説明

鉱物含有溶鋼脱硫フラックス

【課題】CaF2を含まなくても脱硫能力の高い脱硫フラックスを提供する。
【解決手段】霞石及び霞石閃長岩の1種又は2種を5〜40質量%含み、不可避的成分を除く残部がCaO及びAl23からなり、かつ、下記式で定義する配合指標Zが1.4〜2.5であることを特徴とする鉱物含有溶鋼脱硫フラックス。
配合指標Z=[CaO]/([Al23]+0.55・[NE])
ここで、[CaO]は、CaOの質量%、[Al23は、Al23]の質量%、[NE]は、霞石及び霞石閃長岩の1種又は2種の質量%。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高級清浄鋼の溶製時に用いるフラックス、詳しくは、鋼製造時の転炉工程後の二次精錬工程、又は、電気炉で脱硫を行なうために使用するフラックスに関するものである。ここで、フラックスとは、溶鉄と反応して不純物を除く機能を持つ化合物集合体の総称である。
【背景技術】
【0002】
高強度の厚板材や高強度のラインパイプ、特に、高度な耐サワーガス特性を求められるラインパイプ用鋼、さらに、加工性の良好な高張力薄板用鋼等においては、鋼の不純物としてのSの濃度を極力低減することが望まれている。このため、鋼製造時の転炉工程後の二次精錬工程、又は、電気炉還元期に、溶鋼の脱硫を行っている。
【0003】
溶鋼の脱硫には、主に、CaO系の脱硫フラックスを使用するが、CaO単独では、融点が2500℃と高く、二次精錬工程での処理温度1550〜1650℃で、脱硫剤が溶融せず、脱硫効率は低い。
【0004】
そこで、通常、CaOにCaF2を配合し、脱硫剤の融点を降下させ、脱硫効率を上げた脱硫フラックスを用いる。しかし、CaF2を含む脱硫フラックスは、反応性が高く、精錬容器の耐火物を溶損させ易いので、耐火物の寿命が短くなるという問題がある。
【0005】
また、精錬後のスラグは、一般に、道路路盤材等に使用されているが、CaF2を含むフラックスで脱硫した後のスラグのCaF2濃度が高いと、Fが溶出して、環境へ悪影響を及ぼす恐れがあるので、スラグ成分の管理の厳格化・強化や、用途の制限という問題がある。
【0006】
CaF2を含まない脱硫フラックスとして、例えば、特許文献1には、CaO、Al23、MgO等の配合比を規定した脱硫フラックスが提案されている。
【0007】
この脱硫フラックスは、CaO/Al23を0.7〜1.6とし、二次精錬工程の処理温度1550〜1650℃で溶融状態であるようにし、かつ、その融点を上げない範囲で、耐火物保護のために、MgOを添加したものである。
【0008】
このような組成のフラックスは、確かに、融点が低下し、上記処理温度で溶融状態になるが、本発明者らの実験によれば、脱硫効率は、必ずしも良好でない。
【0009】
また、特許文献2には、CaO、MgO、SiO2、Al23等の配合比を規定し、さらに、融点を1300〜1600℃に規定した溶鋼の脱硫剤が提案されている。しかし、溶鋼1トン当たり20kgもの脱硫剤を上置投入しなければならず、脱硫効率は、必ずしも良好でない。
【0010】
特許文献3には、Mgを主成分とし、Mgの気化を抑制するため熱吸収化合物で被覆した脱硫剤が提案されている。特許文献3には、スラグの流動性を高めるため、鉱物を含む改良剤を脱硫剤に添加することが提案されているが、改良剤添加による具体的効果は記載されていない。
【0011】
非特許文献1には、CaO−Al23系のフラックスに霞石閃長岩(鉱物の一つ)を添加したフラックスの脱硫速度を調査した結果が開示されている。霞石閃長岩の添加でCaF2並みの脱硫速度が得られているが、炭素飽和Fe−C−S合金で、かつ、脱硫温度が1400℃であるので、溶鋼の脱硫とは条件が大きく異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭61−106706号公報
【特許文献2】特開2002−060832号公報
【特許文献3】特開2001−355013号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】長谷川ら、材料とプロセス、vol.16(2003)、P.1054
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前述のように、CaF2の代りに、Al23、MgO、SiO2等を配合し、二次精錬工程の処理温度で溶融状態となる溶鋼の脱硫フラックスは、これまで、いくつも提案されている。しかし、高級清浄鋼を溶製するとき、必ずしも良好な脱硫効率が得られていないのが実情である。そこで、本発明は、この実情に鑑み、CaF2を含まなくても脱硫能力の高い脱硫フラックスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、その要旨は以下の通りである。
【0016】
(1)霞石及び霞石閃長岩の1種又は2種を5〜40質量%含み、不可避的成分を除く残部がCaO及びAl23からなり、かつ、下記式で定義する配合指標Zが1.4〜2.5であることを特徴とする鉱物含有溶鋼脱硫フラックス。
配合指標Z=[CaO]/([Al23]+0.55・[NE])
ここで、[CaO]は、CaOの質量%、[Al23]は、Al23の質量%、[NE]は、霞石及び霞石閃長岩の1種又は2種の質量%。
【0017】
(2)前記残部が、MgOを1〜10質量%含むことを特徴とする前記(1)に記載の鉱物含有溶鋼脱硫フラックス。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、耐火物の溶損や、脱硫スラグ中からのFの溶出による環境への悪影響を引き起こすことなく、S濃度が極めて低い高級清浄鋼を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】脱硫フラックスの配合指標Zと脱硫効率(脱硫速度定数)の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明者らは、CaF2の代りに、これまで、溶鋼の脱硫材の素材として用いられていない霞石と霞石閃長岩を用いることを検討した。
【0021】
その理由は、(i)霞石及び霞石閃長岩の融点が1400℃前後であり、CaF2の融点1423℃よりも低い、さらに、(ii)霞石及び霞石閃長岩には、SiO2やAl23の他に、Na2OやK2Oが含まれていて、一般に、Na2OやK2Oを含む脱硫フラックスは、脱硫効率が高い、といわれているからである。
【0022】
霞石や霞石閃長岩を含む脱硫フラックスは提案されているが(非特許文献1、参照)、脱硫の対象は、銑鉄又は炭素濃度の高い鉄であり、一般的な溶銑精錬の温度である1300〜1450℃における脱硫へ適用できるとして、特定の濃度が提案されているに過ぎない。
【0023】
脱硫は、脱硫フラックスの反応特性や融点により、温度の影響が非常に大きく現れる。したがって、霞石や霞石閃長岩を配合した脱硫フラックスを、1600℃の高温で行う溶鋼脱硫に用いるためには、霞石及び/又は霞石閃長岩を配合する基準として、新たな指標を導入する必要がある。
【0024】
そこで、本発明者らは、新たな指標の作成について検討した。霞石及び/又は霞石閃長岩を、フラックス成分として用いる理由のひとつは、前述したように、フラックスの融点を適正に下げることである。
【0025】
通常、CaOを基材とするフラックスにAl23やSiO2を配合すると、フラックスの融点が低下する。霞石及び霞石閃長岩の主成分はSiO2とAl23であるので、本発明者らは、CaOに対するAl23とSiO2の濃度当たりの融点降下量に着目した。
【0026】
そして、融点降下量について、CaO−Al23二元系状態図、及び、CaO−SiO2二元系状態図における液相線の温度変化から概略見積もったところ、SiO2添加の場合の融点降下量は、Al23添加の場合の融点降下量に比べ、約半分であることが解った。
【0027】
ここで、表1に、霞石及び霞石閃長岩の典型的な成分組成を示す。
【0028】
【表1】

【0029】
Al23とSiO2に着目し、Al23をCaOに添加する場合の濃度当たりの融点降下量に比べると、霞石添加による濃度当たりの融点降下量は、Al23による寄与度が0.35で、SiO2による寄与度が0.4×1/2であり、足して、0.55であることが解る。
【0030】
同様の検討を、霞石閃長岩について行なうと、Al23による寄与度が0.25で、SiO2による寄与度が0.6×1/2であり、足して、同じく、0.55であることが解る。
【0031】
したがって、CaOに、霞石又は霞石閃長岩を配合した時の融点降下量は、Al23を配合したときの融点降下量の0.55倍であると見積もることができる。この見積りを根拠にして、以下の配合指標Zを定義した。
【0032】
配合指標Z=[CaO]/([Al23]+0.55・[NE])
ここで、[CaO]は、CaOの質量%、[Al23]は、Al23の質量%、[NE]は、霞石及び霞石閃長岩の1種又は2種の質量%である。
【0033】
次に、配合指標Zを用いて、溶鋼脱硫に最適な組成範囲を、実機を模擬する実験室規模の実験で求めた。実験では、霞石を用い、霞石の濃度(質量%)を変えながら、配合指標Zを変化させて、フラックスの脱硫挙動を調査した。
【0034】
実験条件は、以下の通りである。
溶解炉:抵抗溶解炉、溶鋼量18kg、温度1600℃
実験手順:溶解−成分調整−Al脱酸−脱硫−冷却
脱硫方法:脱硫フラックス粉体を、耐火物製のパイプで、溶鋼中に噴射
脱硫フラックスの組成:CaO−Al23−霞石系において、霞石の濃度(質量%)を 変化。配合指標Zを変化。
【0035】
図1に、実験結果を示す。右枠に、霞石(NE)の濃度(質量%)を示す。図1中、縦軸の脱硫速度定数Aは、以下のように定義した。
脱硫速度定数A=−ln(終点S濃度/初期S濃度)/時間
ここで、時間=15分である。
【0036】
実プロセスでの脱硫は、鋼の生産性向上の観点から、できるだけ短時間で行ないたいので、今回の実験での脱硫速度定数Aは、脱硫開始後15分までの値とした。
【0037】
図1に示す結果から、脱硫反応が良好に進行したと考えられる脱硫速度定数Aが0.1以上の領域は、配合指標Z=1.4〜2.5の範囲内にあることが解る。配合指標Z=1.7〜2.3の範囲では、脱硫速度定数Aが0.12以上であるので、配合指標Zは、1.7〜2.3が好ましい。
【0038】
配合指標Zが1.4〜2.5の範囲内にあっても、霞石が5%未満(図中、白丸、参照)、又は、40%超(図中、黒四角と黒三角、参照)であると、脱硫速度定数Aは0.1未満であり、脱硫結果は良好でないことが解る。
【0039】
即ち、配合指標Zと霞石の濃度(質量%)を組み合わせて、脱硫フラックスの組成を決定すれば、溶鋼処理温度で脱硫が良好に進行する脱硫フラックスを得ることができることが判明した。このことが、本発明の基礎をなす知見である。
【0040】
なお、霞石閃長岩を使用する場合も、配合指標において同じ係数を用いるので、同じ配合指数範囲でよいと考えられるので、霞石閃長岩については、実験室規模の実験は行わず、後述するように、実機試験で脱硫挙動を検証した。
【0041】
即ち、本発明は、霞石及び霞石閃長岩の1種又は2種を5〜40質量%含み、不可避的成分を除く残部がCaO及びAl23からなり、かつ、下記式で定義する配合指標Zが1.4〜2.5であることを特徴とする鉱物含有溶鋼脱硫フラックス。
配合指標Z=[CaO]/([Al23]+0.55・[NE])
ここで、[CaO]は、CaOの質量%、[Al23]は、Al23の質量%、[NE]は、霞石及び霞石閃長岩の1種又は2種の質量%である。
【0042】
以下、本発明の構成について説明する。まず、脱硫フラックスの構成成分として、CaO、Al23、及び、霞石及び霞石閃長岩の1種又は2種を選択した理由は、以下の通りである。
【0043】
一般に、鋼の脱硫は、鋼中のSが、フラックス中CaOと反応して、CaSの形で固定されることで進行するので、CaOは、鋼の脱硫を行なううえで、必須の酸化物である。
【0044】
霞石及び/又は霞石閃長岩を選んだのは、霞石及び/又は霞石閃長岩は、(i)CaO系フラックスの融点を降下させる作用を有し、かつ、(ii)霞石及び霞石閃長岩に含まれるNa2OやK2Oが、CaOと同様に、Sを固定する作用を有するからである。
【0045】
Al23を選択したのは、同様に、Al23が、CaO系フラックスの融点を下げる作用を有するからである。また、溶鋼を脱硫する前には、酸素濃度を下げるため、Al脱酸を行なうので、溶鋼中にAl23が生成し、必然的に、脱硫フラックス中のAl23濃度が上昇し、かつ、ばらつきが大きくなるが、Al23濃度の上昇及び/又はばらつきを、脱硫フラックス中に、Al23を予め添加することにより抑制するためである。
【0046】
次に、配合指標Zの根拠及び範囲について説明する。
【0047】
霞石及び/又は霞石閃長岩を用いる理由のひとつは、前述したように、脱硫フラックスの融点を適正に下げることである。
【0048】
霞石及び霞石閃長岩の主成分は、SiO2とAl23であるので、CaOに対するAl23とSiO2の濃度当たりの融点降下量に着目し、CaO−Al23二元系状態図、及び、CaO−SiO2二元系状態図における液相線の温度変化から概略見積もり、SiO2添加の場合は、Al23添加の場合に比べ、約半分の融点降下量であるとの知見を得た。
【0049】
次に、霞石及び霞石閃長岩の代表的な成分組成において、Al23とSiO2の二つの成分に着目した場合、Al23をCaOに添加する場合における濃度当たり融点降下量に比べて、霞石添加による濃度当たりの融点降下量は、Al23による寄与度が0.35で、SiO2による寄与度が0.4×1/2、即ち、足して0.55であることが解った。
【0050】
同様の検討を、霞石閃長岩について行なうと、Al23による寄与度が、0.25で、SiO2による寄与度が、0.6×1/2、即ち、足して0.55と同じ値であることが解った。
【0051】
したがって、CaOに、霞石及び/又は霞石閃長岩を配合したときの融点降下量は、Al23を配合したときの融点降下量の0.55倍と、概略見積ることができる。この結果に基づいて、以下の配合指標Zを定義した。
【0052】
配合指標Z=[CaO]/([Al23]+0.55・[NE])
ここで、[CaO]は、CaOの質量%、[Al23]は、Al23の質量%、[NE]は、霞石及び霞石閃長岩の1種又は2種の質量%。
【0053】
配合指標Zの適正範囲は、図1に示す結果に基づいて、脱硫反応が良好に進行したと考えられる脱硫速度定数Aが0.1以上の範囲1.4〜2.5とした。前述の検討によれば、霞石と霞石閃長岩の作用効果の程度は同じであるといえるので、霞石又は霞石閃長岩を単独で用いる以外に、霞石と霞石閃長岩を併用する場合も、配合指標Zを適用することができる。
【0054】
霞石及び霞石閃長岩の1種又は2種を5〜40質量%と規定した理由は、同じく、図1に示す結果より、配合指標が1.4〜2.5の範囲内にあっても、霞石が5%未満又は40%超であると、脱硫速度定数Aが0.1未満であり、良好な脱硫結果が得られていないからである。霞石及び霞石閃長岩の1種又は2種は、10〜30質量%が好ましい。
【0055】
本発明では、霞石及び霞石閃長岩の1種又は2種を用いるが、霞石及び霞石閃長岩に代え、又は、霞石及び霞石閃長岩とともに、霞石及び霞石閃長岩と類似の成分組成を有する鉱物を使用してもよい。例えば、準長石閃長岩、カリ霞石、白榴石等を使用することができる。
【0056】
MgOを1〜10質量%と規定した理由は、以下の通りである。一般に、MgOは耐火物の構成元素であり、脱硫フラックスによる溶損を抑制する目的で、配合する場合が多い。配合量が1質量%未満であると、充分な耐火物溶損抑制効果が得られないので、下限を1質量%とした。MgOが10質量%を超えると、脱硫フラックスの融点が上昇し、霞石及び/又は霞石閃長岩の配合効果がでないので、上限を、10質量%とした。
【0057】
脱硫フラックスの製造は、例えば、次のようにして行う。構成酸化物の粉体を所定量混合し、使用方法に応じて粒度調整を行なう。霞石及び/又は霞石閃長岩を含む酸化物成分の一部又は全部を混合して、予め、溶融又は焼結し、冷却、粉砕した後に、必要に応じて、所定の成分組成に調整してもよい。
【0058】
脱硫フラックスは、溶鋼に接したときに、所定の成分組成になっていればよいので、例えば、溶鋼の上部に脱硫フラックスを添加する際に、構成成分の一部を、予め混合せずに、他の構成成分と別に添加し、溶鋼上で、所定の成分組成になるようにしてもよい。
【0059】
本発明の脱硫フラックスを用いて溶鋼脱硫を行なうことにより、脱硫スラグからFが溶出するという問題を引き起こすことなく、S濃度が非常に低い高級清浄鋼を製造することが可能となる。
【0060】
本発明は、転炉後の二次精錬工程における溶鋼脱硫や、電気炉還元期における溶鋼脱硫に適用することができる。転炉工程後の二次精錬工程としては、例えば、RH真空脱ガス精錬やLFという電極加熱式の取鍋精錬があげられる。また、電気炉プロセスにおいては、電気炉内での脱硫や、電気炉出鋼中又は出鋼後の炉外精錬工程にも適用可能である。
【0061】
脱硫材の添加方法としては、溶鋼に浸漬したノズルから粉体を溶鋼中に吹き込む噴射法や、ランスを用いた溶鋼表面への粉体吹付け、又は、溶鋼表面に、上方から粗粒の状態で添加する方法等、粉体又は粒の大きな脱硫フラックスを供給する設備であれば、どのような設備でも構わない。
【実施例】
【0062】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0063】
(実施例)
実機試験として、400t容量の転炉を用いて溶製した溶鋼を、RH真空脱ガス装置を用いて脱硫した。その後、溶鋼からサンプルを採取し、溶鋼中のS濃度を分析した。表2に、鋼の成分組成を示す。
【0064】
【表2】

【0065】
実機試験条件は、以下の通りである。
RH真空脱ガス装置:取鍋溶量400t、溶鋼温度1610℃
脱硫方法:吹込みランスで、溶鋼内に吹き込む、ランスによる溶鋼表面への吹付け、又 は、上方から溶鋼表面への粗粒の添加
フラックス原単位:4kg/t(一定)
【0066】
表3に、実機試験の水準を示し、表4に、実機試験の結果を示す。
【0067】
【表3】

【0068】
【表4】

【0069】
ここで、配合指標Zは、以下の式に基づく。
配合指標Z=[CaO]/([Al23]+0.55・[NE])
[CaO]は、CaOの質量%、[Al23]は、Al23の質量%、[NE]は、霞石及び霞石閃長岩の1種又は2種の質量%。
【0070】
脱硫率は、((脱硫前のS濃度−脱硫後のS濃度)/脱硫前のS濃度)×100で定義した。水準1〜6は、本発明の条件を満たす発明例である。S濃度が十分に下がり、脱硫効率78%以上の高い値を得ることができた。
【0071】
水準13の比較例に示す60質量%CaO−40質量%CaF2系脱硫フラックス、即ち、F入りの脱硫フラックスの脱硫率が80%であることから、本発明によれば、Fなしでも、F入り並みの脱硫率を得ることができることが解る。
【0072】
一方、水準7〜12の比較例においては、脱硫効率が72%以下の低い値となった。これは、水準7では、霞石の濃度が高すぎ、水準8では、霞石の濃度が低すぎ、水準9では、配合指標が低すぎ、水準10では、霞石閃長岩の濃度が高すぎ、かつ、配合指標Zが低すぎ、水準11では、霞石の濃度が高すぎ、水準12では、配合指標が高すぎ、かつ、MgO濃度が高すぎて、本発明の条件を満たさないことが原因である。
【0073】
水準13は、F入りの脱硫フラックスを使用した比較例である。脱硫率は80%と高いが、耐火物の溶損が激しく、また、環境上の問題で、スラグを再利用することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
前述したように、本発明によれば、耐火物の溶損や、脱硫スラグ中からのFの溶出による環境への悪影響を引き起こすことなく、S濃度が極めて低い高級清浄鋼を提供することが可能となる。よって、本発明は、鉄鋼産業において高級清浄鋼を製造する技術として利用可能性が高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
霞石及び霞石閃長岩の1種又は2種を5〜40質量%含み、不可避的成分を除く残部がCaO及びAl23からなり、かつ、下記式で定義する配合指標Zが1.4〜2.5であることを特徴とする鉱物含有溶鋼脱硫フラックス。
配合指標Z=[CaO]/([Al23]+0.55・[NE])
ここで、[CaO]は、CaOの質量%、[Al23]は、Al23の質量%、[NE]は、霞石及び霞石閃長岩の1種又は2種の質量%。
【請求項2】
前記残部が、MgOを1〜10質量%含むことを特徴とする請求項1に記載の鉱物含有溶鋼脱硫フラックス。

【図1】
image rotate