説明

銀の電解精製方法

【課題】簡易な構成で効率良く電気銀中の不純物品位の低減が可能な銀の電解精製方法を提供する。
【解決手段】鉛及び銅を含む粗銀をアノード電極として用いた銀の電解精製方法において、pHを1.0〜4.5に調整した銀を40〜70g/L、硝酸を5g/L以下含む硝酸銀溶液を用い、液温度15〜35℃、電流密度250〜350A/m2の条件で、また、電解精製時の銀電解液中の鉛濃度を1.0g/L以下、銅濃度を1.0g/L以下にして行う銀の電解精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀の電解精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銀の電解精製方法としては、鉛、パラジウム、銅等の不純物を含む粗銀を陽極とし、ステンレス鋼板を陰極として硝酸酸性の硝酸銀溶液中で電解精製し、陰極上に電着銀を付着させる方法が知られている。電解精製により、パラジウム等の銀よりも貴な金属はアノードスライムとしてアノード袋中に沈殿し、鉛及び銅等の銀よりも卑な金属は電解液中に溶出することが知られている。しかしながら、処理条件が適切でない場合、不純物が電解液中に溶出し、電解液中の不純物濃度が上昇することにより、不純物の電着銀への付着又は巻き込みが発生し、電着銀の不純物品位が高くなる場合がある。
【0003】
そこで、銀電解液中の不純物除去方法として、従来から酸化銀を添加して不純物を沈殿除去する方法が行われてきた。しかしながら、銀電解液中に酸化銀を添加することにより中和処理槽を大型化する必要があるうえ、酸化銀の添加量のコントロールも難しいという問題があった。
【0004】
特開2000−328281号公報では、銀電解液工程の前に、複数の沈降槽を設け、酸化銀の添加量を制御しながら中和処理を連続的に実施することにより、銀電解液の不純物を除去することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−328281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、電解液の浄液のために複数の沈降槽を設けなければならないため、処理設備が大型化する。また、複数の沈降槽を用いて酸化銀の添加量を管理しながら沈降及び中和処理を繰り返しているため、浄液処理が煩雑であり、処理に長時間を要する。更に特許文献1は浄液工程のpHを制御して酸化銀の添加量を適正化することを目的とする発明であり、電解精製時の銀電解液を濃度管理することについては記載されていない。
【0007】
上記課題を鑑み、本発明は、簡易な構成で電気銀中の不純物品位の低減が実現可能な銀の電解精製方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため鋭意検討の結果、本発明者らは、銀電解精製工程中の遊離硝酸濃度が例えば5g/L程度となるように銀電解液を濃度管理することを考えた。しかしながら、上記の処理方法で銀電解液を管理した場合でも、不純物の浄液能力が十分に得られない場合があり、銅濃度及び鉛濃度が一定濃度を超えてしまう場合があった。銅濃度及び鉛濃度が一定濃度を超えてしまうと、鉛や銅が水酸化物となって電解液中に析出し始めることがあるため、電解液中に析出した水酸化物の電着銀への付着又は巻き込みが発生し、最終的に得られる電気銀中の不純物品位が高くなる場合がある。
【0009】
そこで本発明者らは電解精製時の電解液の濃度管理方法について更に鋭意検討した結果、電解精製時の電解液のpHをより適正な条件に管理することにより、沈降槽を複数設けて複雑な浄液処理を行うことなく、簡易な構成で電気銀中の不純物品位が低減できることを見出した。
【0010】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、鉛及び銅を含む粗銀をアノード電極として用いた銀の電解精製方法において、電解精製時の銀電解液のpHを1.0〜4.5に調整することを含む銀の電解精製方法である。
【0011】
本発明の銀の電解精製方法は一実施態様において、銀電解液が、銀を40〜70g/L、硝酸を5g/L以下含む硝酸銀溶液である。
【0012】
本発明の銀の電解精製方法は一実施態様において、電解精製時の銀電解液中の鉛濃度を1.0g/L以下に制御することを含む。
【0013】
本発明の銀の電解精製方法は一実施態様において、電解精製時の銀電解液中の銅濃度を1.0g/L以下に制御することを含む。
【0014】
本発明の銀の電解精製方法は一実施態様において、電解精製時の銀電解液を15〜35℃、電流密度250〜350A/m2で行うことを含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、簡易な構成で電気銀中の不純物品位の低減が実現可能な銀の電解精製方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1(a)は、pHと鉛の溶解度との関係を表すグラフであり、図1(b)は、pHと銅の溶解度との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<銀電解液>
本発明の実施の形態に係る電解精製方法に利用可能な銀電解液は、遊離硝酸を含む硝酸酸性の硝酸銀溶液が好適に用いられる。図1(a)及び図1(b)に、鉛と銅の溶解度積Kspから計算したpHと鉛又は銅の溶解度の関係を表すグラフを示す。図1(a)及び図1(b)に示すグラフから、銅よりも鉛の方が同じpHでも水酸化物が析出しやすいことが分かる。また、鉛(Pb2+)の溶解度が1g/Lの場合、pHが4.8よりも大きくなると鉛の水酸化物(Pb(OH)2)が析出し、銅(Cu2+)の溶解度が1g/Lの場合、pHが5.3より大きくなると、銅の酸化物(Cu(OH)2)が析出することが分かる。
【0018】
電解精製時は、水酸化物(Pb(OH)2、Cu(OH)2)の析出を避けるために、銀電解液をpH1.0〜4.5の範囲となるように調整することが好ましく、より好ましくはpH2.0〜4.4、更に好ましくはpH3.5〜4.2である。pHが1.0未満の場合は、アノードスライム中のパラジウムが溶解し、電気銀を汚染するという不具合がある。pHが4.5より大きくなると、水酸化物の析出が起こりやすくなる。
【0019】
電解液中の銀は、例えば40〜70g/L程度である。電解液中の遊離硝酸濃度は、 5g/L以下とするのが好ましく、より好ましくは1g/L以下である。
【0020】
電解液のpH測定方法に特に制限はないが、迅速且つ簡便にpHを測定可能な方法としては、例えばpH試験紙を用いて測定する方法が好適に用いられる。
【0021】
不純物の電解中での析出を抑制するために、電解精製中の電解液の銅濃度及び鉛濃度を適正な範囲に制御するのが好ましい。例えば、電解精製中は常時又は一定時間間隔で銅濃度及び鉛濃度を測定し、濃度が一定値を超える場合には浄液処理を行うことが好ましい。本実施形態では、電解液中の銅濃度を1.0g/L以下、より好ましくは0.5g/L以下となるように制御し、電解液中の鉛濃度を、1.0g/L以下、より好ましくは0.5g/L以下となるように制御するのが好ましい。銅濃度及び鉛濃度は例えば、ICP分析装置等により測定することができる。
【0022】
浄液は、電解液の一部を例えば電解液の循環槽等から抜き取り、抜き取った電解液を、酸化銀を溜めた槽内に通液することにより、銅、鉛等の不純物を水酸化物として析出させる。析出した水酸化物は、ろ過器(フィルタープレス)でろ過する。ろ過後の電解液は、循環経路へ戻す。
【0023】
銀の電解精製を行う場合には、まず、銀電解液を収容した電解槽中に、アノード電極板としての、鉛、パラジウム及び銅を含む銀濃度97〜99%程度の粗銀と、カソード電極板としてのステンレス板を浸漬させる。アノード電極板とカソード電極板との間に電流を流し、電気分解によりカソード電極板の表面に電着銀を析出させる。この際、必要に応じて電解槽に接続された循環槽を稼働させ、電解槽中の電解液を循環させてもよい。電解精製時(運転時)の銀電解液の条件は、例えば液温15〜35℃、銀濃度40〜70g/L、遊離硝酸濃度5g/L以下、電流密度250〜350A/m2とすることができる。運転時、銅濃度及び鉛濃度、pHを測定しておく。不純物の析出を避けるために、pH濃度が4.5以上となった場合は、硝酸を加える等して好適な範囲に調整する。電解精製時に銅濃度及び鉛濃度が一定濃度以上となった場合は、循環経路から電解液を抜き取り、酸化銀を貯めた溶液に電解液を通液することにより連続的に浄液する。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0025】
(実施例1)
遊離硝酸を含む硝酸銀溶液(銀濃度40〜70g/L、硝酸濃度1.0g/L)の電解液を満たした電解槽中に、アノード電極板として表1に示すようなアノード品位の粗銀を使用し、カソード電極板としてステンレス板を使用し、電流密度340A/m2、電解液温度(15〜35℃)で電解精製を行った。電解精製中、銅濃度及び鉛濃度をICPで測定し、電解液中の銅濃度及び鉛濃度が1.0g/L以下となるように浄液を行いながら、電解液のpHが約4.0となるようにpH試験紙を電解液中に浸漬して電解液中のpHを測定しながらpH調整を行った。電解精製中の電解液濃度、得られた電気銀の品位の例を表1に示す。
【0026】
(実施例2)
電解液で満たした電解槽中に、アノード電極板として表1に示す品位の粗銀を使用し、カソード電極板としてステンレス板を使用し、電解液が約pH4.1となるようにpH調整を行った以外は、実施例1と同様の条件で電解精製を行った。電解精製中の電解液濃度、得られた電気銀の品位の例を表1に示す。
【0027】
(比較例1)
電解液で満たした電解槽中に、アノード電極板として表1に示す品位の粗銀を使用し、カソード電極板としてステンレス板を使用し、電解液のpH調整を行わない以外は、実施例1と同様の条件で電解精製を行った。電解精製中の電解液濃度、得られた電気銀の品位を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
実施例1及び2示すように、銀電解液をpHが4.5以下に管理することにより、電気銅中の鉛濃度及び銅濃度を10ppm以下に抑えることができた。また、実施例2に示すように、浄液能力低下により銀電解液中の鉛濃度が1g/Lを超えた場合でも、電気銀中の鉛品位は10ppmを超えることがなくなった。pH調整を行わずにpHが6.0まで上昇した比較例1では電気銅中の鉛濃度が20ppmまで上昇した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛及び銅を含む粗銀をアノード電極として用いた銀の電解精製方法において、電解精製時の銀電解液のpHを1.0〜4.5に調整することを含む銀の電解精製方法。
【請求項2】
前記銀電解液が、銀を40〜70g/L、硝酸を5g/L以下含む硝酸銀溶液である請求項1記載の銀の電解精製方法。
【請求項3】
前記電解精製時の前記銀電解液中の鉛濃度を1.0g/L以下に制御することを含む請求項1又は2記載の銀の電解精製方法。
【請求項4】
前記電解精製時の前記銀電解液中の銅濃度を1.0g/L以下に制御することを含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の銀の電解精製方法。
【請求項5】
前記電解精製時の前記銀電解液を15〜35℃、電流密度250〜350A/m2で行う請求項1〜4のいずれか1項に記載の銀の電解精製方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−77337(P2012−77337A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222364(P2010−222364)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】