説明

鉛蓄電池の電気処理による蓄電能力劣化防止と再生装置

【課題】鉛蓄電池は充放電回数の増加により、電池電極表面が不良導体化した硫酸鉛結晶で覆われ、充電によって正極に酸化鉛、負極に金属鉛に酸化還元されず鉛蓄電池の充電能力は充放電のサイクルにより劣化する。
このサイクル寿命による劣化を防止、再生する技術が必要である。
【解決手段】硫酸鉛絶縁体結晶皮膜の除去を硫酸鉛誘電緩和損失ピーク周波数10MHzで硫酸鉛を選択的に誘電緩和損加熱することによって、不良導体化した結晶を微細分解し、充電電流により正極に酸化鉛、負極に鉛に酸化還元する装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
鉛蓄電池の硫酸鉛による蓄電能力の劣化防止と再生を硫酸鉛誘電損失周波数で不良導体
化した硫酸鉛結晶を加熱微細化し、充電電流により化学分解し電池再生する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は放電回数の増加により電池電極面が不良導体である硫酸鉛コロイド薄膜で覆われ、硫酸鉛コロイド薄膜は時間の経過とともに結晶化し、硫酸鉛結晶化は電気的絶縁体化し、再充電によって正極に酸化鉛、負極に金属鉛にそれぞれ酸化還元されず、鉛蓄電池の蓄電能力は劣化する。今日、自然エネルギー、太陽光、風力などの不安定発電を安定化するために、安価な鉛蓄電池の長寿命化は不可欠であり、硫酸鉛による蓄電能力の劣化防止と再生技術が必要である。
【0003】
現在、硫酸鉛による蓄電能力の劣化防止と再生技術は、鉛蓄電池にパルス電流を流し、電極表面に成長した硫酸鉛皮膜に電気衝撃を与え、硫酸鉛絶縁体皮膜を除去する装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3902212号
【特許文献2】特開2000−156247号
【特許文献3】特開2000−323188号
【特許文献4】特開2006−244973号
【特許文献5】特開2000−40537号
【特許文献6】特開2004−79374号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、上記文献は共通に1MHz以下の高電圧パルスで電気機械的衝撃波を想定して硫酸鉛微結晶の破壊を目指している。ここでは、高電圧を用いるほど硫酸鉛除去効果は大きいと考えられている。
【0006】
しかしながら、この場合、電気機械的衝撃波による硫酸鉛微結晶の破壊除去法は電極表面が硫酸鉛でまだらに絶縁されている状況下において、絶縁面である硫酸鉛結晶面に電界は集中せず、硫酸鉛絶縁体で覆われていない流れやすい伝導電極面に電流は集中する。よって、電気機械的衝撃波の破壊は起き難いと考えられる。
【0007】
本発明は上述の問題を鑑みてなされたものであり、MHz領域にある硫酸鉛誘電緩和損加熱を用いることで硫酸鉛絶縁体表面に電流を集中させ、硫酸鉛を選択的に分解する装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
硫酸鉛絶縁体の誘電緩和損により発生する発熱で硫酸鉛結晶を熱機械的に歪ませ、結晶に微細割れ目を形成し、この結果電気導通化し充電電流により電気化学分解し、正極に酸化鉛、負極に金属鉛を生成するものであり、硫酸鉛誘電損失ピーク周波数約10MHz近辺で、硫酸鉛絶縁体で覆われていない電極表面における電気伝導度は小さい。なぜならば金属電極面の電気伝導度はイオン拡散電流が主で、イオン電流の応答速度が数十kHz以下である為、金属電極面の電気伝導度は小さい。MHz領域での希硫酸電解液は分極誘電率が下がる為、希硫酸電解液に比較して、MHz領域では誘電率の高い硫酸鉛絶縁体膜の表面に電流は集中する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、硫酸鉛絶縁体結晶膜が選択され、熱機械的に微細分解されるので、セル当たり2Vピークツーピークの高周波の低電圧低電流によって硫酸鉛結晶膜の酸化と還元分解が可能になり、従来の高電圧高電流パルス再生による電極板の発熱変形が招く電極間ショートを引き起こさずに鉛蓄電池を再生することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】誘電損失電流の周波数に対する特性を示す図。
【図2】鉛蓄電池劣化防止と再生装置の概略構成を示すブロック図。
【図3】12V鉛蓄電池、6セル毎の旧来充電法に対する硫酸電解液密度再生実施比較を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態として一実施例を図1から図3に基づいて説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は、硫酸鉛誘電損失周波数を探すために、硫酸鉛粉末に希硫酸を加え絶縁電極で挟んで、0.1MHzから30MHzまで実測された電流特性である。デバイ緩和方程式の数式(1)による近似曲線も同時に示す。測定は近似式と良い一致を示す。図1の結果、誘電損失ピークは1MHzから100MHzに分布しており、約10MHz近辺でピークを持つ。このピーク周波数10MHzで希硫酸電解液中の硫酸鉛は加熱効率が最大になることが分かる。
【0013】
【数1】

【0014】
図2は本発明の実施形態に係る鉛蓄電池劣化防止、再生装置の概略構成を示すブロック
図である。図2に示すように、鉛蓄電池再生装置制御MPU(マイクロプロセッサ)21、MPU21による充電電圧指令D/Aコンバータ22、充電電圧パワーアンプ23、高周波遮断コイル24、鉛蓄電池25、鉛蓄電池端子電圧測定A/Dコンバータ26、硫酸鉛誘電損周波数指令用オシレータ27、硫酸鉛誘電損周波電力増幅器28、直流電流遮断コンデンサー29からなる。
【0015】
図2は、外部電源で再生される12Vの鉛蓄電池の例について述べる。
この鉛蓄電池25の電圧はA/Dコンバータ26で計り、MPU21に入力される。MPU21は、鉛蓄電池25の開放電圧が13V以下を検出した場合は蓄電池再生モードに入り、硫酸鉛誘電損周波数指令用オシレータ27から10MHzの高周波交流電流を発生し、高周波電力増幅器28で増幅して、直流遮断器29を通して、鉛蓄電池25に誘電損加熱交流電流を流す。MPU21はD/Aコンバータ22から電力アンプ23で増幅して、高周波遮断器24を通して、鉛蓄電池25の開放電圧より約2V高い電圧で充電を開始する。A/Dコンバータ26を通して、鉛蓄電池25の電圧は常に測定され、MPU21は鉛蓄電池25の開放電圧が13.5VになるまでD/Aコンバータ22で充電誘導する。開放電圧が13.5Vになった後も、浮動充電としてMPU21はD/Aコンバータ22を通して、14Vの定電圧充電を行い、この間同時に10MHzの高周波交流電流は鉛蓄電池25に流し続ける。
前述の鉛蓄電池再生シークエンスにおいて、請求項3記載の鉛蓄電池の硫酸皮膜除去法にあって、連続高周波電流は、間欠的熱衝撃を与えるために連続高周波電流を断続変調しても良い。
請求項5に記載した高周波交流電流の印加と充電を交互に行っても良い。
【0016】
図3は、一年間放置された12Vバッテリーに各セル当たり2Vピークツーピーク10MHz高周波電流を連続的に掛け、同時に直流電圧15V定電圧電源で充電を行い、18時間で再生した例を示す。旧来の充電方法で充電し、各セルの密度は1.20以下であったが、6個のセルの内、2個は完全に100%再生できている。液密度1.25を示すセル6は、電極面から硫酸鉛結晶が脱落し、電気化学分解に硫酸鉛が預からず、セル6上の硫酸濃度が上昇しなかったものと思われる。硫酸濃度の上昇しなかったセル6は密度1.28になるまで硫酸を加え、再度充放電し100%再生ができた。
【産業上の利用可能性】
【0017】
鉛蓄電池は広く使われており、自動車、船舶等のエンジン始動用や、スマートグリッドのローカル蓄電ステーション用として、自然エネルギー、風力発電機や太陽電池の脈動整流用としてこれらの蓄電池のサイクル寿命の延長に貢献することが出来、利用可能である。
【符号の説明】
【0018】
11 硫酸鉛誘電損失実験値
12 デバイ緩和方程式による近似曲線
21 鉛蓄電池再生装置制御MPU(マイクロプロセッサ)
22 MPU充電電圧指令D/Aコンバータ
23 充電電圧パワーアンプ
24 高周波遮断コイル
25 鉛蓄電池
26 鉛蓄電池端子電圧測定A/Dコンバータ
27 硫酸鉛誘電損周波数指令用オシレータ
28 硫酸鉛誘電損周波電力増幅器
29 直流電流遮断コンデンサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛蓄電池の蓄電能力の劣化原因である硫酸鉛皮膜を電気化学的に除去する装置であって、電圧検出器、高周波発振器、高周波電流増幅器、直流遮断器を備え、誘電緩和損により発生する発熱効果を伴う誘電損周波数の高周波交流電流を鉛蓄電池正負電極に出力し、硫酸鉛皮膜を選択的に分解し、高周波交流電流の周波数は1MHzから100MHzの硫酸鉛誘電損失周波数帯であることを特徴とする硫酸鉛皮膜の除去装置。
【請求項2】
請求項1記載の硫酸鉛皮膜の除去装置の電源として、前記除去装置の取り付け対象である鉛蓄電池を利用することを特徴とする硫酸鉛皮膜の除去装置。
【請求項3】
鉛蓄電池の硫酸鉛皮膜除去方法であって、請求項1の連続高周波交流電流は間欠的熱衝
撃を与えるため、連続高周波電流を休止目的で変調する方法を含む事を特徴とする硫酸鉛皮膜の除去装置。
【請求項4】
請求項1と請求項3記載の硫酸鉛皮膜加熱除去方法において、高周波交流電流を印加と平行して直流電流充電を行い、誘電緩和損分解で微細化した硫酸鉛皮膜成分を還元することを特徴とする硫酸鉛皮膜の除去装置。
【請求項5】
請求項1と請求項3記載の硫酸鉛皮膜除去方法において、高周波交流電流の印加と充電を交互に行い、誘電緩和損加熱分解した硫酸鉛皮膜成分を充電電流によって酸化還元することを特徴とする硫酸鉛皮膜の除去装置。
【請求項6】
請求項1、請求項3、請求項4、と請求項5記載の硫酸鉛皮膜の除去装置の電源として、商用電源、自然エネルギー、太陽電池、風力発電、波力発電を利用し、同時に電力を貯蔵させる装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−171007(P2011−171007A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31600(P2010−31600)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【特許番号】特許第4565362号(P4565362)
【特許公報発行日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(310005489)株式会社JSV (6)
【Fターム(参考)】