説明

鉄道車両用ブレーキライニング及びディスクブレーキ

【課題】 ブレーキライニングやディスクブレーキ装置の重量、部品数を増加せず、ヒートスポットを軽減する。
【解決手段】 車輪または車軸に取り付けられたブレーキディスク2の摺動面に、ブレーキキャリパによって押付けられる鉄道車両用のブレーキライニングである。ブレーキディスク2の摺動面に押付けられて接触する摩擦部材3と、摩擦部材3を支える裏板4と、裏板4の摩擦部材3と反対側に、ブレーキキャリパに取り付けるための案内板5を備える。たとえば裏板4のブレーキキャリパによる押付け力の作用線上に、当該押付け力の伝達を妨げる伝達抑制部たとえば溝7又は貫通孔8を設ける。
【効果】 重量や部品数を大幅な増加なしにブレーキライニングとブレーキディスクの接触面圧を低減でき、ヒートスポットの発生を軽減できる。これにより、ブレーキライニングとブレーキディスクの耐久性が向上し、鉄道車両の高速化、大型化に対応できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として鉄道車両用のディスクブレーキにおいて、ヒートスポットと呼ばれるブレーキライニングとブレーキディスクの接触面における局所的な過大入熱を軽減し、ブレーキライニングとブレーキディスクの耐久性向上を可能とするブレーキライニング及びディスクブレーキに関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両や自動車及び自動二輪車等の陸上輸送機械では、車両の高速化や大型化に伴い、その制動装置としてディスクブレーキが多用されている。
ディスクブレーキは、ブレーキディスクとブレーキライニングとの摩擦により制動力を得る装置であり、車軸または車輪に取付けたブレーキディスクの摺動面に、ブレーキキャリパによってブレーキライニングを押し付けることで、車軸または車輪の回転を制動して車両の速度を制御する。
【0003】
この制動時、ブレーキライニングとブレーキディスクの接触面では摩擦熱により温度が上昇するが、より高速に、或いは、より車両重量が大きくなるほどブレーキ負荷が大きくなるので、接触面での温度は高くなる傾向にある。
【0004】
従来型の鉄道車両用ディスクブレーキにおけるブレーキライニングとブレーキディスクおよび油圧式ブレーキキャリパの一部を図6に示す。図6はブレーキライニング1の幅方向と板厚方向の断面を示した図である。
【0005】
ブレーキライニング1は、ブレーキディスク2に接触する摩擦部材3と、この摩擦部材3を支えて取付けるための裏板4および案内板5とで構成されている。この裏板4の背面に取付けられる案内板5は、ブレーキライニング1をブレーキキャリパに取付けるためのもので、案内板5の幅方向(図6の紙面左右方向)を、ブレーキキャリパに設けた溝に嵌め込む等の手法により取付けられる。
【0006】
前記案内板5を挟んで裏板4と反対側には、ブレーキキャリパを構成するピストン6が配置される。ピストン6の先端にはピストン6とほぼ同じ大きさの図示しない断熱板が取付けられており、この断熱板を介して案内板5に押付け力が付与される。案内板5の幅方向はピストン6よりやや大きくなっており、長手方向(図6の紙面前後方向)は裏板4とほぼ同じかやや小さくなっている。
【0007】
ここでは図示しないが、シリンダに送り込まれる油圧によってピストン6がブレーキライニング1の板厚方向(図6の紙面下方向)に移動し、ブレーキライニング1をブレーキディスク2に押付けて制動力を得る。このとき、ブレーキライニング1に負荷される押付け力は、ブレーキライニング1の全体に均一に作用せず、ピストン6が配置された直下に集中する。
【0008】
上記のように従来のディスクブレーキは、その構造上、ブレーキキャリパからの押付け力がブレーキライニングのピストン取付け部にのみ作用する。このため、ブレーキライニングとブレーキディスクの接触面では、接触面圧の分布が発生する。
【0009】
このとき、ブレーキキャリパからの押付け力が作用するピストン直下においては、その他の部分に比べてより大きな力が作用するため、ブレーキライニングとブレーキディスクの接触面圧は高くなる傾向にある。接触面圧の高い部分では、減速するために必要なエネルギーがより多く投入されるため、特に新幹線などの高速車両では、ブレーキ中の温度上昇が過大となる可能性がある。
【0010】
このように局所的に温度が高くなる現象をヒートスポットと呼んでいる。ヒートスポットは、ブレーキライニングとブレーキディスクの摩耗量増加、ブレーキディスクのき裂発生などの原因となることから、ブレーキライニング、ブレーキディスクの耐久性確保のため、ヒートスポットの発生を軽減することが重要である。
【0011】
そこで、ブレーキライニングの裏板背面側に、長手方向に沿って補強部材を取付けることで、熱変形を抑制して偏摩耗すなわち局所的な摩耗を防止する技術が特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開平11−268649号公報
【0012】
また、摩擦部材を多くの小さな部材に分割してそれぞれが回転できるようにし、ブレーキキャリパからの押付け力がそれぞれの摩擦部材に均等に負荷される構造とすることで、ブレーキライニングとブレーキディスクの接触面圧を低減する技術が特許文献2に開示されている。
【特許文献2】特表平10−507250号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1で開示された方法によって、局所的に接触面圧が高くなるのを抑制するためには、高剛性の補強部材を使用する必要がある。そのため、補強部材に例えば鉄鋼材料を用いた場合は、補強部材の板厚、板幅が大きくなってしまい、非常に重量が増加する。一方、補強部材に例えば軽量高剛性のセラミックス系材料を用いると、補強部材の強度、特に破壊靱性の確保が困難になる。また、セラミックス系材料は非常に高価であるため、製造コストが大幅に増加する。
【0014】
また、特許文献2で開示された方法では、構造が複雑となるために、非常に重量が増加する。また、部品数が大幅に増えるため、長期間の使用に対する耐久性が問題となる可能性がある。さらに、構造が複雑で、部品数が多いことから、製造コストが増加する。
【0015】
本発明が解決しようとする問題点は、ディスクブレーキにおいて、ブレーキライニングとブレーキディスクの局所的な接触面圧の増加を抑制してヒートスポットを軽減するためには、ブレーキライニングやディスクブレーキ装置の重量、部品数が増加するという点である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
ブレーキキャリパからブレーキライニングへ押付け力が負荷される直下において、押付け力を伝達しない空間が存在すると、その部分で押付け力が分散される。従って、押付け力直下のブレーキライニングとブレーキディスクの接触面で接触面圧が高くなるのを抑制することができる。
【0017】
そこで、前記着想に基づき、発明者らは以下のような本発明を成立させた。
すなわち、本発明の鉄道車両用ブレーキライニングは、
ブレーキライニングやディスクブレーキ装置の重量、部品数を増加することなく、ブレーキライニングとブレーキディスクの局所的な接触面圧の増加を抑制して前記ヒートスポットを軽減するために、
車輪または車軸に取り付けられたブレーキディスクの摺動面に、ブレーキキャリパによって押付けられる鉄道車両用のブレーキライニングであって、
1)前記ブレーキディスクの摺動面に押付けられて接触する摩擦部材と、
この摩擦部材を支えると共にブレーキキャリパに取り付けるための裏板を備え、
前記裏板の、前記ブレーキキャリパによる押付け力の作用線上に、当該押付け力の伝達を妨げる伝達抑制部を設けたこと、
或いは、
2)前記ブレーキディスクの摺動面に押付けられて接触する摩擦部材と、
この摩擦部材を支える裏板と、
この裏板の前記摩擦部材と反対側に、ブレーキキャリパに取り付けるための案内板を備え、
この案内板または前記裏板の少なくともどちらか一方の、前記ブレーキキャリパによる押付け力の作用線上に、当該押付け力の伝達を妨げる伝達抑制部を設けたこと、
を最も主要な特徴としている。
【0018】
本発明の鉄道車両用ブレーキライニングにおいて、伝達抑制部とは、ブレーキキャリパからブレーキライニングへ負荷される押付け力の伝達が抑制される部分をいう。例えば裏板の摩擦部材側またはブレーキキャリパ側、或いは、案内板の摩擦部材側またはブレーキキャリパ側に設けられた溝、裏板や案内板に設けられた貫通孔などの空間のみならず、密度の低い物質を充填した場合でも良い。
【0019】
また、後述する発明者らの有限要素解析によれば、ブレーキライニングとブレーキディスクの局所的な接触面圧の増加を効果的に抑制するためには、前記伝達抑制部を、前記ブレーキライニングの長手方向と幅方向の平面に投影してできる外形線と、前記ブレーキキャリパによる押付け力の作用線と前記ブレーキライニングの長手方向と幅方向の平面との交点である中心位置との最短距離をdとしたとき、dが10mm以上であるようにすること、さらに、前記外形線のブレーキライニングの長手方向長さをL、幅方向長さをWとしたとき、L/Wが0.3〜3.0の範囲内となすことが望ましい。
【0020】
車輪または車軸に取り付けられたブレーキディスクの摺動面に、前記本発明のブレーキライニングをブレーキキャリパにより押し付けて制動力を得る本発明の鉄道車両用ディスクブレーキでは、ヒートスポットが軽減でき、ブレーキライニングとブレーキディスクの耐久性が向上する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、重量や部品数を大幅に増加することなく、ブレーキライニングとブレーキディスクの接触面圧を低減することができ、ブレーキによるヒートスポットの発生を軽減することが可能となる。これにより、ブレーキライニングとブレーキディスクの耐久性が向上し、鉄道車両の高速化、大型化に対応できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、着想から課題解決に至るまでの経過と共に、図1〜図3を用いて説明する。
ブレーキキャリパによる押付け力直下で、ブレーキライニングとブレーキディスクの接触面圧が高くなるのは、押付け力が作用する部分に力が集中するためである。
【0023】
従って、前記のように押付け力直下に伝達抑制部を存在させれば、押付け力は伝達抑制部で抑制される。また、伝達抑制部が空間の場合は、押付け力は空間を伝わることができず、その周りに分散される。その結果、ブレーキライニングとブレーキディスクの接触部において力が集中せずに、接触面圧が低減される。押付け力が抑制或いは分散して接触面圧が低減されれば、局所的に入熱が大きくならず、ヒートスポットの発生を抑制することができる。
【0024】
しかしながら、このような押付け力の伝達抑制、或いは、押付け力を伝達しない空間を作り出すために、新たな部品を追加すれば、ブレーキライニングの重量増につながってしまう。
【0025】
そこで、発明者らは、従来のブレーキライニングから重量および部品数をできるだけ増やすことなく押付け力の伝達を抑制し、或いは、押付け力を伝達しない空間を作ることを考えた。
【0026】
その結果、発明者らは、ブレーキライニングを構成する部品のうち、ブレーキキャリパにブレーキライニングを取り付けるための案内板、または、摩擦部材を取付けるための裏板(案内板と一体に形成する場合は、案内板の作用を兼ねる)、或いは、案内板および裏板に前記の伝達抑制部を設けることが最適であることを知見した。
【0027】
すなわち、本発明は、たとえば図1や図2に示すように、裏板4または案内板5の表面或いは背面の、ブレーキキャリパによる押付け力の作用線L上に、当該押付け力の伝達を妨げる伝達抑制部、たとえば溝7または貫通孔8といった空間を部分的に設けたのである。なお、図1および図2は本発明の鉄道車両用ブレーキライニングの、押付け力を与える位置における幅方向と板厚方向の断面図である。
【0028】
この案内板5または裏板4の表面或いは背面に、部分的に溝7または貫通孔8を設けることで、押付け力を伝達しない空間を作ることが可能となる。これにより、押付け力が空間の周りに分散され、押付け力直下において接触面圧が高くなるのを抑制し、ブレーキライニングとブレーキディスクの接触面で生じるヒートスポットを軽減することができる。このような例の場合、裏板4を大きくする必要はなく、当然部品を新たに追加する必要もないため、重量が増加することはない。むしろ空間ができる分、重量は減少する。ただし、案内板5は、通常、裏板4に比べて幅方向の長さは小さいため、案内板5に設けることができる溝7または貫通孔8の大きさは、裏板4のそれに比べて限定されてしまう。したがって、押付け力の分散をより効果的に行うには、溝7または貫通孔8を裏板4にのみ設けるのが好ましい。
【0029】
ところで、裏板4または案内板5に設ける溝7または貫通孔8などの空間の形状は、ブレーキライニング1の長手方向と幅方向平面において、図3(a)〜(c)に示すような円形、長円形、正方形の他、楕円や長方形など様々な形状が適用できる。
【0030】
そして、その形状はブレーキライニング1の板厚方向に必ずしも一様でなくて良く、テーパ状や太鼓状であっても良い。ただし、空間の形状を複雑にし過ぎると、加工が困難になり、またブレーキ中に応力集中が生じてき裂が発生する可能性があるため、できるだけ単純な形状とすることが望ましい。
【0031】
さらに前記空間は、図1や図2の(a)図のように裏板4または案内板5の摩擦部材側に、或いは、図1や図2の(b)図のように裏板4または案内板5の背面側に、部分的に溝7を設けたものでも、図1や図2の(c)図のように裏板4または案内板5に貫通孔8を設けたものでも同様な効果が得られる。
【0032】
ただし、溝7を設ける場合は、溝7を深くし過ぎると、その部分の裏板4または案内板5が薄くなり過ぎてき裂が発生する可能性があるため、板厚が1mm以上確保できるように、溝7の深さを設定することが望ましい。また、溝7を浅くし過ぎると、押付け力が作用したときに空間が潰れてしまって力が分散できない可能性があるため、溝7の深さは1mm以上とすることが望ましい。
【0033】
以上説明した本発明の効果をより発揮、すなわち十分に押付け力を分散するためには、溝7や貫通孔8などの空間のサイズを適正な値とすることが望ましい。たとえば図4に示したように、ブレーキキャリパからブレーキライニングへの押付け力が作用する中心位置9と裏板4に設けた溝7や貫通孔8を、それぞれブレーキライニングの長手方向と幅方向平面に投影したときに、前記中心位置9と外形線までの最小距離dを10mm以上とすることが好ましい。ただし、空間が大き過ぎると裏板4や案内板5の剛性が不足するため、前記の押付け力中心位置9と空間の外形線までの最大距離は70mm以下とするのが好ましい。
【0034】
また、ブレーキライニングの長手方向と幅方向平面に投影した空間の外形線の長手方向長さをL、幅方向長さをWとすると、図5に示したように,十分に押付け力を分散するためには、L/Wを0.3〜3.0とすることが望ましい。より望ましくは0.5〜2.0とするのが良い。L/Wが小さいと押付け力の長手方向への分散が小さくなる一方、L/Wが大きいと押付け力の幅方向への分散が小さくなるからである。
【0035】
上記本発明のブレーキライニングを、ブレーキキャリパにより車輪または車軸に取り付けられたブレーキディスクの摺動面に押し付けて制動力を得るディスクブレーキでは、ヒートスポットが軽減でき、ブレーキライニングとブレーキディスクの耐久性が向上する。これが本発明の鉄道車両用ディスクブレーキである。
【0036】
なお、本発明のブレーキライニング用摩擦部材には、一般的に使用される焼結系材料、樹脂系材料が適用できる。裏板には、強度、剛性、加工性の観点から、鉄鋼材料を用いるのが適当であるが、これらの性能を満足できるものであれば、非鉄金属材料、非金属材料を用いても良い。また、本発明に適用するブレーキキャリパは、油圧式キャリパに限らず、その他の方式、例えば空圧式のものでも良い。
【実施例】
【0037】
以下、ブレーキライニングとブレーキディスクの接触面圧を評価するため、発明者らが有限要素解析を行った結果について説明する。有限要素解析では、ブレーキライニングとブレーキディスクを弾性体でモデル化し、ブレーキライニングの背面からブレーキキャリパからの押付け力相当の荷重を与えた。
【0038】
ブレーキキャリパは油圧式キャリパを想定して、押付け力をピストン配置位置に与えた。解析では、裏板の一部に溝や貫通孔など押付け力を伝達しない空間を設け、その形状を数種類変化させて実施した。また、比較として、(1)図6に示した従来型のブレーキライニング、(2)特許文献1で開示されたブレーキライニング、(3)特許文献2で開示されたブレーキライニングについても解析を行った。
【0039】
下記表1に、評価したブレーキライニングをまとめて示す。
本発明例では、前記最小距離d、前記ブレーキライニング長手方向長さL、前記板幅方向長さWの値をそれぞれ変化させた。また、溝を設けたブレーキライニングでは、溝の深さを2mmとし、溝、貫通孔の板厚方向の形状は一様とした。
【0040】
比較例1は、図6に示した従来型のブレーキライニングであり,裏板に押付け力を伝達しない空間が存在しないものである。
比較例2,3は、裏板背面に補強部材を用いた特許文献1に開示されたブレーキライニングである。補強部材は鉄鋼材料で、補強部材のブレーキライニング長手方向長さを280mm、幅方向長さを70mm、板厚を5mmと10mmにした。補強部材の配置は、補強部材の長手方向中心位置とブレーキライニングの長手方向中心位置が一致するように、補強部材の板幅方向中心位置とピストン中心位置が一致するようにした。なお、補強部材は案内板と裏板の間に設けている。
【0041】
比較例4は、摩擦部材を多くの小さな部材に分割した特許文献2に開示されたブレーキライニングであり、摩擦部材の個数を18として、それぞれの摩擦部材に押付け力が均等に負荷されるようにした。
なお、比較例4以外の摩擦部材は、従来の摩擦部材と同様とし、4個に分割されたものを用い、それぞれの摩擦部材は裏板に直接取付ける構造とした。
【0042】
【表1】

【0043】
表1のすべてのブレーキライニングは新幹線用ブレーキライニングを対象とし、ブレーキライニングの長手方向長さは400mm、幅方向長さは130mm、裏板の板厚は5mmとした。ブレーキライニングを構成する材料は、裏板が鉄鋼材料、摩擦部材が銅焼結合金とした。ブレーキ条件は270km/hからの非常ブレーキ相当であり、押付け力は20kNとした。ブレーキディスクは鍛鋼製ブレーキディスクであり、ブレーキライニングと接触する摺動面の外径が720mm、内径が465mmである。
【0044】
本発明の目的はブレーキ中のヒートスポット、すなわち局所的な温度上昇を抑制することにある。局所的な温度上昇は、ブレーキライニングとブレーキディスクの接触面圧が高いほど大きくなるため、ここでは、有限要素解析で求めた最大接触面圧で評価することとした。
【0045】
下記表2に、表1に示した各ブレーキライニングについて有限要素解析で求めた最大接触面圧と重量をそれぞれ示す。
【0046】
【表2】

【0047】
表2より、本発明例はいずれも押付け力直下に力を伝達しない空間があり、その部分で押付け力が分散されるため、空間の形状によらず従来型のブレーキライニングである比較例1と比べて最大接触面圧が低くなり、ヒートスポットが軽減されることが分かる。
【0048】
また、本発明例の重量はいずれも従来型の比較例1と同等であることが分かる。
図4に本発明例1〜4について、最大接触面圧と押付け力中心位置からの最小距離dの関係を示すが、図4より、dが大きくなるに従って最大接触面圧は低減され、より効果が大きいことが分かる。ただし、dが10mm以上になると、dを大きくしてもその低減効果は比較的小さいことが分かる。
【0049】
図5に本発明例3および本発明例5〜8について、最大接触面圧と溝のアスペクト比L/Wの関係を示す。図5より、最大接触面圧はL/Wが1近傍で最小となり、より効果が大きいことが分かる。
【0050】
比較例2,3は、ブレーキライニングの背面に補強部材を設けているが,比較例2は補強部材の剛性が十分ではなく、最大接触面圧は従来型の比較例1に比べてわずかしか低減できていない。一方、比較例3は、補強部材の剛性が比較的高いため、最大接触面圧は低減されているものの、ブレーキライニングの重量が従来型である比較例1に比べ約30%も増加している。
【0051】
比較例4は、18個に分割した摩擦部材に均等に押付け力が負荷される構造となっているため、最大接触面圧は大幅に低減している。しかしながら、重量は従来型の比較例1に比べ約20%も増加している。さらに、比較例4は構造が非常に複雑であるため、従来型の比較例1や本発明例に比べると、長期間の使用に対する耐久性、信頼性は劣る可能性がある。
【0052】
本発明は上記の例に限らず、各請求項に記載された技術的思想の範囲内で、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0053】
例えば、上記の各例では、伝達抑制部として、溝や貫通孔といった空間を設けたものについて説明したが、若干重量は増加するが、このような空間に押付け力を伝達し難い材料を充填したものでも良いなどである。
【0054】
また、上記の各例では、裏板または案内板の何れか一方のみに空間を設けたものを示したが、裏板と案内板の両方に伝達抑制部を設けたものでも良い。
さらに、裏板と案内板を一体に形成したものでも良い。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上の本発明は、鉄道車両用のブレーキディスクに限らず、自動車や自動二輪車等のブレーキディスクであっても適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の鉄道車両用ブレーキライニングの、押付け力を与える位置における幅方向と板厚方向の断面図で、(a)は裏板の摩擦部材側に溝を設けた例、(b)は裏板のブレーキキャリパ側に溝を設けた例、(c)は裏板に貫通孔を設けた例である。
【図2】本発明の鉄道車両用ブレーキライニングの、押付け力を与える位置における幅方向と板厚方向の断面図で、(a)は案内板の摩擦部材側に溝を設けた例、(b)は案内板のブレーキキャリパ側に溝を設けた例、(c)は案内板に貫通孔を設けた例である。
【図3】本発明の鉄道車両用ブレーキライニングの、溝、貫通孔が存在する位置における長手方向と幅方向の断面図で、(a)は溝、貫通孔の形状を円形とした例、(b)は溝、貫通孔の形状を長円形とした例、(c)は溝、貫通孔の形状を正方形とした例である。
【図4】本発明例において、有限要素解析で得られた最大接触面圧と押付け力中心位置、溝あるいは貫通孔をそれぞれブレーキライニングの長手方向−幅方向平面に投影してできる点と外形線の最小距離dの関係を表した図である。
【図5】本発明例において、有限要素解析で得られた最大接触面圧と溝あるいは貫通孔をブレーキライニングの長手方向−幅方向平面に投影してできる外形線のアスペクト比L/Wの関係を表した図である。
【図6】従来型のブレーキライニングとブレーキディスクおよびブレーキキャリパの一部を示した、ブレーキライニングの幅方向と板厚方向の断面を示した図である。
【符号の説明】
【0057】
1 ブレーキライニング
2 ブレーキディスク
3 摩擦部材
4 裏板
5 案内板
6 ピストン
7 溝
8 貫通孔
9 中心位置
L 作用線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪または車軸に取り付けられたブレーキディスクの摺動面に、ブレーキキャリパによって押付けられる鉄道車両用のブレーキライニングであって、
前記ブレーキディスクの摺動面に押付けられて接触する摩擦部材と、
この摩擦部材を支えると共にブレーキキャリパに取り付けるための裏板を備え、
前記裏板の、前記ブレーキキャリパによる押付け力の作用線上に、当該押付け力の伝達を妨げる伝達抑制部を設けたことを特徴とする鉄道車両用ブレーキライニング。
【請求項2】
車輪または車軸に取り付けられたブレーキディスクの摺動面に、ブレーキキャリパによって押付けられる鉄道車両用のブレーキライニングであって、
前記ブレーキディスクの摺動面に押付けられて接触する摩擦部材と、
この摩擦部材を支える裏板と、
この裏板の前記摩擦部材と反対側に、ブレーキキャリパに取り付けるための案内板を備え、
この案内板または前記裏板の少なくともどちらか一方の、前記ブレーキキャリパによる押付け力の作用線上に、当該押付け力の伝達を妨げる伝達抑制部を設けたことを特徴とする鉄道車両用ブレーキライニング。
【請求項3】
前記伝達抑制部が、前記裏板の摩擦部材側またはブレーキキャリパ側に設けられた溝であることを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両用ブレーキライニング。
【請求項4】
前記伝達抑制部が、前記裏板に設けられた貫通孔であることを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両用ブレーキライニング。
【請求項5】
前記伝達抑制部が、前記裏板または前記案内板の摩擦部材側またはブレーキキャリパ側に設けられた溝、或いは、前記裏板および前記案内板の摩擦部材側またはブレーキキャリパ側に設けられた溝であることを特徴とする請求項2に記載の鉄道車両用ブレーキライニング。
【請求項6】
前記伝達抑制部が、前記裏板または前記案内板に設けられた貫通孔、或いは、前記裏板および前記案内板に設けられた貫通孔であることを特徴とする請求項2に記載の鉄道車両用ブレーキライニング。
【請求項7】
前記伝達抑制部は、
前記ブレーキライニングの長手方向と幅方向の平面に投影してできる外形線と、前記ブレーキキャリパによる押付け力の作用線と前記ブレーキライニングの長手方向と幅方向の平面との交点である中心位置との最短距離をdとしたとき、dが10mm以上であることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の鉄道車両用ブレーキライニング。
【請求項8】
前記外形線のブレーキライニングの長手方向長さをL、幅方向長さをWとしたとき、
L/Wが0.3〜3.0の範囲内にあることを特徴とする請求項7に記載の鉄道車両用ブレーキライニング。
【請求項9】
車輪または車軸に取り付けられたブレーキディスクの摺動面に、請求項1〜8の何れかに記載のブレーキライニングをブレーキキャリパにより押し付け、制動力を得ることを特徴とする鉄道車両用ディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−16858(P2007−16858A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−197815(P2005−197815)
【出願日】平成17年7月6日(2005.7.6)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】