説明

鉄筋コンクリート構造物のひび割れ防止具及びそれを用いたひび割れ防止構造

【課題】乾燥収縮によるコンクリートのひび割れをより確実に抑制する。
【解決手段】本発明に係る鉄筋コンクリート構造物のひび割れ防止構造1は、RC壁2に形成された開口3の隅部4近傍に圧縮力導入機構5を埋設するとともに、該圧縮力導入機構の近傍に可撓性拘束部材としての拘束筋6を埋設してなり、圧縮力導入機構5及び拘束筋6は、本実施形態に係るひび割れ防止具21を構成する。拘束筋6は、両端を有するとともに、内方に包囲空間が形成されるよう、中心角がほぼ270度の円弧状に湾曲形成してあり、例えばD10程度の異形鉄筋を円弧状に加工形成して構成することができる。拘束筋6は、圧縮力導入機構5を構成する一対の定着板13a,13bによってコンクリート中に形成される圧縮応力領域31の内側に配置できるよう、その直径を設定しておく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として鉄筋コンクリート壁に形成された窓等の開口の隅部に用いられる鉄筋コンクリート構造物のひび割れ防止具及びそれを用いたひび割れ防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート構造物を構成するコンクリートは、本来的に引張力に弱く、乾燥や温度変化による収縮変形が拘束されると、ひび割れが生じる。応力が集中しやすい開口の隅部には、上述したひび割れが特に発生しやすい。
【0003】
コンクリートのひび割れは、引張応力を鉄筋が負担し圧縮応力をコンクリートが負担するという鉄筋コンクリート構造の特性上、それ自体が鉄筋コンクリートの強度にただちに悪影響を及ぼすものではないが、ひび割れを原因としたコンクリートの中性化によって鉄筋が腐食した場合、経年的には鉄筋コンクリートの強度にも悪影響が及ぶ。加えて、コンクリートのひび割れは、強度上問題ないとしても、鉄筋コンクリート構造物の美観を損ねたり、漏水を発生させたりする。
【0004】
ここで、コンクリートにひび割れが生じる原因は、上述したような乾燥や温度変化を受けたときの変形拘束のほか、地震によって過大な強制変形を受けることが挙げられるが、乾燥収縮は、鉄筋コンクリート構造物を構築した直後から初期ひび割れとして数多く発現するため、漏水や美観の点で従来からさまざまな対策がとられてきた。
【0005】
【特許文献1】特開昭57−48055号公報
【特許文献2】特開昭63−110344号公報
【特許文献3】特開2002−266469号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような乾燥収縮による初期ひび割れは、例えば、コンクリートを打設した後、開口隅部に圧縮力を導入することで、ある程度抑制することができる(特許文献1,2)。
【0007】
しかしながら、鉄筋コンクリート構造物には、以前にも増して高いデザイン性や美観が求められており、従来の技術では、昨今のニーズに対応することが難しいという問題を生じていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、乾燥収縮や熱収縮によるコンクリートの初期ひび割れをより確実に抑制することが可能な鉄筋コンクリート構造物のひび割れ防止具及びそれを用いたひび割れ防止構造を提供することを目的とする。
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る鉄筋コンクリート構造物のひび割れ防止具は請求項1に記載したように、鉄筋コンクリート構造物に形成された開口の隅部近傍に埋設される圧縮力導入機構と、該圧縮力導入機構の近傍に埋設され両端を有する可撓性拘束部材とからなる鉄筋コンクリート構造物のひび割れ防止具であって、前記可撓性拘束部材を、内方に包囲空間が形成されるように湾曲又は屈曲状に形成するとともに、前記可撓性拘束部材の形状及び寸法を、前記圧縮力導入機構を構成する一対の定着部によってコンクリート中に形成される圧縮応力領域内に配置できるように設定したものである。
【0010】
また、本発明に係る鉄筋コンクリート構造物のひび割れ防止具は、前記可撓性拘束部材を全体形状がコ字状、L字状又は円弧状となるように形成したものである。
【0011】
また、本発明に係る鉄筋コンクリート構造物のひび割れ防止構造は請求項3に記載したように、鉄筋コンクリート構造物に形成された開口の隅部近傍に圧縮力導入機構を埋設するとともに、両端を有し内方に包囲空間が形成されるように湾曲又は屈曲状に形成された可撓性拘束部材を前記圧縮力導入機構の近傍に埋設してなる鉄筋コンクリート構造物のひび割れ防止構造であって、前記圧縮力導入機構を、その圧縮方向が前記開口の隅部に発生するであろうひび割れの走行方向に直交するように配置するとともに、該ひび割れが前記可撓性拘束部材の両端で挟み込まれるように該可撓性拘束部材を配置し、前記可撓性拘束部材を、前記圧縮力導入機構を構成する一対の定着部によってコンクリート中に形成される圧縮応力領域内に配置したものである。
【0012】
また、本発明に係る鉄筋コンクリート構造物のひび割れ防止構造は、前記可撓性拘束部材を全体形状がコ字状、L字状又は円弧状となるように形成したものである。
【0013】
本発明に係る鉄筋コンクリート構造物のひび割れ防止具は、圧縮力導入機構と、両端を有し内方に包囲空間が形成されるように湾曲又は屈曲状に形成された可撓性拘束部材とからなり、該可撓性拘束部材は、圧縮力導入機構を構成する一対の定着部によってコンクリート中に形成される圧縮応力領域内に配置できるように形状及び寸法を設定してある。
【0014】
本発明に係るひび割れ防止具を用いて鉄筋コンクリート構造物に形成された開口のひび割れ抑制を行うには、圧縮力導入機構を開口の隅部近傍に埋設するとともに、該圧縮力導入機構の近傍に可撓性拘束部材を埋設する。
【0015】
ここで、圧縮力導入機構については、その圧縮方向が開口の隅部に発生するであろうひび割れの走行方向に概ね直交するように配置する。
【0016】
また、可撓性拘束部材については、該可撓性拘束部材の両端で前述のひび割れが挟み込まれるように配置するとともに、圧縮力導入機構を作動させたときにコンクリート中に形成される圧縮応力領域内に可撓性拘束部材が概ね収まるよう、該可撓性拘束部材を配置する。
【0017】
次に、コンクリートが硬化して所定の強度が発現した後、圧縮力導入機構を作動させる。
【0018】
このようにすると、鉄筋コンクリート構造物に形成された開口の隅部には、従来技術と同様、圧縮力導入機構を構成する一対の定着部によって圧縮力が導入され、かかる圧縮力によって該開口隅部に生ずるひび割れが抑制されるが、本発明においては、可撓性拘束部材をコンクリート中に形成される圧縮応力領域内に配置してあるため、圧縮力導入機構で導入された圧縮力の一部がコンクリートを介して可撓性拘束部材にも作用し、その包囲空間内に向けてコンクリートに圧縮力を別途及ぼしめる。
【0019】
そして、可撓性拘束部材の両端が開口隅部に生ずるであろうひび割れを挟み込むように該可撓性拘束部材を配置してあるため、開口隅部に位置するコンクリートには、可撓性拘束部材による圧縮応力があらたに発生する。
【0020】
すなわち、開口隅部でひび割れが生じるであろう箇所には、圧縮力導入機構による圧縮応力に加えて、可撓性拘束部材による圧縮応力が累加的に発生することとなり、かくして開口隅部に生ずるであろうひび割れをさらに確実に抑制することが可能となる。
【0021】
可撓性拘束部材によってコンクリートに生じる圧縮応力は、圧縮力導入機構によってコンクリートに直接発生する圧縮応力とは異なり、コンクリートを介して可撓性拘束部材に作用する圧縮力により、該可撓性拘束部材が間接的にコンクリートに圧縮応力を発生させるものであり、本明細書では、圧縮力導入機構による圧縮応力を1次圧縮応力、可撓性拘束部材による圧縮応力を2次圧縮応力と呼ぶ。
【0022】
なお、圧縮力導入機構のみの構成では、1次圧縮応力がコンクリートに生じるだけであり、可撓性拘束部材のみの構成では圧縮応力は生じ得ない。すなわち、圧縮力導入機構単独の構成による作用効果(1次圧縮応力の発生)と可撓性拘束部材単独の構成による作用効果(圧縮応力は発生せず)を総和したとしても、本発明の作用効果(1次圧縮応力及び2次圧縮応力の発生)には至らない。
【0023】
加えて、圧縮力導入機構と可撓性拘束部材による上述した相乗効果は、本出願人の実験で初めて見出されたものであって、当業者といえども容易に予測できるものではない。
【0024】
圧縮力導入機構は、一対の定着部と、該一対の定着部をコンクリート硬化後に引き寄せることでコンクリートを圧縮し該コンクリート中に圧縮応力を発生させる圧縮力導入部材と、該圧縮力導入部材を作動させる操作部とを備えたものであれば、その構成は任意であるが、例えばプレストレス形式のものを用いるのがよい。
【0025】
プレストレス形式の圧縮力導入機構として、「プレトール」(登録商標)の商品名で本出願人が製造販売しているひび割れ防止治具を採用することができる。
【0026】
可撓性拘束部材は、両端を有しかつ内方に包囲空間が形成されるように湾曲又は屈曲状に形成されることによって、コンクリートを介して圧縮力導入機構から圧縮力を受けるとともに、該圧縮力で内方の包囲空間に拡がるコンクリートに2次圧縮応力を発生させることができるものであって、かかる作用を奏する限り、具体的な形状は任意であり、例えばコ字状、L字状又は円弧状に形成し、さらに具体的には、半円に曲げ加工した異形鉄筋や平鋼を用いて構成することができる。
【0027】
ここで、圧縮力導入機構と別体の構成とした本発明に係る可撓性拘束部材は、コンクリートを介して圧縮力導入機構から圧縮力を受けることができる程度に圧縮応力領域内に配置されれば足りるものであり、全体寸法が圧縮応力領域内に完全に収まることまで必要とするものではなく、開口隅部をできるだけ広く取り囲んでひび割れを抑制するためには、圧縮応力領域に収まる範囲内でできるだけ大きい方が望ましい。
【0028】
圧縮応力領域は、圧縮力導入機構を構成する一対の定着部が引き寄せられることで、圧縮力が導入されコンクリート中に圧縮応力が発生する領域であって、典型的には、各定着部から概ね45゜方向に拡がる範囲が該当する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明に係る鉄筋コンクリート構造物のひび割れ防止具及びそれを用いたひび割れ防止構造の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。なお、従来技術と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0030】
図1は、本実施形態に係る鉄筋コンクリート構造物のひび割れ防止構造を示した図である。同図でわかるように、本実施形態に係るひび割れ防止構造1は、鉄筋コンクリート構造物としてのRC壁2に形成された開口3の隅部4近傍に圧縮力導入機構5を埋設するとともに、該圧縮力導入機構の近傍に可撓性拘束部材としての拘束筋6を埋設してなり、圧縮力導入機構5及び拘束筋6は、本実施形態に係るひび割れ防止具21を構成する。
【0031】
圧縮力導入機構5は、その圧縮方向が開口3の隅部4に発生するであろうひび割れの走行方向(同図では水平軸に対して45度の角度で隅部4から左上に延びる方向)に概ね直交するように配置してある。ひび割れは、主としてコンクリート打設後の乾燥収縮に起因したものであり、応力が集中する隅部4に発生しやすい。
【0032】
図2は、圧縮力導入機構5を示した図である。同図でわかるように、圧縮力導入機構5は、直列配置された反力パイプ11a,11bと、該反力パイプに挿通されPC鋼棒で形成された緊張力導入ロッド12と、該緊張力導入ロッドの一端に圧着固定された定着板13aと、他端に螺合された定着板13bと、反力パイプ11a,11bの間に挟み込まれるU型スペーサー14と、反力パイプ11a,11bの外周側に配置されるシール管15a,15bとから構成してあり、緊張力導入ロッド12に引張力を与えた状態で反力パイプ11a,11bの間にU型スペーサー14を挟み込むことで、緊張力導入ロッド12の引張力を反力パイプ11a,11bの圧縮力と均衡させ、かかる状態でコンクリートが硬化した後にU型スペーサー14を引き抜くことにより、反力パイプ11a,11bが負担していた圧縮力をコンクリートに導入し、該コンクリートに圧縮応力を発生させることができるようになっている。なお、定着板13a,13bは、本発明に係る一対の定着部を構成する。
【0033】
拘束筋6は、両端を有するとともに、内方に包囲空間が形成されるよう、中心角がほぼ270度の円弧状に湾曲形成してあり、例えばD10程度の異形鉄筋を円弧状に加工形成して構成することができる。
【0034】
拘束筋6は図3に示すように、圧縮力導入機構5を構成する一対の定着板13a,13bによってコンクリート中に形成される圧縮応力領域31の内側に配置できるよう、その直径を設定しておく。
【0035】
圧縮応力領域31は、一対の定着板13a,13bが引き寄せられることで、圧縮力が導入され、コンクリート中に圧縮応力が発生するゾーンであって、各定着板13a,13bから概ね45゜方向に拡がる範囲であってそれらの重なり部分が該当する。
【0036】
定着板13aは、緊張力導入ロッド12に圧着された円筒スリーブと該円筒スリーブの端部に一体に設けられた環状板とから構成してあるとともに、定着板13bは、緊張力導入ロッド12の他端に切られた雄ねじが螺合されるナットと環状板とからなり、これらの環状板が主として定着板としての機能を担う。
【0037】
本実施形態に係るひび割れ防止具21を用いてRC壁2に形成された開口3のひび割れ抑制を行うには、圧縮力導入機構5を開口3の隅部4近傍に埋設するとともに、該圧縮力導入機構の近傍に拘束筋6を埋設する。
【0038】
ここで、圧縮力導入機構5については図3に示すように、その圧縮方向が開口3の隅部4に発生するであろうひび割れ32の走行方向に概ね直交するように、配置する。
【0039】
また、拘束筋6については、発生するであろうひび割れ32が挟み込まれるように配置するとともに、圧縮力導入機構5を作動させたときにコンクリート中に形成される圧縮応力領域31内に拘束筋6が概ね収まるよう、該拘束筋を配置する。
【0040】
図3に示したひび割れ32は、本実施形態に係るひび割れ防止具21がなければ、開口3の隅部4に発生するであろうひび割れであり、典型的には隅部4から左上45゜方向に延びる。
【0041】
圧縮力導入機構5や拘束筋6は、必要に応じて番線等の結束部材で鉄筋7(図1)に結束したり、型枠(図示せず)に仮止めしたりすればよい。なお、これらの結束や仮止めは、あくまでコンクリート打設時の位置ずれを防止するためのものであって、圧縮力導入機構5で導入される圧縮力が拘束筋6に直接伝達させるためのものではなく、圧縮力導入機構5及び拘束筋6は、互いに非固定とする。
【0042】
次に、コンクリート硬化後、圧縮力導入機構5を作動させる、すなわち、U型スペーサー14を引き抜くことにより、反力パイプ11a,11bの圧縮力を解放する。
【0043】
このようにすると、RC壁2に形成された開口3の隅部4には、従来技術と同様、圧縮力導入機構5を構成する一対の定着部13a,13bによって圧縮力が導入され、かかる圧縮力によって図3に示すように圧縮応力領域31に1次圧縮応力を発生させる。
【0044】
加えて、拘束筋6をコンクリート中に形成される圧縮応力領域31内に配置してあるため、導入された圧縮力は、その一部がコンクリートを介して拘束筋6にも作用し(同図点線)、かかる拘束筋6は、その包囲空間内に向けてコンクリートに圧縮力を別途作用させ(同図実線)、2次圧縮応力を発生させる。
【0045】
そして、図3に示すように、拘束筋6の両端が開口3の隅部4に生ずるであろうひび割れ32を挟み込むように拘束筋6を配置してあるため、開口隅部に位置するコンクリートには、拘束筋6による圧縮応力があらたに発生する。
【0046】
以上説明したように、本実施形態に係るひび割れ防止具21及びそれを用いたひび割れ防止構造1によれば、開口隅部でひび割れ32が生じるであろう箇所には、圧縮力導入機構5による圧縮応力(1次圧縮応力)に加えて、拘束筋6による圧縮応力(2次圧縮応力)が累加的に発生することとなり、かくして開口3の隅部4に生ずるであろうひび割れがさらに確実に抑制される。
【0047】
ちなみに、後述する実験によれば、ひび割れ幅は、従来の約0.6〜0.8倍に抑制され、初期ひび割れに起因する従来の問題を改善することができることがわかった。
【0048】
本実施形態では、円弧形成された拘束筋6で本発明の可撓性拘束部材を構成したが、可撓性拘束部材は、内方に包囲空間が形成されるように湾曲又は屈曲状に形成された両端を有する部材である限り、その具体的構成については任意であり、円弧でなくても円弧状、例えば楕円であってもかまわないし、そもそも円弧状である必要はなく、コ字状やL字状あるいは弓状であってもかまわない。
【0049】
図4(a)は、L字状に形成された可撓性拘束部材41を、同図(b)は弓状に形成された可撓性拘束部材42をそれぞれ示したものである。
【実施例】
【0050】
本発明に係るひび割れ防止具の作用効果を実証する試験を行ったので、以下に説明する。
【0051】
矩形フレーム窓枠を縦横に二分割した状態に相当するL字状窓枠部分を製作し、これを試験体とした(試験体寸法は同図に示した通り)。図5は、かかる試験体を45゜回転させて示した正面図である。なお、載荷試験機によって荷重を載荷する箇所については、試験の都合上、面取りして平坦に形成した。開口隅部には、ひび割れ幅を計測するための開口部変位計91を取り付けた。
【0052】
図6は、半円状鉄筋が2本の斜筋に取り付けられた複合鉄筋を示した平面図であり、本発明との対比で用いたものである(寸法は同図に示した通り)。また、図7は、「プレトール」という商品名で本出願人が製造販売している圧縮力導入機構と、中心角がほぼ270度の円弧状に湾曲形成した拘束筋とで構成したひび割れ防止具を示した平面図である(寸法は同図に示した通り)。
【0053】
試験は、従来の開口補強手段である斜筋だけを使ったケース1、複合鉄筋を併用したケース2、斜筋と「プレトール」とを併用したケース3、及び「プレトール」と拘束筋とで構成されたひび割れ防止具を用いたケース4の計4ケース行った。
【0054】
載荷試験の結果を図8に示す。
【0055】
同図でわかるように、50kNの荷重で見たとき、ケース4では、ひび割れ幅は0.0125mm程度に抑制されているのがわかる。
【0056】
一方、従来技術では、ケース1やケース2が示すように、同荷重時において、ひび割れ幅は0.02mmであり、「プレトール」を使っても0.015mm程度に抑制できるにとどまった。ちなみに、従来技術のひび割れ抑制は、主として地震荷重レベルを対象としているため、本実証試験のように初期ひび割れに対応した荷重の場合、ひび割れ抑制効果は小さいことがわかる。
【0057】
したがって、本発明に係るひび割れ防止具を用いれば、乾燥収縮や熱収縮に伴うひび割れ幅を、従来の0.6〜0.8倍程度に抑制することができる。
【0058】
なお、図8における荷重範囲は、初期ひび割れの原因となる乾燥収縮や温度変化によって開口隅部に作用するであろう荷重を想定し、100kN以下とした。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本実施形態に係る鉄筋コンクリート構造物のひび割れ防止構造1及びそれに用いるひび割れ防止具21を示した平面図。
【図2】圧縮力導入機構5を示した図であり、(a)は平面図、(b)はA−A線に沿う断面図、(c)はU型スペーサー14近傍の詳細図。
【図3】本実施形態に係るひび割れ防止構造1及びそれに用いるひび割れ防止具21の作用を示した図。
【図4】変形例に係るひび割れ防止具を示した図。
【図5】本発明の実証試験に用いた試験体の図であり、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は平面図。
【図6】従来の複合鉄筋を示した平面図。
【図7】実証試験で用いたひび割れ防止具を示した平面図。
【図8】実証試験の結果を示したグラフ。
【符号の説明】
【0060】
1 ひび割れ防止構造
2 RC壁(鉄筋コンクリート構造物)
3 開口
4 隅部
5 圧縮力導入機構
6 拘束筋(可撓性拘束部材)
13a,13b 定着板
21 ひび割れ防止具
31 圧縮応力領域
32 ひび割れ
41,42 可撓性拘束部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート構造物に形成された開口の隅部近傍に埋設される圧縮力導入機構と、該圧縮力導入機構の近傍に埋設され両端を有する可撓性拘束部材とからなる鉄筋コンクリート構造物のひび割れ防止具であって、前記可撓性拘束部材を、内方に包囲空間が形成されるように湾曲又は屈曲状に形成するとともに、前記可撓性拘束部材の形状及び寸法を、前記圧縮力導入機構を構成する一対の定着部によってコンクリート中に形成される圧縮応力領域内に配置できるように設定したことを特徴とする鉄筋コンクリート構造物のひび割れ防止具。
【請求項2】
前記可撓性拘束部材を全体形状がコ字状、L字状又は円弧状となるように形成した請求項1記載の鉄筋コンクリート構造物のひび割れ防止具。
【請求項3】
鉄筋コンクリート構造物に形成された開口の隅部近傍に圧縮力導入機構を埋設するとともに、両端を有し内方に包囲空間が形成されるように湾曲又は屈曲状に形成された可撓性拘束部材を前記圧縮力導入機構の近傍に埋設してなる鉄筋コンクリート構造物のひび割れ防止構造であって、前記圧縮力導入機構を、その圧縮方向が前記開口の隅部に発生するであろうひび割れの走行方向に直交するように配置するとともに、該ひび割れが前記可撓性拘束部材の両端で挟み込まれるように該可撓性拘束部材を配置し、前記可撓性拘束部材を、前記圧縮力導入機構を構成する一対の定着部によってコンクリート中に形成される圧縮応力領域内に配置したことを特徴とする鉄筋コンクリート構造物のひび割れ防止構造。
【請求項4】
前記可撓性拘束部材を全体形状がコ字状、L字状又は円弧状となるように形成した請求項3記載の鉄筋コンクリート構造物のひび割れ防止構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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