説明

鉄骨柱と鉄骨梁との接合方法並びにその接合構造及び接合用梁ブラケット

【課題】地震等の大きな外力が作用した場合に鉄骨梁と連結用プレートとの固着部に生起する応力集中を軽減することができ、径厚比D/tの大きい鉄骨柱に対する適用範囲の拡大にも有効であり、また接合用の梁ブラケットの全長の縮小も可能な鉄骨柱と鉄骨梁との接合技術を提供する。
【解決手段】鉄骨柱1と鉄骨梁2とを連結する連結用部材として、例えば鉄骨梁2の接合端部近傍又は接合用梁ブラケット3の各フランジ部6,7に対して略垂直方向に連結用プレート9,10を一体的に設け、それらの連結用プレート9,10の鉄骨柱1との固着側端部と他端部との間の外側部の少なくとも一部を凹状に形成することにより、連結用プレート9,10の中間部に鉄骨柱1との固着部より先行して塑性変形を起す塑性化領域を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨建築物における鉄骨柱と鉄骨梁との接合技術に関する。より詳しくは、角形断面の鉄骨柱とH形断面からなる鉄骨梁との接合技術に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄骨建築物に地震等の外力が作用した場合には、鉄骨柱と鉄骨梁との接合部に最も大きな曲げ荷重が作用する。したがって、鉄骨柱と鉄骨梁との接合部における破壊が問題となるが、この接合部は溶接によることが一般的であることから、変形性能が低く、脆性的で急激な破壊になりやすく、地震時における緊急避難の機会を奪うことにもなりかねないという問題があった。そこで、接合用の梁ブラケットと鉄骨柱との溶接部での破壊を回避すべく、その溶接部から離れた位置に地震等の外力に対して該溶接部より先に塑性化し、かつ変形性能の大きい塑性化領域を設けたものが開示されている(特許文献1参照)。しかしながら、この従来技術は、鉄骨柱と鉄骨梁との接合構造として、いわゆる内ダイヤフラム工法ないし通しダイヤフラム工法を採用し、梁ブラケットを構成するフランジ部の幅寸法や厚さの変化によって、地震等の外力に対して溶接部より先に塑性化する塑性化領域を形成するために必要となる耐力に関する相対的な差分を確保するという手法を採用したため、次のような技術的制約が伴った。すなわち、梁ブラケットを構成するフランジ部の厚さを変化させるという手法の場合には、その加工のための手間や費用が大きく嵩んだ。また、フランジ部の幅寸法を変化させるという手法の場合には、フランジ部の幅寸法のみの変化により前記差分を形成するため、幅寸法を相当量変化させる必要があった。延いては、鉄骨柱と鉄骨梁の幅寸法に関しても、それに見合った大きな寸法差が必要とされた。その結果、鉄骨柱と鉄骨梁との間の所定の幅寸法差を形成するために、鉄骨柱の幅寸法を、それ自体の強度としては必要以上に大きな寸法にせざるを得ないという制約が伴った。
【特許文献1】特開平11−140978号公報
【0003】
そこで、本発明者らにおいても鋭意研究開発を進め、鉄骨梁を構成するH形鋼材の端部と鉄骨柱との間に配設される接合用の梁ブラケットを構成するH形鋼材の各フランジ部に略垂直方向に連結用プレートを一体的に設け、それらの連結用プレートの端部を鉄骨柱の角部近傍に溶接することにより鉄骨柱と鉄骨梁とを接合するように構成するとともに、前記連結用プレートによって補強された部分と梁ブラケット及び梁本体の連結部との間に、連結用プレートと鉄骨柱との前記溶接部より先行して塑性変形を起す塑性化領域を形成して、地震エネルギを前記溶接部より先行して吸収するように構成した鉄骨柱と鉄骨梁との接合構造を開発した(特許文献2参照)。ところで、この鉄骨柱と鉄骨梁との接合構造においては、前記溶接部より先行して塑性変形を起す塑性化領域を連結用プレートによって補強された部分と梁ブラケット及び梁本体の連結部との間に形成するという考え方、すなわち連結用プレートや該連結用プレートによって補強された部分は原則として前記塑性化領域より先に塑性変形を起さない強度に構成するという技術手段を採用していたため、地震等の大きな外力が作用した場合には、連結用プレートが剛体として鉄骨柱に作用することから、連結用プレートの端部近傍に応力集中を起しやすく、鉄骨柱側にもそれに耐え得る強度が要求される結果、とりわけ径厚比D/tの大きい鉄骨柱に対する適用範囲が制約されるという点や、梁ブラケットとしては少なくとも連結用プレートと塑性化領域とを加えた長さが必要なことから、全長が長くなるといった点では改善の余地があった。
【特許文献2】特開2003−56059号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、以上のような技術的状況に鑑み、地震等の大きな外力が作用した場合に鉄骨梁と連結用プレートとの固着部に生起する応力集中を軽減することができ、径厚比D/tの大きい鉄骨柱に対する適用範囲の拡大にも有効であり、また接合用の梁ブラケットの全長の縮小も可能な鉄骨柱と鉄骨梁との接合技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者において更に研究開発を重ねた結果、前記連結用プレートの鉄骨柱との固着側端部と他端部との間の外側部の少なくとも一部を凹状に形成して、その凹状部に対応した部分に塑性化領域を形成することにより、鉄骨梁と連結用プレートとの固着部に作用する応力を分散して応力集中を大幅に軽減することができ、しかもその塑性化領域によって地震等の外力エネルギを吸収し得ることが判明した。また、これを更に分析類推することにより、板状の連結用プレートに限らず適宜断面形状の連結用部材を介して鉄骨柱と鉄骨梁あるいは梁ブラケットの各フランジ部とを連結するように構成し、その連結用部材の中間部の塑性断面係数を小さく設定すれば、簡便かつ的確に、連結用部材の中間部に該連結用部材と鉄骨柱との前記固着部より先行して塑性変形を起す塑性化領域を形成することが可能であり、その塑性化領域によって地震等の外部エネルギを前記固着部より先行して吸収させることにより、連結用部材と鉄骨柱との固着部からの破壊を回避できるとともに、鉄骨梁と連結用プレートとの固着部に作用する応力を分散して応力集中を大幅に軽減し得ることが判った。
【0006】
図1は実験の対象として連結用プレートを使用した場合の従来技術と本発明の基本的な構成を比較して示した構成説明図である。図中、(イ)は従来技術の基本構成、(ロ)は本発明の基本構成を例示したものであり、Pa,Pbはそれぞれ塑性化領域の概略的な位置を示したものである。また、図2はその実験結果を示した歪み分布説明図である。図示のように、本実験では、鉄骨柱Aに対して、梁ブラケットBaを構成する外側部が直線状の連結用プレートCa、あるいは梁ブラケットBbを構成する外側部が凹状に形成された連結用プレートCbの固着側端部をそれぞれ溶接し、図2に示したようにそれらの梁ブラケットBa又はBbに連結された鉄骨梁Dに対して種々の大きさ荷重Fを付加した場合の、鉄骨柱Aとの溶接部に沿った各部の歪みの大きさを各歪みゲージGにより測定し、それらの測定値をプロットして荷重ごとの歪み分布状態を求めて、その平均的な歪み分布特性曲線a,bを求めた。なお、連結用プレートの凹状部の形状や寸法などは、この歪み分布状態や特性曲線の関係を勘案して決めることができる。図2の(イ)に示した実験結果により、特性曲線aで示したように、外側部が直線状の連結用プレートCaを用いた場合には、連結用プレートCaの上端部に最も大きな歪みが生じる傾向にあり、溶接部の上端部近傍に応力集中が生じて溶接部の亀裂の原因にもなりやすいことが判った。また、図2の(ロ)に示した実験結果により、特性曲線bに示したように、外側部を凹状に形成した連結用プレートCbを用いた場合には、連結用プレートCbの上下の中央部を中心に歪みが分布する傾向にあり、特に上下端部近傍の応力集中は大幅に軽減されることから、溶接部からの亀裂防止にきわめて有効であることが判った。また、後者の外側部を凹状に形成した連結用プレートCbの場合には、歪みが溶接部の上下端部から中央部へ向けて徐々に増加し、前者のように上端部において歪みが急激に変化するようなことはないことから、径厚比D/tの大きい鉄骨柱に対する適用範囲の拡大にも有効であることが判った。さらに、図1に示したように、梁ブラケットの全長を縮小することも可能である。なお、多層階の建物などの場合には、最上階の梁ブラケットの出寸法を最下階の出寸法に合わせて、梁ブラケットの長さを敢えて短くしないこともあるが、このように梁ブラケットが長いままの場合でも、前記凹状部の存在は、溶接部の応力緩和や連結用プレート部分における塑性化領域の形成の点で有効である。
【0007】
本発明では、以上の点に着目して、角形断面の鉄骨柱とH形断面の鉄骨梁との接合手段として、前記鉄骨梁を構成するH形鋼材の接合端部近傍又は前記鉄骨梁の端部と鉄骨柱との間に配設される接合用の梁ブラケットを構成するH形鋼材の各フランジ部に対して連結用部材を一体的に設け、それらの連結用部材の端部を鉄骨柱側に固着することにより鉄骨柱と鉄骨梁とを連結するように構成するとともに、前記連結用部材の中間部に塑性断面係数を小さくして該連結用部材と鉄骨柱との前記固着部より先行して塑性変形を起す塑性化領域を形成し、該塑性化領域により地震等の外部エネルギを前記固着部より先行して吸収させることにより、連結用部材と鉄骨柱との固着部からの破壊を回避するという基本的な技術手段を採用した。なお、ここの連結用部材としては、前記H形鋼材の各フランジとの結合側は例えば矩形や円形の中実ないし筒状の断面形状からなり、鉄骨柱との固着側の縦方向の長さを必要な固着長さに変形したものなど、種々の形状のものが可能である。要はその連結用部材の中間部の塑性断面係数を縮小することによって所期の塑性化領域が形成できるものであればよい。
【0008】
さらに、本発明では、前記連結用部材として板状の連結用プレートを採用した、より具体的な技術手段として、角形断面の鉄骨柱とH形断面の鉄骨梁との接合手段として、鉄骨梁を構成するH形鋼材の接合端部近傍又は前記鉄骨梁の端部と鉄骨柱との間に配設される接合用梁ブラケットを構成するH形鋼材の各フランジ部に対して略垂直方向に連結用プレートを一体的に設け、それらの連結用プレートの端部を鉄骨柱の角部近傍に固着することにより鉄骨柱と鉄骨梁とを連結するように構成するとともに、前記連結用プレートの鉄骨柱との固着側端部と他端部との間の外側部の少なくとも一部を凹状に形成して、その凹状部分に対応して連結用プレートと鉄骨柱との前記固着部より先行して塑性変形を起す塑性化領域を形成し、該塑性化領域により地震等の外部エネルギを前記固着部より先行して吸収させるという技術手段を採用した。ここでH形鋼材の各フランジ部とは、以上のように鉄骨梁自体を構成するH形鋼材の接合端部近傍のフランジ部であってもよいし、鉄骨梁と鉄骨柱との間に配設される接合用梁ブラケットを構成するH形鋼材のフランジ部であってもよい。また、それらの各フランジ部に対して略垂直方向に連結用プレートを一体的に設けるとは、各フランジ部の側部に対して連結用プレートを直接的に設ける形態だけでなく、各フランジ部に対して仕口金物を介して間接的に設けるものでもよい。さらに、H形鋼材の各フランジ部や仕口金物に対して連結用プレートを溶接や他の固着手段により一体的に設ける形態だけでなく、それらのフランジ部や仕口金物に連結用プレートを一体形成したものでもよい。要は、各フランジ部に対して直接的あるいは間接的に略垂直方向に一体的に設けられた前記連結用プレートを介して鉄骨柱と鉄骨梁とを連結するものであればよい。なお、前記連結用プレートの外側部に形成する凹状部の少なくとも一部を曲線状部とし、その曲線状部に対応させて前記塑性化領域を形成するようにすれば、より広い幅で急激な変化の少ない安定した塑性化領域を形成することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、次の効果を得ることができる。
(1)角形断面の鉄骨柱とH形断面の鉄骨梁とを連結用部材を介して連結するように構成するとともに、その連結用部材の中間部の塑性断面係数を小さくして塑性化領域を形成するという技術手段を採用したので、連結用部材の塑性断面係数を選定するだけで最適な塑性化領域を簡便かつ的確に形成することができる。
(2)鉄骨柱と連結用部材との固着部に作用する応力を分散することが可能であり、とりわけ前記固着部の上下端部における応力集中を大幅に軽減できる。したがって、鉄骨柱と連結用プレートとの溶接部の亀裂を回避できるとともに、径厚比D/tの大きい鉄骨柱に対する適用範囲の拡大にも有効である。
(3)連結用部材として連結用プレートを採用した場合には、その連結用プレートの外側部に形成する凹状部の形状に関する選定により、最適の塑性化領域を簡便かつ的確に形成することができる。
(4)塑性化領域を連結用部材の中間部に形成するように構成したので、その分、接合用梁ブラケットの全長を縮小することも可能である。
(5)連結用プレートの外側部を凹状に形成したので、その凹んだ分、凹状部分の外側縁部からスラブ上面までのコンクリートのかぶり厚が大きくとれることから防火上の利点があり、必要以上にスラブを厚くする制約もなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、角形断面の鉄骨柱とH形断面の鉄骨梁とを連結する鉄骨柱と鉄骨梁との接合手段として広く適用することができる。角形断面とは断面形状が略四角形からなるものであれば、正方形でも長方形の断面のものでもよい。連結用部材としては、前述のように、板状の形態に限らず、前記H形鋼材の各フランジとの結合側は矩形や円形の中実ないし筒状の断面形状からなり、鉄骨柱との固着側の縦方向の長さを必要な固着長さに変形したものなど、種々の形状のものが可能である。板状の連結用プレートを採用した場合には、鉄骨柱との固着側端部の長さを他端部と同程度、あるいは後述の実施例のように他端部より長く形成し、それらの固着側端部と他端部との間の外側部の少なくとも一部を、該固着側端部と他端部とを結んだ直線に比べて凹状に形成することにより簡便に塑性化領域を形成することができる。例えば、外側部の凹み量が比較的少なく、連結用プレートとしての外形が三角形に近いものから、凹み量が多く、T字状に近い外形のものや、固着側端部と他端部との長さの差が少ない場合の糸車の断面状の外形のものまで種々の形態が可能である。連結用部材の塑性断面係数の設定、例えば連結用プレートの外側部の凹み量や具体的な形状、寸法等に関する設定は、鉄骨柱と連結用プレートとの固着部に作用する応力の分布状態や、目的の塑性化領域の設定状態などを勘案して選定することになる。また、連結用プレートの外側部に形成する凹状部は、鉄骨柱との固着側端部から他端部までの全長にわたって形成してもよいし、部分的に形成してもよい。その連結用プレートの外側部に形成する凹状部は、その凹状部の全長にわたって曲線あるいは直線から形成したものでもよいし、曲線状の部分と直線状の部分とを組合わせたものでもよい。因みに、急激な変化の少ない広範囲の塑性化領域を形成するには、その塑性化領域に対応する凹状部全体を曲線状部にて形成したり、曲線状部とその接線方向に接続された直線状部との組合わせから形成すると有効である。さらに、連結用プレートは、鉄骨梁自体を構成するH形鋼材の接合端部近傍のフランジ部、あるいは鉄骨梁と鉄骨柱との間に配設される接合用梁ブラケットを構成するH形鋼材のフランジ部を中心に上下にわたって対称的に設置される形態が最適であるが、フランジ部の上方あるいは下方の一方に設置する形態も可能である。なお、連結用部材は、各フランジ部の側部に対して直接的に設ける形態だけでなく、仕口金物の平板部などを介して間接的に設けるようにしてもよい。
【実施例】
【0011】
図3は本発明の実施例に係る鉄骨柱と鉄骨梁との接合部分を示した斜視図であり、図4はその一方向の鉄骨梁に着目して示した部分正面図、図5は同鉄骨梁に関する部分平面図である。なお、以下の実施例においては、連結用部材として板状の連結用プレートを採用した場合について説明する。図中、1は角形断面からなる鉄骨柱であり、2はH形断面からなる鉄骨梁であり、図示のように、本実施例では、鉄骨柱1の周囲四面に鉄骨梁2を接合する場合を例示した。鉄骨柱1の四面には、各鉄骨梁2に対応して、それらの鉄骨梁2を鉄骨柱1に接合するための梁ブラケット3が設置され、該梁ブラケット3を介して鉄骨柱1と鉄骨梁2とを接合する接合構造が採用されている。図示のように、梁ブラケット3は、鉄骨梁2の上側のフランジ部4と下側のフランジ部5に対応する上下のフランジ部6,7と、それらのフランジ部6,7を連結する中央のウェブ8と、上下のフランジ部6,7の両側部に垂直に溶接された連結用プレート9,10とから構成される。そして、梁ブラケット3の上下のフランジ部6,7及びウェブ8に対して鉄骨梁2の上下のフランジ部4,5及びウェブ11をそれぞれ連結板とボルトナットを用いた連結手段12〜14により連結することにより、前記梁ブラケット3を介して鉄骨柱1と鉄骨梁2とが接合されることになる。なお、梁ブラケット3のフランジ部6,7の端部と鉄骨柱1とは溶接しないが、ウェブ8の端部と鉄骨柱1との間に関しては、ウェブ8を介して剪断荷重を的確に支持し得るように溶接するように構成してもよいし、剪断荷重も含めて連結用プレート9,10で支持するように構成して、ウェブ8の端部と鉄骨柱1との間を離間状態にしたり、適宜の位置決め用の手段を介して位置決めするように構成してもよい。
【0012】
図4に示したように、本実施例における梁ブラケット3の上下のフランジ部6,7の両側部に垂直に溶接された前記連結用プレート9,10の上下の外側部は、曲線状部15〜18と残部の直線状部とにより凹状に形成され、これによって塑性化領域Pを連結用プレート9,10内の所定位置に形成している。前述のように、本発明の特徴はこの点にあり、前述の作用効果が得られるものである。因みに、フランジ部6,7の固着側近傍は、図5に示したように鉄骨柱1との溶接部19,20が鉄骨柱1の角部近傍に設定されるため、場合に応じてテーパ状に形成されることになる。したがって、連結用プレート9,10も、これに応じて上下方向からみた設置状態がテーパ状になることになる。なお、図6はスラブとの関係を示した概略説明図であり、図7はその部分拡大図である。図示のように、鉄骨梁2の上部にスラブ21用のコンクリート22を打設した場合には、図7に拡大して示したように、2点鎖線で示した従来技術における連結用プレートの場合よりハッチング23で示した分だけ前記連結用プレート9,10の凹みによってコンクリート22のかぶり厚が増大するので、その分連結用プレート9,10に対する熱伝導率が低下して耐火性が向上する。したがって、連結用プレートに対する熱伝導による防火上の観点からスラブ21用のコンクリート22を必要以上に厚くする必要性は殆ど解消される。
【0013】
図8〜図14は前記連結用プレートの形状に関する種々の具体例を例示した部品正面図である。図8は前記連結用プレート9に使用した基本的な形態を示したものであり、その固着側端部24と他端部25との間の外側部を、曲率半径の異なる円弧を組合わせてなる前記曲線状部15,16と残部の直線状部26,27によって凹状に形成したものである。そして、曲線状部15,16と直線状部26,27を用いて凹状に形成するに際しては、前述のように連結用プレートのどの位置にどの程度の幅からなる塑性化領域を形成するかという、目的の塑性化領域の形成状態との関係を勘案しながら具体的に設定することになる。因みに、曲線状部15,16の端部と他端部25との間は、場合に応じて斜線により接続してもよい。
【0014】
以下同様に、図9に示した連結用プレート28は、円弧からなる曲線状部29,30と残部の直線状部31,32とから凹状に形成したものである。図10に示した連結用プレート33は、直線状部34,35、円弧からなる曲線状部36,37と残部の直線状部38,39とから凹状に形成したものである。図11に示した連結用プレート40は、直線状部41,42と残部の円弧からなる曲線状部43,44とから凹状に形成したものである。図12に示した連結用プレート45は、直線状部46,47、円弧からなる曲線状部48,49と残部の直線状部50,51とから凹状に形成したものである。図13に示した連結用プレート52は、直線状部53,54、円弧からなる曲線状部55,56と残部の円弧からなる曲線状部57,58とから凹状に形成したものである。図14に示した連結用プレート59は、円弧からなる曲線状部60,61と残部の半径の異なる円弧からなる曲線状部62,63とから凹状に形成したものである。以上のように、曲線や直線を適宜組合わせることにより、種々の形態が可能である。なお、以上の実施例においては、加工上の観点から円弧状の曲線を用いた場合を説明したが、その他の自由な曲線の使用が可能なことはいうまでもない。
【0015】
図15は本発明の他の実施例に係る鉄骨柱と鉄骨梁との接合部分を示した斜視図であり、図16はその一方向の鉄骨梁に着目して示した部分正面図、図17は同鉄骨梁に関する部分平面図である。図示のように、本実施例においても、鉄骨柱1に対して鉄骨梁2を接合する点では前記実施例と異なるところはない。本実施例では、接合用梁ブラケット64を構成するH形鋼材として上下のフランジ部65,66の外側部が平行に形成されたものを使用し、それらのフランジ部65,66の外側部に対して適宜のスペーサ67,68を介在させて連結用プレート69,70の向きを鉄骨柱1との溶接箇所に適合するように調整して溶接するように構成した点と、前記フランジ部65,66間のウェブ71を、鉄骨柱1側に設置された位置決め連結用プレート72に形成されたボルト挿通孔にボルトを挿通してナットにより締付け固定することにより、鉄骨柱1側に連結するように構成した点で特徴を有する。因みに、本実施例では接合用梁ブラケット64を使用して鉄骨柱1と鉄骨梁2を接合する形態に適用した場合について説明したが、鉄骨柱1側に設置された位置決め連結用プレート72により鉄骨梁2を構成するH形鋼材のウェブ自体を連結して仮支持することが可能なことから、梁ブラケット64を使用せずに、鉄骨梁2自体のフランジ部に一体的に設けた連結用プレートを介して直接的に鉄骨柱1に接合する形態にもよく適合する。また、以上のように、梁ブラケットあるいは鉄骨梁自体を構成するH形鋼材を構成する各フランジ部に対して略垂直方向に連結用プレートを一体的に設ける場合には、前記実施例のようにそれらのフランジ部の外側部をテーパ状に形成することによって、連結用プレートの向きを鉄骨柱1との溶接箇所に適合させるように構成してもよいし、本実施例のようにフランジ部の外側部と連結用プレートとの間に適宜のスペーサを介在させることによって、連結用プレートの向きを鉄骨柱1との溶接箇所に適合させるように構成してもよい。
【0016】
図18〜図22は鉄骨梁を構成するH形鋼材の接合端部近傍あるいは鉄骨梁の端部と鉄骨柱との間に配設される接合用の梁ブラケットを構成するH形鋼材の各フランジ部に対して連結用プレートを一体的に設けるための仕口金物を示したものであり、図18はその斜視図、図19は正面図、図20は平面図、図21は右側面図、図22は左側面図である。図中、73は仕口金物であり、H形鋼材の上下のフランジ部に対して重合状態で固着される平板部74と、その平板部74の両側部に垂直状態に溶接される連結用プレート75,76とから構成される。平板部74と連結用プレート75,76は、鉄骨柱1との固着部と鉄骨梁2との関係から連結用プレート75,76の向きが適合し得るように、場合に応じてテーパ状に形成される。本実施例における仕口金物73は、平板部74を鉄骨梁2自体あるいは接合用梁ブラケット3,64のフランジ部に重合した状態で溶接やボルトナットなどの固着手段によって固着することにより使用される。なお、本実施例では平板部74を1枚の板から構成した場合を示したが、平板部を左右に分割して連結用プレートごとの仕口金物として構成することも可能である。図中77は平板部74と連結用プレート75,76との接続部に施した隅肉溶接や部分溶込み溶接による溶接部、78,79は鉄骨柱1に対する溶接用の開先部を示したものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実験対象として使用した従来技術と本発明の基本的な構成を比較して示した構成説明図である。
【図2】同実験結果を示した歪み分布説明図である。
【図3】本発明の実施例に係る鉄骨柱と鉄骨梁との接合部分を示した斜視図である。
【図4】図3中の一方向の鉄骨梁に着目して示した部分正面図である。
【図5】同鉄骨梁に関する部分平面図である。
【図6】スラブとの関係を示した概略説明図である。
【図7】図6の部分拡大図である。
【図8】連結用プレートの形状に関する具体例を示した部品正面図である。
【図9】同形状に関する具体例を示した部品正面図である。
【図10】同形状に関する具体例を示した部品正面図である。
【図11】同形状に関する具体例を示した部品正面図である。
【図12】同形状に関する具体例を示した部品正面図である。
【図13】同形状に関する具体例を示した部品正面図である。
【図14】同形状に関する具体例を示した部品正面図である。
【図15】本発明の他の実施例に係る鉄骨柱と鉄骨梁との接合部分を示した斜視図である。
【図16】図15中の一方向の鉄骨梁に着目して示した部分正面図である。
【図17】同鉄骨梁に関する部分平面図である。
【図18】仕口金物を例示した斜視図である。
【図19】同仕口金物の正面図である。
【図20】同仕口金物の平面図である。
【図21】同仕口金物の右側面図である。
【図22】同仕口金物の左側面図である。
【符号の説明】
【0018】
1…鉄骨柱、2…鉄骨梁、3…接合用梁ブラケット、4〜7…フランジ部、8…ウェブ、9,10…連結用プレート、11…ウェブ、12〜14…連結手段、15〜18…曲線状部、26,27…直線状部、28,33,40,45,52,59…連結用プレート、64…接合用梁ブラケット、69,70…連結用プレート、72…位置決め連結用プレート、73…仕口金物、74…平板部、75,76…連結用プレート


【特許請求の範囲】
【請求項1】
角形断面の鉄骨柱とH形断面の鉄骨梁とを連結する鉄骨柱と鉄骨梁との接合方法であって、前記鉄骨梁を構成するH形鋼材の接合端部近傍又は前記鉄骨梁の端部と鉄骨柱との間に配設される接合用の梁ブラケットを構成するH形鋼材の各フランジ部に対して連結用部材を一体的に設け、それらの連結用部材の端部を前記鉄骨柱側に固着することにより鉄骨柱と鉄骨梁とを連結するように構成するとともに、前記連結用部材の中間部に塑性断面係数を小さくして該連結用部材と鉄骨柱との前記固着部より先行して塑性変形を起す塑性化領域を形成し、該塑性化領域により地震等の外部エネルギを前記固着部より先行して吸収させることにより、連結用部材と鉄骨柱との固着部からの破壊を回避することを特徴とする鉄骨柱と鉄骨梁との接合方法。
【請求項2】
角形断面の鉄骨柱とH形断面の鉄骨梁とを連結する鉄骨柱と鉄骨梁との接合方法であって、前記鉄骨梁を構成するH形鋼材の接合端部近傍又は前記鉄骨梁の端部と鉄骨柱との間に配設される接合用の梁ブラケットを構成するH形鋼材の各フランジ部に対して略垂直方向に連結用プレートを一体的に設け、それらの連結用プレートの端部を鉄骨柱の角部近傍に固着することにより鉄骨柱と鉄骨梁とを連結するように構成するとともに、前記連結用プレートの固着側端部と他端部との間の外側部の少なくとも一部を凹状に形成して、その凹状部分に対応して連結用プレートと鉄骨柱との前記固着部より先行して塑性変形を起す塑性化領域を形成し、該塑性化領域により地震等の外部エネルギを前記固着部より先行して吸収させることを特徴とする鉄骨柱と鉄骨梁との接合方法。
【請求項3】
角形断面の鉄骨柱とH形断面の鉄骨梁とを連結する鉄骨柱と鉄骨梁との接合構造であって、前記鉄骨梁を構成するH形鋼材の接合端部近傍又は前記鉄骨梁の端部と鉄骨柱との間に配設される接合用の梁ブラケットを構成するH形鋼材の各フランジ部に対して略垂直方向に連結用プレートを一体的に設け、それらの連結用プレートの端部を鉄骨柱の角部近傍に固着することにより鉄骨柱と鉄骨梁とを連結するように構成するとともに、前記連結用プレートの固着側端部と他端部との間の外側部の少なくとも一部を凹状に形成して、その凹状部分に対応して連結用プレートと鉄骨柱との前記固着部より先行して塑性変形を起す塑性化領域を形成したことを特徴とする鉄骨柱と鉄骨梁との接合構造。
【請求項4】
前記H形鋼材の各フランジ部に固着される仕口金物を構成する平板部に対して略垂直方向に連結用プレートを一体的に設け、該連結用プレートを介して鉄骨柱側と接合するように構成した請求項3に記載の鉄骨柱と鉄骨梁との接合構造。
【請求項5】
前記連結用プレートの外側部に形成する凹状部の少なくとも一部を曲線状部とし、その曲線状部に対応させて前記塑性化領域を形成した請求項3又は4に記載の鉄骨柱と鉄骨梁との接合構造。
【請求項6】
鉄骨柱と鉄骨梁の端部との間に配設される鉄骨柱と鉄骨梁との接合用梁ブラケットであって、その接合用梁ブラケットを構成するH形鋼材の各フランジ部に対して略垂直方向に連結用プレートを一体的に設け、それらの連結用プレートの端部を鉄骨柱の角部近傍に固着することにより鉄骨柱と鉄骨梁とを連結するように構成するとともに、前記連結用プレートの固着側端部と他端部との間の外側部の少なくとも一部を凹状に形成して、その凹状部分に対応して連結用プレートと鉄骨柱との前記固着部より先行して塑性変形を起す塑性化領域を形成したことを特徴とする鉄骨柱と鉄骨梁との接合用梁ブラケット。
【請求項7】
前記接合用梁ブラケットを構成するH形鋼材の各フランジ部に固着される仕口金物を構成する平板部に対して略垂直方向に連結用プレートを一体的に設け、該連結用プレートを介して鉄骨柱側と接合するように構成した請求項6に記載の鉄骨柱と鉄骨梁との接合用梁ブラケット。
【請求項8】
前記連結用プレートの外側部に形成する凹状部の少なくとも一部を曲線状部とし、その曲線状部に対応させて前記塑性化領域を形成した請求項6又は7に記載の鉄骨柱と鉄骨梁との接合用梁ブラケット。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2006−9437(P2006−9437A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−188940(P2004−188940)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【Fターム(参考)】