説明

鉛筆芯

【課題】曲げ強さと濃度とのバランスに優れた鉛筆芯を提供する。
【解決手段】少なくとも体質材と結合材とを主材として使用し、混練、成形、焼成処理を施してなる鉛筆芯において、鉛筆芯体中に粒子径が0.1μm以上1.0μm未満の黒鉛以外の無機粒子を含有する鉛筆芯。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体質材と結合材とを主材として使用し、混練、成形、焼成処理を施してなる鉛筆芯に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鉛筆芯は、黒鉛、雲母、タルク、窒化ホウ素などの体質材と、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、塩素化パラフィン樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂、尿素樹脂、ブチルゴムなどの有機結合材とを主材として使用し、必要に応じて、無定形シリカ、カーボンブラック、などの無機添加剤、フタル酸エステルなどの可塑剤、ステアリン酸塩などの安定剤、ステアリン酸などの滑材、メチルエチルケトンなどの溶剤を併用し、これらの原材料を分散混合、混練、細線状に成形した後、適宜焼成温度まで熱処理を施し、更に必要に応じて、シリコーン油、流動パラフィン、スピンドル油、スクワラン、α−オレフィンオリゴマー、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、モンタンワックス、カルナバワックスなどの油状物やワックス類などを含浸させて製造している。
【0003】
鉛筆芯の体質材には前述したように、黒鉛、雲母、タルク、窒化ホウ素などのミクロンオーダーの無機粒子が使用されているが、中でも結晶の発達した黒鉛は扁平(板状)形状であり、鉛筆芯を細線状に成形する際に材料の押し出し方向に配向して芯体の骨格を形成する。この黒鉛による配向骨格構造(ハニカム構造)が芯体の強度を向上させており、体質材として使用されているものの中では最も強度の高い骨格を形成する。黒鉛以外の体質材が形成する骨格や、黒鉛と黒鉛以外の体質材を使用した場合に形成される黒鉛と黒鉛以外の体質材による複合骨格は、黒鉛が単独で形成する骨格よりも強度が低いため、鉛筆芯の曲げ強さも低下してしまうのが一般的である。
また、無機添加剤は、鉛筆芯の製造に関して必ずしも必須の材料ではないが、鉛筆芯の濃度向上、寸法安定性向上、割れや膨れ防止、シャープペンシルのチャック保持力向上などの効果もあるため、無機添加剤として無定形シリカやカーボンブラックなどのナノ粒子が好まれて使用されている場合が多い。これらの無機添加剤は最終的な鉛筆芯の構成材料として芯体中に残存し、その後に含浸させる油状物などを蓄える効果があるため、これらを用いることにより、鉛筆芯としての濃度を向上させることができる。一般的に油状物の含浸量が多いほど、筆記時の鉛筆芯体の崩れを促進させ、濃度は向上するからである。
ところで、鉛筆芯の曲げ強さと濃度とを両立させることは難しく、曲げ強さを高くさせようとすると濃度が低下してしまい、逆に濃度を高くしようとすると、曲げ強さが低下してしまうのが一般的である。この鉛筆芯の曲げ強さと濃度とを両立させようと様々な発明が報告されており、主材として用いられる体質材や必要に応じて使用される無機添加剤と潤滑剤に関するものもある。
特公昭42−007166号公報(特許文献1)に記載の発明は、体質材の一部として天然雲母を使用した鉛筆芯に関するものであり、特開昭54−088423号公報(特許文献2)に記載の発明は、体質材の一部としてタルクを使用した鉛筆芯に関するものであり、特開2004−262984号公報(特許文献3)に記載の発明は、体質材の一部として板状アルミナを使用した鉛筆芯に関するものであり、特開2008−081715号公報(特許文献4)に記載の発明は、体質材の一部として合成雲母を使用した鉛筆芯に関するものであり、特許第4122945号公報(特許文献5)に記載の発明は、無機添加剤として疎水性無定形シリカを使用した鉛筆芯に関するものであり、特開2007−138031号公報(特許文献6)に記載の発明は、潤滑剤(所謂無機添加剤)としてナノ材料を使用した鉛筆芯に関するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭42−007166号公報
【特許文献2】特開昭54−088423号公報
【特許文献3】特開2004−262984号公報
【特許文献4】特開2008−081715号公報
【特許文献5】特許第4122945号公報
【特許文献6】特開2007−138031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2に記載の発明は、体質材の一部として天然雲母やタルクを使用したものであるが、天然雲母やタルクは耐熱温度が約800℃のため、それより高い温度での熱処理を施すと、脱水反応により結晶が膨張して分解してしまうことで劈開性や平滑性が悪くなり、鉛筆芯筆記時の芯体摩耗が阻害され、極端に濃度が低くなると共に書き味が悪くなってしまうため、鉛筆芯の強度向上に有利な1000℃以上の高温熱処理ができないことで、鉛筆芯としての満足な曲げ強さを得られなくなってしまうものであった。
特許文献3、4に記載の発明は、体質材の一部として耐熱性の高い板状アルミナや合成雲母を使用することにより、特許文献1、2に記載の発明で不可能であった1000℃以上での高温熱処理を可能にした発明である。
ところが、これら特許文献1〜4に記載の発明は、鉛筆芯の曲げ強さ向上を意図したものではなく、体質材の一部として黒鉛以外の板状粒子を使用することで黒鉛特有の鉛色の筆記線を純黒色に近づけることを意図した発明であるため、体質材全量に対する黒鉛以外の板状粒子の使用量は最低でも10%以上の高い比率となっており、その分体質材に占める黒鉛の比率が少なくなり鉛筆芯としての曲げ強さは低下してしまうものであった。
特許文献5、6に記載の発明は、セラミック系あるいはカーボン系のナノ粒子(材料)を体質材全量に対して数%程度添加使用するものである。これらに記載されている無定形シリカやカーボンブラックなどのナノ粒子(材料)を使用することで、前述したように鉛筆芯の濃度向上、寸法安定性向上、割れや膨れ防止、シャープペンシルのチャック保持力向上などの効果が得られるため好ましく使用されているが、これらのナノ粒子(材料)は、少量の使用でも鉛筆芯体中に存在する粒子の数は非常に多く、その存在が鉛筆芯成形時に体質材として使用する黒鉛の押し出し方向への配向を少なからず阻害してしまうのも事実であり、そのことが芯体中で黒鉛が形成する骨格に欠陥を生じさせ、鉛筆芯としての曲げ強さを低下させてしまうものとなっていた。
本発明は、これらの問題を解決し、曲げ強さと濃度とを両立させたバランスの優れた鉛筆芯を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、少なくとも体質材と結合材とを主材として使用し、混練、成形、焼成処理を施してなる鉛筆芯において、鉛筆芯体中に粒子径が0.1μm以上1.0μm未満の黒鉛以外の無機粒子を含有する鉛筆芯を要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の鉛筆芯は、その芯体中に粒子径が0.1μm以上1.0μm未満の黒鉛以外の無機粒子(以下、サブミクロン粒子と記す)を含有するものであり、このサブミクロン粒子は、同重量の使用の場合、前述のナノ粒子に比べて芯体中に存在する粒子の数が格段に少なくなる。例えば、ナノ粒子(1〜100nm)とサブミクロン粒子(0.1〜1μm=100〜1000nm)が無機粒子として一般的な密度を有するもので、その使用量が体質材全量に対して10%程度以下であれば、芯体中に存在するナノ粒子とサブミクロン粒子の数は、それぞれ1012〜1018個、10〜1012個となり、ナノ粒子はサブミクロン粒子の1〜10倍の粒子数となる。故に、サブミクロン粒子が芯体中で存在する数は1012個以下となり、ナノ粒子が芯体中で存在する場合と比べて、鉛筆芯成形時に黒鉛の押し出し方向への配向を阻害する可能性が非常に小さくなるのである。
また、このサブミクロン粒子は、黒鉛と共に骨格を形成する大きさではないため、体質材同士の接触により形成された隙間に位置しても、芯体中の骨格はほぼ黒鉛単独の骨格となり、黒鉛単独の骨格による芯体強度を得ることができる。これらにより、黒鉛の押し出し方向への配向が得られると共に、その黒鉛に起因する骨格の強度にて強い骨格の芯体を形成することができる。
また、このサブミクロン粒子は、体質材同士の接触により形成された隙間を埋めるように配置され、後に含浸される油状物を蓄える働きをする。体質材やサブミクロン粒子の隙間に形成される微細な隙間は、毛管力が発揮されて、前記含浸される油状物の保持に寄与するし、サブミクロン粒子そのものが、油状物を保持するような多孔質のものとすると油状物の保持に大きく貢献できる。
このように、体質材同士の接触により形成された隙間を埋めるためには隙間の寸法に対して無機添加剤の粒子径がより小さい方が効果的であるが、10μm〜30μm程度の径の体質材に対して、サブミクロン粒子は0.1μm以上1.0μm未満の粒子径であるので、その粒子径は体質材の粒子径の1/10以下になるものがほとんどであり、体質材同士の接触により形成された隙間に位置することができ、サブミクロン粒子を、機能性を有する添加剤とした場合の機能を充分に発揮させることができる。
ちなみに、一般に、大きさの異なる二つの粒子(球体と仮定した場合)において、大小粒子の半径比が1:0.155(=6.45:1)より差が大きな場合であれば、複数の大粒子の接触により形成される中で最小の空間にも小粒子が位置することが理論的に可能となるため、球体ではない無機添加剤と体質材においても、無機添加剤の粒子径が体質材の粒子径の1/6.45以下であれば、体質材同士の接触により形成された隙間に無機添加剤が位置することができる可能性が高くなると考えられる。
また、前記サブミクロン粒子が、黒鉛と同様の板状形状であれば、その粒子は鉛筆芯成形時に黒鉛と同じ挙動を示し、黒鉛が押し出し方向へ配向するのを阻害する可能性が極力小さくなるから、板状形状である方が好ましい。
また、サブミクロン粒子の耐熱温度が1000℃以上であることにより、鉛筆芯の強度向上に有利な1000℃以上の高温熱処理を施しても、鉛筆芯の濃度や書き味に影響するサブミクロン粒子の平滑性などの特性変化が小さく、鉛筆芯の濃度が低くなったり書き味が悪くなったりすることが少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、詳述する。
本発明の鉛筆芯体中に含有されるサブミクロン粒子は、前述したように、鉛筆芯成形時に黒鉛が押し出し方向へ配向するのを阻害しないと同時に、無機添加剤としての効果も発現させるために、芯体中でサブミクロンオーダーとなっていることが前提である。
このサブミクロン粒子の元となる無機粒子としては黒鉛以外であれば種々のものが挙げられるが、一例として鉛筆芯の製造に一般的に使用されている天然雲母、合成雲母、タルク、窒化ホウ素、板状アルミナ、鱗片状低結晶性シリカ、非晶質板状シリカなどが挙げられる。
また、サブミクロン粒子はどのような形状で存在しても構わないが、黒鉛と同様の板状形状であれば、その粒子は鉛筆芯成形時に黒鉛と同じ挙動を示し、黒鉛が押し出し方向へ配向するのを阻害する可能性が極力小さくなるから、板状形状である方が好ましい。一般に、アスペクト比(最大粒子径/最小粒子径)が5以上であれば板状形状と言われるが、アスペクト比があまりにも大きくなると、粒子自体の曲げ強さが低下するため、アスペクト比としては5〜20程度が望ましい。
【0009】
また、サブミクロン粒子の耐熱性については、天然雲母やタルクなどのように800℃未満での熱処理ならば使用できるものもあるため、目的とする鉛筆芯の熱処理温度条件を考慮して適宜サブミクロン粒子の元となる無機粒子を選択使用すればよいが、前述したようにサブミクロン粒子の耐熱温度が1000℃以上のものであれば、鉛筆芯の強度向上に有利な高温熱処理を施しても、鉛筆芯の濃度や書き味に影響する粒子の平滑性などの特性変化が概ね小さく、鉛筆芯の濃度が低くなったり書き味が悪くなったりすることが少ないため、サブミクロン粒子としては耐熱温度が1000℃以上である合成雲母、板状アルミナ、鱗片状低結晶性シリカ、非晶質板状シリカなどを選択使用するのが好ましい。
ただし、耐熱温度は同じでも鉛筆芯の濃度や書き味に影響する粒子の平滑性などの特性変化は物質によっても異なるため、粉体粒子の平滑性の尺度の一つである安息角の変化を熱処理前後で比較するのがよい。一般に、体質材として使用する黒鉛粒子などは不活性雰囲気下における耐熱性と平滑性が非常に高く、このことが鉛筆芯としての書き味の良さを発現させるのであるが、黒鉛の安息角は一般的な鉛筆芯の製造条件である不活性雰囲気中での800℃〜1300℃の熱処理においては熱処理前と全く変化しない値を示す(熱処理前55°、1100℃熱処理後55°)。そして、芯体中のサブミクロン粒子は最終的な鉛筆芯の構成材料として芯体中で黒鉛と近接して残存し、鉛筆芯の筆記時に黒鉛と共に紙面に筆記摩耗され、鉛筆芯の書き味に影響を与えるため、熱処理後の安息角の値は小さいほど好ましく、60°未満のものが特に好ましい。また、熱処理前の安息角は鉛筆芯の書き味に影響を与えることはないが、あまりにも大きいと成形の際の材料の流れを阻害する可能性があるため、これも小さい方が好ましく、60°未満のものが特に好ましい。つまり、熱処理前の安息角が小さくかつ熱処理温度によらず安息角の変化も小さい方が好ましいのである。
一般的な鉛筆芯の製造条件である不活性雰囲気中での800℃〜1300℃の熱処理における上述した種々無機粒子の安息角の変化については、非晶質板状シリカの変化がほとんどない(熱処理前53°、1100℃熱処理後52°)のに対して、他の無機粒子は1000℃以上になると結晶化が進むことにより安息角が大きい値に変化してしまう物が多い。例えば、タルクは熱処理前の55°が1100℃熱処理後には60°となり、合成雲母は熱処理前の63°が1100℃熱処理後には65°となる。この違いは結晶質粒子と非晶質粒子との差によるものと考えられるが、無機粒子単独での安息角測定値で顕著であるばかりでなく、実際の鉛筆芯の配合割合に近い、例えば黒鉛98%、無機粒子2%という混合粉体などにおいてもその差は明らかに生じる。
この安息角の値については、熱処理後の値は鉛筆芯の濃度と書き味に影響を与えるため、小さい程好ましく、60°未満のものが特に好ましい。また、熱処理前の値は鉛筆芯の濃度と書き味に影響を与えることはないが、あまりに大きいと鉛筆芯成形の際の材料の流れを阻害する可能性もあるため、できれば小さい方が好ましい。したがって、耐熱性の点では無機粒子の中では非晶質板状シリカを選択使用するのが最も好ましい。
なお、安息角の測定はJIS R9301−2−2に準じて測定した。
【0010】
鉛筆芯体中に含有される無機粒子の粒子径確認はそのままでは難しいため、焼成処理後の鉛筆芯を酸化雰囲気中で熱処理し、黒鉛などの炭素質が酸化消耗でなくなることによって得られた無機粒子による灰分を観察することで確認するのが良い。得られた灰分は、黒鉛が形成する骨格が酸化消耗によってなくなった後の無機粒子単独による灰分であり、鉛筆芯相似状の形骸となっていることが多い。その際に熱処理条件の違いにより灰分の状態が変化する可能性があるため、評価には一定の熱処理条件を採用するのが望ましい。本発明で採用した条件は、観察しようとする焼成処理後の鉛筆芯を磁性皿に乗せ、酸化雰囲気中で室温から800℃まで毎分10℃の昇温速度で熱処理し、最高温度の800℃で1時間保持した後に冷却するというものである。
無機粒子がサブミクロン粒子になっていることを確認する方法は、電子顕微鏡で撮影した灰分の写真上で、存在する無機粒子の粒子径を測定するというものである。粒子の長軸、短軸、厚さのうち、最大値を最大粒子径とし、最小値を最小粒子径とする。以下、無機粒子の粒子径とは最大粒子径を指す。電子顕微鏡により灰分の側面と横断面それぞれについて場所を変えて3カ所撮影し、写真上で無機粒子を任意に50個選択して、その粒子径を測定し、ナノ粒子(0.1μm未満)、サブミクロン粒子(0.1μm以上、1.0μm未満)、ミクロン粒子(1.0μm以上)に分類して粒子径別数量比率を算出する。そのうちサブミクロン粒子の最大平均粒子径と最小平均粒子径からアスペクト比(最大平均粒子径/最小平均粒子径)を算出する。サブミクロン粒子の確認には電子顕微鏡の撮影倍率は10000倍程度で充分であるが、ナノ粒子の確認には50000倍程度が必要となる。
鉛筆芯の灰分量に対する無機粒子の粒子径別含有比率としては、ナノ粒子とミクロン粒子との合計含有比率が多いものほど鉛筆芯の曲げ強さは低下してしまうため、灰分量に対するサブミクロン粒子の含有比率が40重量%以上あることが好ましい。各粒子の含有比率は電子顕微鏡写真から判断した無機粒子の粒子径別数量比率と、使用した無機粒子の配合量と灰分の重量とから算出する。例えば、体質材として黒鉛のみを使用し、無機添加剤としてナノ粒子の無定形シリカのみを使用した場合、得られる灰分は無定形シリカのみであるから、灰分量に対してはナノ粒子が100重量%の含有比率となる。また、体質材として黒鉛とミクロン粒子のタルクとを等分使用し、無機添加剤を使用せずに、タルクが全てミクロン粒子のままであれば、得られる灰分はタルクのみであるから、灰分量に対してはミクロン粒子が100重量%の含有比率となるのである。
【0011】
鉛筆芯体中に含有されるサブミクロン粒子は、配合時には平均粒子径がミクロンオーダーの無機粒子でも構わないが、無機添加剤としての効果を発現させるために、また、成形工程では無機粒子の粒子径が変化する可能性は小さいため、成形工程までの分散混合工程や混練工程などでサブミクロン粒子としておく必要がある。ミクロンオーダーの無機粒子をサブミクロン粒子にするには、分散混合工程や混練工程での負荷強度を上げることで可能となるが、あまりに大きな負荷強度ではサブミクロン粒子よりもナノ粒子の生成比率が大きくなってしまうため、使用する無機粒子の耐衝撃性などを考慮して条件を設定するのがよい。例えば、板状アルミナなどは、薄片状粒子が単純に付着し合った疑似劈開性を有する板状粒子で、耐熱温度は高いが耐衝撃性が他の無機粒子に比べて高くないため、あまり強い分散混合や混練は好ましくない。因みに、ヘンシェルミキサーなどを使用する分散混合工程では配合する無機粒子は元の形状と相似状に小さくなる、所謂体積粉砕となり易いが、ニーダーや3本ロールなどを使用する混練工程では強い剪断力がかかるため、配合する無機粒子は元の形状よりも薄くアスペクト比の高い形状になる、所謂面積粉砕となり易く、特に剪断力の強い3本ロールによる混練はアスペクト比を上げるためには好ましいものである。
このロールによる混練を長時間実施すれば、無機粒子の面積粉砕はより進みサブミクロン粒子は増えるが、体質材や結合材など他の材料の粉砕が進み過ぎて全体としての粒度バランスが崩れて不都合が生じる場合には、ロールの負荷強度を低下させて長時間実施することで体質材や結合材など他の材料の過度な粉砕を抑制することができる。また、使用する無機粒子だけを予めロール処理しておき、その後、残りの材料と混ぜて再度ロール処理を施しても良い。そうすることで、無機粒子以外の材料が必要以上に粉砕されてしまうことがなくなる。
鉛筆芯の熱処理の条件については、鉛筆芯としての成形が既に終わっているのでそれほど影響を与えないが、最高温度が高いほど無機粒子の焼結による安息角増大の可能性があるため、最高温度は無機粒子の焼結温度以下に留めるのが良い。各工程での条件別に得られた鉛筆芯体中に含有される無機粒子の粒子径や含有比率を確認しながら目的に合った条件を把握することが好ましい。
また、無機粒子の使用量が多くなる程、ナノ粒子とミクロン粒子の絶対量も多くなり、灰分中のサブミクロン粒子の含有量が40%重量以上あっても鉛筆芯の曲げ強さが低下する可能性が大きくなるため、無機粒子の使用量は体質材全量に対して概ね5%以下とするのが好ましい。そして、無機添加剤による鉛筆芯の濃度向上、寸法安定性向上、割れや膨れ防止、シャープペンシルのチャック保持力向上などの効果を更に大きくするために無定形シリカやカーボンブラックなどのナノ粒子を併用しても構わないが、その場合には、使用量が多いほど鉛筆芯の曲げ強さは低下するため、体質材全量に対して1%未満の使用量に抑えることが望ましい。
【0012】
上記以外の使用材料としては、従来公知の材料を使用できる。体質材としては、一般的な、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土状黒鉛、人造黒鉛、雲母、タルク、窒化ホウ素、などの中より選択された1種もしくは2種以上のものが例示できる。結合材としては、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、塩素化パラフィン樹脂、フラン樹脂、尿素樹脂、ブチルゴムなどの有機結合材の中より選択された1種もしくは2種以上のものが例示できる。
更に、必要に応じて、無定形シリカ、カーボンブラックなどの無機添加剤、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル、リン酸トリクレジル、ジプロピレングリコールジベンゾエート、アジピン酸ジオクチル、プロピオンカーボネートなどの可塑剤、ステアリン酸塩などの安定剤、ステアリン酸などの滑材、メチルエチルケトンなどの溶剤などが適宜併用できる。
【0013】
これらの原材料をヘンシェルミキサーなどによる分散混合、ニーダー、3本ロールなどによる混練の後、細線状に押出成形し、空気中で室温から300℃前後までの熱処理を施し、その後、不活性雰囲気中で800℃〜1300℃の焼成処理を施し、更に必要に応じて、シリコーン油、流動パラフィン、スピンドル油、スクワラン、α−オレフィンオリゴマー、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、モンタンワックス、カルナバワックスなどの適宜油状物やワックス類を含浸させて鉛筆芯を製造する。尚、必要に応じて、顔料、染料などを適宜併用し、色鉛筆芯としても良い。
【実施例】
【0014】
以下、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
黒鉛(体質材、平均粒子径:20μm) 73重量部
ポリ塩化ビニル樹脂(結合材) 55重量部
シルリーフ(水澤化学工業(株)の非晶質板状シリカ、平均粒子径:6μm、耐熱温度:1100℃) 2重量部
フタル酸ジオクチル(可塑剤) 25重量部
ステアリン酸塩(安定剤) 2重量部
ステアリン酸(滑材) 1重量部
メチルエチルケトン(溶剤) 20重量部
上記材料をヘンシェルミキサーによる分散混合処理、3本ロールによる混練処理をした後、細線状に押出成形し、空気中で室温から300℃まで約10時間かけて昇温し、300℃で約1時間保持する加熱処理をし、更に、密閉容器中で1100℃を最高とする焼成処理を施し、冷却後、流動パラフィンを含浸させて、呼び径0.5の鉛筆芯を得た。
【0015】
<実施例2>
実施例1において、シルリーフの代わりに、セラフYFA05025(YKK(株)製の板状アルミナ、平均粒子径:5μm、耐熱温度:1200℃)を2重量部使用した以外、すべて実施例1と同様にして、呼び径0.5の鉛筆芯を得た。
【0016】
<実施例3>
実施例1において、シルリーフの代わりに、PDM−9WA(トピー工業(株)製のフッ素金雲母、平均粒子径:12μm、耐熱温度:1100℃)を2重量部使用した以外、すべて実施例1と同様にして、呼び径0.5の鉛筆芯を得た。
【0017】
<実施例4>
実施例1において、シルリーフの代わりに、CT35((株)山口雲母工業製のタルク、平均粒子径:15μm、耐熱温度:800℃)を2重量部使用し、焼成処理の最高温度を800℃とした以外、すべて実施例1と同様にして、呼び径0.5の鉛筆芯を得た。
【0018】
<実施例5〜7>
実施例1において、3本ロールの負荷強度は変えずに混練処理時間をそれぞれ1.5倍、1.2倍、0.8倍に変えた以外、すべて実施例1と同様にして、呼び径0.5の鉛筆芯を得た。
【0019】
<実施例8>
実施例1において、3本ロールの負荷強度を0.8倍にし、混練処理時間を1.5倍にした以外、すべて実施例1と同様にして、呼び径0.5の鉛筆芯を得た。
【0020】
<実施例9>
実施例1において、ヘンシェルミキサーによる分散混合処理時間を1.5倍、3本ロールの負荷強度は変えずに混練処理時間を1.5倍にした以外、すべて実施例1と同様にして、呼び径0.5の鉛筆芯を得た。
【0021】
<実施例10〜13>
実施例1において、シルリーフの使用量をそれぞれ4重量部、3.5重量部、1重量部、0.7重量部に変え、黒鉛の使用量をそれぞれ71重量部、71.5重量部、74重量部、74.3重量部に変えた以外、すべて実施例1と同様にして、呼び径0.5の鉛筆芯を得た。
【0022】
<実施例14>
実施例1において、密閉容器中での焼成処理を1200℃を最高とする焼成処理にした以外、すべて実施例1と同様にして、呼び径0.5の鉛筆芯を得た。
【0023】
<比較例1>
実施例1において、シルリーフの代わりに、アエロジルR972(日本アエロジル(株)製の疎水性無定形シリカ、平均粒子径:16nm、耐熱温度:1600℃)を2重量部使用した以外、すべて実施例1と同様にして、呼び径0.5の鉛筆芯を得た。
【0024】
<比較例2>
実施例1において、シルリーフを使用せずに、黒鉛の使用量を75重量部に変えた以外、すべて実施例1と同様にして、呼び径0.5の鉛筆芯を得た。
【0025】
以上、各実施例及び比較例で得た鉛筆芯について、JIS S 6005に準じて曲げ強さと濃度を測定した。また、各鉛筆芯を磁性皿に乗せ、酸化雰囲気中で、室温から800℃まで毎分10℃の昇温速度で熱処理し、最高温度の800℃で1時間保持した後に冷却するという条件で灰分を得た。得られた灰分の側面と横断面それぞれについて、場所を変えて3箇所ずつ電子顕微鏡にて10000倍で写真撮影し、写真上で無機粒子を任意に50個選択して、その粒子径を測定し、ナノ粒子(0.1μm未満)、サブミクロン粒子(0.1μm以上、1.0μm未満)、ミクロン粒子(1.0μm以上)に分類して粒子径別数量比率を算出した。そのうちサブミクロン粒子の最大平均粒子径と最小平均粒子径からアスペクト比(最大平均粒子径/最小平均粒子径)を算出した。
更に、写真上から判断した無機粒子の粒子径別数量比率と使用した無機粒子の配合量と灰分の重量とから灰分量に対するサブミクロン粒子の含有量を算出した。その結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
表1について説明する。
実施例1は、無機粒子として最も好ましい非晶質板状シリカを使用した例であり、曲げ強さと濃度とが非常にバランスの取れた優れた値となっている。
実施例2は、無機粒子として板状アルミナを使用した例であり、板状アルミナの耐衝撃性が非晶質板状シリカに比べて低いため、鉛筆芯としての曲げ強さが低下する結果となっている。
実施例3は、無機粒子としてフッ素金雲母を使用した例であり、フッ素金雲母の安息角が非晶質板状シリカに比べて大きくなるため、鉛筆芯としての濃度が低下する結果となっている。
実施例4は、無機粒子としてタルクを使用した例であり、タルクの耐熱温度が低く、それに合わせて焼成処理温度も800℃と低くしたため、鉛筆芯としての曲げ強さが低下する結果となっている。
実施例5〜7は、ロールの負荷強度は変えずに混練処理時間を実施例1に比べてそれぞれ1.5倍、1.2倍、0.8倍に変えた例で、混練処理時間の長い方が無機粒子のアスペクト比が大きくなるため鉛筆芯としての曲げ強さが高くなり、混練処理時間の短い方が無機粒子のアスペクト比が小さくなるため曲げ強さが低下している。
実施例8は、実施例1に比べてロールの負荷強度を0.8倍にし、混練処理時間を1.5倍にした例で、鉛筆芯の曲げ強さにはロールの混練処理時間よりも負荷強度の影響が大きいため、曲げ強さは低下し濃度は高くなっている。
実施例9は、実施例1に比べてヘンシェルミキサーによる分散混合処理時間を1.5倍にし、ロールの負荷強度は変えずに混練処理時間を1.5倍にした例で、ヘンシェルミキサーによる分散混合処理時間が長くなることで、無機粒子の平均粒子径が小さくなり、鉛筆芯としての曲げ強さと濃度が共に低下している。
実施例10〜13は、無機粒子としてのシルリーフの使用量を4、3.5、1.0、0.7重量部に変えた例で、シルリーフの使用量が多くなるに従ってシルリーフの粉砕によるナノ粒子量も多くなり、鉛筆芯成形時の黒鉛の配向を阻害する可能性も高くなるため、鉛筆芯としての曲げ強さが低下し濃度が高くなる傾向となっている。実施例10は、無機粒子の使用量が体質材全量に対して5%を超えているため、曲げ強さの低下が大きく濃度は高くならない。
実施例14は、焼成処理温度を1200℃にした例で、シルリーフの耐熱温度を超えているため、シルリーフの焼結により粒子の平滑性が低くなり、鉛筆芯としての曲げ強さは高くなるが濃度は低下する結果となっている。
比較例1は、無機粒子としてシルリーフの代わりにアエロジルR972を使用した例で、鉛筆芯成形時の黒鉛の配向が阻害されるため、鉛筆芯としての曲げ強さが低下する結果となっている。
比較例2は、黒鉛以外の無機粒子を使用せず黒鉛使用量を増した例で、鉛筆芯成形時の黒鉛の配向が阻害されないため、鉛筆芯としての曲げ強さは高いが、油状物を蓄える効果のある無機粒子がないため、濃度は大幅に低下する結果となっている。
以上説明した通り、体質材と結合材とを主材として使用し、混練、成形、焼成処理を施してなる鉛筆芯において、鉛筆芯体中に粒子径が0.1μm以上1.0μm未満の黒鉛以外の無機粒子を含有させることにより、曲げ強さと濃度とのバランスに優れた鉛筆芯を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも体質材と結合材とを主材として使用し、混練、成形、焼成処理を施してなる鉛筆芯において、鉛筆芯体中に粒子径が0.1μm以上1.0μm未満の黒鉛以外の無機粒子を含有する鉛筆芯。
【請求項2】
前記無機粒子の含有量が鉛筆芯の灰分量に対して40重量%以上である請求項1に記載の鉛筆芯。
【請求項3】
前記無機粒子が板状形状である請求項1又は請求項2に記載の鉛筆芯。
【請求項4】
前記無機粒子が耐熱温度が1000℃以上の無機粒子である請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の鉛筆芯。

【公開番号】特開2011−225852(P2011−225852A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73596(P2011−73596)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000005511)ぺんてる株式会社 (899)
【Fターム(参考)】