説明

金庫室等の横引き式扉装置

【課題】非常用扉と床との間に下かまちが全く設けられず、キャスタ付きワゴン等を庫内と戸外の間で何らの段差障害物を越える必要なく移動させることが可能な、金庫室等の扉装置の提供。
【解決手段】金庫室等の出入口に装備される懸吊された横引き式扉装置において、スライド可能に懸吊された扉本体6を上,下で水平に二分すると共に、二分した下半部扉体62を上半部扉体61に左右スライド可能に懸吊支持させて非常用扉に形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金庫室や貸金庫室、或は、耐火書庫や耐火収納室など(以下、これらを単に「金庫室」ともいう)に装備される横引き式の扉装置であって、その扉自体に非常口を形成するために非常用扉を横引き式扉の形態で設けた横引き式扉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金庫室にはヒンジ(又は蝶番)で支持した開き戸式の扉か横引き式の本扉装置が装備されるが、装備されている扉が錠装置などに生じた故障などのトラブルで開閉できないとき、例えば、閉扉状態でトラブルが発生して開扉できないとき、内部に収納している現金や物品などの出入れが全くできなくなる事態を防ぐ趣旨で、非常用の小扉装置(以下、非常用扉装置という)が、前記本扉装置とは別の壁面位置に設けられている。
【0003】
上記の非常用扉装置は、出入口用の本扉とは別の位置に設けられ、また、開き戸式であるため、非常用扉装置の前にはキャビネットや収納庫などの壁面什器を配置できないというスペース上のデメリットがある。
【0004】
上記のような点に鑑み、本扉装置の中に非常用扉装置を設けた扉が特許文献1,2により提案されている。しかし、提案されている非常用扉装置は、別設タイプの非常用扉装置の設置スペース上の問題点は回避できるが、当該特許文献1,2の図によく表れているように、非常用扉の下端と床との間に下かまちが床から凸状に突出して形で形成されるため、例えば庫内側又は庫外側からキャスタ付ワゴン等の出入れをすることができないか、できるとしても下かまちによる段差乗越えのために作業がきわめて煩雑,困難であるという問題がある。
【特許文献1】特開平8−332237号公報
【特許文献2】特許第3493395号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の非常用扉を備えた扉装置の問題点に鑑み、従来の扉装置のような問題点を解消した金庫室等の扉装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決することを目的としたなされた本発明扉装置の構成は、金庫室等の出入口に装備される懸吊された横引き式扉装置において、スライド可能に懸吊された扉本体を上,下で水平に二分すると共に、二分した下半部扉体を上半部扉体に左右スライド可能に懸吊支持させて非常用扉に形成したことを特徴とするものである。
【0007】
下半部扉体は、上半部扉体が閉扉状態のままで扉本体全体の開扉スペースとして設けられているスペース内にスライドして開扉されると共に、閉扉されると、上半部扉体と扉枠にカンヌキなどを介して機械的に結合されるように形成されている。
【0008】
また、下半部扉体は、上半部扉体とのカンヌキ等による機械的結合手段の施解錠装置を具備する。
【発明の効果】
【0009】
本発明による金庫室等の横引き式扉装置は、金庫室等の出入口に装備される懸吊された横引き式扉装置において、スライド可能に懸吊された扉本体を上,下で水平に二分すると共に、二分した下半部扉体を上半部扉体に左右スライド可能に懸吊支持させて非常用扉に形成したので、下かまちが全く設けられず、従って、その非常扉を開扉すると、キャスタ付きワゴン等を、庫外と庫内の間で何らの段差障害物を越える必要なく移動させることができる。
【0010】
また、本発明による非常用扉は、その開扉が、扉本体の開扉スペース内にスライドして収まることによりなされ、また、閉扉すると上半部扉体と結合一体化されて扉本体に形成されるから、非常用扉を設置するために別途スペースを確保することを要しないという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に本発明扉装置の実施の形態例について、図を参照して説明する。添付した図において、図1は本発明扉装置の構造を説明するため高さ方向の中間を省略して模式的に表した断面図、図2は図1の扉装置の正面図、図3は図2の下半部扉体(非常用扉)を開けた状態の正面図、図4は図2の扉装置の平断面図である。
【0012】
図2において、1は金庫室Mrの壁面で、2は金庫室Mrと手前側で同一面に形成された床である。前記壁面1には扉かまち3を床2の側を除く3辺に備えた金庫室Mrの出入口4が形成されている。
【0013】
扉かまち3の背後(金庫室Mr側)には、上かまち31の背面側において出入口4の幅方向に設けたガイドレール5に、扉本体6の上面に設けたスライダ7が、スライド自在に懸吊架装されていることにより、この扉本体6が前記レール5に支持案内されて、壁面1の内面側(金庫室Mrの側)に凹状に形成した扉収納部8に収まるようにスライド(移動)させられて、この出入口4の開扉状態を作るようになっている。
【0014】
扉本体6には、施錠装置が解除されて解除状態(動作可能状態)におかれたカンヌキ6aを回転により出没させると共に、この扉本体6にスライド動作をさせるとき、操作者が手で掴む、ここでは丸型のハンドル9が設けられている。なお、本発明において、上記カンヌキ6aの進退動作を許否する施錠装置については、ここでは説明しないが、公知のダイヤル式施錠装置やテンキー式,カードリーダ式,生体データリーダ式などの電気式又は電子式施錠装置が装備されているものとする。
【0015】
上記扉本体6の背面(金庫室Mr側)には、扉本体6の背面と適宜の離間距離をとって格子扉10が、前記レール5と平行に配置したレール11にスライダや転動輪などによる摺動体又は車輪12が支持案内されることにより、懸吊スライド式で設けられている。なお、13は扉本体6の下面と床2の間に対し、扉本体下面に配設したファイアバリア材である。このバリア材13は熱で膨張して扉下面と床2の隙間を耐熱,耐炎的に封止する。
【0016】
以上に述べた壁面1からファイアバリア材13までの構成は、従来から公知の横引き式扉装置の構成である。本発明はこの横引き式扉装置に、以下に説明する非常用扉装置の構成を採用することにより、本発明扉装置を形成するので、次にこの点について述べる。
【0017】
本発明では、図に例示したように扉本体6を、その中間高さより少し下方の高さで水平方向に二分し、上方の上半部扉体61と下方の下半部扉体62を形成する。両扉体61,62の分割面63は、図1に例示するように階段状断面となるように形成して、耐火性,耐炎性,耐錐防盗性などの耐性を確保するようにしている。分割面63の断面形状は、図示した例に限られるものではなく、凹凸関係で噛み合う対面関係を備えていればよい。
【0018】
ガイドレール5に懸吊された上半部扉体61から分割面63で分離された下半部扉体62は、上半部扉体61の背面側下部に前記レール5と平行に取付けた第2ガイドレール14に、前記スライダ7と同様の第2スライダ15であって、この下半部扉体62の背面側に取付けた第2スライダ15が支持案内されることにより、上半部扉体61に対して左右スライド可能に懸吊支持されている。以下、この下半部扉体62を非常用扉62ともいう。
【0019】
図1の例では、下半部扉体62の背面には、第2スライダ15を取付けるための取付プレート16が設けられている。また、下半部扉体62の前面側の左側には、非常用扉62(下半部扉体62)の符号錠17が配設されており、この符号錠17の開錠によって非常用扉62のカンヌキ18を上半部扉体61のカンヌキ受けから後退させて非常用扉の開扉状態を形成するようにしている。なお、非常用扉62の符号錠17の前面には、不使用時に当該符号錠17を隠蔽するカバー19が配置されている。また、20は非常用扉62(下半部扉体62)のカンヌキ18を進退させると共に、当該扉体62をスライドさせるためのハンドル、21は分割面63に配置したファイヤバリア材である。さらに、扉かまち3における図2の左側の縦かまち32には、分割した扉体61,62の側端面に形成した穴に入る扉体61と62の振れ止め用のノックピン22が配置されている。
【0020】
本発明の図1の例では、格子扉10も扉本体6と同じ高さで、上,下部の扉体10a,10bに分離すると共に、この扉10の下部には下かまち10cを残して、下部扉体10bを開き戸式で開閉できるように形成している。なお、下部扉体10bを上部扉体10aに対し左右スライドによる開閉機構とすることは任意である。
【0021】
以上により本発明扉装置の一例を形成するので、次にその操作,動作態様の一例について説明する。
何らかの原因(例えば停電等)によって扉体6の開閉が不能状態に陥った場合、まず係員が非常用扉62のカバー19を開けて符号錠17とハンドル20とを操作できる状態にする。係員は符号錠17を操作して非常用扉62のカンヌキ18のロックを解除してそのカンヌキ18が進退できる状態を作る。カンヌキ18が進退できるようになるとハンドル20を回転してカンヌキ18を上半部扉体61の下面に設けたカンヌキ受けから抜去させると、この非常用扉62がスライド開扉可能の状態になるので、ハンドル20を掴んでこの扉62を図2の右方へ移動させる。
【0022】
非常用扉62は、図3に例示するように、扉本体6の略1/2強のスライド量まで移動して、上半部扉体61の下方に、キャスターCaを備えたキャビネットSuなどが段差のない床2を金庫室Mrの内,外において自由に移動できる開口空間Psを形成する。
【0023】
図示した例では、非常用扉62の奥側(金庫室Mrの側)に、下部扉体10bが開き戸式で開けられるように形成した格子扉10があるので、係員は、この下部扉対10bの施錠を解除して当該扉体10bを開け、金庫室Mr内に入って格子扉10をその収納部8にスライドさせて格納すると、上記開口空間Psは、キャスタCa付きのキャビネットSuを、そのまま押し、或は、曳いて金庫室Mrと手前側の執務室などとの間で、自由に出入り可能となる。
【0024】
非常用扉62を利用した金庫室Mrに対する出入り作業が終了すれば、係員が金庫室内に入って格子扉10をスライドさせて閉扉し、その下部扉体10bから庫外に出て当該扉体10bを閉じて施錠し、それから非常用扉62を元の位置にスライドさせて戻し、ハンドル20の回転操作でカンヌキ18を上半部扉体61の下面に設けたカンヌキ受け(図に表われず)に進出させ、符号錠17を操作してカンヌキ18をロックする。カンヌキ18のロックが終われば、カバー19を元に戻すと、扉本体6は全体の閉扉状態に戻ることになる。
【0025】
扉本体6の開閉可能状態が回復するまで、上記の非常用扉62は利用されるが、回復すれば当該扉本体6全体の開閉により、本来の出入口4の開扉状態,閉扉状態を作ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は以上の通りであって、扉内に非常扉を配置する金庫室等の横引き式扉装置を、スライド可能に懸吊された扉本体を上,下で水平に二分すると共に、二分した下半部扉体を上半部扉体に左右スライド可能に懸吊支持させて非常用扉に形成したから、下かまちが全く設けられず、従って、その非常用扉を開扉すると、キャスタ付きワゴン等を、庫外と庫内の間で何らの段差障害物を越える必要なく移動させることができる。
【0027】
また、本発明による非常用扉は、その開扉が扉本体の開扉スペース内にスライドして収まることによりなされ、また、閉扉すると上半部扉体と結合一体化されて扉本体に形成されるから、非常用扉を設置するための別途スペースを全く必要としない効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明扉装置の構造を説明するため高さ方向の中間を省略して模式的に表した断面図。
【図2】図1の扉装置の正面図。
【図3】図2の下半部扉体(非常用扉)を開けた状態の正面図。
【図4】図2の扉装置の平断面図。
【符号の説明】
【0029】
1 壁面
2 床
3 扉かまち
31 上かまち
4 出入口
5 ガイドレール
6 扉本体
61 上半部扉体
62 下半部扉体(非常扉)
63 分割面
7 スライダ
8 扉収納部
9 ハンドル
10 格子扉
10a 上部扉体
10b 下部扉体
10c 下かまち
11 レール
12 摺動体又は車輪
13 ファイアバリア材
14 第2ガイドレール
15 第2スライダ
16 取付プレート
17 非常用扉の符号錠
18 非常用扉のカンヌキ
19 非常用扉のカバー
20 非常用扉のハンドル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金庫室等の出入口に装備される懸吊された横引き式扉装置において、スライド可能に懸吊された扉本体を上,下で水平に二分すると共に、二分した下半部扉体を上半部扉体に左右スライド可能に懸吊支持させて非常用扉に形成したことを特徴とする金庫室等の横引き式扉装置。
【請求項2】
下半部扉体は、上半部扉体が閉扉状態のままで扉本体全体の開扉スペースとして設けられている扉収納部内にスライドして開扉されると共に、閉扉されると上半部扉体と扉枠にカンヌキなどを介して機械的に結合されるように形成した請求項1の金庫室等の横引き式扉装置。
【請求項3】
下半部扉体は、上半部扉体とのカンヌキ等による機械的結合手段の施解錠装置を具備した請求項2の金庫室等の横引き式扉装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−177504(P2007−177504A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−376994(P2005−376994)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000139780)株式会社イトーキ (833)
【Fターム(参考)】