説明

鉄を含有しない微量元素配合輸液製剤

【課題】 構造が簡単で、高温での加熱安定性、長期保存安定性に優れる、体内での鉄貯蔵量が増加していて鉄過剰症を発症しているか発症する恐れのある患者に投与するための微量元素を配合した輸液製剤の提供。
【解決手段】 連通可能に仕切られた複数の室を有する輸液用容器の第1室に糖溶液を収容し、第2室にアミノ酸溶液を収容し、第1室中の糖溶液及び第2室中のアミノ酸溶液の一方又は両方が亜鉛を含有し、前記糖溶液及びアミノ酸溶液のうちの亜鉛を含有する溶液がマンガン及び/又は銅を含有し、前記糖溶液及びアミノ酸溶液のうちの亜鉛、マンガン及び銅のいずれも含有しない溶液がヨウ素を含有するか、或いは第3室中の溶液にヨウ素を含有させ、且つ複数の室の溶液のいずれもが鉄を含有していない輸液製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄を含有せず、亜鉛とマンガンおよび/または銅並びにヨウ素を含有する微量元素配合輸液製剤に関する。より詳細には、本発明は、鉄を含有せず、亜鉛とマンガンおよび/または銅並びにヨウ素を含有する微量元素配合輸液製剤に係るものであって、薬液を収容している室の数が少なくて構造が簡単であり、高温加熱時の安定性、保存安定性に優れ、本発明の輸液製剤を、高カロリー輸液療法を施す際の輸液として貯蔵鉄量が増加していて鉄過剰症を起こしている患者や鉄過剰症を起こす恐れのある患者に対して投与することで、必須微量元素であるマンガン、亜鉛、銅、ヨウ素が不足することに由来する各種欠乏症状を防止するとともに、鉄の過剰摂取に伴う副作用の発生を抑制することができる。
【背景技術】
【0002】
経口・経腸管栄養補給が不能または不十分な患者には、経静脈からの高カロリー輸液の投与が行われている。このときに使用される輸液製剤としては、糖製剤、アミノ酸製剤、電解質製剤、混合ビタミン製剤、脂肪乳剤などが市販されており、病態などに応じて用時に病院で適宜混合して使用されていた。しかし、病院におけるこのような混注操作は煩雑なうえに、かかる混合操作時に細菌汚染の可能性が高く不衛生であるという問題がある。このため連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液用容器のそれぞれの室に薬液を分離して収容した輸液製剤が開発され病院で使用されるようになった。
【0003】
一方、輸液中には、通常、微量金属元素(鉄、銅、亜鉛、マンガン、ヨウ素など)が含まれていないことから輸液の投与が長期になると、患者の唇がひび割れたり、造血機能が低下したりする、いわゆる微量金属元素欠乏症を発症する。微量金属元素は輸液と混合した状態で保存すると、化学反応によって品質劣化の原因となる。このため病院では、細菌汚染の問題をかかえながらも依然として輸液を投与する直前に注射器を用いて微量金属元素製剤を輸液に混合しているのが現状である。
【0004】
本発明者らは、かかる現状に鑑み、微量金属元素を一室に配合した輸液製剤の研究を開始した。しかしながら酸素の非存在下において、ビタミンやヨウ素を配合した溶液(薬液)に微量金属元素を配合して微量金属元素(特に銅イオン)とヨウ素を同じ室に存在させると、微量金属元素(特に銅イオン)とヨウ素イオンが反応し、ヨウ化銅(I)の沈殿を生ずることが知られている(特許文献1)。かかる点から、酸素透過性を有する容器に輸液製剤を充填し、それを脱酸素剤とともに酸素非透過性外装材で包装した輸液製剤の包装体では、ヨウ素と微量金属元素(特に銅)とを互いに隔離して収容しなければならない。
【0005】
上記した問題を解決するために、本発明者らは研究を重ねてきた。そして、銅などの微量金属元素を含有する溶液とヨウ素を含有する溶液を、互いに連通可能な複数の室を有する容器のそれぞれの室に分離して収容し、用時に複数の室を連通化して複数の室に収容されている前記溶液を混合する方式の輸液入り容器とすることによって前記課題を解決し、特許出願した(特願2009−225448)。
しかし、この輸液入り容器は、糖含有溶液、アミノ酸含有溶液、ヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液および銅含有溶液をそれぞれ別の室に収納するものであるため、4つ以上の室を有しており、輸液入り容器の構成が複雑になるという難点がある。
【0006】
ところで、糖質、アミノ酸、塩化ナトリウム、グルコン酸カルシウム、硫酸マグネシウム、リン酸二水素カリウムなどの電解質、ビタミン類などを配合した高カロリー輸液製剤を、経口・経腸管栄養補給が不能または不十分な患者に経静脈からの投与する経静脈高カロリー輸液療法で用いられる微量元素製剤としては、鉄、マンガン、亜鉛、銅、ヨウ素、セレン、モリブデン、クロムなどが挙げられ、そのうちでも、鉄、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素の5種類の微量元素製剤が広く投与されている。
【0007】
上記した微量元素のうち、鉄は、赤血球中のヘモグロビンの成分として利用され、全身への酸素の運搬に機能しているが、その他にも全身の細胞の分裂や増殖、様々な代謝などにも不可欠の成分である。
鉄が不足すると、貧血(鉄欠乏症貧血)、運動機能や認知機能の低下、動悸、息切れ、めまい、集中力の低下、神経過敏、口内炎、肩や首筋のこり、食欲不審、慢性胃炎、爪の変型、便秘、下痢、冷え性などが生じ易くなり、また感染症にかかり易くなり、妊婦は未熟児を出産する場合があり、幼児は言語や運動能力の発達が遅れることがある。
その一方で、生体内で鉄が過剰になると、細胞に対して毒性を示してしまうため、生体内には鉄代謝の精巧な制御機構が働いている。例えば、大部分の鉄はヘモグロビンの構成成分として骨髄での赤血球造血に利用されるが、産生された赤血球は、約120日の寿命を迎えると網内系にて破壊され、ヘモグロビンから回収された鉄は再利用される。生体には鉄を積極的に排泄する機構は存在せず、消化管上皮細胞の脱落などによって鉄が僅かに喪失されるに過ぎない。鉄の喪失量は、成人で通常約1mg/日と少なく、これと同じ量が消化管から吸収されるしくみになっている。
【0008】
このように生体には、鉄についての半閉鎖的回路が構築され、鉄の吸収量が消化管で厳密に制御されているため、体内での鉄貯蔵量が過剰になっていることがあり、微量元素製剤として非経口的に鉄を補給する場合は注意を要する。
特に、慢性感染症、膠原病などの慢性炎症性疾患や悪性腫瘍などの慢性疾患が原因で起こる二次性貧血(ACD:Anemia of Chromic Disease)では、網内系からの鉄の放出が抑制されて鉄の利用が阻害されて貧血となっているため、貧血状態を示しているにも拘わらず体内での貯蔵鉄量が増加していることがあり、経静脈高カロリー輸液療法を長期にわたって行っている二次性貧血の患者にそのような兆候が度々みられる。
体内での貯蔵鉄量が増加している二次性貧血の患者に鉄を非経口的に補給すると、鉄過剰を招くことになる。体内での鉄の過剰蓄積は、肝硬変、糖尿病、青銅肌などの発症の原因となり、悪化すると心不全に至るケースもあり、また鉄過剰症は、酸素分子や過酸化水素分子と反応して活性酸素種発生の原因となることが知られている。
【0009】
血清フェリチンは組織のフェリチンが一部血中に流れ出たものであり、組織、ことに網内系の貯蔵鉄量を反映する。慢性炎症や悪性腫瘍が存在すると、炎症性のサイトカインが過剰に生産され、この影響により、網内系の細胞を中心に鉄が蓄積し、貯蔵鉄量が増加し、このとき、総鉄結合能(TIBC)および血清鉄は基準値以下を示す。経静脈高カロリー輸液療法を長期にわたって行っている二次性貧血の患者に総鉄結合能(TIBC)および血清鉄が基準値以下を示す鉄過剰の兆候が度々みられるが、そのような患者に対しては、鉄の過剰給与を回避しながら、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素などの他の微量元素を補給することが必要である。
しかしながら、鉄過剰症のリスクに対しては解決策が示されておらず、鉄の補給を回避しつつ他の微量元素を補給でき、しかも安定性にも優れた微量元素配合輸液製剤が存在しないことが臨床上の課題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−158061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、体内での鉄貯蔵量が過剰な患者または鉄貯蔵量が過剰になる恐れのある患者に対して、鉄の過剰給与を防ぎながら、亜鉛と、マンガンおよび銅のうちの少なくとも一方と、ヨウ素を安全に継続して給与することのできる、鉄を含有せず、亜鉛と、マンガンおよび銅のうちの少なくとも一方と、ヨウ素を含む、高カロリー輸液製剤を提供することである。
本発明の目的は、高圧蒸気滅菌を施しても、更に長期間保存しても、亜鉛とマンガンおよび銅の少なくとも一方と、ヨウ素との間の反応に伴う凝集や沈殿などが生じず、亜鉛と、マンガンおよび銅の少なくとも一方と、ヨウ素とが安定した状態で含有されている、亜鉛と、マンガンおよび銅の少なくとも一方と、ヨウ素を含有し、鉄を含有しない容器入りの高カロリー輸液製剤を提供することである。
本発明の目的は、溶液を収容する室の数が少なくて構造が簡単な、鉄を含有せず、亜鉛、マンガン、銅からなる微量金属元素とヨウ素を含有する、容器入りの高カロリー輸液製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねてきた。その結果、連通可能に仕切られた複数の室を有する容器を用いた輸液製剤において、その第1室中に糖溶液を収容し、第2室中にアミノ酸溶液を収容し、第1室中の糖溶液および第2室中のアミノ酸溶液の一方または両方に亜鉛を含有させ、糖溶液およびアミノ酸溶液のうちの亜鉛を含有している溶液にマンガンおよび銅の少なくとも一方を更に含有させ、第1室中の糖溶液および第2室中のアミノ酸溶液うちの亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有していない方の溶液または第3室中の溶液(亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有していない溶液)にヨウ素を含有させ、且つ複数の室に収容された前記複数の溶液のいずれにも鉄を含有させないようにすると、上記した従来の容器入り輸液製剤よりも薬液を収容する室の数が少なくて構成が簡単になることを見出した、
【0013】
そして、本発明者らは、この容器入りの輸液製剤を、鉄貯蔵量の増加した患者や鉄過剰症を引き起こす恐れのある患者に継続して投与することで、鉄過剰症の発症を防ぎながら、亜鉛、マンガン、銅、ヨウ素などの微量元素を安定的に補給できることを見出した。
さらに、本発明者らは、いずれの溶液(室)にも鉄を含有させず、しかもヨウ素と、亜鉛、マンガンおよび銅を別々の容器(室)中に含有させるようにした前記した容器入りの輸液製剤は、高温で加圧蒸気滅菌しても、また室温などで長期間保存しても、内容物の変質、分解、沈殿などが生じず安定であること、しかも輸液療法を行なうたびごとに微量元素製剤を別途準備して輸液製剤に混合するという手間がかからず、この容器入り輸液製剤を患者に投与するだけで、患者に高カロリーの栄養輸液と微量元素を同時に補給できることを見出し、それらの種々の知見に基づいて本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明は、
(1) 連通可能に仕切られた複数の室を有する輸液用容器のそれぞれの室に、複数の溶液を互いに分離して収容した輸液製剤であって、
(a)第1室に糖溶液を収容し、第2室にアミノ酸溶液を収容し;
(b)第1室中の糖溶液および第2室中のアミノ酸溶液のいずれか一方または両方が、亜鉛を含有し;
(c)第1室中の糖溶液および第2室中のアミノ酸溶液のうちの、亜鉛を含有している溶液が、マンガンおよび銅のいずれか一方または両方を更に含有し;
(d)第1室中の糖溶液および第2室中のアミノ酸溶液のうちの、亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有していない方の溶液がヨウ素を含有するか、または第3室中の亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有しない溶液がヨウ素を含有しており;且つ、
(e)複数の室に互いに分離して収容した複数の溶液のいずれもが、鉄を含有していない;
ことを特徴とする輸液製剤である。
【0015】
そして、本発明は、
(2)《1》第1室中の糖溶液が亜鉛と、マンガンおよび銅の一方または両方を含有し、第2室中のアミノ酸溶液がヨウ素を含有しているか;
《2》第1室中の糖溶液がヨウ素を含有し、第2室中のアミノ酸溶液が亜鉛と、マンガンおよび銅の一方または両方を含有しているか;
《3》第1室中の糖溶液が亜鉛と、マンガンおよび銅の一方または両方を含有し、第3室中の亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有しない溶液がヨウ素を含有しているか;
《4》第2室中のアミノ酸溶液が亜鉛と、マンガンおよび銅の一方または両方を含有し、第3室中の亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有しない溶液がヨウ素を含有しているか;或いは、
《5》第1室中の糖溶液が亜鉛と、マンガンおよび銅の一方または両方を含有し、第2室中のアミノ酸溶液も亜鉛と、マンガンおよび銅の一方または両方を含有し、第3室中の亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有しない溶液がヨウ素を含有している;
ことを特徴とする前記(1)の輸液製剤;
(3) 第1室中の糖溶液が亜鉛、マンガンおよび銅を含有し、第2室中のアミノ酸溶液がヨウ素を含有している前記(1)または(2)の輸液製剤;
(4) 第1室中の糖溶液が亜鉛、マンガンおよび銅を含有し、第3室中の亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有しない溶液がヨウ素を含有している前記(1)または(2)の輸液製剤;および、
(5) 第1室中の糖溶液、第2室中のアミノ酸溶液および第3室中の溶液のうちのいずれか1つまたは2つ以上がビタミンを含有している前記(1)〜(4)のいずれかの輸液製剤;
である。
【0016】
さらに、本発明は、
(6) 貯蔵鉄量の増加を回避する必要のある、経口および経腸による栄養補給が不能で高カロリー静脈栄養に頼らざるを得ない患者用である前記(1)〜(5)のいずれかの輸液製剤;
(7) 血清フェリチン濃度が250ng/mL以上の患者に投与するためのものである前記(1)〜(6)のいずれかの輸液製剤;および、
(8) 総鉄結合能(TIBC)が250μg/dL以下で且つ血清鉄濃度が40μg/dL以下である二次性貧血の患者に投与するためのものである前記(6)または(7)の輸液製剤;
である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の輸液製剤を、鉄貯蔵量の増加した患者や鉄過剰症を引き起こす恐れのある患者に継続して投与することで、鉄過剰症の発症を防ぎながら、患者への高カロリー輸液の投与(栄養補給)と亜鉛、マンガン、銅、ヨウ素などの微量元素の補給を同時に行うことができる。
本発明の輸液製剤は、従来のものよりも薬液を収容する室の数が少なくてすみ構成が簡単である。
本発明の輸液製剤では、ヨウ素と、亜鉛、マンガンおよび銅などの微量金属元素とが互いに分離された別々の溶液(室)に含有されているため、輸液製剤の製造時、高圧蒸気滅菌処理時、保存時、流通時などに、亜鉛、マンガンおよび/または銅とヨウ素との反応(特に銅とヨウ素との反応)による水不溶性物質の生成、凝集、沈殿、変質などが生じず、亜鉛、マンガン、銅およびヨウ素を、各成分を含有しているそれぞれの溶液(薬液)中に安定に存在させることができ、加熱安定性、長期保存安定性などに極めて優れている。
本発明の輸液製剤は、糖溶液およびアミノ酸溶液と共に、亜鉛、マンガン、銅、ヨウ素などの微量元素を含有しているので、輸液製剤を患者に投与する際に、微量元素製剤を別途準備したり調達したりする必要がなく、本発明の輸液製剤を患者に投与するだけで、高カロリーの栄養輸液の投与と同時に微量元素を患者に補給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、連通可能に仕切られた複数の室を有する容器に、複数の溶液(薬液)を互いに分離して収容してなる本発明の輸液製剤の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明は、連通可能に仕切られた複数の室を有する前記した輸液用容器において、当該複数の室の第1室に糖溶液を収容し、第2室にアミノ酸溶液を収容し[上記の要件(a)];第1室中の糖溶液および第2室中のアミノ酸溶液のいずれか一方または両方が、亜鉛を含有し[上記の要件(b)];第1室中の糖溶液および第2室中のアミノ酸溶液のうちの、亜鉛を含有している溶液が、マンガンおよび銅のいずれか一方または両方を更に含有し[上記の要件(c)];第1室中の糖溶液および第2室中のアミノ酸溶液のうちの、亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有していない方の溶液がヨウ素を含有しているか、または第3室中の亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有しない溶液がヨウ素を含有し[上記の要件(d)];且つ(e)輸液用容器の複数の室に互いに分離して収容した複数の溶液のいずれもが鉄を含有していないこと[上記の要件(d)]を要件とする輸液製剤である。
【0020】
本発明の輸液製剤の態様としては、
《1》 第1室中の糖溶液が亜鉛と、マンガンおよび銅の一方または両方を含有し、第2室中のアミノ酸溶液がヨウ素を含有している態様;
《2》 第1室中の糖溶液がヨウ素を含有し、第2室中のアミノ酸溶液が亜鉛と、マンガンおよび銅の一方または両方を含有している態様;
《3》 第1室中の糖溶液が亜鉛と、マンガンおよび銅の一方または両方を含有し、第3室中の亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有しない溶液がヨウ素を含有している態様;
《4》 第2室中のアミノ酸溶液が亜鉛と、マンガンおよび銅の一方または両方を含有し、第3室中の亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有しない溶液がヨウ素を含有している態様;
《5》 第1室中の糖溶液が亜鉛と、マンガンおよび銅の一方または両方を含有し、第2室中のアミノ酸溶液も亜鉛とマンガンおよび銅の一方または両方を含有し、第3室中の亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有しない溶液がヨウ素を含有している態様;
などを挙げることができる。
本発明では、上記した《1》〜《5》のいずれの態様においても、第1室、第2室および第3室中の溶液のいずれもが鉄を含有していない。
【0021】
限定されるものではないが、本発明の輸液製剤のより具体的な態様としては、例えば、
(i)2室型の輸液用容器を用いて、第1室中の糖溶液に亜鉛と共にマンガンおよび銅の一方または両方を含有させ、第2室中のアミノ酸溶液にヨウ素を含有させる態様;
(ii)2室型の輸液用容器を用いて、第1室中の糖溶液にヨウ素を含有させ、第2室中のアミノ酸溶液に亜鉛と共にマンガンおよび銅の一方または両方を含有させる態様;
(iii)3室型の輸液用容器を用いて、第1室中の糖溶液に亜鉛と共にマンガンおよび銅の一方または両方を含有させ、第2室中のアミノ酸溶液にヨウ素を含有させ、第3室にビタミン類含有溶液などを収容する態様;
(iv)3室型の輸液用容器を用いて、第1室中の糖溶液にヨウ素を含有させ、第2室中のアミノ酸溶液に亜鉛と共にマンガンおよび銅の一方または両方を含有させ、第3室にビタミン類含有溶液などを収容する態様;
(v)3室型の輸液用容器を用いて、第1室中の糖溶液に亜鉛と共にマンガンおよび銅の一方または両方を含有させ、第2室にアミノ酸溶液を収容し、第3室中の亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有しない溶液(ビタミン類含有溶液など)にヨウ素を含有させる態様;
(vi)3室型の輸液用容器を用いて、第1室に糖溶液を収容し、第2室中のアミノ酸溶液に亜鉛と共にマンガンおよび銅の一方または両方を含有させ、第3室中の亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有しない溶液(ビタミン類含有溶液など)にヨウ素を含有させる態様;
(vii)3室型の輸液用容器を用いて、第1室中の糖溶液に亜鉛と共にマンガンおよび銅の一方または両方を含有させ、第2室中のアミノ酸溶液にも亜鉛と共にマンガンおよび銅の一方または両方を含有させ、第3室中の亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有しない溶液(ビタミン類含有溶液など)にヨウ素を含有させてなる態様;
などを挙げることができる。
【0022】
本発明では、上記(i)〜(vii)の態様のいずれにおいても、第1室、第2室および第3室のいずれにも、鉄を含有させないことが必要である。
本発明の輸液製剤では、例えば上記《1》〜《5》の態様、より具体的には上記(i)〜(vii)の態様にみるように、ヨウ素と、亜鉛、マンガンおよび銅などの微量金属元素とを、互いに分離された別々の溶液(室)に含有(存在)させているため、輸液製剤の製造時、高圧蒸気滅菌処理時、保存時、流通時などに、亜鉛、マンガンおよび/または銅とヨウ素との反応(特に銅とヨウ素との反応)がなく、それによって水不溶性物質の生成、凝集、沈殿、変質などが生じず、亜鉛、マンガン、銅およびヨウ素を、それらを含有させたそれぞれの溶液(薬液)中に安定に存在させることができ、輸液製剤全体としての加熱安定性、長期保存安定性などに優れている。
また、糖溶液を収容した室およびアミノ酸溶液を収容した室とは別の室にヨウ素を含有する液を収容し、更に微量金属元素(亜鉛とマンガンおよび/または銅)を含有する液を更に別の室に収容する従来の輸液製剤では輸液用容器は最低でも4つの室を有している必要があるが、本発明の輸液製剤では、第1室中の糖溶液および第2室中のアミノ酸溶液のいずれか一方にヨウ素を含有させ、もう一方の溶液に微量金属元素(亜鉛とマンガンおよび/または銅)を含有させるか、第1室中の糖溶液および第2室中のアミノ酸溶液のいずれか一方にヨウ素または微量金属元素(亜鉛とマンガンおよび/または銅)を含有させ、第3室中に微量金属元素(亜鉛とマンガンおよび/または銅)またはヨウ素を含有させているため、輸液用容器における室の数を上記した従来のものよりも1個または2個減らすことができ、従来のものよりも薬液(溶液)を収容する室の数が少なくてすみ、輸液製剤(輸液入り容器)の構成が簡単になる。
本発明では、上記した(i)〜(vii)の態様のうちでも、第1室中の糖溶液に亜鉛と共にマンガンおよび銅の一方または両方を含有させ、第2室中のアミノ酸溶液または第3室中の溶液(ビタミン類含有液など)にヨウ素を含有させる上記した(i)、(iii)または(v)の態様が、安定な製剤の製造の容易性の点から好ましく採用される。
【0023】
本発明の輸液製剤に用いる連通可能に仕切られた複数の室を有する輸液用容器としては、特に限定されず、公知のものを用いることができる。
具体的には、例えば、複数の室が弱シール部により連通可能に区画され、輸液用容器の一室を外部より押圧することにより弱シール部のシール解除が生じて当該一つの室が隣接する他の室と連通、さらに当該他の室に隣接する室とも連通する輸液用容器が好適な例として挙げられる。また、輸液用容器を複数の室に区画する隔壁に破断可能な流路閉塞体が設けられている構造のものなども挙げられる。さらに、弱シール部により連通可能に区画された複数の室を有する輸液用容器の本体(輸液バッグなど)の一部に別の薬液容器(例えば筒状容器など)を用事連通可能に取り付けた輸液用容器などを用いることもできる。
【0024】
前記輸液用容器における容器の材質は特に制限されないが、容器本体を、ある程度の耐熱性のある可撓性のプラスチックおよび/またはエラストマーから形成することが好ましい。容器本体の形成に用いるプラスチックおよび/またはエラストマーの例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、エチレン−プロピレン共重合体などのエチレン−αオレフィン共重合体、プロピレン−αオレフィン共重合体、ポリプロピレンとポリエチレンおよび/またはポリブテンとの混合物などのようなポリオレフィン類或いはそれらの部分架橋物;エチレン−酢酸ビニル共重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル;軟質塩化ビニル樹脂などを挙げることができる。好ましくは、ポリエチレン、ポリプロピレンあるいは環状ポリオレフィンなどのポリオレフィン系樹脂を主成分とし必要に応じて各種エラストマーなどを添加することにより軟質化した樹脂組成物が使用される。
また、容器本体は、前記したプラスチックおよび/またはエラストマーの1種よりなる単層構造であってもよいし、前記したポリマーからなる複数のポリマー層を有する積層構造であってもよいし、或いはそれらに更にポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンなどのガスバリア性の層を積層したものであってもよい。
【0025】
本発明の輸液製剤に用いる輸液用容器の形状および構造としては、例えば、隔壁によって仕切られた2室からなるもの、隔壁によって仕切られた3室からなるもの、隔壁によって仕切られた4室以上などからなるもの、隔壁によって2室または3室に仕切られた容器本体に別の薬液容器(例えば筒状容器など)を用事連通可能に取り付けたものなどを挙げることができ、必要最小限の室数を有し、容器の複数の室に収容されている複数の溶液を用事に容器内で混合でき、混合して得られる輸液を容器外に取り出すための取出口を有するものであればいずれでもよい。その際に、容器本体を、各室間の仕切部の全体または一部が弱シール部を形成してなるバッグ状の構造とすることが好ましい。
【0026】
本発明の輸液製剤(輸液入りの容器)に用いる輸液用容器は特に限定されるものではないが、代表例としては、例えば図1に示すものを挙げることができる。
図1において、Aは輸液用容器、1は輸液用容器の各室に溶液(薬液)を収容して得られる輸液製剤(輸液入り容器)を懸垂するための懸垂孔、2aおよび2bは弱シール性の隔壁を示す。
図1の輸液入り容器は、隔壁2aおよび2bによって3室(3a,3b,3c)に区画されているが、4室以上に区画されていてもよい。
弱シール性の隔壁で区画された輸液用容器の各室に溶液(薬液)を収容して得られる輸液製剤(輸液入りの容器)では、溶液(薬液)を充填してある容器のいずれかの室に対して外部から押圧などの応力をかけることによって、隔壁を形成している弱シール部でシールが解除して各室間の連通がなされて、輸液用容器の各室に収容されている複数の溶液(薬液)を容器内で簡単に且つ衛生的に混合することができる。
容器内で混合した混合液(輸液)は、図1の下端の取出口4から取り出されて、例えば患者への注入のための輸液セットなどへと導かれる。
【0027】
本発明の輸液製剤(輸液入り容器)における混合後の輸液(薬液)の取出口4の形状および材質は特に制限されず、輸液入り容器において従来から採用されている構造および材質とすることができ、何ら制限されるものではない。例えば、取出口4をポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリスチレンなどの半硬質材料からなる筒状部材から形成し、該筒状部材内またはその端部に針刺可能な弾性材料[例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、シリコーンゴムのような各種ゴム材料(特に加硫したもの);ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、オレフィン系、スチレン系などの各種熱可塑性エラストマー;それらの混合物など]からなる密封部材を配置した構造などとすることができる。
また、本発明の輸液製剤(輸液入り容器)における前記した弱シール部2は、輸液バッグなどにおいて弱シール部(イージーピール部)の形成に従来から採用されているいずれの方式によって形成してもよく、例えば強シールが必要とされるバッグ周縁よりも弱めに弱シール部形成領域をヒートシールする方法、シート内面の弱シール部形成領域をバッグ周縁に比べて剥離し易い(イージーピール性)材料から形成する方法などを採用することができる。
【0028】
本発明の輸液製剤が、例えば、図1に示すような3室に区画された室を有する輸液用容器を用いたものである場合は、3つの室(3a,3b,3c)のうちの1つの室(第1室)(通常は容量の大きな3aまたは3b、特に1番容量の大きな3a)に糖液を収容し、別のもう1つの室(第2室)(通常は容量の大きな3aまたは3b、特に2番目に容量の大きな3b)にアミノ酸溶液を収容し、3つの室(3a,3b,3c)のうちの残りの1つの室(第3室)(通常は容量の一番小さな3c)に糖溶液およびアミノ酸溶液以外の溶液(例えばビタミン類含有液など)を収容した形態などにすることができる。
図1では、1つの輸液バッグを、弱シール性の隔壁2aで上下に区画し、上方の室を弱シール性の隔壁2bで更に3bと3cの室に区画してあるが、第1室、第2室および第3室の位置関係、すなわち糖液を収容した室、アミノ酸溶液を収容した室、ビタミンなどのその他の溶液を収容した第3室の位置関係(上下や左右の位置関係など)は特に制限されず、各々の状況に応じて適宜決めることができる。
さらに、本発明の輸液製剤(容器入り輸液)の形状および構造が図1に示す3室に区画されたものに限定されないことは上記したとおりである。
【0029】
本発明の輸液製剤は、微量金属元素として、亜鉛と、マンガンおよび銅の一方または両方と、ヨウ素を少なくとも含有し、鉄を含有しないことが必要である。本発明の輸液製剤では、マンガンおよび銅については、一方のみを含有してもよいが、マンガンと銅の両方を含有することが好ましい。
【0030】
本発明の輸液製剤が必須成分として含有する亜鉛は、体内の様々の酵素の補因子として、糖質や脂質の代謝の促進、骨格の形成の促進、創傷治癒促進、抗酸化作用、細胞分裂の促進などに関与する。亜鉛が不足すると、皮疹、口内炎、舌炎、脱毛、爪変形、下痢、発熱、味覚・嗅覚障害、食欲不振、小児の成長遅延、嗜眠、創傷治癒の遅延などが生じ易くなり、重症化するとうつ状態などの精神異常、免疫能の低下による感染症の反復などが起きることがある。
【0031】
本発明の輸液製剤で用いるマンガンは、体内の様々の酵素の補因子として、糖質や脂質の代謝の促進、骨格の形成の促進、生殖能、免疫能、抗酸化作用などに大きく関わり、また酵素の活性化を促す作用がある。マンガンが不足すると、発育障害、エネルギー代謝の異常、血液凝固能の低下、毛髪の赤色化、糖尿病などを引き起こすことがある。
【0032】
本発明の輸液製剤で用いる銅は、ヘモグロビンと鉄を結びつける働きがあり、造血機能、骨代謝、結合織代謝、抗酸化作用、神経機能、色素調節機能があるとされている。銅が不足すると、貧血、白血球の現象、骨粗そう症などが生じ易くなる。
【0033】
また、本発明の輸液製剤が必須成分として含有するヨウ素は、甲状腺の中に入っており、甲状腺ホルモンは神経細胞のナトリウム濃度のバランスを調整し、代謝を促す。ヨウ素が欠乏すると、甲状腺腫や甲状腺機能低下症などが起こり、精神活動の鈍化、疲労、低血圧、子供では体や知能の発育の遅れ、妊娠時の流産や死産の危険性、発育障害、エネルギー代謝の異常、血液凝固能の低下、毛髪の赤色化、糖尿病などを引き起こすことがある。
【0034】
亜鉛の供給源としては、例えば塩化亜鉛、硫酸亜鉛などが挙げられる。
本発明の輸液製剤では、輸液製剤における複数の室に収容されている溶液(薬液)の全てを混合した混合液(輸液)中に、亜鉛(元素状亜鉛として)が約2〜300μmol/L、好ましくは約5〜150μmol/Lの量で含まれるように配合することが好ましい。
マンガンの供給源としては、例えば塩化マンガン、硫酸マンガンなどが挙げられる。
本発明の輸液製剤では、輸液製剤における複数の室に収容されている溶液(薬液)の全てを混合した混合液(輸液)中に、マンガン(元素状マンガンとして)、約0〜10μmol/L、好ましくは約0.1〜5μmol/Lの量で含まれるように配合することが好ましい。
銅の供給源としては、例えば硫酸銅などが挙げられる。
本発明の輸液製剤では、輸液製剤における複数の室に収容されている溶液(薬液)の全てを混合した混合液(輸液)中に、銅(元素状銅として)が約0〜40μmol/L、好ましくは約0.5〜20μmol/Lの量で含まれるように配合することが好ましい。
ヨウ素の供給源としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムなどが挙げられる。
本発明の輸液製剤では、輸液製剤における複数の室に収容されている溶液(薬液)の全てを混合した混合液(輸液)中に、ヨウ素(元素状ヨウ素として)約0.1〜10μmol/L、好ましくは約0.1〜5μmol/Lの量で含まれるように配合することが好ましい。
本発明の輸液製剤は、微量金属元素として、亜鉛、マンガン、銅、ヨウ素以外の他の微量っ元素(例えば、セレン、モリブデン、クロム、フッ素、コバルトなど)を含有させてもよいが、他の微量金属元素を含有させる場合にも、亜鉛、マンガンおよび銅と同様に、ヨウ素を含有しない溶液中に含有させることが好ましい。
【0035】
本発明の輸液製剤の第1室に収容する糖溶液は、糖として、ブドウ糖、フルクトース、マルトース、キシリトール、ソルビトール、グリセリンなどの1種または2種以上を含有することができる。前記した糖のうち、血糖管理の面などの点からブドウ糖を用いることが好ましい。糖溶液における糖の含有量は、投与経路などの使用目的に応じて適宜決めることができるが、本発明の輸液製剤における複数の室に分離して収容されている全ての溶液を混合した後の混合液(輸液)中の糖濃度が3〜30w/v%、特に7.5〜25w/v%となる量であることがより好ましい。
【0036】
本発明の輸液製剤の第1室に収容する糖溶液は、必要に応じてpH調節剤を用いて、pH4.0〜5.5、好ましくはpH4.0〜5.0に調節する。糖溶液のpHが前記範囲であることによって、糖溶液中に含まれる各種成分の凝集、沈殿、変質などを防ぐことができる。
糖溶液のpH調節剤は、医薬品添加物として使用できるものであれば制限を受けない。当該pH調節剤としては、例えば、クエン酸、酢酸、酒石酸、炭酸、乳酸、フマル酸、プロピオン酸、ホウ酸、リン酸、硫酸およびそれらの化合物やアジピン酸、塩酸、グルコン酸、コハク酸、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、マレイン酸、リンゴ酸などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0037】
本発明の輸液製剤の第2室に収容するアミノ酸溶液は、アミノ酸として、従来から生体への栄養補給を目的とするアミノ酸輸液に含有されている各種アミノ酸(必須アミノ酸、非必須アミノ酸)を含有するようにすればよい第2室に収容するアミノ酸溶液に用いるアミノ酸として、例えば、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−バリン、L−リジン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−トレオニン、L−トリプトファン、L−アルギニン、L−ヒスチジン、グリシン、L−アラニン、L−プロリン、L−アスパラギン酸、L−セリン、L−チロシン、L−グルタミン酸、L−システイン、L−シスチンなどを挙げることができる。これらのアミノ酸は、必ずしも遊離アミノ酸の形態で用いられる必要はなく、無機酸塩(例えば、L−リジン亜硫酸塩、L−リジン塩酸塩、L−システイン塩酸塩(1水和物)など)、有機酸塩(例えば、L−システインリンゴ酸塩、L−リジン酢酸塩、L−リジンリンゴ酸塩など)、生体内で加水分解可能なエステル体(例えば、L−チロシンメチルエステル、L−メチオニンメチルエステル、L−メチオニンエチルエステルなど)、N−置換体(例えば、N−アセチル−L−トリプトファン、N−アセチル−L−システイン、N−アセチル−L−プロリンなど)などの形態で用いてもよい。また、同種または異種のアミノ酸をペプチド結合させたジペプチド類(例えば、L−チロシル−L−チロシン、L−アラニル−L−チロシン、L−アルギニル−L−チロシン、L−チロシル−L−アルギニンなど)などの形態で用いてもよい。
アミノ酸溶液におけるアミノ酸の含有量は、投与経路などの使用目的に応じて適宜決定できるが、本発明の輸液製剤における複数の室に分離して収容されている全ての溶液を混合した後の混合液(輸液)中のアミノ酸濃度が1〜10w/v%となる量であることが好ましく、1〜6w/v%となる量であることがより好ましい。
【0038】
第2室に収容するアミノ酸溶液は、必要に応じてpH調節剤を使用して、pH6.0〜8.5、好ましくはpH6.0〜7.5に調節する。アミノ酸溶液のpHが前記範囲であることによって、アミノ酸溶液中に含まれる各種成分の凝集、沈殿、変質などを防ぐことができる。
アミノ酸溶液のpH調節剤は、医薬品添加物として使用できるものであれば制限を受けない。当該pH調節剤としては、例えば、クエン酸、酢酸、酒石酸、炭酸、乳酸、フマル酸、プロピオン酸、ホウ酸、リン酸、硫酸およびそれらの化合物やアジピン酸、塩酸、グルコン酸、コハク酸、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、マレイン酸、リンゴ酸などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
また、アミノ酸溶液には、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムなどの亜硫酸塩を安定化剤として添加してもよい。
【0039】
第1室中の糖溶液および/または第2室中のアミノ酸溶液は、電解質を含有することができ、電解質としては、一般の電解質輸液などに用いられる化合物と同様のものを使用でき、生体に必須の電解質であるナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、クロル、リンなどを挙げることができる。電解質の具体例としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化カリウム、ヨウ化カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、乳酸カリウム、クエン酸カリウム、酢酸カリウム、乳酸カルシウム、グリセロリン酸ナトリウム、グリセロリン酸カリウム、グリセロリン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、これらの水和物などを挙げることができ、こられの1種または2種以上を含有することができる。
なお、カルシウム塩とリン酸塩の電解質を配合するにあたっては、液のpHが高いと両塩による沈殿を生じることがあるために、両塩をpHの低い糖液に配合するか、それぞれ分離して配合することが好ましく、例えば、カルシウム塩を糖液に配合した場合はリン酸塩をアミノ酸液に配合し、リン酸塩を糖液に配合した場合はカルシウム塩をアミノ酸液に配合することが好ましい。さらに、マグネシウム塩もリン酸塩との沈殿形成することがあるので、カルシウム塩と同様にマグネシウム塩とリン酸塩を分離して配合することが好ましい。カルシウム塩とマグネシウム塩を配合する場合は、カルシウム塩とマグネシウム塩を同じ液に配合し、リン酸塩を別の液に配合することが好ましい。
【0040】
本発明の輸液製剤では、上記した成分と共に、必要に応じてビタミンを用いることができる。本発明の輸液製剤で用い得るビタミンとしては、例えば、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ビタミンB1、ビタミンB2、葉酸、ビオチン、ビタミンC、ビタミンB12、パントテン酸類、ビタミンB6、ニコチン酸類またはビタミンHなどを挙げることができる。
より具体的には、ビタミンAとしては、例えば、パルミチン酸エステル、酢酸エステルなどのエステル形態を挙げることができる。ビタミンDとしては、例えば、ビタミンD1、ビタミンD2、ビタミンD3(コレカルシフェロール)およびそれらの活性型(ヒドロキシ誘導体)を挙げることができる。ビタミンE(トコフェロール)としては、例えば、酢酸エステル、コハク酸エステルなどのエステル形態を挙げることができる。ビタミンK(フィトナジオン)としては、例えば、フィトナジオン、メナテトレノン、メナジオンなどの誘導体を挙げることができる。ビタミンB1としては、例えば、塩酸チアミン、プロスルチアミンまたはオクトチアミンなどを挙げることができる。ビタミンB2としては、例えば、リン酸エステル、そのナトリウム塩、フラビンモノヌクレオチドまたはフラビンアデニンジヌクレオチドなどを挙げることができる。ビタミンCとしては、例えば、アスコルビン酸またはアスコルビン酸ナトリウムなどを挙げることができる。パントテン酸類としては、遊離体に加え、カルシウム塩や還元体であるパンテノールの形態などを挙げることができる。ビタミンB6としては、例えば、塩酸ピリドキシンなどの塩の形態などを挙げることができる。ニコチン酸類としては、例えば、ニコチン酸またはニコチン酸アミドなどを挙げることができる。ビタミンB12としては、例えば、シアノコバラミンなどを挙げることができる。
【0041】
上記したビタミンは、糖溶液およびアミノ酸溶液の安定性を阻害しない場合には、第1室中の糖溶液および第2室中のアミノ酸溶液のいずれか一方または両方に配合してもよいし、第1室および第2室とは別の第3室にビタミン含有液を収容してもよいし、或いは第1室中の糖溶液および第2室中のアミノ酸溶液の一方または両方に上記したビタミン類のうちの適当なものを配合すると共に、第3室にビタミン含有液を収容してもよい。
一般的には、水溶性のビタミンは糖溶液および/またはアミノ酸溶液に配合し、第3室中に脂溶性ビタミンの含有液を収容することが好ましい。
ビタミンの配合に当たっては、禁忌の関係にあるビタミン同士を別の液中に分離して配合することが望ましい。
【0042】
本発明の輸液製剤における上記したビタミンの配合量は、本発明の輸液製剤における複数の室に分離して収容されている全ての溶液を混合して混合液(輸液)としたときに、当該混合液(輸液)1L中に、ビタミンAが約400〜6500IU、特に約800〜4000IU、ビタミンD(エルゴカルシフェロールとして)が約0.5〜10μg、特に約1.0〜6.0μg、ビタミンE(酢酸トコフェノールとして)が約1.0〜20mg、特に約2.5〜12.0mg、ビタミンK(フィトナジオンとして)が約0〜4mg、特に約0〜2.5mg、ビタミンB1(塩酸チアミンとして)が約0.4〜30mg、特に約1.0〜10.0mg、ビタミンB2(リボフラビンとして)が約0.5〜6.0mg、好ましくは約0.8〜4.0mg、ビタミンB6(塩酸ピリドキシンとして)が約0.5〜8.0mg、特に約1.0〜5.0mg、ビタミンB12(シアノコバラミンとして)が約0.5〜50μg、特に約1.0〜10μg、ニコチン酸類(ニコチン酸アミドとして)が約5〜80mg、特に約8〜50mg、パントテン酸類(パントテン酸として)が約1.5〜35mg、特に約3.0〜20mg、葉酸が約40〜800μg、特に約40〜600μg、ビタミンC(アスコルビン酸として)が約10〜400mg、特に約20〜200mg、ビオチンが約5〜120μg、特に約10〜70μgが含まれるような量とすることが好ましい。
【0043】
本発明の輸液製剤は、輸液用容器の各室に収容されている溶液(薬液)の変質を防止するために、さらに酸素非透過性の膜材、紫外線遮断性の膜材、遮光性の膜材などで外包装してもよい。
前記した酸素非透過性の膜材としては、例えば、エチレン−ビニルアルコール共重合体フィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルムなどを中間層として有する3層ラミネートフィルム(例えば、外層がポリエステルフィルム、延伸ナイロンフィルム、延伸ポリプロピレンフィルムなどからなり、内層が未延伸ポリプロピレンフィルムからなるラミネートフィルムなど)、アルミニウム層を含むラミネートフィルム(例えば、ポリエステルフィルム−アルミニウム層−未延伸ポリプロピレンフィルムからなるラミネートフィルムなど)、無機質蒸着フィルムを含むラミネートフィルム(例えば、ポリエステルフィルム−ケイ素蒸着フィルム−未延伸ポリプロピレンフィルム、延伸ナイロンフィルム−ケイ素蒸着フィルム−未延伸ポリプロピレンフィルム、ポリエステルフィルム−アルミニウム蒸着フィルム−未延伸ポリプロピレンフィルム、アルミナ蒸着ポリエステルフィルム−ポリ塩化ビニリデンフィルム−未延伸ポリプロピレンフィルムからなるラミネートフィルムなど)などを挙げることができる。
【0044】
また、本発明では、輸液製剤と上記した外包装との間に形成される空間に脱酸素剤を収容してもよい。その際に用いる脱酸素剤としては、例えば、(1)炭化鉄、鉄カルボニル化合物、酸化鉄、鉄粉、水酸化鉄またはケイ素鉄をハロゲン化金属で被覆したもの、(2)水酸化アルカリ土類金属もしくは炭酸アルカリ土類金属、活性炭と水、結晶水を有する化合物、アルカリ性物質またはアルコール類化合物と亜二チオン酸塩との混合物、(3)第一鉄化合物、遷移金属の塩類、アルミニウムの塩類、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属を含むアルカリ化合物、チッ素を含むアルカリ化合物またはアンモニウム塩と亜硫酸アルカリ土類金属との混合物、(4)鉄もしくは亜鉛と硫酸ナトリウム・1水和物との混合物または該混合物とハロゲン化金属との混合物、(5)鉄、銅、スズ、亜鉛またはニッケル;硫酸ナトリウム・7水和物または10水和物;およびハロゲン化金属の混合物、(6)周期律表第4周期の遷移金属;スズもしくはアンチモン;および水との混合物または該混合物とハロゲン化金属との混合物、(7)アルカリ金属もしくはアンモニウムの亜硫酸塩、亜硫酸水素塩またはピロ亜硫酸塩;遷移金属の塩類またはアルミニウムの塩類;および水との混合物などを用いることができる。また、市販のものを好適に使用することができ、かかる市販の脱酸素剤としては、例えば、エージレス(三菱瓦斯化学(株)製)、モデュラン(日本化薬(株)製)などを挙げることができる。
前記した脱酸素剤を本発明の輸液製剤と外包装との間の空間に収容する代りに、本発明の輸液製剤で用いている容器を、前記した脱酸素剤を配合した耐熱性軟質合成樹脂から形成してもよいし、外包材の酸素非透過層(ポリビニルアルコールフィルム、アルミニウム層、無機蒸着フィルム)より内層側の層に脱酸素剤を配合してもよい。
また、別法として、本発明の輸液製剤を真空包装してもよいし、または輸液製剤と外包材との空間に不活性ガス(例えばチッ素ガス、アルゴンガス、炭酸ガスなど)を充填して包装してよい。
【0045】
亜鉛とマンガンおよび/または銅とヨウ素を含有し、鉄を含有しない本発明の輸液製剤は、体内での貯蔵鉄量が増加していて鉄過剰になっているかまたは鉄過剰になる恐れのある患者に高カロリー輸液療法を実施する際に有効に用いることができる。それによって、体内での貯蔵鉄量が増加していて鉄過剰になっているかまたは鉄過剰になる恐れのある患者への更なる鉄の給与を防ぎながら、患者の栄養補給を行なうと共に、患者におけるマンガン、亜鉛、銅およびヨウ素の欠乏を防いで、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素の欠乏によって生ずる上記したような種々の症状の発生を防いだり、当該症状を軽減することができる。
【0046】
特に、鉄を含有せず、亜鉛とマンガンおよび/または銅とヨウ素を含有する本発明の輸液製剤は、血清フェリチン濃度が250ng/mL以上である貯蔵鉄量が過剰な患者に、経静脈高カロリー輸液療法を施す際の輸液製剤と好ましく用いられる。
さらに、本発明の輸液製剤は、慢性感染症、膠原病などの慢性炎症性疾患や、悪性腫瘍などの慢性疾患が原因で体内での貯蔵鉄量が増加していて血清フェリチン濃度が250ng/mL以上になっており、その一方で総鉄結合能(TIBC)が250μg/dL以下で且つ血清鉄濃度が40μg/dL以下である二次性貧血の患者に経静脈高カロリー輸液療法を施す際の輸液製剤として好ましく用いられる。
ここで、本明細書における「血清フェリチン濃度」は化学発光免疫測定法またはラテックス凝集法で測定される血清フェリチン濃度をいう。
また、本明細書における「総鉄結合能(TIBC)」は比色法または競合性蛋白結合分析法(CPBA)で測定される総鉄結合能(TIBC)をいう。
さらに、本明細書における「血清鉄濃度」は、比色法で測定される血清鉄濃度をいう。
【実施例】
【0047】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
《実施例1》
(1) 700mL中、下記の表1に示す成分組成を有する、亜鉛、マンガンおよび銅を含有する糖溶液(ブドウ糖含有溶液)を調製した。なお、当該糖溶液は、希塩酸とコハク酸を適量添加してpH4.5に調整した。
(2) 300mL中、下記の表2に示す成分組成を有する、ヨウ素を含有するアミノ酸溶液を調製した。なお、当該アミノ酸溶液は、クエン酸とコハク酸を適量添加してpH6.5に調整した。
(3) 3mL中、下記の表3に示す成分組成を有する脂溶性ビタミン含有液を調製した。なお、当該脂溶性ビタミン含有液は、クエン酸と水酸化ナトリウムを適量添加してpH6.0に調整した。
(4) 図1に示す、弱シール性の隔壁(2a,2b)によって3つの室に仕切られたポリプロピレン製の輸液用容器Aを準備し、その一室である第1室(3a)に上記(1)で調製した亜鉛、マンガンおよび銅を含有する糖溶液を700mL充填し、別の一室である第2室(3b)に上記(2)で調製したヨウ素を含有するアミノ酸溶液を300mL充填し、さらに別の一室である第3室(3)に上記(3)で調製した脂溶性ビタミン含有液を3mL充填して、図1に示す輸液製剤(輸液入りバッグ)Aを製造した。
(5) 上記(4)で得られた輸液製剤(輸液入りバッグ)Aを、常法に従い高圧蒸気滅菌した。
(6) 上記(5)で得られた輸液製剤(輸液入りバッグ)Aを、脱酸素剤と共に酸素非透過性の外包材で包装した。
【0048】
《実施例2》
(1) 700mL中、下記の表1に示す成分組成を有する、亜鉛、マンガンおよび銅を含有する糖溶液(ブドウ糖含有溶液)を調製した。なお、当該糖溶液は、希塩酸とコハク酸を適量添加してpH4.5に調整した。
(2) 300mL中、下記の表2に示す成分組成を有するアミノ酸溶液を調製した。なお、当該アミノ酸溶液は、クエン酸とコハク酸を適量添加してpH6.5となるように調整した。
(3) 3mL中、下記の表3に示す成分組成を有する、ヨウ素を含有する脂溶性ビタミン含有液を調製した。なお、当該脂溶性ビタミン含有液は、クエン酸と水酸化ナトリウムを適量添加してpH6.0に調整した。
(4) 図1に示す、弱シール性の隔壁(2a,2b)によって3つの室に仕切られたポリプロピレン製の輸液用容器Aを準備し、その一室である第1室(3a)に上記(1)で調製した亜鉛、マンガンおよび銅を含有する糖溶液を700mL充填し、別の一室である第2室(3b)に上記(2)で調製したアミノ酸溶液を300mL充填し、さらに別の一室である第3室(3)に上記(3)で調製したヨウ素を含有する脂溶性ビタミン含有液を3mL充填して、図1に示す輸液製剤(輸液入りバッグ)Bを製造した。
(5) 上記(4)で得られた輸液製剤(輸液入りバッグ)Bを、常法に従い高圧蒸気滅菌した。
(6) 上記(5)で得られた輸液製剤(輸液入りバッグ)Bを、脱酸素剤と共に酸素非透過性の外包材で包装した。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
《試験例1》
上記の実施例1および2で得られた輸液製剤について、製造直後および60℃/75%RHで2週間保存したときの、第1室に収容されている糖溶液に含まれる亜鉛、マンガンおよび銅の含有量(実施例1および2)、第2室に収容されているアミノ酸溶液の含まれるヨウ素(実施例1)または第3室に収容されている脂溶性ビタミン含有液に含まれるヨウ素(実施例2)の含有量を測定し、60℃/75%RHで2週間保存したときの各微量元素の残存率を算出したところ、下記の表4に示すとおりであった。
液中の亜鉛、マンガンおよび銅は誘導結合プラズマ発光強度測定法、ヨウ素は液体クロマトグラフィーによって測定した。
なお、下記の表4の残存率は、製造直後の含有量を残存率100%として求めたものである。
【0053】
【表4】

【0054】
上記の表4の結果にみるように、亜鉛、マンガンおよび銅を、第1室に収容した糖液に含有させ(実施例1および2)、ヨウ素をそれとは分離した第2室に収容したアミノ酸溶液に含有させるか(実施例1)または第3室に収容した脂溶性ビタミン含有液に含有(実施例2)させている、本発明の実施例1および2の輸液製剤は、60℃という高温で2週間保存した後でも、亜鉛、マンガン、銅およびヨウ素の残存率がいずれも99.5%以上と極めて高く、安定性に優れている。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の輸液製剤は、連通可能によって仕切られた複数の室を有する輸液用容器の第1室に糖溶液を収容し、第2室にアミノ酸溶液を収容し、前記糖溶液およびアミノ酸溶液の少なくとも一方に亜鉛を含有させ、亜鉛を含有している溶液中にマンガンおよび銅の少なくとも一方を含有させ、第1室中の糖溶液および第2室中のアミノ酸溶液のうちの、亜鉛、マンガンおよび銅のいずれをも含有しない溶液にヨウ素を含有させるか、或いは第3室に収容した液にヨウ素を含有させてあるため、高温下で加熱処理しても内容物の変質や分解がなく且つ室温で長期にわたって安定に保存でき、しかも溶液(薬液)を収容している室の数が少なくて構造が簡単であり、貯蔵鉄量が増加していて鉄過剰症を起こしている患者や鉄過剰症を起こす恐れのある患者に対してそのまま高カロリー輸液として投与することで、鉄の過剰摂取に伴う副作用の発生を抑制しながら、栄養成分の補給、必須微量元素であるマンガン、亜鉛、銅、ヨウ素の補給を円滑に行なうことができる。
【符号の説明】
【0056】
A 輸液用容器
1 輸液用容器Aの各室に溶液(薬液)を収容してなる輸液製剤(輸液入り容器)を懸垂するための懸垂孔
2a 弱シール性の隔壁
2b 弱シール性の隔壁
3a 区画された室
3b 区画された室
3c 区画された室
4 輸液製剤(混合液)の取出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連通可能に仕切られた複数の室を有する輸液用容器のそれぞれの室に、複数の溶液を互いに分離して収容した輸液製剤であって、
(a)第1室に糖溶液を収容し、第2室にアミノ酸溶液を収容し;
(b)第1室中の糖溶液および第2室中のアミノ酸溶液のいずれか一方または両方が、亜鉛を含有し;
(c)第1室中の糖溶液および第2室中のアミノ酸溶液のうちの、亜鉛を含有している溶液が、マンガンおよび銅のいずれか一方または両方を更に含有し;
(d)第1室中の糖溶液および第2室中のアミノ酸溶液のうちの、亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有していない方の溶液がヨウ素を含有するか、または第3室中の亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有しない溶液がヨウ素を含有しており;且つ、
(e)複数の室に互いに分離して収容した複数の溶液のいずれもが、鉄を含有していない;
ことを特徴とする輸液製剤。
【請求項2】
《1》第1室中の糖溶液が亜鉛と、マンガンおよび銅の一方または両方を含有し、第2室中のアミノ酸溶液がヨウ素を含有しているか;
《2》第1室中の糖溶液がヨウ素を含有し、第2室中のアミノ酸溶液が亜鉛と、マンガンおよび銅の一方または両方を含有しているか;
《3》第1室中の糖溶液が亜鉛と、マンガンおよび銅の一方または両方を含有し、第3室中の亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有しない溶液がヨウ素を含有しているか;
《4》第2室中のアミノ酸溶液が亜鉛と、マンガンおよび銅の一方または両方を含有し、第3室中の亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有しない溶液がヨウ素を含有しているか;或いは、
《5》第1室中の糖溶液が亜鉛と、マンガンおよび銅の一方または両方を含有し、第2室中のアミノ酸溶液も亜鉛と、マンガンおよび銅の一方または両方を含有し、第3室中の亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有しない溶液がヨウ素を含有している;
ことを特徴とする請求項1に記載の輸液製剤。
【請求項3】
第1室中の糖溶液が亜鉛、マンガンおよび銅を含有し、第2室中のアミノ酸溶液がヨウ素を含有している請求項1または2に記載の輸液製剤。
【請求項4】
第1室中の糖溶液が亜鉛、マンガンおよび銅を含有し、第3室中の亜鉛、マンガンおよび銅のいずれも含有しない溶液がヨウ素を含有している請求項1または2に記載の輸液製剤。
【請求項5】
第1室中の糖溶液、第2室中のアミノ酸溶液および第3室中の溶液のうちのいずれか1つまたは2つ以上がビタミンを含有している請求項1〜4のいずれか1項に記載の輸液製剤。
【請求項6】
貯蔵鉄量の増加を回避する必要のある、経口および経腸による栄養補給が不能で高カロリー静脈栄養に頼らざるを得ない患者用である請求項1〜5のいずれかに記載の輸液製剤。
【請求項7】
血清フェリチン濃度が250ng/mL以上の患者に投与するためのものである請求項1〜6のいずれか1項に記載の輸液製剤。
【請求項8】
総鉄結合能(TIBC)が250μg/dL以下で且つ血清鉄濃度が40μg/dL以下である二次性貧血の患者に投与するためのものである請求項6または7に記載の輸液製剤。

【図1】
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【公開番号】特開2011−153083(P2011−153083A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14019(P2010−14019)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】