説明

鉄含有チタン酸リチウムの製造方法

【課題】目的生成物の合成時間を短縮することが可能であり、かつ、合成時の低コスト化と、大量生成時の品質のばらつきを低減することが可能な鉄含有チタン酸リチウムの製造方法を提供する。
【解決手段】鉄含有チタン酸リチウムの製造方法は、組成式Li1+x(Ti1−YFe1−X(0<X<1、0<Y<1)で表され、結晶構造が立方晶岩塩型である鉄含有チタン酸リチウムの製造工程において、湿式粉砕・混合工程と、乾燥工程と、焼成工程と、粉砕・分級工程とを備える。湿式粉砕・混合工程は、水酸化リチウム水溶液中でFe源とTi源との粉砕と混合とを同時に行う工程である。乾燥工程は、湿式粉砕・混合工程で得られる混合物を乾燥させる工程である。焼成工程は、乾燥工程で得られる乾燥物を焼成する工程である。粉砕・分級工程は、焼成工程で得られる焼成物を粉砕、分級を行う工程である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄含有チタン酸リチウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄含有チタン酸リチウムの製造方法としては、出発原料であるFe源とTi源とを共沈、熟成させた後、共沈混合物に対して強アルカリ中で水熱処理を施し、水洗、乾燥という工程を経て目的とする生成物を合成している。例えば特許第3914981号公報(特許文献1)には、水溶性チタン塩と水溶性鉄塩とを含む混合水溶液をアルカリにより共沈させ、得られた沈殿物を酸化剤および水溶性リチウム化合物とともに101〜400℃の温度範囲で水熱処理し、次いで水熱処理反応物から過剰のリチウム化合物などの不純物を除去することを特徴とするリチウムフェライト系酸化物の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3914981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許第3914981号公報(特許文献1)に記載されているような従来の製造方法では、水熱処理前の混合物の処理において、共沈、熟成に多大な時間を要する。また、共沈法では反応温度やpH、攪拌速度、水洗回数などの数種のパラメータを制御する必要があり、品質のコントロールが難しく、製造コストも多大にかかる。従って、従来の方法での合成は、量産に不向きである。
【0005】
そこで、この発明の目的は、目的生成物の合成時間を短縮することが可能であり、かつ、合成時の低コスト化と、大量生成時の品質のばらつきを低減することが可能な鉄含有チタン酸リチウムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鉄含有チタン酸リチウムの合成法の簡略化、および大量生成時の品質コントロールを容易にするため、種々の検討を行った。その結果、FeおよびTi源を水酸化リチウム中で湿式粉砕・混合処理して得られたスラリーを乾燥させ、その乾燥物を低温にて焼成した結果、簡便に鉄含有チタン酸リチウムを得ることができた。本発明者らのこのような知見に基づいて、本発明は以下のように構成される。
【0007】
この発明の一つの局面に従った鉄含有チタン酸リチウムの製造方法は、組成式Li1+x(Ti1−YFe1−X(0<X<1、0<Y<1)で表され、結晶構造が立方晶岩塩型である鉄含有チタン酸リチウムの製造工程において、湿式粉砕・混合工程と、乾燥工程と、焼成工程と、粉砕・分級工程とを備える。
【0008】
湿式粉砕・混合工程は、水酸化リチウム水溶液中でFe(鉄)源とTi(チタン)源との粉砕と混合とを同時に行う工程である。乾燥工程は、湿式粉砕・混合工程で得られる混合物を乾燥させる工程である。焼成工程は、乾燥工程で得られる乾燥物を焼成する工程である。粉砕・分級工程は、焼成工程で得られる焼成物を粉砕、分級を行う工程である。
【0009】
このようにすることにより、目的生成物の合成時間を短縮することが可能であり、かつ、合成時の低コスト化と、大量生成時の品質のばらつきを低減することが可能な鉄含有チタン酸リチウムの製造方法を提供することができる。
【0010】
この発明のもう一つの局面に従った鉄含有チタン酸リチウムの製造方法は、組成式Li1+x(Ti1−YFe1−X(0<X<1、0<Y<1)で表され、結晶構造が立方晶岩塩型である鉄含有チタン酸リチウムの製造工程において、湿式粉砕・混合工程と、乾燥工程と、カーボン添加混合工程と、焼成工程と、粉砕・分級工程とを備える。
【0011】
湿式粉砕・混合工程は、水酸化リチウム水溶液中でFe源とTi源との粉砕と混合とを同時に行う工程である。乾燥工程は、湿式粉砕・混合工程で得られる混合物を乾燥させる工程である。カーボン添加混合工程は、乾燥工程で得られる乾燥物にカーボンを添加して混合する工程である。焼成工程は、カーボン添加混合工程においてカーボンを添加して混合された乾燥物を焼成する工程である。粉砕・分級工程は、焼成工程で得られる焼成物を粉砕、分級を行う工程である。
【0012】
このようにすることにより、目的生成物の合成時間を短縮することが可能であり、かつ、合成時の低コスト化、大量生成時の品質のばらつきを低減することが可能な鉄含有チタン酸リチウムの製造方法を提供することができる。
【0013】
また、このように、カーボンを添加することにより、鉄含有チタン酸リチウム表面の電子伝導性が改善され、高い電流密度での容量低下を抑制することが可能となる。
【0014】
この発明のもう一つの局面に従った鉄含有チタン酸リチウムの製造方法においては、カーボン添加混合工程において乾燥物に添加されるカーボンの添加量は、鉄含有チタン酸リチウムの重量に対し、0.5wt%以上、10wt%以下であることが好ましい。
【0015】
この発明に従った鉄含有チタン酸リチウムの製造方法においては、Fe源としては、酸化鉄またはオキシ水酸化鉄のいずれか1つを用いることが好ましい。
【0016】
この発明に従った鉄含有チタン酸リチウムの製造方法においては、Ti源としては、二酸化チタン、オルソチタン酸、または、メタチタン酸のいずれか1つを用いることが好ましい。
【0017】
この発明に従った鉄含有チタン酸リチウムの製造方法においては、湿式粉砕・混合工程によって得られる混合物に含まれる粒子の粒子径が500nm以下であることが好ましい。
【0018】
この発明に従った鉄含有チタン酸リチウムの製造方法においては、焼成工程は、不活性雰囲気下において行われることが好ましい。
【0019】
この発明に従った鉄含有チタン酸リチウムの製造方法においては、焼成工程においては、400℃以上700℃以下の温度において焼成が行われることが好ましい。
【0020】
400℃以上の温度で焼成することによって、不純物の生成を防ぐことができる。また、700℃以下の温度で焼成することによって、粒子の成長を抑制することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、この発明によれば、目的生成物の合成時間を短縮することが可能であり、かつ、合成時の低コスト化、大量生成時の品質のばらつきを低減することが可能な鉄含有チタン酸リチウムの製造方法を提供することができる。また、カーボンを添加することにより、鉄含有チタン酸リチウム表面の電子伝導性が改善され、高い電流密度での容量低下を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
この発明の一つの局面に従った鉄含有チタン酸リチウムの製造方法は、組成式Li1+x(Ti1−YFe1−X(0<X<1、0<Y<1)で表され、結晶構造が立方晶岩塩型である鉄含有チタン酸リチウムの製造工程において、湿式粉砕・混合工程と、乾燥工程と、焼成工程と、粉砕・分級工程とを備える。
【0023】
湿式粉砕・混合工程は、水酸化リチウム水溶液中でFe(鉄)源とTi(チタン)源との粉砕と混合とを同時に行う工程である。乾燥工程は、湿式粉砕・混合工程で得られる混合物を乾燥させる工程である。焼成工程は、乾燥工程で得られる乾燥物を焼成する工程である。粉砕・分級工程は、焼成工程で得られる焼成物を粉砕、分級を行う工程である。
【0024】
このようにすることにより、目的生成物の合成時間を短縮することが可能であり、かつ、合成時の低コスト化と、大量生成時の品質のばらつきを低減することが可能な鉄含有チタン酸リチウムの製造方法を提供することができる。
【0025】
この発明のもう一つの局面に従った鉄含有チタン酸リチウムの製造方法は、組成式Li1+x(Ti1−YFe1−X(0<X<1、0<Y<1)で表され、結晶構造が立方晶岩塩型である鉄含有チタン酸リチウムの製造工程において、湿式粉砕・混合工程と、乾燥工程と、カーボン添加混合工程と、焼成工程と、粉砕・分級工程とを備える。
【0026】
湿式粉砕・混合工程は、水酸化リチウム水溶液中でFe源とTi源との粉砕と混合とを同時に行う工程である。乾燥工程は、湿式粉砕・混合工程で得られる混合物を乾燥させる工程である。カーボン添加混合工程は、乾燥工程で得られる乾燥物にカーボンを添加して混合する工程である。焼成工程は、カーボン添加混合工程においてカーボンを添加して混合された乾燥物を焼成する工程である。粉砕・分級工程は、焼成工程で得られる焼成物を粉砕、分級を行う工程である。
【0027】
このようにすることにより、目的生成物の合成時間を短縮することが可能であり、かつ、合成時の低コスト化、大量生成時の品質のばらつきを低減することが可能な鉄含有チタン酸リチウムの製造方法を提供することができる。
【0028】
また、このように、カーボンを添加することにより、鉄含有チタン酸リチウム表面の電子伝導性が改善され、高い電流密度での容量低下を抑制することが可能となる。
【0029】
添加するカーボンとしては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛、鱗片状黒鉛等の種類のカーボンを用いることができる。
【0030】
この発明のもう一つの局面に従った鉄含有チタン酸リチウムの製造方法においては、カーボン添加混合工程において乾燥物に添加されるカーボンの添加量は、鉄含有チタン酸リチウムの重量に対し、0.5wt%以上、10wt%以下であることが好ましい。
【0031】
この発明に従った鉄含有チタン酸リチウムの製造方法においては、Fe源としては、酸化鉄またはオキシ水酸化鉄のいずれか1つを用いることが好ましい。
【0032】
この発明に従った鉄含有チタン酸リチウムの製造方法においては、Ti源としては、二酸化チタン、オルソチタン酸、または、メタチタン酸のいずれか1つを用いることが好ましい。
【0033】
この発明に従った鉄含有チタン酸リチウムの製造方法においては、湿式粉砕・混合工程によって得られる混合物に含まれる粒子の粒子径が500nm以下であることが好ましい。
【0034】
この発明に従った鉄含有チタン酸リチウムの製造方法においては、焼成工程は、不活性雰囲気下において行われることが好ましい。
【0035】
この発明に従った鉄含有チタン酸リチウムの製造方法においては、焼成工程においては、400℃以上700℃以下の温度において焼成が行われることが好ましい。
【0036】
400℃以上の温度で焼成することによって、不純物の生成を防ぐことができる。また、700℃以下の温度で焼成することによって、粒子の成長を抑制することができる。
【実施例1】
【0037】
水酸化リチウム1水和物(林純薬工業株式会社製)549gを蒸留水3700ml中に溶解させた。その水溶液にTi源として二酸化チタン(テイカ株式会社製 AMT−100)353gと、Fe源としてオキシ水酸化鉄(日本高純度化学株式会社製)369gを加え攪拌を行った。
【0038】
攪拌後、混合溶液をジルコニアビーズが入ったサンドグラインダーミル(シンマルエンタープライズ製)に通して湿式粉砕・混合をおこなった。この工程は、水酸化リチウム水溶液中でFe源とTi源との粉砕と混合とを同時に行う湿式粉砕・混合工程の一例である。湿式粉砕・混合終了後の粒度を粒度分布計で測定した。
【0039】
湿式粉砕・混合後のスラリーを乾燥させるため、スプレードライヤー(藤崎電気株式会社製)を用いて乾燥させた。この工程は、湿式粉砕・混合工程で得られる混合物を乾燥させる乾燥工程の一例である。
【0040】
乾燥工程で得られた乾燥粉を100mlのるつぼに入れ、窒素雰囲気下、焼成温度が450℃、保持時間5時間の条件にて焼成を行った。この工程は、乾燥工程で得られる乾燥物を焼成する焼成工程の一例である。焼成工程は、不活性雰囲気下の一例として窒素雰囲気下で行われた。
【0041】
焼成粉はらいかい機にて解砕し、分級を行うことにより正極活物質を得た。この工程は、焼成工程で得られる焼成物を粉砕、分級を行う粉砕・分級工程の一例である。
【実施例2】
【0042】
湿式粉砕・混合後の粒子径が220nmであること以外は実施例1と同様の条件で行い、正極活物質を得た。
【実施例3】
【0043】
湿式粉砕・混合後の粒子径が380nmであること以外は実施例1と同様の条件で行い、正極活物質を得た。
【実施例4】
【0044】
Fe源を酸化鉄に変更した以外は、実施例1と同様の条件で行い、正極活物質を得た。
【実施例5】
【0045】
Ti源をオルソチタン酸に変更した以外は、実施例1と同様の条件で行い、正極活物質を得た。
【実施例6】
【0046】
焼成温度を400℃に変更した以外は、実施例1と同様の条件で行い、正極活物質を得た。
【実施例7】
【0047】
焼成温度を500℃に変更した以外は、実施例1と同様の条件で行い、正極活物質を得た。
【実施例8】
【0048】
焼成温度を600℃に変更した以外は、実施例1と同様の条件で行い、正極活物質を得た。
【実施例9】
【0049】
二酸化チタンの投入量を428g、オキシ水酸化鉄の投入量を369gに変更した以外は、実施例1と同様の条件で行い、正極活物質を得た。
【実施例10】
【0050】
二酸化チタンの投入量を281g、オキシ水酸化鉄の投入量を440gに変更した以外は、実施例1と同様の条件で行い、正極活物質を得た。
【参考例1】
【0051】
特許第3914981号(特許文献1)の実施例2で記載されている合成法(水熱合成法)を用いて、正極活物質を得た。
【0052】
(測定方法)
得られた物質(正極活物質)の粉体について、以下の測定装置を用いて物性の測定を行った。
X線回折装置:パナリティカル社製X’Pert PRO−MRD PW3040/60を用い、以下の測定条件で測定した。
45kV、40mA(Cu)、angle:5〜110°、Scan speed:0.104446°/S、Step size:0.0083556°
粒度分布:マイクロトラックMT-3000(日機装株式会社製)で測定した。
比表面積:BET法を用い、比表面積Quadrasorb SI (Quantachrome Instruments製)で測定した。
組成分析:ICP発光分光分析法を用いて、島津シーケンシャル形プラズマ発光分析装置(株式会社島津製作所製)で測定した。
【0053】
(正極活物質の電気化学的評価)
実施例1の正極活物質80wt%、導電助剤としてカーボンブラック10wt%、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)10wt%を、それぞれ当該比率となるように、N‐メチルピロリドンに溶解してスラリーを調整した。このスラリーをAl箔に塗布し、乾燥させた。乾燥させたシートを打ち抜き機で打ち抜くことで、評価用電極を作製した。対極には、金属リチウムを用い、Li金属箔を打ち抜いたものを使用した。
【0054】
評価用電極と対極との間に、ポリプロピレン製セパレーターを挟んで電極を構成し、コイン型の電池容器に入れた。そして、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)が、容量比でEC:DMC=1:2で混合されている混合溶媒中に、1MのLiPFを溶解させた電解液を注入した後、電池容器を封口することにより、実施例1の正極活物質評価用コイン型電池を製造した。
【0055】
実施例2から10、及び参考例1で得た正極活物質に対しても上記と同様な操作を行って正極活物質評価用コイン型電池を製造した。
【0056】
実施例1〜10と参考例1の正極活物質を用いて構成した電池それぞれに対し、電流密度0.05mA/cmで充電終止電圧4.5Vになるまで定電流充電を行い、その後、定電圧充電を行うことにより、充電を行った。その後、電流密度0.05mA/cmで電圧が1.0Vになるまで放電を行った。このときの各電池の放電容量を、製造条件、粉体物性と共に表1に記載した。
【0057】
【表1】

【0058】
表1に示すように、実施例1から実施例10の鉄含有チタン酸リチウムの正極活物質評価用コイン型電池は、参考例1の鉄含有チタン酸リチウムの正極活物質評価用コイン型電池と比較して、充電容量が高かった。また、実施例1〜6と実施例9、実施例10の鉄含有チタン酸リチウムの正極活物質評価用コイン型電池は、参考例1の鉄含有チタン酸リチウムの正極活物質評価用コイン型電池と比較して、放電容量も高かった。
【0059】
また、表1に示すように、実施例1から実施例10の製造方法によって製造された鉄含有チタン酸リチウムの比表面積は10〜29m/gであり、参考例1の製造方法によって製造された鉄含有チタン酸リチウムの比表面積の40m/gよりも小さかった。
【0060】
以上のように、実施例1〜10の鉄含有チタン酸リチウムの製造方法は、組成式Li1+x(Ti1−YFe1−X(0<X<1、0<Y<1)で表され、結晶構造が立方晶岩塩型である鉄含有チタン酸リチウムの製造工程において、湿式粉砕・混合工程と、乾燥工程と、焼成工程と、粉砕・分級工程とを備えるものであった。
【0061】
湿式粉砕・混合工程は、水酸化リチウム水溶液中でFe源とTi源との粉砕と混合とを同時に行う工程であった。乾燥工程は、湿式粉砕・混合工程で得られる混合物を乾燥させる工程であった。焼成工程は、乾燥工程で得られる乾燥物を焼成する工程であった。粉砕・分級工程は、焼成工程で得られる焼成物を粉砕、分級を行う工程であった。
【0062】
このようにすることにより、目的生成物の合成時間を短縮することが可能であり、かつ、合成時の低コスト化と、大量生成時の品質のばらつきを低減することが可能な鉄含有チタン酸リチウムの製造方法を提供することができた。
【実施例11】
【0063】
水酸化リチウム1水和物(林純薬工業株式会社製)549gを蒸留水3700ml中に溶解させた。その水溶液にTi源として二酸化チタン(テイカ株式会社製 AMT−100)353gとFe源としてオキシ水酸化鉄(日本高純度化学株式会社製)369gを加え攪拌を行った。
【0064】
攪拌後、混合溶液をジルコニアビーズが入ったサンドグラインダーミル(シンマルエンタープライズ製)に通して湿式粉砕・混合をおこなった。この工程は、水酸化リチウム水溶液中でFe源とTi源との粉砕と混合とを同時に行う湿式粉砕・混合工程の一例である。湿式粉砕・混合終了後の粒度を粒度分布計で測定した。
【0065】
湿式粉砕・混合後のスラリーを乾燥させるため、スプレードライヤー(藤崎電機株式会社製)を用いて乾燥させた。この工程は、湿式粉砕・混合工程で得られる混合物を乾燥させる乾燥工程の一例である。
【0066】
スプレードライヤー後の乾燥粉末とカーボン源であるアセチレンブラックを合成後の鉄含有チタン酸リチウムに対して5wt%になるように添加し、遊星ボールミル(フリッチュ・ジャパン株式会社製)で回転速度が300rpm、混合時間が1hの条件で混合した。この工程は、乾燥工程で得られる乾燥物にカーボンを添加して混合するカーボン添加混合工程の一例である。
【0067】
カーボン源を含んだ混合粉を100mlのるつぼに入れ、窒素雰囲気下、焼成温度が450℃、保持時間5時間の条件にて焼成を行った。この工程は、カーボン添加混合工程においてカーボンを添加して混合された乾燥物を焼成する焼成工程の一例である。
【0068】
焼成粉はらいかい機にて解砕し、分級を行うことにより正極活物質を得た。この工程は、焼成工程で得られる焼成物を粉砕、分級を行う粉砕・分級工程の一例である。
【実施例12】
【0069】
アセチレンブラックの添加量が鉄含有チタン酸リチウムに対し1wt%であること以外は実施例11と同様の条件で行い、正極活物質を得た。
【実施例13】
【0070】
アセチレンブラックの添加量が鉄含有チタン酸リチウムに対し3wt%であること以外は実施例11と同様の条件で行い、正極活物質を得た。
【実施例14】
【0071】
アセチレンブラックの添加量が鉄含有チタン酸リチウムに対し7wt%であること以外は実施例11と同様の条件で行い、正極活物質を得た。
【実施例15】
【0072】
アセチレンブラックの添加量が鉄含有チタン酸リチウムに対し10wt%であること以外は実施例11と同様の条件で行い、正極活物質を得た。
【参考例2】
【0073】
特許第3914981号(特許文献1)の実施例2で記載されている合成法(水熱合成法)を用いて、正極活物質を得た。
【0074】
(正極活物質の電気化学的評価)
実施例11の正極活物質80wt%、導電助剤としてカーボンブラック10wt%、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)10wt%を、それぞれ当該比率となるように、N‐メチルピロリドンに溶解してスラリーを調整した。なお、このときの導電助剤のカーボン量は、カーボン添加混合工程で添加、混合されて鉄含有チタン酸リチウムに被覆されているカーボンと合わせて10wt%となるように添加した。このスラリーをAl箔に塗布し、乾燥させた。乾燥させたシートを打ち抜き機で打ち抜くことで、評価用電極を作製した。対極には、金属リチウムを用い、Li金属箔を打ち抜いたものを使用した。
【0075】
評価用電極と対極との間に、ポリプロピレン製セパレーターを挟んで電極を構成し、コイン型の電池容器に入れた。そして、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)が、容量比でEC:DMC=1:2で混合されている混合溶媒中に、1MのLiPFを溶解させた電解液を注入した後、電池容器を封口することにより、実施例11の正極活物質評価用コイン型電池を製造した。
【0076】
実施例12〜15、及び参考例2で得た正極活物質に対しても上記と同様な操作を行って正極活物質評価用コイン型電池を製造した。
【0077】
実施例11〜15と参考例2の正極活物質を用いて構成した電池それぞれに対し、電流密度0.1mA/cmで充電終止電圧4.5Vになるまで定電流充電を行い、その後、定電圧充電を行うことにより、充電を行った。その後、電流密度が0.1mA/cmで電圧が1.0Vになるまで放電を行った。このときの各電池の放電容量を、製造条件、粉体物性と共に表2に記載した。
【0078】
【表2】

【0079】
粉体物性について、X線回折分析では、カーボン添加混合工程においてカーボンを添加しても、添加しない場合と同様の層状岩塩型のピークパターンを示した。また、カーボン添加混合工程においてカーボンを添加しても、添加しない場合と比較して、比表面積は大きく変化しなかった。
【0080】
電流密度を上げた時の電池評価の結果から、カーボン添加混合工程においてカーボンを添加した実施例11〜15の鉄含有チタン酸リチウムの正極活物質評価用コイン型電池はわずかながら容量低下があるもの、参考例2の鉄含有チタン酸リチウムの正極活物質評価用コイン型電池よりも容量が大きく向上している。これは、実施例11〜15では、参考例2と比較して、鉄含有チタン酸リチウム表面にカーボンが均一に被覆されているため、電子伝導性が改善され容量が向上したものと示唆される。しかし、カーボン添加量を増量すると電極作製時の充填密度が低下してしまうため、カーボン添加量としては10wt%以下が好ましい。
【0081】
以上のように、実施例11〜15の鉄含有チタン酸リチウムの製造方法は、組成式Li1+x(Ti1−YFe1−X(0<X<1、0<Y<1)で表され、結晶構造が立方晶岩塩型である鉄含有チタン酸リチウムの製造工程において、湿式粉砕・混合工程と、乾燥工程と、カーボン添加混合工程と、焼成工程と、粉砕・分級工程とを備えるものであった。
【0082】
湿式粉砕・混合工程は、水酸化リチウム水溶液中でFe源とTi源との粉砕と混合とを同時に行う工程であった。乾燥工程は、湿式粉砕・混合工程で得られる混合物を乾燥させる工程であった。カーボン添加混合工程は、乾燥工程で得られる乾燥物にカーボンを添加して混合する工程であった。焼成工程は、カーボン添加混合工程においてカーボンを添加して混合された乾燥物を焼成する工程であった。粉砕・分級工程は、焼成工程で得られる焼成物を粉砕、分級を行う工程であった。
【0083】
このようにすることにより、目的生成物の合成時間を短縮することが可能であり、かつ、合成時の低コスト化、大量生成時の品質のばらつきを低減することが可能な鉄含有チタン酸リチウムの製造方法を提供することができった。
【0084】
また、このように、カーボンを添加することにより、鉄含有チタン酸リチウム表面の電子伝導性が改善され、高い電流密度での容量低下を抑制することが可能となった。
【0085】
また、表2に示すように、実施例11から実施例15の製造方法によって製造された鉄含有チタン酸リチウムの比表面積は23〜27m/gであり、参考例2の製造方法によって製造された鉄含有チタン酸リチウムの比表面積の40m/gよりも小さかった。
【0086】
以上に開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の実施の形態と実施例ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正や変形を含むものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式Li1+x(Ti1−YFe1−X(0<X<1、0<Y<1)で表され、結晶構造が立方晶岩塩型である鉄含有チタン酸リチウムの製造工程において、水酸化リチウム水溶液中でFe源とTi源との粉砕と混合とを同時に行う湿式粉砕・混合工程と、
前記湿式粉砕・混合工程で得られる混合物を乾燥させる乾燥工程と、
前記乾燥工程で得られる乾燥物を焼成する焼成工程と、
前記焼成工程で得られる焼成物を粉砕、分級を行う粉砕・分級工程とを備える、鉄含有チタン酸リチウムの製造方法。
【請求項2】
組成式Li1+x(Ti1−YFe1−X(0<X<1、0<Y<1)で表され、結晶構造が立方晶岩塩型である鉄含有チタン酸リチウムの製造工程において、水酸化リチウム水溶液中でFe源とTi源との粉砕と混合とを同時に行う湿式粉砕・混合工程と、
前記湿式粉砕・混合工程で得られる混合物を乾燥させる乾燥工程と、
前記乾燥工程で得られる乾燥物にカーボンを添加して混合するカーボン添加混合工程と、
前記カーボン添加混合工程においてカーボンを添加して混合された乾燥物を焼成する焼成工程と、
前記焼成工程で得られる焼成物を粉砕、分級を行う粉砕・分級工程とを備える、鉄含有チタン酸リチウムの製造方法。
【請求項3】
前記カーボン添加混合工程において乾燥物に添加されるカーボンの添加量は、鉄含有チタン酸リチウムの重量に対し、0.5wt%以上、10wt%以下である、請求項2に記載の鉄含有チタン酸リチウムの製造方法。
【請求項4】
前記Fe源としては、酸化鉄またはオキシ水酸化鉄のいずれか1つを用いる、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の鉄含有チタン酸リチウムの製造方法。
【請求項5】
前記Ti源としては、二酸化チタン、オルソチタン酸、または、メタチタン酸のいずれか1つを用いる、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の鉄含有チタン酸リチウムの製造方法。
【請求項6】
前記湿式粉砕・混合工程によって得られる混合物に含まれる粒子の粒子径が500nm以下である、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の鉄含有チタン酸リチウムの製造方法。
【請求項7】
前記焼成工程は、不活性雰囲気下において行われる、請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の鉄含有チタン酸リチウムの製造方法。
【請求項8】
前記焼成工程においては、400℃以上700℃以下の温度において焼成が行われる、請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の鉄含有チタン酸リチウムの製造方法。


【公開番号】特開2012−30988(P2012−30988A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169675(P2010−169675)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(000215800)テイカ株式会社 (108)
【Fターム(参考)】