説明

銀ナノワイヤの製造方法およびそれを用いた透明導電膜

【課題】保存性に優れ、かつ高い導電性と良好な透明性および保存性に優れた透明導電膜を形成することができる銀ナノワイヤの製造方法、および導電性、透明性、保存性に優れた透明導電膜を提供する。
【解決手段】精製処理を経た銀ナノ粒子を核粒子として、還元性を有する化合物と形態制御剤とを含む溶液中で銀イオンを還元することを特徴とする銀ナノワイヤの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀ナノワイヤの製造方法およびその銀ナノワイヤを用いた透明導電膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透明基材上に導電性の化合物の薄膜を形成した透明導電膜は、その導電性を利用した用途、例えば液晶ディスプレイ、ELディスプレイといったフラットディスプレイやタッチパネルの透明電極など電気、電子分野で広く使用されている。前記透明導電膜としては、透明基材の少なくとも片面に、酸化スズ(SnO)、酸化インジウムスズ(ITO)や酸化亜鉛(ZnO)等を、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のドライプロセスによって設けたものがよく知られている。
【0003】
また、上記ドライプロセス以外にも、導電性高分子、CNT、例えば金属ナノワイヤなどの金属微粒子のネットワーク構造を使用したウエットプロセスによる透明導電膜も提案されている。
【0004】
その中でも近年、可視光領域で透明な導電性材料として金属ナノワイヤが研究されている。金属ナノワイヤは直径が200nm以下と小さいため、可視光領域での光透過性が高く、ITOに代わる透明導電膜としての応用が期待されている材料の一つである。このような金属ナノワイヤとしては、銀ナノワイヤや金ナノワイヤ、銅ナノワイヤ等が一般に知られており、例えば特許文献1には銀ナノワイヤを用いた透明導電膜が提案されている。
【0005】
各種金属ナノワイヤの製造方法の一例を挙げると、銀ナノワイヤの製造方法としては、エチレングリコール溶媒中で塩化白金を還元した白金ナノ粒子、もしくは硝酸銀を還元した銀ナノ粒子を核粒子として銀イオンを還元することで銀ナノワイヤを製造する方法が提案されている(非特許文献1、2参照)。金ナノワイヤの製造方法としては銅イオンおよびまたはニッケルイオンの存在下で金イオンを還元することによって金ナノワイヤを製造する方法(特許文献2参照)、銅ナノワイヤの製造方法としては水溶媒中で双頭型ペプチド脂質に銅イオンを加えることにより生成するハイブリッドナノファイバーを還元剤で化学的に還元することによって銅ナノワイヤを製造する方法(特許文献3参照)が提案されている。
【0006】
このような各種製造方法によって得られる各種金属ナノワイヤの中でも、銀ナノワイヤは、特に銀が金属中で最大の導電率を有するため、高い導電性が期待される材料であるといえる。銀ナノワイヤの製造方法は、上記非特許文献1、2以外にも、ポリオール法を用いて調製された銀ナノワイヤ分散液を、遠心分離工程を経て溶媒置換し、水性分散物を製造する方法が提案されている(特許文献4および5参照)。しかし銀ナノワイヤは実条件での使用においては、銀の酸化に起因する導電率の低下が問題となっている。導電率の低下に対しては酸化防止剤を添加したり、オーバーコート層を設けることで改善できることが知られているが(例えば特許文献6参照)、酸化防止剤やオーバーコート層が導電性を持たないことから得られる導電性膜の導電率が低下すること、また酸化防止剤やオーバーコート層自身が有機物であるがゆえ、その効果が恒久的ではない問題がある。また別の解決策として、銀ナノワイヤ自体の保存性を高めるために、パラジウム、金、白金などから少なくとも1種選択される銀以外の金属と銀とからなるナノワイヤ(特許文献7及び8参照)を製造する方法も提案されているが、他の金属が加わることで導電率の低下が懸念されており更なる改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−196923号公報
【特許文献2】特開2006−233252号公報
【特許文献3】特開2002−266007号公報
【特許文献4】米国特許出願公開第2005/0056118号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2007/0074316号明細書
【特許文献6】特開2009−205924号公報
【特許文献7】特開2009−215594号公報
【特許文献8】特開2009−120867号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Chem.Mater.2002,14,4736〜4745
【非特許文献2】Nano.Lett.2002,2,165〜168
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、保存性に優れ、かつ高い導電性と良好な透明性および保存性に優れた透明導電膜を形成することができる銀ナノワイヤの製造方法、および導電性、透明性、保存性に優れた透明導電膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は以下の手段によって達成された。
(1)精製処理を経た銀ナノ粒子を核粒子として、還元性を有する化合物と形態制御剤とを含む溶液中で銀イオンを還元する工程を含むことを特徴とする銀ナノワイヤの製造方法。
(2)基材上に、前記(1)記載の製造方法で得られた銀ナノワイヤを含有する導電層を有する透明導電膜。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、保存性に優れ、かつ高い導電性と良好な透明性および保存性に優れた透明導電膜を形成することができる銀ナノワイヤの製造方法、および導電性、透明性、保存性に優れた透明導電膜を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の銀ナノワイヤの製造方法は、精製工程を経た銀ナノ粒子を核粒子として、還元性を有する化合物と形態制御剤とを含む溶液中で銀イオンを還元する工程を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明における精製工程とは、銀ナノ粒子作製時に銀ナノ粒子と共存する無機物、有機物などの不純物を除去する工程を指し、例えば、デカンテーション、遠心分離、限外濾過等の精製工程およびこれらを組み合わせた精製工程が挙げられる。銀ナノ粒子の精製度合いを調べる手段としては銀ナノ粒子分散液の電気伝導度を用いることができる。精製処理を経た銀ナノ粒子分散液の電気伝導度は、1質量%銀ナノ粒子分散液において、0.1S/m以下であることが好ましく、より好ましくは0.05S/m以下、特に0.01S/m以下とすることが好ましい。
【0014】
本発明で核粒子として用いる銀ナノ粒子の製造方法としては特に限定されず公知の製造方法により得られたものを用いることができる。例えば、特開2009−242874号公報に示されるような、水性媒体中に少なくとも水溶性銀塩、塩基性化合物、水溶性高分子化合物および還元剤を含有せしめ、水溶性銀塩由来の銀イオンをマルトデキストリンにて還元し、その後酵素処理にてデキストリン保護コロイドを低分子量化することで得られた銀ナノ粒子、特開2006−328472号公報に示されるような、硝酸銀水溶液に過剰のアンモニア水を加えて錯体を形成し、高分子分散剤および溶剤を添加した後ホルマリンにて還元する方法により得られた銀ナノ粒子、特開2008−156720号公報に示されるような、銀イオンをエチレンジアミン四酢酸塩およびポリエチレンイミンの存在下ホルマリンで還元させる方法により得られた銀ナノ粒子などが挙げられる。特に、銀ナノ粒子を製造する際に保護コロイドまたは分散剤として多糖類を利用し、還元反応が終了した段階でα−アミラーゼを利用させる銀ナノ粒子が好ましい。
【0015】
α−アミラーゼは、例えば天野エンザイム株式会社よりビオザイムAやビオザイムF10SDとして市販されている各種α−アミラーゼを用いることができる。α−アミラーゼ添加前の銀超微粒子分散液は、α−アミラーゼに適したpH4から10、20℃から50℃に調整されることが好ましい。pHの調整には、酢酸等のカルボン酸類や硝酸を用いることが好ましい。α−アミラーゼの添加量は、用いるデキストリン等の多糖類の質量に対し0.01質量%から10質量%が好ましく、より好ましくは0.1質量%から1質量%である。
【0016】
本発明で用いる銀ナノ粒子の平均粒子径は、1〜100nmであることが好ましく、10〜60nmであることがより好ましい。平均粒子径は、電子顕微鏡下での観察により求めることができる。詳細にはポリエチレンテレフタレートフィルムの上に、銀ナノ粒子分散液を塗布、乾燥させ、走査型電子顕微鏡にて観察し、一定面積内に存在する20個の粒子各々の投影面積に等しい円の直径を粒子径として平均し求める。
【0017】
本発明ではこのようにして得られた銀ナノ粒子を核粒子として、還元性を有する化合物と、銀粒子の成長方向を一次元様に規定する機能を有する形態制御剤とを含む溶液中で銀イオンを還元して銀ナノワイヤを形成させる。具体的には上記銀ナノ粒子を含有する分散液に対し、銀イオンの供給源となる化合物を含有する溶液と、還元性を有する化合物を含有する溶液を供給し、これら3種の液の少なくとも一つに形態制御剤を含有せしめることで、溶液中で銀イオンを還元し粒子成長させる方法、あるいは銀ナノ粒子を含有する分散液中に還元性を有する化合物を含有せしめ、この液に対して形態制御剤を含有する溶液と銀イオンの供給源となる化合物を含有する溶液を供給し、溶液中で銀イオンを還元し粒子成長させる方法等を挙げることができる。本発明では特に後者の方法がより均一な形状の銀ナノワイヤを製造することができるという観点から特に好ましい。
【0018】
本発明において、銀イオンの供給源として利用する化合物に特に制限はなく、ハロゲン化物塩、酢酸塩、過ハロゲン酸塩、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、しゅう酸塩などの各種銀塩を用いることができる。溶液中の銀イオンの濃度としては、適宜好ましい濃度に設定することができるが、濃度を薄くすると反応液中でのイオンの還元反応や、銀ナノワイヤの形成反応を均一化する上で好ましく、一方、濃度を濃くすると銀ナノワイヤ収率を高めることができるため好ましい。従って、本発明において銀イオンの供給源となる化合物を含有する溶液の銀塩体積モル濃度としては、0.01〜1mol/Lであることが好ましい。
【0019】
銀ナノワイヤの製造に用いる還元性を有する化合物としては、特に制限はなく、公知の物から少なくとも1種を選んで用いることができる。本発明で好ましく用いることができる還元性を有する化合物としては、例えば、一級または二級アルコール類、グリコール類、酸素原子に隣接する炭素原子に水素原子が結合しているエーテル類、エタノールアミン類、水素化ホウ素類、ヒドラジン類よりなる群から選ばれた少なくとも1種を挙げることができる。その中でも特にグリコール類が好ましい。本発明に用いるグリコール類としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール等が例示される。
【0020】
本発明の粒子成長工程で用いられる「形態制御剤」とは、銀粒子の成長方向を一次元様に規定する機能を有する化合物であり、形態制御剤を用いることによって、形成される銀ナノワイヤの比率を高めることができる。多くの場合、形態制御剤は、対象となる粒子の特定の結晶面に優先的あるいは選択的に吸着して、吸着面の成長を抑制することによって成長方位を制御する。
【0021】
本発明の形態制御剤としては、例えば、親水性高分子化合物、両親媒性化合物などを挙げることができる。親水性高分子化合物としては、ポリビニルピロリドン(例えば、ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン))、ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリル酸塩のように、アミド基、水酸基、カルボキシル基および/またはアミノ基を含有するポリマーあるいはこれら親水性ホモ重合体形成用モノマーの共重合体などの他、シクロデキストリン、アミノペクチン、メチルセルロース、ゼラチンなどの天然物を挙げることができる。
【0022】
両親媒性化合物としては、各種一官能性または多官能性界面活性剤(アニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性いずれでも可)、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、ポリエチレングリコールモノラウレートなどを挙げることができる。以上の形態制御剤の中でもポリビニルピロリドンが特に好ましい。
【0023】
形態制御剤の使用量は、銀塩1molに対し0.5mol以上存在することが好ましく、より好ましくは1〜100molである。なお、形態制御剤が高分子化合物の場合には、前記モル量はそのモノマー単位のモル数に換算した値を意味する。
【0024】
本発明においては、核粒子として用いる精製処理を経た銀ナノ粒子と粒子成長工程で使用する銀塩(銀イオン)のモル比を任意に変えることができる。また、モル比を調整することにより、粒径やアスペクト比の制御も可能である。例えば、平均アスペクト比の高い銀ナノワイヤを形成する場合には、ナノワイヤ製造工程全体で使用する銀塩に対して、核粒子として用いる銀ナノ粒子のモル比を小さくする方が有利である。これは、銀ナノワイヤの形成にはナノワイヤ成長工程の寄与が大きいためである。従って、本発明では核粒子で使用する銀ナノ粒子のモル比を銀ナノワイヤ全体のモル量に対して5mol%以下に設定することが好ましく、3mol%以下がより好ましく、0.001〜1mol%であることが更に好ましい。
【0025】
形成する銀ナノワイヤの形態(直径や長さ)の均一性を高める上で、粒子成長工程において新たな銀微粒子が生成しないように銀イオンの還元反応を制御することが重要であり、粒子成長工程における銀塩溶液の添加速度や銀イオンの還元速度を適宜調整することが好ましい。還元反応速度を制御するためには、還元剤の種類や濃度、反応温度、pHなどを好ましい条件に設定することが有効である。
【0026】
また、本発明においては、銀ナノワイヤの凝集を防止することを目的として分散工程を有することができる。銀ナノワイヤ分散液中で銀ナノワイヤの凝集を抑制し高度に分散させる方法としては、高分子系の分散剤や極性部と非極性部を有する活性剤などを銀ナノワイヤ表面に吸着させ、その立体障害効果により凝集体の生成を抑制する方法が有効である。
【0027】
本発明の銀ナノワイヤの形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば円柱状、直方体状、断面が多角形となる柱状等の任意の形状をとることができる。前記銀ナノワイヤの長軸長さは、5μm以上であることが好ましく、10μm以上がより好ましく、更に30μm以上とすることが好ましい。上限は300μm以下であることが好ましい。前記銀ナノワイヤの短軸長さは、300nm以下であることが好ましく、250nm以下がより好ましく、200nm以下が特に好ましい。下限は20nm以上であることが好ましい。前記銀ナノワイヤの長軸長さが5μm未満であると、導電層を塗布により作製した場合において、金属同士の接合点が減少し、導通が取りにくくなり、その結果、抵抗が高くなってしまうことがある。一方、前記銀ナノワイヤの短軸長さが300nmを超えると、導電層としての特性、主に導電性と保存安定性は良化するが、光散乱によるヘイズが非常に目立ち、透明性が失われてしまう場合がある。なお銀ナノワイヤの長軸長さは、例えば電子顕微鏡にて観察し、任意に選んだ20ヶの銀ナノワイヤの平均値として求めることができ、短軸長さも同様にして求めることができる。
【0028】
本発明の銀ナノワイヤ製造方法では、銀イオンを供給する化合物、形態制御剤、還元剤の他にも、例えば、臭素、塩素、ヨウ素を含有するハロゲン化合物や、銀以外の金属イオンを含む金属塩などを添加することができる。
【0029】
銀ナノワイヤの長軸、短軸の各々の長さは、銀ナノワイヤの製造方法において形態制御剤以外にも、金属塩、無機塩の濃度、還元剤の濃度、それぞれの薬品の添加速度や温度などを適宜選択することにより制御することができる。
【0030】
得られた銀ナノワイヤは、デカンテーション、遠心分離、限外濾過等の手段により精製されることが好ましく、また本発明により得られた銀ナノワイヤは、基材上に塗布あるいは印刷する際には、適宜所望の濃度に調整することができる。
【0031】
本発明の透明導電膜は、基材上に、前記した本発明の製造方法で得られた銀ナノワイヤを含有する導電層を有する。具体的には本発明の製造方法により得られた銀ナノワイヤ含有組成物を、基板上へ塗布あるいは印刷し、乾燥することで得られる。この透明導電膜は、各種方式のディスプレイやタッチパネル、携帯電話、電子ペーパー、各種太陽電池、各種エレクトロルミネッセンス調光素子の透明電極などに好適に用いることができる。前記導電層中の銀量に特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、0.005〜5g/mが好ましい。
【0032】
本発明の透明導電膜の導電層は、前記銀ナノワイヤを単独で用いてもよいし、導電性高分子化合物やカーボンナノチューブ等の他の導電性材料を組み合わせて使用してもよい。本発明の透明導電体に用いることができる導電性高分子化合物として、例えば、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリチエニレンビニレン、ポリアズレン、ポリイソチアナフテン、ポリカルバゾール、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセン、ポリフェニルアセチレン、ポリジアセチレンおよびポリナフタレンの各誘導体からなる群より選ばれる化合物を挙げられる。
【0033】
本発明の透明導電膜においては、導電層に本発明の銀ナノワイヤ以外に、透明なバインダー材料や添加剤を含んでいてもよい。透明なバインダー材料としては、天然高分子樹脂または合成高分子樹脂から広く選択して使用することができる。例えば、ゼラチン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリメチルメタクリレート、ニトロセルロース、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、ウレタンラテックス、アクリルラテックス等の各種ラテックス、熱・光・電子線・放射線で硬化する透明硬化性樹脂(例えば、メラミンアクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル変性シリケート等のシリコーン樹脂)を使用することができる。添加剤としては、可塑剤、酸化防止剤などの安定剤、界面活性剤、溶解促進剤、重合禁止剤、染料や顔料などの着色剤、硬膜剤などが挙げられる。更に、塗布性などの作業性を高める観点から、溶媒(例えば、水や、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、ケトン類、エステル類、エーテル類、アミド類、炭化水素類等の有機溶媒)を含んでいてもよい。
【0034】
前記透明導電膜は、基材上に本発明の前記銀ナノワイヤ含有物からなる導電層を有しており、該導電層を有する透明導電膜は、その他に、下塗り層、オーバーコート層、更に必要に応じてその他の層を有していてもよい。
【0035】
前記透明導電膜を製造する方法としては、特に制限はないが、生産性と生産コスト、平滑性や均一性などの電極品質、環境負荷軽減の観点から、導電層の形成には塗布法や印刷法などの液相成膜法を用いることが好ましい。塗布法としては、ロールコート法、バーコート法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、キャスティング法、ダイコート法、ブレードコート法、バーコート法、グラビアコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ドクターコート法などを用いることができる。印刷法としては、凸版(活版)印刷法、孔版(スクリーン)印刷法、平版(オフセット)印刷法、凹版(グラビア)印刷法、スプレー印刷法、インクジェット印刷法などを用いることができる。また、本発明の銀ナノワイヤを含む導電層を透明支持体上にパターン形成して、透明配線や透明回路を形成することもできる。
【0036】
基材としては、その形状、構造、大きさ等については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。形状としては、例えば、平板状、シート状、フィルム状などが挙げられ、単層構造であってもよく、積層構造であってもよいが、全光線透過率が80%以上である基材が好ましい。基材の材料としては、特に制限はなく、無機材料および有機材料のいずれであっても好適に用いることができる。前記無機材料としては、例えば、ガラス、石英、シリコンなどが挙げられる。前記有機材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、トリアセチルセルロース等のアセテート系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリノルボルネン樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリアクリル系樹脂などが挙げられる。これらは、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
前記基材の表面は親水化処理を施すことが好ましい。前記親水化処理としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば薬品処理、機械的粗面化処理、コロナ放電処理、火炎処理、紫外線処理、グロー放電処理、活性プラズマ処理、レーザー処理などが挙げられる。また基材は親水性ポリマーを含有する易接着層を有することが好ましい。これにより導電層や下塗り層への基材への塗布性、および密着性が良化する。
【0038】
本発明の透明導電膜は銀ナノワイヤ同士が交差する形で存在しているため、圧着処理を施すことが好ましい。圧着する方法は公知の方法であれば特に制限はないが、具体的には塗工面を棒で擦る方法や、2本のロールの間に挟み押圧する方法などが挙げられる。交点部分を圧着することによって塑性変形が生じ、銀ナノワイヤ間の接触抵抗が下がり、その結果透明導電膜のシート抵抗が下がるからである。銀ナノワイヤ同士の交点部分とは、銀ナノワイヤが網目状に分散している透明導電膜を真上から見て、銀ナノワイヤが重なって見える部分のことである。圧着されているとは当該交点部分が変形し、銀ナノワイヤの接触面積が互いに大きくなっている状態を表す。なお、本発明においては当該交点部分がすべて圧着されている必要はなく、一部分であってもよい。一部分であっても、導電層のシート抵抗を下げる効果が得られるからである。前記圧着処理後の導電層の厚みに特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、0.01〜10μmが好ましい。
【0039】
銀ナノワイヤ同士の交点部分が圧着されているか否かは走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡によって当該交点部分の変形の有無によって確認することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
<実施例1>
<銀ナノ粒子核の作製>
内容積250mLのポリプロピレン製容器中に、直径1mmのジルコニアビーズを見かけ上の体積として50mLを投入した。この容器に、純水126gに硝酸銀73.2gおよびデキストリン(日澱化学株式会社製、デキストリンNo.1−A)30.2gを溶解した溶液を入れ、容器全体を氷浴中に浸漬し約5℃まで冷却を行った。これに、純水54.6gに水酸化ナトリウム25.8gを溶解し、約10℃まで冷却した溶液を加え、直ちに容器を密閉し、容器の周囲に冷却済みの市販の保冷剤を巻き付け、毎分600回の振盪速度に設定したペイントシェイカーに装着し、1時間の混練を行い、銀ナノ粒子の生成を行った。混練後の溶液を酢酸でpH5に調整し、α−アミラーゼ(天野エンザイム株式会社製、ビオザイムF10SD)0.1gを加え攪拌した後、40℃で1時間放置した。
【0042】
<銀ナノ粒子の精製処理>
このようにして得られた銀ナノ粒子を含有する分散液に、エタノール320mLを加え再分散した後、遠心分離機(トミー工業株式会社製、汎用検査用遠心分離機LC230)を用いて4000rpmで10分間遠心分離し銀ナノ粒子を沈殿させた。この沈殿物に純水を800mL、エタノール370mLを加え再分散した後、再び4000rpmで20分間遠心分離し銀ナノ粒子を沈殿させた。この操作を4回繰り返し、沈殿物に純水を加え再分散し銀ナノ粒子が約1質量%含まれた銀ナノ粒子分散液を得た。電子顕微鏡にて観察した結果、得られた銀ナノ粒子の平均粒子径は約15nmであり、これを含有する分散液の電気伝導度は3.8mS/mであった。
【0043】
<銀ナノワイヤ分散液の製造>
還流管を付けた三口フラスコ内に、50mLのエチレングリコール(和光純薬工業株式会社製)を入れ、160℃に加熱した。これに、銀ナノ粒子分散液を1.5mL、1.0g/Lの塩化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)を含有するエチレングリコール溶液を1.8mL添加し、10分間攪拌を続けた。その後、0.19mol/Lの硝酸銀(和光純薬工業株式会社製)を含有するエチレングリコール溶液90mL、0.57mol/Lのポリビニルピロリドン(重量平均分子量40,000;ピロリドンユニットの繰り返し単位数360、東京化成工業株式会社製)を含有するエチレングリコール溶液180mLを45分間かけて、反応溶液に添加した。添加終了後、160℃にて60分間加熱、攪拌することにより、銀ナノワイヤを作製した。反応液を室温まで冷却した後、遠心分離機を用いて、4000rpmで30分間遠心分離し銀ナノワイヤを沈殿させた。この沈殿物に純水を400mL加え再分散した後、再び4000rpmで20分間遠心分離し銀ナノワイヤを精製した。得られた銀ナノワイヤに純水を加え再分散し、銀ナノワイヤが5質量%含まれた銀ナノワイヤ水分散液(C−1)を得た。電子顕微鏡にて観察した結果、得られた銀ナノワイヤの平均短軸長さは80nm、平均長軸長さは45μmであった。
【0044】
<実施例2>
実施例1の銀ナノワイヤ分散液の製造において使用した銀ナノ粒子核に代わって、沈殿物に純水を800mL、エタノール370mLを加え再分散した後、4000rpmで20分間遠心分離し銀ナノ粒子を沈殿させる操作を3回に変更した以外は同様にして精製した銀ナノ粒子核を使用した以外は実施例1と同様にして、銀ナノワイヤ水分散液(C−2)を得た。なお精製後の銀ナノ粒子を含有する分散液の電気伝導度は8mS/mであり、得られた銀ナノ粒子の平均粒子径は約15nmであった。また得られた銀ナノワイヤの平均短軸長さは85nm、平均長軸長さは42μmであった。
【0045】
<実施例3>
実施例1の銀ナノワイヤ分散液の製造において使用した銀ナノ粒子核に代わって、沈殿物に純水を800mL、エタノール370mLを加え再分散した後、4000rpmで20分間遠心分離し銀ナノ粒子を沈殿させる操作を2回に変更した以外は同様にして精製した銀ナノ粒子核を使用した以外は実施例1と同様にして、銀ナノワイヤ水分散液(C−3)を得た。なお精製後の銀ナノ粒子を含有する分散液の電気伝導度は20mS/mであり、得られた銀ナノ粒子の平均粒子径は約16nmであった。また得られた銀ナノワイヤの平均短軸長さは75nm、平均長軸長さは40μmであった。
【0046】
<実施例4>
実施例1の銀ナノワイヤ分散液の製造において使用した銀ナノ粒子核に代わって、沈殿物に純水を800mL、エタノール370mLを加え再分散した後、4000rpmで20分間遠心分離し銀ナノ粒子を沈殿させる操作を1回に変更した以外は同様にして精製した銀ナノ粒子核を使用した以外は実施例1と同様にして、銀ナノワイヤ水分散液(C−4)を得た。なお精製後の銀ナノ粒子を含有する分散液の電気伝導度は70mS/mであり、得られた銀ナノ粒子の平均粒子径は約16nmであった。また得られた銀ナノワイヤの平均長軸長さは80nm、平均短軸長さは38μmであった。
【0047】
<比較例1>
実施例1の銀ナノワイヤ分散液の製造において使用した銀ナノ粒子核に代わって、沈殿物に純水を加え再分散した銀ナノ粒子核を使用した以外は実施例1と同様にして、銀ナノワイヤ水分散液(C−5)を得た。なお精製後の銀ナノ粒子を含有する分散液の電気伝導度は0.58S/mであり、得られた銀ナノ粒子の平均粒子径は約16nmであった。また得られた銀ナノワイヤの平均短軸長さは100nm、平均長軸長さは20μmであった。
【0048】
<比較例2>
<ポリオール法を用いた銀ナノワイヤの製造方法>
特開2009−215573号広報に従い製造した。還流管を付けた三口フラスコ内に、50mLのエチレングリコール(和光純薬工業株式会社製)を入れ、160℃に加熱した。0.19mol/Lの硝酸銀(和光純薬工業株式会社製)を含有するエチレングリコール溶液0.75mL、0.57mol/Lのポリビニルピロリドン(重量平均分子量40,000;ピロリドンユニットの繰り返し単位数360、東京化成工業株式会社製)を含有するエチレングリコール溶液1.5mL、1.0g/Lの塩化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)を含有するエチレングリコール溶液を1.8mL添加し、10分間攪拌を続けた。その後、0.19mol/Lの硝酸銀を含有するエチレングリコール溶液90mL、0.57mol/Lのポリビニルピロリドンを含有するエチレングリコール溶液180mLを45分間かけて、反応溶液に添加した。添加終了後、160℃にて60分間加熱、攪拌することにより、銀ナノワイヤを作製した。反応液を室温まで冷却した後、遠心分離機を用いて、4000rpmで30分間遠心分離し銀ナノワイヤを沈殿させた。この沈殿物に純水を400mL加え再分散した後、再び4000rpmで20分間遠心分離し銀ナノワイヤを精製した。得られた銀ナノワイヤに純水を加え再分散し、銀ナノワイヤが5質量%含まれた銀ナノワイヤ水分散液(C−6)を得た。電子顕微鏡にて観察した結果、得られた銀ナノワイヤの平均短軸長さは110nm、平均長軸長さは20μmであった。
【0049】
<透明導電膜の作製>
実施例1〜4、比較例1〜2で作製した銀ナノワイヤ分散液C−1〜C−6を用いて、以下に示す方法に従って透明導電膜T−1〜T−6を作製した。
【0050】
易接着層を有する全光線透過率が90%のポリエチレンテレフタレート(PET)支持体上に、下記導電層用塗布液を銀量が0.07g/mとなるようにバーコーターにて塗布し乾燥した。
【0051】
<導電層塗布液処方/1m当たり>
5質量%銀ナノワイヤ水分散液 1.4g
ハイドランWLS201 0.03g
(DIC製ポリエーテル系ウレタンラテックス:固形分35%)
デナコールEX313(ナガセケムテックス製エポキシ樹脂) 0.003g
界面活性剤(S−1) 0.001g
【0052】
【化1】

【0053】
得られた銀ナノワイヤ塗布膜に圧着処理を施し、厚みが0.1μmの導電層を形成させ透明導電膜T−1〜T−6を得た。
【0054】
<シート抵抗の測定>
得られた透明導電膜T−1〜T−6のシート抵抗はダイアインスツルメンツ社製ロレスタGP/ESPプローブ、全光線透過率はそれぞれスガ試験機社製ヘーズコンピュータにて測定した。
【0055】
<銀ナノワイヤ分散液の保存安定性調査>
銀ナノワイヤ分散液C−1〜C−6を40℃にて1ヶ月放置し、放置後の銀ナノワイヤ分散液にて透明導電膜を作製し、シート抵抗を測定することにより銀ナノワイヤ分散液の保存安定性の比較を行った。
【0056】
<透明導電膜の保存安定性調査>
透明導電膜T−1〜T−6を60℃、湿度90%RHの空気中にて2週間放置し、放置後の表面抵抗率を測定することにより、塗布物の保存安定性の比較を行った。
【0057】
得られた結果を下記表1に示す。表1において>10とはダイアインスツルメンツ社製ロレスタGP/ESPプローブで測定できないほどシート抵抗が高いという意味である。
【0058】
【表1】

【0059】
表1の結果から本発明により保存性に優れ、かつ高い導電性と良好な透明性および保存性に優れた透明導電膜を形成することができる銀ナノワイヤ、および導電性、透明性、保存性に優れた透明導電膜を得られることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精製処理を経た銀ナノ粒子を核粒子として、還元性を有する化合物と形態制御剤とを含む溶液中で銀イオンを還元することを特徴とする銀ナノワイヤの製造方法。
【請求項2】
基材上に、請求項1記載の製造方法で得られた銀ナノワイヤを含有する導電層を有する透明導電膜。

【公開番号】特開2012−132082(P2012−132082A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287255(P2010−287255)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】