説明

鉛蓄電池用セパレータ、鉛蓄電池用ペースト紙、鉛蓄電池用極板及び鉛蓄電池

【課題】 本発明は、他の特性を悪化させるなどの弊害をもたらすことなく、また電池に特殊な処理や制御を施すことなく、鉛蓄電池に不具合をもたらす重金属類、特にデンドライトショートの原因物質となる鉛や電解液減少の原因物質となるアンチモンを適時に捕捉し、これら重金属類に起因するデンドライトショートや電解液減少等の不具合を抑えることのできる鉛蓄電池用セパレータ、鉛蓄電池用ペースト紙、鉛蓄電池用極板と、これを使用した鉛蓄電池を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明の鉛蓄電池用セパレータは、中性領域で重金属吸着能が高く酸性領域で重金属吸着能が低くなる希土類化合物からなる重金属吸着剤を含有させた微多孔性シートからなり、前記シートの厚さ方向に、前記重金属吸着剤が偏在して、前記シートの水平方向に延びる前記重金属吸着剤の含有層と前記重金属吸着剤の実質的な非含有層とが形成されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池用セパレータ、鉛蓄電池用ペースト紙、鉛蓄電池用極板と、これを使用した鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池の製法の主流になりつつある電槽化成では、電解液を注液すると硫酸が極板活物質と反応して電解液比重が1.0に近くなる。また、電池を過放電して放置した場合にも電解液比重の低下が起こる。このように電解液が中性領域に近づくと、電極中の鉛はイオンとして電解液中に溶け出し、セパレータ中にも拡散する。その後充電を行うと、電解液比重は高くなり徐々に酸性領域に戻るが、溶け出した鉛イオンは、負極側では純鉛、正極側では二酸化鉛、セパレータ内部では硫酸鉛として、樹枝状に結晶化し成長する(これをデンドライトと言う)。そして、成長したデンドライトが正・負極間を連結すると、短絡(デンドライトショート)が起き、電池不良となる。このようなデンドライトショートは、特に、電解液量が少ない密閉型鉛蓄電池で発生し易い。
【0003】
従来、デンドライトショートを抑える方法として、特許文献1には、重金属を吸着するイオン交換機能を有した不織布をセパレータに用いる方法が提案されている。つまり、重金属を捕捉することのできるカルボキシル基(−COOH)、スルホン基(−SOH)といった官能基を備えたイオン交換樹脂不織布であり、鉛イオンは、(−COO)Pb、(−SOPbの形で捕捉され、デンドライトの成長が抑制できるとされている。同様に、リン酸基(−POH)、フェノール性水酸基(−OH)でも有効であるとされている。
【0004】
しかしながら、特許文献1のデンドライトショート抑制方法の場合、何れの物質も有機化合物であり、硫酸中での劣化及び充電時の発生期の酸素による酸化・分解には対応できず、長期的なデンドライト抑制効果を維持できない。また、カルボキシル基やリン酸基等を備えた物質は、有機酸などに変性して極板を劣化せしめ、電池寿命を低下させる問題にもなる。
【0005】
そこで、無機物を使用したデンドライトショート抑制方法として、特許文献2には、硫酸鉛を捕捉することのできるSiOまたはSiO・nHOを極板の一方の表面層に存在させるようにした鉛蓄電池が提案されている。つまり、硫酸鉛をSiOまたはSiO・nHOが捕捉し、デンドライトの成長を抑制できるとされている。確かに、SiOやSiO・nHOは硫酸に対して耐酸性を示し、長期にわたり安定性を保つことができるので、特許文献1の方法に対して優位性がある。しかし、硫酸鉛を捕捉しデンドライト成長を抑制するとされるデンドライトショート抑制効果について、実際には、その原理としては、SiOまたはSiO・nHOの比表面積が100g/m以上とガラス繊維の50倍以上も大きく、デンドライトの成長経路を複雑かつ長くすることができデンドライト成長を物理的に遅らせているためと考えるのが妥当であり、溶出した硫酸鉛を化学的に固定しているわけではないから、最終的にはデンドライトショートは発生する。
【特許文献1】特開2001−222987号公報
【特許文献2】特開2005−190686号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、重金属を吸着・固定することのできる無機系物質を電池の内部にデンドライト防止層として導入する方法が望ましいと考えられる。重金属を吸着する無機系物質を利用する方法には、活性アルミナ法、塩化鉄・アルミニウム塩などの金属塩を添加してフロックを生成除去する凝集ろ過法や水酸化鉄を用いる鉄化合物法等が挙げられるが、何れも、金属成分が電池反応を阻害すること、鉛を吸着するには最適pH処理(酸、アルカリ剤添加)が必要であることといった問題があり、硫酸電解液の鉛蓄電池ではpH制御が殆ど不可能で実用化には支障がある。
【0007】
尚、鉛蓄電池に不具合をもたらす重金属類としては、鉛の他にアンチモンがある。アンチモンは、液式電池の深い放電用でサイクル用途に使用される鉛蓄電池では、格子強度を高め、活物質同士や、格子と活物質との結合を強めるので、液式電池の深い放電用でサイクル用途に使用される鉛蓄電池で利用が多い。しかし、過放電時にアンチモンは電解液中に溶出し、充電時に負極上で析出して、水素発生電位を下げ、電解液分解が多くなり、液式電池では補水が必要となる問題や、密閉式電池では、電解液不足による電池寿命低下や、ガス発生の増加により密閉化に支障が出るという問題が生じる。
他の重金属類も、電池反応を阻害し電池容量を低下させる原因物質となり得るので、極板、電解液、セパレータ中の重金属については、電池メーカごとに規格を設けて規制されている。
【0008】
そこで、本発明は、他の特性を悪化させるなどの弊害をもたらすことなく、また電池に特殊な処理や制御を施すことなく、鉛蓄電池に不具合をもたらす重金属類、特にデンドライトショートの原因物質となる鉛や電解液減少の原因物質となるアンチモンを適時に捕捉し、これら重金属類に起因するデンドライトショートや電解液減少等の不具合を抑えることのできる鉛蓄電池用セパレータ、鉛蓄電池用ペースト紙、鉛蓄電池用極板と、これを使用した鉛蓄電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、前記目的を達成するべく、鋭意検討した結果、重金属を吸着する無機系物質として、希土類化合物に着目した。希土類化合物は、砒素、フッ素、クロム、カドミウム、鉛、アンチモン等の重金属を吸着する能力を持つが、その吸着能は、中性領域及びアルカリ性領域で高く、酸性領域では低くなるという性質がある。この特性を利用して、鉛蓄電池内の電解液と接する適当な部位にこの希土類化合物を配置すれば、まず、電槽化成時や過放電時の電解液比重が低下して中性領域もしくは中性領域に近くなった時には、電極中の鉛がイオンとして溶出し易くなるが、希土類化合物の吸着能が高いので、溶出した鉛イオンを吸着・捕捉し、デンドライト成長を抑制するようにでき、一方、電解液比重が高い酸性領域では、放電時に鉛及び二酸化鉛から生成する鉛イオンは速やかに硫酸イオンと反応して硫酸鉛を生成するが、希土類化合物の吸着能は低いので、生成した鉛イオンを吸着・捕捉することはなく、電池反応を阻害しないようにできるという理想的な使い方ができることを知見した。
【0010】
本発明は、かかる知見に基づきなされた発明であって、本発明の鉛蓄電池用セパレータは、請求項1に記載の通り、中性領域で重金属吸着能が高く酸性領域で重金属吸着能が低くなる希土類化合物からなる重金属吸着剤を含有させた微多孔性シートからなり、前記シートの厚さ方向に、前記重金属吸着剤が偏在して、前記シートの水平方向に延びる前記重金属吸着剤の含有層と前記重金属吸着剤の実質的な非含有層とが形成されることを特徴とする。
【0011】
つまり、セパレータ中に重金属吸着剤を配置する場合は、注意が必要で、セパレータ全体に均一に配置すると、鉛によるデンドライト成長において、正・負極間を連結するようなデンドライト成長が起こり易くなり、デンドライトショートを抑制する効果が得られない。よって、上記のように、セパレータの厚さ方向に、セパレータの水平方向に延びる重金属吸着剤の含有層と実質的非含有層とが形成されるように、重金属吸着剤を偏在配置すれば、前記重金属吸着剤の含有層に集中的に鉛イオンを吸着・固定させ、前記重金属吸着剤の実質的非含有層には鉛イオンを殆ど吸着・固定させないようにでき、セパレータの厚さ方向で鉛イオンの吸着・固定部位を非連続化させることができ、セパレータを厚さ方向に貫通し正・負極間を連結するようなデンドライト成長は起こりにくくすることができる。
【0012】
また、請求項2記載の鉛蓄電池用セパレータは、請求項1記載の鉛蓄電池用セパレータにおいて、前記シートの片面の表面層のみに前記重金属吸着剤が含有されることを特徴とする。つまり、請求項1記載のように、セパレータの厚さ方向に、セパレータの水平方向に延びる重金属吸着剤の含有層と実質的非含有層とが形成されるように、重金属吸着剤を偏在配置するには、重金属吸着剤の溶液をコーティングする方法が最も好適である。しかも、片面のみにコーティングすれば、本発明の目的、すなわち、鉛の捕捉によるデンドライトショートの抑制やアンチモンの捕捉による電解液減少の抑制等の効果は十分達成できる。両面にコーティングした場合は、製造容易性や製造コストの面で不利であり、重金属吸着剤の実質的非含有層の形成が不十分となる(例えば、非含有層の厚さが不十分であると正・負極間を連結するデンドライト成長の抑制効果が不十分となる)点も不利である。よって、片面のみにコーティング、つまり、セパレータの片面の表面層のみに重金属吸着剤を含有させることが望ましい。
【0013】
また、本発明の鉛蓄電池用ペースト紙は、請求項3に記載の通り、中性領域で重金属吸着能が高く酸性領域で重金属吸着能が低くなる希土類化合物からなる重金属吸着剤を含有させたことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の鉛蓄電池用極板は、請求項4に記載の通り、請求項3記載の鉛蓄電池用ペースト紙を使用したことを特徴とする。
【0015】
また、請求項5記載の鉛蓄電池用極板は、中性領域で重金属吸着能が高く酸性領域で重金属吸着能が低くなる希土類化合物からなる重金属吸着剤を含有させた活物質を使用したことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の鉛蓄電池は、請求項6に記載の通り、請求項1または2記載の鉛蓄電池用セパレータを使用したことを特徴とする。
【0017】
また、請求項7記載の鉛蓄電池は、請求項6記載の鉛蓄電池において、前記セパレータの前記重金属吸着剤がより多く含有する面を負極板側に向けて配置したことを特徴とする。つまり、デンドライト生成は、通常負極板上で起こるため、セパレータの重金属吸着剤がより多く含有する面を負極板側に向けることで、デンドライト成長抑制効果が高められる。
【0018】
また、請求項8記載の鉛蓄電池は、請求項4または5記載の鉛蓄電池用極板を使用したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の鉛蓄電池は、電解液中に溶出した鉛及びアンチモン、その他の重金属を捕捉する重金属吸着剤である希土類化合物の酸化セリウム水和物または水酸化セリウムをセパレータの厚さ方向に偏在させる。具体的には表層部のみに付着させるか、またはペースト紙中に混合させ極板表面に貼る。更には極板表面に付着することにより、電槽化成時にセパレータ内部で発生するデンドライトはこの付着した希土類化合物の酸化セリウム水和物または水酸化セリウムの吸着層で防止されデンドライトショートを防ぎ、またアンチモン使用電極からのアンチモン析出による電解液の減液抑制を図れるので電池性能の安定化と電池寿命の向上に寄与することができる。
【0020】
また、最近のUPS用密閉電池などは短時間・高出力化が要求されており、極板枚数を増やして高出力化を図ることが多いが、極板間隔が狭くなりデンドライトショートが生じやすくなっているので、本発明の鉛蓄電池を適用すると問題を解決することができ、工業上顕著な効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
希土類化合物を極板表面、セパレータの片側に保持させるとこれらの問題を解決する手段を得られる。但し、希土類化合物は無機物固体であるので、極板に溶かし込むのは困難であり、電解液では下部に沈殿する。実際にデンドライトはセパレータ内部で発生するわけだから、セパレータの片面に付着するか、極板表面に付着する方法などを取るのが最も良い。
【0022】
具体的な希土類化合物としては、希土類の酸化物または水酸化物である、例えば酸化セリウム(CeO・1.6HO)、酸化サマリウム水和物(Sm・4.1HO)、酸化ネオジウム水和物(Nd・4.7HO)、酸化ランタン水和物(La・3.0HO)、酸化イットリウム水和物(Y・2.1HO)、水酸化セリウム(Ce(OH)またはCe(OH))などであり、形態としては、0.1〜2μm程度の微粉体として提供される。工業的な使用を考えると、希土類化合物の中で安価に入手可能なセリウム化合物を適用するのが好ましい。
【0023】
重金属吸着剤としては、希土類化合物の前記微粉体をそのまま使用してもよいが、通常市販されている粉体または繊維の表面に希土類化合物を担持させたものを用いるようにしてもよい。担体としては、無機物では、シリカ粉体、シリカゾル、ガラス繊維、セラミック繊維等、有機物では、ポリオレフィン系樹脂、アクリロニトリル樹脂、ポリエステル樹脂等が使用できる。
【0024】
鉛蓄電池用セパレータとしては、液式電池では、押出成形法にて得られるポリエチレンセパレータ、湿式抄造法にて得られる合成パルプセパレータ、密閉式電池では、湿式抄造法にて得られるAGMセパレータが一般的である。
【0025】
これらのセパレータである微多孔性シートに重金属吸着剤を前述のように厚さ方向に偏在するように付着・含有させるには、コーティング法が好適である。ポリエチレンセパレータの場合、形状が微細粉体であるので、溶媒中に分散させてコーティングが可能である。合成パルプセパレータ、AGMセパレータの場合は、コーティング法を用いるとセパレータ表面層のみに重金属吸着層を形成することができる。また、より確実にあるいはより容易(製造の制御面で)に、微多孔性シートの厚さ方向に微多孔性シートの水平方向に延びる重金属吸着剤の含有層と重金属吸着剤の実質的な非含有層とを形成させたセパレータを得るには、重金属吸着剤を微多孔性シート内で特に偏在させることなく微多孔性シート全体に分散状態に含有させた重金属吸着剤含有微多孔性シートと、微多孔性シートに重金属吸着剤を含有させていない重金属吸着剤非含有微多孔性シートとを用意し、両シートを積層状態に組み合わせたセパレータとするようにしてもよい。つまり、セパレータを極板間に組み込んで電池組み立てを行うに当たり、予め重金属吸着剤含有微多孔性シートと重金属吸着剤非含有微多孔性シートとを貼合せや抄合せ等により積層一体化したセパレータとして組み込む、あるいは、一体化せず単に重金属吸着剤含有微多孔性シートと重金属吸着剤非含有微多孔性シートとを積層状態に組み合わせたセパレータとして組み込むものである。
尚、ペースト紙の場合は、前記セパレータのように、重金属吸着剤を厚さ方向に偏在させる必要はなく、重金属吸着剤については、ペースト紙原材料に凝集剤と共に混合して湿式抄造するようにすれば、凝集剤の作用によりペースト紙原材料の表面に付着・担持させることが可能である。混抄法は、コーティング法よりも製造容易性や製造コスト面で有利である。ただし、ペースト紙の場合にも、コーティング法を用いても特に問題はなく、片面の表面層のみに重金属吸着剤が偏在した形態であっても特性上問題はない(例えばデンドライト成長抑制効果が低下したりすることはない)。
【0026】
AGMセパレータに重金属吸着層を形成する方法について、一例を説明する。AGMセパレータは、傾斜抄紙機あるいは長網抄紙機を用いて製造することが好ましい。
(1)先ず、原材料として、例えば、平均繊維径0.8μmの微細ガラス繊維を所定量計量し、ミキサ、パルパ等の分離機により前記繊維を水中に均一に分散・混合する。この抄紙原料液を貯蔵タンクに輸送、貯蔵する。
(2)抄紙原料液を遠心分離機にて脱粒した後、スクリーン・フィルタを通過させる。
(3)種口弁・白水バルブで抄紙原料液の供給量を制御し、ステップディフューザ等を介してヘッドボックスから抄紙原料液を噴出し、走行するフォーミングワイヤ上に堆積させ、下方から脱水して、湿紙状態のガラス繊維シートを形成する。
(4)前記シートをドライヤを通過させて乾燥させ、一定厚さのAGMセパレータを得る。
(5)バインダとしてアクリルエマルジョンの5%水溶液を調製し、重金属吸着剤として水酸化セリウム微粉体を20重量%混合した水溶液を調製する。AGMセパレータにロールコータを介して20g/m量コートすると、片面の表面層のみが水酸化セリウム4g/mの重金属吸着層に形成されたAGMセパレータが得られる。このセパレータを要求される密閉型鉛蓄電池の極板サイズに合わせて裁断して、電池に組み込む。
(6)密閉型鉛蓄電池は、Pb−Ca合金格子に鉛活物質(PbO、Pb、PbSOの混合品)を塗布し、陽極2枚、陰極3枚として、AGMセパレータをその間に4枚挿入して電槽内に装着する。この場合、AGMセパレータの重金属吸着層が形成された面を、陰極板側に向けるように挿入する。
(7)上記電池に比重1.24の電解液(希硫酸)を注入し、5時間放置後、10時間率の電流で30時間電槽化成を行う。化成終了後、電池を解体して、AGMセパレータの短絡状況を観察する。
【実施例】
【0027】
次に、本発明の実施例について比較例及び従来例とともに説明する。
(実施例1)
平均繊維径0.8μmのガラス繊維100重量%を前述の方法で湿式抄造し、熱風乾燥して、厚さ1.0mm、密度0.14g/cmのAGMセパレータを得た。
バインダとしてアクリルエマルジョン5重量%水溶液を調製し、水酸化セリウム微粉体20重量%を混合した水溶液を調製し、前記AGMセパレータにロールコータを介して20g/m量をコートして、片面の表面層のみが水酸化セリウム4g/mの重金属吸着層に形成されたAGMセパレータを得た。これを実施例1の鉛蓄電池用セパレータとした。
また、前記セパレータを用いて前述の方法で密閉型鉛蓄電池を作製し、前述の方法で電槽化成を行った。
【0028】
(実施例2)
実施例1と同様にして、厚さ1.0mm、密度0.14g/cmのAGMセパレータを得た。
バインダとしてアクリルエマルジョン5重量%水溶液を調製し、水酸化セリウム微粉体50重量%を混合した水溶液を調製し、前記AGMセパレータにロールコータを介して20g/m量をコートして、片面の表面層のみが水酸化セリウム10g/mの重金属吸着層に形成されたAGMセパレータを得た。これを実施例2の鉛蓄電池用セパレータとした。
また、前記セパレータを用いて前述の方法で密閉型鉛蓄電池を作製し、前述の方法で電槽化成を行った。
【0029】
(比較例1)
実施例1と同様にして、厚さ1.0mm、密度0.14g/cmのAGMセパレータを得た。これを比較例1の鉛蓄電池用セパレータとした。
また、前記セパレータを用いて前述の方法で密閉型鉛蓄電池を作製し、前述の方法で電槽化成を行った。
【0030】
(従来例1)
実施例1と同様にして、厚さ1.0mm、密度0.14g/cmのAGMセパレータを得た。
水酸基を備えたレゾール型フェノール樹脂(フェノライトPE602;DIC製)を50重量%混合した水溶液を調製し、前記AGMセパレータにロールコータを介して20g/m量をコートして、片面の表面層のみがレゾール型フェノール樹脂10g/mの重金属吸着層に形成されたAGMセパレータを得た。これを従来例1の鉛蓄電池用セパレータとした。
また、前記セパレータを用いて前述の方法で密閉型鉛蓄電池を作製し、前述の方法で電槽化成を行った。
【0031】
(従来例2)
実施例1と同様にして、厚さ1.0mm、密度0.14g/cmのAGMセパレータを得た。
コロイダルシリカ(スノーテックス;日産化学製)を50重量%混合した水溶液を調製し、前記AGMセパレータにロールコータを介して20g/m量をコートして、片面の表面層のみがシリカ10g/mの重金属吸着層に形成されたAGMセパレータを得た。これを従来例2の鉛蓄電池用セパレータとした。
また、前記セパレータを用いて前述の方法で密閉型鉛蓄電池を作製し、前述の方法で電槽化成を行った。
【0032】
(実施例3)
平均繊維径0.8μmのガラス繊維90重量%と、バインダとして有機繊維10重量%とを、前述の方法で湿式抄造し、熱風乾燥して、厚さ0.20mm、密度0.18g/cmのペースト紙を得た。前記有機繊維としては、マイクロフィブリル化セルロース、熱融着性合成繊維などが使用できるが、本実施例ではマイクロフィブリル化セルロースを使用した。
バインダとしてアクリルエマルジョン5重量%水溶液を調製し、水酸化セリウム微粉体20重量%を混合した水溶液を調製し、前記ペースト紙にロールコータを介して20g/m量をコートして、片面の表面層のみが水酸化セリウム4g/mの重金属吸着層に形成されたペースト紙を得た。これを実施例3の鉛蓄電池用ペースト紙とした。
また、前記ペースト紙を極板両面に接触させ、比較例1のセパレータを用いて前述の方法で密閉型鉛蓄電池を作製し、前述の方法で電槽化成を行った。この場合、前記ペースト紙の重金属吸着層が形成された面を、極板表面に当接させるように配置した。
【0033】
(実施例4)
平均繊維径0.8μmのガラス繊維80重量%と、バインダとして有機繊維10重量%と、水酸化セリウム微粉体10重量%に、高分子凝集剤を適量混合し、前述の方法で湿式抄造し、熱風乾燥して、厚さ0.19mm、密度0.20g/cmの、水酸化セリウム4g/mの重金属吸着層を備えたペースト紙を得た。前記有機繊維としては、実施例3と同様に、マイクロフィブリル化セルロースを使用した。これを実施例4の鉛蓄電池用ペースト紙とした。
また、前記ペースト紙を極板両面に接触させ、比較例1のセパレータを用いて前述の方法で密閉型鉛蓄電池を作製し、前述の方法で電槽化成を行った。
【0034】
(比較例2)
平均繊維径0.8μmのガラス繊維90重量%と、バインダとして有機繊維10重量%とを、前述の方法で湿式抄造し、熱風乾燥して、厚さ0.21mm、密度0.18g/cmのペースト紙を得た。前記有機繊維としては、実施例3と同様に、マイクロフィブリル化セルロースを使用した。これを比較例2の鉛蓄電池用ペースト紙とした。
また、前記ペースト紙を極板両面に接触させ、比較例1のセパレータを用いて前述の方法で密閉型鉛蓄電池を作製し、前述の方法で電槽化成を行った。
【0035】
次に、上記各セパレータと、上記各ペースト紙について、以下に示す重金属吸着試験を行った。結果をそれぞれ表1、表2に示す。
〈重金属吸着試験〉
セパレータまたはペースト紙単体の重金属吸着能力を測定するため、以下のような試験を行った。標準液は、原子吸光分析用の市販品(濃度1000ppm)を使用した。
セパレータまたはペースト紙試料を10g採取し、そこにアンチモン標準液10ppm溶液250mlを加え(2500μg)、30分間揺動し、遠心分離後上澄み液を採取し、溶液中に残存するアンチモン量をICP定量分析で測定した。
同様に、セパレータまたはペースト紙試料を10g採取し、そこに鉛標準液10ppm溶液250mlを加え(2500μg)、30分間揺動し、遠心分離後上澄み液を採取し、溶液中に残存する鉛量をICP定量分析で測定した。
【0036】
次に、前述のセパレータやペースト紙に重金属吸着剤を含有させた場合と同様に、活物質に重金属吸着剤を含有させるようにした鉛蓄電池用極板を使用することでも、重金属吸着作用が十分に発揮できることを実証するため、以下に示す確認試験を行った。結果を表3に示す。
【0037】
(確認試験)
水250g(25℃)に、活物質として硫酸鉛100gを加えて2時間攪拌し、溶液中に溶解している鉛イオンの量を測定した(初期鉛量)。次に、重金属吸着剤として水酸化セリウム0.5gを加えて更に2時間攪拌し、溶液中に溶解している鉛イオンの量を測定した(残存鉛量)。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
表1〜3の結果より以下のことが分かった。
(1)実施例1〜2の重金属吸着剤として水酸化セリウムを片面コートしたAGMセパレータは、アンチモン及び鉛の吸着率が88〜97%であり、吸着効果が高いことが確認された。また、特別な重金属吸着機構やデンドライト抑制機構を施していないペースト紙や極板を使った電池試験結果では、鉛のデンドライト成長に起因する短絡が発生せず、本セパレータによるデンドライトショート抑制効果が高いことが確認された。
(2)比較例1は、重金属吸着機構を施していないので、アンチモン及び鉛の吸着率は殆どゼロであった。従って、電池試験でも短絡が発生し、硫酸鉛も多く発生しているのが観察された。
(3)従来例1は、重金属吸着層としてフェノール樹脂をコートしているので、アンチモン及び鉛の一定の吸着作用は認められるが、実施例と比べると低い。従って、電池試験結果でも短絡を防止できないことが判る。ただし、硫酸鉛の発生程度は比較例1より少なかった。
(4)従来例2は、重金属吸着層としてコロイダルシリカをコートしているので、アンチモン及び鉛の一定の吸着作用は認められるが、実施例と比べると低い。従って、電池試験結果でも短絡を防止できないことが判る。ただし、硫酸鉛の発生程度は比較例1より少なかった。物理的にデンドライトを遅延させている効果は、外観上からは見ると従来例1と大差はなかった。
(5)実施例3〜4の重金属吸着剤として水酸化セリウムを含有させたペースト紙は、アンチモン及び鉛の吸着率が87〜95%であり、吸着効果が高いことが確認された。また、特別な重金属吸着機構やデンドライト抑制機構を施していないセパレータや活物質を使った電池試験結果では、鉛のデンドライト成長に起因する短絡が発生せず、本ペースト紙によるデンドライトショート抑制効果が高いことが確認された。
(6)比較例2は、重金属吸着機構を施していないので、アンチモン及び鉛の吸着率は殆どゼロであった。従って、電池試験でも短絡が発生し、硫酸鉛も多く発生しているのが観察された。尚、比較例2の電池試験では、セパレータ、ペースト紙、活物質、極板の何れにも、特別な重金属吸着機構やデンドライト抑制機構を施しておらず、実質的に比較例1の条件に近い。
(7)重金属吸着剤を含有させた活物質の重金属吸着効果を確認する確認試験の結果、鉛の吸着率は91%であり、吸着効果が高いことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性領域で重金属吸着能が高く酸性領域で重金属吸着能が低くなる希土類化合物からなる重金属吸着剤を含有させた微多孔性シートからなり、前記シートの厚さ方向に、前記重金属吸着剤が偏在して、前記シートの水平方向に延びる前記重金属吸着剤の含有層と前記重金属吸着剤の実質的な非含有層とが形成されることを特徴とする鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項2】
前記シートの片面の表面層のみに前記重金属吸着剤が含有されることを特徴とする請求項1記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項3】
中性領域で重金属吸着能が高く酸性領域で重金属吸着能が低くなる希土類化合物からなる重金属吸着剤を含有させたことを特徴とする鉛蓄電池用ペースト紙。
【請求項4】
請求項3記載の鉛蓄電池用ペースト紙を使用したことを特徴とする鉛蓄電池用極板。
【請求項5】
中性領域で重金属吸着能が高く酸性領域で重金属吸着能が低くなる希土類化合物からなる重金属吸着剤を含有させた活物質を使用したことを特徴とする鉛蓄電池用極板。
【請求項6】
請求項1または2記載の鉛蓄電池用セパレータを使用したことを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項7】
前記セパレータの前記重金属吸着剤がより多く含有する面を負極板側に向けて配置したことを特徴とする請求項6記載の鉛蓄電池。
【請求項8】
請求項4または5記載の鉛蓄電池用極板を使用したことを特徴とする鉛蓄電池。

【公開番号】特開2007−311333(P2007−311333A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−100455(P2007−100455)
【出願日】平成19年4月6日(2007.4.6)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】