説明

鉛蓄電池の端子溶接装置及び端子溶接方法

【課題】鉛蓄電池の端子溶接工程において発生する、バリによる端子形状不良を抑制し、鉛ブッシングと金型との離型性を安定化することにより、溶接品位にすぐれた、鉛蓄電池端子を生産性良く得ることができる、鉛蓄電池の端子溶接装置と、鉛蓄電池の端子溶接方法を提供すること。
【解決手段】極板群に接続した極柱の先端部を電池蓋にインサート成型された鉛ブッシングに挿通し、鉛ブッシング周囲に金型を装着し、前記極柱先端部と鉛ブッシングとを溶接する鉛蓄電池の端子溶接において、金型の鉛ブッシングと接する部分に黒鉛材する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉛蓄電池における端子溶接装置と端子溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池の端子溶接方法は、製造する端子形状に応じて様々なものがある。その中で、特許文献1に示されたように、蓄電池内部の極板群に接合した極柱を電池の蓋にインサート成型した鉛ブッシングの貫通孔に貫通させ、前記極柱とブッシングとをガスバーナー等の火炎で溶接する方法が、特に始動用鉛蓄電池をはじめとする各種の鉛蓄電池に広くに用いられている。
【0003】
図2は上記の従来の端子溶接方法を示す図である。極板群201を収納した電槽(図示せず)に蓋203を接合する。この状態で極板群201に接続した極柱202は、蓋203にインサート成型された鉛ブッシング204に挿入される。この状態で、鉛ブッシング204の天面204aに極柱202の先端部202aが露出した状態となる。
【0004】
その後、金型205を鉛ブッシング204に装着する。そして、バーナー206の火炎207によって、鉛ブッシング204の天面204aと極柱の先端部202aとを溶接する。その結果、極板群201と鉛ブッシング204が電気的に接続され、鉛ブッシング204に電池端子としての機能が付与される。
【0005】
従来、端子溶接用の金型205の材質として、溶接火炎に対する耐久性や、コストを考慮して炭素鋼を用いていた。炭素鋼の金型は、事前に焼入れを十分に行うことにより、その表面に四三酸化鉄の表面層を形成しておく必要がある。この表面層がない場合、端子溶接中に発生した溶融鉛と金型との親和性が高いため、溶接終了後、ブッシングと金型が貼り付いた状態となり、離型ができなくなる場合がある。
【0006】
また、溶融鉛と金型との親和性が高いことにより、図3に示したように、金型205が溶融鉛によって濡れた状態となり、端子天面209にメニスカス208が形成される。メニスカス208は凝固することにより、バリとなり、端子形状不良となる。また、このようなバリは金型205の離型を妨げ、製造ラインを停止させてしまう場合もあった。
【0007】
一旦、製造ラインが停止してしまうと、金型温度が低下してしまうことにより、溶接深さが浅くなり、十分な溶接強度が得られない。また、温度低下した金型で溶接を行った場合、鉛の湯玉が跳ね易く、これによりバーナー火口が詰まり、さらに、溶接状態のばらつきが大きくなったり、生産性が低下するという問題があった。
【0008】
また、金型205に十分な焼入れを施したとしても、バーナー火炎による熱と、溶接終了後の冷却という温度サイクルを受けるため、金型は膨張収縮し、金型の表面層が剥離していく。表面層が剥離しても、バーナー火炎により再度表面層は形成されるものの、表面層が安定した状態ではない。したがって、バリの発生を抑制し、離型性を確保するために、数10分毎に、タルクといった、熱的に安定な離型剤を塗布する必要があり、生産性を低下させる要因となっていた。
【特許文献1】特開平5−82118号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記したような、鉛蓄電池の端子溶接工程において発生する、バリによる端
子形状不良を抑制し、鉛ブッシングと金型との離型性を安定化することにより、溶接品位にすぐれた、鉛蓄電池端子を生産性良く得ることができる、鉛蓄電池の端子溶接装置と、鉛蓄電池の端子溶接方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記した課題を解決するために、本発明の請求項1に係る発明は、極板群に接続した極柱の先端部を電池蓋にインサート成型された鉛ブッシングに挿通し、鉛ブッシング周囲に金型を装着し、前記極柱先端部と鉛ブッシングとを溶接する鉛蓄電池の端子溶接装置であって、前記金型の鉛ブッシングと接する部分に黒鉛材を配置したことを特徴とする鉛蓄電池の端子溶接装置を示すものである。
【0011】
また、本発明の請求項2に係る発明は、請求項1の鉛蓄電池の端子溶接装置において、前記金型の鉛ブッシングの挿入口周囲に金属部材を配置したことを特徴とするものである。
【0012】
本発明の請求項3に係る発明は、請求項1もしくは2の鉛蓄電池の端子溶接装置において、前記金属部材に冷媒経路を設けたことを特徴とするものである。
【0013】
本発明の請求項4に係る発明は、極板群に接続した極柱の先端部を電池蓋にインサート成型された鉛ブッシングに挿通し、鉛ブッシング周囲に金型を装着し、バーナー火炎により、前記極柱先端部と鉛ブッシングとを溶接する鉛蓄電池の端子溶接方法であって、前記金型の前記鉛ブッシングと接する部分に黒鉛材を配置したことを特徴とする鉛蓄電池の端子溶接方法を示すものである。
【0014】
本発明の請求項5に係る発明は、請求項4の鉛蓄電池の端子溶接方法において、前記金型の鉛ブッシングの挿入口周囲に金属部材を配置したことを特徴とするものである。
【0015】
本発明の請求項6に係る発明は、請求項5の鉛蓄電池の端子溶接方法において、前記金属部材に設けた冷媒経路に冷却水等の冷媒を供給して前記黒鉛材を冷却することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、鉛蓄電池の端子溶接時において、従来発生していた、バリによる端子形状不良の発生や、離型性の低下を抑制することができる。そして、離型性が低下した場合、最悪、離型が不能となり、製造ラインが停止し、生産性が著しく低下していた。本発明はこれらの離型性の低下による課題を解決することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0018】
図1は、本発明による鉛蓄電池の端子溶接工程を示す図である。
【0019】
極板群201を収納した電槽(図示せず)に蓋203を接合する。この状態で極板群201に接続した極柱202は、蓋203にインサート成型された鉛ブッシング204に挿入される。この状態で、鉛ブッシング204の天面204aに極柱202の先端部202aが露出した状態となる。
【0020】
その後、金型101を鉛ブッシング204に装着する。そして、バーナー206の火炎207によって、鉛ブッシング204の天面204aと極柱の先端部202aとを溶接する。その結果、極板群201と鉛ブッシング204が電気的に接続され、鉛ブッシング2
04に電池端子としての機能が付与される。
【0021】
本発明では、金型101の鉛ブッシング204と接する部分に黒鉛材102を配置するものである。黒鉛材102は鋼材と異なり、溶融鉛との濡れ性が低いため、従来発生していたような、バリの発生や、鉛ブッシング204と金型101との貼り付きを抑制することができる。したがって、従来、これらのバリや貼り付きによって発生していた、鉛ブッシングと金型との離型性の低下がなく、これによる生産性の低下を抑制することができる。
【0022】
なお、黒鉛材102として、多孔性を有した黒鉛材やこれに耐熱性樹脂を含浸した樹脂含浸黒鉛を用いることができる。黒鉛材102は、従来の鋼材製の金型で必要であった、焼き入れや、離形材の塗布も不要となる。この結果、従来から実施していた鋳型の焼入れ作業を不要とすることができるようになった。この焼入れ作業は熟練を要する作業であったが、この作業をなくすことができ、時間的ロスも解消でき、これらによる生産性の低下を引き起こすことがない。
【0023】
一方、黒鉛材102は衝撃強度が鋼材に比較して弱く、ブッシング204を金型101に挿入する際に黒鉛材102が欠けてしまう欠点がある。したがって、金型101底部の鉛ブッシング204の挿入口103周囲に鋼材等の金属部材104を配置することが好ましい。これにより、鉛ブッシング204の挿入時の衝撃による黒鉛材102の欠損を抑制することができる。
【0024】
また、黒鉛材102の過度の温度上昇を抑制するために、金属部材104に冷媒経路105を設け、この冷媒経路105に冷却水等の冷媒を循環させることが好ましい。黒鉛材102に直接、冷媒経路を設けた場合、黒鉛材102中の孔を通じて冷媒が漏出したり、熱衝撃によって、黒鉛材102が破損する恐れがあるためである。
【実施例1】
【0025】
以下、実施例により、本発明の効果を説明する。
【0026】
図1で示した従来例の金型205と本発明例の金型101、また、比較例として、従来例の金型205の鉛ブッシングと接する表面にセラミック(アルミナ)を溶射した金型を用いて、始動用鉛蓄電池(55D23形電池)の端子溶接工程を行い、端子表面上のバリによる形状不良率と、端子表面の平滑性、鉛ブッシングと金型との形離れ状態を確認した。
【0027】
また、溶接終了から端子部の冷却凝固に要する時間(冷却時間)を測定した。
【0028】
ここで、電池n数は500(端子個数で1000個)とした。なお、従来例については金型への焼き入れ作業の有無や離型剤の塗布作業の有無についても確認した。比較例、本発明例はともに、焼き入れ作業および離型剤の塗布作業を行わなかった。
【0029】
なお、型離れ状態は、鉛ブッシングと金型との貼り付きやバリにより金型から鉛ブッシングが離形できない状態の発生確率(%)(以下、離型トラブル率)で評価した。また、従来例の金型を用いた場合、離型剤(タルクを水に分散させたもの)を溶接10回につき、1回塗布したものと、全く塗布しないものを作成した。これらの結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1に示した結果から、本発明によれば、バリによる形状不良を抑制できる。また、離型トラブルの発生を抑制することができ、生産性にも優れている。従来例では離型剤の塗布により、形状不良率や離型トラブルを低減できるものの、依然として、その発生を押えることはできない。また、比較例では、従来例の離型剤塗布よりも、形状不良率および離型トラブル率も面で優れているものの、冷却時間は長時間必要となる他、端子表面の平滑性も損なわれるため、好ましくなかった。
【0032】
また、本発明では、熟練と作業時間を要する焼き入れ作業が不要となる他、離型剤の塗布作業が不要となるため、生産性を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、鉛蓄電池の端子溶接工程における形状不良や離型トラブルを抑制し、生産性が高く、安定した溶接品位を得ることができる。したがって、蓋にインサート成型した鉛ブッシングを端子とする、始動用鉛蓄電池に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明例による鉛蓄電池の端子溶接工程を示す図
【図2】従来例の鉛蓄電池の端子溶接工程を示す図
【図3】金型と溶融鉛の接触状態を示す図
【符号の説明】
【0035】
101 金型
102 黒鉛材
103 挿入口
104 金属部材
105 冷媒経路
201 極板群
202 極柱
202a (極柱の)先端部
203 蓋
204 鉛ブッシング
204a (鉛ブッシングの)天面
205 金型
206 バーナー
207 火炎
208 メニスカス
209 端子天面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極板群に接続した極柱の先端部を電池蓋にインサート成型された鉛ブッシングに挿通し、鉛ブッシング周囲に金型を装着し、前記極柱先端部と鉛ブッシングとを溶接する鉛蓄電池の端子溶接装置であって、前記金型の鉛ブッシングと接する部分に黒鉛材を配置したことを特徴とする鉛蓄電池の端子溶接装置。
【請求項2】
前記金型の鉛ブッシングの挿入口周囲に金属部材を配置したことを特徴とする請求項1に記載の鉛蓄電池の端子溶接装置。
【請求項3】
前記金属部材に冷媒経路を設けたことを特徴とする請求項1もしくは2に記載の鉛蓄電池の端子溶接装置。
【請求項4】
極板群に接続した極柱の先端部を電池蓋にインサート成型された鉛ブッシングに挿通し、鉛ブッシング周囲に金型を装着し、バーナー火炎により、前記極柱先端部と鉛ブッシングとを溶接する鉛蓄電池の端子溶接方法であって、前記金型の前記鉛ブッシングと接する部分に黒鉛材を配置したことを特徴とする鉛蓄電池の端子溶接方法。
【請求項5】
前記金型の鉛ブッシングの挿入口周囲に金属部材を配置したことを特徴とする請求項4に記載の鉛蓄電池の端子溶接方法。
【請求項6】
前記金属部材に設けた冷媒経路に冷却水等の冷媒を供給して前記黒鉛材を冷却することを特徴とする請求項5に記載の鉛蓄電池の端子溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−85913(P2006−85913A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−266387(P2004−266387)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】