における測定では、レーザー強度800を用いて行った。
また、レーザー照射位置についてはスペクトルが均質となるよう、試料スポットの全領域をまんべんなく照射する。
【0025】
LDI−MS測定条件は、例えば以下の通りである。
・分析装置 : アプライドバイオシステムズ社製、Voyager−DE STR
・レーザー : 窒素レーザー(337nm)
・検出イオン: 正イオン検出
【0026】
材料AのLDI−MS分析におけるおもな検出イオンは、材料Aの分子イオン(M)あるいはプロトン付加イオン(M)、ならびに脱配位子イオンあるいはそのプロトン付加イオン等である。
材料Aを別法(HPLC法等)により分析すると、前述の如く、材料A中に脱配位子成分が検出されないことから、ここで検出される脱配位子イオンはレーザー照射により生じたイオン種と推測される。
同レーザー強度下に産生した脱配位子イオンの生成率の違いは、材料A錯体の配位強度を反映しているものと予想され、そこで、脱配位子イオン強度(Idecomp)/金属錯体イオン強度(I)比(R値)を以下のように算出する。
R値(%)=Idecomp/I×100
【0027】
一般に、金属錯体には、フェイシャル体、メリジョナル体、E体、Z体などの異性体が存在し、また置換基によっては更に様々な異性体を生じさせるため、これらを個々に分析することは極めて困難であるが、このような構造上のわずかな差異も、錯体としての安定性には大きく影響し、このような異性体が存在する錯体を有機電界発光素子に用いると、素子の寿命は短いものとなる。しかしながら、このような異性体の存在を分析して検出することは、錯体の構造が複雑になればなるほど難しくなる。
【0028】
また、湿式成膜用途に用いる金属錯体にあっては、さらに状況は複雑である。
即ち、蒸着法に用いる錯体は、一般に、構造的にシンプルで結晶性がよく、例えば、Ir錯体では、製造工程において溶液中で加熱する際に、熱的に最も安定なフェイシャル構造に異性化し、その構造にて反応系内で結晶を生成するため、この構造のものを分取することにより、純度の高い安定構造の錯体を得やすい。
一方、湿式成膜用途に用いる金属錯体については、意図的に溶剤に対する溶解性の高い構造設計を施しているため、熱的に安定な構造へと異性化していくとは思われるものの、このようなものは結晶性が悪いために、結晶が生成したとしても、不純物が混入しやすい。また、溶剤溶解性の向上等を目的として長鎖のアルキル基を有している場合もあり、このアルキル基の一部が酸化されてケトンを形成したような配位子も混入しやすい。
【0029】
本発明に係るR値(%)は、このような検出し難い金属錯体中の不純物の影響による性能劣化を反映するものであり、R値(%)12以下の金属錯体であれば、それ自体耐久性、安定性に優れ、また、素子に適用した場合においても、高効率、かつ長寿命な有機電界発光素子を実現し得る。
【0030】
R値(%)12以下の金属錯体を得る方法としては特に制限は無いが、フラグメント量が増える、つまりR値が増大する要素、及びフラグメント量を抑える方法としては、以下が考えられる。これらを勘案し、もしくは調整することにより、R値を低減し、本発明の金属錯体を得ることができると考えられる。
【0031】
例えば、分子量が同じであるにも関わらず、LDI−MS分析において検出されるフラグメントの量に差が生じることに関する解釈としては、(1)中心金属と配位子の結合および錯体全体としての安定性が原因であるか、(2)錯体を不安定化させる不純物が混入していることが原因であるか、であると考えられる。
(2)の不純物については、化合物の精製度を上げることにより解消すると思われる。精製(不純物の除去)は、特に制限なく公知の方法やその組み合わせにて行うことができる。例えば従来から知られている再結晶法、再沈殿法、ゾーンメルティング法、カラムクロマトグラフィー法、吸着法、昇華精製法、およびこれらの組み合わせなどが好ましく用いられる。
(1)の中心金属に由来する錯体の安定性に関しては、中心金属の価数純度による影響が考えられる。例えばIrは、III価であれば3つの1価のアニオン性配位子と電気的に中性な錯体を形成するが、仮にII価あるいはIV価のIrであった場合、分子量はほぼ同じであるが、3つの1価のアニオン性配位子との錯体においては電気的に中性となっておらず、不安定になることが予想される。このような価数純度も影響するものと思われるため、このような不純物も含め、精製することが重要である。
【0032】
さらに、配位子と金属との結合を強めることによっても、フラグメントの量を抑えることができる。すなわち、上記では、不純物によってフラグメントが増加している場合に、純度を100%に近づけることにより真のフラグメント量に近づけて、フラグメント量を減じ、実使用上耐久性の高い材料とすることについて述べたが、化合物の構造上の工夫により、配位子と金属との結合を強め、真のフラグメント量自体を減じることができる。
具体的には、アリール−含窒素へテロ環からなる配位子とIrからなる錯体の場合、アリール側にFやCF基などの電子吸引基を置換させ、含窒素へテロ環側に電子供与基を置換させることにより結合が強くなる。
【0033】
本発明の金属錯体に含まれる金属については特に制限はないが、有機電界発光素子の発光材料として用いられることから、周期表7ないし11族から選ばれる金属であることが好ましく、発光性の高いIr、Pt、Pd、Cu、Zn、Ag、Rh、Ru、Os、AuおよびReからなる群より選ばれる金属であることがより好ましく、これらのうち、Ir、Pt、Au、とりわけIrが好適である。
【0034】
また、本発明の金属錯体は、湿式成膜法に用いることができることから、置換基として可溶化基を有することが好ましく、特に、炭素数3以上、例えば炭素数3〜12の、置換基を有していてもよい長鎖アルキル基を芳香環や複素芳香環上に置換基として有する化合物が、本発明の目的に適合し得る金属錯体として挙げられる。
【0035】
本発明に適用される金属錯体としては、好ましくは下記式(4)、(5)で表される化合物、或いは国際公開第2005/011370号パンフレットや国際公開第2005/019373号パンフレットに記載の化合物が挙げられる。
【0036】
(q-j)G’j …(4)
(式(4)中、Mは金属を表し、qは金属Mの価数を表す。G及びG’は二座配位子を表す。jは0、1又は2を表す。)
【0037】
【化2】

(式(5)中、M5は金属を表し、Tは炭素又は窒素を表す。R92〜R95は、それぞれ独立に置換基を表す。ただし、Tが窒素の場合は、R94及びR95は無い。)
【0038】
以下、まず、式(4)で表わされる化合物について説明する。
式(4)中、Mは任意の金属を表し、好ましいものの具体例としては、周期表7ないし11族から選ばれる金属として前述した金属が挙げられる。
また、式(4)中の二座配位子G及びG’は、それぞれ、以下の部分構造を有する配位子を示す。
【0039】
【化3】

(上記式Gにおいて、環Q1は置換基を有していても良い芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表し、環Q2は置換基を有していても良い含窒素芳香族複素環基を表す。)
【0040】
【化4】

【0041】
G’として、錯体の安定性の観点から、特に好ましくは、
【化5】

である。
【0042】
上記G,G’の部分構造において、環Q1は、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表し、これらは置換基を有していても良い。また、環Q2は、含窒素芳香族複素環基を表し、これらは置換基を有していても良い。
なお、本発明において置換基を有していても良いとは、置換基を1以上有していても良いことを意味する。
【0043】
環Q1,Q2の好ましい置換基としては、フッ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基等のジアリールアミノ基;カルバゾリル基;アセチル基等のアシル基;トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;シアノ基;フェニル基、ナフチル基、フェナンチル基等の芳香族炭化水素基等が挙げられる。
【0044】
式(4)で表される化合物として、さらに好ましくは、下記式(4a)、(4b)、(4c)で表される化合物が挙げられる。
【0045】
【化6】

(式(4a)中、MaはMと同様の金属を表し、qaは金属Maの価数を表す。環Q1は置換基を有していても良い芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表し、環Q2は置換基を有していても良い含窒素芳香族複素環基を表す。)
【0046】
【化7】

(式(4b)中、MbはMと同様の金属を表し、qbは金属Mbの価数を表す。環Q1は置換基を有していても良い芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表し、環Q2は置換基を有していても良い含窒素芳香族複素環基を表す。)
【0047】
【化8】

(式(4c)中、McはMと同様の金属を表し、qcは金属Mcの価数を表す。kは0、1又は2を表す。環Q1及び環Q1’は、それぞれ独立に、置換基を有していても良い芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表す。環Q2及び環Q2’は、それぞれ独立に、置換基を有していても良い含窒素芳香族複素環基を表す。)
【0048】
上記式(4a)、(4b)、(4c)において、環Q1及び環Q1’としては、好ましくは、例えばフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基、チエニル基、フリル基、ベンゾチエニル基、ベンゾフリル基、ピリジル基、キノリル基、イソキノリル基、カルバゾリル基等が挙げられる。
また、環Q2、環Q2’としては、好ましくは、例えばピリジル基、ピリミジル基、ピラジル基、トリアジル基、ベンゾチアゾール基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾイミダゾール基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリル基、フェナントリジル基等が挙げられる。
【0049】
式(4a)、(4b)、(4c)で表される化合物が有していても良い置換基としては、フッ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基等のジアリールアミノ基;カルバゾリル基;アセチル基等のアシル基;トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;シアノ基等が挙げられる。
【0050】
上記置換基がアルキル基である場合は、その炭素数は通常1以上6以下である。上記置換基がアルケニル基である場合は、その炭素数は通常2以上6以下である。上記置換基がアルコキシカルボニル基である場合は、その炭素数は通常2以上6以下である。上記置換基がアルコキシ基である場合は、その炭素数は通常1以上6以下である。上記置換基がアリールオキシ基である場合は、その炭素数は通常6以上14以下である。上記置換基がジアルキルアミノ基である場合は、その炭素数は通常2以上24以下である。上記置換基がジアリールアミノ基である場合は、その炭素数は通常12以上28以下である。上記置換基がアシル基である場合は、その炭素数は通常1以上14以下である。上記置換基がハロアルキル基である場合は、その炭素数は通常1以上12以下である。
これら置換基の中でも、化合物の溶解性が高く、湿式成膜に適することから、置換基を有していてもよいアルキル基が好ましく、無置換のアルキル基がより好ましい。
【0051】
尚、これら置換基は互いに連結して環を形成しても良い。具体例としては、環Q1が有する置換基と環Q2が有する置換基とが結合するか、又は、環Q1’が有する置換基と環Q2’が有する置換基とが結合するかして、一つの縮合環を形成しても良い。このような縮合環としては、7,8−ベンゾキノリン基等が挙げられる。
中でも、環Q1、環Q1’、環Q2及び環Q2’の置換基として、より好ましくはアルキル基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、シアノ基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、ジアリールアミノ基、カルバゾリル基が挙げられる。
【0052】
また、式(4a)、(4b)、(4c)におけるMa,Mb,Mcとして好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金又は金が挙げられる。
【0053】
上記式(4)、(4a)、(4b)又は(4c)で示される有機金属錯体の具体例を以下に示すが、何ら下記の化合物に限定されるものではない。以下において、Phはフェニル基を表す。
【0054】
【化9】

【0055】
【化10】

【0056】
【化11】

【0057】
【化12】

【0058】
【化13】

【0059】
【化14】

【0060】
【化15】

【0061】
【化16】

【0062】
【化17】

【0063】
【化18】

【0064】
【化19】

【0065】
【化20】

【0066】
【化21】

【0067】
【化22】

【0068】
さらに、上記式(4)、(4a)、(4b)、(4c)で表される有機金属錯体の中でも、特に、配位子G及び/又はG’として2−アリールピリジン系配位子、即ち、2−アリールピリジン、これに任意の置換基が結合したもの、及び、これに任意の基が縮合してなるものを有する化合物が好ましい。
【0069】
次に、式(5)で表わされる化合物について説明する。
式(5)中、M5は金属を表し、具体例としては、周期表7ないし11族から選ばれる金属として前述した金属が挙げられる。中でも好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金又は金が挙げられ、特に好ましくは、白金、パラジウム等の2価の金属が挙げられる。
【0070】
また、式(5)において、R92及びR93は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、シアノ基、アミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、ハロアルキル基、水酸基、アリールオキシ基、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表す。
【0071】
さらに、Tが炭素の場合、R94及びR95は、それぞれ独立に、R92及びR93と同様の例示物で表わされる置換基を表す。また、Tが窒素の場合はR94及びR95は無い。
また、R92〜R95はさらに置換基を有していても良い。さらに有していても良い置換基に制限はなく、任意の基を置換基とすることができる。
さらに、R92〜R95はそれぞれ隣接する基と互いに連結して環を形成しても良い。
【0072】
式(5)で表わされる有機金属錯体の具体例(5−a〜5−g)を以下に示すが、下記の例示物に限定されるものではない。以下において、Meはメチル基を表し、Etはエチル基を表す。
【0073】
【化23】

【0074】
本発明に適用される有機金属錯体の分子量は、通常10000以下、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、更に好ましくは3000以下、また、通常100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、更に好ましくは400以上である。分子量が100未満であると、耐熱性が著しく低下したり、ガス発生の原因となったり、膜を形成した際の膜質の低下を招いたり、あるいはマイグレーションなどによる有機電界発光素子のモルフォロジー変化を来したりするため、好ましくない。分子量が10000を超えると、有機化合物の精製が困難となってしまったり、溶剤に溶解させる際に時間を要する可能性が高いため、好ましくない。
【0075】
[有機電界発光素子用組成物]
本発明の有機電界発光素子用組成物は、好ましくは湿式成膜法で形成される有機電界発光素子の有機層に用いられる組成物であって、前述の本発明の金属錯体の1種または2種以上を含有するものであり、通常、更に溶剤を含有する。
【0076】
<溶剤>
本発明の有機電界発光素子用組成物は溶剤を含むことが好ましい。
本発明の有機電界発光素子用組成物に含まれる溶剤としては、上述の本発明の金属錯体等の溶質が良好に溶解する溶剤であれば特に限定されず、例えば、トルエン、キシレン、メチシレン、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル;シクロヘキサノン、シクロオクタノン等の脂環を有するケトン;メチルエチルケトン、ジブチルケトン等の脂肪族ケトン;メチルエチルケトン、シクロヘキサノール、シクロオクタノール等の脂環を有するアルコール;ブタノール、ヘキサノール等の脂肪族アルコール;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル等の脂肪族エステル等が利用できる。これらのうち、水の溶解度が低い点、容易には変質しない点で、トルエン、キシレン、メチシレン、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素が好ましい。
【0077】
有機電界発光素子には、陰極等の水分により著しく劣化する材料が多く使用されているため、組成物中の水分の存在は、乾燥後の膜中に水分が残留し、素子の特性を低下させる可能性が考えられ好ましくない。
【0078】
組成物中の水分量を低減する方法としては、例えば、蒸留や乾燥剤の使用などにより溶剤を予め脱水する、窒素ガスシール、水の溶解度が低い溶剤を使用する等が挙げられる。なかでも、水の溶解度が低い溶剤を使用する場合は、湿式成膜工程中に、溶液膜が大気中の水分を吸収して白化する現象を防ぐことができるため好ましい。この様な観点からは、本実施の形態が適用される有機電界発光素子用組成物は、例えば、25℃における水の溶解度が1重量%以下、好ましくは0.1重量%以下である溶剤を、組成物中10重量%以上含有することが好ましい。
【0079】
また、湿式成膜時における組成物からの溶剤蒸発による、成膜安定性の低下を低減するためには、有機電界発光素子用組成物の溶剤として、沸点が100℃以上、好ましくは沸点が150℃以上、より好ましくは沸点が200℃以上の溶剤を用いることが効果的である。また、より均一な膜を得るためには、成膜直後の液膜から溶剤が適当な速度で蒸発することが必要で、このためには通常沸点80℃以上、好ましくは沸点100℃以上、より好ましくは沸点120℃以上で、通常沸点270℃未満、好ましくは沸点250℃未満、より好ましくは沸点230℃未満の溶剤を用いることが有効である。
【0080】
上述の条件、即ち溶質の溶解性、蒸発速度、水の溶解度の条件を満足する溶剤を単独で用いてもよいが、すべての条件を満たす溶剤が選定できない場合は、2種類以上の溶剤を混合して用いることもできる。
【0081】
<発光材料>
本発明の有機電界発光素子用組成物は、好ましくは湿式成膜法で形成される有機電界発光素子の有機層に用いられる組成物であって、前述の本発明の金属錯体を発光材料として含み、通常発光層形成用組成物として用いられる。
発光材料とは、本発明の有機電界発光素子用組成物において、主として発光する成分を指し、有機ELデバイスにおけるドーパント成分に当たる。該有機電界発光素子用組成物から発せられる光量(単位:cd/m)の内、通常10〜100%、好ましくは20〜100%、より好ましくは50〜100%、最も好ましくは80〜100%が、ある成分材料からの発光と同定される場合、それを発光材料と定義する。
【0082】
なお、本発明において湿式成膜法とは、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等湿式で成膜される方法をいう。これらの成膜方法の中でも、有機電界発光素子に用いられる本発明の有機電界発光素子用組成物特有の液性に合うため、スピンコート法、スプレーコート法、インクジェット法が好ましい。
【0083】
<電荷輸送材料>
本発明の有機電界発光素子用組成物には、更に電荷輸送材料が含まれていることが好ましく、この電荷輸送材料は、発光材料である本発明の金属錯体のホスト材料として機能するものであることが好ましい。電荷輸送材料としては、以下の正孔輸送性化合物や電子輸送性化合物が挙げられる。
【0084】
(正孔輸送性化合物)
正孔輸送性化合物のうち、低分子量の正孔輸送性化合物の例としては、後述の正孔注入層3における正孔輸送性化合物として例示した各種の化合物のほか、例えば、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルに代表される、2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5−234681号公報)、4,4’,4”−トリス(1−ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物(Journal of Luminescence, 1997年, Vol.72−74, pp.985)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン化合物(Chemical Communications, 1996年, pp.2175)、2,2’,7,7’−テトラキス−(ジフェニルアミノ)−9,9’−スピロビフルオレン等のスピロ化合物(Synthetic Metals, 1997年, Vol.91, pp.209)等が挙げられる。正孔輸送性化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0085】
(電子輸送性化合物)
電子輸送性化合物のうち、低分子量の電子輸送性化合物の例としては、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール(BND)や、2,5−ビス(6’−(2’,2”−ビピリジル))−1,1−ジメチル−3,4−ジフェニルシロール(PyPySPyPy)や、バソフェナントロリン(BPhen)や、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP、バソクプロイン)、2−(4−ビフェニリル)−5−(p−ターシャルブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(tBu−PBD)や、4,4’−ビス(9−カルバゾール)−ビフェニル(CBP)等が挙げられる。電子輸送性化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0086】
<その他の成分>
本発明の有機電界発光素子用組成物中には、前述した溶剤および発光材料としての金属錯体、電荷輸送材料以外にも、必要に応じて、各種の他の溶剤を含んでいてもよい。このような他の溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
また、レベリング剤や消泡剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0087】
また、2層以上の層を湿式成膜法により積層する際に、これらの層が相溶することを防ぐため、成膜後に硬化させて不溶化させる目的で光硬化性樹脂や、熱硬化性樹脂を含有させておくこともできる。
【0088】
<有機電界発光素子用組成物中の材料濃度と配合比>
本発明の有機電界発光素子用組成物中の発光材料である本発明の金属錯体、電荷輸送材料、および必要に応じて添加可能な成分(レベリング剤など)などの固形分濃度は、通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは0.5重量%以上、最も好ましくは1重量%以上であり、通常80重量%以下、好ましくは50重量%以下、より好ましくは40重量%以下、さらに好ましくは30重量%以下、最も好ましくは20重量%以下である。この濃度が下限を下回ると、薄膜を形成する場合、厚膜を形成するのが困難となり、上限を超えると、薄膜を形成するのが困難となる。
【0089】
また、本発明の有機電界発光素子用組成物において、発光材料/電荷輸送材料の重量混合比は、通常、0.1/99.9以上であり、より好ましくは0.5/99.5以上であり、さらに好ましくは1/99以上であり、最も好ましくは2/98以上で、通常、50/50以下であり、より好ましくは40/60以下であり、さらに好ましくは30/70以下であり、最も好ましくは20/80以下である。この比が下限を下回ったり、上限を超えたりすると、著しく発光効率が低下するおそれがある。
【0090】
<有機電界発光素子用組成物の調製方法>
本発明の有機電界発光素子用組成物は、通常、本発明の金属錯体、電荷輸送材料、および必要に応じて添加可能なレベリング剤や消泡剤等の各種添加剤よりなる溶質を、適当な溶剤に溶解させることにより調製される。溶解工程に要する時間を短縮するため、および組成物中の溶質濃度を均一に保つため、通常、液を撹拌しながら溶質を溶解させる。溶解工程は常温で行ってもよいが、溶解速度が遅い場合は加熱して溶解させることもできる。溶解工程終了後、必要に応じて、フィルタリング等の濾過工程を経由してもよい。
【0091】
[有機電界発光素子]
本発明の有機電界発光素子は、基板上に、陽極および該陽極と該陰極の間に、発光層を有し、前記本発明の金属錯体を含有する層を有することを特徴とする。この、本発明の金属錯体を含有する層としては、以下の正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層などいずれでもよいが、本発明の金属錯体を含有する層は発光層であることが好ましい。
【0092】
以下に、本発明の有機電界発光素子の層構成およびその一般的形成方法等について、図1を参照にして説明する。
【0093】
図1は本発明の有機電界発光素子10の構造例を示す断面の模式図であり、図1において、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は正孔阻止層、7は電子輸送層、8は電子注入層、9は陰極を各々表す。
【0094】
尚、本発明において湿式成膜法とは、前述の如く、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等湿式で成膜される方法をいう。これらの成膜方法の中でも、有機電界発光素子に用いられる本発明の有機電界発光素子用組成物特有の液性に合うため、スピンコート法、スプレーコート法、インクジェット法が好ましい。
【0095】
{基板}
基板1は有機電界発光素子の支持体となるものであり、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシート等が用いられる。特にガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン等の透明な合成樹脂の板が好ましい。合成樹脂基板を使用する場合にはガスバリア性に留意する必要がある。基板のガスバリア性が小さすぎると、基板を通過した外気により有機電界発光素子が劣化することがあるので好ましくない。このため、合成樹脂基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保する方法も好ましい方法の一つである。
【0096】
{陽極}
陽極2は発光層側の層への正孔注入の役割を果たすものである。
【0097】
この陽極2は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウムおよび/またはスズの酸化物等の金属酸化物、ヨウ化銅等のハロゲン化金属、カーボンブラック、或いは、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等により構成される。
【0098】
陽極2の形成は通常、スパッタリング法、真空蒸着法等により行われることが多い。また、銀等の金属微粒子、ヨウ化銅等の微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末等を用いて陽極2を形成する場合には、適当なバインダー樹脂溶液に分散させて、基板1上に塗布することにより陽極2を形成することもできる。さらに、導電性高分子の場合は、電解重合により直接基板1上に薄膜を形成したり、基板1上に導電性高分子を塗布して陽極2を形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。
【0099】
陽極2は通常は単層構造であるが、所望により複数の材料からなる積層構造とすることも可能である。
【0100】
陽極2の厚みは、必要とする透明性により異なる。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常60%以上、好ましくは80%以上とすることが好ましい。この場合、陽極2の厚みは通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下程度である。不透明でよい場合は陽極2の厚みは任意であり、陽極2は基板1と同一でもよい。また、さらには、上記の陽極2の上に異なる導電材料を積層することも可能である。
【0101】
陽極2に付着した不純物を除去し、イオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させることを目的に、陽極2表面を紫外線(UV)/オゾン処理したり、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ処理したりすることは好ましい。
【0102】
{正孔注入層}
正孔注入層3は、陽極2から発光層5へ正孔を輸送する層であり、通常、陽極2上に形成される。
【0103】
本発明に係る正孔注入層3の形成方法は真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよく、特に制限はないが、ダークスポット低減の観点から正孔注入層3を湿式成膜法により形成することが好ましい。
【0104】
正孔注入層3の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。
【0105】
<湿式成膜法による正孔注入層の形成>
湿式成膜により正孔注入層3を形成する場合、通常は、正孔注入層3を構成する材料を適切な溶剤(正孔注入層用溶剤)と混合して成膜用の組成物(正孔注入層形成用組成物)を調製し、この正孔注入層形成用組成物を適切な手法により、正孔注入層3の下層に該当する層(通常は、陽極)上に塗布して成膜し、乾燥することにより正孔注入層3を形成する。
【0106】
(正孔輸送性化合物)
正孔注入層形成用組成物は通常、正孔注入層の構成材料として正孔輸送性化合物および溶剤を含有する。
【0107】
正孔輸送性化合物は、通常、有機電界発光素子の正孔注入層に使用される、正孔輸送性を有する化合物であれば、重合体などの高分子化合物であっても、単量体などの低分子化合物であってもよいが、高分子化合物であることが好ましい。
【0108】
正孔輸送性化合物としては、陽極2から正孔注入層3への電荷注入障壁の観点から4.5eV〜6.0eVのイオン化ポテンシャルを有する化合物が好ましい。正孔輸送性化合物の例としては、芳香族アミン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ベンジルフェニル誘導体、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン誘導体、シラザン誘導体、シラナミン誘導体、ホスファミン誘導体、キナクリドン誘導体、ポリアニリン誘導体、ポリピロール誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリチエニレンビニレン誘導体、ポリキノリン誘導体、ポリキノキサリン誘導体、カーボン等が挙げられる。
【0109】
尚、本発明において誘導体とは、例えば、芳香族アミン誘導体を例にするならば、芳香族アミンそのものおよび芳香族アミンを主骨格とする化合物を含むものであり、重合体であっても、単量体であってもよい。
【0110】
正孔注入層3の材料として用いられる正孔輸送性化合物は、このような化合物のうち何れか1種を単独で含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。2種以上の正孔輸送性化合物を含有する場合、その組み合わせは任意であるが、芳香族三級アミン高分子化合物1種または2種以上と、その他の正孔輸送性化合物1種または2種以上とを併用することが好ましい。
【0111】
上記例示した中でも非晶質性、可視光の透過率の点から、芳香族アミン化合物が好ましく、特に芳香族三級アミン化合物が好ましい。ここで、芳香族三級アミン化合物とは、芳香族三級アミン構造を有する化合物であって、芳香族三級アミン由来の基を有する化合物も含む。
【0112】
芳香族三級アミン化合物の種類は特に制限されないが、表面平滑化効果による均一な発光の点から、重量平均分子量が1000以上、1000000以下の高分子化合物(繰り返し単位が連なる重合型化合物)がさらに好ましい。芳香族三級アミン高分子化合物の好ましい例として、下記式(I)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物が挙げられる。
【0113】
【化24】

【0114】
(式(I)中、ArおよびArは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。Ar〜Arは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。Yは、下記の連結基群の中から選ばれる連結基を表す。また、Ar〜Arのうち、同一のN原子に結合する二つの基は互いに結合して環を形成してもよい。
【化25】

(上記各式中、Ar〜Ar16は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子または任意の置換基を表す。))
【0115】
Ar〜Ar16の芳香族炭化水素基および芳香族複素環基としては、高分子化合物の溶解性、耐熱性、正孔注入・輸送性の点から、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、チオフェン環、ピリジン環由来の基が好ましく、ベンゼン環、ナフタレン環由来の基がさらに好ましい。
【0116】
Ar〜Ar16の芳香族炭化水素基および芳香族複素環基は、さらに置換基を有していてもよい。置換基の分子量としては、通常400以下、中でも250以下程度が好ましい。置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基などが好ましい。
【0117】
およびRが任意の置換基である場合、該置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、シリル基、シロキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基などが挙げられる。
【0118】
式(I)で表される繰り返し単位を有する芳香族三級アミン高分子化合物の具体例としては、国際公開第2005/089024号パンフレットに記載のものが挙げられる。
【0119】
また、正孔輸送性化合物としては、ポリチオフェンの誘導体である3,4-ethylenedioxythiophene(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を高分子量ポリスチレンスルホン酸中で重合してなる導電性ポリマー(PEDOT/PSS)もまた好ましい。また、このポリマーの末端をメタクリレート等でキャップしたものであってもよい。
【0120】
正孔注入層形成用組成物中の、正孔輸送性化合物の濃度は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、膜厚の均一性の点で通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは0.5重量%以上、また、通常70重量%以下、好ましくは60重量%以下、さらに好ましくは50重量%以下である。この濃度が大きすぎると膜厚ムラが生じる可能性があり、また、小さすぎると成膜された正孔注入層に欠陥が生じる可能性がある。
【0121】
(電子受容性化合物)
正孔注入層形成用組成物は正孔注入層の構成材料として、電子受容性化合物を含有していることが好ましい。
【0122】
電子受容性化合物とは、酸化力を有し、上述の正孔輸送性化合物から一電子受容する能力を有する化合物が好ましく、具体的には、電子親和力が4eV以上である化合物が好ましく、5eV以上の化合物である化合物がさらに好ましい。
【0123】
このような電子受容性化合物としては、例えば、トリアリールホウ素化合物、ハロゲン化金属、ルイス酸、有機酸、オニウム塩、アリールアミンとハロゲン化金属との塩、アリールアミンとルイス酸との塩よりなる群から選ばれる1種または2種以上の化合物等が挙げられる。さらに具体的には、4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンダフルオロフェニル)ボラート、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボラート等の有機基の置換したオニウム塩(国際公開2005/089024号パンフレット);塩化鉄(III)(特開平11−251067号公報)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等の高原子価の無機化合物;テトラシアノエチレン等のシアノ化合物、トリス(ペンダフルオロフェニル)ボラン(特開2003−31365号公報)等の芳香族ホウ素化合物;フラーレン誘導体;ヨウ素;ポリスチレンスルホン酸イオン、アルキルベンゼンスルホン酸イオン、ショウノウスルホン酸イオン等のスルホン酸イオン等が挙げられる。
【0124】
これらの電子受容性化合物は、正孔輸送性化合物を酸化することにより正孔注入層の導電率を向上させることができる。
【0125】
正孔注入層或いは正孔注入層形成用組成物中の電子受容性化合物の正孔輸送性化合物に対する含有量は、通常0.1モル%以上、好ましくは1モル%以上である。但し、通常100モル%以下、好ましくは40モル%以下である。
【0126】
(その他の構成材料)
正孔注入層の材料としては、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述の正孔輸送性化合物や電子受容性化合物に加えて、さらに、その他の成分を含有させてもよい。その他の成分の例としては、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダー樹脂、塗布性改良剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0127】
(溶剤)
湿式成膜法に用いる正孔注入層形成用組成物の溶剤のうち少なくとも1種は、上述の正孔注入層の構成材料を溶解しうる化合物であることが好ましい。また、この溶剤の沸点は通常110℃以上、好ましくは140℃以上、中でも200℃以上、通常400℃以下、中でも300℃以下であることが好ましい。溶剤の沸点が低すぎると、乾燥速度が速すぎ、膜質が悪化する可能性がある。また、溶剤の沸点が高すぎると乾燥工程の温度を高くする必要があし、他の層や基板に悪影響を与える可能性がある。
【0128】
溶剤として例えば、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、アミド系溶剤などが挙げられる。
【0129】
エーテル系溶剤としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル、等が挙げられる。
【0130】
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル、等が挙げられる。
【0131】
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキシルベンゼン、3−イロプロピルビフェニル、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、1,4−ジイソプロピルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、メチルナフタレン等が挙げられる。
【0132】
アミド系溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、等が挙げられる。
【0133】
その他、ジメチルスルホキシド、等も用いることができる。
【0134】
これらの溶剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で用いてもよい。
【0135】
(成膜方法)
正孔注入層形成用組成物を調製後、この組成物を湿式成膜により、正孔注入層3の下層に該当する層(通常は、陽極2)上に塗布成膜し、乾燥することにより正孔注入層3を形成する。
【0136】
成膜工程における温度は、組成物中に結晶が生じることによる膜の欠損を防ぐため、10℃以上が好ましく、50℃以下が好ましくい。
【0137】
成膜工程における相対湿度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.01ppm以上、通常80%以下である。
【0138】
成膜後、通常加熱等により正孔注入層形成用組成物の膜を乾燥させる。加熱工程において使用する加熱手段の例を挙げると、クリーンオーブン、ホットプレート、赤外線、ハロゲンヒーター、マイクロ波照射などが挙げられる。中でも、膜全体に均等に熱を与えるためには、クリーンオーブンおよびホットプレートが好ましい。
【0139】
加熱工程における加熱温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り、正孔注入層形成用組成物に用いた溶剤の沸点以上の温度で加熱することが好ましい。また、正孔注入層に用いた溶剤が2種類以上含まれている混合溶剤の場合、少なくとも1種類がその溶剤の沸点以上の温度で加熱されるのが好ましい。溶剤の沸点上昇を考慮すると、加熱工程においては、好ましくは120℃以上、好ましくは410℃以下で加熱することが好ましい。
【0140】
加熱工程において、加熱温度が正孔注入層形成用組成物の溶剤の沸点以上であり、かつ塗布膜の十分な不溶化が起こらなければ、加熱時間は限定されないが、好ましくは10秒以上、通常180分以下である。加熱時間が長すぎると他の層の成分が拡散する傾向があり、短すぎると正孔注入層が不均質になる傾向がある。加熱は2回に分けて行ってもよい。
【0141】
<真空蒸着法による正孔注入層の形成>
真空蒸着により正孔注入層3を形成する場合には、正孔注入層3の構成材料(前述の正孔輸送性化合物、電子受容性化合物等)の1種または2種以上を真空容器内に設置されたるつぼに入れ(2種以上の材料を用いる場合は各々のるつぼに入れ)、真空容器内を適当な真空ポンプで10−4Pa程度まで排気した後、るつぼを加熱して(2種以上の材料を用いる場合は各々のるつぼを加熱して)、蒸発量を制御して蒸発させ(2種以上の材料を用いる場合はそれぞれ独立に蒸発量を制御して蒸発させ)、るつぼと向き合って置かれた基板の陽極2上に正孔注入層3を形成させる。なお、2種以上の材料を用いる場合は、それらの混合物をるつぼに入れ、加熱、蒸発させて正孔注入層3を形成することもできる。
【0142】
蒸着時の真空度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1×10−6Torr(0.13×10−4Pa)以上、通常9.0×10−6Torr(12.0×10−4Pa)以下である。蒸着速度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1Å/秒以上、通常5.0Å/秒以下である。蒸着時の成膜温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは10℃以上で、好ましくは50℃以下で行われる。
【0143】
{正孔輸送層}
正孔輸送層4は、正孔注入層がある場合には正孔注入層3の上に、正孔注入層3が無い場合には陽極2の上に形成することができる。また、本発明の有機電界発光素子は、正孔輸送層を省いた構成であってもよい。
【0144】
本発明に係る正孔輸送層4の形成方法は真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよく、特に制限はないが、ダークスポット低減の観点から正孔輸送層4を湿式成膜法により形成することが好ましい。
【0145】
正孔輸送層4を形成する材料としては、正孔輸送性が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送することができる材料であることが好ましい。そのために、イオン化ポテンシャルが小さく、可視光の光に対して透明性が高く、正孔移動度が大きく、安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが好ましい。また、多くの場合、発光層5に接するため、発光層5からの発光を消光したり、発光層5との間でエキサイプレックスを形成して効率を低下させたりしないことが好ましい。
【0146】
このような正孔輸送層4の材料としては、従来、正孔輸送層の構成材料として用いられている材料であればよく、例えば、前述の正孔注入層3に使用される正孔輸送性化合物として例示したものが挙げられる。また、アリールアミン誘導体、フルオレン誘導体、スピロ誘導体、カルバゾール誘導体、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、シロール誘導体、オリゴチオフェン誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが挙げられる。
【0147】
また、例えば、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリアリールアミン誘導体、ポリビニルトリフェニルアミン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリアリーレン誘導体、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン誘導体、ポリアリーレンビニレン誘導体、ポリシロキサン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)誘導体等が挙げられる。これらは、交互共重合体、ランダム重合体、ブロック重合体またはグラフト共重合体のいずれであってもよい。また、主鎖に枝分かれがあり末端部が3つ以上ある高分子や、所謂デンドリマーであってもよい。
中でも、ポリアリールアミン誘導体やポリアリーレン誘導体が好ましい。
【0148】
ポリアリールアミン誘導体としては、下記式(II)で表される繰り返し単位を含む重合体であることが好ましい。特に、下記式(II)で表される繰り返し単位からなる重合体であることが好ましく、この場合、繰り返し単位それぞれにおいて、ArまたはArが異なっているものであってもよい。
【0149】
【化26】

【0150】
(式(II)中、ArおよびArは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す。)
【0151】
置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環などの、6員環の単環または2〜5縮合環由来の基およびこれらの環が2環以上直接結合で連結してなる基が挙げられる。
【0152】
置換基を有していてもよい芳香族複素環基としては、例えばフラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環などの、5または6員環の単環または2〜4縮合環由来の基およびこれらの環が2環以上直接結合で連結してなる基が挙げられる。
【0153】
溶解性、耐熱性の点から、ArおよびArは、各々独立に、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、ピレン環、チオフェン環、ピリジン環、フルオレン環からなる群より選ばれる環由来の基やベンゼン環が2環以上連結してなる基(例えば、ビフェニル基やターフェニル基)が好ましい。
中でも、ベンゼン環由来の基(フェニル基)、ベンゼン環が2環連結してなる基(ビフェニル基)およびフルオレン環由来の基(フルオレニル基)が好ましい。
【0154】
ArおよびArにおける芳香族炭化水素基および芳香族複素環基が有していてもよい置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アシル基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シリル基、シロキシ基、シアノ基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基などが挙げられる。
【0155】
ポリアリーレン誘導体としては、前記式(II)におけるArやArとして例示した置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基などのアリーレン基をその繰り返し単位に有する重合体が挙げられる。
ポリアリーレン誘導体としては、下記式(III-1)および/または下記式(III-2)からなる繰り返し単位を有する重合体が好ましい。
【0156】
【化27】

【0157】
(式(III-1)中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、フェニルアルキル基、フェニルアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、アルキルフェニル基、アルコキシフェニル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、またはカルボキシ基を表す。tおよびsは、それぞれ独立に、0〜3の整数を表す。tまたはsが2以上の場合、一分子中に含まれる複数のRまたはRは同一であっても異なっていてもよく、隣接するRまたはRどうしで環を形成していてもよい。)
【0158】
【化28】

【0159】
(式(III-2)中、RおよびRは、それぞれ独立に、上記式(III-1)におけるR、R、RまたはRと同義である。rおよびuは、それぞれ独立に、0〜3の整数を表す。rまたはuが2以上の場合、一分子中に含まれる複数のRおよびRは同一であっても異なっていてもよく、隣接するRまたはRどうしで環を形成していてもよい。Xは、5員環または6員環を構成する原子または原子群を表す。)
【0160】
Xの具体例としては、酸素原子、置換基を有していてもよいホウ素原子、置換基を有していてもよい窒素原子、置換基を有していてもよいケイ素原子、置換基を有していてもよいリン原子、置換基を有していてもよいイオウ原子、置換基を有していてもよい炭素原子またはこれらが結合してなる基である。
【0161】
また、ポリアリーレン誘導体としては、下記式(III-1)および/または下記式(III-2)からなる繰り返し単位に加えて、さらに下記式(III-3)で表される繰り返し単位を有することが好ましい。
【0162】
【化29】

【0163】
(式(III-3)中、Ar〜Arは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す。xおよびyは、それぞれ独立に0または1を表す。)
【0164】
Ar〜Arの具体例としては、前記式(II)における、ArおよびArと同様である。
【0165】
上記式(III-1)〜(III-3)の具体例およびポリアリーレン誘導体の具体例等は、特開2008−98619号公報に記載のものなどが挙げられる。
【0166】
湿式成膜法で正孔輸送層4を形成する場合は、上記正孔注入層3の形成と同様にして、正孔輸送層形成用組成物を調製した後、湿式成膜後、加熱乾燥させる。
【0167】
正孔輸送層形成用組成物には、上述の正孔輸送性化合物の他、溶剤を含有する。用いる溶剤は上記正孔注入層形成用組成物に用いたものと同様である。また、成膜条件、加熱乾燥条件等も正孔注入層3の形成の場合と同様である。
【0168】
真空蒸着法により正孔輸送層を形成する場合もまた、その成膜条件等は上記正孔注入層3の形成の場合と同様である。
【0169】
正孔輸送層4は、上記正孔輸送性化合物の他、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダー樹脂、塗布性改良剤などを含有していてもよい。
【0170】
正孔輸送層4はまた、架橋性化合物を架橋して形成される層であってもよい。架橋性化合物は、架橋性基を有する化合物であって、架橋することにより網目状高分子化合物を形成する。
【0171】
この架橋性基の例を挙げると、オキセタン、エポキシなどの環状エーテル由来の基;ビニル基、トリフルオロビニル基、スチリル基、アクリル基、メタクリロイル、シンナモイル等の不飽和二重結合由来の基;ベンゾシクロブテン由来の基などが挙げられる。
【0172】
架橋性化合物は、モノマー、オリゴマー、ポリマーのいずれであってもよい。 架橋性化合物は1種のみを有していてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で有していてもよい。
【0173】
架橋性化合物としては、架橋性基を有する正孔輸送性化合物を用いることが好ましい。正孔輸送性化合物としては、上記の例示したものが挙げられ、これら正孔輸送性化合物に対して、架橋性基が主鎖または側鎖に結合しているものが挙げられる。特に架橋性基は、アルキレン基等の連結基を介して、主鎖に結合していることが好ましい。また、特に正孔輸送性化合物としては、架橋性基を有する繰り返し単位を含む重合体であることが好ましく、上記式(II)や式(III-1)〜(III-3)に架橋性基が直接または連結基を介して結合した繰り返し単位を有する重合体であることが好ましい。
【0174】
架橋性化合物としては、架橋性基を有する正孔輸送性化合物を用いることが好ましい。正孔輸送性化合物の例を挙げると、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、カルバゾール誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体等の含窒素芳香族化合物誘導体;トリフェニルアミン誘導体;シロール誘導体;オリゴチオフェン誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが挙げられる。その中でも、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、カルバゾール誘導体等の含窒素芳香族誘導体;トリフェニルアミン誘導体、シロール誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが好ましく、特に、トリフェニルアミン誘導体がより好ましい。
【0175】
架橋性化合物を架橋して正孔輸送層4を形成するには、通常、架橋性化合物を溶剤に溶解または分散した正孔輸送層形成用組成物を調製して、湿式成膜により成膜して架橋させる。
【0176】
正孔輸送層形成用組成物には、架橋性化合物の他、架橋反応を促進する添加物を含んでいてもよい。架橋反応を促進する添加物の例を挙げると、アルキルフェノン化合物、アシルホスフィンオキサイド化合物、メタロセン化合物、オキシムエステル化合物、アゾ化合物、オニウム塩等の重合開始剤および重合促進剤;縮合多環炭化水素、ポルフィリン化合物、ジアリールケトン化合物等の光増感剤;などが挙げられる。
また、さらに、レベリング剤、消泡剤等の塗布性改良剤;電子受容性化合物;バインダー樹脂;などを含有していてもよい。
【0177】
正孔輸送層形成用組成物は、架橋性化合物を通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上、通常50重量%以下、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下含有する。
【0178】
このような濃度で架橋性化合物を含む正孔輸送層形成用組成物を下層(通常は正孔注入層3)上に成膜後、加熱および/または光などの電磁エネルギー照射により、架橋性化合物を架橋させて網目状高分子化合物を形成する。
【0179】
成膜時の温度、湿度などの条件は、前記正孔注入層3の湿式成膜時と同様である。
成膜後の加熱の手法は特に限定されない。加熱温度条件としては、通常120℃以上、好ましくは400℃以下である。
加熱時間としては、通常1分以上、好ましくは24時間以下である。加熱手段としては特に限定されないが、成膜された層を有する積層体をホットプレート上に載せたり、オーブン内で加熱するなどの手段が用いられる。例えば、ホットプレート上で120℃以上、1分間以上加熱する等の条件を用いることができる。
【0180】
光などの電磁エネルギー照射による場合には、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、赤外ランプ等の紫外・可視・赤外光源を直接用いて照射する方法、あるいは前述の光源を内蔵するマスクアライナ、コンベア型光照射装置を用いて照射する方法などが挙げられる。光以外の電磁エネルギー照射では、例えばマグネトロンにより発生させたマイクロ波を照射する装置、いわゆる電子レンジを用いて照射する方法が挙げられる。照射時間としては、膜の溶解性を低下させるために必要な条件を設定することが好ましいが、通常、0.1秒以上、好ましくは10時間以下照射される。
【0181】
加熱および光などの電磁エネルギー照射は、それぞれ単独、あるいは組み合わせて行ってもよい。組み合わせる場合、実施する順序は特に限定されない。
【0182】
このようにして形成される正孔輸送層4の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0183】
{発光層}
正孔注入層3の上、または正孔輸送層4を設けた場合には正孔輸送層4の上には発光層5が設けられる。発光層5は、電界を与えられた電極間において、陽極2から注入された正孔と、陰極9から注入された電子との再結合により励起されて、主たる発光源となる層である。
【0184】
<発光層の材料>
発光層5は、その構成材料として、少なくとも、発光の性質を有する材料(発光材料)を含有するとともに、好ましくは、正孔輸送の性質を有する化合物(正孔輸送性化合物)、あるいは、電子輸送の性質を有する化合物(電子輸送性化合物)などの電荷輸送材料を含有する。発光材料をドーパント材料として使用し、正孔輸送性化合物や電子輸送性化合物などの電荷輸送材料をホスト材料として使用してもよい。発光材料としては、前述の本発明の有機金属錯体の説明の項で例示したものを用いることができる。また、電荷輸送材料としては、前述の本発明の有機電界発光素子用組成物中に含まれていてもよいものとして記載したものを用いることができる。
【0185】
特に、本発明の有機電界発光素子は、その発光層が、本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて湿式成膜法で形成されることが好ましい。
【0186】
更に、発光層5は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、その他の成分を含有していてもよい。なお、湿式成膜法で発光層5を形成する場合は、低分子量の材料(分子量通常10000以下、好ましくは5000以下)を使用することが好ましい。
【0187】
<発光層の形成>
湿式成膜法により発光層5を形成する場合は、発光層に用いる材料を適切な溶剤に溶解させて発光層形成用組成物(例えば、本発明の有機電界発光素子用組成物)を調製し、それを用いて成膜することにより形成する。
【0188】
発光層5を本発明に係る湿式成膜法で形成するための発光層形成用組成物に含有させる発光層用溶剤としては、上記本発明の有機電界発光素子用組成物に含有される溶剤として説明したものと同様である。
【0189】
また、発光層形成用組成物中の発光材料、電荷輸送性化合物等の固形分濃度としては、通常0.01重量%以上、通常70重量%以下である。この濃度が大きすぎると膜厚ムラが生じる可能性があり、また、小さすぎると膜に欠陥が生じる可能性がある。
【0190】
発光層形成用組成物を湿式成膜後、得られた塗膜を乾燥し、溶剤を除去することにより、発光層が形成される。具体的には、上記正孔注入層の形成において記載した方法と同様である。湿式成膜法の方式は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されず、前述のいかなる方式も用いることができる。
【0191】
発光層5の膜厚は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常3nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。発光層5の膜厚が、薄すぎると膜に欠陥が生じる可能性があり、厚すぎると駆動電圧が上昇する可能性がある。
【0192】
{正孔阻止層}
発光層5と後述の電子注入層8との間に、正孔阻止層6を設けてもよい。正孔阻止層6は、発光層5の上に、発光層5の陰極9側の界面に接するように積層される層である。
【0193】
この正孔阻止層6は、陽極2から移動してくる正孔を陰極9に到達するのを阻止する役割と、陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とを有する。
【0194】
正孔阻止層6を構成する材料に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。このような条件を満たす正孔阻止層の材料としては、例えば、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(フェノラト)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2−メチル−8−キノラト)アルミニウム−μ−オキソ−ビス−(2−メチル−8−キノリラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物(特開平11−242996号公報)、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール誘導体(特開平7−41759号公報)、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体(特開平10−79297号公報)などが挙げられる。更に、国際公開第2005−022962号公報に記載の2,4,6位が置換されたピリジン環を少なくとも1個有する化合物も、正孔阻止層6の材料として好ましい。
【0195】
なお、正孔阻止層6の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0196】
正孔阻止層6の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成できる。
【0197】
正孔阻止層6の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。
【0198】
正孔阻止層にかえて、正孔緩和層を設けてもよい。
【0199】
{電子輸送層}
発光層5と後述の電子注入層8の間に、電子輸送層7を設けてもよい。
【0200】
電子輸送層7は、素子の発光効率を更に向上させることを目的として設けられるもので、電界を与えられた電極間において陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送することができる化合物より形成される。
【0201】
電子輸送層7に用いられる電子輸送性化合物としては、通常、陰極9または電子注入層8からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し注入された電子を効率よく輸送することができる化合物を用いる。このような条件を満たす化合物としては、例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59−194393号公報)、10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3−ヒドロキシフラボン金属錯体、5−ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5645948号明細書)、キノキサリン化合物(特開平6−207169号公報)、フェナントロリン誘導体(特開平5−331459号公報)、2−t−ブチル−9,10−N,N’−ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛などが挙げられる。
【0202】
なお、電子輸送層7の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0203】
電子輸送層7の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成することができる。
【0204】
電子輸送層7の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常300nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。
【0205】
{電子注入層}
電子注入層8は、陰極9から注入された電子を効率よく発光層5へ注入する役割を果たす。電子注入を効率よく行うには、電子注入層8を形成する材料は、仕事関数の低い金属が好ましい。例としては、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属等が用いられる。例えばフッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF)、酸化リチウム(LiO)、炭酸セシウム(II)(CsCO)等が挙げられる(Applied Physics Letters, 1997年, Vol.70, pp.152;特開平10−74586号公報;I有機ELディスプレイおよび有機EL照明 Transactions on Electron Devices, 1997年,Vol.44, pp.1245;SID 04 Digest, pp.154等参照)。その膜厚は通常0.1nm以上、5nm以下が好ましい。
【0206】
更に、バソフェナントロリン等の含窒素複素環化合物や8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体に代表される有機電子輸送化合物に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属をドープする(特開平10−270171号公報、特開2002−100478号公報、特開2002−100482号公報などに記載)ことにより、電子注入・輸送性が向上し優れた膜質を両立させることが可能となるため好ましい。この場合の膜厚は、通常5nm以上、中でも10nm以上が好ましく、また、通常200nm以下、中でも100nm以下が好ましい。
【0207】
なお、電子注入層8の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0208】
電子注入層8の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成することができる。
【0209】
{陰極}
陰極9は、発光層5側の層(電子注入層8または発光層5など)に電子を注入する役割を果たすものである。
【0210】
陰極9の材料としては、前記の陽極2に使用される材料を用いることが可能であるが、効率よく電子注入を行うには、仕事関数の低い金属が好ましく、例えば、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属またはそれらの合金が用いられる。具体例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等の低仕事関数合金電極が挙げられる。
【0211】
なお、陰極9の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0212】
陰極9の膜厚は、通常、陽極2と同様である。
【0213】
さらに、低仕事関数金属から成る陰極9を保護する目的で、この上に更に、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層すると、素子の安定性が増すので好ましい。この目的のために、例えば、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使われる。なお、これらの材料は、1種のみで用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0214】
{その他の層}
本発明の有機電界発光素子は、その趣旨を逸脱しない範囲において、別の構成を有していてもよい。例えば、その性能を損なわない限り、陽極2と陰極9との間に、上記説明にある層の他に任意の層を有していてもよく、また、任意の層が省略されていてもよい。
【0215】
有していてもよい層としては、例えば、電子阻止層が挙げられる。
電子阻止層は、正孔注入層3または正孔輸送層4と発光層5との間に設けられ、発光層5から移動してくる電子が正孔注入層3に到達するのを阻止することで、発光層5内で正孔と電子との再結合確率を増やし、生成した励起子を発光層5内に閉じこめる役割と、正孔注入層3から注入された正孔を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とがある。特に、発光材料として燐光材料を用いたり、青色発光材料を用いたりする場合は電子阻止層を設けることが効果的である。
【0216】
電子阻止層に求められる特性としては、正孔輸送性が高く、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いこと等が挙げられる。更に、本発明においては、発光層5を本発明に係る有機層として湿式成膜法で作製する場合には、電子阻止層にも湿式成膜の適合性が求められる。このような電子阻止層に用いられる材料としては、F8−TFBに代表されるジオクチルフルオレンとトリフェニルアミンの共重合体(国際公開第2004/084260号パンフレット)等が挙げられる。
【0217】
なお、電子阻止層の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0218】
電子阻止層の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成することができる。
【0219】
また、正孔阻止層6の代りに正孔緩和層を形成することもできる。
【0220】
また、以上説明した層構成において、基板以外の構成要素を逆の順に積層することも可能である。例えば、図1の層構成であれば、基板1上に他の構成要素を陰極9、電子注入層8、電子輸送層7、正孔阻止層6、発光層5、正孔輸送層4、正孔注入層3、陽極2の順に設けてもよい。
【0221】
更には、少なくとも一方が透明性を有する2枚の基板の間に、基板以外の構成要素を積層することにより、本発明に係る有機電界発光素子を構成することも可能である。
【0222】
また、基板以外の構成要素(発光ユニット)を複数段重ねた構造(発光ユニットを複数積層させた構造)とすることも可能である。その場合には、各段間(発光ユニット間)の界面層(陽極がITO、陰極がAlの場合は、それら2層)の代わりに、例えば五酸化バナジウム(V)等からなる電荷発生層(Carrier Generation Layer:CGL)を設けると、段間の障壁が少なくなり、発光効率・駆動電圧の観点からより好ましい。
【0223】
更には、本発明に係る有機電界発光素子は、単一の有機電界発光素子として構成してもよく、複数の有機電界発光素子がアレイ状に配置された構成に適用してもよく、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構成に適用してもよい。
【0224】
また、上述した各層には、本発明の効果を著しく損なわない限り、材料として説明した以外の成分が含まれていてもよい。
【0225】
[有機ELディスプレイおよび有機EL照明]
本発明の有機電界発光素子は、有機ELディスプレイや有機EL照明に使用される。本発明により得られる有機電界発光素子は、例えば、「有機ELディスプレイ」(オーム社,平成16年8月20日発行,時任静士、安達千波矢、村田英幸著)に記載されているような方法で有機ELディスプレイや有機EL照明を形成することができる。
【実施例】
【0226】
次に、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0227】
[合成例1:Ir錯体(D−2)の合成]
下記式で表される有機金属錯体を以下の方法で合成した。
【0228】
【化30】

【0229】
【化31】

【0230】
p−ブロモヘキシルベンゼン7.37g(30.7mmol)に乾燥エーテル44mlを加え、−78℃に冷却した。この溶液に1.6M n−BuLiのヘキサン溶液23ml(36.7mmol)を滴下した後、約2時間かけて、徐々に室温まで昇温した。原料が消失したことを薄層クロマトグラフィーにより確認し、再度−78℃に冷却した。その溶液に、1−クロロイソキノリン5.0g(30.7mmol)の乾燥エーテル65ml溶液を滴下した。反応液を徐々に室温まで昇温し、そのまま攪拌した(約4時間)。反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、分液し、有機層を濃縮した。得られた薄黄色オイル状の粗生成物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン/エタノール系で1回、塩化メチレン/酢酸エチル系で1回)にて精製し、薄黄色オイル状の中間体である1−(4−n−ヘキシルフェニル)イソキノリン6.83g(収率:77%)を得た。
【0231】
この中間体3.67g(12.7mmol)とグリセリン35mlを仕込み、120℃で約30分脱水、脱気を行った。放冷した後、Ir(acac)(acac:アセチルアセトン)2.08g(4.2mmol)を添加し、そのまま200℃に昇温して18時間反応した(アセチルアセトンの留出を確認)。約60℃まで降温し、メタノールを加えて、晶出した結晶を濾取した。得られた粗結晶をメタノールにて懸洗し、ジメチルエーテルにて再結晶を行い、濃赤色結晶の目的物であるIr錯体(D−2)1.19g(収率:27%)を得た。
【0232】
[合成例2:本発明のIr錯体(D−2−I)の合成]
合成例1で得られたIr錯体(D−2)に対し、塩基性シリカゲルでカラムクロマトグラフィーを行った後、濃縮し、乾固した後、ジメトシエタンを用いて再結晶を行った。得られた結晶を昇華精製装置を用いて、高真空下(1×10−5Pa)、220℃で1.5時間加熱し、低沸点成分を除去することにより、Ir錯体(D−2−I)を得た。
【0233】
[合成例3:比較例のIr錯体(D−2−G)の合成]
合成例1で得られたIr錯体D−2に対し、塩基性シリカゲルでカラムクロマトグラフィーを行った後、濃縮し、乾固した後、昇華精製装置を用いて、高真空下(1×10−5Pa)、220℃で2時間加熱し、低沸点成分を除去することにより、Ir錯体(D−2−G)を得た。
【0234】
[合成例4:比較例のIr錯体(D−2−H)の合成]
合成例1で得られたIr錯体(D−2)に対し、塩基性シリカゲルでカラムクロマトグラフィーを行った後、濃縮し、乾固した後、酢酸エチルを用いて熱懸洗を行った。得られた結晶を昇華精製装置を用いて、高真空下(1×10−5Pa)、220℃で2時間加熱し、低沸点成分を除去することにより、Ir錯体(D−2−H)を得た。
【0235】
[合成例5:本発明のIr錯体(D−3)の合成]

【0236】
4−ブロモ−1−フルオロ−2−ヨードベンゼン(3.11g、17.5mmol)、4-ブチルフェニルボロン酸(5.0g、16.6mmol)、トルエン(180ml)、およびエタノール(90ml)の混合物にリン酸カリウム(21.2g、100mmol)水溶液(HO 45ml)を加え、撹拌しながら30分窒素バブリングを行った。そこにテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0.576g、0.5mmol)を加え、110℃で3.5時間撹拌した。薄層クロマトグラフィーで原料の消失を確認後、1N塩酸水溶液を加えpH=7.0にした後、トルエンで2回抽出し、有機層を飽和食塩水で1回洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮を行った。濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、中間体2(4.82g,収率95%)を得た。
【0237】
この中間体2(4.82g、15.69mmol)と無水ジエチルエーテル(25ml)の混合物に窒素雰囲気下でn−BuLi(f(n−BuLi濃度(mol/l))=1.54、12.22ml、18.82mmol)を滴下し、2.5時間撹拌した。そこに1-クロロイソキノリン(2.16g、13.18mmol)−無水ジエチルエーテル(5ml)溶液を滴下し、15分撹拌後、ドライアイスバスを外して室温中4時間撹拌した。ここへ飽和塩化アンモニウム溶液を加えて撹拌後、酢酸エチルで抽出し、水で1回洗浄後、飽和食塩水で1回洗浄、硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮を行った。濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、中間体3(2.75g、収率59%)を得た。
【0238】
次に、中間体3(2.75g、7.74
mmol)、Ir(acac)(1.26g、2.58mmol)、およびグリセリン(10ml)の混合物を、窒素雰囲気下、210℃で36時間撹拌した。反応溶液を冷却し、メタノールを50ml加え、生じた沈殿を濾過し、メタノールで洗浄後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、メタノールで再沈殿を行い、化合物D−3(341mg、収率7.6%)を得た。
【0239】
[合成例6:本発明のIr錯体(D−4)の合成]

【0240】
酢酸カリウム(32.2g、0.3mol)、4−ブロモー2−クロロベンゾトリフルオライド(25g、96mmol)、ビス(ピナコラート)ジボラン(29.4g、116mmol)、および乾燥ジメチルスルホキシド(200ml)を仕込み、60℃にて脱気し、[1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロリドジクロロメタン錯体(1:1)(1.45g、1.8mmol)を加え、80℃にて3時間反応を行った。反応液に水を加え、塩化メチレンで抽出し、有機層を水洗し、セライト濾過した。濾液を減圧濃縮し、濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製して、中間体4(25.7g、収率87%)を得た。
【0241】
得られた中間体4(25.7g、84mmol)、1−クロロイソキノリン(12.3g、75mmol)、トルエン(160ml)、およびエタノール(160ml)の混合物に、NaCO(17.7g、167mmol)水溶液(HO80ml)を加え、撹拌しながら1時間窒素バブリングを行った。そこにテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(2.9g、2.5mmol)を加え、2.5時間加熱還流した。反応液に水を加え、トルエンで抽出し、有機層を減圧濃縮し、濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製して、中間体5(22.0g、収率85%)を得た。
【0242】
得られた中間体5(10g、32mmol)、4-ブチルフェニルボロン酸(6.37g、36mmol)、およびトルエン(150ml)の混合物に、リン酸カリウム(10.35g、49mmol)と2−ジシクロヘキシルフォスフィノ−2,6−ジメトキシビフェニル(1.468g、3.6mmol)を加え、撹拌しながら1時間窒素バブリングを行った。そこに酢酸パラジウム(0.365g、1.6mmol)を加え、3.5時間加熱還流した。反応液に水を加え、トルエンで抽出し、有機層を減圧濃縮し、濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製して、中間体6(12.9g、収率98%)を得た。
【0243】
この中間体6(12.9g、31.8mmol)とグリセリン40mlを仕込み、120℃で約30分脱水、脱気を行った。放冷した後、Ir(acac)(5.22g、10.6mmol)を添加し、そのまま200℃に昇温して反応(アセチルアセトンの留出を確認)、約60℃まで降温し、メタノールと水を加えて、塩化メチレンで抽出した。塩化メチレン層を濃縮し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、ジメトキシエタン/メタノールにて再沈殿を行い、濃赤色結晶の目的物である化合物D−4(2.5g)を得た。
【0244】
[LDI−MS分析]
合成例2〜6で得られた各Ir錯体について、以下の方法でLDI−MS分析を行い、R(%)を算出し、結果を表1に示した。
【0245】
Ir錯体のトルエン(純正化学、特級)溶液をLDI−MS(MALDI−MS)専用試料プレート上に均一に塗布、風乾させて試料スポットを作製した。このようにして得られた試料プレートを装置内にセットし、減圧下にLDI−MS分析した。レーザー強度は金属錯体イオン(主ピーク)強度が検出器飽和しない程度(6×10シグナルカウント)になるように設定した。またレーザー照射位置についてはスペクトルが均質となるよう、試料スポットの全領域をまんべんなく照射した。
LDI−MS測定条件は以下の通りである。
・分析装置 : アプライドバイオシステムズ社製、Voyager−DE STR
・レーザー : 窒素レーザー(337nm)
・検出イオン: 正イオン検出
脱配位子イオン強度(Idecomp)/金属錯体イオン強度(I)比(R値)を以下のように算出した。
R値(%)=Idecomp/I×100
【0246】
【表1】

【0247】
[実施例1:有機電界発光素子の作製]
図1に示す有機電界発光素子を作製した。
【0248】
ガラス基板1上に、インジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を120nmの厚さに堆積したもの(三容真空社製、スパッタ成膜品)を、通常のフォトリソグラフィー技術と塩酸エッチングを用いて2mm幅のストライプにパターニングして陽極2を形成した。パターン形成したITO基板を、界面活性剤水溶液による超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄、超純水による水洗の順で洗浄後、圧縮空気で乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。
【0249】
まず、正孔輸送性化合物として構造式(P1)に示す繰り返し構造を有する正孔輸送性高分子化合物(重量平均分子量:26500,数平均分子量:12000)、電子受容性化合物として構造式(A1)に示す4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラートおよび安息香酸エチルを含有する正孔注入層形成用組成物を調製した。この組成物中、正孔輸送性高分子化合物(P1)は2.0重量%、電子受容性化合物(A1)は0.8重量%であった。この組成物をスピナ回転数1500rpm、スピナ回転時間30秒、大気中にて陽極上にスピンコートにより成膜した。その後、大気中で230℃、3時間加熱乾燥することにより、膜厚30nmの正孔注入層3を得た。
【0250】
【化32】

【0251】
引き続き、正孔輸送性化合物として以下の構造式に示す架橋性化合物(重合体)H1(重量平均分子量:95000)および溶剤としてトルエンを含有する正孔輸送層形成用組成物を調製した。組成物中の架橋性化合物の固形分濃度は0.4重量%とした。この組成物を上記形成した正孔注入層3上に、スピナ回転数1500rpm、スピナ回転時間30秒、窒素中でスピンコート法により成膜して、窒素中、230℃で1時間加熱により架橋させて膜厚20nmの架橋膜(正孔輸送層4)を形成した。
【0252】
【化33】

【0253】
次に、発光層を形成するにあたり、以下の構造式に示す電荷輸送材料(E−1)、電荷輸送材料(E−2)、上記合成例2で合成した本発明のIr錯体(D−2−I)および溶剤としてシクロヘキシルベンゼンを含有する発光層形成用組成物(本発明の有機電界発光素子用組成物)を調製した。組成物中、電荷輸送材料(E−1)は2.5重量%、電荷輸送材料(E−2)は2.5重量%、Ir錯体(D−2−I)は0.25重量%とした。この組成物を上記形成された正孔輸送層4上に、スピナ回転数1500rpm、スピナ回転時間30秒、窒素中で、スピンコート法により成膜した後、減圧下(0.1MPa)、130℃で、1時間乾燥させ、膜厚50nmで発光層5を得た。
【0254】
【化34】

【0255】
ここで、正孔注入層3、正孔輸送層4および発光層5を成膜した基板を真空蒸着装置内に移し、油回転ポンプにより装置の粗排気を行った後、装置内の真空度が5.1×10−4Pa以下になるまでクライオポンプを用いて排気した後、下記構造式(C−3)で表される化合物を真空蒸着法によって、発光層5の上に成膜し、膜厚5nmの正孔阻止層6を得た。蒸着速度は0.7〜1.0Å/秒の範囲で制御し、蒸着時の真空度は1.9〜2.0×10−4Paであった。
【0256】
【化35】

【0257】
続いて、以下の構造式に示すトリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム(HB−1)を加熱して、正孔阻止層6上に蒸着を行い、膜厚30nmの電子輸送層7を成膜した。蒸着時の真空度は1.3×10−4Pa、蒸着速度は0.6〜1.0Å/秒の範囲で制御した。
【0258】
【化36】

【0259】
ここで、電子輸送層7まで蒸着を行った素子を一度前記真空蒸着装置内より大気中に取り出して、陰極蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極2のITOストライプとは直交するように素子に密着させて、別の真空蒸着装置内に設置して上記電子輸送層7と同様にして装置内の真空度が2.1×10−4Pa以下になるまで排気した。電子注入層8として、フッ化リチウム(LiF)を、モリブデンボートを用いて、蒸着速度0.07〜0.17Å/秒、真空度2.3〜2.4×10−4Paで制御し、0.5nmの膜厚で電子輸送層7の上に成膜した。
【0260】
次に、陰極9としてアルミニウムを同様にモリブデンボートにより加熱して、蒸着速度0.7〜6.1Å/秒、真空度2.3〜2.7×10−4Paで制御して膜厚80nmのアルミニウム層を形成した。以上の2層の蒸着時の基板温度は室温に保持した。
【0261】
引き続き、素子が保管中に大気中の水分等で劣化することを防ぐため封止処理を行った。以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。
【0262】
素子の発光スペクトルの極大波長は520nmであり、Ir錯体(D−2−I)からのものと同定された。色度はCIE(x,y)=(0.65,0.35)であった。
この素子を2000cd/mで駆動した場合の、初期輝度が50%に減少するまでの時間(半減寿命)を測定した。
【0263】
[比較例1]
Ir錯体(D−2−I)の代りに、合成例3で得られた比較例のIr錯体(D−2−G)を用いる以外、実施例1と同様にして、有機電界発光素子を作製し、同様に半減寿命の測定を行った。
【0264】
[比較例2]
Ir錯体(D−2−I)の代りに、合成例4で得られた比較例のIr錯体(D−2−H)を用いる以外、実施例1と同様にして、有機電界発光素子を作製し、同様に半減寿命の測定を行った。
【0265】
[実施例2:有機電界発光素子の作製]
図1に示す構造を有する有機電界発光素子を以下の方法で作製した。
【0266】
ガラス基板1の上に、インジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を150nmの厚さに堆積したもの(スパッタ成膜品;シート抵抗15Ω)を通常のフォトリソグラフィー技術と塩酸エッチングを用いて2mm幅のストライプにパターニングして陽極2を形成した。パターン形成したITO基板を、アセトンによる超音波洗浄、純水による水洗、イソプロピルアルコールによる超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。
【0267】
次いで、正孔注入層を以下のように湿式成膜法によって形成した。正孔注入層の材料として、下記式(PB−1)の芳香族アミノ基を有する高分子化合物(重量平均分子量:52000,数平均分子量:32500))と、電子受容性化合物として、実施例1で用いた前記構造式(A1)に示す4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラートとを用い、下記の条件でスピンコートした。
【0268】
【化37】

【0269】
<正孔注入層形成用組成物>
溶剤 安息香酸エチル
組成物中濃度 PB−1 2.0重量%
A1 0.4重量%
<成膜条件>
スピナ回転数 2250rpm
スピナ回転時間 30秒
スピンコート雰囲気 大気下 25℃
乾燥条件 230℃×60分
上記のスピンコートにより、膜厚40nmの均一な薄膜よりなる正孔注入層3が形成された。
【0270】
続いて、正孔輸送層4を以下のように湿式成膜法によって形成した。
正孔輸送層4の材料として、下記に示す構造式の電荷輸送材料(PB−2)を、溶剤としてシクロヘキシルベンゼンを用いた正孔輸送層形成用組成物を調製し、この正孔輸送層形成用組成物を用いて下記の条件でスピンコートした。
【0271】
【化38】

【0272】
<正孔輸送層形成用組成物>
溶剤 シクロヘキシルベンゼン
組成物中濃度 PB−2 1.4重量%
<成膜条件>
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 120秒
スピンコート雰囲気 乾燥窒素中 25℃
乾燥条件 230℃×60分
(乾燥窒素下)
上記のスピンコートにより、膜厚20nmの均一な薄膜よりなる正孔輸送層4が形成された。
【0273】
次に、発光層5を形成するにあたり、電荷輸送材料として、以下に示す、化合物(HO−1)、及び化合物(HO−2)、並びに、発光材料として、以下に示す、化合物(D−5)と、前記合成例5で合成した本発明のIr錯体(D−3)を用いて、以下に示す発光層形成用組成物(本発明の有機電界発光素子用組成物)を調製し、以下に示す条件で正孔輸送層4上にスピンコートして、膜厚60nmの発光層5を得た。
【0274】
【化39】

【0275】
<発光層形成用組成物>
溶剤 シクロヘキシルベンゼン
組成物中濃度 HO−1: 1.25重量%
HO−2: 3.75重量%
D−5: 0.25重量%
D−3: 0.35重量%
<スピンコート条件>
スピナ回転数 2000rpm
スピナ回転時間 120秒
乾燥条件 130℃×60分(減圧下)
【0276】
ここで、正孔注入層3、正孔輸送層4および発光層5を成膜した基板を真空蒸着装置内に移し、油回転ポンプにより装置の粗排気を行った後、装置内の真空度が5.1×10−4Pa以下になるまでクライオポンプを用いて排気した後、実施例1で用いた前記構造式(C−3)で表される化合物を真空蒸着法によって、発光層5の上に成膜し、膜厚10nmの正孔阻止層6を得た。化合物(C−3)のるつぼ温度は251〜252℃、蒸着速度は0.08〜0.12nm/秒の範囲で制御し、蒸着時の真空度は2.1〜2.4×10−4Pa(約1.6〜1.8×10−6Torr)であった。
【0277】
続いて、実施例1で用いた前記トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム(ET−1)を加熱して、正孔阻止層6上に蒸着を行い、膜厚30nmの電子輸送層7を成膜した。この時のトリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム(ET−1)のるつぼ温度は222〜239℃の範囲で制御し、蒸着時の真空度は1.7〜2.0×10−4Pa(約1.3〜1.5×10−6Torr)、蒸着速度は0.1nm/秒とした。
【0278】
上記の正孔阻止層6および電子輸送層7を真空蒸着する時の基板温度は室温に保持した。
【0279】
ここで、電子輸送層7まで蒸着を行った素子を一度前記真空蒸着装置内より大気中に取り出して、陰極蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極2のITOストライプとは直交するように素子に密着させて、別の真空蒸着装置内に設置して上記電子輸送層7と同様にして装置内の真空度が2.3×10−6Torr(約3.0×10−4Pa)以下になるまで排気した。
【0280】
次に、電子輸送層7の上に、電子注入層8として、フッ化リチウム(LiF)を、モリブデンボートを用いて、蒸着速度0.015nm/秒、真空度2.5×10−6Torr(約3.3×10−4Pa)で、0.5nmの膜厚で成膜した。
【0281】
次に、電子注入層8の上に、陰極9として、アルミニウムをモリブデンボートにより加熱して、蒸着速度0.5〜3.0nm/秒、真空度3.3〜7.5×10−6Torr(約4.4〜10.0×10−4Pa)で成膜して膜厚80nmのアルミニウム層を形成して陰極9を完成させた。
【0282】
以上の電子注入層8、陰極9の蒸着時の基板温度は室温に保持した。
【0283】
以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。
素子の発光スペクトルの極大波長は603nmであり、Ir錯体(D−3)からのものと同定された。
この素子について、実施例1と同様にして半減寿命を測定した。
【0284】
[実施例3]
実施例1において、発光層を形成する際に用いた化合物(D−3)を、前記合成例6で合成した本発明のIr錯体(D−4)に変更した以外は、実施例2と同様にして有機電界発光素子を作製し、同様に半減寿命の測定を行った。
【0285】
表2に各有機電界発光素子の半減寿命を、比較例1の有機電界発光素子の半減寿命とした場合の相対値で示した。
表2には、用いたIr錯体のR値を併記した。
【0286】
【表2】

【0287】
表2より、本発明の金属錯体を用いて、長寿命の有機電界発光素子を得ることができることが分かる。
【符号の説明】
【0288】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 正孔阻止層
7 電子輸送層
8 電子注入層
9 陰極
10 有機電界発光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機電界発光素子に用いられる金属錯体であって、
下記式で算出されるレーザー脱離イオン化質量分析におけるR値(%)が、12以下であることを特徴とする、金属錯体。
R値(%)=Idecomp/I×100
ここで、Idecompは脱配位子イオン強度を表し、Iは金属錯体イオン強度を表す。
【請求項2】
該金属錯体に含まれる金属が、Ir、Pt、Pd、Cu、Zn、Ag、Rh、Ru、Os、AuおよびReからなる群より選ばれる金属であることを特徴とする、請求項1に記載の金属錯体。
【請求項3】
該金属錯体が、分子内に、置換基を有していてもよいアルキル基を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の金属錯体。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の金属錯体および溶剤を含有することを特徴とする、有機電界発光素子用組成物。
【請求項5】
陽極、陰極、およびこれら両極間に設けられた発光層を有する有機電界発光素子であって、該発光層が請求項1ないし3のいずれか1項に記載の金属錯体を含有することを特徴とする、有機電界発光素子。
【請求項6】
請求項5に記載の有機電界発光素子を有することを特徴とする、有機ELディスプレイ。
【請求項7】
請求項5に記載の有機電界発光素子を有することを特徴とする、有機EL照明。

【図1】
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【公開番号】特開2010−209317(P2010−209317A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22167(P2010−22167)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】