説明

鉄筋コンクリート造建物の耐震補強構造及び耐震補強工法

【課題】鉄筋コンクリート造建物を圧縮材としてのみ使用する鉄骨ブレースの後付けによる耐震補強構造及び耐震補強工法を提供する。
【解決手段】鉄筋コンクリート造建物の柱1と梁2が形成する開口部3の一つの対角線方向に、中間部に折れ点4aを有し同折れ点4aが他の対角線方向へ偏倚eを生じた屈曲状態の主ブレース4が配置され、同主ブレース4の両端部は柱1と梁2が形成する開口部3の該当する隅部7、8へ当接状態に固定される。主ブレース4の折れ点4aの構成部分4Aと、折れ点4aが偏倚eを生じた他の対角線方向に対峙する柱・梁開口部3の隅部8’との間に補助ブレース5が配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、既存の鉄筋コンクリート造建物を、圧縮材としてのみ使用する鉄骨ブレースの後付けによる耐震補強構造及び耐震補強工法の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
既存の鉄筋コンクリート造建物等を鉄骨ブレースの後付けにより耐震補強を行う構造及び施工法の先行技術としては、下記の特許文献1〜5に記載された技術が公知である。
先ず下記の特許文献1に記載された「耐震補強ブレース構造」は、建造物の柱・梁から成る骨組構造に、地震力等の水平力に対する抵抗要素として柱・梁構面内に配置されると説明されている。具体的には柱・梁仕口の構面内に略四辺形に配置される閉鎖状部材と、その四隅を柱・梁構面の四隅と連結する放射状部材とで構成されている。したがって、力学的には、閉鎖状部材及びその四隅を柱梁構面の四隅と連結する放射状部材はいずれも引張り材として用いられている。
また、下記の特許文献2に記載された「ブレース制震装置」は、柱・梁フレームの四隅中、3点から引き出した引張り材を、所定の角度で1点に結合して、ブレースに引張り力のみが作用する構成とされている。
【0003】
次に、下記の特許文献3に記載された「ブレース構造」は、柱・梁で囲まれた構面内に、一方のブレースを構面の一隅と梁の中央部とを連結する配置とし、他のブレースは前記ブレースで構面に形成された三角形の一隅と、前記ブレースの中間部とを連結する座屈防止用支持部材とで構成されている。
更に、下記の特許文献4に記載された「ブレース」は、柱・梁で形成される矩形フレームの対角線方向に配置され、その交差部に交差部分割ブレースを配置して、各ブレースを交差部で連結した構成とされている。ただし、前記の各ブレースは鉄筋コンクリート製のプレキャスト部材であり、前記柱・梁で形成される矩形フレームの四隅との取り合いは連結用の当接部材を用いて連結している。
【0004】
また、下記の特許文献5に記載された「RC造躯体開口部の耐震補強方法」も、鉄筋コンクリート造躯体の開口部の内周面に沿って周辺枠を構成し、上辺の枠にせん断パネルを設け、該せん断パネルを頂点とし、下辺の枠を底辺とする三角形状にブレースを設けた金属系耐震構造を構成する。そのため柱、梁にアンカーを打ち、枠の方にスタッドを取り付けて枠を開口部に納め、無収縮モルタルを打設して取り付ける旨の説明が認められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−85098号公報
【特許文献2】特開平11−148245号公報
【特許文献3】特開2007−63953号公報
【特許文献4】特許第4594826号公報
【特許文献5】特公平7−51803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のとおり、既往の各先行技術文献1〜5を概観すると、既存の鉄筋コンクリート造建物或いは鉄骨造建物の柱・梁構面を後付けのブレースで補強して耐震性を高める技術的思想に立脚して種々な工夫が行われている。
上記の特許文献1、2に開示された発明は、ブレースを引張り材として使用している。特許文献3、4の発明でも、ブレースには圧縮と引張りが交番的に作用することを前提として構成したことが認められる。
しかし、ブレースに引張り力を作用させる引張りブレースの場合、ブレースと柱・梁フレームとの接合部は、引張り力に耐える構造とすることが必要となり、現状では前記接合部に後施工アンカーを施工して接合ないし固定することが必須となっている。そのため後施工アンカーの工事中に発生する騒音が周辺の住環境を害するという問題があり、実施の難点になっている。
【0007】
従って、本発明の目的は、既存する鉄筋コンクリート造建物の柱・梁構面を後付けのブレースで補強して耐震性を高めるにあたり、ブレースは圧縮ブレースとしてのみ用いる構成で後施工アンカー工事の必要をなくし、もって後施工アンカーの工事中に発生する騒音の問題を解決した耐震補強構造及び耐震補強工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する手段として、請求項1に記載した発明に係る鉄筋コンクリート造建物の耐震補強構造は、
鉄筋コンクリート造建物の柱1と梁2が形成する開口部3の一つの対角線方向に、中間部に折れ点4aを有し同折れ点4aが他の対角線方向へ偏倚eを生じた屈曲状態の主ブレース4が配置され、同主ブレース4の両端部は前記柱1と梁2が形成する開口部3の該当する隅部7、8へ当接状態に固定される。
前記主ブレース4の折れ点4aの構成部分4Aと、前記折れ点4aが偏倚eを生じた他の対角線方向に対峙する柱・梁開口部3の隅部8’との間に補助ブレース5が配置される。
前記補助ブレース5と前記折れ点4aの構成部分4Aとの接合部位に、又は補助ブレース5の一端とこれに対峙する柱・梁開口部3の隅部8’との接合部位に、若しくは補助ブレース5自体の中間部分を分断して形成した接合部位のいずれかに、補助ブレース5の軸線方向に配置されたボルト6aと同ボルト6aにねじ込まれたナット6b、及び前記ナット6bの締結力に反力を与える反力板6cとで構成された軸力導入機構6が設けられる。
前記軸力導入機構6を操作して補助ブレース5に軸圧縮力が導入され、前記補助ブレース5の軸圧縮力で前記屈曲状態の主ブレース4の折れ点4aにその偏倚eを押し戻す作用を生じさせて主ブレース4にも軸圧縮力を導入し圧縮ブレース構造を構成することを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載した発明に係る鉄筋コンクリート造建物の耐震補強構造は、
鉄筋コンクリート造建物の柱1と梁2とで形成する開口部3が1本の1柱を共通にしてその左右に隣接して形成された二つの開口部3、3に、前記共通する柱1の左右に形成された隅部7、7’と、これと対角線方向に相対峙する隅部8、8’とを結ぶ方向にそれぞれ、中間部に折れ点4aを有し同折れ点4aが他の対角線方向へ偏倚eを生じた屈曲状態の主ブレース4が配置され、同主ブレース4の両端部は前記柱1と梁2が形成する開口部3の該当する隅部7、8又は7’と8’へ当接状態に固定される。
前記主ブレース4の折れ点4aの構成部分4Aと、前記折れ点4aが偏倚eを生じた方向に対峙する柱・梁開口部3の隅部8’又は8との間に補助ブレース5が配置される。
前記補助ブレース5と前記折れ点4aの構成部分4Aとの接合部位に、又は補助ブレース5の一端とこれに対峙する柱・梁開口部3の隅部8’又は8との接合部位に、若しくは補助ブレース5自体の中間部分を分断して形成した接合部位のいずれかに、補助ブレース5の軸線方向に配置されたボルト6aと同ボルト6aにねじ込まれたナット6b、及び前記ナット6bの締結力に反力を与える反力板6cとで構成された軸力導入機構6が設けられる。
前記軸力導入機構6を操作して補助ブレース5に軸圧縮力が導入され、前記補助ブレース5の軸圧縮力で前記屈曲状態の主ブレース4の折れ点4aへその偏倚eを押し戻す作用を生じさせて当該主ブレース4にも軸圧縮力を導入し圧縮ブレース構造を構成することを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載した発明は、請求項1又は2に記載した鉄筋コンクリート造建物の耐震補強構造において、
主ブレース4の折れ点4aの構成部分4Aは、鉄骨材同士を直接に一定の偏倚eを生じた形態に溶接で接合して、又は主ブレース材同士の接合部にピンジョイントを形成して構成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載した発明に係る鉄筋コンクリート造建物の耐震補強工法は、
鉄筋コンクリート造建物の柱1と梁2が形成する開口部3の一つの対角線方向に、中間部に折れ点4aを有し同折れ点4aが他の対角線方向へ偏倚eを生じた屈曲状態の主ブレース4を配置し、同主ブレース4の両端部は前記柱1と梁2が形成する開口部3の該当する隅部7、8へ当接状態に固定する段階と、
前記主ブレース4の折れ点4aの構成部分4Aと、前記折れ点4aが偏倚eを生じた方向に対峙する柱・梁開口部3の隅部8’との間に補助ブレース5を配置する段階と、
前記補助ブレース5と前記折れ点4aの構成部分4Aとの接合部位に、又は補助ブレース5の一端とこれに対峙する柱・梁開口部3の隅部8’との接合部位に、若しくは補助ブレース5自体の中間部分を分断して形成した接合部位のいずれかに、補助ブレース5の軸線方向に配置されたボルト6aと同ボルト6aにねじ込まれたナット6b、及び前記ナット6bの締結力に反力を与える反力板6cとで構成された軸力導入機構6を設ける段階と、
前記軸力導入機構6を操作して補助ブレース5に軸圧縮力を導入し、前記補助ブレース5の軸圧縮力で前記屈曲状態の主ブレース4の折れ点4aへその偏倚eを押し戻す作用を生じさせて当該主ブレース4にも軸圧縮力を導入し圧縮ブレース構造を構成する段階とより成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る鉄筋コンクリート造建物の耐震補強構造及び耐震補強工法は、鉄筋コンクリート造建物の柱1と梁2が形成する開口部3の一つの対角線方向に、中間部に折れ点4aを有し同折れ点4aは他の対角線方向へ偏倚eを生じた屈曲状態の主ブレース4を配置し、同主ブレース4の両端部は前記柱1と梁2が形成する開口部3の該当する隅部7、8へ当接状態に固定し、
前記主ブレース4の折れ点4aの構成部分4Aと、前記折れ点4aが偏倚eを生じた方向に対峙する柱・梁開口部3の隅部8’との間に補助ブレース5を配置し、
前記補助ブレース5と前記折れ点4aの構成部分4Aとの接合部位に、又は補助ブレース5の一端とこれに対峙する柱・梁開口部3の隅部8’との接合部位に、若しくは補助ブレース5自体の中間部分を分断して形成した接合部位のいずれかに、補助ブレース5の軸線方向に配置されたボルト6aと同ボルト6aにねじ込まれたナット6b、及び前記ナット6bの締結力に反力を与える反力板6cとで構成した軸力導入機構6を設け、
前記軸力導入機構6を操作して補助ブレース5へ軸圧縮力を導入し、前記補助ブレース5の軸圧縮力で屈曲状態の主ブレース4の折れ点4aへその偏倚eを押し戻す作用を生じさせ、当該主ブレース4にも軸圧縮力を導入して全体を圧縮ブレース構造に構成するから、主ブレース4及び補助ブレース5と、柱1と梁2が形成する開口部3の隅部7、8との取り合い部には圧縮力のみが働く。
よって、前記取り合い部の構成に引張り力の作用を一切考慮しなくて良い。従って、後施工アンカーの施工は一切無用であり、後施工アンカーの施工に伴う騒音や振動の問題は生じない。
しかも鉄筋コンクリート造建物は、その柱1と梁2が形成する開口部3を主ブレース4により対角線方向に強く補強、補剛されるから、耐震補強の実効が十分に奏される。
折れ点4aで屈曲状態の主ブレース4は、同折れ点4aに偏倚eを生じているが、当該折れ点4aを補助ブレース5で支持するから、折れ点4aにおける面内座屈の虞もない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明による耐震補強構造の実施例1が施工された鉄筋コンクリート造建物の開口部を示した立面図である。
【図2】図1に指示したII部の構造詳細図である。
【図3】図1中に指示したIII部の構造詳細図である。
【図4】図1と図3に示した折れ点部分を鉄骨材で構成した実施例の斜視図である。
【図5】図1と図3に示した折れ点部分をピンジョイント構造で構成した実施例の斜視図である。
【図6】図1の耐震補強構造とは天地の関係が異なる実施例2を示した立面図である。
【図7】本発明による耐震補強構造の異なる実施例3を示した立面図である。
【図8】本発明による耐震補強構造の配置例を建物平面で例示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明による鉄筋コンクリート造建物の耐震補強構造は、鉄筋コンクリート造建物の柱1と梁2が形成する開口部3の一つの対角線方向に、中間部に折れ点4aを有し、同折れ点4aは他の対角線方向に偏倚eを生じて屈曲状態の主ブレース4を配置し、同主ブレース4の両端部は前記柱1と梁2が形成する開口部3の該当する隅部7、8へ当接状態に固定する。
前記主ブレース4の折れ点4aの構成部分4Aと、前記折れ点4aが偏倚eを生じた方向に対峙する柱・梁開口部3の隅部8’との間に補助ブレース5を配置する。
更に前記補助ブレース5と前記折れ点4aの構成部分4Aとの接合部位に、又は補助ブレース5の一端とこれに対峙する柱・梁開口部3の隅部8’との接合部位に、若しくは補助ブレース5自体の中間部分を分断して形成した接合部位のいずれかに、補助ブレース5の軸線方向に配置されたボルト6aと、同ボルト6aにねじ込まれたナット6b、及び前記ナット6bの締結力に反力を与える反力板6cとで構成された軸力導入機構6を設ける。
そして、前記軸力導入機構6を操作して補助ブレース5に軸圧縮力を導入し、前記補助ブレース5の軸圧縮力で前記屈曲状態の主ブレース4の折れ点4aへその偏倚eを押し戻す作用を生じさせて当該主ブレース4にも軸圧縮力を導入し、全てのブレースを圧縮ブレース構造として構成し実施する。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明による鉄筋コンクリート造建物の耐震補強構造及び施工法の実施例1を示している。
鉄筋コンクリート造建物の柱1と梁2が形成する開口部3の一つの対角線方向に、中間部に折れ点4aを有し、同折れ点4aは他の対角線方向に偏倚eを生じて屈曲状態を呈する主ブレース4が配置されている。この主ブレース4はH形鋼等の鉄骨材で形成され、その両端部は前記柱1と梁2が形成する開口部3の該当する隅部7、8へ当接状態に固定されている。具体的には図2を参照できるように、主ブレース4の両端部にアングル形状の定着金物11を溶接により予め取り付けておき、前記の定着金物11を開口部3の該当する隅部7、8へ直角な相似形状に配置し、同定着金物11と隅部との隙間へ例えば無収縮モルタル12を密実にグラウト充填して弛みのない構造に固定される。
因みに図1は、同図中の地震等による右方向からの水平力に対する抵抗要素としての圧縮ブレース構造を示している。しかし、同図1において左側の柱1を線対称軸に回転して、上下の隅部7、8’と隅部8の関係を対称に保つ構成を構築すると、左方向からの水平力に対する抵抗要素としての圧縮ブレース構造となる。
なお、前記した構成は、後述する図8に示した圧縮ブレース構造のモデルに等しく、前者がモデル(b)、後者がモデル(a)に相当する。
【0016】
また、前記主ブレース4の上記折れ点4aと、該折れ点4aが偏倚eを生じた方向に対峙する柱・梁開口部3の隅部8’との間には補助ブレース5が配置される。補助ブレース5にもH形鋼等の鉄骨材が使用されている。
上記主ブレース4の折れ点4aの構成部分4Aと、補助ブレース5の端部とは、工場又は現場サイトにおいて、例えば図3に示した構造に予め強固にボルト接合しておいて、これらのブレースを柱・梁開口部3の構面内へ組み入れて上記のように配置する。
因みに、図3と図4は、H形鋼を用いて主ブレース4の折れ点4aの構成部分4Aを構築した構造の詳細を示している。
特に図4に示した折れ点の構成部分4Aは、主ブレース4に用いたH形鋼と同形、同大のH形鋼による二つの主ブレース接合片4b、4bが、同じくH形鋼を用いた補助ブレース5の接合片5aを中間部に挟んで一体化した構成とされている。しかも二つの主ブレース接合片4b、4bの配置関係は、上記折れ点4aの偏倚eを形成する角度θ(図3を参照)にフランジ及びウエブを加工して突き合わせて、折れ点4aが当該方向の対角線Rから偏倚eを生じた構成とし、溶接接合により一体化した構造とされている。前記の各溶接は、フランジ同士はもとより、ウエブとフランジ及びウエブ同士も、レ型又はK型に開先加工して突き合わせ、その全周縁を連続溶接することにより、折れ点の構成部分4Aは強固に構成されている。
【0017】
更に図3によれば、前記の折れ点の構成部分4Aを形成した左右二つの主ブレース接合片4b、4bにそれぞれ、主ブレース4が、添え板12を用いてフランジ及びウエブをボルト13とナット14とで強固に接合した構成を示している。
図3はまた、上記の折れ点の構成部分4Aを構成する補助ブレース5の接合片5aへも、補助ブレース5が、やはり添え板12を用いてウエブをボルト13とナットにより接合した構成を示している。なお、図3に示した折れ点4aの構成部分4Aと、補助ブレース5とのボルト接合は、ウエブのみを添え板を用いたボルト接合で示しているが、この限りではない。図5に例示したように、フランジも添え板を用いたボルト接合を行うことも好ましい。
因みに、上記折れ点4aの偏倚eを形成する角度θの大きさ、及び偏倚eの量(図3を参照)は、当該圧縮ブレース構造による建物の耐震補強の効果などを実証試験と共に適宜に設計することになる。
【0018】
なお、上記の折れ点4a及び構成部分4Aの構造は、図5に例示したピンジョイント構造としても実施することができる。
図5に示した折れ点の構成部分4Aは、左右二つの主ブレース接合片4b、4bと、及び補助ブレース接合片5aそれぞれの接合端部に、所謂ヒンジの如く互い違いに重なり合う円形のピン継手部4cを形成し、各ピン継手部4cのピン孔が連結ピン4dを共通に通せる配置に互い違いの重なり状態に組み合わせ、連結ピン4dを通して回動自在に連結した構成とされている。
その上で、左右二つの主ブレース接合片4b、4bにそれぞれ、主ブレース4が、添え板12を用いてフランジ及びウエブをボルト13とナット14で接合されている。また、補助ブレース接合片5aへも、補助ブレース5が、やはりウエブとフランジを添え板12を用いてそれぞれボルト13とナットにより接合した構成とされている。
図5に示したピンジョイント構造の折れ点の構成部分4Aでは、上記の連結ピン4dが折れ点4aを構成する。主ブレース4に必要とされる偏倚eの大きさは、柱・梁開口部3へ組み入れる際に適切な屈曲角度θ(図3を参照)を設定して実施する。
【0019】
上記構成による折れ点4aの構成部分4Aを介して屈曲された主ブレース4、4と、補助ブレース5の組み物を柱・梁開口部3内へ組み入れる工程に入る以前に、図1に示した実施例の場合では、補助ブレース5の他端とこれが対峙する柱・梁開口部3の隅部8’との接合部に、予め軸力導入機構6が設けられる。
軸力導入機構6の構成は、その一例を図2に示したとおり、ボルト・ナットによるネジ送り機構(又はネジ式ジャッキ)を応用している。即ち、ボルト6aは、補助ブレース5の軸線と同一方向へ配置して、その一端部が補助ブレース5へ強力に固定されている。このボルト6aは、補助ブレース5の端板5bから一定の長さ、即ち、補助ブレース5へ軸圧縮力を導入するネジ操作に必要、十分な長さが突き出されている。そして、前記ボルト6aへねじ込まれたナット6b、及び前記ナット6bの締結力に反力を与える反力板6cとで構成されている。
反力板6cは、上記ボルト6aを貫通させる孔を有しており、図2に示したように、上記主ブレース4の端部に採用したアングル形状の定着金物11へ、支持棒6fを用いて、補助ブレース5及びボルト6aの軸線に対し垂直な配置に取り付けられている。ナット6bは、予めボルト6aにねじ込まれて前記反力板6cの補助ブレース寄りの面へ接する配置とされている。反力板6cはまた、その裏側にボルト6aの先端が一定の長さ突き出るのを許容する空間6eを確保した構成とされている。
【0020】
したがって、前記補助ブレース5を上記主ブレース4と共に柱・梁開口部3内へ組み入れる際には、先ず主ブレース4と両端の上記定着金物11の接合を先行して行う。次いで下端部の隅部8へ均しモルタル2で定着した後、前記主ブレース4の本体を前記定着金物11と、これに対峙する前記隅部7とで形成される隙間を設けた状態に仮に取り付ける。そして、前記隙間へ無収縮モルタル12をグラウト充填して、主ブレース4の設置を先行して行う。つづいて補助ブレース5の上記定着金物11を開口部3の該当する隅部8’へ直角な相似形状に配置し、この定着金物11と隅部との隙間へも無収縮モルタル12を密実にグラウト充填して弛みのない構造に固定する。
【0021】
しかる後に、上記軸力導入機構6のナット6bを正転方向へ回転操作すると、同ナット6bは反力板6cへ接して反力を得るので、逆にボルト6aを次第に突き上げてゆき、補助ブレース5に相当大きさの軸圧縮力が導入される。前記の軸圧縮力が増大するにつれて、当該補助ブレース5の他端を接合した上記屈曲状態の主ブレース4の折れ点4aには、その偏倚eを押し戻す(又は押し返す)作用が生じる。その結果、いわゆるトグルリンクを開脚させる動作に似て前記偏倚eを減少させる動きが進み、この動きに比例して両側の主ブレース4、4に等しく軸圧縮力が導入される。かくして補助ブレース5はもとより、折れ点4aの両側の主ブレース4、4にもほぼ同等大きさの軸圧縮力が導入されて圧縮ブレース構造となる。
もとより各ブレース4、4及び5に作用する軸圧縮力の大きさは、上記ナット6bを正転方向へ回転操作するねじ込み量に比例して設定できる。よって、軸圧縮力の大きさを設計値の大きさに調整することも容易に確実にできる。逆に、同ナット6bを逆転して緩めることにより、前記の軸力を低減し解消させて耐震補強構造の解体やブレースの交換、補修なども容易に行える。
上記の事項は以下に説明する各実施例についても共通する説明である。
【0022】
なお、 上記軸力導入機構6の機構形式や構成は、上記ネジ機構の限りではない。同様に軸圧縮力を補助ブレース5へ導入できる構成、機能である限り、種々な機構や動力源を適用することができる。その選択と適用は設計事項である。
また、上記軸力導入機構6を設置する場所も、上記実施例のように補助ブレース5の外端とこれが対峙する柱・梁開口部3の隅部8’との接合部間の位置に限らない。必要に応じて、前記補助ブレース5と折れ点4aを構成する補助ブレース接合片5aとの接合部間に、又は補助ブレース5自体の中間部分を二つに分断した接合部などへも同様に設けて実施することができる。前記の選択は設計事項である。
【実施例2】
【0023】
次に、図6は、図1に示した実施例1における主ブレース4、4と補助ブレース5の配置関係を上下に逆の構成とした実施例2を示している。その他の構成、作用は実施例1と実質的な変更点はなく、建物の耐震補強構造としての作用にも差異はない。
もっとも図6の実施例2によれば、軸力導入機構6の位置が高くなり、その操作に多少不便を来す。しかし、図6中に点線で図示したように、建物内の人や物の出入りを許容する開口部15を設ける場合には便利に実施できる。
【実施例3】
【0024】
次に、図7に示した本発明の実施例3を説明する。この実施例3は、いうなれば請求項2に記載した発明に係る鉄筋コンクリート造建物の耐震補強構造の実施例である。
この実施例3の基本的構成は、上記図1の実施例1とほぼ共通する。しかし、図7では1本の共通する柱1の左右両側に隣接する二つの開口部3、3内に、同柱1を対称軸として左右対称的な配置にブレースを組み込んだブレース構造に特徴を有する。
本実施例3の場合、左右方向に隣接する柱1及び開口部3との関係では、図1のブレース構造が順次に対称的な配置で左右方向の各開口部について連続する構成で実施することが基本的考えである。更に言えば、上述した図1及び図6のブレース構造についても同様に、1本の柱1を共通にして隣接する左右二つの開口部3、3内に、図7ように左右対称の配置に構成して実施する場合に等しいが、この限りではない。
後の段落番号[0027]で説明するように、図1又は図6、或いは図7に示した左右いずれかのブレース構造をそれぞれ単独で、建物の柱・梁の開口部を適宜に選択して配置し実施することができる。
【0025】
本実施例3は、鉄筋コンクリート造建物の柱1と梁2が形成する開口部3が1本の柱1を共通にして左右に隣接して形成された二つの開口部3、3内に、前記柱1の左右両側に形成された隅部7、7’と、これらの隅部と対角線方向に相対峙する隅部8、8’とを結ぶ一つの対角線方向にそれぞれ、主ブレース4、4が配置されている。主ブレース4が中間部に折れ点4aを有し、同折れ点4aは他の対角線方向に偏倚eを生じて屈曲状態とされていることも上記の各実施例と共通する。これら主ブレース4、4の両端部は、前記柱1と梁2とが形成する開口部3、3の該当する隅部7’と7及び8’と8へ当接状態に固定されている。
前記の各主ブレース4、4の折れ点4aの構成部分4Aと、同折れ点4aが偏倚eを生じた方向に対峙する柱・梁開口部3の隅部8’、8との間に、それぞれ補助ブレース5、5が配置されている。
そして、前記の各補助ブレース5の一端と、これが対峙する柱・梁開口部3の隅部8’、8との接合部に、軸力導入機構6が設けられている。もっとも軸力導入機構6を設ける位置は図示例の限りではなく、補助ブレース5と主ブレース4の折れ点4aの部分4Aとの接合部に、又は補助ブレース5自体の中間部分を二つに分断し接合部間のいずれかに設置しても同様に実施することができる。
【0026】
本実施例3の場合も、軸力導入機構6は、上述した補助ブレース5に一端部を固定し軸線方向に配置して突き出させたボルト6aと、このボルト6aにねじ込まれたナット6b、及び前記ナット6bの締結力に反力を与える反力板6cとで構成されている。
したがって、前記軸力導入機構6のナット6bを正転方向へ回転操作して反力板6cへ強く締め込むことで、補助ブレース5に軸圧縮力が導入される。この補助ブレース5の軸圧縮力で前記屈曲状態の主ブレース4の折れ点4aへその偏倚eを押し戻す方向の軸圧縮力を作用させ、当該主ブレース4に、トグルリンク機構の開脚動作にも似た軸圧縮力を等しく導入して圧縮ブレース構造に構成することも上記の各実施例と同じである。
【0027】
なお、上記図7に示した実施例3の耐震補強構造の好ましい実施形態は、図7の通り、柱1と上下の梁2、2が形成する開口部3が1本の柱1を共通にしてその左右に隣接して形成された二つの開口部3、3の各々にブレース構造を組み入れた構成を基本とするが、決してこの実施形態に限らない。
具体的には図8に柱・梁フレームの伏せ図とブレース構造の配置例を示したように、図1或いは図6又は図7に示したブレース構造(a)と(b)を、数フレームを隔てた開口部へ単独に又は組み合わせて配置して実施することも好ましい。或いは耐震補強をするべき建物の平面形状や柱1、梁2、又は壁等の構造部材の配置状態を構造設計の観点から検討して、配置するべき開口の位置を決定するのが一層効果的にもなる。
図8に付記した右傾斜形状型(a)と左傾斜形状型(b)の少なくとも一つのブレース構造を適切に設計し実施すれば足りる。
その結果、耐震補強が必要な位置に、且つ圧縮ブレースにより補強して耐震性を高める方向に配置できるという効果が得られる。
【0028】
なお、請求項3に記載した発明に係る鉄筋コンクリート造建物の耐震補強工法は、上述した実施例1、2の耐震補強構造をそれぞれ実施する工程として実施されるものであるから、ここで更に繰り返し説明することは省略する。
【0029】
以上に本発明を図示した実施例に基づいて説明したが、もとより本発明は実施例の構成に限定されるものではない。いわゆる当業者が必要に応じて行うであろう設計変更その他の応用、改変の範囲まで含むことを念のため申し添える。
【符号の説明】
【0030】
1 柱
2 梁
3 開口部
4 主ブレース
4a 折れ点
4A 折れ点部分
6 軸力導入機構
6a ボルト
6b ナット
6c 反力板
7、7’ 隅部
8、8’ 隅部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート造建物の柱と梁が形成する開口部の一つの対角線方向に、中間部に折れ点を有し同折れ点が他の対角線方向へ偏倚を生じた屈曲状態の主ブレースが配置され、同主ブレースの両端部は前記柱と梁が形成する開口部の該当する隅部へ当接状態に固定されており、
前記主ブレースの折れ点の部分と、同折れ点が偏倚を生じた他の対角線方向に対峙する柱・梁開口部の隅部との間に補助ブレースが配置されており、
前記補助ブレースと前記折れ点の部分との接合部位に、又は補助ブレースの一端とこれに対峙する柱・梁開口部の隅部との接合部位に、若しくは補助ブレース自体の中間部分を分断して形成した接合部位のいずれかに、補助ブレースの軸線方向に配置されたボルトと同ボルトにねじ込まれたナット、及び前記ナットの締結力に反力を与える反力板とで構成された軸力導入機構が設けられており、
前記軸力導入機構を操作して補助ブレースに軸圧縮力が導入され、前記補助ブレースの軸圧縮力で前記屈曲状態の主ブレースの折れ点にその偏倚を押し戻す作用を生じさせて当該主ブレースにも軸圧縮力を導入して圧縮ブレース構造に構成したことを特徴とする、鉄筋コンクリート造建物の耐震補強構造。
【請求項2】
鉄筋コンクリート造建物の柱と梁が形成する開口部が1本の柱を共通にしてその左右に隣接して形成された二つの開口部に、前記共通する柱の左右に形成された隅部と、これと対角線方向に相対峙する隅部とを結ぶ方向にそれぞれ、中間部に折れ点を有し同折れ点が他の対角線方向へ偏倚を生じた屈曲状態の主ブレースが配置され、同主ブレースの両端部は前記柱と梁が形成する開口部の該当する隅部へ当接状態に固定されており、
前記主ブレースの折れ点の部分と、該折れ点が偏倚を生じた方向に対峙する柱・梁開口部の隅部との間に補助ブレースが配置されており、
前記補助ブレースと前記折れ点の部分との接合部位に、又は補助ブレースの一端とこれに対峙する柱・梁開口部の隅部との接合部位に、若しくは補助ブレース自体の中間部分を分断して形成した接合部位のいずれかに、補助ブレースの軸線方向に配置されたボルトと同ボルトにねじ込まれたナット、及び前記ナットの締結力に反力を与える反力板とで構成された軸力導入機構が設けられており、
前記軸力導入機構を操作して補助ブレースに軸圧縮力が導入され、前記補助ブレースの軸圧縮力で前記屈曲状態の主ブレースの折れ点へその偏倚を押し戻す作用を生じさせて当該主ブレースにも軸圧縮力を導入して圧縮ブレース構造に構成したことを特徴とする、鉄筋コンクリート造建物の耐震補強構造。
【請求項3】
主ブレース4の折れ点部分は、鉄骨材同士を直接に一定の偏倚を生じた形態に溶接で接合して、又は主ブレース材同士の接合部にピンジョイントを形成して構成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載した鉄筋コンクリート造建物の耐震補強構造。
【請求項4】
鉄筋コンクリート造建物の柱と梁が形成する開口部の一つの対角線方向に、中間部に折れ点を有し同折れ点が他の対角線方向へ偏倚を生じた屈曲状態の主ブレースを配置し、同主ブレースの両端部は前記柱と梁が形成する開口部の該当する隅部へ当接状態に固定する段階と、
前記主ブレースの折れ点の部分と、該折れ点が偏倚を生じた方向に対峙する柱・梁開口部の隅部との間に補助ブレースを配置する段階と、
前記補助ブレースと前記折れ点の部分との接合部位に、又は補助ブレースの一端とこれに対峙する柱・梁開口部の隅部との接合部位に、若しくは補助ブレース自体の中間部分を分断して形成した接合部位のいずれかに、補助ブレースの軸線方向に配置されたボルトと同ボルトにねじ込まれたナット、及び前記ナットの締結力に反力を与える反力板とで構成された軸力導入機構を設ける段階と、
前記軸力導入機構を操作して補助ブレースに軸圧縮力を導入し、前記補助ブレースの軸圧縮力で前記屈曲状態の主ブレースの折れ点へその偏倚を押し戻す作用を生じさせて当該主ブレースにも軸圧縮力を導入して圧縮ブレース構造に構成する段階とより成ることを特徴とする、鉄筋コンクリート造建物の耐震補強工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−229581(P2012−229581A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99592(P2011−99592)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】