説明

金管楽器用消音器

【課題】全長を従来の密閉型の消音器の略1/2に抑え、軽量でコンパクト、且つ、音量バランスを正しく保ち、鳴りムラの無い安定した吹鳴音を全帯域で得られるようにし、さらに、本体内に電源や電子回路モジュールを配設して吹鳴音を電気信号に変換するユニット化を容易に実現できる金管楽器用消音器を提供する。
【解決手段】金管楽器のベルに装着される密閉型の消音器1であり、消音器本体7の最大径部となる底部5および装着する金管楽器のベルの内周面形状に沿って滑らかに縮径された筒状胴部3からなり、筒状胴部3の外周の軸心方向に消音器本体7の内部空間に連通する呼気排出路25を形成し、金管楽器のベルに消音器本体を装着したとき、ベルの端面に本体の底部5を位置させるとともに、消音器本体7の小径側端部から本体内の呼気を呼気排出路25を経て外部空間に排出させる。さらに、底部5は電源および電子回路モジュールを備える収容室を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランペットやトロンボーンなどの金管楽器の吹鳴音を減衰させることを目的とする密閉型の消音器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金管楽器の吹奏による吹鳴音を減衰させる消音器として図7に示す構成のものが知られている。同図に示す消音器101の基端部には、コルク、ゴム、スポンジ等からなる密閉部材109が全周に巻装されており、この消音器101を例えば、トランペット103のベル105に装着すると、密閉部材109の嵌合部107がベル105の内周面に密着するため、消音器101の内部空間111は密閉されることになる。
【0003】
消音器101をこのように装着することにより内部空間111が完全に密閉されてしまうと、マウスピース113から吹き込まれた吹奏者の呼気は出口を失って排出できなくなり、吹奏することが困難となる。そこで、消音器101の底面117を内部空間111に折り返して突出させた先端部分に排出口115を設け、吹奏者の呼気を逃がすようにしている(例えば、特許文献1)。
【0004】
このように、内部が実質的に密閉された消音器は密閉型消音器と呼ばれており、前記排出口115の開口径を小さくすると、外部空間に漏れ出る吹鳴音が減少し消音効果が得られる。ところで、前述した消音器101の構成が含まれる従来の密閉型消音器を金管楽器のベルに装着した場合、吹奏時の音波は密閉型消音器の底面で反射されるため、その音圧分布は密閉型消音器を装着しない場合の音圧分布と異なる。
【0005】
図4(A)〜(D)各図の上段は、密閉型消音器を装着せずに吹奏した場合の2倍音、4倍音、6倍音、8倍音の音程生成に有効となる定在波の音圧分布の状態を示すもので、マウスピース113からベル105までの管体部分を真っ直ぐに伸ばした状態に展開し、理解が容易となるようにしてある。なお、同図において、定在波119の山121に当たる部分は音圧が高く、逆に定在波119の谷123に当たる部分は音圧が低いことを示している。
【0006】
同図から明らかなように、定在波119の終端125はベル105の略端面127で音圧を下げて収束する。この定在波119の終端125の位置はベル105の形状などにより決定されるため、必ずしもベル105の端面127にあるとは限らないが、大きくこの位置から外れることはなく、定在波119の終端125の位置はベル105の略端面127に在るとすることができる。
【0007】
ところが、図8(A)〜(D)に示すように従来の消音器101を装着した場合は、ベル105の端面127より前方(図8に示すB方向)へ消音器101が突出しているため、1/4波長の余分な定在波129が生成されてしまう。この1/4波長の余分な定在波は、ベル105の端面127から前方へ突出した消音器101の底面117に向かい音圧を上げることになる。この1/4波長の余分な定在波129が形成されるのが従来の密閉型消音器を装着した場合の特徴である。
【0008】
このように1/4波長の余分な定在波129が存在すると、従来の密閉型消音器においては、音程生成上有効な定在波119の終端125は、ベル105の端面127から後方(C側)に移動してしまい、ピッチが極端に上昇して音程バランスが崩れ、特に低音域では略半音も上昇していた。
【0009】
このような問題を回避するため密閉型消音器を合理的に設計するには、楽器本来の音色が得られる倍音である代表的定在波の1/4波長に相当する長さ(H)だけ、ベル105の端面127から前方(B側)に延長した位置に呼気の排出口115を設けたり、本体の筒部の中間部を最大内径とし、両端に向かうにしたがって先細りする形状に形成することにより、1/4波長の余分な定在波129が存在するにも拘わらず、これに影響されることなくピッチや音程バランスを改善することが一応可能である。
【特許文献1】特許第2865030号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような従来の密閉型消音器では、前述したように呼気の排出口115を装着する金管楽器の代表的定在波の1/4波長に相当する長さ(H)だけ、ベル105の端面127から前方(B側)に延長した位置に設けなければならない。このため、消音器101の底面117がベル105の端面127から前方(B側)に長く突出する形状となり、重量が増加することになる。したがって、このような密閉型消音器を金管楽器に装着すると、先端重量が大きくなるためバランスが前方に偏り、吹奏姿勢に影響を与える問題があった。
【0011】
また、近年では、例えば、吹奏楽の練習形態として外部音源の伴奏に合わせて消音器を装着した金管楽器の吹奏を行い、これを録音できるようにすることが求められている。この場合、消音器に内蔵されたマイクにより集音した吹鳴音を電気信号に変換するための電子回路モジュールおよび電源の構成部品は、単独のユニットとして別体に構成されている。ところが、このユニットと消音器は複数のケーブルで接続しなければならず、このケーブルが絡み合ったり、接続していたケーブルの脱落に伴う衝撃音を吹奏者に与えてしまう事故の可能性を含むものであった。
【0012】
本発明は、上記従来の問題を解決するためになされたもので、金管楽器のベルの端部から突出する程度を小さくしつつ良好な消音効果の得られる密閉型の金管楽器用消音器を提供するもので、音程、ピッチおよび吹奏感が向上するようにしたものである。さらに、前記のように構成することにより、電子モジュールおよび電源の構成部品を消音器本体に内蔵してコンパクト化が可能となるようにし、別体のユニットを不要として吹鳴音を電気信号で出力できるようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで本発明は、以下に述べる各手段により上記課題を解決するようにした。即ち、請求項1記載の発明では、金管楽器のベルに装着される密閉型の消音器であり、消音器本体の最大径部となる底部および装着する金管楽器のベルの内周面の形状に沿って滑らかに縮径された筒状胴部からなり、前記筒状胴部の外周の軸心方向に前記消音器本体の内部空間に連通する呼気排出路を形成し、金管楽器のベルに前記消音器本体を装着したとき、前記ベルの端面に前記本体の底部を位置させると共に、前記消音器本体の小径側端部から本体内の呼気を呼気排出路を経て外部空間に排出されるようにする。
【0014】
請求項2記載の発明では、上記請求項1記載の発明において、消音器本体の前記底部に電源および電子回路モジュールを備える収容室を有するものとする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の発明によれば、消音器本体の全長を従来の密閉型の消音器の略1/2に抑えることができるので、軽量でコンパクトとなり、且つ、音程バランスを正しく保つことができ、しかも、鳴りムラの無い安定した吹鳴音を全音域で得ることができる。
【0016】
請求項2記載の発明によれば、軽量に構成することが可能となることから、本体内に電源や電子回路モジュールを配設することができ、吹鳴音を電気信号に変換するユニット化を容易に実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図にもとづき、トランペットを代表的実施例として以下に説明する。
【0018】
図1乃至図4は本発明の第1の実施の形態を示すもので、本発明による消音器1をトランペット103のベル105に装着した状態を示す図であり、この消音器1は、図2および図3に示すように胴部3と底部5とにより本体が構成されている。胴部3は、直線部9と傾斜部11からなり、前記直線部9は消音器本体7の軸線方向(B−C方向)と平行であり、胴部3の上端部である大径側端部13を含む直線部9側が消音器本体7の最大外径部および最大内径部15をなしている。
【0019】
傾斜部11は直線部9と連続し、直線部9の位置端部からベル105の内周面に沿うように滑らかに傾斜して絞られた先細りの形状となっているので、小径側端部17が消音器本体7の最小外径部および最小内径部19をなしている。したがって、本体1の内部空間21は軸線方向(B−C方向)に沿ってB方向に進むほど拡径しており、このような形状にすることにより、消音器1をベル105に装着しても鳴りムラがなく、しかも音程の良い音が得られ、その結果として安定した吹奏感も得られる。
【0020】
ベル105に消音器1を装着した場合には、傾斜部11の外周面が嵌合部23でベル105の内周面と嵌合する。この場合、胴部3を柔軟性のある合成樹脂で成形してある場合、この材料の性質によりベル105の内周面に弾接して固定されるが、嵌合部23にコルクのような柔軟性のある部材を貼着するようにしてもよい。
【0021】
つぎに、胴部3の傾斜部11の外周面には、吹奏者の呼気を外部空間へ排出するための呼気排出路25が形成されている。この呼気排出路25は、ベル105の内周面の形状に沿うように軸線方向(B−C方向)に延び、一端が傾斜部11の小径側端部17に達している。一方、呼気排出路25の他端は、ベル105に消音器1を装着したときに嵌合部23の端部より前方(B側)に位置するように設定されている。したがって、ベル105に消音器1を装着したときには、呼気排出路25の凹部とベル105の内周面によって確定される連通空間27は、嵌合部23の後方(C側)、即ち、マウスピース113側で消音器1の内部空間21に連通し、且つ、嵌合部23の前方(B側)で外部空間に連通する。
【0022】
連通空間27の消音器本体7の軸線方向(B−C方向)に垂直な面の断面積Fは、トランペット103のマウスピース内径の最小径部(スロート)の断面積以上である。これにより、吹奏感に悪影響を与える呼気の直流の流路抵抗の付加的増加を防ぐことが可能となる。トランペット103のスロート内径はφ3.7mm程度であるから、断面積Fはこれと同等あるいはそれ以上に設定する。
【0023】
直線部9と傾斜部11との境界には途中で大径側端部13に向かって屈曲した底部5を固定するためのフランジ31が形成されている。前記傾斜部11の内側には、軸線方向(B−C方向)と一致するように延びた調整筒33が設けられており、この調整筒33の一端は傾斜部11の小径側端部17と一致している。一方、調整筒33の他端には全周にわたって外方に延びる鍔部35が形成されており、この鍔部35の外周縁が傾斜部11の内周面と結合している。即ち、調整筒33の外周面と鍔部35のC方向側の面と傾斜部11の内周面とによって、傾斜部11の小径側端部17側が開口した環状の空間が画定される。
【0024】
調整筒33の寸法は、対応する楽器の種類によって異なった設定が必要となるが、本実施例におけるトランペット103が変ロ調である場合、調整筒33の内径はφ15mm、外径はφ17mm、長さは15mm程度である。この調整筒33を設けることにより、トランペット103のピッチを若干下げることができ、特に低音域の音程バランスを改善できる。
【0025】
つぎに、底部5は、合成樹脂(例えば、ABS樹脂)などにより板厚2.0mm以上の椀状に形成されたもので、胴部3の大径側端部13の外周面に嵌合し、その開口端がフランジ31と胴部3の直線部9の外周面により形成された挿入部に圧入されている。底部5と胴部3の直線部9との結合部35は、消音器本体7の内部空間21内の空気がこの部分から漏れないように密閉されており、これにより、全音域で鳴りムラのない安定した吹鳴音を得ることができる。
【0026】
このように構成した消音器1をベル105に装着すると、ベル105の端面127に底部5の最大内径部15が位置するようになる。また、ベル105の端面127から傾斜部11の小径側端部17までの軸線方向(B−C方向)の長さGが、トランペット103の代表的定在波(6倍音)の1/4波長に相当する長さにほぼ一致するように設定されている。
【0027】
かかる条件のもとに設計された本発明の消音器1と、従来の消音器101の寸法を比較すると、従来の消音器101の軸線方向(B−C方向)の全長がLであるのに対し、本発明の消音器1の軸線方向(B−C方向)の全長は略1/2である。また、トランペット103のベル105に従来の消音器101を装着したとき、ベル105の端面127から前方(B側)に突出する距離がH(図7参照)であるのに対し、本発明の消音器1を装着した場合、ベル105の端面127から突出する距離は略H/7である。したがって、従来の消音器101に比べ、本発明の消音器1はコンパクト化を図ることができるのである。
【0028】
図4は、トランペット103に本発明の消音器1を装着しない場合と、装着した場合で吹奏した場合の音圧分布を、図8と同様に比較して示した図である。図4(A)〜(D)の各図の上段に消音器1を装着しない場合、下段に装着した場合の定在波の音圧分布の状態を示すものて、図4(A)は2倍音、図4(B)は4倍音、図4(C)は6倍音、図4(D)は8倍音の定在波の音圧分布の状態を示している。
【0029】
同各図から明らかなように、消音器1を装着した場合も消音器1を装着しない場合と同様に、定在波119はベル105の端面127に向かって音圧を下げ収束し、終端125はベル105の略端面127に位置する。また、消音器1を装着した場合においても、1/4波長の余分な定在波129は生成されるが、この定在波は、ベル105の端面127から後方(C側)の消音器1の傾斜部11の小径側端部17に向かって音圧を上げる状態となる。つまり、本発明の消音器1では、余分に発生する1/4波長の定在波を、従来の消音器101とは全く逆の方向に生成させており、これにより、ベル105の端面127から消音器1が突出する長さを飛躍的に縮めることが可能となるのである。
【0030】
したがって、マウスピース113から消音器本体7の底部5に向かって吹き込まれた吹奏者の呼気は、消音器本体7の内部空間21から連通空間27を通って外部空間の放出され、その際、吹奏に対応する各倍音の定在波が発生する。本発明の消音器1においては、ベル105の端面127から小径側端部17までの長さGを6倍音の定在波の1/4波長に一致するように設定されているにも拘わらず、6倍音を含む2倍音、4倍音、6倍音および8倍音の各倍音の音程生成上有効な定在波119の終端125は、それぞれベル105の略端面127に一致している。その結果、各定在波119の音圧の終端125の移動が小さく、良好な音程およびピッチで吹奏することが可能となる。
【0031】
つぎに、本発明の第2の実施の形態の消音器37を図5にもとづいて説明する。なお、第1の実施の形態に係る消音器1と同様の構成の部分には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0032】
本発明の第2の実施の形態では、底部5の外周に環状カバー39を設けるようにしたもので、この環状カバー39は、呼気排出路25とベル53の内周面とによって画定された連通空間27に連通するベル53の小径側端部17側の空間41を外部空間と実質的に隔てるものである。そして、この環状カバー39は、ベル53の内周面と接触するカバー部43の周縁部45をベル53の内周面に付勢させながら当設させるバネ部材47とが合成樹脂で一体成型されてなる。
【0033】
上記構成においても吹奏者の呼気を外部空間に排出しなければ吹奏が困難となるため、環状カバー39のカバー部43には空間41を外部空間と限定的に連通させる息抜き孔49が形成されている。この息抜き孔49は、呼気排出路25と同様な考え方、即ち、息抜き孔49の内径は、トランペット103のマウスピースの内径の最小径部(スロート)の断面積以上となるように寸法が設定されている。なお、この息抜き孔49は、吹奏者の呼気のみならず呼気に含まれている水分が空間41に溜まるのを防ぎ、清潔性を保つ機能も果たす。
【0034】
また、消音器37の底部5の外周面にはその全周にわたってバネ部47の端面に対応する突起51が形成されている。したがって、環状カバー39の内周面が底部5の外周面と軸心方向(B−C方向)に摺動可能に嵌合し、バネ部材47の端部が前記突起51に当接するため、容易に外れることはない。
【0035】
このように構成したことにより、開口内面のカーブが比較的緩やかなベル53に消音器37を装着した場合には、図5(A)に示すように環状カバー39のバネ部47の弾性の働きが大きくなり、これにより、環状カバー39のカバー部43の周縁部45は息抜き孔49の部分を除く全周にわたってベル53の内周面に強く接触する。一方、開口内面のカーブが比較的急峻なベル55に消音器37を装着した場合には、図5(B)に示すように環状カバー39のバネ部材47の弾性の働きが小さくなり、これにより、環状カバー39のカバー部43の周縁部45は息抜き孔49の部分を除く全周にわたってベル53の内周面に弱く接触する。
【0036】
以上から明らかなように、底部5の突起51と胴部3のフランジ31との間にバネ部材47が圧縮状態で配設されているので、環状カバー39は装着するベルの形状が異なってもその内周面とカバー部43の周縁部45との接触状態を保持することができる。これにより、ベル53・55の内周面と消音器1の外周面および環状カバー39のC方向の面によって囲まれた空間41がチャンバー構造(消音室)となるため、連通空間27から漏れた吹鳴音は更に一層弱められる。
【0037】
つぎに、本発明の第3の実施の形態の消音器57を図6にもとづいて説明する。なお、第2の実施の形態に係る消音器37と同様の構成の部分には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0038】
本発明の第3の実施の形態における消音器57では、電源(乾電池)59や電子回路モジュール61を内蔵するようにしたものである。この消音器57の底部63の外周面に設けられた環状カバー39の保持用の突起64は、第2の実施の形態の消音器37とは異なり、前方(B側)に更に延びており、内周面側に屈曲部を備えている。底部5の前方(B側)には電子回路用基板65が設けられており、この電子回路用基板65は屈曲部に嵌り込んで固定されている。
【0039】
さらに、前記電子回路用基板65の前方にはその部品実装面を覆うための蓋体67が突起63の先端部で開閉自在となるように嵌合している。したがって、電子回路用基板65と蓋体67により電源59や電子回路モジュール61の収容室が画定される。底部5の中心部には信号線69を通すための貫通孔71が形成されており、この貫通孔71の周縁から立ち上がってC方向に先細り状態で延びる円錐状突起73が設けられている。前記信号線69は、貫通孔71および突起73の内側を通ってマウスピース113側に向かい軸線方向(B−C方向)に延びている。前記信号線69と突起73との嵌合部は防水熱収縮パイプ75により覆われている。
【0040】
前記信号線69の一端は電源59や電子回路モジュール61と接続され、他端はマイクロフォン77と接続されている。さらにこのマイクロフォン77とその近傍の信号線69は防水熱収縮パイプ79やパッキン81により覆われている。したがって、前記防水熱収縮パイプ75・79やパッキン81により、消音器57の内部空間21に溜まった水分が電子回路モジュール61やマイクロフォン77に浸入するのを防止することができる。
【0041】
前記マイクロフォン77やその近傍の信号線69は、それらを覆う防水熱収縮パイプ79やパッキン81を介して消音器57の傾斜部11の内周面から突出した固着部に固着され、消音器57に固定される。マイクロフォン77は、調整筒33の底面83を直径Mとし、底面83の軸線上の地点からその半径分(M/2)だけ消音器57の底部5に、即ち、B方向に進んだ位置に設けられる。この位置は、各倍音の有効な定在波の音圧バランスが良好な位置なので、全音域にわたってバランスの良い音を集音することができる。
【0042】
このように、消音器57自体に電源59や電子回路モジュール61を設けたことにより、別ユニットとしていた録音再生に関連する機能を収容することができることから、吹奏音をイヤーホーンなどで直接聴取することができ、また、スイッチ機能により聴取音に残響効果を与えたり、さらに、入出力ジャックを設けることによりコンパクトディスクなどからの楽曲信号を取り込み、例えば、伴奏音を聴取しながらの吹奏練習を可能としたり、吹奏音から得られた信号を録音のため外部へ出力することも可能となる。
【0043】
このように構成された消音器57と、従来の消音器101の寸法とを比較すると、従来の消音器101の軸線方向(B−C方向)の全長がLであるのに対して、消音器57の軸線方向の全長は2/3Lである。また、トランペット103のベル105に従来の消音器101を装着したとき、ベル105の端面127から前方(B側)に突出する距離がHであるのに対し、消音器57を装着した場合、ベル105の端面127から突出する距離は略H/3である。このように、電源59や電子回路モジュール61を消音器57に組み込んだ場合においても、従来の消音器101に比べ、コンパクト化を図ることができる。
【0044】
以上詳細に説明したように本発明では、胴部3の外周の軸心方向に本体1の内部空間21に連通する呼気排出路25を備え、この呼気排出路25が吹奏者の呼気を外部空間に排出するようにしたので、従来の消音器101の排出口115が不要となり、これにより、消音器本体の全長を短縮することができる。しかも、余分に発生する1/4波長の定在波の影響を受けることなく、良好な音程およびピッチで吹奏することが可能となる。
【0045】
本実施例の説明においては、前記呼気排出路25を一箇所に形成した例にもとづいて説明したが、複数箇所に備えるようにしてもよい。この場合、呼気排出路25の凹部と消音器1の傾斜部11の内周面によって画定される連通空間27の断面積の総和を対応する金管楽器のマウスピースの内径の最小径部(スロート)の断面積以上に設定すればよい。また、第2の実施の形態で説明した息抜き孔49を複数箇所に形成するような場合、前記と同様の設定にもとづいて開口の程度を設定すればよい。
【0046】
なお、本発明の消音器は合成樹脂に限らず、金属などの他の素材のもので形成することもでき、特定の素材に限定されるものではない。また、本発明の消音器を装着する金管楽器はトランペットに限らず、他の金管楽器を対象として広範に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る消音器の斜視図である。
【図2】図1の消音器の一部断面図である。
【図3】図2のA−A線断面図である。
【図4】図1の消音器による定在波の音圧分布の状態を説明する図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る消音器の断面図である。
【図6】本発明の第3の実施の形態に係る消音器の断面図である。
【図7】従来の消音器の断面図である。
【図8】図7の消音器による定在波の音圧分布の状態を説明する図である。
【符号の説明】
【0048】
1・・・・・・消音器
3・・・・・・胴部
5・・・・・・底部
7・・・・・・消音器本体
9・・・・・・直線部
11・・・・・傾斜部
15・・・・・最大内径部
17・・・・・小径側端部
19・・・・・最小内径部
25・・・・・呼気排出路
27・・・・・連通空間
33・・・・・調整筒
39・・・・・環状カバー
59・・・・・電源
61・・・・・電子回路モジュール
67・・・・・蓋体
77・・・・・マイクロフォン
103・・・・トランペット
105・・・・ベル
119・・・・定在波
125・・・・定在波の終端
127・・・・ベルの端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金管楽器のベルに装着される密閉型の消音器であり、
消音器本体の最大径部となる底部および装着する金管楽器のベルの内周面の形状に沿って滑らかに縮径された筒状胴部からなり、
前記筒状胴部の外周の軸心方向に前記消音器本体の内部空間に連通する呼気排出路を形成し、
金管楽器のベルに前記消音器本体を装着したとき、前記ベルの端面に前記本体の底部を位置させると共に、前記消音器本体の小径側端部から本体内の呼気を呼気排出路を経て外部空間に排出されるようにしたことを特徴とする金管楽器用消音器。
【請求項2】
消音器本体の前記底部に電源および電子回路モジュールを備える収容室を有することを特徴とする請求項1記載の金管楽器用消音器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−209146(P2006−209146A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−82062(P2006−82062)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【分割の表示】特願2000−96970(P2000−96970)の分割
【原出願日】平成12年3月31日(2000.3.31)
【出願人】(300024818)有限会社 ベストブラス (9)
【Fターム(参考)】