説明

鉄キレーターを使用した内分泌機能不全の処置

本発明は、ヒトまたは動物身体における、例えば、内分泌腺からの細胞の分泌機能の機能不全、特に減少または阻害に関連する、鉄負荷による病状の処置または予防のための、鉄キレーターの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトまたは動物身体における、鉄負荷に関連する病状、例えば、鉄蓄積による内分泌腺からの細胞の分泌機能の機能不全、特に減少または阻害の処置または予防のための鉄キレーターの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
内分泌系は、エネルギーの貯蔵および放出、成長、成熟、再生および行動と関連する無数の化学反応の制御および調整のために、神経系と協調して作用する腺の複雑なネットワークである。この系の著しい(sheer)複雑さにより、それは減弱しやすく、多くのおよび雑多な内分泌障害により反映されている事実である。身体機能に対する内分泌系の影響は、多くの身体系が、腺のいずれかが適切に機能しないときに影響を受ける可能性があるほど深淵である。
【0003】
内分泌系は、下垂体、甲状腺、副甲状腺、副腎、精巣、卵巣、松果体、および胸腺ならびに膵臓島細胞を含む。内分泌腺は、ホルモンまたは化学メッセンジャーを血流中に放出することにより機能する。これらのホルモンは特異的組織内の反応の引き金を引く。
【0004】
腺のこのネットワークは視床下部 −− 内分泌系が神経系と合う場所である脳の底部の領域 −− および下垂体により制御される。一体となって、それらは、さらなる活性のために他の腺を刺激する化学メッセージを産生する。内分泌障害が発症したとき、それらは1個以上の腺の通常機能低下症、例えば活動低下または機能亢進症、例えば過活動である。時折、腺における炎症または腫瘍発生が同様に問題を起こす。
【0005】
内分泌機能亢進症および機能低下症は、その源を視床下部、下垂体、または標的腺それ自体に有し得る。慢性障害がより一般的であり、一般に機能低下症に至る;しかしながら、炎症は、急性偶発性機能障害を起こし得る。腫瘍は、より一般的に腺自体に起こるが、ホルモンを産生する場所である肺または胃のような身体の他の領域にも出現し得て、それが内分泌機能不全を起こす。
【0006】
蓄積した鉄は分泌機能を妨害し、特に、内分泌腺の細胞の分泌機能の低下または阻害を起こす。低下または阻害は、下垂体機能低下症(性的発育遅延、低身長、成長障害)、甲状腺機能低下症、副甲状腺機能低下症(hypoparathyriodism)、糖尿病(とりわけ2型真性糖尿病)、グルコース代謝障害(IGM)、耐糖能障害状態(IGT)、空腹時高血糖状態(IFG)、および糖尿病(特に2型真性糖尿病)、IGMまたはIGTと関連する/関係する疾患、障害または状態のような種々の病状をもたらし得る。
【0007】
糖尿病、特に2型真性糖尿病、IGMまたはIGTと関連する/関係する疾患、障害または状態は、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症および糖尿病性ニューロパシー、黄斑変性症、冠動脈心疾患、心筋梗塞、糖尿病性心筋症、心筋細胞死、冠動脈疾患、末梢動脈疾患、卒中、肢虚血、血管再狭窄、足潰瘍化、内皮機能不全、アテローム性動脈硬化症、微小血管合併症増加、過度の脳血管疾患、心血管死亡率増加および突然死を含み、これに限定されない。
【0008】
下垂体機能低下症は小児における成長遅延、性的未熟、および代謝機能不全により特徴付けられる。下垂体機能低下症は、前部下垂体により分泌されるホルモンの欠損に由来する。汎下垂体機能低下症は、これらの腺のホルモンの一部または全ての欠損を含む。
【0009】
症状は、通常徐々に進行し、インポテンス、月経期間の不在、不妊症、性衝動の低下、および尿崩症(より一般的な真性糖尿病と無関係の高尿量)を含み得る。他の症状は、甲状腺機能低下症および副腎不全症(アジソン病)である。
【0010】
甲状腺機能低下症は男性よりも女性により頻繁に起こり、40〜50歳の間に最もしばしば診断される。本質的に甲状腺ホルモンの産生不足である甲状腺機能低下症は、視床下部、下垂体、または甲状腺それ自体の不全症により引き起こされ得る。
【0011】
不活発な甲状腺は、手術、炎症、自己免疫性状態、または食事中のヨウ素不足が原因であり得る。先天性欠損もまた甲状腺機能低下症を起こし得て、本状態はまたある種の医薬の副作用でもあり得る。
【0012】
甲状腺機能低下症の初期症状は曖昧な傾向にある。それらは短期記憶喪失、疲労、嗜眠、説明できない体重増加、冷え性、創傷治癒不良、および便秘を含む。甲状腺機能低下症の後期は、精神的不安定さの増加;顔および四肢の腫脹;痩せて、乾燥した毛髪;性欲喪失;食欲消失;手の振戦;および腹部膨満を含む。処置しないと、甲状腺機能低下症は、最終的に生命を脅かす昏睡の発症に至り得る。
【0013】
副甲状腺機能低下症は、病気の、傷害を受けた、または先天的に欠損した副甲状腺に由来する。腺の傷害は、付近の組織を含む手術中に最も頻繁に起こる。副甲状腺機能低下症はまたアルコール依存に関連する長期の、重篤なマグネシウム欠損が原因でもあり得る。
【0014】
副甲状腺機能低下症はカルシウムの低血中濃度に至り、これは、顔、手および足の痙攣および攣縮;腹痛;脱毛;乾燥皮膚;および白内障を含む、神経筋興奮をもたらし得る。
【0015】
ヒトまたは動物身体における、鉄蓄積による、内分泌腺の機能不全、特に内分泌腺からの細胞の分泌機能の低下または阻害に関連する病状を処置および/または予防するための必要性がまだある。
【0016】
鉄キレーターは、文献に広く記載されている。観察される鉄結合によって、鉄キレーターは、二座、三座または六座キレーターに分類される。
【0017】
特異的二座鉄キレーターは、1,2−ジメチル−3−ヒドロキシピリジン−4−オン(Deferiprone、DFPまたはFerriprox)および2−デオキシ−2−(N−カルバモイルメチル−[N'−2'−メチル−3'−ヒドロキシピリジン−4'−オン])−D−グルコピラノース(Feralex-G)を含む。
【0018】
特異的三座鉄キレーターは、ピリドキサルイソニコチニルヒドラゾン(PIH)、4,5−ジヒドロ−2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)−4−メチルチアゾール−4−カルボン酸(GT56−252)、4,5−ジヒドロ−2−(3'−ヒドロキシピリジン−2'−イル)−4−メチルチアゾール−4−カルボン酸(desferrithiocinまたはDFT)および4−[3,5−ビス(2−ヒドロキシフェニル)−[1,2,4]トリアゾール−1−イル]安息香酸(ICL−670)を含む。遊離酸形態、その塩およびその結晶形態の置換3,5−ジフェニル−1,2,4−トリアゾールが、国際特許公報WO97/49395に開示されており、それをここに引用により包含させる。同様に、分散性錠剤の形のこのような化合物の特に有益な医薬製剤が国際特許公報WO2004/035026に開示されており、それもここに引用により包含させる。
【0019】
特異的六座鉄キレーターは、N,N'−ビス(o−ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン−N,N'−二酢酸(HBED)、N−(5−C3−L(5 アミノペンチル)ヒドロキシカルバモイル)−プロピオンアミド)ペンチル)−3(5−(N−ヒドロキシアセトアミド)−ペンチル)カルバモイル)−プロピオンヒドロキサム酸(デフェロキサミン、desferrioxamineまたはDFO)およびヒドロキシメチル−デンプン結合デフェロキサミン(S−DFO)を含む。DFOのさらなる誘導体は、DFOの脂肪族、芳香族性、コハク、およびメチルスルホニック・アナログを含み、特に、スルホンアミド−デフェロキサミン、アセトアミド−デフェロキサミン、プロピルアミドデフェロキサミン、ブチルアミド−デフェロキサミン、ベンゾイルアミド−デフェロキサミン、スクシンアミド−デフェロキサミン(derferoxamine)、およびメチルスルホンアミド−デフェロキサミンを含む。
【0020】
鉄キレーターのさらなるクラスは、生物模倣型クラスである(Meijler, MM, et al. “Synthesis and Evaluation of Iron Chelators with Masked Hydrophilic Moieties” J. Amer. Chem. Soc. 124:1266-1267 (2002)を、その全体を引用により本明細書に包含させる)。これらの分子は、DFOおよびフェリクロームのような天然に産生されたキレーターの修飾アナログである。このアナログは、親油性部分(例えば、アセトキシメチルエステル)の結合を可能にする。次いで、この親油性部分は、細胞内で内因性エステラーゼにより回折され、キレーターを親水性分子に戻し、それは細胞から滲出できない。
【発明の概要】
【0021】
発明の詳細な記載
鉄の蓄積による内分泌腺からの細胞の分泌機能の阻害が、鉄キレーターにより実質的に低下または予防できることが、本発明により驚くべきことに判明した。このような阻害と関連する病状は、特に下垂体機能低下症(性的発育遅延、低身長、成長障害)甲状腺機能低下症、副甲状腺機能低下症(hypoparathyriodism)、糖尿病(とりわけ2型真性糖尿病)、グルコース代謝障害(IGM)、耐糖能障害状態(IGT)、空腹時高血糖状態(IFG)、および糖尿病(特に2型真性糖尿病)、IGMまたはIGTと関連する/関係する疾患、障害または状態を含む。
【0022】
本発明の一局面は、それ故、ヒトまたは動物身体における鉄の蓄積による、内分泌腺の内分泌腺からの細胞の分泌機能の機能不全、特に低下または阻害に関連する病状の処置および/または予防用の薬学的に許容される製剤の製造における、鉄キレーターの使用である。
【0023】
本発明のさらなる局面は、糖尿病(とりわけ2型真性糖尿病)、グルコース代謝障害(IGM)、耐糖能障害状態(IGT)、空腹時高血糖状態(IFG)、および糖尿病(特に2型真性糖尿病)、IGMまたはIGTと関連する/関係する疾患、障害または状態の予防、進行遅延または処置のための鉄キレーターの使用である。
【0024】
本発明のさらなる局面は、ヒトまたは動物身体における鉄の蓄積による、内分泌腺からの細胞の分泌機能の機能不全、特に低下または阻害に関連する病状の処置または予防のための鉄キレーターの使用である。
【0025】
本発明のさらなる局面は、治療的有効量の鉄キレーターを処置を必要とするヒトまたは動物に投与する、ヒトまたは動物身体における鉄の蓄積による、内分泌腺からの細胞の分泌機能の機能不全、特に低下または阻害に関連する病状の処置または予防のための方法である。
【0026】
有用な鉄キレーターは、特に、上記で詳述した二座、三座および六座鉄キレーターである。
【0027】
下記の式(I)の化合物、および遊離酸形態、その塩よびその結晶形態の、式
【化1】

を有する化合物I、すなわち4−[3,5−ビス−(2−ヒドロキシフェニル)−[1,2,4]−トリアゾール−1−イル]安息香酸は、米国特許6,465,504B1に開示されている。
【0028】
化合物Iは、モデル系およびヒトで選択的鉄除去に有効であることが示されている鉄キレーターである、例えばHershko C, et al. Blood. 2001, 97:1115-1122; Nisbet Brown E et al. Lancet. 2003, 361:1597-1602参照。しかしながら、化合物Iは、下垂体機能低下症(性的発育遅延、低身長、成長障害)、甲状腺機能低下症、副甲状腺機能低下症(hypoparathyriodism)、糖尿病(とりわけ2型真性糖尿病)、グルコース代謝障害(IGM)、耐糖能障害状態(IGT)、空腹時高血糖状態(IFG)、および糖尿病(特に2型真性糖尿病)、IGMまたはIGTと関連する/関係する疾患、障害または状態の処置に有効であることは知られていなかった。
【0029】
特に、内分泌臓器の鉄過負荷による、下垂体機能低下症(性的発育遅延、低身長、成長障害)、甲状腺機能低下症、副甲状腺機能低下症(hypoparathyriodism)、糖尿病および糖尿病関連状態の処置を発見する必要があった。
【0030】
本発明に従い、特に鉄キレーターとして有用なのは、式(I)
【化2】

〔式中、
およびRは、同時にまたは互いに独立して水素、ハロゲン、ヒドロキシル、低級アルキル、ハロ−低級アルキル、低級アルコキシ、ハロ−低級アルコキシ、カルボキシル、カルバモイル、N−低級アルキルカルバモイル、N,N−ジ−低級アルキルカルバモイルまたはニトリルであり;
およびRは、同時にまたは互いに独立して水素、非置換または置換低級アルカノイルまたはアロイル、または生理学的条件下で除去可能なラジカルであり;
は水素、低級アルキル、ヒドロキシ−低級アルキル、ハロ−低級アルキル、カルボキシ−低級アルキル、低級アルコキシカルボニル−低級アルキル、RN−C(O)−低級アルキル、非置換または置換アリールまたはアリール−低級アルキル、または非置換または置換ヘテロアリールまたはヘテロアラルキルであり;
およびRは、同時にまたは互いに独立して水素、低級アルキル、ヒドロキシ−低級アルキル、アルコキシ−低級アルキル、ヒドロキシアルコキシ−低級アルキル、アミノ−低級アルキル、N−低級アルキルアミノ−低級アルキル、N,N−ジ−低級アルキルアミノ−低級アルキル、N−(ヒドロキシ−低級アルキル)アミノ−低級アルキル、N,N−ジ(ヒドロキシ−低級アルキル)アミノ−低級アルキルであるか、または、それらが結合している窒素原子と一体となって、アザ脂環式(azaalicyclic)環である。〕
の化合物またはその薬学的に許容される塩である。
【0031】
ハロゲンは、例えば、塩素、臭素またはフッ素だけでなく、ヨウ素でもあり得る。
接頭辞“低級”は、7個を超えないおよび特に4個を超えない炭素原子を有するラジカルを意味する。
【0032】
アルキルは、直鎖または分枝鎖である。それ自体、例えば低級アルキル、または他の基、例えば低級アルコキシ、低級アルキルアミン、低級アルカノイル、低級アルキルアミノカルボニルの構成要素として、それは非置換であるか、または例えばハロゲン、ヒドロキシル、低級アルコキシ、トリフルオロメチル、シクロ−低級アルキル、アザアリシクリル(azaalicyclyl)またはフェニルで置換されていてよく、それは好ましくは非置換であるか、またはヒドロキシルで置換されている。
【0033】
低級アルキルは、例えば、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、ネオペンチル、n−ヘキシルまたはn−ヘプチル、好ましくはメチル、エチルおよびn−プロピルである。ハロ−低級アルキルは、ハロゲン、好ましくは塩素またはフッ素、特に3個までの塩素またはフッ素原子で置換されている低級アルキルである。
【0034】
低級アルコキシは、例えば、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、n−アミルオキシ、イソアミルオキシ、好ましくはメトキシおよびエトキシである。ハロ−低級アルコキシは、ハロゲン、好ましくは塩素またはフッ素、特に3個までの塩素またはフッ素原子で置換された低級アルコキシである。
【0035】
カルバモイルは、ラジカルHN−C(O)−であり、N−低級アルキルカルバモイルは、低級アルキル−HN−C(O)−であり、そしてN,N−ジ−低級アルキルカルバモイルはジ−低級アルキル−N−C(O)−である。
低級アルカノイルはHC(O)−および低級アルキル−C(O)−であり、例えば、アセチル、プロパノイル、ブタノイルまたはピバロイルである。
【0036】
低級アルコキシカルボニルは、ラジカル低級アルキル−O−C(O)−を意味し、例えば、n−プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、n−ブトキシカルボニル、イソブトキシカルボニル、sec−ブトキシカルボニル、tert−ブトキシカルボニル、n−アミルオキシカルボニル、イソアミルオキシカルボニル、好ましくはメトキシカルボニルおよびエトキシカルボニルである。
【0037】
それ自体、例えばアリール、または他の基、例えばアリール−低級アルキルまたはアロイルの構成要素としてのアリールは、例えば、置換されているか、または置換されていないフェニルまたはナフチルである。アリールは、好ましくは、非置換であるか、または、1個以上、特に1個または2個の置換基、例えば低級アルキル、低級アルコキシ、ヒドロキシル、ニトロ、アミノ、ハロゲン、トリフルオロメチル、カルボキシル、低級アルコキシカルボニル、アミノ、N−低級アルキルアミノ、N,N−ジ−低級アルキルアミノ、アミノカルボニル、低級アルキルアミノカルボニル、ジ−低級アルキルアミノカルボニル、ヘテロシクロアルキル、ヘテロアリールまたはシアノで置換されているフェニルである。主として、アリールは非置換フェニルまたはナフチル、または低級アルキル、低級アルコキシ、ヒドロキシル、ハロゲン、カルボキシル、低級アルコキシカルボニル、N,N−ジ−低級アルキルアミノまたはヘテロシクロアルキルカルボニルで置換されたフェニルである。
【0038】
アロイルは、ラジカルアリール−C(O)−であり、例えば、ベンゾイル、トルオイル、ナフトイルまたはp−メトキシベンゾイルである。
アリール−低級アルキルは、例えば、ベンジル、p−クロロベンジル、o−フルオロベンジル、フェニルエチル、p−トリルメチル、p−ジメチルアミノベンジル、p−ジエチルアミノベンジル、p−シアノベンジル、p−ピロリジノベンジルである。
【0039】
ヘテロシクロアルキルは、少なくとも1個がヘテロ原子(酸素、窒素および硫黄が好ましい)である3〜8個、特に5〜7個を超えない、環原子を有するシクロアルキルラジカルを意味する。アザアリシクリルは、環原子の少なくとも1個が窒素原子である、3−8個、特に5−7個の環原子を有する飽和シクロアルキルラジカルである。アザアリシクリルはまたさらなる環ヘテロ原子、例えば酸素、窒素または硫黄を含み得る;それは、例えば、ピペリジニル、ピペラジニル、モルホリニルまたはピロリジニルである。アザアリシクリルラジカルは、非置換でも、ハロゲンまたは低級アルキルで置換されていてもよい。環窒素原子を介して結合しているアザアリシクリルラジカル(これが好ましい)は、ピペリジノ、ピペラジノ、モルホリノ、ピロリジノなどとして命名され、既知である。
【0040】
ヘテロアリールは、それ自体、例えばヘテロアリール、または他の置換基、例えばヘテロアリール−低級アルキルの構成要素として、少なくとも1個の環原子がヘテロ原子である、3〜7個を超えない、特に5〜7個を超えない環原子を有する、芳香族性ラジカル、例えばピロリル、イミダゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、オキサゾリル、チアゾリル、フラニル、チオフェニル、ピリジル、ピラジニル、オキサジニル、チアジニル、ピラニルまたはピリミジニルである。ヘテロアリールは置換されていても置換されていなくてもよい。非置換であるか、または1個以上、特に1個または2個の置換基、例えば低級アルキル、ハロゲン、トリフルオロメチル、カルボキシルまたは低級アルコキシカルボニルで置換されたヘテロアリールが好ましい。
【0041】
ヘテロアリール−低級アルキルは、アルキル鎖が2個以上の炭素原子を含むならば、好ましくは末端C原子上の、少なくとも1個の水素原子がヘテロアリール基で置換されている、低級アルキルラジカルを意味する。
【0042】
N−低級アルキルアミノは、例えば、n−プロピルアミノ、n−ブチルアミノ、i−プロピルアミノ、i−ブチルアミノ、ヒドロキシエチルアミノ、好ましくはメチルアミノおよびエチルアミノである。N,N−ジ−低級アルキルアミノにおいて、アルキル置換基は同一でも異なってもよい。それ故、N,N−ジ−低級アルキルアミノは、例えば、N,N−ジメチルアミノ、N,N−ジエチルアミノ、N,N−メチルエチルアミノ、N−メチル−N−モルホリノエチルアミノ、N−メチル−N−ヒドロキシエチルアミノ、N−メチル−N−ベンジルアミノである。
【0043】
式(I)の化合物の塩は、薬学的に許容される塩、とりわけ塩基との塩、例えば適当なアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩、例えばナトリウム、カリウムまたはマグネシウム塩、薬学的に許容される遷移金属塩、例えば亜鉛塩、または有機アミン、例えば環状アミン、例えばモノ−、ジ−またはトリ−低級アルキルアミン、例えばヒドロキシ−低級アルキルアミン、例えばモノ−、ジ−またはトリヒドロキシ−低級アルキルアミン、ヒドロキシ−低級アルキル−低級アルキルアミンまたはポリヒドロキシ−低級アルキルアミンとの塩である。環状アミンは、例えば、モルホリン、チオモルホリン、ピペリジンまたはピロリジンである。適当なモノ−低級アルキルアミンは、例えば、エチル−およびtert−ブチルアミンであり;ジ−低級アルキルアミンは、例えば、ジエチル−およびジイソプロピルアミンであり;そしてトリ−低級アルキルアミンは、例えば、トリメチル−およびトリエチルアミンである。適当なヒドロキシ−低級アルキルアミンは、例えば、モノ−、ジ−およびトリエタノールアミンであり;ヒドロキシ−低級アルキル−低級アルキルアミンは、例えば、N,N−ジメチルアミノ−およびN,N−ジエチルアミノエタノールであり;適当なポリヒドロキシ−低級アルキルアミンは、例えば、グルコサミンである。他の例では、例えば強無機酸、例えば鉱酸、例えば硫酸、リン酸またはハロゲン化水素酸、強有機カルボン酸、例えば低級アルカンカルボン酸、例えば酢酸、例えば飽和または不飽和ジカルボンジカ酸、例えばマロン、マレインまたはフマル酸、または例えばヒドロキシカルボン酸、例えば酒石またはクエン酸、またはスルホン酸、例えば低級アルカン−または置換もしくは非置換ベンゼンスルホン酸、例えばメタン−またはp−トルエンスルホン酸との、酸付加塩を形成することも可能である。酸性基、例えばカルボキシル、および塩基性基、例えばアミノを有する式(I)の化合物はまた分子内塩の形で、すなわち双性イオン形態でも存在でき、または分子の一部が分子内塩として、そして他の部分が通常の塩として存在できる。
【0044】
好ましくは、本発明は、少なくとも1個の、
およびRが、同時にまたは互いに独立して水素、ハロゲン、ヒドロキシル、低級アルキル、ハロ−低級アルキル、低級アルコキシまたはハロ−低級アルコキシであり;RおよびRが、同時にまたは互いに独立して水素または生理学的条件下で除去可能なラジカルであり;Rが低級アルキル、ヒドロキシ−低級アルキル、カルボキシ−低級アルキル、低級アルコキシカルボニル−低級アルキル、RN−C(O)−低級アルキル、置換アリール、アリール−低級アルキル(N−低級アルキルアミノ、N,N−ジ−低級アルキルアミノまたはピロリジノで置換されている)、または非置換もしくは置換ヘテロアリールもしくはヘテロアラルキルであり;RおよびRが、同時にまたは互いに独立して水素、低級アルキル、ヒドロキシ−低級アルキル、アルコキシ−低級アルキル、ヒドロキシアルコキシ−低級アルキル、アミノ−低級アルキル、N−低級アルキルアミノ−低級アルキル、N,N−ジ−低級アルキルアミノ−低級アルキル、N−(ヒドロキシ−低級アルキル)アミノ−低級アルキル、N,N−ジ(ヒドロキシ−低級アルキル)アミノ−低級アルキルであるか、それらが結合している窒素原子と一体となって、アザ脂環式環を形成する;
式(I)の化合物およびその塩;および少なくとも1個の薬学的に許容される担体を含む医薬組成物、およびその製造方法に関する。
【0045】
本発明の一つの態様において、式(I)の化合物は4−[3,5−ビス(2−ヒドロキシフェニル)−[1,2,4]トリアゾール−1−イル]安息香酸または薬学的に許容される塩である。
【0046】
特に式(I)の化合物の、鉄キレーターに適当な医薬製剤は、温血動物、とりわけヒトへの経腸、特に経口、およびさらに直腸投与用のもの、および非経腸投与用のものであり、薬理学的活性成分は、それ自体でまたは慣用的な医薬補助剤と共に含まれる。本医薬製剤は(重量パーセントで)、例えば、約0.001%〜100%、好ましくは約0.1%〜約100%の活性成分を含む。
【0047】
4−[3,5−ビス(2−ヒドロキシフェニル)−[1,2,4]トリアゾール−1−イル]安息香酸またはその薬学的に許容される塩の経口製剤は、以下の国際特許出願公開WO97/49395およびWO2004/035026に開示されており、該製剤は、引用により本明細書に包含させる。
【0048】
特に式(I)の化合物の、鉄キレーターの投与量は、活性成分の活性および作用時間、処置すべき病気の重症度またはその症状、投与方法、温血動物種、温血動物の性別、年齢、体重および/または個々の状態のような種々の因子に依存し得る。例として、式(I)の化合物の経口投与の場合に1日に投与すべき投与量は、10〜約120mg/kg、特に20〜約80mg/kgであり、約40kgの体重の温血動物について、好ましくは約400mg〜約4,800mg、特に約800mg〜3,200mgであり、2〜12個の個別用量に分けるのが好都合である。
【0049】
本発明は、ヒトまたは動物身体における鉄の蓄積による、内分泌腺からの細胞の分泌機能の機能不全、特に低下または阻害に関連する病状の処置または予防のための薬学的に許容される製剤の製造のための、鉄キレーターの使用に関する。
【0050】
一態様において、本発明は、ヒトまたは動物身体における鉄の蓄積による、内分泌腺からの細胞の分泌機能の機能不全、特に低下または阻害に関連する病状の処置または予防のための鉄キレーターの使用に関する。
【0051】
本発明は、さらに、治療的有効量の鉄キレーターを、処置を必要とするヒトまたは動物に投与し、好ましくは該鉄キレーターが二座、三座または六座鉄キレーターである、ヒトまたは動物身体における鉄の蓄積による、内分泌腺からの細胞の分泌機能の機能不全、特に低下または阻害に関連する病状を処置する方法に関する。
【0052】
本発明によって、上記の使用または方法のために、鉄キレーターは、式(I)
【化3】

〔式中、
およびRは、同時にまたは互いに独立して水素、ハロゲン、ヒドロキシル、低級アルキル、ハロ−低級アルキル、低級アルコキシ、ハロ−低級アルコキシ、カルボキシル、カルバモイル、N−低級アルキルカルバモイル、N,N−ジ−低級アルキルカルバモイルまたはニトリルであり;
およびRは、同時にまたは互いに独立して水素、非置換または置換低級アルカノイルまたはアロイル、または生理学的条件下で除去可能なラジカルであり;
は水素、低級アルキル、ヒドロキシ−低級アルキル、ハロ−低級アルキル、カルボキシ−低級アルキル、低級アルコキシカルボニル−低級アルキル、RN−C(O)−低級アルキル、非置換または置換アリールまたはアリール−低級アルキル、または非置換または置換ヘテロアリールまたはヘテロアラルキルであり;
およびRは、同時にまたは互いに独立して水素、低級アルキル、ヒドロキシ−低級アルキル、アルコキシ−低級アルキル、ヒドロキシアルコキシ−低級アルキル、アミノ−低級アルキル、N−低級アルキルアミノ−低級アルキル、N,N−ジ−低級アルキルアミノ−低級アルキル、N−(ヒドロキシ−低級アルキル)アミノ−低級アルキル、N,N−ジ(ヒドロキシ−低級アルキル)アミノ−低級アルキルであるか、それらが結合している窒素原子と一体となって、アザ脂環式環を形成する。〕
の化合物、またはその薬学的に許容される塩である。
【0053】
本発明によって、上記の使用または方法のために、鉄キレーターを、1,2−ジメチル−3−ヒドロキシピリジン−4−オン(Deferiprone、DFPまたはFerriprox)、2−デオキシ−2−(N−カルバモイルメチル−[N'−2'−メチル−3'−ヒドロキシピリジン−4'−オン])−D−グルコピラノース(Feralex-G)、ピリドキサルイソニコチニルヒドラゾン(PIH)、4,5−ジヒドロ−2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)−4−メチルチアゾール−4−カルボン酸(GT56−252)、4,5−ジヒドロ−2−(3'−ヒドロキシピリジン−2'−イル)−4−メチルチアゾール−4−カルボン酸(desferrithiocinまたはDFT)、4−[3,5−ビス(2−ヒドロキシフェニル)−[1,2,4]トリアゾール−1−イル]安息香酸(ICL−670)、N,N'−ビス(o−ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン−N,N'−二酢酸(HBED)、N−(5−C3−L(5−アミノペンチル)ヒドロキシカルバモイル)−プロピオンアミド)ペンチル)−3(5−(N−ヒドロキシアセトアミド)−ペンチル)カルバモイル)−プロピオンヒドロキサム酸(デフェロキサミン、desferrioxamineまたはDFO)、ヒドロキシメチル−デンプン結合デフェロキサミン(S−DFO)、スルホンアミド−デフェロキサミン、アセトアミド−デフェロキサミン、プロピルアミドデフェロキサミン、ブチルアミド−デフェロキサミン、ベンゾイルアミド−デフェロキサミン、スクシンアミド−デフェロキサミン(derferoxamine)、メチルスルホンアミド−デフェロキサミンならびにDFOおよびフェリクロームのような天然に生じるキレーターのアナログから成る群から選択され、好ましくは、鉄キレーターは4−[3,5−ビス(2−ヒドロキシフェニル)−[1,2,4]トリアゾール−1−イル]安息香酸またはその薬学的に許容される塩である。
【0054】
本発明のさらなる局面において、本発明の上記態様において記載した病状は、下垂体機能低下症(性的発育遅延、低身長、成長障害)、甲状腺機能低下症、副甲状腺機能低下症(hypoparathyriodism)、糖尿病(とりわけ2型真性糖尿病)、グルコース代謝障害(IGM)、耐糖能障害状態(IGT)、空腹時高血糖状態(IFG)、および糖尿病(特に2型真性糖尿病)、IGMまたはIGTと関連する/関係する疾患、障害または状態である。
以下の実施例は本発明を説明する。
【実施例1】
【0055】
導入: マウスにおけるヘモジュベリン遺伝子の標的破壊(HJV−/−)が、最近、とりわけ、膵臓における鉄沈着の顕著な増加を引き起こすと報告されている(Niederkofler et al. 2005, Huang et al. 2005)。自発性の鉄負荷および4−[3,5−ビス(2−ヒドロキシフェニル)−[1,2,4]トリアゾール−1−イル]安息香酸(化合物I)の効果を、鉄過負荷のHJV−/−マウスにおける鉄の除去において試験している。
【0056】
方法: 脾臓および膵臓における誘導結合型プラズマ光発光分光分析(ICP−OES、鉄元素の測定)測定を、8週目(試験開始)、14週目、20週目および28週目に、HJV−/−および野生型(wt)マウスで行った(n=6−8)。20週目から、HJV−/−動物の三群は、毎日0(媒体)、30または100mg/kgの4−[3,5−ビス(2−ヒドロキシフェニル)−[1,2,4]トリアゾール−1−イル]安息香酸を受け、コントロールwtマウスは未処置のままであった。鉄負荷を、媒体群を含んで、28週目まで観察し、4−[3,5−ビス(2−ヒドロキシフェニル)−[1,2,4]トリアゾール−1−イル]安息香酸の効果を、28週群の比較により評価した。MRI R2*測定を、4.7T MRイメージャーを使用して行った。
【0057】
結果: 膵臓は、鉄負荷の最も激しい差異を示した(34倍)。8週目から28週目の間の鉄負荷の啓示的な目視により、膵臓における遅延した負荷が示唆された。
膵臓は、100mg/kg投与量の4−[3,5−ビス(2−ヒドロキシフェニル)−[1,2,4]トリアゾール−1−イル]安息香酸で明らかに低レベルの傾向を示した。
【表1】

n=動物数;SEM=平均値の標準誤差
【0058】
結論: 化合物I、すなわち4−[3,5−ビス(2−ヒドロキシフェニル)−[1,2,4]トリアゾール−1−イル]安息香酸は、処置8週間以内に膵臓鉄負荷の改善の傾向を示した。
【実施例2】
【0059】
膵臓Min6および下垂体Att20細胞(両方ともエンドサイトーシス活性が非常に活性)は、それらの不安定(labile)鉄への暴露により、急性にまたは慢性的に、小器官(エンドソーム、ミトコンドリア、サイトゾル)への重大な細胞内鉄蓄積およびレドックス促進時ROS形成増加に至る。金属誘起ROSにより影響を受ける機能は、とりわけ細胞選択透過性(permselectivity)(カルセイン漏出)、ミトコンドリア膜電位(JC1試験)、電子伝達活性(Alamar Blue)および細胞生存能(カルセイン−プロピジウムアイオダイド)である。デフェラシロクスの治療効果達成投与量(30−100μM)での投与が:
a. 鉄負荷媒体に存在するとき、不安定鉄が細胞内で上昇するのを防止する、および
b. 鉄負荷前または後に細胞とインキュベートしたとき、鉄誘起細胞損傷を低下し、細胞生存能を高める(急性的または慢性的)
ことが観察できる。
この試験は、デフェラシロクスが、鉄負荷内分泌および心細胞における鉄誘起損傷の可能性を予防および矯正する両方の可能性を有することを示す。
ROS=活性酸素種
【実施例3】
【0060】
鉄誘起酸化損傷に感受性のAt20内分泌細胞に対する4−[3,5−ビス(2−ヒドロキシフェニル)−[1,2,4]トリアゾール−1−イル]安息香酸(化合物I)の細胞保護的効果
組織鉄蓄積に関係する生物学的損傷の主要な原因は、エンドサイトーシス機構による循環している不安定血漿鉄(LPI)の細胞獲得およびその後の金属触媒酸化である。内分泌細胞は、活性酸素中間体(ROs)、特に不安定鉄の存在下で生じるもののエンドサイトーシス能および/または形成に対する高感受性を有することが仮説立てられている。これらの特性が、輸血性ヘモジデリン沈着症(transfusional hemosiderosis)において観察される内分泌機能不全の早期発症に関与しているはずであるため、鉄キレート療法の主要な目的は、内分泌細胞への鉄進入および続く毒性の防止および/または細胞蓄積鉄の除去である。キレーターのこのような特性が、診療における経口で活性の鉄キレーターの薬理学的に達成可能な濃度で、LPI担持血漿を処理することにより、心細胞(Glickstein et al, 2006, Blood In press)において提供されている。後者はまた、鉄キレート化および細胞からの駆出により金属触媒ROS形成の中和も誘発し、それにより心機能回復を支持する。4−[3,5−ビス(2−ヒドロキシフェニル)−[1,2,4]トリアゾール−1−イル]安息香酸の添加が、急性に − 鉄 − 過負荷At20下垂体細胞を鉄毒性から救うことができるか否かについて、:1. 細胞完全性(カルセイン細胞保持アッセイ) 2. 代謝活性(ミトコンドリアAlamar-Blueアッセイ)および3. 細胞内(ACTH)ホルモンレベルの観点から、細胞機能をライブでモニタリングし、毒性を評価するための、蛍光プレートリーダーおよび顕微鏡イメージングを使用して、ここで、試験されている。この試験は、細胞培養条件および薬理学的キレーター濃度で、4−[3,5−ビス(2−ヒドロキシフェニル)−[1,2,4]トリアゾール−1−イル]安息香酸が、ROIの鉄触媒形成により損なわれていたAt20内分泌細胞生存能および機能的特性の両方を防止できることを示す。
【0061】
本発明の組成物の、インスリン分泌増強特性は、例えば、T. Ikenoue et al. Biol.Pharm.Bull. 29(4), 354-359(1997)の刊行物に記載の方法に従い測定し得る。
単独または組合せで投与したこの薬剤の心血管作用およびグルコース利用効果の同時の評価を、Nawano et al., Metabolism 48: 1248-1255, 1999の刊行物に記載されたZucker脂肪ラットのようなモデルを使用して実施できる。
これらの引用文献の対応する主題は、本明細書に引用することにより包含させる。
【実施例4】
【0062】
2型糖尿病/代謝疾患に対する4−[3,5−ビス(2−ヒドロキシフェニル)−[1,2,4]トリアゾール−1−イル]安息香酸(化合物I)の効果
餌誘発肥満マウスを、21−23週齢に試験に使用する。試験の最初の日、動物を午前7:30に絶食させる。体重測定および基底血液サンプル採取を午前10:30に行う。次いで、血漿グルコース値を測定する。動物を4群(n=10/群)に分け、血漿グルコース値および体重を4群間で一致させた。午後12時に、動物に媒体(水)または化合物Iを各々30mg/kgまたは100mg/kg経口投与する。午後1:00に、血液サンプル(0分時)を採取し、続いて経口糖耐性試験(OGTT)を1g/kg(20%グルコース水溶液)を、5ml/kgの投与量で行う。血液サンプルをグルコース投与30分、60分および120分後に採取する。動物に、OGTT後再び餌を与える。動物に1日投与量の媒体または化合物を、毎日午後12:00に合計15日間投与する。この試験中、毎日体重および食物摂取量を測定を行う。2回のさらなるOGTTを、試験中7日目および14日目に、1日目のOGTTについて記載したプロトコールに従い行う。化合物I(各30mg/kgまたは100mg/kg)処置動物は、OGTT間の曲線下面積により測定して、コントロール動物と比較して改善された糖耐性を示し得る。OGTTの改善の程度は、7日目から14日目まで時間依存的方法で増加する。試験最終日(15日目)、マウスを午前7:30に絶食させ、媒体または化合物を午前10:30に投与する。尾血液サンプルを午後12:30に採る。次いで動物を二酸化炭素で殺す。血液化学分析のために、最終血液サンプルを心穿刺により採る。
【0063】
血液採取および分析
血液サンプルを、尾採血を介して試験中採る。血漿グルコース濃度を、グルコースメーター(Ascensia Elite, Bayer Corp., Mishawaka, IN)を使用して測定する。血液サンプルを、凝血を防ぐためにリチウムヘパリンを含むチューブ(Microvette CB300, Aktiengesellschaft & Co., Numbrecht, Germany)に採取した。各血液サンプル採取前に、1μlの1:10希釈プロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma, St. Louis, MO)を、サンプルチューブに添加する。血液サンプル採取後、チューブを氷上に維持し、その後遠心分離する。血液サンプルの血漿部分を、10,000xgで10分間、4℃での遠心分離により得て、−80℃で貯蔵する。血漿インスリンおよびグルカゴンレベルを、Mouse Endocrine Lincoplex kit(Linco Research, Inc., St. Charles, MO)を使用して、Luminexアッセイにより測定する。化合物I処置動物は、コントロール動物と比較して、血漿インスリンレベルの低下を示し得る。血漿トリグリセリド、脂肪酸および総コレステロールレベルを、Amplex Red kit(Molecular Probes, Eugene, OR)に基づく蛍光アッセイを使用して測定する。血液化学分析を、自動化乾燥化学システム(SPOTCHEM EZ Analyzer, Heska, Fort Collins, CO)を使用して行う。心血管疾患に対する効果をまた処置動物におけるさらなる分析により評価できる。
【実施例5】
【0064】
IGM患者に対する4−[3,5−ビス(2−ヒドロキシフェニル)−[1,2,4]トリアゾール−1−イル]安息香酸(化合物I)の効果:2型糖尿病および心血管疾患の処置、予防
化合物Iが、IGMを有する対象における初期相インスリン分泌を回復し、食後グルコースレベルを低下させる、またはIGMを有する対象における2型糖尿病および心血管疾患の発症を予防または遅延できることを確認する、有望な効果が立証できる。多施設、二重盲検式、平行群、無作為試験を、8週間の処置期間中、主要な食事前の化合物I、またはプラセボの投与と関連する、確認された低血糖の発生率および食事グルコースに対する効果を評価するために、IGMを有する対象で行い得る。対象を、75g経口糖耐性試験(OGTT)後の2時間血漿グルコース値を基に選択し、本質的に以下のさらなる包含基準を満たす患者を試験に含める:
− OGTT後2時間血糖 7.8〜11.1mmol/L(試験に入る年の間に1回のOGTTを行い、2回目を試験に入る前2週間以内に行う);
− FPG<7mmol/L;
− 患者は、20−32kg/mの肥満度指数(BMI)を有しなければならない;
− 患者は、試験の全経過中、以前の食餌を維持する;
− 男性、非妊娠女性、医学的に承認された避妊法を使用している出産可能女性を含める;
− 試験中の他の抗糖尿病剤は許可されない。
【0065】
化合物Iの対応する投与量を、主要な食事(朝食、昼食、軽食、夕食)の回数に応じて毎日投与する。最初の投与を、第一回目の主要な食事(標準食、すなわち55%炭水化物、25%脂肪および20%タンパク質)と共に与える。来院を、0週目、2週目、4週目および8週目に行うように計画し、患者は少なくとも7時間絶食すべきである。臨床検査用全血液サンプルを、午前7.00から10.00の間に採る。HbA1cを、ベースラインおよび処置8週間後に測定すべきである(空腹時グルコースおよびフルクトサミン)。血液サンプルを、投薬(0時)後10分、20分、20分、60分、120分、および180分にトリ、グルコースおよびインスリンレベルを測定する。0週目および8週目の来院時、患者は、約500kcalを含む標準食チャレンジを履行し、インスリンおよびグルコース測定を行う。
【0066】
このような試験における全ての得られたデータからの発見は、2時間食事グルコースレベル、HBA1cおよびフルクトサミンレベルが低下でき、初期相インスリン分泌が回復でき、化合物Iが2型真性糖尿病への進行を遅延できることを確認する。長期処置およびフォローアップで、IGMに関連する状態および疾患、例えば心血管疾患に対する予防および低下効果、すなわち明白な2型真性糖尿病への進行の予防または進行遅延の予防または進行遅延;または好ましくは微小血管合併症増加;心血管罹病率増加;過度の脳血管疾患;心血管死亡率および突然死増加から成る群から選択される、IGTと関連する心血管状態または疾患の予防、低下または発症遅延を評価できる。
【0067】
IGMおよび特にIFGおよびIGTの個体におけるこのタイプの試験は、対象が通常正常FPGを有し、非糖尿病または前糖尿病であるため、糖尿病のものと異なる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトまたは動物身体における、蓄積鉄による内分泌腺からの細胞の分泌機能の機能不全、特に減少または阻害に関連する、鉄負荷による病状を処置または予防するための、薬学的に許容される製剤の製造のための、鉄キレーターの使用。
【請求項2】
ヒトまたは動物身体における、蓄積鉄による内分泌腺からの細胞の分泌機能の機能不全、特に減少または阻害に関連する、鉄負荷による病状を処置または予防するための、鉄キレーターの使用。
【請求項3】
処置を必要とするヒトまたは動物に治療的有効量の鉄キレーターを投与する、ヒトまたは動物身体における鉄の蓄積による、内分泌腺からの細胞の分泌機能の機能不全、特に低下または阻害に関連する病状を処置または予防する方法。
【請求項4】
鉄キレーターが二座、三座または六座鉄キレーターである、請求項1から3のいずれかに記載の使用または方法。
【請求項5】
鉄キレーターが、式(I)
【化1】

〔式中、
およびRは、同時にまたは互いに独立して水素、ハロゲン、ヒドロキシル、低級アルキル、ハロ−低級アルキル、低級アルコキシ、ハロ−低級アルコキシ、カルボキシル、カルバモイル、N−低級アルキルカルバモイル、N,N−ジ−低級アルキルカルバモイルまたはニトリルであり;
およびRは、同時にまたは互いに独立して水素、非置換または置換低級アルカノイルまたはアロイル、または生理学的条件下で除去可能なラジカルであり;
は水素、低級アルキル、ヒドロキシ−低級アルキル、ハロ−低級アルキル、カルボキシ−低級アルキル、低級アルコキシカルボニル−低級アルキル、RN−C(O)−低級アルキル、非置換または置換アリールまたはアリール−低級アルキル、または非置換または置換ヘテロアリールまたはヘテロアラルキルであり;
およびRは、同時にまたは互いに独立して水素、低級アルキル、ヒドロキシ−低級アルキル、アルコキシ−低級アルキル、ヒドロキシアルコキシ−低級アルキル、アミノ−低級アルキル、N−低級アルキルアミノ−低級アルキル、N,N−ジ−低級アルキルアミノ−低級アルキル、N−(ヒドロキシ−低級アルキル)アミノ−低級アルキル、N,N−ジ(ヒドロキシ−低級アルキル)アミノ−低級アルキルであるか、または、それらが結合している窒素原子と一体となって、アザ脂環式環を形成する。〕
の化合物、またはその薬学的に許容される塩である、請求項1〜4のいずれかに記載の使用または方法。
【請求項6】
鉄キレーターが1,2−ジメチル−3−ヒドロキシピリジン−4−オン(Deferiprone、DFPまたはFerriprox)、2−デオキシ−2−(N−カルバモイルメチル−[N'−2'−メチル−3'−ヒドロキシピリジン−4'−オン])−D−グルコピラノース(Feralex-G)、ピリドキサルイソニコチニルヒドラゾン(PIH)、4,5−ジヒドロ−2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)−4−メチルチアゾール−4−カルボン酸(GT56−252)、4,5−ジヒドロ−2−(3'−ヒドロキシピリジン−2'−イル)−4−メチルチアゾール−4−カルボン酸(desferrithiocinまたはDFT)、4−[3,5−ビス(2−ヒドロキシフェニル)−[1,2,4]トリアゾール−1−イル]安息香酸(ICL−670)、N,N'−ビス(o−ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン−N,N'−二酢酸(HBED)、N−(5−C3−L(5 アミノペンチル)ヒドロキシカルバモイル)−プロピオンアミド)ペンチル)−3(5−(N−ヒドロキシアセトアミド)−ペンチル)カルバモイル)−プロピオンヒドロキサム酸(デフェロキサミン、desferrioxamineまたはDFO)、ヒドロキシメチル−デンプン−bound デフェロキサミン(S−DFO)、スルホンアミド−デフェロキサミン、アセトアミド−デフェロキサミン、プロピルアミドデフェロキサミン、ブチルアミド−デフェロキサミン、ベンゾイルアミド−デフェロキサミン、スクシンアミド−デフェロキサミン(「derferoxamine)、メチルスルホンアミド−デフェロキサミンならびにDFOおよびフェリクロームのような天然に産生されたキレーターの修飾アナログから成る群から選択される、請求項1〜4のいずれかに記載の使用または方法。
【請求項7】
鉄キレーターが4−[3,5−ビス(2−ヒドロキシフェニル)−[1,2,4]トリアゾール−1−イル]安息香酸またはその薬学的に許容される塩である、請求項1〜6のいずれかに記載の使用または方法。
【請求項8】
病状が下垂体機能低下症(性的発育遅延、低身長、成長障害)である、請求項1〜7のいずれかに記載の使用または方法。
【請求項9】
病状が甲状腺機能低下症である、請求項1〜7のいずれかに記載の使用または方法。
【請求項10】
病状が副甲状腺機能低下症(hypoparathyriodism)である、請求項1〜7のいずれかに記載の使用または方法。
【請求項11】
病状が糖尿病(とりわけ2型真性糖尿病)、グルコース代謝障害(IGM)、耐糖能障害状態(IGT)、空腹時高血糖状態(IFG)、および糖尿病(特に2型真性糖尿病)、IGMまたはIGTと関連する/関係する疾患、障害または状態である、請求項1〜7のいずれかに記載の使用または方法。
【請求項12】
病状が2型糖尿病である、請求項1〜7のいずれかに記載の使用または方法。

【公表番号】特表2009−545547(P2009−545547A)
【公表日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−522184(P2009−522184)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【国際出願番号】PCT/EP2007/006903
【国際公開番号】WO2008/015021
【国際公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(597011463)ノバルティス アクチエンゲゼルシャフト (942)
【Fターム(参考)】