説明

鉛蓄電池用複合キャパシタ負極板の製造法及び鉛蓄電池

【課題】 製造作業能率を向上し、生産性の向上をもたらすと共に鉛蓄電池のPSOCでの急速充放電特性及び低温放電特性の向上をもたらす鉛蓄電池用複合キャパシタ負極板の製造法を提供する。
【解決手段】 導電性を有する第1カーボン材料とキャパシタ容量及び/又は擬似キャパシタ容量を有する第2カーボン材料とから成る2種類のカーボン材料と少なくとも結着剤を混合して成るカーボン合剤をシート状に形成して作製したカーボン合剤シートを湿潤状態の負極活物質充填板の表面に圧着被覆して製造する。この複合キャパシタ負極板を具備した鉛蓄電池は放電特性の向上をもたらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極板の表面が導電性を有する第1カーボン材料とキャパシタ容量及び/又は擬似キャパシタ容量を有する第2カーボン材料とから成る2種類のカーボン材料と少なくとも結着剤を混合して成るポーラスなカーボン合剤で被覆されて成る複合キャパシタ負極板とこれを具備した鉛蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
負極板、即ち、鉛活物質充填板の表面に、導電性を有する第1カーボン材料とキャパシタ容量及び/又は擬似キャパシタ容量を有する第2カーボン材料から選ばれた少なくとも2種類のカーボン材料と少なくとも結着剤を混合して成る湿潤のカーボン合剤を塗布、乾燥して形成されたポーラスなカーボン合剤層で被覆することにより製造した鉛蓄電池用複合キャパシタ負極板は、PSOCで急速充放電を繰り返してもキャパシタの機能によりサイクル寿命を大幅に延長することができるとする発明が、特表2007-506230号公報で提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2007-506230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の発明は、具体的には、上記のカーボン合剤をペースト状で鉛活物質充填板の表面に塗布、乾燥してそのポーラスなカーボン合剤被覆層を形成して複合キャパシタ負極板を製造する方法である。
このように負極板にカーボン合剤を塗布して複合キャパシタ負極板を作製する場合、集電用格子基板に負極活物質を充填して成る負極板は水分が多く、柔らかなため、その表面にペースト状のカーボン合剤をスクレーパーで塗布すると、該活物質を掻き取ってしまったり、該負極板との密着性が悪いので乾燥後に剥離するなどの不具合が生じるので、これを防止するため、上記の湿潤状態の負極板を熟成板とし、或いは即用板のように乾燥させた負極板とした後に、その表面にペースト状のカーボン合剤を塗布しなければならない。この場合、その塗布方法として、ペースト状又はスラリー状としたカーボン合剤を乾燥した負極板の表面にスクレーパーなどを用いて塗布する方法、刷毛で塗布する方法或いは印刷する方法などが行うことが考えられるが、いずれの塗布方法を用いても、塗布後、再び乾燥工程を要し、複合キャパシタ負極板の製造作業が非能率となる問題を伴う。
また、連続鋳造やエキスパンド方式など連続的に負極板を製造する場合でも、一旦一枚毎に切断して熟成・乾燥を行った後にカーボン合剤を塗布するため、更に、作業性を大きく低下させていた。
更にまた、このように乾燥状態にある負極板の表面にカーボン合剤を塗布した場合、緻密なカーボン合剤から成る被覆層が形成され、該被覆層の内側にある負極板への電解液の移動を妨げ、放電性能を低下させることがあった。
本発明は、上記の従来技術に鑑み、かかる従来の発明の課題を解決し、製造工程を簡略化し、生産能率を向上し得る複合キャパシタ負極板の製造法と該複合キャパシタ負極板を具備した電池特性の改善された鉛蓄電池を提供することに在る。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、請求項1に記載の通り、導電性を有する第1カーボン材料とキャパシタ容量及び/又は擬似キャパシタ容量を確保する第2カーボン材料とから成る2種類のカーボン材料と少なくとも結着剤を混合して成るカーボン合剤で、負極板活物質充填板の表面を被覆して成る鉛蓄電池用複合キャパシタ負極板の製造法において、該カーボン合剤をシート状に形成して成るカーボン合剤シートを湿潤状態にある負極板活物質の表面の少なくとも一部に圧着被覆せしめ、次いで乾燥することを特徴とする鉛蓄電池用複合キャパシタ負極板の製造法に存する。
上記の本発明において、請求項2又は3に記載のように、該カーボン合剤シートは、該カーボン合剤を押出し成形法や塗工法によりシート状に成形するか、多孔質シートに保持せしめることにより形成シート状に形成することを特徴とする。
更に本発明は、請求項4に記載のように、該カーボン合剤をシート状に形成した後、プレスすることを特徴とする。
更に本発明は、請求項5,6に記載のように、前記カーボン合剤に造孔剤として、亜鉛粉末、樟脳粉末、ナフタリン粉末及びアルミニウム粉末の群から選ばれた少なくとも1種をカーボン合剤に添加することを特徴とする。
更に本発明は、請求項7に記載のように、上記の請求項1乃至6に記載の製造法により得られた複合キャパシタ負極板を具備したことを特徴とする鉛蓄電池に存する。
【発明の効果】
【0006】
請求項1,2又は3に係る発明により、複合キャパシタ負極板が作業能率良く製造でき、生産性の向上をもたらし、且つ該負極板活物質充填板の表面をポーラスなカーボン合剤シートが密着状態で被覆されるので、電解液の内側への移動供給を許容し、且つ鉛活物質の劣化が防止された良質の複合キャパシタ負極板を製造することができると共に、鉛蓄電池のPSOCでの急速放電特性及び低温放電特性の向上をもたらすことができる。
また、請求項4に係る発明により、カーボン合剤をシート状に形成した後、乾燥、プレスすることにより、カーボン合剤中の導電パスを確保し易くなるため、カーボン合在中の導電性を有する第1カーボン材料の添加量を低減することが可能である。従って、カーボン合剤層を薄く形成することが可能となり、カーボン合剤層を薄く形成することで内部抵抗の少ない鉛蓄電池を得ることが可能である。
また、請求項5又は6に係る発明により、カーボン合剤に亜鉛粉末、樟脳粉末、ナフタリン粉末及びアルミニウム粉末の群から選んだ造孔剤を添加することで、カーボン合剤層の気孔率を向上させ、電極板の表面への硫酸の供給が容易に行え、高率放電特性が向上する。
また、請求項7に係る発明によれば、上記の複合キャパシタ負極板を具備した鉛蓄電池を構成することにより、急放電特性や低温放電特性などの改善された鉛蓄電池が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の実施の形態例を以下詳述する。
鉛蓄電池用負極板の基本構成は、集電用格子基板に、従来公知の鉛活物質を充填して成る負極板活物質充填板に構成して成るものであるが、本発明によれば、その負極板活物質充填板の表面に導電性を確保するに必要な、アセチレンブラックやファーネスブラックなどのカーボンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛などから選択された少なくとも1種から成る第1カーボン材料と、キャパシタ及び/又は擬似キャパシタとしての容量、即ち、キャパシタ機能を確保するために必要な活性炭、カーボンブラック、黒鉛などから選択された少なくとも1種から成る第2カーボン材料から成る2種類のカーボン材料と少なくとも結着剤とを混合して成るカーボン合剤を下記詳述するようにシート状に形成し、これを、前記の負極板活物質充填板の表面の少なくとも一部に圧着被覆させて本発明の鉛蓄電池用複合キャパシタ負極板を製造するものである。即ち、その被覆の面域は、負極板活物質充填板の両面に、或いはそのいずれか一方の全面に、或いはその両面又は片面の一部のいずれでも良い。
【0008】
尚、第1カーボン材料は導電性を確保するのに必要で、アセチレンブラックやファーネスブラックなどのカーボンブラック、ケッチェンブラックなどが好適に使用される。これ以外に、サーマルブラック、チャンネルブラック、ランプブラックなどのカーボンブラック、カーボンファイバー、黒鉛などの使用可能である。これらのカーボン材料は導電性を重視する観点から、一般に表面官能基の量は少ない方が良い。
第1カーボン材料の配合量は5重量部未満では導電性を確保できず、キャパシタ容量の低下を招く一方、70重量部を超えると導電効果が飽和する。より好ましい配合量は10〜60重量部である。
【0009】
また、第2カーボン材料はキャパシタ及び/又は擬似キャパシタとしての容量を確保するのに必要で、活性炭、アセチレンブラックやファーネスブラックなどのカーボンブラック、ケッチェンブラックなどが好適に使用される。これ以外に、サーマルブラック、チャンネルブラック、黒鉛などが適当である。キャパシタとしての容量の点から、特に活性炭が好ましい。
この第2カーボン材料はキャパシタ及び/又は擬似キャパシタ容量を確保する観点から、配合量は20重量部未満ではキャパシタ容量が不足し、80重量部を超えると相対的に第1カーボン材料の割合が減少して、むしろ、容量が低下する。より好ましい配合量は30〜70重量部である。
【0010】
結着剤は、配合した第1,第2カーボン材料同士の結合及び負極板の表面とカーボン合剤の被覆層との結合を良好にし、電気的な接続を確保すると共にカーボン合剤ペーストの乾燥後のカーボン合剤をポーラスな状態を維持することに役立ち、その種類は、ポリクロロプレン、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などが好ましい。
結着剤が1重量部未満では結合が不充分となり、20重量部を超えると結合効果が飽和する一方、絶縁体として作用し、導電性を低下する。より好ましい配合量は5〜15重量部である。
【0011】
更にまた、増粘剤や短繊維補強材を配合してもよい。
増粘剤は、カーボン合剤ペースト状に調製するのに有用で、水性のペーストにはカルボキシメチルセルロース(CMC)やメチルセルロース(MC)などのセルロース誘導体、ポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコールなどが適当であり、有機系ペーストにはNMP(N-メチル-2-ピロリドン、1-メチル-2-ピロリドン)やジメチルスルホキシド(DMSO)などが適当である。増粘剤を用いる場合は、乾燥残分が10重量部を超えるとカーボン合剤の導電性を損なうのでこれ以下が良い。より好ましい配合量は1〜6重量部である。
短繊維補強材は、カーボン合剤をペースト状に調製し負極板に塗布する場合、カーボン合剤被覆層のガス透過性を良くし、カーボン合剤被覆層の剥離を抑制するのに有効である。材質はカーボン、ガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル樹脂など硫酸酸性中で安定な疎水性材料であれば良く、太さは1〜30μm、長さは0.05〜4.0mmが望ましい。また、アスペクト比は1000を超えるような繊維形状の材料を添加した場合、合剤の練り、搬送、塗布時においてダマが発生し生産性を低下させるので1000以下が良い。より好ましいアスペクト比は20〜500である。配合量は16重量部を超えるとカーボン材料や結着剤の相対的な比率を下げて性能を損なうと共に、カーボン合剤の導電性も低下させるのでこれ以下が良い。より好ましい配合量は4〜12重量部である。
【0012】
このカーボン合剤シートは、下記のように種々の形成法がある。
上記の導電性を確保する機能を有する第1カーボン材料とキャパシタ容量及び/又は擬似キャパシタ容量を確保する機能を有する第2カーボン材料を結着剤の分散液や増粘剤の水溶液と混合してスラリー状又はペースト状としたカーボン合剤を、押出し法や塗工法によりシート状に形成されたカーボン合剤シートが作製できる。
該カーボン合剤シートは、一般的にリチウムイオン電池や、電気二重層キャパシタの電極作製で行われているコーターで作製できる。また、極板一枚のサイズのカーボン合剤シートを作製する場合は、テーブルコーターなどの小型の機械を使用し作製できる。
また、該カーボン合剤を不織布などの多孔質シートとに保持させてシート状に形成されたカーボン合剤シートを作製することができる。その作製方法の具体的な1例は、導電性の第1カーボン材料とキャパシタとして機能する第2カーボン材料を結着剤の分散液や増粘剤の水溶液と混合してスラリー状としたカーボン合剤を、不織布などの多孔質シートに含浸した後、乾燥してシート状に形成されたカーボン合剤シートを作製する。この作製方法において、スラリー状のカーボン合剤が乾燥する過程でスラリー状のカーボン合剤中の固形分が多孔質シートを構成する骨格表面に沈積して被着し、多孔質シートがもともと有する開口部を若干狭めはするものの無数の粗大孔として維持されると同時に、蒸発した水分は多孔質シートを構成する骨格表面のカーボン合剤中に無数の細孔が形成され、結局、ポーラスなカーボン合剤シートが得られる。
また、他の作製方法としては、上記方法と同様にカーボン合剤をシート状に作製した後、乾燥、プレスしてカーボン合剤シートを得るものである。このようにすることで、カーボン合剤中の導電パスを確保し易くなるため、カーボン合剤中の導電カーボン量を低減することが可能である。
前記カーボン合剤シートのプレスは、カーボン合剤シートの厚さが元のカーボン合剤層の厚さの30〜70%、即ち、圧縮率が30〜70%となるようにロールプレスすることでカーボン合剤中の導電パスを確保し易くなる。しかし、圧縮率が30%以下である場合、その効果が殆どなく、圧縮率が70%を超える場合、その効果が飽和する。
更にまた、前記カーボン合剤に亜鉛粉末、樟脳粉末、ナフタリン粉末及びアルミニウム粉末の群から選択した少なくとも1種などの造孔剤を添加することも効果的である。添加されたアルミニウム粉末又は亜鉛粉末は、化成時に硫酸電解液と反応して溶解し、その跡に微孔が形成され、添加された樟脳粉末やナフタリン粉末は予熱や熟成、乾燥時に昇華し、その跡の微孔が形成されることにより、カーボン合剤被覆層の気孔率は増大するので、造孔剤を添加することで、負極板の表面への硫酸の供給が容易に行え、高率放電特性が向上する。また、充電中に発生するガスが抜け易いため、ガス発生によるカーボン合剤層の剥離を抑制することが可能である。
単独で又は混合して用いられる該造孔剤の添加量は、一般に、カーボン合剤に対しアルミニウム換算で3〜20重量部、亜鉛粉末8〜50重量部、樟脳粉末1〜8.5重量部、ナフタリン粉末1.5〜25重量部である。添加量が3重量部未満では上記の添加効果が見られず、また、添加量が20重量部超過ではその添加効果が飽和してしまうので、経済的見地から20重量部までにとどめることが好ましい。
【0013】
該カーボン合剤シートを該負極板活物質充填板に被着せしめるときは、その形成された無数の粗大孔によりその下にある負極板活物質への電解液の供給を妨げず、放電性能を損なうことがなくなる。また、同時に、多孔質シートの骨格は前述の短繊維と同様の作用でカーボン合剤の亀裂、脱落を防ぐことができると共に、多孔質シートに含浸したシート状のカーボン合剤のカーボン合剤被覆層を湿潤状態の活物質充填板の表面に密着せしめることができ、その後、1つの乾燥工程で、ポーラスなカーボン合剤で被覆された本発明の複合キャパシタ負極板の製造作業が高能率で製造できる効果をもたらす。
多孔質シートとしては、電池用セパレータやペースト紙に使用する合成繊維、ガラス繊維、パルプなどから成る織布や不織布が用いられるが、不織布や抄き紙は開口径大きく、スラリー状カーボン合剤の浸透性が良く、柔軟性があるため、本発明の目的に特に適している。炭素繊維を用いると多孔質シートは導電性を付与され、更に効果的である。
【0014】
このように作製した上記のカーボン合剤シートを湿潤状態にある負極板活物質充填板の表面に貼着し、ロールプレスなどで加圧した後、熟成、乾燥することにより、カーボン合剤シートが被着された本発明の複合キャパシタ負極板を得ることができる。
この場合、湿潤状態にある負極板活物質充填板の表面にカーボン合剤シートを貼り合わせ、ロールプレスをすることで、内側の負極板活物質の一部がカーボン合剤シートの内部まで入り込むので、熟成、乾燥後でも密着性は低下せず、カーボン合剤シートの剥離が起きない。
上記の本発明の複合キャパシタ負極板の製造法によれば、連続的な負極板製造法に見られる長尺のペースト紙の連続的な貼り付け法と同じ要領で、長尺のカーボン合剤シートを連続的に貼り付けることができる。即ち、連続的に複合キャパシタ負極板を作製するときは、長尺のカーボン合剤シートを使用することで、作業性を低下させずに複合キャパシタ負極板を連続製造することができる。
更にまた、本発明の複合キャパシタ負極板の製造法によれば、格子基板に負極板活物質の充填の後に連続的にカーボン合剤被覆層を負極活物質充填板に密着せしめることができ、また、乾燥工程も1度で足り、塗布むら等を生ぜず、均一な厚みに調整し易くなるなど、従来のカーボン合剤を塗布して複合キャパシタ負極板を製造する場合に比し、製造作業性は特段に向上し得る。尚また、上記の多孔質シートを用いて製造したカーボン合剤シートの場合は、カーボン合剤シート層がポーラスであるため内部まで鉛活物質の一部が入り込み、更に、結着、密着性を向上させることができる。
尚、前記カーボン合剤シートの気孔率は、40〜90%が適当で好ましい。40%未満では電解液の移動が阻害され、急速充放電性能の低下を招く。90%を超えると被覆効果が飽和すると共に、厚みが厚くなり、設計に支障をきたす。
【0015】
次に、本発明の実施例を示す。
実施例1
導電性を有する第1カーボン材料としてファーネスブラックと、キャパシタ機能を有する第2カーボン材料として活性炭と、これに結着剤としてポリクロロプレン、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)、分散媒として水を用い、これらを下記表1に示す配合割合で配合したものをミキサーで混合してペースト状のカーボン合剤を調製し、ポンプで加圧しながらスリット状のノズルから押し出し76mm幅のペースト紙に連続的に塗布し、厚さ0.3mmのカーボン合剤シートを作製した。
一方、極板群に含浸保持される程度の電解液を備えた制御弁式鉛蓄電池の負極として用いる負極板を、公知の方法で製造した。即ち、鉛合金製の集電用格子基板に湿潤状態の鉛活物質を充填して成る鉛活物質充填板を製造した。この鉛活物質充填板の寸法は、76mmW×76mmL×1.4mmtとし、この活物質充填板の両面に、上記作製の76mm幅のカーボン合剤シートを乾燥させない湿潤状態のまま当接して被着し、次いで、ロールプレスをした後、公知の方法で熟成、乾燥させ、本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。ロールプレスの工程はカーボン合剤シートと負極板活物質を更に密着を確保するためであり、ロールプレスの圧力は高い方が良いが、充填された活物質ペーストのはみ出しや集電用格子基板の変形が起こらない程度に調整される。
上記カーボン合剤シートが被着された複合キャパシタ負極板5枚と、公知の方法で作製した76mmW×76mmL×1.7mmtの正極板4枚とを、AGMセパレータを介して交互に積層して極板群を構成し、これを電解液が極板群に含浸保持される程度含有される制御弁式鉛蓄電池として公知の組立方法と同様に、電槽(単セル)内に極板群を収納して、正極容量規制で、5時間率容量が10Ahで2Vの制御弁式鉛蓄電池を組み立てた。この組み立て時に、群の圧迫度は50kPaになるように極板群の両端と電槽その間にスペーサーを入れて調製した。
次に硫酸アルミニウム・18水塩を30g/l溶解した比重1.24の硫酸水溶液を電解液としてセル当たり119gとなるように作製して電槽内に注入し、電槽化成を行った。電槽化成後、この制御弁式鉛蓄電池の5時間率容量を測定したところ、約10Ahであった。
【0016】
【表1】

【0017】
実施例2
導電性を有する第1カーボン材料としてファーネスブラックと、キャパシタ機能を有する第2カーボン材料として活性炭と、これに結着剤としてポリクロロプレン、増粘剤としてCMC、短繊維補強剤としてテトロン、分散媒として水を用い、これらを下記表2に示す配合割合で配合したものをミキサーで混合してペースト状のカーボン合剤を調製した。このカーボン合剤を、テーブルコーターを使用して76mm×76mmサイズのポリプロピレン(PP)のシートに塗布し、乾燥後、PPシートから剥がし、厚さ0.3mmのカーボン合剤の成形シートを作製した。
一方、公知の方法で制御弁式鉛蓄電池の負極に用いる負極板、即ち、前記の集電用格子基板に湿潤状態の鉛活物質を充填して成る鉛活物質充填板を製造した。この鉛活物質充填板の寸法は、76mmW×76mmL×1.4mmtとし、この活物質充填板の両面に、上記作製の76mmW×76mmLサイズのカーボン合剤シートを当接して被着し、次いで、ロールプレスをした後、公知の方法で熟成、乾燥させ、本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。ロールプレスの工程はカーボン合剤シートと負極板活物質を密着を確保するためのものであり、ロールプレスの圧力は高い方が良いが、充填された活物質ペーストのはみ出しや集電用格子基板の変形が起こらない程度に調整される。
上記カーボン合剤シートが被着された複合キャパシタ負極板5枚と、公知の方法で作製した76mmW×76mmL×1.7mmtの正極板4枚とを、AGMセパレータを介して交互に積層して極板群を構成し、これを電解液が極板群に含浸保持される程度含有される制御弁式鉛蓄電池として公知の組立方法と同様に、電槽(単セル)内に極板群を収納して、正極容量規制で、5時間率容量が10Ahで2Vの制御弁式鉛蓄電池を組み立てた。この組み立て時に、群の圧迫度は50kPaになるように極板群の両端と電槽その間にスペーサーを入れて調製した。
次に硫酸アルミニウム・18水塩を30g/l溶解した比重1.24の硫酸水溶液を電解液としセル当たり119gとなるように電槽内に注入し、電槽化成を行った。電槽化成後、この制御弁式鉛蓄電池の5時間率容量を測定したところ、約10Ahであった。
【0018】
【表2】

【0019】
比較例1
実施例1で製造した活物質が湿潤状態の負極板活物質充填板を公知の方法で熟成、乾燥させて負極板を作製し、この負極板の両面に表2に記載と同じ配合割合のものをミキサーで混合し調製したペースト状のカーボン合剤を被覆厚さが0.30mmとなるようにスクレーパーで塗布した後、乾燥して該活物質充填板の両面に該カーボン合剤被覆層を具備した複合キャパシタ負極板を作製した。これを実施例1と同様に2Vの鉛蓄電池を作製し、電槽化成後、この鉛蓄電池の5時間率容量を測定したところ、約10Ahであった。
【0020】
次に、上記実施例1〜2と比較例1で作製した夫々の制御弁式鉛蓄電池を用いて、HEVによる走行を模擬してPSOCで急速充放電を繰り返すことによる寿命試験を行った。即ち、該試験は制御弁式鉛蓄電池を2Aで1時間放電してPSOC 80%とした後、40℃の雰囲気中で50A・1秒放電と20A・1秒充電を500回繰り返した後、30A・1秒充電と休止・1秒を510回繰り返し、これを1サイクルとした。この試験を400サイクル繰り返した後、蓄電池の内部抵抗を測定した。結果を下記表3に示した。尚、カーボン合剤で被着しない従来の負極板を用いた従来の制御弁式鉛蓄電池は180サイクルで寿命になったため、表3には記載していない。
【0021】
【表3】

【0022】
上記表3から明らかなように、実施例1〜2に記載の本発明の製造法で製造した複合キャパシタ負極板を具備した鉛蓄電池は、比較例1の製造法で製造した複合キャパシタ負極板を具備した制御弁式鉛蓄電池に比し400サイクル終了時の内部抵抗値が著しく減少し、本発明の製造法は、優れた鉛蓄電池をもたらすことが確認された。これは、本発明の製造法により、負極板活物質表面とカーボン合剤の密着性が改善された複合キャパシタ負極板が得られることを立証している。
ペースト状カーボン合剤を湿潤状態の負極板活物質充填板に直接圧着し乍らカーボン合剤被覆層を形成して製造される従来の複合キャパシタ負極板は、見かけ上、負極板活物質表面とカーボン合剤層が密着しているようだが、鉛活物質の表面には凸凹が多いため、実際は点で接触している。そのため、PSOCで急速充放電を繰り返す寿命試験を行うと、カーボン合剤層と接触していない鉛活物質部分は充電受入性が低下し、サイクル経過毎に劣化し、その結果、内部抵抗が上昇してしまうものと考えられる。
これに対し、本発明の製法で製造した複合キャパシタ負極板は、湿潤状態の負極板活物質充填板にペースト状カーボン合剤をシート状に形成したものをロールプレスで圧着することにより両者の全面的な密着が起こる。その結果、これを具備した制御弁式鉛蓄電池のサイクル寿命試験400サイクル後の内部抵抗値は、カーボン合剤シートが負極板活物質表面全体との密着状態を維持しているため、鉛活物質の劣化が少なく、且つ比較例1の複合キャパシタ負極板を具備した鉛蓄電池の内部抵抗値に比べて低くなったと考えられる。
尚、上記の実施例1,2において、結着剤としてポリクロロプレンを使用したが、これに代え、他の結着剤、例えば、SRBを使用しても差し支えない。
【0023】
次に、カーボン合剤をシート状に形成した後、プレスすることによる効果、及びカーボン合剤への造孔剤の添加効果についての確認を下記のように行った。
実施例3
導電性を有する第1カーボン材料としてファーネスブラックと、キャパシタ機能を有する第2カーボン材料として活性炭と、これに結着剤としてポリクロロプレン、増粘剤としてCMC、分散媒として水を用い、これらを下記表4に示す配合割合で配合したものをミキサーで混合して調製したペースト状のカーボン合剤の厚さが0.3mmとなるようにポンプで加圧しながらスリット状ノズルから押し出し76mm幅のペースト紙に連続的に塗布し、次いで、雰囲気温度200℃の遠赤外線乾燥炉で連続乾燥を2分行い、その後、カーボン合剤の厚さが元の厚さの50%になるようにロールプレスにてプレスし圧縮を行い、厚さ0.15mmのカーボン合剤シートを作製した。
一方、公知の方法で制御弁式鉛蓄電池の負極に用いる負極板、即ち、前記と同じ集電用格子基板に鉛活物質を充填して成る鉛活物質充填板を製造した。この湿潤状態の鉛活物質充填板の寸法は、76mmW×76mmL×1.4mmtとし、この負極板活物質充填板の表面に、上記作製の76mm幅のカーボン合剤シートを当接して被着し、次いで、ロールプレスをした後、公知の方法で熟成、乾燥させ、本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。ロールプレスの工程はカーボン合剤シートと負極板活物質を密着させるためのものであり、ロールプレスの圧力は高い方が良いが、充填された活物質ペーストのはみ出しや集電用格子基板の変形が起こらない程度に調整される。
上記カーボン合剤シートが被着された複合キャパシタ負極板5枚と、公知の方法で作製した76mmW×76mmL×1.7mmtの正極板4枚とを、AGMセパレータを介して交互に積層して極板群を構成し、これを電解液が極板群に含浸保持される程度含有される制御弁式鉛蓄電池として公知の組立方法と同様に、電槽(単セル)内に極板群を収納して、正極容量規制で、5時間率容量が10Ahで2Vの制御弁式鉛蓄電池を組み立てた。この組み立て時に、群の圧迫度は50kPaになるように極板群の両端と電槽その間にスペーサーを入れて調製した。
次に硫酸アルミニウム・18水塩を30g/l溶解した比重1.24の硫酸水溶液を電解液としセル当たり119gとなるように電槽内に注入し、電槽化成を行った。電槽化成後、この制御弁式鉛蓄電池の5時間率容量を測定したところ、約10Ahであった。
尚、カーボン合剤シートの気孔率は、200℃の遠赤外線乾燥炉で連続乾燥を2分行った段階では50%であったが、その後のロールプレスによるプレスで元の厚さの50%に圧縮し電槽化成終了後には35%であった。
【0024】
【表4】

【0025】
実施例4
表4に示すペースト状カーボン合剤中に亜鉛粉末を7.9重量部(Al換算で1重量部)添加した以外は、実施例3と同様に本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。次いで、この負極板を用い、実施例3と同様に正極容量規制で、5時間率が10Ahで2Vの制御弁式鉛蓄電池を組み立てた。尚、電槽化成後、この制御弁式鉛蓄電池の5時間率容量を測定したところ、約10Ahであった。
また、電槽化成終了後の該複合キャパシタ負極板のカーボン合剤シートの気孔率は37%であった。
【0026】
実施例5
上記のペースト状カーボン合剤中に亜鉛粉末を23.7重量部(Al換算で3重量部)添加した以外は、実施例3と同様に本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。次いで、この負極板を用い、実施例3と同様に正極容量規制で、5時間率が10Ahで2Vの制御弁式鉛蓄電池を組み立てた。尚、電槽化成後、この制御弁式鉛蓄電池の5時間率容量を測定したところ、約10Ahであった。
また、電槽化成終了後の該複合キャパシタ負極板のカーボン合剤シートの気孔率は58%であった。
【0027】
実施例6
上記のペースト状カーボン合剤中に亜鉛粉末を79重量部(Al換算で10重量部)添加した以外は、実施例3と同様に本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。次いで、この負極板を用い、実施例3と同様に正極容量規制で、5時間率が10Ahで2Vの制御弁式鉛蓄電池を組み立てた。尚、電槽化成後、この制御弁式鉛蓄電池の5時間率容量を測定したところ、約10Ahであった。
また、電槽化成終了後のこの際の該複合キャパシタ負極板のカーボン合剤シートの気孔率は58%であった。
【0028】
実施例7
上記のペースト状カーボン合剤中に亜鉛粉末を157.8重量部(Al換算で20重量部)添加した以外は、実施例3と同様に本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。次いで、この負極板を用い、実施例3と同様に正極容量規制で、5時間率が10Ahで2Vの制御弁式鉛蓄電池を組み立てた。尚、電槽化成後、この制御弁式鉛蓄電池の5時間率容量を測定したところ、約10Ahであった。
また、電槽化成終了後の該複合キャパシタ負極板のカーボン合剤シートの気孔率は75%であった。
【0029】
実施例8
上記のペースト状カーボン合剤中に亜鉛粉末を165.7重量部(Al換算で21重量部)添加した以外は、実施例3と同様に本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。次いで、この負極板を用い、実施例3と同様に正極容量規制で、5時間率が10Ahで2Vの制御弁式鉛蓄電池を組み立てた。尚、電槽化成後、この制御弁式鉛蓄電池の5時間率容量を測定したところ、約10Ahであった。
また、電槽化成終了後の該複合キャパシタ負極板のカーボン合剤シートの気孔率は75%であった。
【0030】
実施例9
上記のペースト状カーボン合剤中にアルミニウム粉末を10重量部添加した以外は、実施例3と同様に本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。次いで、この負極板を用い、実施例3と同様に正極容量規制で、5時間率が10Ahで2Vの制御弁式鉛蓄電池を組み立てた。尚、電槽化成後、この制御弁式鉛蓄電池の5時間率容量を測定したところ、約10Ahであった。
また、電槽化成終了後の該複合キャパシタ負極板のカーボン合剤シートの気孔率は58%であった。
【0031】
実施例10
上記のペースト状カーボン合剤中に樟脳粉末を11.1重量部(Al換算で10重量部)添加した以外は、実施例3と同様に本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。次いで、この負極板を用い、実施例3と同様に正極容量規制で、5時間率が10Ahで2Vの制御弁式鉛蓄電池を組み立てた。尚、電槽化成後、この制御弁式鉛蓄電池の5時間率容量を測定したところ、約10Ahであった。
また、電槽化成終了後の該複合キャパシタ負極板のカーボン合剤シートの気孔率は58%であった。
【0032】
実施例11
上記のペースト状カーボン合剤中にナフタリン粉末を13.2重量部(Al換算で10重量部)添加した以外は、実施例3と同様に本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。次いで、この負極板を用い、実施例3と同様に正極容量規制で、5時間率が10Ahで2Vの制御弁式鉛蓄電池を組み立てた。尚、電槽化成後、この制御弁式鉛蓄電池の5時間率容量を測定したところ、約10Ahであった。
また、電槽化成終了後の該複合キャパシタ負極板のカーボン合剤シートの気孔率は58%であった。
【0033】
実施例12
上記のペースト状カーボン合剤中に亜鉛粉末を79重量部(Al換算で10重量部)及びアルミニウム粉末を10重量部夫々添加した以外は、実施例3と同様に本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。次いで、この負極板を用い、実施例3と同様に正極容量規制で、5時間率が10Ahで2Vの制御弁式鉛蓄電池を組み立てた。尚、電槽化成後、この制御弁式鉛蓄電池の5時間率容量を測定したところ、約10Ahであった。
また、電槽化成終了後の該複合キャパシタ負極板のカーボン合剤シートの気孔率は73%であった。
【0034】
実施例13
上記のペースト状カーボン合剤中に樟脳粉末を11.1重量部(Al換算で10重量部)、アルミニウム粉末を10重量部夫々添加した以外は、実施例3と同様に本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。次いで、この負極板を用い、実施例3と同様に正極容量規制で、5時間率が10Ahで2Vの制御弁式鉛蓄電池を組み立てた。尚、電槽化成後、この制御弁式鉛蓄電池の5時間率容量を測定したところ、約10Ahであった。
また、電槽化成終了後の該複合キャパシタ負極板のカーボン合剤シートの気孔率は73%であった。
【0035】
実施例14
上記のペースト状カーボン合剤中にナフタリン粉末を13.2重量部(Al換算で10重量部)、アルミニウム粉末を10重量部夫々添加した以外は、実施例3と同様に本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。次いで、この負極板を用い、実施例3と同様に正極容量規制で、5時間率が10Ahで2Vの制御弁式鉛蓄電池を組み立てた。尚、電槽化成後、この制御弁式鉛蓄電池の5時間率容量を測定したところ、約10Ahであった。
また、電槽化成終了後の該複合キャパシタ負極板のカーボン合剤シートの気孔率は73%であった。
【0036】
実施例15
上記のペースト状カーボン合剤中に亜鉛粉末を26.3重量部(Al換算で3.33重量部)、樟脳粉末を3.7重量部(Al換算で3.33重量部)、アルミニウム粉末を3.33重量部夫々添加した以外は、実施例3と同様に本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。次いで、この負極板を用い、実施例3と同様に正極容量規制で、5時間率が10Ahで2Vの制御弁式鉛蓄電池を組み立てた。尚、電槽化成後、この制御弁式鉛蓄電池の5時間率容量を測定したところ、約10Ahであった。
また、電槽化成終了後の該複合キャパシタ負極板のカーボン合剤シートの気孔率は58%であった。
【0037】
実施例16
上記のペースト状カーボン合剤中に亜鉛粉末を26.3重量部(Al換算で3.33重量部)、ナフタリン粉末を4.4重量部(Al換算で3.33重量部)、アルミニウム粉末を3.33重量部夫々添加した以外は、実施例3と同様に本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。次いで、この負極板を用い、実施例3と同様に正極容量規制で、5時間率が10Ahで2Vの制御弁式鉛蓄電池を組み立てた。尚、電槽化成後、この制御弁式鉛蓄電池の5時間率容量を測定したところ、約10Ahであった。
また、電槽化成終了後の該複合キャパシタ負極板のカーボン合剤シートの気孔率は58%であった。
【0038】
実施例17
上記のペースト状カーボン合剤中に亜鉛粉末を26.3重量部(Al換算で3.33重量部)、樟脳粉末を3.7重量部(Al換算で3.33重量部)、ナフタリン粉末を4.4重量部(Al換算で3.33重量部)夫々添加した以外は、実施例3と同様に本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。次いで、この負極板を用い、実施例3と同様に正極容量規制で、5時間率が10Ahで2Vの制御弁式鉛蓄電池を組み立てた。尚、電槽化成後、この制御弁式鉛蓄電池の5時間率容量を測定したところ、約10Ahであった。
また、電槽化成終了後の該複合キャパシタ負極板のカーボン合剤シートの気孔率は58%であった。
【0039】
次に、上記実施例1〜17及び比較例1で作製した夫々の制御弁式鉛蓄電池を用いて、HEVによる走行を模擬してPSOCで急速充放電を繰り返すことによる寿命試験を行った。該試験は制御弁式鉛蓄電池を2Aで1時間放電してPSOC 80%とした後、40℃の雰囲気中で50A・1秒放電と20A・1秒充電を500回繰り返した後、30A・1秒充電と休止・1秒を510回繰り返し、これを1サイクルとした。この試験を500サイクル繰り返した後、蓄電池の内部抵抗を測定した。結果を下記表5に示した。
【0040】
【表5】

【0041】
上記表5から明らかなように、実施例1〜17に示す本発明の製造法で製造した複合キャパシタ負極板を具備した鉛蓄電池は、比較例1の製造法で製造した複合キャパシタ負極板を具備した鉛蓄電池に比し500サイクル終了時の内部抵抗値が著しく減少し、優れた鉛蓄電池をもたらすことが確認された。また、実施例3〜17では、カーボン合剤シートを乾燥後、ロールプレスを行い、カーボン合剤シートを薄くすることにより、内部抵抗が低減された鉛蓄電池が得られ、更にまた、該カーボン合剤に造孔剤を添加していない実施例3に比し、該カーボン合剤に造孔剤を添加した実施例4〜17の鉛蓄電池は内部抵抗が更に低減された鉛蓄電池が得られることが立証された。この結果は、カーボン合剤シートをロールプレスすることでカーボン合剤中の導電パスを確保し、且つ、造孔剤により極板表面への硫酸の供給を容易に行うことを可能とし、カーボン合剤層の密着性が改善されたことによるものと考えられる。
【0042】
実施例18
次に多量の遊離する電解液を備える始動用鉛蓄電池で本発明の評価を行った。始動用鉛蓄電池(JIS D 5301型式B24に規格のサイズ 126mmW×236mmL×200mmH)を次のように製造した。負極板の寸法は、102mmW×108.5mmH×1.5mmt、7枚/セルの構成で、公知の製法で負極活物質ペーストは鉛合金製の集電用格子基板に充填され、負極板、即ち、湿潤状態の鉛活物質充填板を製造した。次いで、表1に示す配合組成のカーボン合剤に、目付け重量100g/m2、厚み0.2mmのガラス繊維製の不織布を含浸させて引き上げて、厚さ0.30mmのカーボン合剤シートを調製し、これを湿潤状態の上記の負極板の両面に一対の加圧ローラーにより貼り付け、60℃で1時間乾燥して複合キャパシタ負極板とした。この際の該複合キャパシタ負極板のカーボン合剤シートの気孔率は50%であった。
一方、正極板は、102mmW×107.5mmH×1.7mmtの寸法を有し、6枚/セルの構成で、公知の製法で正極活物質ペーストは鉛合金製の集電用格子基板に充填し、その後熟成、乾燥して製造した。セパレータはリブを設けたポリエチレンシートを袋状に加工し、リブが袋の内側を向き、袋に入れた正極板に当たるように配した。電解液は電槽化成後の比重が1.285となるように調整し、電解液量を各セル640g注入した。上記の正極板、複合キャパシタ負極板、セパレータから成る極板群はCOS法により製造し、極板群は6個のセル室から成る電槽の各セル室に挿入し、極板群の圧迫度が10kPaとなるように固定収容した。極板群が収容された電槽に蓋を接合した後、両端のセルに正,負端子を溶接し、電解液を注入して電池の定格容量の180%の充電電気量から成る電槽化成を行い、多量の遊離する電解液を備える始動用鉛蓄電池を製造した。この電池の5時間率容量は42Ahであった。
【0043】
次に、上記実施例18で製造した始動用鉛蓄電池について、-15℃における低温急放電試験をJIS D 5031に従って行い、5秒目電圧、30秒目電圧と放電持続時間を測定した。即ち、これらの始動用鉛蓄電池を-15℃の恒温槽に入れて15時間放置し、その後210Aの電流でセル電圧が1.2Vに低下するまで放電を行い、5秒目電圧、30秒目電圧、放電の持続時間を測定した。その結果を下記表6に示す。
【0044】
比較例2
実施例18で製造した負極板活物質充填板を公知の方法で熟成・乾燥させ負極板を作製し、該負極板板の両面に、不織布を用いることなく、表1に示すスラリー状のカーボン合剤を0.3mmとなるように一対の加圧ローラーにより直接塗布して複合キャパシタ負極板を製造した。この段階でのカーボン合剤シートの気孔率は50%であった。この負極板を用い、実施例18と同様にして始動用鉛蓄電池を製造した。この場合、セパレータとしては、ポリエチレンシートの表面にガラス繊維と合成繊維の混紡不織布を配して成る厚み1.0mmの複合セパレータの袋状に加工して用い、その不織布が負極板に当たるようにした。そして、該電池につき、実施例18の始動用鉛蓄電池につき行ったと同じ-15℃における低温急放電試験を行った。その結果を表6に示す。
【0045】
【表6】

【0046】
表6から明らかな通り、本発明の実施例18により製造した複合キャパシタ負極板を具備した始動用鉛蓄電池は比較例2により製造した複合キャパシタ負極板を具備した始動用鉛蓄電池に比べて著しく優れた低温放電特性を示した。これは、本発明の複合キャパシタ負極板は、実施例2で述べた効果の他に、該始動用鉛蓄電池の効果も現れたことを意味する。即ち、始動用鉛蓄電池では、従来の複合キャパシタ負極板の負極板に塗着したカーボン合剤層は化成中のガス発生により剥離する問題があるので、ポリエチレンセパレータの表面に不織布を貼った複合セパレータで負極板を圧迫して剥離を防止する必要があった。これに対し、本発明によれば、負極板表面に全面密着した貼り付けたカーボン合剤シート自体が剥離防止の役割を果たすため、セパレータはポリエチレンセパレータのみで足りる。而も、従来用いられた上記の複合セパレータによる余分な液抵抗もなくなり、より優れた低温放電特性を得ることができることが確認された。
【0047】
更に、カーボン合剤に造孔剤を添加した複合キャパシタ充填板を具備した多量の遊離する電解液を備える始動用鉛蓄電池で評価を行った。
実施例19
表1に示すペースト状カーボン合剤中に亜鉛粉末を7.9重量部(Al換算で1重量部)添加した以外は、実施例18と同様に本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。この際の該複合キャパシタ負極板のカーボン合剤シートの気孔率は55%であった。次いで、この複合キャパシタ負極板を用い、実施例18と同様に5時間率が42Ahの始動用鉛蓄電池を組み立てた。
【0048】
実施例20
表1に示すペースト状カーボン合剤中に亜鉛粉末を23.7重量部(Al換算で3重量部)添加した以外は、実施例18と同様に本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。この際の該複合キャパシタ負極板のカーボン合剤シートの気孔率は62%であった。次いで、この複合キャパシタ負極板を用い、実施例18と同様に5時間率が42Ahの始動用鉛蓄電池を組み立てた。
【0049】
実施例21
表1に示すペースト状カーボン合剤中に亜鉛粉末を79重量部(Al換算で10重量部)添加した以外は、実施例18と同様に本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。この際の該複合キャパシタ負極板のカーボン合剤シートの気孔率は77%であった。次いで、この複合キャパシタ負極板を用い、実施例18と同様に5時間率が42Ahの始動用鉛蓄電池を組み立てた。
【0050】
実施例22
表1に示すペースト状カーボン合剤中に亜鉛粉末を157.8重量部(Al換算で20重量部)添加した以外は、実施例18と同様に本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。この際の該複合キャパシタ負極板のカーボン合剤シートの気孔率は88%であった。次いで、この複合キャパシタ負極板を用い、実施例18と同様に5時間率が42Ahの始動用鉛蓄電池を組み立てた。
【0051】
実施例23
表1に示すペースト状カーボン合剤中に亜鉛粉末を165.7重量部(Al換算で21重量部)添加した以外は、実施例18と同様に本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。この際の該複合キャパシタ負極板のカーボン合剤シートの気孔率は88%であった。次いで、この複合キャパシタ負極板を用い、実施例18と同様に5時間率が42Ahの始動用鉛蓄電池を組み立てた。
【0052】
実施例24
表1に示すペースト状カーボン合剤中にアルミニウム粉末を10重量部添加した以外は、実施例18と同様に本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。この際の該複合キャパシタ負極板のカーボン合剤シートの気孔率は77%であった。次いで、この複合キャパシタ負極板を用い、実施例18と同様に5時間率が42Ahの始動用鉛蓄電池を組み立てた。
【0053】
実施例25
表1に示すペースト状カーボン合剤中に樟脳粉末を11.1重量部(Al換算で10重量部)添加した以外は、実施例18と同様に本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。この際の該複合キャパシタ負極板のカーボン合剤シートの気孔率は77%であった。次いで、この複合キャパシタ負極板を用い、実施例18と同様に5時間率が42Ahの始動用鉛蓄電池を組み立てた。
【0054】
実施例26
表1に示すペースト状カーボン合剤中にナフタリン粉末を13.2重量部(Al換算で10重量部)添加した以外は、実施例18と同様に本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。この際の該複合キャパシタ負極板のカーボン合剤シートの気孔率は77%であった。次いで、この複合キャパシタ負極板を用い、実施例18と同様に5時間率が42Ahの始動用鉛蓄電池を組み立てた。
【0055】
実施例27
表1に示すペースト状カーボン合剤中に亜鉛粉末を79重量部(Al換算で10重量部)、アルミニウム粉末を10重量部夫々添加した以外は、実施例18と同様に本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。この際の該複合キャパシタ負極板のカーボン合剤シートの気孔率は86%であった。次いで、この複合キャパシタ負極板を用い、実施例18と同様に5時間率が42Ahの始動用鉛蓄電池を組み立てた。
【0056】
実施例28
表1に示すペースト状カーボン合剤中に樟脳粉末を11.1重量部(Al換算で10重量部)、アルミニウム粉末を10重量部夫々添加した以外は、実施例18と同様に本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。この際の該複合キャパシタ負極板のカーボン合剤シートの気孔率は86%であった。次いで、この複合キャパシタ負極板を用い、実施例18と同様に5時間率が42Ahの始動用鉛蓄電池を組み立てた。
【0057】
実施例29
表1に示すペースト状カーボン合剤中にナフタリン粉末を13.2重量部(Al換算で10重量部)、アルミニウム粉末を10重量部夫々添加した以外は、実施例18と同様に本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。この際の該複合キャパシタ負極板のカーボン合剤シートの気孔率は86%であった。次いで、この複合キャパシタ負極板を用い、実施例18と同様に5時間率が42Ahの始動用鉛蓄電池を組み立てた。
【0058】
実施例30
表1に示すペースト状カーボン合剤中に亜鉛粉末を26.3重量部(Al換算で3.33重量部)、樟脳粉末を3.7重量部(夫々Al換算で3.33重量部)、アルミニウム粉末を3.33重量部夫々添加した以外は、実施例18と同様に本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。この際の該複合キャパシタ負極板のカーボン合剤シートの気孔率は77%であった。次いで、この複合キャパシタ負極板を用い、実施例18と同様に5時間率が42Ahの始動用鉛蓄電池を組み立てた。
【0059】
実施例31
表1に示すペースト状カーボン合剤中に亜鉛粉末を26.3重量部(Al換算で3.33重量部)、ナフタリン粉末を4.4重量部(Al換算で3.33重量部)、アルミニウム粉末を3.33重量部夫々添加した以外は、実施例18と同様に本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。この際の該複合キャパシタ負極板のカーボン合剤シートの気孔率は77%であった。次いで、この複合キャパシタ負極板を用い、実施例18と同様に5時間率が42Ahの始動用鉛蓄電池を組み立てた。
【0060】
実施例32
表1に示すペースト状カーボン合剤中に亜鉛粉末を26.3重量部(Al換算で3.33重量部)、樟脳粉末を3.7重量部(Al換算で3.33重量部)、ナフタリン粉末を4.4重量部(Al換算で3.33重量部夫々添加した以外は、実施例18と同様に本発明の複合キャパシタ負極板を製造した。この際の該複合キャパシタ負極板のカーボン合剤シートの気孔率は77%であった。次いで、この複合キャパシタ負極板を用い、実施例18と同様に5時間率が42Ahの始動用鉛蓄電池を組み立てた。
【0061】
次に、上記実施例19〜32で製造した始動用鉛蓄電池を用いて、-15℃における低温急放電試験(JIS D 5031)を行い、5秒目電圧、30秒目電圧と放電持続時間を測定した。即ち、上記の各始動用鉛蓄電池を-15℃の恒温槽に入れて15時間放置し、その後210Aの電流でセル電圧が1.0Vに低下するまで放電を行い、5秒目電圧、30秒目電圧、放電の持続時間を測定した。その結果を下記表7に示す。
【0062】
【表7】

【0063】
表7から明らかな通り、本発明の実施例19〜32により製造した複合キャパシタ負極板を具備した始動用鉛蓄電池は比較例2により製造した複合キャパシタ負極板を具備した始動用鉛蓄電池に比べて著しく優れた低温放電特性を示す。これは、カーボン合剤中に造孔剤を添加することにより負極板表面への硫酸の供給が容易に行えるので、低温放電特性が向上したものと考えられる。
尚、従来の始動用鉛蓄電池では、複合キャパシタ負極板の負極板に塗着したカーボン合剤層は化成中のガス発生により剥離する問題があるので、ポリエチレンセパレータの表面に不織布を貼った複合セパレータで負極板を圧迫して剥離を防止する必要があった。これに対し、本発明によれば、負極板表面に全面密着した貼り付けたカーボン合剤シート自体が剥離防止の役割を果たすため、セパレータはポリエチレンセパレータのみで足りる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上のように本発明によれば、負極板の表面にカーボン合剤シートを被着された複合キャパシタ負極板は、性能改善と生産性向上に資することができ、この本発明の複合キャパシタ負極板を具備した鉛蓄電池は、その利用拡大が見込まれるPSOCで急速充放電を繰り返したり、低温下で使用されるハイブリッド自動車用途やアイドルストップ車用途、更には、風車や太陽光発電などの産業用に利用し、優れた性能と生産性を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する第1カーボン材料とキャパシタ容量及び/又は擬似キャパシタ容量を有する第2カーボン材料とから成る2種類のカーボン材料と少なくとも結着剤を混合して成るカーボン合剤で、負極板活物質充填板の表面を被覆して成る鉛蓄電池用複合キャパシタ負極板の製造法において、該カーボン合剤をシート状に形成して成るカーボン合剤シートを湿潤状態にある負極板活物質充填板の表面の少なくとも一部に圧着被覆せしめ、次いで乾燥することを特徴とする鉛蓄電池用複合キャパシタ負極板の製造法。
【請求項2】
該カーボン合剤を押出し成形法や塗工法によりシート状に形成することを特徴とする請求項1に記載の鉛蓄電池用複合キャパシタ負極板の製造法。
【請求項3】
カーボン合剤を該多孔質シートに保持せしめてシート状に形成することを特徴とする請求項1に記載の鉛蓄電池用複合キャパシタ負極板の製造法。
【請求項4】
該カーボン合剤をシート状に形成した後、プレスすることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の鉛蓄電池用複合キャパシタ負極板の製造法。
【請求項5】
該カーボン合剤に造孔剤を添加することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載の鉛蓄電池用複合キャパシタ負極板の製造法。
【請求項6】
該造孔剤は、亜鉛粉末、樟脳粉末、ナフタリン粉末及びアルミニウム粉末の群から選択された少なくとも1種のカーボン合剤に添加することを特徴とする請求項5に記載の鉛蓄電池用複合キャパシタ負極板の製造法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1つに記載の製造法により製造された複合キャパシタ負極板を具備したことを特徴とする鉛蓄電池。

【公開番号】特開2011−71110(P2011−71110A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186751(P2010−186751)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(000005382)古河電池株式会社 (314)
【出願人】(305039998)コモンウェルス サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ オーガニゼイション (92)
【Fターム(参考)】