説明

銀、アルミニウム付活硫化亜鉛蛍光体、及びこれを用いた画像表示装置

【課題】 高い電流密度で長時間励起されても色感と輝度を損なうことなく画像表示が可能な蛍光体を得る。
【解決手段】
5ないし15kVのアノード電圧を印加される蛍光面に用いられ、母体として硫化亜鉛化合物、付活剤として10〜50ppmの銀、500〜1000ppmのアルミニウムを含有し、六方晶系結晶構造を有し、かつ色度座標のy値が0.05〜0.06である銀、アルミニウム付活硫化亜鉛蛍光体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀、アルミニウム付活硫化亜鉛蛍光体及びこれを用いた画像表示装置に係り、さらに詳しくは、真空外囲器内で、多数の電子源と、この多数の電子源から放出される電子線の照射により画像を形成する蛍光面に適用される銀、アルミニウム付活硫化亜鉛蛍光体、及びこの蛍光体を含む蛍光面を備えた画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代の画像表示装置として、電子源である電子放出素子を多数並べ、蛍光面と対向配置させた平面型画像表示装置の開発が進められている。電子放出素子には様々な種類があるが、いずれも基本的には電界放出を用いており、これらの電子放出素子を用いた表示装置は、一般に、フィールド・エミッション・ディスプレイ(以下、FEDと称する)と呼ばれている。FEDの内、表面伝導型電子放出素子を用いた表示装置は、表面伝導型電子放出ディスプレイ(以下、SEDと称する)とも呼ばれているが、本願においてはSEDも含む総称としてFEDという用語を用いる。
【0003】
FEDは、一般に、所定の隙間を置いて対向配置された前面基板および背面基板を有し、これらの基板は、矩形枠状の側壁を介して周縁部同士を互いに接合することにより真空外囲器を構成している。真空容器の内部は、真空度が10-4Pa程度以下の高真空に維持されている。また、背面基板および前面基板に加わる大気圧荷重を支えるために、これらの基板の間には複数の支持部材が配設されている。
【0004】
前面基板(フェースプレート)は、その内面に赤、青、緑の蛍光体層を含む蛍光面及び蛍光面上にメタルバック層が形成され、背面基板(リアプレート)の内面には、蛍光体を励起して発光させる電子を放出する多数の電子放出素子が設けられている。また、多数の走査線および信号線がマトリックス状に形成され、各電子放出素子に接続されている。
【0005】
蛍光面にはアノード電圧が印加され、電子放出素子から出た電子ビームがアノード電圧により加速されて蛍光面に衝突することにより、蛍光体が発光し、映像が表示される。
【0006】
このようなFEDでは、前面基板と背面基板との隙間を数mm以下に設定することができ、現在のテレビやコンピュータのディスプレイとして使用されている陰極線管(CRT)と比較して、軽量化、薄型化を達成することができる。
【0007】
上記のように構成されたFEDにおいて、実用的な表示特性を得るためには、通常の陰極線管と同様の蛍光体を用い、更に、蛍光体層の上にメタルバック層と呼ばれるアルミ薄膜を形成した蛍光面を用いることが必要となる。この場合、蛍光面に印加するアノード電圧は最低でも数kV、できれば10kV以上の高電圧にすることが望まれる。
【0008】
電子線で青色に発光する蛍光体、銀付活硫化亜鉛(ZnS;Ag)蛍光体はカラーブラウン管の青色組成に広く用いられて来た。この蛍光体は焼結温度1020℃近辺を境にして低温型の立方晶系結晶構造を有するZnS;Agと高温型の六方晶系結晶構造を有するZnS;Agの2種類が存在する。
【0009】
カラーブラウン管などに広く用いられてきたのは低温型の立方晶系ZnS;Ag蛍光体である。高温型の六方晶系ZnS;Ag蛍光体と低温型の立方晶系ZnS;Ag蛍光体は電子線励起でほぼ互角の発光エネルギー強度を示すが、エネルギー分布の点で六方晶系ZnS;Ag蛍光体は435nmにピークを持った紫色発光に対して立方晶系ZnS;Ag蛍光体は450nmにピークを持った青色であり、この色感と輝度の点で好まれて立方晶系ZnS;Ag蛍光体が広く用いられてきた。
【0010】
しかしながら、上記SEDに使用する場合は、高い電流密度で蛍光体が長時間励起されるため、立方晶系ZnS;Ag蛍光体の劣化が進行し易いという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、高い電流密度で蛍光面が長時間励起されても色感と輝度を損なうことなく画像表示が可能な蛍光体及び画像表示装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の銀、アルミニウム付活硫化亜鉛蛍光体は、画像表示時に、5ないし15kVのアノード電圧が印加される蛍光面に用いられる蛍光体であって、
母体として硫化亜鉛化合物、付活剤として10〜50ppmの銀、500〜1000ppmのアルミニウムを含有し、六方晶系結晶構造を有し、かつ色度座標のy値が0.05〜0.06であることを特徴とする。
【0013】
本発明の画像表示装置は、フェースプレートと、該フェースプレートに対向して配置された電子源と、該フェースプレートの両主面のうち該電子源側の主面上に形成され、5ないし15kVのアノード電圧が印加され、該電子源から放出される電子線により発光する、母体として硫化亜鉛化合物、付活剤として10〜50ppmの銀、500〜1000ppmのアルミニウムを含有し、六方晶系結晶構造を有し、かつ色度座標のy値が0.05〜0.06である銀、アルミニウム付活硫化亜鉛蛍光体を含有する蛍光体層を含む蛍光面を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、六方晶系ZnS;Ag蛍光体の電子線耐劣化に有利な特性を維持しながら、その紫色発光色を、立方晶系ZnS;Ag蛍光体の青色発光色に近い青色に変更させ蛍光体が得られ、これにより、高い電流密度で蛍光面が長時間励起されても色感と輝度を損なうことなく画像表示が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明者らは、SEDに適用した場合でも、良好な青色発光を示し、低温型の立方晶系ZnS;Ag蛍光体よりも電子線劣化が起こりにくい青色発光蛍光体を提供すべく、鋭意研究を行い、まず、高温型の六方晶系ZnS;Ag蛍光体が低温型の立方晶系ZnS;Ag蛍光体より電子線劣化しにくいことに着目した。さらに、本発明者らは、この高温型の六方晶系ZnSを使用して、付活剤としてAgとAlを添加し、その配合比をいろいろ変化させて発光強度とエネルギー分布を調査した結果、特定範囲において発光強度を落とす事なく、そのエネルギー分布を六方晶系ZnS;Agから立方晶系ZnS;Agへ近づける事が可能であることを見出し、本発明をなすに至った。
【0016】
本発明の蛍光体は、画像表示の際に、5ないし15kVのアノード電圧を印加される蛍光面に適用され、母体として硫化亜鉛化合物、付活剤として銀及びアルミニウムを含むZnS;Ag,Al蛍光体であって、Agの濃度が10〜50ppm、Alの濃度が500〜1000ppmであり、六方晶系結晶構造を有し、かつ色度座標のy値が0.05〜0.06である。
【0017】
また、本発明の画像表示装置は、フェースプレートと、フェースプレートに対向して配置された複数の電子源と、フェースプレートの両主面のうち電子源側の主面上に形成され、電子源から放出される電子線により発光する蛍光体層を含む蛍光面を具備し、蛍光面は5ないし15kVのアノード電圧が印加され、蛍光体層は上記ZnS;Ag,Al蛍光体を含む。
【0018】
本発明によれば、六方晶結晶構造を有する硫化亜鉛化合物に銀を導入する際に、荷電補償としてアルミニウムをさらに添加することにより、その発光色を六方晶系ZnS;Ag蛍光体の紫色発光色よりも立方晶系ZnS;Ag蛍光体の青色発光色に近い青色に変化させることができる。このとき、Agの濃度を10〜50ppm、Alの濃度を500〜1000ppmであり、六方晶系ZnS;Ag蛍光体の紫色発光色の色度座標のy値は、0.038、立方晶系ZnS;Ag蛍光体の青色発光色は0.065であるのに対し、本発明の蛍光体では、その色度座標のy値を、立方晶系ZnS;Ag蛍光体の青色発光色により近い0.05〜0.06とすることができる。
【0019】
以下のようにして蛍光体を製造し、AgとAlの配合比に対する、色度座標のy値、及び発光強度を調べた。
【0020】
実験1
付活剤Ag濃度と発光輝度(Y)、色度(y)、発光強度(E)との関係について
まず、六方晶系ZnS;Ag蛍光体は高純度のZnS粉末に硝酸銀の溶液と硝酸アルミニウムの溶液を加えて純水でペースト状に混合した。硝酸銀と硝酸アルミニウムの添加量はZnS粉末に対してAg換算量およびAl換算量として各々数十ないし数千ppmの範囲で変化させて、複数のペースト状混合物を作成した。
【0021】
各ペースト状混合物を120℃で10時間ほど乾燥した。
【0022】
乾燥した粉末に硫黄粉末を3%相当加えて混合し、石英ルツボに入れ上部に活性炭を
入れて石英で蓋をして、電気炉内で1150℃で、約60分焼成した。冷却後、上部の活性炭を取り除き、内部の蛍光体を取り出した。純水で洗浄し、必要に応じてミリング分散やシリカコートを施して乾燥すると、粉末の蛍光体が得られた。同様にして各ペースト状混合物から蛍光体を作成した。
【0023】
得られた各蛍光体粉末を真空チャンバー内で10kv,1μA/cm2の走査電子線で励起し、その発光輝度(Y)及び色度値(y)各々測定し、評価した。
【0024】
また、発光強度(刺激強度)EをE=Y/yにより求めた。
【0025】
本発明では、ZnSの結晶にAgを導入させるためにAlを荷電補償として用いる。
【0026】
Agの添加量ppmとAlの添加量ppmを常に同一にするとAg/Al=4であり
荷電補償として1原子Agに対し4原子Alが存在するので、Alの量は充分である。
【0027】
付活剤濃度と発光特性との関係を表1に示す。
【表1】

【0028】
上記表中、発光強度Eのかっこ内は、Ag換算量およびAl換算量が各々500ppmである場合を100とした場合の比較値である。
【0029】
表1から明らかなように、Ag濃度500〜800ppmの範囲に発光強度のピークがあることがわかった。また、これらの蛍光体の発光色を表すy値は、立方晶系ZnS;Ag蛍光体のy値0.065(青色)に対し、典型的な六方晶系ZnS;Ag蛍光体のy値0.038(紫色)付近の値0.037ないし0.041であった。
【0030】
実験2
活性剤Agを添加しない場合のAl濃度と発光強度との関係
活性剤Agを添加しないこと以外は、実験1と同様にして複数の蛍光体を作成し、その発光輝度(Y)、色度値(y)を各々測定し、発光強度(刺激強度)Eを求めた。
【0031】
Alの濃度と発光特性との関係を表2に示す。
【表2】

【0032】
ZnSの結晶にAlのみを添加し、分光分布を測定したところ、450nmにピークを持つエネルギー分布が観察された。これは立方晶系ZnS;Ag蛍光体の発光とほぼ同じである。
【0033】
上記表2から明らかなように、Al濃度を増加させると発光強度は増加し、Al濃度800ppm近辺で飽和していた。この発光は六方晶系ZnS結晶の自己付活発光(self-activated luminescence)と解釈される。
【0034】
Al濃度800ppmで自己付活発光は最大となっていた。Al濃度と発光強度Eの比較値との関係を表すグラフ図を、図1に示す。
【0035】
自己付活の発光を充分行わせるためには、Al濃度は500〜1000ppmが必要であることがわかった。一方、500ppm未満であると、発光輝度及び発光強度が不十分であった。
【0036】
実験3
六方晶系ZnS結晶の自己付活発光に対するAg添加の効果
Al濃度を、上記表2に示すように六方晶系ZnS結晶の自己付活の発光が最大となった800ppmに固定し、付活剤Agを変化させること以外は実験1と同様にして複数の蛍光体を作成した。その発光輝度(Y)、色度値(y)を各々測定し、発光強度(刺激強度)Eを求めた。
【0037】
得られた結果を下記表3に示す。
【表3】

【0038】
表3から明らかなように、付活剤Agを10〜50ppm添加した場合に、Agの発光と自己付活の発光との合計強度は顕著に増大し、且つ発光色は六方晶系ZnS;Agの紫色(y=0.038)と立方晶系ZnS;Agの青色(y=0.065)との中間領域(y=0.051ないし0.60)を保持していた。
【0039】
以上の結果から、六方晶系ZnS結晶構造で発光強度を低下させることなく発光色を六方晶系ZnS;Agと立方晶系ZnS;Agとの中間領域に変更させることができるAgとAlの濃度領域が、例えばAlの濃度を800ppmに固定した場合、Agの濃度10〜50ppmに存在することがわかった。また、Agの濃度が10ppm未満であると、発光強度が低かった。また、50ppmを超えると、発光強度は良好であり、色度座標のy値は立方晶系ZnS;Ag蛍光体に近いけれども、発光輝度が低かった。
【0040】
Ag濃度に対する発光強度及び色度値の関係を表すグラフ図を、図2に示す。
【0041】
図中、101は発光強度、102は色度座標のy値を各々示す。
【0042】
以下、図面を参照し、本発明をより詳細に説明する。
【0043】
図3に、本発明に係るFEDの一例を表す斜視図を示す。
【0044】
また、図4には、そのA−A’断面図を示す。
【0045】
図3および図4に示すように、このFEDは、それぞれ矩形状のガラスからなる前面基板(フェースプレート)2、および背面基板(リアプレート)1を備え、これらの基板は1〜2mmの隙間を置いて対向配置されている。そして、前面基板2および背面基板1は、矩形枠状の側壁3を介して周縁部同士が接合され、内部が10-4Pa程度以下の高真空に維持された偏平な矩形状の真空外囲器4を構成している。
【0046】
前面基板2の内面には蛍光面6が形成されている。この蛍光面6は、赤、緑、青色に発光する蛍光体層とマトリックス状の図示しない遮光層とで構成されている。蛍光面6上には、アノード電極として機能するメタルバック層7が形成されている。表示動作時、メタルバック層7には所定のアノード電圧が印加される。
【0047】
背面基板1の内面上には、蛍光体層を励起する電子ビームを放出する多数の電子放出素子8が設けられている。これらの電子放出素子8は、画素毎に対応して複数列および複数行に配列されている。電子放出素子は図示しないマトリックス配線により駆動される。
【0048】
また、背面基板1および前面基板2の間には、耐大気圧のため、板状あるいは柱状に形成された多数のスペーサ10が配置されている。
【0049】
蛍光面6にはメタルバック層7を介してアノード電圧が印加され、電子放出素子8から放出された電子ビームはアノード電圧により加速され蛍光面6に衝突する。これにより、対応する蛍光体層が発光し、映像が表示される。
【0050】
上記蛍光体層は、例えばスラリー法により作成することができる。
【0051】
スラリー法によりカラー画像表示装置の蛍光体層を作製するとき、例えばフェースプレートとなるガラス基板の内面に、黒色顔料からなる所定のパターン例えばストライプ状、あるいは格子状等の光吸収層をフォトリソ法により形成した後、例えば本発明に係るZnS;Ag,Al青色発光蛍光体、任意の緑色発光蛍光体、及び任意の赤色発光蛍光体を各々含有する塗布液を3種作成し、各蛍光体塗布液毎に、塗布、乾燥、及びフォトリソ法を用いたパターニングを繰り返し行うことにより、青(B)、緑(G)、及び赤(R)色発光蛍光体層をストライプ状またはドット状に形成する。なお、各色の蛍光体層の形成を、スプレー法や印刷法で行うこともできる。スプレー法や印刷法においても、フォトリソ法によるパターニングが必要に応じて併用される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】Al濃度と発光強度Eの比較値との関係を表すグラフ図
【図2】Ag濃度に対する発光強度及び色度値の関係を表すグラフ図
【図3】本発明の画像表示装置の一例を表す斜視図
【図4】図3のA−A’断面図
【符号の説明】
【0053】
1…背面基板、2…前面基板、3…側壁、4…真空外囲器、6…蛍光面、7…メタルバック層、8…電子放出素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像表示時に、5ないし15kVのアノード電圧が印加される蛍光面に用いられる蛍光体であって、
母体として硫化亜鉛化合物、付活剤として10〜50ppmの銀、500〜1000ppmのアルミニウムを含有し、六方晶系結晶構造を有し、かつ色度座標のy値が0.05〜0.06であることを特徴とする銀、アルミニウム付活硫化亜鉛蛍光体。
【請求項2】
フェースプレートと、該フェースプレートに対向して配置された電子源と、該フェースプレートの両主面のうち該電子源側の主面上に形成され、5ないし15kVのアノード電圧が印加され、該電子源から放出される電子線により発光する、請求項1に記載の銀、アルミニウム付活硫化亜鉛蛍光体を含有する蛍光体層を含む蛍光面を具備することを特徴とする画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−89699(P2006−89699A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−280560(P2004−280560)
【出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】