説明

鉛蓄電池とその製造方法

【課題】本発明は、エキスパンド極板に貼り合わせるペースト紙の剥がれと、これによる活物質の格子からの脱落によっての電池組立工程における生産性低下を抑制するという従来発明の利点を保持しながら、ペースト紙破れによる生産性の低下を抑制することを目的とする。
【解決手段】極板の少なくとも片面に縦方向及び横方向の端から端まで至る凹状の溝構造を縦方向及び横方向にそれぞれ5本以上備え、前記溝構造の縦方向と横方向溝同士の交点の数を少なくとも25点以上とすることで、生産性の低下を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エキスパンド格子を用いた極板は、ほとんどの場合、極板を積み重ねた状態で熟成乾燥を実施する。この際、極板同士の付着を防止し、格子から活物質が脱落することを抑制する目的で、一般にペースト紙と呼ばれるパルプ繊維を主体とする紙状体を極板の表面上に貼り合わせる。この後、熟成乾燥を行い、後工程で電池の組立を行っていた。
【0003】
組立工程では、極板を積み重ねた状態から1枚ずつ剥がして供給する必要があり、この時ペースト紙が極板から剥がれて、センサーの誤作動を引き起こす原因になるなど、組立時の生産性を著しく低下させることがあった。
【0004】
これに対する対策として、極板表面のペースト紙に貫通孔を造形し、活物質との密着性を上げることによりペースト紙剥がれの発生を抑制する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−339787号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ペースト紙に穴を開けることにより、組立工程内、特に極板を1枚ずつ剥がして供給する工程でペースト紙が物理的強度不足のため破れる現象が生じ、破れによるペースト紙のはみ出し部分あるいは小片が後工程でセンサーの誤作動などを引き起こすことがあり、生産性の低下を抑制する効果は限定的であった。
【0006】
本発明は、エキスパンド極板に貼り合わせるペースト紙の剥がれと、これによる活物質の格子からの脱落とが引き起こす電池組立工程における生産性低下を抑制するという従来発明の利点を更に向上させると伴に、ペースト紙破れによる生産性の低下をも抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するために、本発明の請求項1に係る発明は、正極板および/または負極板に、鉛合金シートを加工してなるエキスパンド式の格子体を用い、極板の表面にパルプ繊維を主体とする紙状体が貼り合わされている構成の鉛蓄電池であって、前記極板の少なくとも片面に縦方向及び横方向の端から端まで至る凹状の溝構造を備え、前記溝構造の縦方向及び横方向それぞれの本数を極板1枚あたり5本以上とし、かつ前記溝構造の縦方向と横方向溝同士の交点の数を少なくとも25点以上としたことを特徴とする鉛蓄電池を示すものである。
【0008】
本発明中にある凸状体を有するローラを通過させることにより、壁が極板表面と垂直方向に部分的に加圧を行う。このことにより、活物質とペースト紙の密着性が増し、極板全体に溝ができることから、従来方法よりも密着の効果は高い上、ペースト紙破れが発生しにくいのでセンサー誤作動の発生数は減少する。
【0009】
さらに、本発明の請求項2に係る発明は、縦方向の溝の数を横方向の溝の数以上としたことを特徴とする鉛蓄電池を示すものである。
【0010】
さらに、本発明の請求項3に係る発明は、鉛合金シートを加工してなるエキスパンド格子部に鉛酸化物粉体と水と希硫酸及びその他の物質との混練物である活物質ペーストを充填する極板を使用した鉛蓄電池の製造方法であって、前記活物質ペーストを充填したエキスパンド格子部にパルプ繊維を主とする紙状体を貼り合わせた後、少なくとも一方のローラの表面に、上下・左右方向にそれぞれ5本以上の凸状体構造を設けた一対のローラ間を通過させることにより、前記極板表面に凹状の溝構造を形成することを特徴とする鉛蓄電池の製造方法を示すものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の構成の鉛蓄電池によれば、エキスパンド極板からのペースト紙の剥がれと、これによる活物質の格子からの脱落によっての電池組立工程における生産性低下を抑制するという従来発明の利点を維持、あるいは向上させつつ、従来発明で課題となっていたペースト紙破れによる生産性の低下を抑制することが可能となり、組立工程内でのペースト紙由来の不良を低減できる。また、極板の(縦の溝)>(横の溝)とすることにより、極板の表面に対して垂直方向へ歪む、極板湾曲不良と呼ばれる不良の発生をも抑制でき、それによる組立工程での金型外れ不良を低減させることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について実施例をあげて説明する。
【0013】
図1に本発明による鉛蓄電池の極板表面の概略を示し、図2に極板断面の拡大図を示す。本発明では、まず極板1の表面上に紙状体を貼り合わせる。すなわち、エキスパンド極板は通常、圧延した鉛シートを網目状に展開し、格子体を形成した後、酸化鉛に希硫酸と水および添加剤とを混合して構成した活物質ペーストを格子体に充填し、パルプ繊維を主体とする紙状体(以下、ペースト紙という)5を極板1の表面に貼り合わせ、1枚の極板に切断加工し、熟成乾燥の工程を経て、正極は二酸化鉛、負極は海綿状鉛へとそれぞれに化成され電池の電極として作用する。本発明ではこの一連のエキスパンド極板製造の中で、図3(a)に示すように活物質ペースト6をエキスパンド加工機7によって形成された格子体9にホッパー8を使用して充填した後、前記のペースト紙5を極板表面に貼り合わせる。その後に図3(b)に示す最大幅2mmの凸状体12及び13を表面に設けたローラ11間を図3(a)の矢印で示す方向に極板となる格子体及び充填された活物質ペースト10を通過させることにより、図1のように極板1の表面上に凹状の溝2及び3を形成した。なお、ローラ11上の凸状体12によって造形される溝は、図1の溝2に該当し、凸状体13によって作製される溝は、図1の溝3に相当する。
【0014】
ここで、凹状の溝2及び3では、図2に示すようにペースト紙5と活物質ペースト6とに、同時に、部分的に圧力がかかることにより、ペースト紙5は極板1の表面に強く密着する。さらに、凹状の溝2及び3の数は、溝の交点4の数が極板1枚当たり100点以上とすることにより、ペースト紙5が極板1からはがれることを効果的に抑制できる。
【0015】
また、一般的に、鉛蓄電池の高率放電特性は、極板表面の電解液の拡散と、活物質の表面積に依存するとされる。本発明の構成を備えることで、極板表面積が実質的に増加し、活物質ペースト6にローラ11からの圧力がかかって押し付けられることによる活物質の表面積の減少を相殺し、従来品と同等程度以上の表面積が得られる結果になったものと推測される。
【実施例】
【0016】
前記した本発明のペースト紙を貼り合わせたエキスパンド極板表面に凹状の溝を設ける構成の極板を前記した実施例に基づき、表1に示したように縦横の凹状溝の数を変化させて作製した。
【0017】
【表1】

【0018】
また、作製した極板は活物質量における本発明の構成の極板を表1に示すように製作した。また、製作した極板は活物質量をすべて一定とした。ここで、溝同士の交点の個数とは図1に示す縦方向の溝3と横方向の溝2の本数を乗じたものである。
【0019】
表1に示す正負極板を縦114.7mm、横137.5mmとして製作し、電池組立工程におけるペースト紙由来の不良発生率を測定した結果を図4に示す。図4から明らかなように、ペースト紙由来の極板不良率は、従来発明による極板Lよりもいずれも低減している。特に交点の数を極板1枚あたり100個 以上にしたとき(極板A〜F)、不良率は大きく低減していた。
【0020】
これは、ローラ上の凸状体によってペースト紙と活物質ペーストに同時に圧力がかかり、それが部分的でなく極板全体に及んでいることによって、ペースト紙と極板との密着性がより増したためと推測される。また、極板が積み重なった状態のときに、極板同士の付着面積が小さくなるため、組立工程で1枚ずつ剥がされて供給される時に極板同士が剥がれやすくなり、相対的にペースト紙の剥がれや破れが減少した効果もあると推測される。
【0021】
次に、電池組立工程における極板湾曲に由来する不良発生率を測定した結果を図5に示す。図5から明らかなように、本構成からなる極板を使用した場合、Kを除く極板で従来品よりも極板湾曲に由来する不良発生率が減少した。
【0022】
また図5より、不良率の値がF>D>EあるいはB>Cであることから、極板の(縦の溝)>(横の溝)となる構成では、極板湾曲に由来する不良の発生が減少している。これは極板の縦方向への溝によって、極板が表面に対して垂直方向へ歪む際に力の方向が分散され、湾曲が抑えられているためと推測される。このことは、組立工程での「櫛噛み」と呼ばれる金型外れ不良の低減につながるため、工程上有用である。なおこのとき、極板湾曲を抑制する効果は、極板に対して縦方向の溝によるものである。ただし、横の溝についても、本数の少なさはペースト紙由来の不良増加に繋がることが図4から示唆されるため、本数として5本以上有している必要がある。
【0023】
次に、表1に示す正負極板と含液性のセパレータとを組み合わせて極板群を構成し、電槽に挿入後、蓋部を接着し、注液し、化成を行い、12V48Ahの自動車用鉛蓄電池を作製した。これらの電池について、それぞれJIS−D5301の高率放電特性を測定した。その結果を図6及び図7に示す。
【0024】
図6及び図7から明らかなように、実施例の電池は、従来仕様の電池と比較すると、放電開始5秒後の電圧及び持続時間に関して同等程度の特性が得られている。これは、極板表面に形成した凹状部分に電解液が保持される部分が形成されるとともに、極板の化学反応面積等が増大することにより特性が向上する、という従来発明品の利点を本発明でも活用できたためと推測される。ただし、活物質に圧力がかかって押し付けられたことにより、活物質の表面積は小さくなってしまったため、従来品と同等程度の効果に留まっているものと推測される。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明による鉛蓄電池は、エキスパンド極板からのペースト紙の剥がれと、これによる活物質の格子からの脱落によっての電池組立工程における生産性低下を抑制するという従来発明の利点を維持、あるいは向上させつつ、従来発明で課題となっていたペースト紙破れによる生産性の低下を抑制することが可能となり、組立工程内でのペースト紙由来の不良を低減できる。また、極板の(縦の溝)>(横の溝)とすることにより、極板の表面に対して垂直方向へ歪む、極板湾曲不良と呼ばれる不良の発生を抑制でき、それによる組立工程での金型外れ不良を低減させることができるため、鉛蓄電池の製造工程上有用である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施例における鉛蓄電池用極板の表面概略図
【図2】本発明の一実施例における極板の要部拡大断面図
【図3】(a)本発明の一実施例に用いた鉛蓄電池用極板の製造法を示す概略図、(b)ローラの概略図、(c)凸状体の概略図
【図4】本発明の実施例および従来発明例による極板のペースト紙に由来する不良発生率を示すグラフ
【図5】本発明の実施例および従来発明例による極板の湾曲に由来する不良発生率を示すグラフ
【図6】本発明の実施例および従来発明例による極板を用いた自動車用鉛蓄電池のJIS−D5301に基づく高率放電特性の5秒目電圧を示すグラフ
【図7】本発明の実施例および従来発明例による極板を用いた自動車用鉛蓄電池のJIS−D5301に基づく高率放電特性の持続時間を示すグラフ
【符号の説明】
【0027】
1 極板
2 凹状の溝(極板の横方向)
3 凹状の溝(極板の縦方向)
4 溝の交点
5 ペースト紙
6 活物質ペースト
7 エキスパンド加工機
8 ホッパー
9 格子体
10 格子体及び充填された活物質ペースト
11 ローラ
12 凸状体
13 凸状体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板および/または負極板に、鉛合金シートを加工してなるエキスパンド式の格子体を用い、極板の表面にパルプ繊維を主体とする紙状体が貼り合わされている構成の鉛蓄電池であって、
前記極板の少なくとも片面に縦方向及び横方向の端から端まで至る凹状の溝構造を備え、
前記溝構造の縦方向及び横方向それぞれの本数を極板1枚あたり5本以上とし、かつ前記溝構造の縦方向と横方向溝同士の交点の数を少なくとも25点以上としたことを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項2】
縦方向の溝の数を横方向の溝の数以上としたことを特徴とする請求項1記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
鉛合金シートを加工してなるエキスパンド格子部に鉛酸化物粉体と水と希硫酸及びその他の物質との混練物である活物質ペーストを充填する極板を使用した鉛蓄電池の製造方法であって、
前記活物質ペーストを充填したエキスパンド格子部にパルプ繊維を主とする紙状体を貼り合わせた後、
少なくとも一方のローラの表面に、上下・左右方向にそれぞれ5本以上の凸状体構造を設けた一対のローラ間を通過させることにより、前記極板表面に凹状の溝構造を形成させることを特徴とする鉛蓄電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−252434(P2009−252434A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−96854(P2008−96854)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】