説明

鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出装置およびその位置検出方法

【課題】鉄道車両の在線位置を検出する鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出装置および位置検出方法を提供する。
【解決手段】鉄道車両に搭載される速度計用の速度発電機5と、この速度発電機5に接続される補償器6と、前記鉄道車両に設置されるGPSアンテナ9と、SBAS受信機10と、このSBAS受信機10からの前記鉄道車両の速度情報および方位情報、並びに前記補償器6からの出力電圧および鉄道車両の走行条件が入力され、前記速度計における入力電圧から速度への変換定数および前記入力電圧と前記速度情報との関係の記憶手段とを備える速度検出部11と、この速度検出部11からの速度情報および方位情報、前記鉄道車両の走行条件に基づいて、前記SBAS受信機10からの位置座標と水平保護レベルおよび路線上の位置とその経緯度が関係付けられた路線情報を用いて鉄道車両の在線位置を検出する位置検出部13とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出装置およびその位置検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両上で路線上の自列車在線位置を把握するとともに、路線情報や列車前方の支障条件に基づいて運転速度が安全速度を超えないように制御する運転保安システムは、軌道回路を用いて列車検知と対車上情報伝送を行うデジタルATCと、軌道回路を用いず無線による地上車上間双方向情報伝送を行うATACS(Advanced Train Administration and Communications System)に大別できる。
【0003】
この運転保安システムにおける従来の位置検出装置では、在線を把握する方法はデジタルATCとATACSで共通であり、自列車が地上子上を通過する時に得られる地点検知情報をキーにして路線情報に記憶された対応する路線上の位置情報を得て、これに車輪の回転に伴う積算距離を加減算して自列車の在線位置を把握している。そのため、複数の車軸に保安装置用の速度発電機を設置し、軌間にはトランスポンダ地上子を設置するとともに、この情報を読み取るためのアンテナ(トランスポンダ車上子)と送受信器を車両に設置する必要があった(下記非特許文献1参照)。
【0004】
一方、本発明の発明者は、既に「移動体位置のGPS測定システム」(下記特許文献1参照)、「GPS測位による列車走行情報検出装置およびその列車走行情報検出方法」(下記特許文献2参照)について提案している。
【0005】
また、GPSによる速度検出については下記特許文献3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4204971号公報
【特許文献2】特許第4090852号公報
【特許文献3】特開平9−5417号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】立石幸也 外7名,「無線による列車制御システムATACSプロトタイプ試験結果」,JR EAST Technical Review No.12,pp.40−51
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したように、従来の位置検出装置では、保安装置用の速度発電機を異なる2軸に設置し、それぞれ車輪径を正確に設定する必要があり、保守面に問題があった。また、トランスポンダ地上子を、初期位置検知や位置補正が適切に行えるように考慮して路線上の複数箇所に設置する必要があり、軌道保守上の問題があった。これらの設置費用に加え、さらに、トランスポンダ車上子を車両床下に、これと接続する送受信器を車両に設置する必要があり、コスト面で問題があった。
【0009】
本発明は、上記状況に鑑みて、SBAS受信機(SBASに対応したGPS受信機)からの鉄道車両の速度および方位情報、速度計用の速度発電機側からの出力電圧および鉄道車両の走行条件に基づいて、SBAS受信機からの位置座標と水平保護レベル(HPL)および路線上の位置とその経緯度が関係付けられた路線情報を用いることによって、鉄道車両の在線位置を検出する鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出装置およびその位置検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出装置において、(a)鉄道車両に搭載される速度計用の速度発電機と、この速度発電機に接続される補償器と、前記鉄道車両に設置されるGPSアンテナと、このGPSアンテナからの出力信号が入力されるSBAS受信機と、このSBAS受信機からの前記鉄道車両の速度情報および方位情報、並びに前記補償器からの出力電圧および鉄道車両の走行条件が入力され、前記速度計における入力電圧から速度への変換定数および前記入力電圧と前記速度情報との関係の記憶手段を備える速度検出部と、(b)この速度検出部からの速度情報および方位情報、前記鉄道車両の走行条件に基づいて、SBAS受信機からの位置座標と水平保護レベルおよび路線上の位置とその経緯度が関係付けられた路線情報を用いて鉄道車両の在線位置を検出する位置検出部とを備えることを特徴とする。
【0011】
〔2〕鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出方法において、(a)鉄道車両に搭載される速度計用の速度発電機と、この速度発電機に接続される補償器と、前記鉄道車両に設置されるGPSアンテナと、このGPSアンテナからの出力信号が入力されるSBAS受信機と、このSBAS受信機からの前記鉄道車両の速度情報および方位情報、並びに前記補償器からの出力電圧が入力され、前記速度計における入力電圧から速度への変換定数および前記入力電圧と前記速度情報との関係の記憶手段を備える速度検出部と、(b)この速度検出部からの速度情報および方位情報、鉄道車両の走行条件に基づいて、SBAS受信機からの位置座標と水平保護レベルおよび路線上の位置とその経緯度が関係付けられた路線情報を用いて鉄道車両の在線位置を検出する位置検出部とを配置し、(c)前記SBAS受信機から得られる位置情報と水平保護レベルの妥当性を、路線情報、方位情報、位置情報の変化、および前記速度検出部から得られる2種類の速度と距離および進行方向に基づいて検証し、鉄道車両の信頼度の高い在線位置を検出することを特徴とする。
【0012】
〔3〕上記〔2〕記載の鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出方法において、前記鉄道車両の走行中は前記SBAS受信機から前記速度情報と同時に出力される前記方位情報の変動を監視し、停車中で前記方位情報の変動が一定範囲を越える場合に前記速度情報を速度0に補正することを特徴とする。
【0013】
〔4〕上記〔2〕記載の鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出方法において、前記鉄道車両のノッチ情報又はブレーキ情報の車両条件を監視し、この車両条件に基づき、加減速度が一定範囲を超える速度情報を一定範囲内に補正することを特徴とする。
【0014】
〔5〕上記〔2〕記載の鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出方法において、前記速度発電機からの出力電圧と前記SBAS受信機からの速度情報の関係は、(1)駆動軸にあってはノッチ、ブレーキともOFF時の、非駆動軸にあってはブレーキOFF時の前記速度発電機の計測限界値以上の出力電圧と、(2)上記〔4〕に記載の補正を受けずに、かつ同時に出力される方位情報の変動が一定範囲内である前記SBAS受信機からの速度情報とが同時に取得できた場合に更新することを特徴とする。
【0015】
〔6〕上記〔2〕記載の鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出方法において、車輪の回転速度と前記速度発電機の出力電圧の関係はほぼリニアであるため、上記〔5〕記載の条件が成立せず、対応がつかなかった空白速度を線形補完することを特徴とする。
【0016】
〔7〕上記〔2〕記載の鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出方法において、前記GPS受信機から得た速度情報と前記補償器からの出力電圧との関係を記憶し、この関係が確定した後は、この関係を前記変換定数の代わりに用いて、前記速度発電機に基づく速度の精度を高めることを特徴とする。
【0017】
〔8〕上記〔2〕記載の鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出方法において、前記鉄道車両の進行方向である前進/後進の判別は、走行中のGPS受信機からの速度情報と方位情報とを監視し、停止直前の平均方位を記憶し、再度走行を始める際に得られる方位情報を平均方位と比較することにより行うことを特徴とする。
【0018】
〔9〕上記〔2〕記載の鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出方法において、以下の4段階のチェック方法により在線位置として採用できるか否かを検証し、条件から外れる測位結果については採用しないようにしたことを特徴とする。
【0019】
(1)まず、鉄道車両の上下方向の運動が極めて小さい性質を利用して、測位座標(緯度、経度)と同時に出力される高さ情報(楕円体高もしくは標高)の変動量を監視し、その変動量が一定範囲を超える場合の測位結果を用いないこととする。
【0020】
(2)次に、鉄道車両は必ず軌道上を走行し、前回在線位置が確定している場合は複数の軌道が存在するとしても在線する軌道を特定できることを利用して、中心を測位座標、半径をHPLとする円内に、在線する軌道の軌道中心線が存在するかどうかを検証し、存在する場合は、鉄道車両のGPSアンテナ設置位置は、前記軌道中心線と前記円との第1の交点と第2の交点に挟まれた在線範囲上に存在するものとみなす。
【0021】
(3)次に、鉄道車両は必ず軌道上を走行し、鉄道車両が備える2つの台車中心は軌道中心線上に位置することを利用して、上記(2)により鉄道車両のGPSアンテナ設置位置が在線範囲上に存在する場合は、半径をHPLとする円と軌道中心線が交わる2つの交点にGPSアンテナがそれぞれ最も近くに存在する場合の、前記軌道中心線と前記鉄道車両に関する寸法情報からそれぞれ求められる車体方位によって、この車体方位の範囲が限定できるため、前記SBAS受信機が測位結果と同時に出力する方位情報がこの車体方位の範囲内もしくは直線区間を考慮して誤差が一定範囲内であるかどうかを検証し、範囲外の場合の測位結果を用いないこととする。
【0022】
(4)最後に、GPSに基づく速度情報が測位座標よりも反射の影響を受け難いことを利用して、前回検証を通過して決定された鉄道車両のGPSアンテナ位置と、前記速度検出部から得られたGPSの速度情報に基づく距離および進行方向と、前記軌道中心線に基づく推測航法によって得られる推測位置が、半径をHPLとする円と前記軌道中心線の2つの交点間に存在するかどうかを検証し、存在しない場合の測位結果を用いないこととする。
【0023】
〔10〕上記〔9〕記載の鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出方法において、前記4段階のチェック方法による検証を通過した測位結果と前記HPLは、信頼できるものとして、測位座標から前記軌道中心線上の最も近くにマップマッチした位置を鉄道車両のGPSアンテナ位置として決定することを特徴とする。
【0024】
〔11〕上記〔9〕記載の鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出方法において、運転保安システムは、前記HPLを利用して、第1の交点に最も近い位置にGPSアンテナが位置する場合の鉄道車両の先頭位置を列車の先頭位置として扱い、第2の交点に最も近い位置にGPSアンテナが位置する場合の鉄道車両の先頭位置から軌道中心線に沿って後方に列車長分ずらした位置を列車の最後尾として扱い、見かけ上の列車長として、実際の列車長よりも在線範囲の長さ分拡大することにより、列車運行の安全を確保することを特徴とする。
【0025】
〔12〕上記〔9〕記載の鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出方法において、前記検証により測位結果が排除された場合は、補完する在線位置は、前記速度検出部から得られるGPSと速度発電機にそれぞれ基づく2つの距離情報および進行方向と、最後に検証を通過して決定されたGPSアンテナ位置と、前記軌道中心線とからの推測航法により求めることができ、このとき、推測位置として、大きい方の距離情報による前方寄りの位置と、小さい方の距離情報による後方寄りの位置がそれぞれ得られるため、見かけ上の列車長については、最後に検証を通過して決定されたときの数値を基本とするが、推測位置としての前方寄り後方寄りの2つの位置が求められているため、見かけ上の列車長についても前記2つの位置の差分の距離が加算され、測位結果が在線位置として採用できないとの判定が連続した場合は、前回得られた前方寄りの推測位置に大きい方の距離情報を加算し、前回得られた後方寄りの推測位置に小さい方の距離情報を加算することにより、2つの推測位置の差分の距離がさらに拡大し、見かけ上の列車長もさらに拡大することとなるように補完することによって、測位結果が在線位置として採用できないと判定された場合の列車運行の安全を確保することができることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、鉄道車両上で路線上の在線位置を把握するとともに、路線情報や列車前方の支障条件に基づいて運転速度が安全速度を超えないように制御する運転保安システムの導入に際し、保安装置用の速度発電機を新たに設置することなく、速度計用の速度発電機を活用できるため、設置費用を低減できる。また、速度計の校正以外の保守を必要としないため、保守上の問題も解決することができる。
【0027】
また、速度照査を行う運転保安システムにおいては、GPSと速度発電機それぞれに基づく速度情報および距離情報を用いることができ、特に、GPSに基づく情報は、車輪の空転・滑走の影響を受けないため、車輪の空転・滑走が複数軸に同時に発生する際の安全性を高めることができる。さらに、トランスポンダ地上子、車上子および送受信器を設置する必要がないため、設置費用と軌道保守上の問題を改善することができる。
【0028】
また、SBAS受信機から得られる位置座標とHPLに基づく信頼性の高い在線位置と見かけ上の列車長を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施例を示す鉄道車両の運転保安システムの模式図である。
【図2】本発明の実施例を示す鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出装置の構成図である。
【図3】本発明に係るSBASの鉄道車両への適用における保護レベルの説明図である。
【図4】本発明に係るMSASによる測位の説明図である。
【図5】本発明に係るMSASによる位置検出装置(その1)の説明図である。
【図6】本発明に係るMSASによる位置検出装置(その2)の説明図である。
【図7】本発明に係るMSASによる位置検出装置(その3)の説明図である。
【図8】本発明に係るMSASによる位置検出装置(その4)の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出装置は、SBAS受信機からの鉄道車両の速度および方位情報、速度計用の速度発電機側からの出力電圧および鉄道車両の走行条件に基づいて信頼性の高い2種類の速度・距離と進行方向情報を得るとともに、前記SBAS受信機からの位置座標と水平保護レベルおよび路線上の位置とその経緯度が関係付けられた路線情報を用いることによって、前記鉄道車両の信頼性の高い在線位置と見かけ上の列車長を検出する。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0032】
図1は本発明の実施例を示す鉄道車両の運転保安システムの模式図、図2はその鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出装置の構成図である。
【0033】
これらの図において、1は鉄道車両、2は鉄道車両1の運転台、3はその運転台2の付近の車輪、4はその車輪3の車軸、5はその車軸4に設置される速度計用の速度発電機、6は速度発電機1の出力が入力され、速度計の誤差が最小になるように調整するための補償器であり、この補償器6は速度検出部(後述)とも接続される。7は補償器6からの出力電圧が入力され、運転士への表示用として運転台に設置されている速度計であり、この速度計7の許容誤差は「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」(以下、「技術基準省令」という)により速度の最大目盛値の±2%以内と規定され、鉄道事業者では概ね±2km/h,±3km/hを管理基準値として調整される。8は運転保安システムの車上制御装置、9は鉄道車両1の屋根上等に設置されるGPSアンテナ、10はGPSアンテナ9からの出力信号が入力されるGPS受信機(SBAS受信機)、11はGPS受信機(SBAS受信機)10からの出力情報である速度・方位情報が入力されるとともに、補償器6からの出力電圧が入力される速度検出部であり、この速度検出部11は、速度計7における入力電圧から速度への変換定数および入力電圧とGPS受信機(SBAS受信機)10からの速度情報との関係の記憶手段を備える。更に、13は位置検出部であり、GPS受信機(SBAS受信機)10からの測位座標、HPL(水平保護レベル)、方位情報が入力され、速度検出部11からの2種類の速度情報、2種類の距離情報、進行方向(前/後)情報が入力され、更に、路線情報が記憶されている路線情報記憶装置12からの軌道中心線座標列情報、MSAS利用不能区間情報が入力される。14は車上制御装置8で生成する速度照査パターンである。
【0034】
速度発電機による走行距離の算出では、現在、速度発電機を用いて車軸の回転数を測り、車輪の円周長を掛けた値を現在位置から積算していくことで移動距離を測定している。そのため、車輪が滑走・空転すると誤差が発生するので、検知対象となる車軸として、できるだけ動力のついていない非駆動軸を選択して、空転の影響を受けないようにしている。また、出力信号の値が所定値と大きく異なった場合は、車輪に空転や滑走が発生したものと判定したり、あるいは故障が発生したと判定するように構成されている。
【0035】
本発明では、速度検出部11は、以下の手段により、信頼性の高い2種類の速度情報、2種類の距離情報および鉄道車両の進行方向(前/後)情報を得る。
【0036】
まず、GPS受信機(SBAS受信機)10からの速度・方位情報に基づき、速度検出部11が処理周期毎に走行距離を求める。また、速度検出部11では速度計7における入力電圧から速度への変換定数を備え、処理周期毎に補償器6からの出力電圧から速度を求めると同時に、この速度と処理周期から走行距離を求める。これにより、異なる2軸に速度発電機を設置するのと同様に、2種類の速度情報と2種類の距離情報が得られる。ただし、速度誤差は走行距離の積算時に距離誤差として蓄積する。そのため、GPS受信機(SBAS受信機)10から得た速度情報と、補償器6からの出力電圧との関係を記憶し、この関係が確定した後は、この関係を前記変換定数の代わりに用いることによって、速度発電機に基づく速度の精度を高めている。なお、2種類の速度情報を比較し、その差が大きくなった場合は、車輪に空転や滑走が発生したものと判定したり、あるいは故障が発生したと判定するのは従来と同様である。
【0037】
次に、GPSの速度情報について説明する。
【0038】
GPSによる速度検出の原理は、例えば、上記特許文献に開示されている。これによれば、まず、航法メッセージの軌道情報からGPS衛星の速度を求めることができる。また、受信装置の発振器が正確であるとすると、受信した電波のドップラーシフト周波数からGPS衛星と受信装置の間の相対速度を求めることができる。よって、受信装置の各GPS衛星方向の速度を求めることができるので、3つ以上のGPS衛星からの情報を受信すれば、受信装置の3次元の速度を求めることができる。しかし、実際には受信装置の発振器に誤差があるので、この発振器の誤差を未知数とするため、4つ以上のGPS衛星からの情報を受信する必要がある。4つのGPS衛星からの情報を受信した場合、

ここで、
(αi ,βi ,γi ):仮定位置からみたGPS衛星iへの視線の方向余弦の各座標成分
(Vx,Vy,Vz):受信装置の速度の各座標成分
Vt :受信装置の発振器の誤差
i :受信装置のGPS衛星i方向の速度
上記式(1)を解くことによって受信装置の速度を求めることができる。
【0039】
また、上記式(1)より明らかなように、速度と同時に方位も得られることになる。なお、GPS測位では、建物等を原因とするマルチパスによる誤差が問題となるが、測位のため電波到達の遅延時間を測定するのとは異なり、前記ドップラーシフト周波数は建物のように静止している物体による反射波であれば直接波と周波数が変わらないため、GPSの速度情報と方位情報は、マルチパスの影響を受け難いと考えられる。
【0040】
一方、静止衛星を使って航空機向けにGPSの誤差を補正する信号を提供するシステムであるSBAS(Satellite Based Augmentation System)の整備が進められている。日本では、MSAS(MTSAT Satellite−based Augmentation System)が2007年9月27日から国土交通省航空局により運用中であり、MSASを用いて、計算に必要なGPS衛星の軌道情報等の補正が行われる。したがって、MSASにより補正された情報に基づいてドップラーシフト周波数から求められた速度情報と方位情報は信頼性が高いと考えられる。なお、MSASが使用する静止衛星は移動するGPS衛星と異なり常に利用可能で、さらに、地上設備を含め冗長化されているためその信頼性も高い。
【0041】
なお、本発明においては、以下の点に留意すべきである。
〔1〕GPS・MSASに基づく速度情報は、電波の受信環境により変動することがあるため、以下の方法により大きい誤差を含む恐れのある速度情報を補正する。
(1)鉄道車両の走行中は速度情報と同時に得られる方位情報およびその変動を監視し、鉄道車両の停止中の横揺れ等を原因として検出した速度を除外するために、停止直前の平均方位を記憶しておき、停止後にこの平均方位を基準として一定範囲(例えば、±20°)に収まらない方位を検出した場合に、横揺れ等を原因とする速度が検出されたものとみなして速度情報を0に補正する。
(2)車両条件に基づき、加減速度が一定範囲を超える速度情報を補正する。
【0042】
ノッチON時→最大加速度(動力性能)以内
ブレーキON時→最大減速度(ブレーキ性能)以内
ノッチ、ブレーキ共にOFF時→変化率の変化量が一定範囲内
とし、一定範囲を超えた速度情報を一定範囲内に補正する。
〔2〕速度発電機からの出力電圧とGPS・MSASからの速度情報の関係は、以下の情報が同時に取得できた場合に更新する。
【0043】
(1)ノッチ、ブレーキともOFF時の速度発電機の計測限界値以上の出力電圧
(2)上記〔1〕(2)の補正を受けずに、かつ同時に出力される方位情報の変動が一定範囲内であるGPS・MSASに基づく速度情報
速度発電機が非駆動軸に設置されていれば、空転の影響に配慮する必要はなく、速度発電機からの出力電圧とGPS・MSASからの速度情報の関係は、上記(2)が得られていれば、速度上昇中に決定される。したがって、速度照査を行う際、現在速度以下の関係については既に決定されており、速度発電機の出力電圧に基づく精度が高められた速度情報を用いることができる。
【0044】
また、車輪の回転速度と速度発電機の出力電圧の関係はほぼリニアであるため、上記の条件が成立しなかった場合に対応する空白速度を、線形補完することができる。また、新たに関係を決定する速度については、既に決定済みの関係から妥当性を評価することもできる。
【0045】
なお、速度計の誤差については、技術基準省令により許容誤差が速度の最大目盛値の±2%以内と規定され、鉄道事業者は概ね±2km/h、±3km/hを管理基準値として調整しているため、速度発電機からの出力電圧とGPS・MSASからの速度情報の関係が決定できなくとも、2つの速度、距離の誤差は一定の範囲に限定できる。そのため、運転保安システムとして予め余裕距離を見込むなどすれば安全上の問題はない。
【0046】
前進/後進の判別は、走行中のGPS受信機からの速度情報と方位情報を監視し、停止直前の平均方位を記憶し、再度走行を始める際に得られる方位情報を前記平均方位と比較することにより行う。方位情報は停止時には不定となるが、速度発電機の検出速度範囲内(例えば、2km/h以上)であれば前進/後進の判別は可能である。
【0047】
また、速度発電機の断線時には、速度発電機側が常に0km/hとなるため、GPSと速度発電機に基づく2つの速度情報を比較することによって断線検知が可能である。
【0048】
さらに、補償器の故障時には、速度計における入力電圧から速度への変換定数を用いて得られる速度が異常な値となるため、同様にして故障検知が可能である。
【0049】
以上により、速度検出部11では、信頼性の高い2種類の速度情報と、2種類の距離情報および鉄道車両の進行方向(前/後)情報が得られる。
【0050】
また、位置検出部13が、以下の手段により、信頼性の高い在線位置と見かけ上の列車長を得る。
【0051】
ここで、図3に示すように、軌道25上の鉄道列車21が、HPL(水平保護レベル)23とVPL(垂直保護レベル)24として示される円柱22内に位置している。MSASは、地上に設置された受信局でGPS信号を受信し、信号に含まれる誤差を補正するためのGPS補強情報を作成し、赤道上空3万6千kmの軌道上にあるMTSATへ送信し、MTSATがこの情報を中継・広域へ放送し、SBAS受信機ではGPS信号とともにこの情報を受信し、測位座標とHPL,VPLが得られるものである。航空向けであるMSASは、鉄道のように測位衛星からの信号がトンネル内のように全く受信できなかったり、沿線の地形や建物による遮断や反射等により激しく変動する環境での利用を想定していない。そのため位置座標とHPLの妥当性について、以下のような路線に沿って走行する鉄道の特性を利用して検証しながら用いる。
【0052】
図4は本発明に係るMSASによる測位の説明図である。
【0053】
この図において、31は軌道中心線、31Aは軌道中心線31と後述する円との第1の交点、31Bは軌道中心線31と後述する円との第2の交点、32は在線範囲、33は測位座標、34は半径を水平保護レベル(HPL)とする円である。
【0054】
図5は本発明に係るMSASによる位置検出装置(その1)の説明図であり、図5(a)はその概略説明図、図5(b)はその詳細な説明図である。
【0055】
これらの図において、41は軌道中心線、42は鉄道車両、43は台車中心、44は台車中心間距離、45はGPSアンテナ設置位置、46は車体方位、47は測位座標、48は半径を水平保護レベル(HPL)とする円、49は軌道中心線41と半径を水平保護レベル(HPL)とする円48とが交わる第1の交点、50はGPSアンテナが第1の交点49に最も近い位置にある場合の車体方位、51は軌道中心線41と半径を水平保護レベル(HPL)とする円48とが交わる第2の交点、52はGPSアンテナが第2の交点51に最も近い位置にある場合の車体方位である。
【0056】
図6は本発明に係るMSASによる位置検出装置(その2)の説明図である。
【0057】
この図において、61は軌道中心線、62は今回の実際の鉄道車両、63は測位座標、64は半径を水平保護レベル(HPL)とする円、65は軌道中心線61と半径を水平保護レベル(HPL)とする円64とが交わる第1の交点、66は軌道中心線61と半径を水平保護レベル(HPL)とする円64とが交わる第2の交点、67はGPSから得られる距離に基づく推測航法による推測位置、68は今回の検証を通過して決定されるGPSアンテナ位置(測位座標直近の軌道中心線上の位置)、69は前回の検証を通過して決定されたGPSアンテナ位置である。
【0058】
建物を原因とするマルチパス等、地上の受信環境によって生ずる測位座標の誤差については、MSASによっても補正することができないため、以下の4段階のチェック方法により在線位置として採用できるか否かを検証し、条件から外れる測位結果については用いないこととする。
(1)まず、鉄道車両の上下方向の運動が極めて小さい性質を利用して、測位座標(緯度、経度)と同時に出力される高さ情報(楕円体高もしくは標高)の変動量を監視し、その変動量が一定範囲を超える場合の測位結果を用いないこととする。
(2)次に、鉄道車両は必ず軌道上を走行し、前回在線位置が確定している場合は複数の軌道が存在するとしても在線する軌道を特定できることを利用して、図4に示すように、中心を測位座標33、半径をHPLとする円34内に、在線する軌道の軌道中心線31が存在するかどうかを検証し、存在しない場合の測位結果を用いないこととする。存在する場合は、鉄道車両のGPSアンテナ設置位置は、軌道中心線31と円34との第1の交点31Aと第2の交点31Bに挟まれた在線範囲32上に存在するものとみなす。
(3)次に、鉄道車両は必ず軌道上を走行し、鉄道車両が備える2つの台車中心は軌道中心線上に位置することを利用して、上記(2)により鉄道車両のGPSアンテナ設置位置が在線範囲32上に存在する場合は、図5に示すように、半径をHPLとする円48と軌道中心線41が交わる2つの交点49,51にGPSアンテナがそれぞれ最も近くに存在する場合の、軌道中心線41と鉄道車両に関する寸法情報(この車両におけるGPSアンテナ設置位置、台車中心位置)からそれぞれ求められる車体方位50,52によって、車体方位の範囲が限定できるため、SBAS受信機が測位結果と同時に出力する方位情報がこの車体方位の範囲内、もしくは直線区間を考慮して誤差が一定範囲内であるかどうかを検証し、範囲外の場合の測位結果を用いないこととする。
(4)最後に、GPSに基づく速度情報が測位座標よりも反射の影響を受け難いことを利用して、図6に示すように、前回の検証を通過して決定された鉄道車両のGPSアンテナ位置69と、速度検出部11から得られたGPSの速度情報に基づく距離および進行方向と、軌道中心線61に基づく推測航法によって得られる推測位置67が、半径をHPLとする円64と軌道中心線61の2つの交点65,66間に存在するかどうかを検証し、存在しない場合の測位結果を用いないこととする。
【0059】
以上の4段階のチェック方法による検証を通過した測位結果とHPLは、信頼できるものとして、測位座標から軌道中心線上の最も近くにマップマッチした位置を鉄道車両のGPSアンテナ位置として決定する。また、HPLに基づく在線範囲の長さを実際の列車長に加算した見かけ上の列車長を以下のように決定する。
【0060】
図7は本発明に係るMSASによる位置検出装置(その3)の説明図である。
【0061】
この図において、70は見かけ上の列車長である。
【0062】
運転保安システムは、図7に示すように、HPLを利用して、交点65に最も近い位置にGPSアンテナが位置する場合の鉄道車両の先頭位置を列車の先頭位置として扱い、交点66に最も近い位置にGPSアンテナが位置する場合の鉄道車両の先頭位置から軌道中心線に沿って後方に列車長分ずらした位置を列車の最後尾として扱う。即ち実際の列車長よりも在線範囲の長さ分拡大した長さを見かけ上の列車長70とすることにより、列車運行の安全を確保することができる。
【0063】
一方、前述の検証により測位結果が排除された場合は、以下の方法により在線位置を補完するとともに見かけ上の列車長を決定し、列車運行の安全を確保する。
【0064】
図8は本発明に係るMSASによる位置検出装置(その4)の説明図である。
【0065】
この図において、71は速度発電機かGPSの一方から得られる距離に基づく推測航法による推測位置、72は前回の検証を通過して決定された半径をHPLとする円、73は第1の交点、74は速度発電機かGPSの他方から得られる距離に基づく推測航法による推測位置、75は見かけ上の列車長である。
【0066】
補完する在線位置は、図8に示すように、速度検出部11から得られるGPSと速度発電機にそれぞれ基づく2つの距離情報および進行方向と、最後の検証を通過して決定されたGPSアンテナ位置69と、軌道中心線61とからの推測航法により求めることができる。このとき、推測位置として、大きい方の距離情報による前方寄りの位置と、小さい方の距離情報による後方寄りの位置がそれぞれ得られる。そのため、見かけ上の列車長75については、最後の検証を通過して決定されたときの数値を基本とするが、推測位置としての前方寄りおよび後方寄りの2つの位置が求められているため、見かけ上の列車長についても前記2つの位置の差分の距離が加算されることとなる。測位結果が在線位置として採用できないとの判定が連続した場合は、前回得られた前方寄りの推測位置に大きい方の距離情報を加算し、前回得られた後方寄りの推測位置に小さい方の距離情報を加算することにより、2つの推測位置の差分の距離がさらに拡大し、見かけ上の列車長もさらに拡大することとなる。このように補完することによって、測位結果が在線位置として採用できないと判定された場合の列車運行の安全を確保することができる。
【0067】
以上により、位置検出部13では、信頼性の高い在線位置と見かけ上の列車長が得られる。
【0068】
なお、本発明は、鉄道車両上で線路上の在線位置を把握するとともに線路情報や前方支障条件に基づいて運転速度が安全速度を超えないように制御する運転保安システムの位置検出装置であるが、速度照査を行う必要がある箇所(進路および速度制限手前のブレーキ距離+α)において上空が開けていること(3機以上のGPS衛星からの信号を受信でき、かつ2機あるMTSATの信号を受信できること)が前提条件となる。
【0069】
そのため、MSASが利用できない区間がある場合は、MSAS利用不能区間情報として路線情報記憶装置12に予め備えておく。MSAS利用不能区間では、測位座標、HPL、GPSに基づく速度等が得られないため、位置検出部13は、測位結果が在線位置として採用されたかあるいは採用されず2つの距離情報による推測航法が行われたかのいずれかにより最後に認識した在線位置と、速度検出部11から得られる速度発電機に基づく速度・距離および進行方向と、軌道中心線とに基づいて推測航法を用い、MSAS利用不能区間内に在線中であるか進出したかについて監視し、MSAS利用不能区間から進出したと判断した時点で、MSASに基づく各種情報がSBAS受信機から得られていなければ異常と判断することにより、システムの安全を確保する。
【0070】
このように、運転保安システム側では、本発明の位置検出装置により得られるGPSと速度発電機にそれぞれ基づく信頼性の高い2つの速度情報と、進行方向情報(前進/後進の判別)と、在線位置と、見かけ上の列車長を利用することができる。
【0071】
以上のことから、本発明による運転保安システムは、上空が開けた区間では、十分に機能する。
【0072】
本発明によれば、鉄道車両上で路線上の在線位置を把握するとともに、路線情報や列車前方の支障条件に基づいて運転速度が安全速度を超えないように制御する運転保安システムの導入に際し、保安装置用の速度発電機を新たに設置することなく、速度計用の速度発電機を活用できるため、設置費用を低減できる。また、速度計の校正以外の保守を必要としないため、保守上の問題も解決することができる。
【0073】
また、速度照査を行う運転保安システムにおいては、GPSと速度発電機それぞれに基づく速度情報および距離情報を用いることができ、特に、GPSに基づく情報は、車輪の空転・滑走の影響を受けないため、車輪の空転・滑走が複数軸に同時に発生する際の安全性を高めることができる。さらに、トランスポンダ地上子、車上子および送受信器を設置する必要がないため、設置費用と軌道保守上の問題を改善することができる。
【0074】
また、SBAS受信機から得られる位置座標とHPLに基づく信頼性の高い在線位置と見かけ上の列車長を検出することができる。
【0075】
さらに、補償器の故障による速度計の表示速度の異常を運転士に知らせることも可能となる。
【0076】
また、上記した速度検出器と同様、パルス出力型の速度計用の速度発電機も使用することができる。
【0077】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出装置は、信頼性の高い在線位置を検出することができる位置検出装置として利用可能である。
【符号の説明】
【0079】
1,42 鉄道車両
2 鉄道車両の運転台
3 運転台の付近の車輪
4 車輪の車軸
5 速度計用の速度発電機
6 補償器
7 運転台の速度計
8 車上制御装置
9 GPSアンテナ
10 GPS受信機(SBAS受信機)
11 速度検出部
12 路線情報記憶装置
13 位置検出部
14 速度照査パターン
21 鉄道列車
22 円柱
23 HPL(水平保護レベル)
24 VPL(垂直保護レベル)
25 軌道
31,41,61 軌道中心線
31A,49,65,73 第1の交点
31B,51,66 第2の交点
32 在線範囲
33,47,63 測位座標
34,48,64,72 半径を水平保護レベル(HPL)とする円
43 台車中心
44 台車中心間距離
45 GPSアンテナ設置位置
46,50,52 車体方位
62 今回の実際の鉄道車両
67 GPSから得られる距離に基づく推測航法による推測位置
68 今回の検証を通過して決定されたGPSアンテナ位置(測位座標直近 の軌道中心線上の位置)
69 前回の検証を通過して決定されたGPSアンテナ位置
70,75 見かけ上の列車長
71 速度発電機かGPSの一方から得られる距離に基づく推測航法による 推測位置
74 速度発電機かGPSの他方から得られる距離に基づく推測航法による 推測位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)鉄道車両に搭載される速度計用の速度発電機と、該速度発電機に接続される補償器と、前記鉄道車両に設置されるGPSアンテナと、該GPSアンテナからの出力信号が入力されるSBAS受信機と、該SBAS受信機からの前記鉄道車両の速度情報および方位情報、並びに前記補償器からの出力電圧および鉄道車両の走行条件が入力され、前記速度計における入力電圧から速度への変換定数および前記入力電圧と前記速度情報との関係の記憶手段とを備える速度検出部と、
(b)該速度検出部からの速度情報および方位情報、前記鉄道車両の走行条件に基づいて、前記SBAS受信機からの位置座標と水平保護レベルおよび路線上の位置とその経緯度が関係付けられた路線情報を用いて鉄道車両の在線位置を検出する位置検出部とを備えることを特徴とする鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出装置。
【請求項2】
(a)鉄道車両に搭載される速度計用の速度発電機と、該速度発電機に接続される補償器と、前記鉄道車両に設置されるGPSアンテナと、該GPSアンテナからの出力信号が入力されるSBAS受信機と、該SBAS受信機からの前記鉄道車両の速度情報および方位情報、並びに前記補償器からの出力電圧および鉄道車両の走行条件が入力され、前記速度計における入力電圧から速度への変換定数および前記入力電圧と前記速度情報との関係の記憶手段とを備える速度検出部と、
(b)該速度検出部からの速度情報および方位情報、前記鉄道車両の走行条件に基づいて、前記SBAS受信機からの位置座標と水平保護レベルおよび路線上の位置とその経緯度が関係付けられた路線情報を用いて鉄道車両の在線位置を検出する位置検出部とを配置し、
(c)前記SBAS受信機から得られる位置座標と水平保護レベルの妥当性を、路線情報、方位情報、位置座標の変化、および前記速度検出部から得られる2種類の速度と距離および進行方向に基づいて検証し、鉄道車両の在線位置を高精度で検出することを特徴とする鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出方法。
【請求項3】
請求項2記載の鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出方法において、前記鉄道車両の走行中は前記SBAS受信機から前記速度情報と同時に出力される前記方位情報の変動を監視し、該方位情報の変動が一定範囲を越える場合に前記速度情報を速度0に補正することを特徴とする鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出方法。
【請求項4】
請求項2記載の鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出方法において、前記鉄道車両のノッチ情報又はブレーキ情報の車両条件を監視し、該車両条件に基づき、加減速度が一定範囲を超える速度情報を一定範囲内に補正することを特徴とする鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出方法。
【請求項5】
請求項2記載の鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出方法において、前記速度発電機からの出力電圧と前記SBAS受信機からの速度情報の関係は、(1)駆動軸にあってはノッチ、ブレーキともOFF時の、非駆動軸にあってはブレーキOFF時の前記速度発電機の計測限界値以上の出力電圧と、(2)上記請求項4に記載の補正を受けずに、かつ同時に出力される方位情報の変動が一定範囲内である前記SBAS受信機からの速度情報とが同時に取得できた場合に更新することを特徴とする鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出方法。
【請求項6】
請求項2記載の鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出方法において、車輪の回転速度と前記速度発電機の出力電圧の関係はほぼリニアであるため、上記請求項5記載の条件が成立しなかった場合に対応する空白速度を、線形補完することを特徴とする鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出方法。
【請求項7】
請求項2記載の鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出方法において、前記GPS受信機から得た速度情報と前記補償器からの出力電圧との関係を記憶し、該関係が確定した後は、該関係を前記変換定数の代わりに用いて、前記速度発電機に基づく速度の精度を高めることを特徴とする鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出方法。
【請求項8】
請求項2記載の鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出方法において、前記鉄道車両の進行方向である前進/後進の判別は、走行中のGPS受信機からの速度情報と方位情報とを監視し、停止直前の平均方位を記憶し、再度走行を始める際に得られる方位情報を平均方位と比較することにより行うことを特徴とする鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出方法。
【請求項9】
請求項2記載の鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出方法において、以下の4段階のチェック方法により在線位置として採用できるか否かを検証し、条件から外れる測位結果については採用しないようにしたことを特徴とする鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出方法。
(1)まず、鉄道車両の上下方向の運動が極めて小さい性質を利用して、測位座標(緯度、経度)と同時に出力される高さ情報(楕円体高もしくは標高)の変動量を監視し、その変動量が一定範囲を超える場合の測位結果を用いないこととする。
(2)次に、鉄道車両は必ず軌道上を走行し、前回在線位置が確定している場合は複数の軌道が存在するとしても在線する軌道を特定できることを利用して、中心を測位座標、半径をHPLとする円内に、在線する軌道の軌道中心線が存在するかどうかを検証し、存在する場合は、鉄道車両のGPSアンテナ設置位置は、前記軌道中心線と前記円との第1の交点と第2の交点に挟まれた在線範囲上に存在するものとみなす。
(3)次に、鉄道車両は必ず軌道上を走行し、鉄道車両が備える2つの台車中心は軌道中心線上に位置することを利用して、上記(2)により鉄道車両のGPSアンテナ設置位置が在線範囲上に存在する場合は、半径をHPLとする円と軌道中心線が交わる2つの交点にGPSアンテナがそれぞれ最も近くに存在する場合の、前記軌道中心線と前記鉄道車両に関する寸法情報からそれぞれ求められる車体方位によって、該車体方位の範囲が限定できるため、前記SBAS受信機が測位結果と同時に出力する方位情報がこの車体方位の範囲内もしくは直線区間を考慮して誤差が一定範囲内であるかどうかを検証し、範囲外の場合の測位結果を用いないこととする。
(4)最後に、GPSに基づく速度情報が測位座標よりも反射の影響を受け難いことを利用して、前回検証を通過して決定された鉄道車両のGPSアンテナ位置と、前記速度検出部から得られたGPSの速度情報に基づく距離および進行方向と、前記軌道中心線に基づく推測航法によって得られる推測位置が、半径をHPLとする円と前記軌道中心線の2つの交点間に存在するかどうかを検証し、存在しない場合の測位結果を用いないこととする。
【請求項10】
請求項9記載の鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出方法において、前記4段階のチェック方法による検証を通過した測位結果と前記HPLは、信頼できるものとして、測位座標から前記軌道中心線上の最も近くにマップマッチした位置を鉄道車両のGPSアンテナ位置として決定することを特徴とする鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出方法。
【請求項11】
請求項9記載の鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出方法において、運転保安システムは、前記HPLを利用して、第1の交点に最も近い位置にGPSアンテナが位置する場合の鉄道車両の先頭位置を列車の先頭位置として扱い、第2の交点に最も近い位置にGPSアンテナが位置する場合の鉄道車両の先頭位置から軌道中心線に沿って後方に列車長分ずらした位置を列車の最後尾として扱い、見かけ上の列車長として、実際の列車長よりも在線範囲の長さ分拡大することにより、列車運行の安全を確保することを特徴とする鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出方法。
【請求項12】
請求項9記載の鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出方法において、前記検証により測位結果が排除された場合は、補完する在線位置は、前記速度検出部から得られるGPSと速度発電機にそれぞれ基づく2つの距離情報および進行方向と、最後に検証を通過して決定されたGPSアンテナ位置と、前記軌道中心線とからの推測航法により求めることができ、このとき、推測位置として、大きい方の距離情報による前方寄りの位置と、小さい方の距離情報による後方寄りの位置がそれぞれ得られるため、見かけ上の列車長については、最後に検証を通過して決定されたときの数値を基本とするが、推測位置としての前方寄り後方寄りの2つの位置が求められているため、見かけ上の列車長についても前記2つの位置の差分の距離が加算され、測位結果が在線位置として採用できないとの判定が連続した場合は、前回得られた前方寄りの推測位置に大きい方の距離情報を加算し、前回得られた後方寄りの推測位置に小さい方の距離情報を加算することにより、2つの推測位置の差分の距離がさらに拡大し、見かけ上の列車長もさらに拡大することとなるように補完することによって、測位結果が在線位置として採用できないと判定された場合の列車運行の安全を確保することができることを特徴とする鉄道車両の運転保安システムにおける位置検出方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate