説明

金属錯体型核酸

本発明は、金属原子を一次元的に配列化することができ、かつ安定に存在しうる新規構造体を提供することを目的とする。本発明は、ヌクレオチドの塩基部分が酸化されにくい金属配位基で置換されたヌクレオチド誘導体の少なくとも1つを含むオリゴヌクレオチド誘導体2本と金属原子とを含む二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体であって、各オリゴヌクレオチド誘導体に含まれるそれぞれの金属配位基が金属原子に配位して錯体化することにより二本鎖を形成している、上記二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、金属配位基を有するオリゴヌクレオチド誘導体と金属原子から構成される金属錯体型核酸、該金属錯体型核酸の製造方法、ならびに該金属錯体型核酸における異種金属原子の選択的一次元配列化に関する。
【背景技術】
新規な生体分子誘導体の開発を目的とする研究が世界中で行われている。天然の生体分子に見られるような自己集合型の階層構造の構築は、自己集合型のナノ構造分子又は材料を開発するための重要なアプローチとして認識されてきた。天然の生体分子は限定された種類の構成要素(ヌクレオシド、アミノ酸、脂質及び炭水化物など)から構成されるが、これらの分子は化学的に多様で、ほぼ無限に重合又は集合させることができる。さらに、近年の化学合成及びバイオテクノロジーの発達により、これらの生体分子構成要素を配列することにより、従来考えられなかった分子構築物が製造されるようになった。
そして、金属錯体を生体分子に導入することが、機能的生体高分子の設計及び合成における重要なモチーフとして認識されるようになった。多種の生体分子のなかで、DNA分子は種々の構造を有し(一本鎖又は二本鎖のヘリックス、トリプレックス、ヘアピン構造、環構造など)、高度に調節された機能を有することから、多くの研究者にとって魅力的な存在であった。
DNAは異なる核酸塩基を有する4種のヌクレオシド単位から構成される生体高分子であり、これらの構成要素がホスホジエステル結合を介して、遺伝情報を反映する特定の順序で結合している。遺伝情報の複雑さとは対称的に、相補的なDNA又はRNA鎖間における塩基対形成プロセスは単純である。核酸塩基間の水素結合及びスタッキング相互作用が、DNA相補鎖を安定化する重要な要素となっている。特に、水素結合はDNA鎖間の特異的認識において重要な役割を担う。
このような状況下、DNAの表面を金属錯体で改変するための多くの研究が行われてきた(Hurley,D.J.ら、J.Am.Chem.Soc.1998,120,2194及びRack,J.J.ら、J.Am.Chem.Soc.,2000,122,6287)。しかし、DNAの中心部分の改変に関する研究はほとんどなされていない。本発明者らは、天然のDNAに存在する水素結合によって結合した塩基対を代替の塩基対で置換できることを見出した。そして、DNAの塩基自体を直接改変することにより金属配位型核酸塩基を作製し、2つの核酸塩基を金属配位構造を介して対とすることにより、金属錯体型DNAを作製することに成功した(特開平11−80190号)。
しかし、ここで製造された金属錯体型DNAは、空気酸化などに対して極めて不安定であり、金属原子を配列し集積化するためには実用性の乏しいものであった。また、組み込むことのできる金属原子の種類も限定されるとともに、所望の数の金属原子を制御して配列化することも困難であった。
一方、非生物学的な手法により任意の数の金属原子を一次元的に配列化する方法はほとんど知られていなかった。わずかな例も、非常に複雑な合成法を用いる必要があるものや、結晶化を基としているため、金属原子の種類や数が限定され、成形性が乏しく実用性の低いものであった。また、種々の金属原子をその種類ごとに位置選択的に配列化することも困難であった。
【発明の開示】
本発明は、金属原子を一次元的に配列化することができ、かつ安定に存在しうる新規構造体を提供することを目的とする。
本発明者らは、前記目的を解決すべく鋭意研究を行った結果、ヌクレオチドの塩基部分が酸化されにくい金属配位基で置換されたヌクレオチド誘導体を含むオリゴヌクレオチド誘導体と金属原子から形成される二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体(本明細書中、金属錯体型核酸と称する場合もある)により前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)ヌクレオチドの塩基部分が酸化されにくい金属配位基で置換されたヌクレオチド誘導体の少なくとも1つを含むオリゴヌクレオチド誘導体2本と金属原子とを含む二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体であって、各オリゴヌクレオチド誘導体に含まれるそれぞれの金属配位基が金属原子に配位して錯体化することにより二本鎖を形成している、上記二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体。
(2)オリゴヌクレオチド誘導体が金属配位基で置換されていないヌクレオチドを含む(1)記載の二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体。
(3)金属配位基の金属原子に対する安定度定数が10−1以上である、(1)又は(2)記載の二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体。
(4)金属配位基が以下から選択される(1)〜(3)のいずれかに記載の二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体:
置換されていてもよい2−、3−又は4−ピリジル基、
ビシナルに、水酸基、メルカプト基、アミノ基、アルコキシ基、チオエーテル基及びホスフィン基から選ばれる基とオキソ基又はチオキソ基とを有する、共役系不飽和結合を含有する環基、及び
ビジナルにアミノ基又はメルカプト基を有し、場合によりヘテロ原子を有する飽和有機基。
(5)金属配位基が以下から選択される(1)〜(4)のいずれかに記載の二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体。

(6)金属原子が、同一又は異なって、Cu2+、Cu、Al3+、Ga3+、La3+、Fe3+、Co3+、As3+、Si4+、Ti4+、Pd2+、Pt2+、Pt4+、Ni2+、Ag、Hg、Hg2+、Cd2+、Au、Au3+、Rh、Irから選択される(1)〜(5)のいずれかに記載の二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体。
(7)各オリゴヌクレオチド誘導体がヌクレオチド誘導体を複数含み、各オリゴヌクレオチド誘導体におけるヌクレオチド誘導体の数のうち少ない方の数と同数の金属原子を含む、(1)〜(6)のいずれかに記載の二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体。
(8)2種以上の金属配位基と2種以上の金属原子を含み、各種金属配位基が特定の種類の金属原子に選択的に配位して錯体化することにより二本鎖を形成している(7)記載の二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体。
(9)特定の配位構造で配位しやすい金属配位基を含み、その配位構造と同じ配位構造をとりやすい金属原子に該金属配位基が配位している(8)記載の二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体。
(10)オリゴヌクレオチド誘導体が平面四配位構造で配位しやすい金属配位基を含み、該金属配位基が平面四配位構造をとりやすい金属原子に配位している(8)又は(9)記載の二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体。
(11)オリゴヌクレオチド誘導体が直線二配位構造で配位しやすい金属配位基を含み、該金属配位基が直線二配位構造をとりやすい金属原子に配位している(8)〜(10)のいずれかに記載の二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体。
(12)よりハードな塩基として機能しうる金属配位基がよりハードな金属原子に配位し、よりソフトな塩基として機能しうる金属配位基がよりソフトな金属原子に配位している(8)〜(11)のいずれかに記載の二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体。
(13)ヌクレオチドの塩基部分が酸化されにくい金属配位基で置換されたヌクレオチド誘導体を少なくとも1つ含むオリゴヌクレオチド誘導体2本と金属原子とを含み、各オリゴヌクレオチド誘導体に含まれるそれぞれの金属配位基が金属原子に配位して錯体化することにより二本鎖を形成している二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体の合成方法であって、
塩基部分が酸化されにくい金属配位基で置換されたヌクレオチド誘導体及び場合によりヌクレオチドをホスホロアミダイト法により結合してオリゴヌクレオチド誘導体を合成する工程;及び該オリゴヌクレオチド誘導体の金属配位基に金属原子を配位させて二本のオリゴヌクレオチド誘導体を結合する工程、を含む上記合成方法。
(14)オリゴヌクレオチド誘導体を合成する工程が、ヌクレオチド誘導体が複数種取り込まれる様に合成するものであり、オリゴヌクレオチド誘導体の金属配位基に金属原子を配位させて二本のオリゴヌクレオチド誘導体を結合する工程が、ヌクレオチド誘導体の各種金属配位基にそれぞれ選択性を有する金属原子を配位させるものである(13)記載の合成方法。
(15)以下の式:

で表されるヌクレオシド誘導体。
(16) 以下の式:

で表されるヌクレオシド誘導体。
本発明の二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体(以下、金属錯体型核酸と称する場合もある)は、ヌクレオチドの塩基部分が酸化されにくい金属配位基で置換されたヌクレオチド誘導体を少なくとも1つ含むオリゴヌクレオチド誘導体2本が結合した二本鎖構造を有する。そして、各オリゴヌクレオチド誘導体に含まれるそれぞれの金属配位基が金属原子に配位して錯体化することにより上記オリゴヌクレオチド誘導体同士が結合して二本鎖を形成している。
本発明においてヌクレオチド誘導体とは、ヌクレオチドにおいて、その塩基部分が金属配位基で置換された構造を有する化合物を意味する。そして、オリゴヌクレオチド誘導体とは、オリゴヌクレオチドにおけるヌクレオチドの少なくとも1つが上記のヌクレオチド誘導体で置換された構造を有するものを意味する。本発明のオリゴヌクレオチド誘導体は、ヌクレオチド誘導体を少なくとも1つ含むものであるが、金属配位基で置換されていないヌクレオチドを含んでいてもよく、ヌクレオチド誘導体のみで構成されていてもよい。また、本発明において金属配位基とは、金属原子に配位して錯体を形成しうる金属配位部分を有する基を意味する。いわば、配位子としての機能を有する基である。
いいかえれば、本発明の二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体は、二本のオリゴヌクレオチドからなる天然の二重らせん構造において、各オリゴヌクレオチド鎖における少なくとも1つのヌクレオチドの塩基部分が金属配位基で置換された構造を有する。そして、二本の相補的なオリゴヌクレオチド誘導体が二重らせんを形成したときに、一方のオリゴヌクレオチド誘導体中のヌクレオチド誘導体が存在する位置に対応する相補鎖側のヌクレオチドもまたヌクレオチド誘導体となっていることが好ましい。すなわち、本発明の二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体の二重らせん構造においては、ヌクレオチド誘導体の糖部分に結合した金属配位基が向かい合って存在し、各オリゴヌクレオチド誘導体の対応する位置に存在する各金属配位基が一緒になって金属原子に配位することにより金属錯体構造を形成する。そして、その錯体構造が二本のオリゴヌクレオチド誘導体同士を連結させている。従って、オリゴヌクレオチド誘導体の相補鎖に含まれる金属配位基の数は、通常同数である。
天然の核酸では、塩基対間の相補的な水素結合により二重らせん構造をとることが知られている。それに対して、本発明の金属錯体型核酸は、本来遺伝子情報を司る核酸の構造を機能性材料へと応用するために、オリゴヌクレオチドに金属配位部位を有する基を導入し、水素結合の代わりに金属錯体構造を用いることで、二重らせん構造を形成させたものである。
本発明の二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体は、ヌクレオチドの塩基部分が酸化されにくい金属配位基で置換されている構造を有することを特徴とするが、本発明において酸化されにくい金属配位基とは、常温、常圧下、空気中や溶媒中の酸素による酸化を受けない金属配位基をいう。
また、本発明の金属配位基は、金属原子に対する安定度定数が10−1以上であるものが好ましく、10〜1030−1であるものがより好ましい。安定度定数とは、当技術分野における通常の意味を有し、錯体の安定度を示す尺度である。水和金属原子と配位子とから錯体が生成するときの平衡定数として示される。配位子Aが金属原子Mと錯体[MA](水和イオン[M(HO)m+のアクア配位子を略し単にMと書く)を生成するとき、M+A⇔MA、MA+A⇔MA、…、MAn−1+A⇔MAにおいて、それぞれの平衡定数は、K=[MA]/[M][A]、K=[MA]/[MA][A]、…、K=[MA]/[MAn−1][A]となる。[ ]はそれぞれの濃度を表すが、理論的には活量を用いるべきであり、そのときに得られるKの値を熱力学的安定度定数という。
安定度定数の測定方法については、Arthur E.Martell and Robert M.Smith,Critical Stability Constants Vol.1−4,Plenum Press,New York(1974)及びその引用文献を参照されたい。
本発明の金属配位基の例として、置換されていてもよい2−、3−又は4−ピリジル基が挙げられる。置換基としては、特に限定されないが、水酸基、炭素数1〜10のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基)等が挙げられる。骨格となるピリジル基は、2−、3−又は4−ピリジル基のうち、3−ピリジル基が好ましい。このような金属配位基は直線二配位構造で配位しやすい。また、骨格となるピリジル基の窒素原子に隣接する炭素原子、すなわち3−ピリジル基では6位の炭素原子が、カルボキシル基、2−イミダゾリル基、4−イミダゾリル基又は2−ピリジル基等で置換されたものでもよく、このような金属配位基は二座配位基として機能する。ピリジンの窒素原子の隣の炭素から3番目にドナー原子が来る形に分子設計すると、二座配位子として機能するようになると考えられる。
このような金属配位基としては、具体的には以下のものが挙げられる。

本発明の金属配位基の別の例として、ビシナルに、水酸基、メルカプト基、アミノ基、アルコキシ基、チオエーテル基及びホスフィン基から選ばれる基とオキソ基又はチオキソ基とを有する、共役系不飽和結合を含有する環基が挙げられる。ビシナルとは、2個の置換基が隣接する炭素原子に1個ずつついていることを示す。また、該環基は、さらに置換基、例えば、炭素数1〜10のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基)、アルコキシ基、ハロゲン基、ニトロ基、シアノ基、アジド基、フェニル基等で置換されていてもよい。環基は、好ましくは3〜8員環、より好ましくは5又は6員環であり、環員すべてが炭素原子であるか又はそのうちのいくつかが窒素原子である。環員すべてが炭素原子である6員環の場合、共役系不飽和結合を含有する環基とは芳香環を意味する。好ましくは、環が1つの窒素原子を有しかつ2つの二重結合を有する6員環であり、該窒素原子を介して糖に結合する基である。環基が6員環の場合、上記の2つの置換基は、3位と4位に存在するのが好ましい。このような金属配位基は、平面四配位構造で配位しやすい。
このような金属配位基としては、具体的には以下のものが挙げられる。

本発明の金属配位基のまた別の例として、ビシナルにアミノ基又はメルカプト基を有し、場合によりヘテロ原子を有する飽和有機基が挙げられる。飽和有機基としては、炭素数3〜10、好ましくは4〜5の直鎖又は分枝の鎖状炭化水素基及び炭素数5〜8、好ましくは6の環状炭化水素基、ならびにこれらの炭化水素基において、炭化水素基を構成する1〜3個、好ましくは1個の炭素原子がヘテロ原子(酸素原子、窒素原子、硫黄原子など)で置換された飽和有機基が挙げられる。ヘテロ原子、好ましくは酸素原子を有する基が好ましい。そして、上記飽和有機基は、ビシナルにアミノ基及びメルカプト基から選択される置換基を2個有する。このような金属配位基は、平面四配位構造で配位しやすい。
このような金属配位基としては、具体的には以下のものが挙げられる。

本発明の二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体は、同種の金属配位基を複数有するものでもよく、異なる金属配位基を有するものでもよい。
上記のような金属配位基を有する二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体は、酸化されにくく安定に存在できるため、金属原子の一次元的配列化のための材料として、実用性を有する。
二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体が安定に存在するとは、以下の2つの意味を有する。第一に、二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体が、空気中や溶媒中の酸素による酸化などによって、それ自体が化学変化を受けないことである。第二に、熱力学的な平衡反応である二本鎖の会合及び、二本鎖内への金属原子の会合が、十分に会合側へ偏っていることである。これらの安定性は、NMRスペクトル、質量スペクトル、元素分析、吸収スペクトル、電子スピン共鳴スペクトル等で測定することができる。
本発明において金属原子には、電荷を有しない金属原子及び電荷を有する金属原子、いわゆる金属イオンの双方が包含される。本発明の二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体において、金属配位基と錯体を形成する中心金属原子としては、錯体を形成しるものであれば特に限定されないが、例えば、Cu2+、Cu、Al3+、Ga3+、La3+、Fe3+、Co3+、As3+、Si4+、Ti4+、Pd2+、Pt2+、Pt4+、Ni2+、Ag、Hg、Hg2+、Cd2+、Au、Au3+、Rh、Ir等が挙げられる。本発明においては、dブロック元素に属する金属原子及びその金属イオンが好ましく、d金属原子及びd10金属原子がより好ましい。ここでd金属原子とは、8個のd電子を有する金属原子及び金属イオンを意味する。
オリゴヌクレオチドに導入する金属配位基は、上記中心金属原子及び形成しようとする金属錯体構造に合わせて選択するのが好ましい。例えば、配位数、電荷、配位構造及びHSAB理論に基づいて、中心金属原子及び金属配位基を選択することができる。
本発明の二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体では、オリゴヌクレオチド誘導体に含まれるヌクレオチド誘導体の数を調節することにより、所望の数の金属原子を導入することができる。また、各オリゴヌクレオチドにおいて、金属配位基を有するヌクレオチド誘導体を連続して配置することにより、二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体内部に金属原子を連続的に配列化することができる。通常、各オリゴヌクレオチド誘導体に含まれる金属配位基の数は同数であり、それと同数の金属原子が導入されることになる。各オリゴヌクレオチド誘導体に含まれる金属配位基の数が異なる場合は、少ない方の数の金属原子が二本鎖中に導入されることになる。金属原子が連続的に配列することにより、金属原子の非常に細いワイヤーを作成することができるとともに、金属原子間の電子移動が容易になり、分子電線として優れた機能を発揮する。さらに、本発明の二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体は、金属原子が配列化された分子の状態で溶液として使用できるので、成形性が高く、デバイス化が容易であるという利点を有する。
以下に、本発明の二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体において金属原子が連続して配列する場合の態様を例示する。

上記において、Aは、同一又は異なって、金属配位基を表し、
Mは、同一又は異なって、金属原子を表し、
Rは、H又はOHを表し、
mは、0〜498の整数、好ましくは0〜98の整数を表し、
AとMは金属錯体を形成している。
ここでRがHの場合は、金属錯体型DNAとなり、RがOHの場合は、金属錯体型RNAとなる。
金属原子を連続的に配列する態様においては、二本鎖オリゴヌクレオチド内に形成される金属錯体が平面四配位構造及び直線二配位構造を有するのが好ましい。なぜなら、金属錯体がオリゴヌクレオチド二本鎖中でスタッキングすることにより、最も規則的に配列化しうるからである。
本発明はまた、2種以上の金属配位基と2種以上の金属原子を含み、各種金属配位基が特定の種類の金属原子に選択的に配位して錯体化することにより二本鎖を形成する二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体に関する。
各種金属配位基が特定の種類の金属原子に選択的に配位するとは、金属配位基の種類と金属原子の種類には選択性があること、すなわち、金属配位基の種類によって配位して錯体化しやすい親和性の高い金属原子種が存在し、金属配位基と金属原子がそれぞれ複数種共存する状況において、その互いに錯体化しやすい金属配位基と金属原子とが優先的に錯体化することを意味する。より具体的には、ある種の金属配位基を有するオリゴヌクレオチド誘導体と複数種の金属原子とが共存する場合に、該金属配位基は特定の金属原子種に優先的に配位して錯体を形成すること、あるいはある種の金属原子と複数種の金属配位基を有するオリゴヌクレオチド誘導体とが共存する場合に、該金属原子は特定の金属配位基が存在する位置に優先的に配位されることをいう。
すなわち、オリゴヌクレオチド誘導体中に、各種金属配位基を任意の位置に有するオリゴヌクレオチド誘導体を作製することによって、所望の位置に所望の順番で、所望の種類の金属原子種が配置された二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体を作製することができる。
例えば、特定の配位構造をとりやすい金属原子は、その配位構造と同じ配位構造で配位しやすい金属配位基に対して選択性を有する。
例えば、平面四配位構造をとりやすい金属原子は、平面四配位構造で配位しやすい金属配位基に対して選択性を有する。平面四配位構造をとりやすい金属原子としては、d金属原子が挙げられ、例えば、Rh、Ir、Ni2+、Pd2+、Pt2+、Au3+イオン等が挙げられる。その他にヤーンテラー効果が大きいCu2+イオンも平面四配位構造をとりやすい。
また、直線二配位構造をとりやすい金属原子は、直線二配位構造で配位しやすい金属配位基に対して選択性を有する。直線二配位構造をとりやすい金属原子としては、d10金属原子が挙げられ、例えば、Cu、Ag、Au、Hg2+が挙げられる。
また、金属配位基と金属原子は、HSAB理論に基づく選択性を有する。HSAB理論とは、中心金属原子と配位子を、それぞれルイス酸及び塩基と考え、金属原子を分類したものである。
例えば、よりハードな金属原子は、よりハードな塩基として機能しうる金属配位基に対して親和性を有する。このような金属配位基としては、例えば、オキソ基、水酸基、カルボキシル基、リン酸基及びエーテル基から選択される基を1個以上有し、該基を介して金属と錯体を形成するような金属配位基が挙げられる。
ハードな金属原子としては、Al3+、Ga3+、La3+、Fe3+、Co3+、As3+、Si4+、Ti4+等が挙げられる。
一方、よりソフトな金属原子は、よりソフトな塩基として機能しうる金属配位基に対して親和性を有する。このような金属配位基としては、例えば、チオキソ基、メルカプト基、チオエーテル基、チオシアノ基及びホスフィン基から選択される基を1個以上有し、該基を介して金属と錯体を形成するような金属配位基が挙げられる。
ソフトな金属原子としては、Pd2+、Pt2+、Ag、Au、Hg、Hg、Cu、Cd2+、Pt4+、Rh等が挙げられる。
その他、中間的な配位子として機能しうる金属配位基としては、例えば、アミノ基、ピリジル基、アジド基、ニトロ基から選択される基を1個以上有し、該基を介して金属と錯体を形成するような金属配位基が挙げられる。
中間的な金属原子としては、例えば、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+、Pb2+、Sn2+、Sb3+、Bi3+、Rh3+、Ru2+、Os2+等が挙げられる。
ここで、金属原子及び金属配位基におけるハード及びソフトという性質は、相対的なものであるため、複数の金属原子及び複数の金属配位基が存在する場合、よりハードな金属原子はよりハードな配位子として機能しうる金属配位基と結合しやすく、よりソフトな金属原子はよりソフトな配位子として機能しうる金属配位基と結合しやすいことを意味する。従って、ハードな金属原子と中間的な金属原子、及びハードな配位子として機能しうる金属配位基とソフトな配位子として機能しうる金属配位基が共存する場合には、ハードな金属原子はハードな配位子として機能しうる金属配位基と錯体を形成し、中間的な金属原子はソフトな配位子として機能しうる金属配位基と錯体を形成すると考えられる。
より具体的には、
Cu2+イオンは、以下の金属配位基に対して選択性を有し、

Pd2+、Pt2+、Ni2+イオンは、以下の金属配位基に対して選択性を有し、

Ag、Hg2+イオンは、以下の金属配位基に対して選択性を有する。

従って、例えば、平面四配位構造で配位しやすい金属配位基及び直線二配位構造で配位しやすい金属配位基とを含むオリゴヌクレオチド誘導体2本と、平面四配位構造をとりやすい金属原子及び直線二配位構造をとりやすい金属原子とを共存させると、平面四配位構造で配位しやすい金属配位基の位置に平面四配位構造をとりやすい金属原子が取り込まれて錯体を形成し、直線二配位構造で配位しやすい金属配位基の位置に直線二配位構造をとりやすい金属原子が取り込まれて錯体を形成することによって、二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体が形成される。すなわち、配列化させたい金属原子に選択性を有する金属配位基をそれぞれ選択してオリゴヌクレオチド誘導体を設計することにより、所望の金属原子を所望の位置に配列化することができる。オリゴヌクレオチド誘導体の設計にあたっては、二本鎖を形成するオリゴヌクレオチド誘導体2本がそれぞれ相補的となるよう、二本鎖を形成したときに、同じ金属配位基が向かい合い、そしてヌクレオチドを含むときは相補的ヌクレオチドが向かい合うように設計することが好ましい。このように、各種金属原子を位置選択的に一次元的に配列化する方法は、今まで全く知られていなかった。
金属原子を任意の位置に選択的に配列化することにより、金属原子間の電子的、光学的、磁気的な相互作用を任意に調節することが可能になる。そして、導電性や磁性を、酸化還元、光、磁場などの外部因子によって制御することが可能になる。さらに、複合的な金属触媒による反応場の構築にも利用できる。
本発明の二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体は、例えば以下のような方法によって合成することができる。
二本鎖を形成するための一本鎖オリゴヌクレオチド誘導体は次のように合成することができる。まず、ヌクレオシドの塩基部分が金属配位基で置換されたヌクレオシド誘導体を準備する。なお、このヌクレオシド誘導体の合成方法は後述する。
次いで、このヌクレオシド誘導体のリボフラノース環の5’位の水酸基をジメトキシトリメチル化し、次いで3’位の水酸基をホスホロアミダイト化することによって該ヌクレオシド誘導体をホスホロアミダイト化してヌクレオチド誘導体を作製する。このヌクレオチド誘導体をDNA合成機を用いて、通常の核酸の合成方法として知られているホスホロアミダイト法を用いてオリゴヌクレオチド誘導体を合成し、最後に保護基であるジメトキシトリチル基等を除去することによって本発明の二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体を形成するための一本鎖オリゴヌクレオチド誘導体が得られる。
本発明のオリゴヌクレオチド誘導体は、上記のとおり、ヌクレオチド誘導体のみから形成されていてもよいが、天然のヌクレオチドを含んでいてもよいので、そのような場合は、上記の合成方法に従ってDNA合成機によってヌクレオチド誘導体及び天然のヌクレオチドを適宜結合させる。
DNAの合成においては、核酸塩基を任意の配列でならべて合成する手法がすでに確立されている。それぞれの核酸塩基(アデニン、グアニン、シトシン、チミン)を有するデオキシヌクレオシドの5’位水酸基をジメトキシトリチル化し、次いで3’水酸基をホスホロアミダイト化したデオキシヌクレオシド誘導体、すなわちヌクレオチドを、市販されているDNA自動合成機に設置し、所定の塩基配列を指定することにより、例えば2〜100塩基の長さを持つDNAを容易に合成することができる。
本発明の二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体もまた、かかるDNA合成機を利用し、上記の塩基部分が金属配位基で置換されたヌクレオシド誘導体、及び必要に応じて各種の天然のヌクレオシドを用いてホスホロアミダイト法によって合成することによって、金属配位部位が導入されたオリゴヌクレオチド誘導体を得ることができる。この方法を用いた場合には、各種のヌクレオシド誘導体及びヌクレオシドを任意の順番に配列させることができるため、金属配位基をオリゴヌクレオチド誘導体の任意の位置に配置することができる。またオリゴヌクレオチド誘導体の長さも制限されないため、所望の長さのオリゴヌクレオチド誘導体を作製することにより、所望の長さの二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体を製造することができる。本発明の二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体の長さは、例えば、1〜500塩基、好ましくは1〜100塩基、より好ましくは2〜30塩基である。
こうして得られた互いに相補的なオリゴヌクレオチド誘導体の二本は、各オリゴヌクレオチド誘導体の有する金属配位基が金属原子に配位することで二本鎖構造を形成し、本発明の二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体となる。
金属錯体の形成、すなわち二本鎖への金属原子の取り込みは、対応する位置に金属配位基を有する互いに相補的なオリゴヌクレオチド誘導体二本と金属原子とを溶媒中に共存させることにより実施できる。金属原子は、所望の金属原子を供与する塩を溶媒中に添加することにより提供できる。使用する溶媒としては、特に制限されないが、例えば、水溶液を使用することができる。水溶液を用いる場合、配位子が、ルイス酸としてのプロトンに比べて、目的の金属原子との結合親和性が高く、かつ金属原子が、ルイス塩基としてのハイドロキシウムイオンに比べ、配位子との結合親和性が高くなるpH領域であることが望ましい。また、溶媒が凍結せず、かつ溶質が析出しない限り低い温度であることが望ましい。
塩基が金属配位基に置換されたヌクレオチド誘導体を有するオリゴヌクレオチド誘導体同士は、金属原子が存在しない状況では互いに会合しにくく、二本鎖の安定性は低いが、金属原子を共存させることにより安定な二本鎖を形成する。従って、金属原子の有無や濃度によって二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体の形成を制御することが可能である。
本発明はまた、ヌクレオシドの塩基部分が金属配位基で置換されたヌクレオシド誘導体に関する。
本発明のヌクレオシド誘導体としては、例えば、以下のものが挙げられる。

本発明のヌクレオシド誘導体は、一般的に、デオキシリボース誘導体と金属配位子部位のFliedel−Crafts反応による縮合、デオキシリボノラクトン誘導体と金属配位子部位のリチオ化物との縮合、あるいはグリカールと金属配位子の有機金属化物との付加反応により、ヌクレオシドの骨格構造を得、その後の脱保護反応により得られる。
上記のとおり、本発明では、二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体の任意の位置に金属原子を導入することが可能であり、例えば金属原子を1個導入することも、あるいは連続して導入することもできる。例えば、DNA自動合成機を用いて、任意の位置に金属配位基を備えたオリゴヌクレオチド誘導体を得ることができる。即ち付与したい機能に基づいて人工核酸をデザインし、配位部位及び金属原子を選択することにより、任意の場所に任意の金属原子を配した構造を持つ化合物を容易に合成することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、ヒドロキシピリドン基及びピリジン基を有するオリゴヌクレオチド誘導体二本鎖中にCu2+イオン及びHg2+イオンを位置選択的に配置した金属錯体型DNAの構造を本発明の一態様として表したものである。
図2は、実施例5で、オリゴヌクレオチド誘導体の存在下、Cu2+イオンとオリゴヌクレオチド誘導体二本鎖のモル比を変化させてUV吸収スペクトルを測定した結果である。
図3は、実施例5で、オリゴヌクレオチド誘導体の存在下、Cu2+イオンとオリゴヌクレオチド誘導体二本鎖のモル比を変化させて測定したUV吸収スペクトルの277nmにおける吸収の変化を表す。
図4は、実施例6で、Hg2+イオンと2Cu2+・d(5’−GHPHC−3’)のモル比を変化させて円二色性スペクトルを測定した結果である。
図5は、実施例6で、Hg2+イオンと2Cu2+・d(5’−GHPHC−3’)のモル比を変化させて測定した円二色性スペクトルの310nmにおける円二色性の変化を表す。
本明細書は、本願の優先権の基礎である特願2003−310661号の明細書に記載された内容を包含する。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこの実施例に何ら限定されるものではない。
(実施例1) 核酸塩基を金属配位基で置換した構造を有するヌクレオシド誘導体及びヌクレオチド誘導体の合成
以下のスキームに従って、ヒドロキシピリドン基を有するヌクレオシド誘導体及びヌクレオチド誘導体を合成した。

上記スキームにおいて、Bnはベンジルを表し、Pivはピバロイルを表し、DMTrは4,4’−ジメトキシトリチルを表す。
1,3,5−トリ−O−アセチル−2−デオキシ−D−リボフラノース及び2−メチル−3−(ベンジルオキシ)−4−ピリドンをGold,A.ら(Nucleocides Nucleotides 1990,9,907)及びHarris,R.L.N.ら(Aust.J.Chem.1976,29,1329)に記載の方法に従って合成した。次に2−メチル−3−(ベンジルオキシ)−4−ピリドン(504mg、2.34mmol)及び触媒量の硫酸アンモニウムをヘキサメチルジシラザン(HMDS、5mL)に溶解した。反応混合物を還流下で2時間加熱し、その後過剰量のHMDSを留去した。得られた残渣に、1,3,5−トリ−O−アセチル−2−デオキシ−D−リボフラノース(669mg、2.57mmol)のCHCN(25mL)溶液を添加した。続いて、トリメチルシリルトリフルオロメタンスルホネート(465μl、2.57mmol)を反応混合物に滴下し、得られた溶液を室温で24時間撹拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で反応を停止し、溶媒を留去した。残渣をCHClに溶解し、有機相を飽和NaHCO水溶液と水で洗浄後、無水NaSOで乾燥した。溶媒を留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl−CHOH(100:1))によって残渣を精製することにより、α−及びβ−アノマー比が3:7の化合物H−2を得た。
化合物H−2(3.7g、8.9mmol)をAcOEt(100mL)に溶解し、10%Pd/C(500mg、0.47mmol)を反応混合物に添加した。懸濁液をH雰囲気下、2時間にわたり激しく撹拌した。反応終了後、Pd/Cを濾去し溶媒を留去した後、残渣をEtOHから再結晶することにより、所望の化合物H−3を得た(870mg、30%)。
化合物H−3(998mg、3.07mmol)のメタノール(40mL)溶液に、28%のNHOH水溶液(10ml)を添加し、混合物を室温で3時間撹拌し、その後溶媒を留去した。残渣をAcOEt中で固化することにより、無色の固体として化合物Hを得た。Mp:141.0〜143.0℃。
化合物H(290mg、1.20mmol)の無水ピリジン(2ml)溶液に、DMTr−Cl(570mg、1.68mmol)を添加し、反応混合物を室温にて2時間撹拌した。反応をMeOHで停止した後、混合物を氷水(100ml)に注ぎ、CHClで抽出した。有機相を無水MgSOで乾燥後、濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl−CHOH(100:1))によって残渣を精製することにより、化合物H−4(498mg、77%)を得た。
化合物H−4(1.05g、1.93mmol)及びiPrEtN(404μL、2.32mmol)のTHF(7.7mL)溶液に、無水ピバル酸(403μL、2.12mmol)を添加し、溶液を室温にて15時間撹拌した。反応混合物をCHCl(150ml)に注ぎ、食塩水で洗浄した。有機相をMgSOで乾燥し、溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl)、続いてアルミナカラムクロマトグラフィー(CHCl)で精製することにより、化合物H−5(741mg、61%)を得た。
化合物H−5(342mg、545μmol)及びN,N−ジイソプロピルエチルアミン(238μl、1.36mmol)のCHCl(10mL)溶液に、2−シアノエチル N,N−ジイソプロピルクロロホスホロアミダイト(267μl、1.20mmol)を添加した。30分後、反応混合物を氷水(30ml)に注ぎ、CHCl(100ml)で抽出した。有機相を水で洗浄し、MgSOで乾燥し、溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物H−6のジアステレオ混合物を得た(275mg、61%)。
(実施例2) 核酸塩基を金属配位基で置換した構造を有するヌクレオシド誘導体及びヌクレオチド誘導体の合成
以下のスキームに従って、ピリジン基を有するヌクレオシド誘導体及びヌクレオチド誘導体を合成した。

上記スキームにおいてDMTrは4,4’−ジメトキシトリチルを表す。
2−デオキシ−3,5−O−(1,1,3,3−テトライソプロピルジシロキサン−1,3−ジイル)−D−リボノ−1,4−ラクトンをMarkiewicz,W.T.(J.Chem.Res,Synop.1979,24)に記載の方法に従って合成した。次に−78℃に冷却した3−ブロモピリジン(2.75mL、28.5mmol)の脱水ジエチルエーテル溶液(180mL)にn−ブチルリチウムのヘキサン溶液(1.56M、19.5mL、30.4mmol)を静かに加え、得られた黄色い溶液を−78℃にて30分攪拌した。この溶液に、脱水ジエチルエーテル(20mL)に溶解した2−デオキシ−3,5−O−(1,1,3,3−テトライソプロピルジシロキサン−1,3−ジイル)−D−リボノ−1,4−ラクトン(10.7g、28.6mmol)を−78℃にて10分かけて滴下した。−78℃にて2時間攪拌した後、飽和塩化アンモニウム水溶液(50mL)を反応溶液に加えることにより反応を停止した。得られた混合物をジエチルエーテルで抽出し(100mL×3回)、有機相を飽和食塩水(200mL)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン−ジエチルエーテル(1:6))により精製し化合物P−2を得た(7.6g、59%)。
化合物P−2(16.2g、35.7mmol)をCHCl(120mL)に溶解し、−78℃においてトリエチルシラン(29.0ml、181mmol)を加えた。この溶液を−78℃において10分間攪拌し、CHCl(160mL)に溶解した三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(22.6mL、178mmol)を10分かけて滴下した。反応溶液を−50℃まで昇温し、40時間攪拌した後、飽和塩化アンモニウム水溶液50mLを加えることにより反応を停止した。この混合物をジエチルエーテルで抽出し(100mL×3回)、有機相を飽和食塩水(200mL)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン−酢酸エチル(5:1))により精製しβ体の化合物P−3を無色オイルとして得た(2.7g、18%)。
化合物P−3(2.7g、6.2mmol)をテトラヒドロフラン(100mL)に溶解し、フッ化テトラブチルアンモニウムのテトラヒドロフラン溶液(1.0M、18.6mL、186mmol)を室温で加えた。得られた反応溶液を70分間攪拌した後、飽和塩化アンモニウム水溶液(100mL)を反応溶液に加えることにより反応を停止し、溶液を濃縮した。残渣を酢酸エチルに分散し、不溶の塩を濾去し、溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル)により精製し、化合物Pを無色オイルとして得た(1.1g、89%)。
化合物P(141mg、0.72mmol)を脱水ピリジン(4mL)中に溶解し、室温にてDMTr−Cl(253mg、0.72mmol)を加えた。室温で2.5時間攪拌した後、メタノール20mLを加えて反応を停止し、溶媒を留去した。残渣にエタノールを10mL加えて共沸し、これを2回繰り返すことにより、ピリジンを完全に除いた。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル)により精製し、化合物P−4を無色フォームとして得た(274mg、76%)。
化合物P−4(577mg、1.16mmol)をCHCH(11mL)に溶解し、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(0.80mL、4.60mmol)と2−シアノエチル N,N−ジイソプロピルクロロホスホロアミダイト(0.54mL、2.42mmol)を室温で加え、3時間攪拌した。メタノール10mLを加え反応を停止し、さらに10分間攪拌した。溶媒を留去し、残渣を酢酸エチル(100mL)に溶解し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(100mL)、水(100mL×2回)、飽和食塩水(100mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン−酢酸エチル(1:1))により精製し化合物P−5を無色オイルとして得た(633mg、80%)。
(実施例3) 核酸塩基を金属配位基で置換した構造を有するヌクレオシド誘導体及びヌクレオチド誘導体の合成
以下のスキームに従って、ヒドロキシピリジンチオン基を有するヌクレオシド誘導体及びヌクレオチド誘導体を合成した。

化合物H−3(0.505g、1.55mmol)と五硫化二リン(0.362g、1.63mmol)をアセトニトリル7mLに分散し、氷冷攪拌下、6.2mLのアセトニトリルで希釈したN,N−ジイソプロピルエチルアミン(1.1mL、6.16mmol)を滴下した。反応溶液をそのまま4時間攪拌した後、冷水に注いだ。塩化メチレンで抽出し、有機相を水洗し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を留去した。残渣をイソプロパノールから再結晶し、黄色結晶として化合物HT−1を得た(0.351g、61%)。
化合物HT−1(0.448g、1.31mmol)を20mLのメタノールに溶解し、濃アンモニア水5mLを加え、4時間攪拌した。溶媒を留去し、得られた残渣に酢酸エチルを加えることにより沈殿として化合物HTを得た(0.278g、82%)。
(実施例4) オリゴヌクレオチド誘導体の合成
標準的なβ−シアノエチルホスホロアミダイトケミストリーを使用し、ABI394DNA合成機(PE Biosystems社)を用いて、d(5’−GHPHC−3’)(配列番号1)で表されるオリゴヌクレオチド誘導体を合成した。
配列番号1において、Hは上記で作製したヒドロキシピリドン基を有するヌクレオチド誘導体を意味し、Pは上記で作製したピリジン基を有するヌクレオチド誘導体を意味する。この配列番号1で表されるオリゴヌクレオチド誘導体は自己相補鎖であるため、同じ配列同士で二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体を形成することができる。
試薬及び濃度等は、天然のDNAオリゴマーの合成と同様のものを使用した。合成は1μmolスケールで、製造元のプロトコルに従って実施した。通常の合成サイクルに変更を加えたところは、カップリング時間を15分間に延長したことのみである。オリゴマーを支持体から除去し、25%NHで処理することにより(55℃、12時間)脱保護した後、粗オリゴヌクレオチド誘導体を精製し、脱トリチル化した。
(実施例5) オリゴヌクレオチド二本鎖d(5’−GHPHC−3’)へのCu2+イオンの結合
配列番号1で表されるオリゴヌクレオチド誘導体の存在下、Cu2+イオンとオリゴヌクレオチド誘導体二本鎖(金属原子を含まないオリゴヌクレオチド誘導体の二本鎖)のモル比を変化させてUV吸収スペクトルを測定した(日立U−3500スペクトロメーター)。結果を図2に示す。図中[二本鎖]とは、オリゴヌクレオチド誘導体二本鎖の濃度、すなわち、オリゴヌクレオチド誘導体一本鎖の全濃度の1/2を意味する。Cu2+イオンを徐々に加えることにより277nmの吸収が減少し、306nmに新たな吸収が現れた。306nmの吸収はヒドロキシピリドン基の水酸基が脱プロトン化しCu2+イオンと錯体を形成したことを示している。306nmにおける吸収はCu2+イオンを二本鎖に対し2当量加えるまで等吸収点を通りながら系統的に変化した。これにより、オリゴヌクレオチド中2ヶ所のヒドロキシピリドン部位に、それぞれCu2+イオンが結合して塩基対を形成し、銅イオンを2個含む二本鎖オリゴヌクレオチド、2Cu2+・d(5’−GHPHC−3’)が形成されたことが示された。
(実施例6) 二本鎖オリゴヌクレオチド、2Cu2+・d(5’−GHPHC−3’)へのHg2+イオンの結合
二本鎖オリゴヌクレオチド、2Cu2+・d(5’−GHPHC−3’)の存在下、Hg2+イオンと2Cu2+・d(5’−GHPHC−3’)のモル比を変化させて円二色性スペクトルを測定した(日本分光J−816スペクトロメーター)。結果を図4に示す。図中[二本鎖]とは、銅イオンのみを含む二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体、2Cu2+・d(5’−GHPHC−3’)の濃度を意味する。Hg2+を徐々に加えることにより310nmの正のコットン効果は減少した。これは、Hg2+の添加に伴い、二本鎖の構造が変化する事を示している。310nmの円二色性の変化は、Hg2+を二本鎖に対し1当量加えるまで等収点を通りながら系統的に変化した(図5)。ピリジン部位にHg2+イオンが結合して塩基対を形成し、Cu2+−Hg2+−Cu2+配列を有する二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体が形成されたことが示された。
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
本発明により安定に存在しうる金属錯体型核酸を構築することができ、様々な金属原子を一次元的に配列化することができる。本発明の金属錯体型核酸は、分子電線及び高分子磁性材料を利用した電子機器やメモリー材料に利用できる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヌクレオチドの塩基部分が酸化されにくい金属配位基で置換されたヌクレオチド誘導体の少なくとも1つを含むオリゴヌクレオチド誘導体2本と金属原子とを含む二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体であって、各オリゴヌクレオチド誘導体に含まれるそれぞれの金属配位基が金属原子に配位して錯体化することにより二本鎖を形成している、上記二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体。
【請求項2】
オリゴヌクレオチド誘導体が金属配位基で置換されていないヌクレオチドを含む請求の範囲第1項記載の二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体。
【請求項3】
金属配位基の金属原子に対する安定度定数が10−1以上である、請求の範囲第1項記載の二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体。
【請求項4】
金属配位基が以下から選択される請求の範囲第1項記載の二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体:
置換されていてもよい2−、3−又は4−ピリジル基、
ビシナルに、水酸基、メルカプト基、アミノ基、アルコキシ基、チオエーテル基及びホスフィン基から選ばれる基とオキソ基又はチオキソ基とを有する、共役系不飽和結合を含有する環基、及び
ビシナルにアミノ基又はメルカプト基を有し、場合によりヘテロ原子を有する飽和有機基。
【請求項5】
金属配位基が以下から選択される請求の範囲第1項記載の二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体。

【請求項6】
金属原子が、同一又は異なって、Cu2+、Cu、Al3+、Ga3+、La、Fe3+、Co3+、As3+、Si4+、Ti4+、Pd2+、Pt2+、Pt4+、Ni2+、Ag、Hg、Hg2+、Cd2+、Au、Au3+、Rh、Irから選択される請求の範囲第1項記載の二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体。
【請求項7】
各オリゴヌクレオチド誘導体がヌクレオチド誘導体を複数含み、各オリゴヌクレオチド誘導体におけるヌクレオチド誘導体の数のうち少ない方の数と同数の金属原子を含む、請求の範囲第1項記載の二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体。
【請求項8】
2種以上の金属配位基と2種以上の金属原子を含み、各種金属配位基が特定の種類の金属原子に選択的に配位して錯体化することにより二本鎖を形成している請求の範囲第7項記載の二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体。
【請求項9】
特定の配位構造で配位しやすい金属配位基を含み、その配位構造と同じ配位構造をとりやすい金属原子に該金属配位基が配位している請求の範囲第8項記載の二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体。
【請求項10】
オリゴヌクレオチド誘導体が平面四配位構造で配位しやすい金属配位基を含み、該金属配位基が平面四配位構造をとりやすい金属原子に配位している請求の範囲第8項記載の二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体。
【請求項11】
オリゴヌクレオチド誘導体が直線二配位構造で配位しやすい金属配位基を含み、該金属配位基が直線二配位構造をとりやすい金属原子に配位している請求範囲第8項記載の二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体。
【請求項12】
よりハードな塩基として機能しうる金属配位基がよりハードな金属原子に配位し、よりソフトな塩基として機能しうる金属配位基がよりソフトな金属原子に配位している請求の範囲第8項記載の二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体。
【請求項13】
ヌクレオチドの塩基部分が酸化されにくい金属配位基で置換されたヌクレオチド誘導体を少なくとも1つ含むオリゴヌクレオチド誘導体2本と金属原子とを含み、各オリゴヌクレオチド誘導体に含まれるそれぞれの金属配位基が金属原子に配位して錯体化することにより二本鎖を形成している二本鎖オリゴヌクレオチド誘導体の合成方法であって、
塩基部分が酸化されにくい金属配位基で置換されたヌクレオチド誘導体及び場合によりヌクレオチドをホスホロアミダイト法により結合してオリゴヌクレオチド誘導体を合成する工程;及び該オリゴヌクレオチド誘導体の金属配位基に金属原子を配位させて二本のオリゴヌクレオチド誘導体を結合する工程、を含む上記合成方法。
【請求項14】
オリゴヌクレオチド誘導体を合成する工程が、ヌクレオチド誘導体が複数種取り込まれる様に合成するものであり、オリゴヌクレオチド誘導体の金属配位基に金属原子を配位させて二本のオリゴヌクレオチド誘導体を結合する工程が、ヌクレオチド誘導体の各種金属配位基にそれぞれ選択性を有する金属原子を配位させるものである請求の範囲第13項記載の合成方法。
【請求項15】
以下の式:

で表されるヌクレオシド誘導体。
【請求項16】
以下の式:

で表されるヌクレオシド誘導体。

【国際公開番号】WO2005/023829
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【発行日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513584(P2005−513584)
【国際出願番号】PCT/JP2004/002529
【国際出願日】平成16年3月2日(2004.3.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本化学会第83春季年会(2003年)にて発表 発表日:平成15年3月18日 講演予稿集発行日:平成15年3月3日
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】