説明

鉛筆芯の製造方法

【課題】 曲げ強さと濃度とのバランスに優れた鉛筆芯を提供すること。
【解決手段】 少なくとも結合材と体質材とを主材として使用し、混練した原材料を細線状に押出成形後、焼成処理を施してなる鉛筆芯の製造方法において、材料として(メタ)アクリル酸単量体単位を含有し、重量平均分子量が5万〜400万の範囲内にあるアクリル酸系重合体を少なくとも使用することを特徴とする鉛筆芯の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも結合材と体質材とを主材として使用し、混練した原材料を細線状に押出成形後、焼成処理を施してなる鉛筆芯の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鉛筆芯は、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリエチレン、尿素樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂、フェノール樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ブチルゴムといった適宜の有機結合材や粘土などの無機結合材と、黒鉛、窒化ホウ素、タルクといった体質材とを主材として使用し、必要に応じて、カーボンブラック、無定形シリカなどの充填材、フタル酸エステルなどの可塑剤、メチルエチルケトン、水などの溶剤、ステアリン酸塩などの安定剤、ステアリン酸などの滑材を併用し、これらの材料をニーダー、3本ロールなどで混練し、細線状に押出成形した後、焼成処理を施し、更に必要に応じて、シリコン油、流動パラフィン、スピンドル油、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、モンタンワックス、カルナバワックスといった適宜油状物を含浸させて製造している。
【0003】
ところで、鉛筆芯の曲げ強さと濃度には逆相関関係、即ち、曲げ強さを向上させようとすると鉛筆芯が摩耗しづらくなり、その結果として濃度が低下してしまい、逆に濃度を高くしようとすると、曲げ強さが低下してしまうという関係がある。又、この逆相関関係を改善させようと様々な発明が報告されている。配合材料混練時の均一分散性を向上させ、体質材と結合材との結びつきを高めることにより鉛筆芯の曲げ強さを向上させるのも一つの方法である。この配合材料混練時の均一分散性を向上させるために可塑剤を使用する方法(特許文献1)が知られている。
【特許文献1】特開2003−105248号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されている発明では、確かに可塑剤の使用により配合材料の混練時の均一分散性は向上し、体質材と結合材との結びつきは高まるが、均一分散性を更に向上させるためにその使用量があまりに多くなると、押出成形後の熱処理で可塑剤が揮散することによって形成される気孔が多くなってしまい、結果的に鉛筆芯の曲げ強さは低下してしまうことが多い。
本発明は、可塑剤を多量に使用することなく配合材料の混練時の均一分散性を向上させ、体質材と結合材との結びつきを高めることにより、濃度を低下させることなく鉛筆芯の曲げ強さを向上させるものである。即ち、本発明は、曲げ強さと濃度とのバランスに優れた鉛筆芯を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、少なくとも結合材と体質材とを主材として使用し、混練した原材料を細線状に押出成形後、焼成処理を施してなる鉛筆芯の製造方法において、材料中に、構造中に(メタ)アクリル酸単量体単位を有し、重量平均分子量が5万〜400万の範囲であるアクリル酸系重合体を含有する鉛筆芯の製造方法を要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る鉛筆芯の製造方法において、可塑剤を多量に使用することなく配合材料の混練時の均一分散性を向上させ、体質材と結合材との結びつきを高めることにより、鉛筆芯の曲げ強さと濃度との逆相関関係を改善できる理由は次のように推測される。即ち、本発明で使用するアクリル酸系重合体は、分子の長鎖が結合材であるマトリックス樹脂の分子と絡まることにより、疑似架橋状態をつくり、配合材料に溶融弾性を付与する。この溶融弾性が配合材料の混練時における均一分散性を向上させ、体質材と結合材との結びつきをより高めることになり、ひいては押出成形時における配合材料の流動性を向上させることにつながり、芯体軸方向への体質材の配向もより高まり、鉛筆芯の曲げ強さを向上させるのである。また、特にマトリックス樹脂がポリ塩化ビニル樹脂(以下PVCと記す)の場合には、アクリル酸系重合体を使用することによりPVCのゲル化促進が図られ、成形加工性がより向上する。ここで言うゲル化とは、基本の分子粒子が凝集して一次粒子を形成し、それらが凝集して二次粒子を、更にそれらが凝集してPVC粒子と呼ばれるレジン粒子を形成している一般的なPVCにおいて、このレジン粒子が崩壊して、二次粒子、一次粒子と細分化される現象であり、このゲル化を通じて初めてPVCの力学的特性が十二分に発現される。即ち、PVCの結合材としての特性が向上し、鉛筆芯の曲げ強さを更に向上させるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、詳述する。
本発明で使用するアクリル酸系重合体は、(メタ)アクリル酸単量体単位を含有し、重量平均分子量が5万〜400万の範囲内にあるもので、(メタ)アクリル酸単量体単位とは、アクリル酸、メタクリル酸やこれらの混合物を含むものである。アクリル酸系重合体としては、アクリル酸、アクリル酸アルキル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸nブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシルなどのアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸nブチル、メタクリル酸−2−エチルヘキシルなどのメタクリル酸エステルを主成分とした共重合体からなる一群の重合体が挙げられる。また、アクリル酸系重合体は、芳香族ビニル系単量体単位を含むことがより好ましい。芳香族ビニル系単量体単位を構成する芳香族ビニル系単量体の具体例としては、スチレン、a−メチルスチレン、p−メチルスチレン、a−p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、o−メトキシスチレン、2,4−ジメチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレンなどが挙げられ、これらは1種もしくは2種以上を併用することができる。アクリル酸系重合体は、その重量平均分子量が5万〜400万の範囲内にあるものが好ましく、重量平均分子量が400万を超えるものを使用すると、配合材料の押出成形時の流動性が低下する傾向にあり、重量平均分子量が5万未満のものを使用すると、押出成形時に層状剥離が発生することがある。アクリル酸系重合体の使用量は、使用する結合材全量に対して0.1〜10重量%、好ましくは1〜5重量%程度にしておくと概ね良好である。0.1重量%未満の使用量であると、その効果が発現しにくく、また、10重量%を超えると、結合材である樹脂そのものの物性を低下させてしまい、曲げ強さが低下するためである。(メタ)アクリル酸単量体単位を含有し、重量平均分子量が5万〜400万の範囲内にあるものの具体的な市販品としては、三菱レイヨン株式会社製のメタブレンP−530A、メタブレンP−540A、メタブレンP−551A、メタブレンP−560A、メタブレンP−501A、メタブレンP−570A、メタブレンP−700、メタブレンP−710などが例示できる。
【0008】
上記以外の使用材料としては、従来公知の材料を使用することができる。結合材としては、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリエチレン、尿素樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂、フェノール樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、変成ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ブチルゴムなどの有機結合材や粘土などの無機結合材などの中より選択された1種もしくは2種以上のものを例示できる。また、体質材としては、一般的な、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土状黒鉛、人造黒鉛、窒化ホウ素あるいはタルクなどの中より選択された1種もしくは2種以上のものを例示できる。更に、必要に応じて、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル、リン酸トリクレジル、ジプロピレングリコールジベンゾエート、アジピン酸ジオクチル、プロピオンカーボネートなどの可塑剤、カーボンブラック、無定形シリカなどの充填材、ステアリン酸塩などの安定剤、ステアリン酸などの滑材、メチルエチルケトン、水などの溶剤などを適宜併用した材料をヘンシェルミキサーなどによる混合、ニーダー、3本ロールなどによる混練の後、細線状に押出成形し、800℃〜1300℃の焼成処理を施し、更に必要に応じて、シリコン油、流動パラフィン、スピンドル油、スクワラン、α−オレフィンオリゴマー、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、モンタンワックス、カルナバワックスなどの適宜油状物を含浸させて鉛筆芯を製造する。
尚、必要に応じて、顔料、染料などを適宜併用し、色鉛筆芯としても良い。
【実施例】
【0009】
以下、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
ポリ塩化ビニル樹脂(結合材) 50重量部
黒鉛(体質材) 75重量部
メタブレンP−700(三菱レイヨン株式会社製の、メタクリル酸メチル・アクリル酸アルキル・スチレン共重合物、重量平均分子量:50万) 1重量部
ジオクチルフタレート(可塑剤) 25重量部
ステアリン酸塩(安定剤) 2重量部
ステアリン酸(滑材) 1重量部
カーボンブラック(充填材) 2重量部
メチルエチルケトン(溶剤) 50重量部
上記材料をヘンシェルミキサーによる混合、3本ロールによる混練をした後、細線状に押出成形し、空気中で300℃まで約10時間かけて昇温し、300℃で約1時間保持する加熱処理をし、更に、密閉容器中で1000℃を最高とする焼成処理を施し、冷却後、流動パラフィンを含浸させて、呼び径0.5のシャープペンシル用芯を得た。
【0010】
<実施例2、3、4、5、6>
実施例1において、メタブレンP−700の使用量を1重量部から0.04重量部、0.06重量部、2.5重量部、4.5重量部、6重量部に変えた以外、すべて実施例1と同様にして、呼び径0.5のシャープペンシル用芯を得た。
【0011】
<実施例7、8、9>
実施例1において、メタブレンP−700をメタブレンP−530A(三菱レイヨン株式会社製の、メタクリル酸メチル・アクリル酸アルキル共重合物、重量平均分子量:310万)、メタブレンP−570A(三菱レイヨン株式会社製の、メタクリル酸メチル・アクリル酸アルキル共重合物、重量平均分子量:28万)、メタブレンP−710(三菱レイヨン株式会社製の、メタクリル酸メチル・アクリル酸アルキル・スチレン共重合物、重量平均分子量:7万)に変えた以外、すべて実施例1と同様にして、呼び径0.5のシャープペンシル用芯を得た。
【0012】
<比較例1>
実施例1において、メタブレンP−700を使用しなかった以外、すべて実施例1と同様にして、呼び径0.5のシャープペンシル用芯を得た。
【0013】
<比較例2>
実施例1において、メタブレンP−700を使用せずに、また、ジオクチルフタレートの使用量を25部から30部に変えた以外、すべて実施例1と同様にして、呼び径0.5のシャープペンシル用芯を得た。
【0014】
以上、各実施例及び比較例で得た鉛筆芯について、JIS S 6005に準じて曲げ強さと濃度を測定した。その結果を表1に示す。
【0015】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも結合材と体質材とを主材として使用し、混練した原材料を細線状に押出成形後、焼成処理を施してなる鉛筆芯の製造方法において、材料中に、構造中に(メタ)アクリル酸単量体単位を有し、重量平均分子量が5万〜400万の範囲であるアクリル酸系重合体を含有する鉛筆芯の製造方法。
【請求項2】
前記アクリル酸系重合体が芳香族ビニル系単量体単位を含む請求項1に記載の鉛筆芯の製造方法。

【公開番号】特開2007−176993(P2007−176993A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−374285(P2005−374285)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000005511)ぺんてる株式会社 (899)
【Fターム(参考)】