説明

鉛及び砒素非含有燐酸ニオブ光学ガラス

【課題】PbO、TlO、TeO及びAsを用いず、更に成分SiO及び/又はB及び/又はNaOを用いず、及び/又は弗素を用いない環境保護的考慮により、実現可能となる光学ガラスの提供。
【解決手段】屈折率nが1.86≦n≦1.95、アッベ数vが19≦v≦24である鉛及び砒素非含有燐酸ニオブ光学ガラスであって、次の組成(重量%での酸化物に基づく)、即ち、P:14〜31,Nb:22〜50,Bi:5〜36,WO:>10〜25,GeO:0〜14,LiO:0〜6,KO:0〜6,CsO:0〜7,MgO:0〜6,CaO:0〜6,SrO:0〜6,BaO:0〜6,ZnO:0〜6,TiO:0〜4,Σアルカリ酸化物:2〜12,Σアルカリ土類酸化物:0〜10,Σ(Nb+WO+Bi):≧50,通常の清澄剤:0〜2の組成から成ることを特徴とするガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉛及び砒素非含有、好ましくは更に弗素非含有の燐酸ニオブ光学ガラス、及びかかるガラスを結像、投影、電気通信光学、光通信工学、モバイル駆動及び/又はレーザ技術の分野、並びに光学素子、及びかかる光学素子のいわゆる「プリフォーム」に用いるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光並びに光電子技術の分野(結像、投影、電気通信光学、光通信工学、モバイル駆動及び/又はレーザ技術等の応用分野)における市場の傾向は益々小型化の方向に向かって進んでいる。これは益々小型化する完成製品で見られ、そして勿論、かかる完成製品の個々の構造部材及び構成部品を益々小型化すべき要請となっている。光学ガラスの製造者にとっては、この進展は完成製品の量は増大するものの、原料ガラスの所要量は明確に低減すべきことを意味している。同時に、ブロック及び/又はインゴットガラスから作られるかかる小部品の製造では著しく大量の廃棄物が製品に基づき比例して生成されようし、またかかる微小部品の処理には大型部品より、要する操業費が高くなるため、ガラス製造者に対して、再生業者の側から高い処理費が要求される。
【0003】
従って、光学部品のガラス部をブロック又はインゴットガラスからこれまでのように取り出す代わりに、ガラスの溶融直後に、ガブ(gob:塊)又は球(spheres)等の、最終輪郭又は形状にできるだけ近いプリフォームを生成する製造手法が最近重要になっている。例えば、再プレス成形のため最終形状に近いプリフォーム、所謂「精密ガブ」を再生業者が要請することが増えている。通常、用語「精密ガブ」は、既に部分化され、光学部品の最終形状に近い形状をもつ、好ましくは完全に火造りされた、自由又は半自由形状ガラス部を意味する。
【0004】
かかる「精密ガブ」は好ましくは、いわゆる「精密プレス成形」又は「精密型成形」によりレンズ等の光学部品に改造される。その場合、例えば面研磨された幾何学的形状又は面はそれ以上の処理をもはや要さない。この方法は、柔軟な仕方で溶融ガラスの量を低減し(多数の材料小部品に配分される)、そのセットアップ時間を短くする要求を満たすことができる。だが、サイクル数又は部品数が比較的少ないため、また大きさが概して小さいため、この方法の得られる付加価値は材料のコストだけではない。それどころか、製品は設置準備完了の状態で、プレス機を離れる、即ち労力の要る後処理、冷却及び/又は冷間再処理を要さない。形状の高精度が要求されるため、グレードの高い、従って高価な型材料の精密機器をかかる加圧成形処理に用いなければならない。かかる型材料の寿命は、生成される製品及び/又は材料の採算性に影響を大幅に及ぼす。寿命の長い型に対して極めて重要な要素として、加工温度がある。この加工温度はできるだけ低いと同時に、加圧成形すべき材料の粘性がプレス成形処理に対してもなお十分な点にまで低下が可能であるべきである。これは、処理すべきガラスの処理温度、即ちその転移温度Tgとかかるプレス成形工程の採算性との間に因果関連があることを意味している。即ち、ガラスの転移温度が低ければ低いほど、型の寿命は長くなり、従って収益は高くなる。従って、いわゆる「低Tgガラス」、即ち融点と転移温度が低いガラス、即ちできるだけ低い温度で、しかも処理に十分な粘性をもつガラスに対する要求がある。
【0005】
更に、溶融体の処理的観点から、「ショート」ガラス、即ち粘性が比較的小さい温度変化で、或る粘度範囲内で強く変化するガラスに対する要求が大きくなっている。この挙動には、溶融工程において、熱間成形の時間、即ち型の閉塞時間を低減できると云う利点がある。その故に、一方において処理量が増大、即ちサイクル時間が減少するであろう。他方において、型材料が保護されるであろう、このことは上記のように総生産コストに肯定的効果をもつ。かかる「ショート」ガラスには、結晶化傾向の高いガラスであっても、「ロング」ガラスより速い冷却で処理できると云う更なる利点がある。それにより、後続する二次熱間成形工程で問題を生じ得る前核形成が回避される。これは、かかるガラスをファイバーに延伸できる可能性を与える。
【0006】
更に、ガラスは既述の要求される光学特性をもつ以外に、耐薬品性が十分高く、膨張係数ができるだけ低いことも望ましい。
【0007】
先行技術文献は既に同様の光学状態又は同種の化学組成をもつガラスに付き述べているが、これ等のガラスにはかなりの不利がある。特に、これ等ガラスの多くは、網目形成材であり、従ってガラスの転移温度を高くし、粘度曲線を長くし、屈折率を低下させるSOを高い比率で含む。及び/又は、これ等ガラスの多くは溶融及び焼成工程中に容易に蒸発する、例えばB、NaO及びF等の成分を含むので、ガラス組成の正確な調整が困難になる。この蒸発はまた、ガラスが再度加熱され、プレス成形工程中に型面及びガラス上に付着するので不利である。
【0008】
従来技術によれば、大量の(4重量%を超える)酸化チタン成分が用いられるが、これは結晶化傾向を望ましくなく増大させ、更にUVエッジを長波域に移行せしめる。
【0009】
EP1078894には、屈折率が少なくとも1.83、アッベ数が最大で26の、精密成形用の光学ガラスが言及されている。いずれの場合でも、このガラスは少なくとも2.5重量%のNaOを含有するが、これは既述のように同成分が揮発性のあるため不利である。
【0010】
JP H01−219036Aには、屈折率が高く、分散の高い光学ガラスが記載されている。このガラスはいずれの場合も網目形成材としてSiOを少なくとも5重量%まで含有する。
【0011】
JP2002―173336Aには、精密プレス成形用の、屈折率1.75〜2.0の、高屈折率光学ガラスが記載されている。このガラスはいずれの場合にも揮発性のBを0.2モル%含有する。
【0012】
JP H09−188540Aには、ソラリゼーションに対して改良された安定性をもつ燐酸ニオブ光学ガラスが記載されている。このガラスはWOを含有するが、その含有比率は最大僅か10重量%である。他の必要成分との組み合わせで、有利な屈折率>1.86はそれでは得られない。
【0013】
JP H06−345481Aには、透過率が改良されたP−TiOガラスの製造に付き記載されている。このガラスはTiOを比率少なくとも5重量%で含有する。TiOをそのように高含有率で含有すると、UVエッジが長波域に移行するので望ましくなく、又、ガラスの失透を招き易い。
【0014】
JP H05−270853Aには、透明性、及び失透に対する安定性が改良され、屈折率1.53〜1.85及びアッベ数18〜48の燐酸ニオブガラスが記載されている。このガラスはWOを最大比率で僅か10重量%含有する。他の必要成分との組み合わせで、有利な屈折率>1.86はそれでは得られない。
【0015】
JP2002−293572Aは、いずれの場合でも成分B及びNaOを含有する、眼鏡用の光学ガラスに関する。更に、32重量%より高いPの含有率は、他の必要成分との組み合わせで、有利な屈折率>1.86がそれでは得られない程度の高さである。
【0016】
JP2003−160355Aには、屈折率が1.83より高い、精密加圧成形用の光学ガラスが記載されている。それにもかかわらず、ガラスはいずれの場合でも、僅かに揮発性のある成分NaOを含有している。
【0017】
JP2001−066425Aには、温度範囲−20〜+70℃において膨張係数が9〜10x10−6/Kの光学フィルタ用の基体ガラスが記載されている。本発明のガラスは膨張係数がこれよりはるかに低いため有利であると共に、これが温度差に無感応に反応すると云うガラスに対する有利な特性の原因になる。その上、この先行技術によれば、珪素、バリウム及び燐酸化物の総含有率が35〜55重量%であることが望ましいとしているが、他の必要成分との関連でこれ等成分の含有率がそのように高いと、有利な屈折率>1.86は得られない。
【0018】
EP1350770Aには、屈折率1.88及びアッベ数22〜28の光学ガラスが記載されている。それにもかかわらず、このガラスはいずれの場合でもSOを少なくとも15重量%の含有率まで、またTiOを少なくとも5重量%の含有率まで含有している。
【0019】
JP H08−1004537Aには、高屈折率及び高分散光学ガラスが記載されている。それにもかかわらず、このガラスはいずれの場合でもおいてBを少なくとも1重量%の含有量で含有している。
【0020】
JP S62−128946Aは、いずれの場合でも、有毒な酸化テルルを成分として含有する高屈折率テルルガラスに関する。
【0021】
文献JP S63−170247A、DE4025814A及びUS2004−053768Aに記載されている光学ガラスは、確かに鉛を含まず、弗素も含まなくできるものの、ことごとくSiOを含有している。
【0022】
文献JP2003−238197A、US2004−018933A及びEP1468974Aの言及する光学ガラスは、ことごとく成分として酸化ナトリウムを含有している。
【0023】
JP S61−040839Aには、どの場合にもSbを少なくとも1重量%含有する光学燐酸塩ガラスが記載されている。
【0024】
EP1493720Aにはプレス成形用光学ガラスが請求されているが、これ等ガラスは温度範囲100〜300℃で熱膨張係数が11〜18.4x10−6/Kと望ましくないことに高い。これ等ガラスはLiOを>3重量%含有している。
【0025】
US2005−0164862Aに記載のガラスは、成分として酸化ビスマス又はタングステンを含んで良いが、更に、どの場合にもガラスに酸化アンチモンを用いている。
【0026】
US2005−0159290Aには、酸化ニオブを<22重量%含有する、精密型成形用のガラスが言及されている。酸化ニオブを>22重量%含有すると、UV露光下でガラスの着色を招くので望ましくないと説明されている。
【0027】
本出願の優先日後に公開のJP2004−050688Aに記載されている精密型成形用のガラスは酸化ゲルマニウムを>14重量%含有する。この成分のガラス中の含有量が<14重量%の場合には、望まれる屈折率が得られないことが記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
本発明の目的は、有利且つ所望の光学特性(n/v)が低転移温度で可能となると共に、特にPbO、TlO、TeO及びAsを用いない、好ましくは更に成分SiO及び/又はB及び/又はNaOを用いない、及び/又は弗素を用いないと云う環境保護的考慮により、実現可能となる光学ガラスを提供することにある。
【0029】
更に、これ等のガラスは、精密加圧(プレス)成形法により処理可能であるべきであり、結像、投射、電気通信光学、光通信工学、モバイル駆動及びレーザ技術の分野の応用に適し、屈折率nが1.86≦n≦1.95及びアッベ数vが19≦v≦24であるべきであり、好ましくは転移温度TgがTg≦570℃とできるだけ低くあるべきである。また、それ等の溶融性及び処理性も良好であるべきであり、連続処理されるアグリゲートでの生産を可能にする十分な結晶化安定性を有するべきである。粘度範囲107.6〜1013dPasにおいてできるだけ「ショートの」ガラスが望ましい。いわゆるショートガラスとして、粘度範囲10〜1013dPas内で極めて急峻な粘度曲線を有するガラスが意味される。本発明によるガラスに対して、用語「ショート」は粘度範囲107.6〜1013dPasのものを云う。
【課題を解決するための手段】
【0030】
上記目的は、特許請求の範囲に記載の本発明により達せられる。
【0031】
特に、屈折率nが1.86≦n≦1.95及びアッベ数vが19≦v≦24である、鉛及び砒素、好ましくは更にSiO2、B2O3、Na2O及び弗素非含有光学ガラスであって、次の組成(重量%での酸化物に基づく)、即ち
14 〜 31
Nb 22 〜 50
Bi 5 〜 36
WO >10 〜 30
GeO 0 〜 14
LiO 0 〜 6
O 0 〜 6
CsO 0 〜 7
MgO 0 〜 6
CaO 0 〜 6
SrO 0 〜 6
BaO 0 〜 6
ZnO 0 〜 6
TiO 0 〜 4
Σアルカリ酸化物 2 〜 13
Σアルカリ土類酸化物 0 〜 10
Σ(Nb+WO+Bi) ≧50
通常の清澄剤 0 〜 2
の組成から成るガラスが提供される。
【0032】
好ましくは、アルカリ酸化物の総量は2〜12重量%の範囲、より好ましくは2〜11重量%の範囲にある。本発明のより好ましい実施態様によれば、LiOは組成に3重量%以下の含有率で含まれる。
【0033】
酸化物Nb、WO及びBiの総量は50重量%以上である。
【0034】
好ましくは、ガラスは記載されない成分を含まない。
【0035】
本発明によるガラスはアッベ数及び屈折率等、同様のガラス類の既知の光学ガラスと同一の光学状態を有するが、良好な溶融性及び被処理性並びに良好な環境共存性で特徴付けられる。
【0036】
特に、これ等のガラスは最終形状(輪郭)に近い処理、例えば精密ガブの生成、並びに正確な最終形状の光学部品の製造のための精密加圧(プレス)成形法に適している。これに関連して、本発明によるガラスの粘性温度分布(プロフィール)及び処理温度は、最終形状又は輪郭に近いかかる熱間成形が、反応が敏感な精密機械においても可能なように調整される。
【0037】
更に、本発明によるガラスの結晶化安定性と粘性温度プロシールとが組み合わされて、ガラスの熱(更なる)処理(加圧成形又は再加圧成形)を殆ど問題無しに容易にすることができる。
【0038】
特に、本発明によるガラスは屈折率nが1.86≦n≦1.95、好ましくは1.86≦n≦1.94、特に好ましくは1.87≦n≦1.94、アッベ数vが19≦v≦24、好ましくは19.5≦v≦23.5、特に好ましくは20≦v≦23である。
【0039】
本発明の一実施態様によれば、本発明によるガラスは転移温度TgがTg≦595℃、より好ましくはTg≦570℃、最も好ましくはTg≦550℃である。
【0040】
本発明によれば、いわゆる「低Tgガラス」によって、転移温度Tgの低いガラス、即ち好ましくはTgが最大595℃のガラスを意味する。
【0041】
好ましくは、本発明によるガラスは粘度範囲107.6〜1013dPasにおいてできるだけ「ショート」である。この場合、用語「ショートガラス」によって、温度の比較的小さい変化で所定の粘度範囲において粘性が強く変化するガラスが意味される。好ましくは、このガラスの粘性が107.6から1013dPasに低下する温度間隔ΔTは、最大120Kである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
図1は、ガラス例1における本発明のガラスの内部透過率曲線を示す。
【0043】
図2は、ガラス例11における本発明のガラスの粘度曲線を示す。図2において、縦線はこのガラスの粘度が107.6から1013dPasに低下する温度間隔ΔTを示す。この場合、ΔTは610と514℃の間、即ち96Kである。
【0044】
本発明によるガラスの、用語「内側品質」によって、ガラスは泡及び/又は脈理及び/又は同様の欠陥の部分を含んでいるが、この部分ができるだけ少ないか、ガラスがかかる欠陥を全く含まないことを意味する。
【0045】
以下の記載において、用語「X非含有」又は「成分Xを含まない」は、ガラスがこの成分Xを実質的に含有しない、即ちかかる成分は不純物としてのみガラスに含まれ、個別成分としてガラス組成に添加されないことを意味する。ここで、Xは、例えばNaO等の任意成分を表す。
【0046】
以下の記載において、別途記載の無い場合は、ガラス成分の比率データは全て重量%で与えられ、酸化物に基づく。
【0047】
本発明によるガラスの基本ガラス系は燐酸ニオブ系であり、これは所望特性に対する良好な基礎となる。
【0048】
本発明によるガラスはPを、少なくとも14重量%、好ましくは少なくとも16重量%、特に好ましくは少なくとも18重量%の比率で含む。Pの比率は最大31重量%、好ましくは28重量%、特に好ましくは25重量%に制限される。上記最小比率は14重量%を下回るべきでない、さもなければガラスの粘性/Tgが過大に大きくなるであろう。最大比率31重量%は高屈折率を確保するため、これを上回るべきでない。
【0049】
本発明によるガラスはNbを、少なくとも22重量%、好ましくは少なくとも27重量%、特に好ましくは30重量%の比率で含む。Nbの最大比率は50重量%、好ましくは最大45重量%、更に好ましくは最大40重量%である。この最大比率はアッベ数の過剰の低減を避けるため、これを上回るべきでない。上記最小比率は高屈折率を確保するため22重量%を下回るべきでない。
【0050】
本発明によるガラスはBiを、少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも5.5重量%、特に好ましくは少なくとも6重量%の比率で含む。Biの比率は最大36重量%、好ましくは最大25重量%、特に好ましくは最大18重量%である。Biは粘度範囲107.6〜1013dPasにおいて所望の粘性温度挙動(「ショート」ガラス)を得る一助となる。更に、ガラスのTgを低下させ、その密度を増大させる。後者は高屈折率を保証する。最大比率36重量%は、ガラスのBiによる自己着色がガラスの透明度に過剰な負の効果を及ぼすので、これを超えるべきではない。だが、比率は、本発明によるガラスの高屈折率と共に低Tgを保証するため、5重量%を下回るべきでない。
【0051】
本発明によるガラスはWOを、少なくとも>10重量%、好ましくは少なくとも11重量%、特に好ましくは少なくとも12重量%の比率で含む。WOの最大比率は最大25重量%、好ましくは最大21重量%、更に好ましくは最大17重量%に制限される。この最大比率は25重量%を超えるべきでない、さもなければガラスの粘度が過剰に大きくなるだろう。上記最小比率は高屈折率の保証のため、>10%を下回るべきでない。
【0052】
本発明によるガラスはGeOを、最大14重量%、少なくとも最大10重量%、特に好ましくは最大7重量%の比率で含んでも良い。この最大比率は14重量%を超えるべきでない、さもなければガラスは高価になり過ぎ、経済的でなくなるだろう。
【0053】
製造工程を理由として、ガラスはSOを上限2重量%までの比率で含んでも良い。より好適なのはSOを最大1重量%の比率で含有するガラスである、優先されるのはSO無含有ガラスである。SOは結果として、ガラスの転移温度と粘性を増大する。
【0054】
更に、ガラスは好ましくはBを含まない。Bを含むガラスはガラスを「ロング」とし、これも本発明によれば好ましくない。更に、溶融及び焼成工程中に、添加成分が蒸発する傾向があるので、成分の正確な調整が難しくなる。その上、ガラスが、例えば処理工程中に、再加熱されるとき、易蒸発性がガラス面及び/又は型面に負の影響を及ぼすこともある。
【0055】
本発明によるガラスはアルカリ金属酸化物としてLiOを、最大6重量%、好ましくは最大4重量%、より好ましくは最大≦3重量%の量で含む。本発明によるガラスはLiOを、少なくとも0.5重量%、好ましくは少なくとも0.7重量%の量で含んでも良い。
【0056】
本発明の特に好適な実施態様によれば、ガラスはNaOを含まない。
【0057】
本発明によるガラスはKOを、最大6重量%、好ましくは最大5重量%、特に好ましくは最大4重量%の比率で含有する。本発明によるガラスはKOを、少なくとも0.5重量%の比率で含有する。
【0058】
ガラスが酸化セシウムを含む場合、この成分は最大7重量%、好ましくは最大6重量%の量で含まれる。本発明によるガラスはCsOを、少なくとも0.5重量%、好ましくは少なくとも1重量%、特に好ましくは少なくとも2重量%の比率で含んでも良い。
【0059】
本発明によるガラス内のアルカリ金属酸化物の総量は2〜12重量%である。好ましいのは最大10重量%、特に好ましいのは最大9重量%である。アルカリ金属酸化物の総量は最大12重量%であり、この値を超えるべきでない、さもなければかかるガラス形の屈折率が余りに低くなり過ぎるからである。アルカリ金属酸化物の添加は溶融挙動の最適化のためであり、即ちこれ等酸化物は融剤としての効果がある。更に、Tgを低下させる一因となる。
【0060】
粘性温度挙動を柔軟に調整するため、本発明によるガラスは任意選択として、MgO、CaO、SrO及び/又はBaOから成る群より選ばれるアルカリ土類金属酸化物(MO)を含むことができる。その単一成分の比率は6重量%を上回るべきでない。本発明によるガラスはMgO、CaO、SrO又はBaOの1つ又は複数を、少なくとも0.5重量%、好ましくは少なくとも1重量%の量で含んでも良い。アルカリ土類金属酸化物MOの総量は最大10重量%、好ましくは最大7重量%、最も好ましくは最大6重量%である。アルカリ土類は急峻な粘度曲線の一助となる。最大比率は、ガラス内の高比率は特に再加熱中に結果として失透を生じるで、10重量%を上回るべきでない。
【0061】
本発明によるガラスはZnOを0〜最大6重量%、より好ましくは0〜最大4重量%、更に好ましくは0〜最大2重量%の範囲で含んでも良い。特に好ましくは、ガラスはZnOを含まない、蒸発する傾向があるからである。
【0062】
ガラスは好ましくは、TiOを含まない。ガラスはTiOを最大4重量%、好ましくは最大3重量%、特に好ましくは最大1.5重量%の量で含んでも良い。TiOは高屈折率及び高分散に貢献し、光学状態を調整する作用がある。だが、この成分はガラスのTgと粘性を高め、UVでの吸収を通して透過率に負に影響する。酸化チタンは4%を上回るべきでない、この成分は成核剤として作用し、従って失透を招くので望ましくない。
【0063】
好ましくは、Nb、WO及びBiの総量は50重量%、より好ましくは55重量%、特に好ましくは57重量%を上回る。この総量で、本発明によるガラスの高屈折率が保証される。
【0064】
光学ガラスとしての本発明によるガラスはまた、着色成分、及び/又はレーザに活性な等の、光学的に活性な成分を含まない。
【0065】
特に、本発明によるガラスは、例えばAg等の、酸化還元反応に敏感な成分を含まず、例えばTl、Te、Be及びAsの酸化物等の、有毒な又は健康に有害な成分を含まない。どの場合でも、本ガラスはPbOや砒素を含まない。
【0066】
本発明の一実施態様によれば、本発明によるガラスはまた、好ましくは、請求の範囲に記載されていない他の成分を含まない、即ちかかる実施態様によれば、ガラスは記載されている成分から実質的に成る。この場合、「実質的に成る」は、他の成分は不純物としてのみ含まれ、ガラス組成に単独成分として意図的には添加されないことを意味する。
【0067】
本発明によるガラスは通常の清澄剤を少量含んでも良い。好ましくは、添加清澄剤の量は最大2.0重量%、より好ましくは最大1.0重量%である。清澄剤として次の組成、即ち
Sb 0 〜 1 及び/又は
SnO 0 〜 1 及び/又は
SO2− 0 〜 1 及び/又は
- 0 〜 1
の成分少なくとも1つが(重量%で、残余のガラス成分に加えて)、本発明によるガラスに含まれても良い。
【0068】
また、弗素又は弗素含有成分は溶融及び焼成工程中に蒸発しがちであり、従ってガラス組成の正確な調整を難しくする。従って、本発明によるガラスはまた、弗素を含まないのが好ましい。
【0069】
好ましくは、本発明によれば、燐酸塩が「錯燐酸塩」として混合物に添加される。それが、燐酸塩の最大31重量%の比率が有利である理由である。と云うのも、比率がそれより高くなると、「錯燐酸塩」の量は「遊離」Pとなって減少し、これは、制御不能な溶融挙動と、蒸発及びダスティング作用の明確な増大と同時に内部品質の悪化を招く状態を惹起することがある。更に、遊離、即ち非錯燐酸塩の量の増大は製造作業の安全技術への要求を増大し、これにより製造コストが上昇する。本発明において、用語「錯燐酸塩」は、Pとしての燐酸塩は混合物に添加されないが、MO又はMOのような成分は酸化物又は炭化物として添加されず、例えばバリウム水素燐酸塩及び/又はバリウム水素メタ燐酸塩及びアルカリ水素燐酸塩及び/又はアルカリ水素メタ燐酸塩等の燐酸塩として混合物に添加されることを意味する。それにより、ガラスの生産性はかなり改善される。混合物のダスティング傾向は、錯燐酸塩は遊離燐酸塩と違って加湿可能なので、徹底的に低減できる。更に、ガラス溶融体の蒸発傾向は低減する。従って、特に品質に反映されるガラス溶融体の均質性及び発明ガラスの光学データが向上する。
【0070】
更に、本発明は、本発明によるガラスを結像、投影、電気通信光学、光通信工学、モバイル駆動及び/又はレーザ技術の分野に用いるその使用に関する。
【0071】
更に、本発明は、本発明によるガラスを含む光学素子に関する。ここで、光学素子は特に、レンズ、非球面、プリズム及びコンパクトな構造部材で良い。この場合、本発明によれば、用語「光学素子」はまた、かかる光学素子のプリフォーム、例えばガブ(ガラス溶融体)、精密ガブ等を含む。
【0072】
以下に、本発明を一連の実施例に付いて詳細に説明する。だが、本発明は記載の実施例に限定されない。
【0073】
実施例
以下の実施例は本発明による好適なガラスを示すが、その保護範囲を制限するものではない。
【0074】
実施例1
酸化物の原料を量り分け、例えばSb等の1つ又は複数の清澄材を添加し、次いでこれ等を十分に混合する。ガラス混合物はca.1100℃で連続溶融アグリゲート(結合体)に溶融され、酸素を泡立て、次いで清澄処理(1100℃)され、均質化される。約1160℃の鋳込み温度でガラスは鋳造され、所望の寸法に処理される。実験の示すところでは、大量の連続アグリゲートでは、温度を少なくともほぼ100Kに低下でき、加圧成形法により材料を最終形状に近い形状まで処理できる。
【0075】
【表1】

【0076】
実施例2
本発明によるガラス例、即ちガラス例1〜14からなる。
【0077】
【表2(1)】

【0078】
【表2(2)】

【0079】
本発明によるガラスはガラス転移温度Tgが595℃以下であり、良好に処理可能であり、アルカリに対して良好な耐性(良好な耐アルカリ性)を有する。膨張係数は20〜300℃の温度範囲での測定で十分に9x10−6/K下の範囲にある。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】ガラス例1における本発明のガラスの内部透過率曲線を示す。
【図2】ガラス例11における本発明のガラスの粘度曲線を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率nが1.86≦n≦1.95、アッベ数vが19≦v≦24である鉛及び砒素非含有燐酸ニオブ光学ガラスであって、次の組成(重量%での酸化物に基づく)、即ち
14 〜 31
Nb 22 〜 50
Bi 5 〜 36
WO >10 〜 25
GeO 0 〜 14
LiO 0 〜 6
O 0 〜 6
CsO 0 〜 7
MgO 0 〜 6
CaO 0 〜 6
SrO 0 〜 6
BaO 0 〜 6
ZnO 0 〜 6
TiO 0 〜 4
Σアルカリ酸化物 2 〜 12
Σアルカリ土類酸化物 0 〜 10
Σ(Nb+WO+Bi) ≧50
通常の清澄剤 0 〜 2
の組成から成ることを特徴とするガラス。
【請求項2】
熱膨張係数α(20、300℃)が9x10−6/Kより小さい、請求項1に記載のガラス。
【請求項3】
次の組成(重量%での酸化物に基づく)、即ち
16 〜 28
Nb 27 〜 45
Bi 5 〜 25
WO 11 〜 21
GeO 0 〜 10
LiO 0.5 〜 4
O 0 〜 4
CsO 0 〜 6
MgO 0 〜 5
CaO 0 〜 5
SrO 0 〜 5
BaO 0 〜 6
ZnO 0 〜 5
TiO 0 〜 3
Σアルカリ酸化物 3 〜 10
Σアルカリ土類酸化物 0 〜 7
Σ(Nb+WO+Bi) ≧55
通常の清澄剤 0 〜 2
の組成から成る、請求項1又は2に記載のガラス。
【請求項4】
次の組成(重量%での酸化物に基づく)、即ち
18 〜 25
Nb 30 〜 40
Bi 6 〜 18
WO 12 〜 17
GeO 2 〜 7
LiO 0.7 〜 4
O 0.5 〜 4
CsO 0 〜 6
MgO 0 〜 4
CaO 0 〜 4
SrO 0 〜 4
BaO 0 〜 6
ZnO 0 〜 4
TiO 0 〜 1.5
Σアルカリ酸化物 3 〜 9
Σアルカリ土類酸化物 0.5 〜 6
Σ(Nb+WO+Bi) ≧57
通常の清澄剤 0 〜 2
の組成から成る、請求項1〜3の何れか1つに記載のガラス。
【請求項5】
清澄剤として次の成分、即ち
Sb 0 〜 1 及び/又は
SnO 0 〜 1 及び/又は
SO2− 0 〜 1 及び/又は
F 0 〜 1
の成分少なくとも1つを(重量%で)含む、請求項1〜4の何れか1つに記載のガラス。
【請求項6】
ガラス中に含まれるLiOの量が≦3重量%である、請求項1〜5の何れか1つに記載のガラス。
【請求項7】
SiO及び/又はB及び/又はNaO及び/又は弗素を含有しない、請求項1〜6の何れか1つに記載のガラス。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか1つに記載のガラスを結像、投影、電気通信光学、光通信工学、モバイル駆動及び/又はレーザ技術の分野に用いるその使用。
【請求項9】
請求項1〜7の何れか1つに記載のガラスを光学素子に用いるその使用。
【請求項10】
請求項1〜7の何れか1つに記載のガラスを含む光学素子。
【請求項11】
請求項1〜7の何れか1つに記載のガラスを精密プレス成形する工程を含む、光学素子の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−51060(P2007−51060A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−221452(P2006−221452)
【出願日】平成18年8月15日(2006.8.15)
【出願人】(504299782)ショット アクチエンゲゼルシャフト (346)
【氏名又は名称原語表記】Schott AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr.10,D−55122 Mainz,Germany
【Fターム(参考)】