説明

鉛含有ガラスからの鉛回収方法

【課題】 廃ブラウン管等の鉛含有ガラスから鉛を効率よく回収できる手段を提供する。
【解決手段】上記課題は、鉛含有ガラスと還元剤とカルシウム化合物とアルミニウム化合物とを1000℃以上1700℃以下で還元溶融し、前記鉛含有ガラスに含まれる酸化鉛を金属鉛として分離回収することを特徴とする鉛含有ガラスからの鉛回収方法によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光学レンズやブラウン管に用いられる鉛含有ガラス等の廃棄物などの鉛含有ガラスから、鉛を分離して回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学レンズやブラウン管に用いられる鉛含有ガラス中には、20重量%程度の酸化鉛が含まれている。ブラウン管ガラスとして用いた場合、使用済みのブラウン管テレビは解体され、ブラウン管ガラスの部分は、再溶解されブラウン管ガラスにリサイクルされてきた。しかし、近年、液晶テレビやプラズマテレビが普及してきたため、ブラウン管テレビの需要が減少し、ブラウン管ガラスにリサイクルすることが困難になってきている。鉛含有ガラスを廃棄する場合、従来セメント固化あるいは薬剤で処理して埋め立て処分する方法で処理されてきた。
【0003】
鉛含有ガラスの処理方法としては、還元溶融やオートクレーブ中でのアルコールによる抽出やEDTAによる抽出やハロゲン化して揮発分離する方法が検討されてきている。還元溶融に関しては、特許文献1及び非特許文献1に記載されているように、酸化鉛を高温で還元剤を用いて還元反応により鉛を分離、回収する方法が用いられている。
【0004】
特許文献1に開示されている方法は、鉛含有ガラス切削屑に酸化ナトリウムを添加し、800℃以上で、スラグ成分のSiO/NaOの重量比を1.2〜3.0の範囲に調整し、コークス又は木炭等の炭素源を還元剤として混合し、加熱溶融処理する方法である。非特許文献1に開示されている方法は、ブラウン管ファンネルガラス粉末に、還元剤として小麦粉を加え、溶融助剤としてNaCOを加えて還元溶融する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−96264号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】稲野ら、「還元溶融による廃ブラウン管ガラスからの鉛分離」、北海道立工業試験場報告、No.304、P71〜77
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
溶融助剤としてNa系融剤を加えて還元溶融する方法では、生成されたスラグ中のPb濃度は、0.1%以下となり、鉛含有ガラスから鉛を分離し、回収することができた。しかし、そのスラグの溶出試験(環境庁告示第46号に基づく方法)を行うと、鉛の溶出量が約100mg/Lとなり、土壌の汚染に係る環境基準(0.01mg/L以下)を大幅に超えていた。さらに、スラグは吸湿性であるため、屋外に放置すると鉛の溶出が進行しやすい、という問題があった。Na系融剤を用いて還元溶融した場合、SiOの結合力が弱くなってスラグの溶解性が大きくなるためと考えられる。そのため、スラグを埋立処分したり製品原料として再利用したりすることができず、事業として実施することは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記問題点を解決するべく、まず、溶鉱炉において、酸化鉛とFeO−CaO−SiO系スラグにより金属鉛を回収する方法を考えたが、これは、溶鉱炉で生成したスラグは、FeO−CaO−SiO系スラグでスラグ中Pb濃度が数%程度あるため、利用困難であった。そこで、本発明者らは、さらに検討を進め、強還元性雰囲気下で鉛含有ガラスを還元剤とCa系融剤(カルシウム化合物)とAl系融剤(アルミニウム化合物)とともに投入し還元溶融する方法を開発した。すなわち、本発明は、鉛含有ガラスと還元剤とカルシウム化合物とアルミニウム化合物とを1000℃以上1700℃以下で還元溶融し、その鉛含有ガラスに含まれる酸化鉛を金属鉛として分離回収することを特徴とする鉛含有ガラスからの鉛回収方法である。
【0009】
鉛含有ガラス自体の融点は約1000℃と低いが、PbOが還元され除去されるとSiOが主体となり1700℃近くの融点に急激に上昇する。それにともない、粘性も急激に上昇する。粘度が増加するとスラグ中Pbの物質移動が停滞し反応が停滞する。そこで、本発明においては、Ca系融剤とAl系融剤を添加することによって、融点を下げ、粘性の急激な上昇を抑制しつつ還元反応を進行させている。
【0010】
すなわちブラウン管ガラス中の鉛は、酸化鉛PbOの形態で存在しており、これを還元雰囲気下で還元溶融すると化1または化2に従って、金属鉛Pbが生成し、生成した金属鉛は、溶融スラグ中を沈降する。
【0011】
【化1】

【0012】
【化2】

【0013】
しかし、PbOが還元されると残留する溶融物の組成がSiOを主体とする酸化物になるため、融点が上昇し(SiOの融点1700℃程度)、粘性が高くなり、反応で生成したCO気泡の浮上分離が阻害され、スラグ中に残留するため、スラグ中のPbOとCとの接触がCO気泡により阻害され、PbOの還元反応が停滞することがわかった。
【0014】
そこで、PbOの還元反応を促進するために、生成したCOあるいはCO気泡の速やかな除去を図ることが必要となる。本発明では、これをCa系融剤とAl系融剤を加えることによって解決した。
また、本発明では、スラグ中に微量(0.1%以下)に残存する鉛も溶出しにくい形態となっており、スラグからの鉛溶出量は環境基準(0.01mg/L以下)を下回ることがわかった。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、廃ブラウン管ガラスのような鉛含有ガラスから鉛を高収率で回収することができるとともに、生成されるスラグは鉛含有量が0.1%以下で、鉛溶出量も環境基準を下回るものであり、道路用建設資材やガラス製品の原料などとして再利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の方法を実施する装置の一例を示す図である。
【図2】その内部の状態を示す図である。
【図3】本発明の方法で得られた鉛とスラグの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明で処理される鉛含有ガラスは、光学レンズやブラウン管に使用されたものであり、鉛を酸化鉛として10〜40重量%程度、通常20重量%程度含んでいるものである。これを通常は破砕してから、鉛の回収に供される。
【0018】
この鉛含有ガラス中の酸化鉛の還元に使用される還元剤は、黒鉛、小麦粉、コークス、木炭等の炭素質、金属鉄、アルミニウム、カルシウム等を使用することができる。還元剤の使用量は、鉛含有ガラス中の酸化鉛に対し、モル比で1〜4程度が適当である。還元剤が固形の場合の粒径は100μm〜100mm程度が適当である。
【0019】
本発明では、さらに、溶融時の粘度の上昇を抑制するためにカルシウム化合物とアルミニウム化合物を加える。
【0020】
カルシウム化合物の例としては、生石灰、炭酸カルシウム、消石灰、カルシウムアルミネート等を挙げることができる。添加量としては、スラグにおけるCaO/SiOのモル比で0.1〜1.3程度、好ましくは0.2〜1.1程度が適当である。鉛含有ガラスはCaも含有しているので、その量も加味して添加量を定める。
【0021】
アルミニウム化合物の例としては、コランダム、アルミナセメント、カルシウムアルミネート等を挙げることができ、添加量としてはスラグにおけるCaO/Alのモル比で0.4〜13程度、好ましくは1〜2.8程度が適当である。鉛含有ガラスはAlも含有している。したがって、鉛含有ガラス中のCa、Alの含有量と添加するCa量を加味して、Alの添加量を定めることになる。
【0022】
カルシウム化合物とアルミニウム化合物は別個に加えてもよく、両方含む化合物を用いることもできる。両方含む化合物の例としては、市販されている合成スラグやアルミナセメントなどがある。
【0023】
鉛含有ガラスと還元剤とカルシウム化合物とアルミニウム化合物を含有する混合物を加熱する炉は、スラグを溶融できる温度まで加熱できるものであるか、還元して生成した鉛蒸気を捕集するために密閉構造である必要がある。このような加熱炉としては、電気抵抗式溶融炉、アーク炉、誘導加熱炉、溶鉱炉等を挙げることができる。
【0024】
この加熱炉に、鉛含有ガラスと還元剤とカルシウム化合物とアルミニウム化合物を投入して還元溶融を行う。投入は、それぞれを別の投入口から投入してもよく、あるいは予め混合しておいた混合物を投入しても良い。炉内は、反応したCO、CO2ガスにより還元雰囲気となるが、窒素等の不活性ガスを吹き込んで、還元雰囲気を保ってもよい。
【0025】
炉内の温度は、スラグの溶融状態を保てる温度、例えば1200〜1600℃、とすると、2〜4時間程度で鉛を金属鉛として底部に分層させることが出来る。図3に分離した金属鉛とスラグを示す。
【0026】
一方、この酸化鉛の還元は連続運転とすることができ、その場合、スラグ中の鉛(酸化鉛を含む)含量が所定値以下になるように管理しながら、鉛含有ガラス、還元剤、カルシウム化合物、アルミニウム化合物を連続あるいは断続的に投入し、生成した溶融状態の鉛とスラグを連続あるいは断続的に抜き出していけばよい。
【0027】
本発明の方法で、分離された鉛は、そのまま、あるいはさらに精製して金属鉛として利用できる。
【0028】
スラグは、道路用建設資材やガラス製品の原料などとして再利用できる。
【実施例】
【0029】
図1、2に示す装置で鉛含有ガラスから鉛の回収を行った。
【0030】
鉛含有ガラスはブラウン管を解体して得たガラスを粒径50mm以下に破砕して用いた。還元剤には粒径100μmの黒鉛をC/PbOの比で1となる量で用いた。カルシウム化合物としては、粒径10μmの生石灰をCaO/SiOの比で0.4になる量で用いた。アルミニウム化合物としてコランダムをCaO/Al=1.5となる量で用いた。
【0031】
これらの混合物を電気抵抗式溶融炉に40kg/hで投入し、1200〜1600℃に加熱して溶融した。その結果表面の投入した原料と副資材の未反応物によるスラグのカバー層、その下のスラグ層と底部の金属鉛層の各溶融層が形成された。反応はカバー層、スラグ−カバー層間、電極−カバー層間および電極−スラグ層間で起ったが、主に電極−スラグ層間で起った。スラグ層は1〜3時間毎に100kgを排出し、金属鉛は24時間毎に20kgを取り出した。金属鉛の回収率は、60%で、Na系融剤を用いたときの50%よりも若干多かった。これは、Na系融剤は、1500℃程度になるとNaOやNa蒸気として揮発し、反応が抑制されたためと推定される。
【0032】
排出したスラグは、水砕により水冷またはパン上で徐冷して凝固させた。このスラグの金属鉛含有量は、0〜0.06%であった。溶融処理の前後における鉛溶出量の測定結果は、本発明では0.01mg/L未満であったが、Na系融剤を用いた場合には100mg/Lに達していた。ブラウン管ガラスからの鉛溶出量は土壌の汚染に係る環境基準である0.01mg/Lを超えていたが、本発明のスラグからの鉛溶出量は全て環境基準未満であった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明により、鉛含有ガラスから鉛を効率よく回収でき、スラグも有効利用できるので、大量に排出されるブラウン管を再資源化することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛含有ガラスと還元剤とカルシウム化合物とアルミニウム化合物とを1000℃以上1700℃以下で還元溶融し、前記鉛含有ガラスに含まれる酸化鉛を金属鉛として分離回収することを特徴とする鉛含有ガラスからの鉛回収方法。
【請求項2】
前記還元剤は、炭素質であることを特徴とする請求項1に記載の鉛含有ガラスからの鉛回収方法。
【請求項3】
前記還元剤の量は、前記鉛含有ガラスに含まれる酸化鉛に対し、モル比がC/PbO=1〜4となる量であることを特徴とする請求項2に記載の鉛含有ガラスからの鉛回収方法。
【請求項4】
前記カルシウム化合物および前記アルミニウム化合物の量は、前記スラグにおけるモル比がCaO/SiO=0.1〜1.3かつCaO/Al=0.4〜13となる量であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の鉛含有ガラスからの鉛回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−92406(P2012−92406A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241996(P2010−241996)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】