説明

鉄錆還元水系防錆塗料の製造方法

【課題】 塗装に当たり鋼鉄製基材に発生している錆除去を行うことなく塗装を可能にする鉄錆還元水系防錆塗料を提供する。
【解決手段】 アクリル系樹脂に還元性リン酸系鉱酸とタンニン酸を配合することにより、鋼鉄の赤錆を還元して黒錆に転換し、また鋼鉄基剤とも反応して、防錆性、密着性が優れた塗膜を形成する鉄錆還元水系防錆塗料を提供することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼、ステンレスなど鋼鉄製基材のへの塗装に当たっての下地前処理用防錆塗料に関する技術分野であり、鋼鉄製基材面に発生する鉄錆を下地用塗料によって還元すことにより、鉄錆を機械的に除去することなく塗装出来る下地前処理を兼ねた鉄錆還元水系防錆塗料に係わるものである。
【背景技術】
【0002】
鋼鉄製基材への塗装時には、表面に発生している鉄錆を除去しないと、鋼鉄の酸化進行による鉄錆層の拡大、塗膜の劣化や密着性の低下による塗膜の剥離が生じていた。このため鋼鉄製基材への塗装に当たっては、鋼鉄製基材に発生している鉄錆は、サンドペーパー、ケレン、サンドブラストなどの機械的除去によって基材の前処理が必須であった。この塗装前の基材前処理は多大な労力を要し、この下地前処理の軽減化が強く求められていた。この対策として、これまで下地用塗料にリン酸、リン酸亜鉛等のリン酸化合物に配合することが提案されていたが、鉄錆内部の浸透性、還元力が小さく、塗膜の防錆性、耐久性の面より満足できるものではなかった。
【0003】
【特許文献】 特開2004−338236 特開2005−105337 特開2009−40929
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、鋼鉄製基材への塗装時の下地前処理において、従来のような機械的な鉄錆除去作業を行うことなく、鋼鉄製基材に下地塗料を直接塗布することにより塗料中の還元物質が鉄錆中に浸透し、赤色や茶褐色の鉄錆と反応して、黒錆に転換を図る鉄錆還元水系防錆塗料に関するものであり、同時に優れた防錆性と耐候性を有する下地塗膜の形成を行うものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1発明は、鋼鉄製基材への塗装に当たっての下地前塗料において、還元性物質として、還元性リン酸系鉱酸を配合し、さらに塗料成分としてタンニン酸、アクリル樹脂系エマルジョンを配合することを特徴とする鉄錆還元水系防錆塗料であり、含有している還元性リン酸系鉱酸が鉄錆層への浸透性が強く、また鉄錆との還元反応性にも優れている。
【0006】
本発明の第2発明は、鋼鉄製基材への塗装における下地前塗料において、前記の鉄錆還元水系防錆塗料の還元性リン酸系鉱酸として、次亜リン酸、亜リン酸の少なくとも1種以上を含むことを特徴とする鉄錆還元水系防錆塗料であることが、鉄錆との還元反応性の面から次亜リン酸、亜リン酸の配合が好ましい。
【0007】
本発明の第3発明は、鋼鉄製基材への塗装における下地前塗料において、還元性リン酸系鉱酸と共に、さらにこれらの塩化合物を含有させることが、塗膜の還元性・耐久性の面からも好ましいことを見出した。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水系防錆塗料は、鉄錆を除去する素地調整の前処理作業を行うことなく、鉄錆発生面に塗装が可能であり、また鋼鉄製基材との密着性が良好であり、また優れた防錆性と耐候性を発現する。これより塗装作業の大幅な軽減、ならびに塗膜の耐久性が向上することから塗装費用の大幅な軽減が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において使用する還元性リン酸系鉱酸としては、亜リン酸、次亜リン酸がこのましい。これらの還元性リン酸系の鉱酸は、鉄錆と反応して、酸化鉄を還元し、また鋼鉄製基材とも反応して還元性リン酸鉄を形成して防錆性を発揮する。還元性リン酸系鉱酸の配合割合は、塗料中に0.5〜30重量%の配合が好ましい。還元性リン酸系鉱酸の配合量が0.5重量%未満では防錆性が低下し、30重量部を超えると塗膜強度耐水性が低下する。
【0011】
上記の還元性リン酸系鉱酸と共に、さらにこれらの塩化合物として、亜リン酸鉄、亜リン酸カルシウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸アルミニウム、次亜リン酸鉄、次亜リン酸カルシウム、次亜リン酸マグネシウム、次亜リン酸アルミニウムなどを、還元性リン酸系鉱酸と共に配合してもよい。これらの還元性リン酸系鉱酸の塩化合物を配合すると、鉄錆との還元反応の持続性、塗膜の防錆能力が向上することから、塗料中に0.5〜20重量%含有させることが好ましい。
【0012】
本発明において使用するタンニン酸としては、柿渋、アカシヤ・マンギウム・ラジアータパインなどの樹皮抽出液などを用いることが出来るが、五倍子から抽出し精製されたものが好ましい。塗料中のタンニン酸分の配合は、1〜20重量%が好ましい。タンニンの配合量が、1重量%未満では、錆への密着性、防錆性が低下する。20重量%を超えると耐水性が低下する。
【0013】
本発明に於いて使用するアクリル系樹脂マルジョンとしては、アクリル樹脂エマルジョン、アクリル−酢酸ビニル樹脂エマルジョン、アクリル−エチレン酢酸ビニル樹脂エマルジョン、シリコンアクリル樹脂エマルジョン、アクリルニトリル−塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体エマルジョン、アクリルウレタン樹脂エマルジョン、およびアクリルエポキシ樹脂エマルジョン等があり、これらを使用することが出来る。
【0014】
アクリル樹脂系エマルジョンの内、塗膜形成がし易く、錆への浸透性や塗装作業性の点から、アクリル樹脂エマルジョン、アクリルウレタン樹脂エマルジョン、アクリルシリコン樹脂エマルジョンが好ましい。これらの樹脂は単独或いは2種以上の混合して使用してもよい。塗料中のアクリル樹脂系エマルジョンの配合量は、10〜95重量%の範囲で使用するが、鉄錆還元反応性、防錆能力、塗膜強度の面より特に30〜80重量%の配合が好ましい。
【0015】
本発明の鉄錆還元反応水系防錆塗料には、必要に応じて塗料特性(粘度、グロス、乾燥速度、塗膜強度、耐水性等)を向上・改善させるために、公知の各種の塗料用添加剤を配合することができる。例えば、界面活性剤等の分散剤、レベリング剤、粘度調整剤、可塑剤、架橋剤、塗膜強化用充填剤、着色顔料などの塗料添加剤を配合することができる。
【0016】
本発明の鉄錆還元水系防錆塗料は、還元性リン酸系鉱酸、タンニン酸、アクリル樹脂系エマルジョンからなる原料を配合し、湿式分散機で混合・分散させるることにより製造することができる。本発明の塗料は、酸性物質の添加によりPHを2.0〜6.5の弱酸性に範囲に調整される。本発明の防錆塗料は、水系塗料なので、必要に応じて適宜純水で希釈して濃度調整、粘度調整を行うことが出来る。
【0017】
本発明の鉄錆還元反応水系防錆塗料は、塗布対象の鋼鉄製基材面に発生した錆層を除去することなく、基材面に塗布することが可能である。つまり鋼鉄製基材の前処理である素地調製(ケレン)を行わうことなくとも塗装が出来、基材の錆層を還元し、防錆性、耐候性、密着性が優れた塗膜を形成することが特徴である。
【0018】
即ち、還元性リン酸系鉱酸が、塗布対象の鋼鉄製基材に発生している鉄の赤錆(Fe)を還元反応によって黒錆(Fe)に転換し、また鋼鉄製基材とも反応して防錆能力が高いリン酸鉄を形成し、同時にタンニンが還元された鉄イオンと結合して、高い防錆力と密着性を発揮するものである。また前記の還元反応の進行と共にバインダーであるアクリル樹脂系エマルジョンの重合・架橋反応が進行し、耐水性・耐候性に優れた塗膜が形成される。
【0019】
また、前記の理由より本発明の鉄錆還元反応水系防錆塗料は、錆の発生していない鋼鉄製基材や構築物に対しても、通常の酸化鉄(ベンガラ)系下地塗料に比べて優れた防錆性、防食性を発揮することが出来る。
【実施例】
【0020】
以下本発明の実施例と比較例を示す。
【実施例1】
【0021】
アクリル樹脂エマルジョン(昭和高分子製AP1350):550重量部、タンニン酸:150部、次亜リン酸:100重量部、純水:200重量部を湿式分散機に加えて混合分散して、実施例1の水系防錆塗料を得た。
【0022】
浮き錆を除いた鋼板(4種ケレン処理品)に、この水系防錆塗料を塗布量:100g/mで塗布し、25℃×5日間で静置・乾燥して試験片とした。耐水性は試験片を50℃の温水中に7日間浸漬し、また煮沸試験は沸騰水で1時間加熱し、その後取り出して塗膜の外観の異常の有無を観察し、また碁盤目テープ剥離試験を実施した。防錆性についてはこの試験片を5%の食塩水、35℃中で72時間噴霧し、錆の発生の有無を観察した。さらに耐候性はサンシャインウエザオメーター試験で1,000時間後の塗膜状況を観察した。その結果を表1に示す。
【実施例2】
【0023】
アクリル樹脂エマルジョン(昭和高分子製AP1350):550重量部、タンニン酸:150部、次亜リン酸:75重量部、純水:225重量部を湿式分散機に加えて混合分散して、実施例2の水系防錆塗料を得た。実施例1と同様に塗膜を評価し、測定結果を表1に示す。
【実施例3】
【0024】
アクリル樹脂エマルジョン(昭和高分子製AP1350):550重量部、タンニン酸:150部、次亜リン酸:50重量部、純水:250重量部を湿式分散機に加えて混合分散して、実施例3の水系防錆塗料を得た。そして実施例1と同様に塗膜を評価し、測定結果を表1に示す。
【比較例1】
【0025】
アクリル樹脂エマルジョン(昭和高分子製AP1350):550重量部、タンニン酸:150部、亜リン酸カルシウム:100重量部、純水:200重量部を湿式分散機に加えて混合分散し、比較例1の水系防錆塗料を得た。そして実施例1と同様塗膜を評価し、測定結果を表1に示す。
【比較例2】
【0026】
アクリル樹脂エマルジョン(昭和高分子製AP1350):550重量部、タンニン酸:150部、亜リン酸マグネシウム:100重量部、純水:200重量部を配合して、比較例2の水系防錆塗料を得た。そして実施例1と同様に塗膜を評価し、測定結果を表1に示す。
【比較例3】
【0027】
アクリル樹脂エマルジョン(昭和高分子製AP1350):550重量部、タンニン酸:150部、亜リン酸カルシウム:50重量部、亜リン酸マグネシウム:50重量部、純水:200重量部を加えて混合分散し、比較例3の水系防錆塗料を得た。そして実施例1と同様に塗膜を評価し、測定結果を表1に示す。
【0028】
【表1】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼鉄製基材への塗装における下地前塗料において、鉄錆の還元性物質として還元性リン酸系鉱酸と、さらにタンニン酸、アクリル樹脂系エマルジョンを配合することを特徴とする鉄錆還元水系防錆塗料。
【請求項2】
鋼鉄製基材への塗装における下地前塗料において、鉄錆の還元性物質としての還元性リン酸系鉱酸が、次亜リン酸、亜リン酸の少なくとも1種以上を含むことを特徴とする請求項1の鉄錆還元水系防錆塗料。
【請求項3】
鋼鉄製基材への塗装における下地前塗料において、還元性リン酸系鉱酸と共に、還元性リン酸塩を配合することを特徴とする請求項1、2の鉄錆還元水系防錆塗料。

【公開番号】特開2011−168757(P2011−168757A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52336(P2010−52336)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(508181504)株式会社サンエイジ (9)
【Fターム(参考)】