説明

鉄製のフライパン

【課題】鉄製のフライパンのメリットを活かしつつ、錆びにくく、傷がつきにくく耐久性があり、しかも手入れが簡単でこびりつきにくい鉄製のフライパンを提供すること。
【解決手段】鉄製のフライパン本体1の表面に窒化処理を施して窒化層2を形成し、この窒化層2の表面にブラスト処理を施して微細な凹凸面3を形成し、この微細な凹凸面3に酸化処理を施し酸化被膜4を形成して微細な凹凸面5を有する酸化表面層4を前記窒化層2上に形成した鉄製のフライパン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄製のフライパンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄製のフライパンは、料理が美味しくなる,丈夫で長持ち,鉄分の摂取,安心安全など様々なメリットがあるが、錆びる,手入れが面倒,こびりつくなどのデメリットがあるため、使われなくなってきている。
【0003】
昨今では、アルミなどのフライパンの表面にフッ素樹脂をコーティングしたフライパンが広く普及している。
【0004】
このフッ素樹脂コーティングしたフライパンは、こびりつきにくく手入れが簡単で錆びにくいとして好評であるが、このフッ素樹脂の熱伝導率は鉄の1/271で極めて熱伝導が悪いため、正しい調理温度は180℃であるにもかかわらず2倍近くの高い温度で焼いたり炒めたりの調理を行うようになってきてしまっており、そのため長期の使用に耐えられず、2〜3ケ月程度でフッ素樹脂が溶けるなど耐久性に劣る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、鉄製のフライパンの表面に酸窒化処理を施すことに着目し、更に研究の末、これに改良を加えることで、鉄製のフライパンのメリットを活かしつつデメリットも改善することを見い出したもので、料理が美味しく,丈夫で長持ち,鉄分の摂取,安心安全,錆びにくい,手入れが簡単で、しかも傷がつきにくく耐久性があり、こびりつきにくい極めて優れた鉄製のフライパンを実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0007】
鉄製のフライパン本体1の表面に窒化処理を施して窒化層2を形成し、この窒化層2の表面にブラスト処理を施して微細な凹凸面3を形成し、この微細な凹凸面3に酸化処理を施し酸化被膜4を形成して微細な凹凸面5を有する酸化表面層4を前記窒化層2上に形成したことを特徴とする鉄製のフライパンに係るものである。
【0008】
また、前記窒化処理は、ガス窒化処理若しくはガス軟窒化処理を採用したことを特徴とする請求項1記載の鉄製のフライパンに係るものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は上述のように構成したから、鉄製のフライパンのメリットを発揮できるだけでなく、酸化被膜により錆びにくく、また拭き取り易く手入れが容易にでき、しかも、表面塗装や樹脂加工などを要しないため衛生上の問題もなく、熱伝導の悪い樹脂層などを形成していないために、油分を薄くひいた状況での焼き調理が上手くできると共に、耐久性にも優れる安心安全な鉄製のフライパンとなり、その上、表面の微細な凹凸面が油溜まりとなるので、調理物がこびりつきにくいなど、極めて実用性に優れた鉄製のフライパンとなる。
【0010】
また、請求項2記載の考案においては、フライパン本体の表面に簡易に且つ確実に多孔質で耐摩耗性に優れた強靭な窒化層を形成できる一層実用性に優れた鉄製のフライパンとなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施例を示す斜視図である。
【図2】本実施例のフライパン本体の表面の部分拡大写真である。
【図3】本実施例のフライパン本体の部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0013】
例えば、鉄板をスピニング加工して形成した鉄製のフライパン本体1の表面に、窒化処理して耐摩耗性に優れた強靭な窒化層2を形成する。
【0014】
例えば、500℃〜600℃程度に加熱したアンモニアガス噴霧中で窒化するガス窒化処理を行うことでラジカルな窒素が鉄表面中に拡散して窒化層2を形成し、表面の硬度を上げ、ヘラや返しやタワシなどでこすっても傷が付きにくいフライパンとなる。
【0015】
また、これに酸化処理を施して酸化被膜4を形成することで、錆びにくくこびりつきにくいフライパンとなる。
【0016】
しかも本発明は、単にこのような酸窒化処理を施すのではなく、窒化処理によって形成した前記窒化層2は、多孔質の化合物層2となるが、この化合物層2の表面にブラスト処理を施してその表面に微細な凹凸面3を形成した後に、酸化処理によって酸化被膜4を形成することで、微細な凹凸面5を有する酸化表面層4を前記窒化層2上に形成している。
【0017】
従って、ただでさえ多孔質な窒化層2の表面にブラスト処理による微細な凹凸を形成したため、この窒化層2の表面は、所謂ダブルエンボス加工が施されたかのような微細な凹凸面3となり、この微細な凹凸面3の表面に形成される酸化被膜4もダブルエンボス加工が施されたかのような微細な凹凸面5となるため、これが油溜まりとなって調理物(食材)のこびりつきがほとんどない。即ち、例えば油を入れて余った油をオイルポットに戻したり、油を拭き取るだけで、この微細な凹凸面5による油溜まりに油が微小にして一様に残り、調理物が焦げ付かずこびりつかないフライパンを実現できることになる。
【0018】
従って、本発明は、鉄製であることによる熱伝導の良さや、鉄イオン効果による鉄分の摂取が期待できるだけでなく、酸化被膜4により錆びにくく、拭き取り易く手入れが楽となり、また、表面塗装や樹脂加工などしなくても良いため衛生上の問題もなく安心安全であり、熱伝導の悪い樹脂層などを形成していないため、耐久性にも優れる鉄製のフライパンとなる。
【0019】
しかも、樹脂コーティングなどによってこびりつきを防止する場合は、油や食材から出る汁などが溜まり焼き調理や炒め調理が上手くできなかったが、前記微細な凹凸面5が油溜まりとなり、また表面層には熱伝導の悪い樹脂層を形成していないため、油分を薄くひいた状況での焼き調理が上手く実現できる優れた鉄製のフライパンを実現できることとなる。
【実施例】
【0020】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0021】
本実施例のフライパンは、平面視円形で浅底のフライパン本体1の側面に、棒状の握柄6を突設した構成としている。
【0022】
また、本実施例のフライパン本体1は、鉄製としている。
【0023】
本実施例のフライパン本体1の製造方法を説明すると、先ず、鉄板をスピニング加工して形成した鉄製のフライパン本体1の表面に窒化処理を施して窒化層2を形成する。
【0024】
具体的には、本実施例の窒化処理は、公知のガス窒化処理を採用している。
【0025】
更に詳しくは、鉄製のフライパン本体1を、アンモニアガスを含んだ雰囲気中に曝露し、オーステナイト化温度以下の温度域で加熱することにより、鉄の表面近傍に窒素を浸透させて硬化させる。
【0026】
すると、鉄製のフライパン本体1の表面には多孔質の窒化層2(化合物層2)が形成されることになる。
【0027】
尚、窒化処理は、公知のガス軟窒化処理を採用しても良く、ガス軟窒化処理によっても同様にフライパン本体1の表面には多孔質の窒化層2(化合物層2)が形成されることになる。
【0028】
次に、この鉄製のフライパン本体1の窒化層2の表面にブラスト処理を施して微細な凹凸面3を形成する。
【0029】
具体的には、本実施例のブラスト処理は、エアーブラストを採用している。
【0030】
更に詳しくは、圧縮空気に直接投射材を混合して噴射する直圧式を採用し、投射材は、アランダム♯46(アルミナ系研磨材、直径0.33mm)を採用している。
【0031】
このブラスト処理により、多孔質の窒化層2の表面に微細な凹凸を形成する。即ち、ただでさえ多孔質な窒化層2の表面にブラスト処理による微細な凹凸を形成したため、この窒化層2の表面は、所謂ダブルエンボス加工が施されたかのような微細な凹凸面3となる構成としている。
【0032】
次に、この微細な凹凸面3に酸化処理を施し酸化被膜4を形成して微細な凹凸面5を有する酸化表面層4を前記窒化層2上に形成する。
【0033】
具体的には、本実施例の酸化処理は、公知のスチーム酸化処理(ホモ処理)を採用している。
【0034】
更に詳しくは、窒化層2が形成されたフライパン本体1を、スチーム(水蒸気)を含んだ雰囲気中に曝露し、600℃以下に管理することにより、窒化層2の表面に酸化皮膜3を形成する。
【0035】
すると、水蒸気の強い酸化力により、窒化層2が形成されたフライパン本体1が酸化する(窒化層2の表面に微細な凹凸面5を有する酸化表面層4が形成される。)。
【0036】
出願人が試作品のフライパン本体1の表面粗さ(酸化表面層4の凹凸面5の粗さ)を確認したところ、JIS規格の最大高さ(Ry)は、16.4μm,算術平均粗さ(Ra)は、2.63μmであった。
【0037】
窒化処理とブラスト処理を行わない鉄製のフライパン(表面を磨いただけの鉄製フライパン素材)の表面凹凸は、最大高さ(Ry)が、4.1〜4.8μm,算術平均粗さ(Ra)が0.73〜0.9μm程度であるので、これに比べて本実施例のフライパン本体1は、非常に微細な凹凸面5を具備するものとなった。
【0038】
そして、このような微細な凹凸面5を具備する本実施例のフライパン本体1は、表面凹凸が油溜まりとなり、この多数の油溜まりに油が微小にして一様に残ることとなり、これによって調理物がこびりつかないことが確認されている。
【0039】
このようにして製造したフライパン本体1の側面に、前記握柄6を付設して本実施例のフライパンが完成する。
【0040】
尚、本発明は、本実施例に限られるものではなく、窒化処理,ブラスト処理,酸化処理及び各構成要件の具体的構成については適宜設計し得るものである。
【符号の説明】
【0041】
1 フライパン本体
2 窒化層
3 凹凸面
4 酸化被膜・酸化表面層
5 凹凸面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄製のフライパン本体の表面に窒化処理を施して窒化層を形成し、この窒化層の表面にブラスト処理を施して微細な凹凸面を形成し、この微細な凹凸面に酸化処理を施し酸化被膜を形成して微細な凹凸面を有する酸化表面層を前記窒化層上に形成したことを特徴とする鉄製のフライパン。
【請求項2】
前記窒化処理は、ガス窒化処理若しくはガス軟窒化処理を採用したことを特徴とする請求項1記載の鉄製のフライパン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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