説明

鉛蓄電池

【課題】蓄電池の極柱およびストラップ・座において、内部抵抗が低下しないという問題を解決し、且つ、内部抵抗を下げることにより座および極柱と座の溶接部での異状発熱を抑制し、軽量化が可能で高率放電特性に優れる鉛蓄電池を提供する。
【解決手段】極柱端子2とその下部に形成された座3と座に溶接された極板群のストラップ5とを有する鉛蓄電池において、これら極柱端子と座とは一体化された鉛または鉛合金より導電性に優れる金属がインサートされているもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池の特に極柱、端子、座およびストラップ部に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の鉛蓄電池は、電槽蓋上面に突出して端子部を形成する極柱端子とその下部に一体に形成された座と該座に溶接された極板群のストラップとを備えており、これらは全て鉛または鉛合金で形成されている。鉛蓄電池は、各種非常用電源、通信用電源のバックアップに広く使用されており、要求される放電特性も小電流から大電流とさまざまであり、それらを両立させた性能を有している。
【0003】
近年、小型情報機器の進歩や情報網の整備に伴い、社会全体が情報化され、コンピューター、通信機器などの電子機器を電源トラブルから守るために無停電電源装置(以下UPSと略する)の利用が拡大している。UPSに使用される電池の高出力化・軽量化の市場要求は高く、特に高率放電特性の向上が望まれている。
【0004】
しかし高率放電用途の鉛蓄電池において、電池の内部抵抗の影響により、効率放電時に電圧降下が増大して出力の低下が生じている。
【0005】
このような鉛蓄電池の問題を解決するため、内部抵抗を小さくし高率放電電圧を高くする試みがなされている。たとえば、鉛合金製の極柱端子部の形成時に、銅または銅合金製の芯金をインサートするもの(特許文献1)や、ストラップ内に鉛より導電性の良い金属を埋没するもの(特許文献2)等が知られている。このようにすることで、蓄電池の電気エネルギーを使用する関連電気機器を安定かつ安全に使用することができる。
【0006】
【特許文献1】特開平10−172535号公報
【特許文献2】特開平5−234581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これら上記に提案されている極柱端子のみやストラップのみ等、部分部分に導電性の良い金属をインサートする方法では十分に電気抵抗を下げることが出来ず、特に極柱端子とストラップとの間に座を備えるものにあっては、座の電気抵抗が無視できず、更なる改良が必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
極柱端子とその下部に形成された座と座に溶接された極板群のストラップとを有する鉛蓄電池において、これら極柱端子と座、更にはストラップに一体化され、且つ鉛または鉛合金より導電性に優れる金属がインサートされていることを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0009】
鉛合金より導電性に優れる金属を端子部から座、更にはストラップまで一体化してインサートすることで電気抵抗の少ない、従って電圧低下のより小さい鉛蓄電池を提供し得ると共に、軽量化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図1および図2を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0011】
本発明の特徴は、極柱端子とその下部に形成される座にインサートされる鉛または鉛合金より導電性の高い金属を一体化したインサート部材1に形成することにより、導電性および電池重量を改善しようとするものである。
【0012】
図1は、該インサート部材1の一実施形態に係る斜視図である。該インサート部材1は直立する円柱部11の上部に膨径部12を有し極柱端子にインサートされる部分、その下部の三角形状の平板部13は座にインサートされる部分で、鉛または鉛合金より導電性に優れる銅、真鍮或いはアルミニウム等により一体に形成される。円柱部11と平板部13を一体化するには、互いに形成された円柱部11と平板部13を溶接により一体化したり、切削加工により一体的に形成したりして得ることが出来る。図2は、上記インサート部材1に鋳型を用いて鉛または鉛合金でコーティングして極柱端子2と座3に形成したものである。なお、インサート部材1の円柱部11の上部膨径部12はコーティングせず、且つその上面には凹部14を形成し、その内面に螺子溝を形成している。なお、図2に示す実施形態では、座3の前面側面31に多数の突状32を形成したクローフット形としたものである。
【0013】
そして、この様に形成された極柱端子2と座3が一体になったものを常法により正負極板とセパレータを介して交互に積層して成る極板群にストラップを溶接する際、同時に該ストラップに接続され、その後極板群を電槽内に収納し、該電槽に電槽蓋を施し、その突出する極柱端子2を、電槽蓋を貫通して外部に導出して鉛蓄電池を得るものである。なお、極柱端子2の上面に形成された凹部14にはボルトを螺着して負荷または蓄電池間を接続する接続体を接続し使用に供されるものである。
【実施例1】
【0014】
図3は、一実施例の要部を示す部分斜視図である。図1や図2と同じ符号は同じ構成部材を示し、インサート部材1の円柱部11と平板部13は溶接により一体化し、鋳型を用いて鉛をコーティングした。そして正負極板とセパレータを介して互いに積層した極板群の正極板の25枚の耳4を互いに溶接してストラップ5を形成すると共に、該ストラップ5に座3を溶接したものである。これらストラップ5の溶接やこれに座3を溶接する方法は図示しないが周知のように、各耳4を先端が開口する多数のスリットを有する櫛歯状冶具の該スリット間に挿通し、この櫛歯状冶具のスリットの先端にスリットの先端開口を塞ぐ当て金を当て、該櫛歯状冶具と当て金により形成された凹所に溶融鉛を流し込むことに各耳を互いに溶接すると共にストラップ5が形成される。その際、当て金に座の収納凹部を形成してここに極柱端子2を一体とした座3を配置し、更に座3の前面側面31に多数形成した突状32を各耳4間に挿入し、上記凹所に流し込まれた溶融鉛によりストラップが形成と共に、座の溶接も同時に行うものである。なお、負極は26枚としその各耳にも同様にしてストラップが形成されると共に座が溶接されるものである。
【0015】
図4は、図3の上面図である。この図4に示す様に、座3内にインサートされた平板部13はストラップ5の幅の投影面には入らないようにしたものである。
【0016】
インサート部材1として銅を用いた。この銅は電気銅で比抵抗が1.73×10−8Ω・mであり、鉛(2.20×10−7Ω・m)の約1/13となっており鉛に比べ導電性に優れる材料である。また、鉛の密度は1.13×10kg/mであるのに対し、銅の密度は8.96×10kg/mとなっており鉛に比べ小さいので軽量化することができる。
【0017】
インサート部材1の平板部3のコーティングの厚さは1mm、円筒部2のコーティングの厚さは5mmとした。
【0018】
また、ストラップ5長側面をL1、インサート部材2の長側面をL2としたとき、L2の長さがL1の長さの30%〜95%の範囲にあることが好ましく、本実施例では65%とした。従来方法のように、極柱根元だけに金属をインサートする場合に比べ、ストラップ5全体に金属をインサートしたほうが、より抵抗を下げることが可能である。
【実施例2】
【0019】
実施例1において、インサートされる平板部13を図5に示す様にストラップの5の投影面にはいるまで伸ばして、ストラップ5にも銅からなるインサート部材1が存する様にした以外は実施例1と同様にして鉛蓄電池を得た。ストラップは長側面に直行する断面において、インサート部材の占める割合を5%以上とすることで、より顕著な効果を得ることができる。
【実施例3】
【0020】
実施例2において、インサートされる平板部13に、図6に示す様に突状15を形成した以外は実施例2と同様にして鉛蓄電池を得た。なお、突状15は座3の突状32内にまで伸びる長さとした。
【0021】
(従来例)
従来品として、インサート部材は極柱端子にのみ実施例1の円柱部をインサートし、座やストラップにインサート部材を用いない以外は実施例1と同様にして鉛蓄電池を得た。
上記各実施例および従来例に記載される鉛蓄電池の容量はいずれも1000Ahである。
【0022】
図7は、上記方法により作製した4種類(従来品、実施例1〜3)の鉛蓄電池1000Ah/2Vの高率放電試験を行った結果を示したものである。高率放電試験の試験条件は、放電電流1C(1000A)、放電終止電圧を1.6V/セルとした。図4に示すように、本発明品は従来品に比し、放電中の放電電圧が上昇し高率放電特性に優れていることが確認できる。
【0023】
以上、本発明品では従来品に比べ導電性に優れ軽量化も可能であり、且つ高率放電性能に優れた鉛蓄電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】インサート部材の一実施形態に係る斜視図。
【図2】インサート部材を鉛または鉛合金でコーティングした斜視図。
【図3】一実施例の要部を示す部分斜視図。
【図4】実施例1における要部を示す部分の上面図。
【図5】実施例2における要部を示す部分の上面図。
【図6】実施例3におけるインサート部材の斜視図。
【図7】発明品と従来品との高率放電特性図。
【符号の説明】
【0025】
1 インサート部材
11 円柱部
13 平板部
15 突状
2 極柱端子
3 座
31 前面側面
32 突状
4 耳
5 ストラップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極柱端子とその下部に形成された座と座に溶接された極板群のストラップとを有する鉛蓄電池において、これら極柱端子と座に一体化され、且つ鉛または鉛合金より導電性に優れる金属がインサートされていることを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項2】
インサートされている金属は、ストラップ部にも達することを特徴とする請求項1記載の鉛蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−210235(P2006−210235A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−22889(P2005−22889)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(000005382)古河電池株式会社 (314)
【Fターム(参考)】