説明

銀付調皮革様シートの製造方法

【課題】一体感のある風合いおよび柔軟性を有するとともに、光沢むらのない高級な外観を有し、天然皮革に近い充実感を有する銀付調皮革様シートの製造方法を提供すること。
【解決手段】任意にポリウレタンが含浸された繊維絡合不織布からなる基体層の少なくとも一面に、ポリウレタン水分散液を1.5〜4倍に発泡させた液を塗布・乾燥して、発泡コート層を形成した後、該発泡コート層にポリウレタン不織布を積層一体化することを特徴とする銀付調皮革様シートの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面が、その内部に微細孔が形成されているポリウレタン不織布の溶融層からなる銀面層を有し、該銀面層とその下に存在している基体層との間に発泡コート層を介在させて積層一体化することにより、一体感のある風合いおよび柔軟性を有するとともに、光沢むらのない高級な外観を有し、天然皮革に近い充実感を有する銀付調皮革様の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、銀面を有する皮革様シートの製造方法に関して多くの提案がなされてきた。それらの提案の多くは、繊維質シートの一面に高分子弾性体からなる湿式凝固層あるいは乾式凝固層を付与し銀面を形成する方法である。また透気・透湿性を有する銀付調皮革様シートの製造方法についても多くの提案がなされてきた。それらの方法は、繊維質表面に、発泡剤、添加剤、凝固調節剤等を添加して、湿式凝固法又は乾式凝固法により形成された通気性発泡コート層を積層する方法、あるいはレーザー光線等により表面の銀面層に穴をあける方法等である。
【0003】
天然皮革調の外観を有し、さらに透気・透湿性を有する皮革様シートの製造方法として、高分子弾性体を含有する繊維質シートの表面を熱溶融する方法や、表面に繊維又は弾性体の溶剤を付与して、該シートの表面を構成する繊維或いは高分子弾性体を溶かして表面を平滑化し、銀面を形成する方法も提案されている(例えば特許文献1〜3参照)。更に繊維絡合体の表面に極細繊維立毛面を形成し、繊維の溶剤或いは膨潤剤を付与し熱プレスで繊維を接合して表面を平滑化し、さらにその表面に高分子弾性体の被覆層を設ける皮革様シートの製造方法も知られている。また、特許文献4には、ポリウレタンの不織布を基布に直接融着させながら造面する方法が提案されている。
また、特許文献5には、樹脂を含有する多孔質発泡体を基布に包含させ、基布の表面に皮革様フィルム層を形成するに際し、皮革様フィルム層を形成する側の基布の片面に、多孔質発泡体を高密度に包含させたシート構造体が提案されている。
更に、特許文献6には、基材層の上にホットメルト不織布層を積層し、この上に着色層を設けることでボリューム感および通気性に優れた皮革様シートが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭48−535号公報
【特許文献2】特公昭48−536号公報
【特許文献3】特公昭48−537号公報
【特許文献4】特開平10−8382号公報
【特許文献5】特開2003−3379号公報
【特許文献6】特開2008−63674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来から提案されている方法のように、繊維層の表面に発泡剤、添加剤、凝固調節剤等を添加して湿式凝固法又は乾式凝固法により形成された通気性発泡コート層を積層する方法で得られるシートは、通気性の点で満足できるものではない。また、この方法の場合には、銀面はゴム反発感が強いことや表面の折れシワ形態が悪い等の問題もある。表面の被覆層にレーザー等により穴をあける方法の場合には、通気性については満足できるものの外観が高級感に欠ける。
【0006】
また、特許文献1〜3等のように、繊維質シートを構成する繊維および高分子弾性体を熱溶融あるいは溶剤等により溶解して平滑化し銀面を形成する方法の場合には、透気・透湿性に関しては満足できるものの、表面が硬くなり、天然皮革に近い充実感に欠け、かつ外観の光沢むらが発生し高級感に欠けるものとなる。
【0007】
更に、特許文献4のように、ポリウレタンの不織布を基布に直接溶融させながら造面する方法では、製造の際の造面速度を遅くすることにより、光沢むらのない高級な外観を達成し、通気性も良好な皮革様シートが得られるものの、ポリウレタン不織布を熱で融かしながら基布に接着するため、融けたポリウレタン不織布が必ずしも基布に接着せず、熱エンボスロール等の接着装置の方へ融着しやすく、安定性に欠けるうえ、十分な接着性を発現させるために高温、かつ/又は高圧で融着させることが必要であり、この影響で光沢むらが発生しやすく、通気性も測定サンプルの採取位置によりばらつきがあった。更に、より天然皮革に近い品位を実現するため、ポリウレタン含率を可能な限り低く保つことで緻密な基布を実現した場合には、ポリウレタン不織布の基布への接着性が極端に低下し、この現象は顕著になり、より好ましくない。
【0008】
一方、特許文献5に記載の方法は、樹脂を含有する多孔質発泡体を基布に包含させ、基布の表面に皮革様フィルム層を形成するに際し、皮革様フィルム層を形成する側の基布の片面に、多孔質発泡体を高密度に包含させたシート構造体とし、多孔質発泡体の気泡径を20〜250μmの範囲の連続気泡で構成し、シート構造体の通気度を3〜13cm3/cm2/secとしており、通気性の高いシートである。しかしながら、皮革様フィルム層は、皮革様の凹凸表面を反転した凹凸形状の表面を有する転写紙の凹凸形状の凹部にのみフィルム材料を充填塗布し、これを基布と重ね合わせて、前記凹部のフィルム材料を転写して基布上に凸部を形成するため、工程数を要し高コストとなる、また、意匠性においても、平面的な感じのシート構造体となり、高級感のある外観と、天然皮革に近い充実感を有する皮革様シートを得ることはできない。
さらに、皮革様フィルム層は溶剤を含んでおり、必ずしも人体への毒性を否定できない。
また、この方法では、凸部と凹部の樹脂層数、構成樹脂が異なるため、凸部のコート層が使用時の摩擦等により剥離しやすい構造となる。
その上、使用する発泡樹脂は、起泡性およびその泡の安定性を確保した上で、凹部に配され、表面にフィルム材料が転写されない凹部においても、十分な耐久性(耐光性、耐候性、耐摩耗性等)を有する素材とすることが必要となるため、使用可能な樹脂、薬剤が限定される、などの問題を有している。
【0009】
また、特許文献6のようにホットメルト不織布層を積層する場合においても、同様に熱溶融したホットメルト不織布が、基布に融着する場合に、同時にこれが基布に融着させる装置(熱エンボス装置等)にも融着しやすく、安定して製造することが難しい。
更に、ホットメルト不織布は、通常繊維径が太く地合が不均一であるため、この層を厚くしないと十分な銀面の平滑感・高級感が得られず、一方、十分な平滑感を得るためにこの層の目付を上げ、厚くした場合には、得られた銀付調皮革様シートは、風合いの硬いものとなってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、高級感のある外観と、天然皮革に近い充実感を有する銀付調皮革様シートについて鋭意検討を行った結果、繊維絡合不織布及びその内部に含有された高分子弾性体からなる基体層の少なくとも一面に、ポリウレタン水分散液を1.5〜6倍に発泡させた液を塗布・乾燥して、発泡コート層を形成した後、該発泡コート層にポリウレタン不織布を積層一体化することで上記課題が解決されることを見出した。
すなわち、本発明は、
(1)任意にポリウレタンが含浸された繊維絡合不織布からなる基体層の少なくとも一面に、ポリウレタン水分散液を1.5〜6倍に発泡させた液を塗布・乾燥して、発泡コート層を形成した後、該発泡コート層にポリウレタン不織布を積層一体化することを特徴とする銀付調皮革様シートの製造方法、
(2)ポリウレタン不織布が、15〜125g/m2の目付からなる前記(1)に記載の銀付調皮革様シートの製造方法、
(3)前記ポリウレタン水分散液中のポリウレタンと、前記繊維絡合不織布に含浸したポリウレタンが同じである前記(1)又は(2)に記載の銀付調皮革様シートの製造方法、
(4)発泡コート層が、目付3〜40g/m2である前記(1)〜(3)のいずれか1に記載の銀付調皮革様シートの製造方法、
(5)前記発泡コート層の表面に、前記ポリウレタン不織布を構成するポリウレタンの軟化温度よりも20℃以上低い温度を有する熱接着性樹脂の溶液を点状に塗布し、直ちに該ポリウレタン不織布を重ね合わせ、該熱接着性樹脂の軟化温度近傍の表面温度を有するエンボスロールで仮接着し、しかる後、該ポリウレタン不織布の軟化温度以上の表面温度を有するエンボスロールで本接着して、前記基体層及び該発泡コート層と該ポリウレタン不織布を積層一体化する、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の銀付調皮革様シートの製造方法、及び
(6)基体層の繊維絡合不織布が、極細長繊維不織布とその内部にポリウレタンが0〜20質量%含有されてなる前記(1)〜(5)のいずれか1に記載の銀付調皮革様シートの製造方法、
を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の銀付調皮革様シートの製造方法によれば、表面がポリウレタン繊維の橋架け構造を有する微細孔を持った銀面からなり、銀面とその下の発泡コート層及び基体層との間で一体感のある風合を有し、実用上十分な剥離強度を有し、更に透気性、透湿性に優れ特に光沢むらのない極めて優れた外観を有する銀付調皮革様シートを安定して製造することができる。また、本発明の製造方法により得られた銀付調皮革様シートは、紳士靴、スポーツシューズ、一般靴等に利用できるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳述する。本発明は、任意にポリウレタンが含浸された繊維絡合不織布からなる基体層の少なくとも一面に、ポリウレタン水分散液を1.5〜6倍に発泡させた液を塗布・乾燥して、発泡コート層を形成した後、該発泡コート層にポリウレタン不織布を積層一体化することを特徴とする銀付調皮革様シートの製造方法、である。
【0013】
(基体層の繊維絡合不織布)
本発明を構成する基体層の繊維絡合不織布(以下、「ウェブ絡合シート」ということがある。)を構成する繊維としては、例えば、得られる銀付調皮革様シートの柔軟性の観点から、少なくとも2種類のポリマーからなる極細繊維発生型繊維等が挙げられる。極細繊維発生型繊維とは、海成分が、水、溶剤又は水酸化ナトリウム等の分解剤により溶解又は分解することで島成分にフィブリル化する、断面が海島構造を有する抽出型繊維、或いは機械的に又は処理剤によって各ポリマーからなる極細繊維にフィブリル化する分割型繊維等を総称したものである。特に柔軟性を要求されない場合は、もちろん通常の太さの繊維からなるものであってもよいし、更に上記極細繊維発生型繊維と通常繊維とを混合使用したものでもよい。
【0014】
基体層の繊維絡合不織布に用いられる極細繊維を構成するポリマーとしては、例えば6−ナイロン、66−ナイロンをはじめとする溶融紡糸可能なポリアミド類、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンフタレート、イソフタル酸変性ポリエステル、カチオン可染型変性ポリエチレンテレフタレートをはじめとする溶融紡糸可能なポリエステル類、ポリプロピレンで代表されるポリオレフィン類などから選ばれた少なくとも1種類のポリマーが挙げられる。また、抽出型繊維で抽出又は分解除去される成分としては、極細繊維成分と水、溶剤又は分解剤に対する溶解性又は分解性を異にし、水や特定の溶剤又は分解剤に対する溶解性又は分解性が極細繊維成分に比べて高いポリマーであり、かつ紡糸条件下で極細繊維成分より溶融粘度が小さいかあるいは表面張力が小さいポリマーであり、例えばポリビニルアルコール、オレフィン変性ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンプロピレン共重合体、変性ポリエステルなどのポリマーから選ばれた少なくとも1種類のポリマーである。この極細繊維発生型繊維の海成分と島成分の容量比は1:2〜2:1であって、海成分を抽出した後の好適な繊度としては、風合いや充実感の点で0.01〜0.0001dtexの範囲がよい。
【0015】
(繊維絡合不織布の製造及び形態安定化)
極細繊維発生型繊維は、20〜75mm長の短繊維として採取した後にカード法により短繊維ウェッブとした後、あるいはスパンボンド法のような直接法により紡糸と同時に長繊維ウェッブとした後、ニードルパンチや高速流体により絡合処理して繊維絡合不織布とする。次にこの繊維絡合不織布において、その柔軟性を可能な限り保った状態で必要な強度および安定性を確保することが必要であるが、その方法としては、柔軟性を保ったまま繊維を固定するようにポリウレタン等の高分子弾性体溶液が含浸されてもよいし、後に述べるように不織布の収縮による繊維交絡を十分に促進することで必要な強度および安定性を確保できるのであれば、必ずしも高分子弾性体溶液を含浸する必要は無い。つまり、繊維絡合不織布へのポリウレタンの含浸は任意である。
【0016】
ポリウレタン溶液を含浸する場合には含浸処理に先立って、必要に応じて繊維絡合不織布を熱プレスなどの方法により表面平滑化処理を行ってもよい。またその後に行われる高分子弾性体液の含浸・凝固や繊維構成ポリマーの抽出処理の際に生じやすい繊維絡合不織布の形状破壊を防ぐために繊維絡合不織布表面を加熱プレスして、構成繊維間を一部融着させる方法や、あるいはポリビニルアルコールで代表される水溶性樹脂を繊維絡合不織布に含浸させて繊維間を糊付け固定する方法を用いても良い。更には、変性ポリエステルのように容易に熱収縮可能な樹脂を繊維成分として用いた場合には、熱水等により熱収縮を発現させることでより強固な繊維交絡を有する高繊維密度不織布とすることが可能である。このようにして形成される繊維絡合不織布の厚さとしては、1.0〜3.0mmが好ましい。
【0017】
繊維絡合不織布を熱収縮させることにより、繊維絡合不織布の繊維密度および絡合度合を向上させ得るのは、繊維絡合不織布の繊維同士がお互いに拘束し合うためであり、その結果シートの形態安定性を向上させることが出来るとともに銀付調皮革様シートに仕上げたときに充実感を発現し、より天然皮革に近いものとすることが出来る。
なお、この熱収縮工程において、長繊維を含有する繊維絡合不織布を熱収縮させ場合には、短繊維を含有する繊維絡合不織布を熱収縮させる場合に比べて、繊維絡合不織布を大きく収縮させることができ、そのために、極細単繊維の繊維密度が特に高くなる。熱収縮処理条件は、十分な収縮が得られる温度であれば特に限定されず、採用する収縮処理方法や処理対象物の処理量などに応じて適宜設定すればよい。例えば温水中へ導入して収縮処理する場合には、70〜150℃の温度範囲における何れかの温度で収縮処理するのが好ましい。
また、乾熱収縮も好ましく採用されるが、湿熱収縮処理がより好ましく、湿熱収縮処理方法としては、スチーム加熱により行うことが好ましい。スチーム加熱条件としては、雰囲気温度が60〜100℃の範囲で、相対湿度40〜100%RH、より好ましくは70〜100%RHの条件で、60〜600秒間加熱処理することが好ましい。このような加熱条件の場合には、繊維絡合不織布を高収縮率で収縮させることができるので好ましい。なお、海島型複合繊維の構成成分としてポリビニルアルコール系樹脂を用いた場合、相対湿度が低すぎる場合には、繊維に接触した水分が速やかに乾燥することにより、収縮が不充分になる傾向がある。
このように湿熱収縮処理された繊維絡合不織布は、極細繊維発生型繊維の熱変形温度以上の温度で加熱ロールや加熱プレスすることにより、さらに、繊維密度を高めてもよい。
十分な繊維交絡を確保し、高い繊維密度を確保することで十分な形態安定性を発現させることで、後に高分子弾性体を付与することなく本発明の銀付調皮革様シートの基体層として使用可能になり、その結果、銀付調皮革様シートに仕上げたときに充実感を発現し、より天然皮革に近いものに出来る。
そして、高い繊維密度を確保することで、高分子弾性体の付与が低下することに伴い、ポリウレタン不織布と基体層を構成する繊維絡合不織布との接着性が低下する。しかしながら、本発明では、高い繊維密度を確保可能な長繊維絡合不織布からなる基体層であっても、ポリウレタン水分散液からなる発泡コート層を介するによって、少量の塗布量で均一に長繊維絡合不織布の表面内部に浸透し、表面近傍にとどまることで、ポリウレタン不織布と長繊維絡合不織布の接着性を安定的に高めるとともに一体感のある風合いを兼ね備えることが可能である。
湿熱収縮処理工程における繊維絡合不織布の目付量の変化としては、収縮処理前の目付量に比べて、1.1倍(質量比)以上、さらには、1.3倍以上で、2.0倍以下、さらには1.6倍以下であることが好ましい。
【0018】
(繊維絡合不織布へのポリウレタンの含浸)
また、繊維絡合不織布の形態安定性を高める目的で、繊維絡合不織布の極細繊維化処理を行う前及び/又は後に、必要に応じて、ポリウレタン液を含浸し、ポリウレタンの非溶剤を含む液に浸漬して湿式凝固することで緻密な発泡スポンジを形成させてもよい。あるいは、ポリウレタンの水性液を繊維絡合不織布に含浸させた後に感熱ゲル化させて乾式凝固させることによって、形態安定性を向上させてもよい。
【0019】
繊維絡合不織布にポリウレタンを含浸させる方法としては、ポリウレタンの溶液又は分散液を含浸し、従来公知の乾式法又は湿式法により凝固させる方法が挙げられる。含浸方法としては、繊維絡合不織布を高分子弾性体の溶液又は分散液で満たされた浴中へ浸した後、プレスロール等で所定の含浸状態になるように絞るという処理を1回又は複数回行うディップニップ法が好ましく用いられる。また、その他の方法として、バーコーティング法、ナイフコーティング法、ロールコーティング法、コンマコーティング法、スプレーコーティング法等を用いてもよい。
【0020】
本発明においては、繊維絡合不織布に含浸される樹脂は、柔軟性、弾性回復性、スポンジ形成性等よりポリウレタンが用いられる。ポリウレタン以外の高分子弾性体として、例えば、アクリロニトリルエラストマー、オレフィンエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、アクリルエラストマー等をポリウレタンに適宜混合した重合体組成物としてもよい。
ここで含浸するポリウレタンとしては、例えば、平均分子量500〜3000のポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオールあるいはポリエステルポリエーテルジオール等から選ばれた少なくとも1種類のポリマージオールと4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの芳香族系、脂環族系或いは脂肪族系のジイソシアネートなどから選ばれた少なくとも1種類のジイソシアネート化合物と、2個以上の活性水素原子を有する少なくとも1種類の低分子化合物で分子量300以下の化合物、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ヘキサンジオール、3−メチルペンタンジオール−1,5、1,4−シクロヘキサンジオール、キシレングリコール等のジオール類、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン等のジアミン化合物、アジピン酸ヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等のヒドラジン或いはヒドラジド類等から選ばれた少なくとも1種類とを反応させて得たポリウレタンである。
【0021】
特に本発明の目的を達成する上では、好ましくは、1,4−ブタンジオール又は3−メチルペンタンジオール−1,5を主体とした鎖伸長剤を所定のモル比で反応させて得たポリウレタンである。
なおポリウレタン溶液中のポリウレタン濃度は10〜50質量%の範囲が好ましい。また上記ポリウレタンとしてポリマージオールと上記低分子化合物のモル比が1:1〜1:7の範囲が好ましい。
【0022】
繊維絡合不織布にポリウレタンを含有させた後に、ポリウレタン及び極細繊維発生型繊維の島成分に対しては非溶剤でかつ海成分に対しては、溶剤又は分解剤として働く液体で処理する事により極細繊維発生型繊維を極細繊維束に変成し、極細繊維絡合不織布とポリウレタンからなるシートとし、これを本発明の銀付調皮革様シートの基体層として用いる。もちろん、ポリウレタンを含有させるのに先立って、極細繊維発生型繊維を極細繊維束に変成する方法を用いてシートとしたものを基体層とすることもできる。
そして、このようにポリウレタンを含有させる場合において、極細繊維絡合不織布に対するその含有割合は本発明の銀付調皮革様シートとしての目的を達するものであれば特に限定されるものではないが、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、最も好ましくは天然皮革並の充実感ある風合いと剥離強力を兼ね備える点で15質量%以下である。ポリウレタン樹脂の含有割合が30質量%を超えると得られる銀付調皮革様シートが硬くなりやすいため好ましくない。
【0023】
(発泡コート層)
本発明においては、任意にポリウレタンが含浸された繊維絡合不織布からなる基体層の少なくとも一面に、ポリウレタン水分散液を1.5〜6倍に発泡させた液を塗布・乾燥して、発泡コート層が形成される。発泡倍率が1.5未満の場合、発泡コート層を構成する樹脂が基体層の表面近傍にとどまらず、基体層内部に浸透する傾向があり、十分な発泡コート層が得られない。逆に発泡倍率が6を超えた場合、発泡コート層を構成する樹脂が基体層の内部に浸透しにくい傾向があり剥離強力が低下する。
発泡コート層を形成するポリウレタンは、繊維絡合不織布に含有させたポリウレタンと同一であってもよく、また異なっていてもよいが、ポリウレタン不織布と同系統のポリウレタンを用いることで、銀付調皮革様シートの一体感が向上することから好ましい。発泡は、乾式発泡法、機械発泡法のいずれかの方法により形成されることが好ましい。しかしながら、それぞれの手法においては、特にDMF等の人体に毒性のある有機溶剤を用いないことが大前提である。このため、ポリウレタン水分散液をベースに、例えば造粘剤、整泡剤、発泡剤或いは起泡剤等をブレンドして、機械発泡、すなわち樹脂を機械的に攪拌して空気を噛み込ませて発泡させる方法が最も好ましい。
【0024】
乾式発泡については、使用する樹脂に発泡剤を添加して発泡させるが、発泡倍率が低い場合は、型押し性が低下する場合がある。したがって、発泡倍率は好ましくは1.5倍以上である。また、発泡倍率が6倍を超えると粘度が極端に高くなって、取扱いや均一な塗布が難しい。
ここでいう発泡倍率は、発泡剤を含有する樹脂溶液をそのまま熱風乾燥した時に、得られる発泡体のみかけ体積が、発泡剤を含有しない同質量の樹脂体積の何倍であるかを意味する。
【0025】
機械発泡についても、発泡コート層に均一に発泡が存在するが、発泡倍率が低いと充分な型押し性が得にくい傾向がある。したがって発泡倍率は好ましくは1.5倍以上である。また、発泡倍率が6倍を超えると粘度が極端に高くなって、取扱いや均一な塗布が難しい。
ここでいう発泡倍率は、樹脂溶液を機械発泡後に乾燥させた体積と機械発泡させていない同質量の樹脂体積の何倍であるかを意味する。
【0026】
発泡コート層の形成方法としては、特に限定されず、公知の塗布工程と乾燥工程を有することで形成することが可能である。例えば、塗布方法としては、コンマコーター、リバースコーター、ナイフコーターまたはグラビアコーターから適宜選択することが可能である。
【0027】
また、該発泡コート層の厚みは50〜400μmの範囲が基体層とのバランスの点から好ましい。50μm未満であれば基体層の凹凸の影響を受け易く平滑性が低下する傾向があり、400μmを越えると、銀付調皮革様シートの構成バランスが変わることによって皮革様の充実感が損なわれる傾向がある。また、70〜200μmの範囲であることが得られる銀付調皮革様シートの風合いの一体感および充実感に優れることからより好ましい。
さらに、発泡コート層の目付は、3〜40g/m2であることが、銀付調皮革様シートにおける層間のバランスの点から好ましい。
【0028】
発泡コート層を形成するポリウレタン水分散液は、ベースレジンとしてのポリウレタン以外に、粘度を調節する等のために、整泡剤、発泡助剤、増粘剤、固形分調整のための水等を含有していてもよい。また、形成される多孔質層に弾性を付与する弾性付与剤、ベースレジンを架橋するための架橋剤等を含有していることが好ましい。更に必要に応じて、顔料等の皮革様シート構造体の製造に際して通常使用される種々の添加剤を添加することができることは言うまでもない。
【0029】
ポリウレタン水分散液は、エマルジョン又はディスパージョンの形態で使用することができる。また、ポリウレタンは、上記発泡性の観点から、高固形分でTG(ガラス転移温度)が低く、起泡性が良好で消泡剤の含有量が少ないものが適している。
【0030】
ポリウレタン水分散液に含有される整泡剤としては、ステアリン酸アンモニウム等の長鎖アルキルカルボン酸アンモニウムを例示することができる。整泡剤の好ましい含有量は、ポリウレタンの固形分100質量部に対して、1〜10質量部である。
【0031】
また、ポリウレタン水分散液は発泡助剤を含有していてもよい。発泡助剤としては、例えばジアルキルスルホコハク酸ナトリウムを例示することができる。発泡助剤の含有量は、上記ポリウレタンの固形分100質量部に対して、0.5〜6質量部である。
【0032】
更に、ポリウレタン水分散液は、発生した泡を安定化させるための増粘剤を含有していてもよい。好ましい増粘剤としては、ポリアクリル酸アンモニウム、ポリアクリル酸を例示することができる。増粘剤の含有量は、ポリウレタンの固形分100質量部に対して、0.5〜3質量部である。
【0033】
また、ポリウレタン水分散液における水の添加量は、固形分と粘度の調整のため、ベースレジンの固形分100質量部に対して、30〜200質量部の範囲が好ましい。
【0034】
ポリウレタンが多少なりとも自己架橋性を有している場合には、時間の経過とともに硬化するが、硬化が遅いポリウレタンを用いる場合には、架橋剤を添加する必要がある。好ましい架橋剤としては、イソシアネートを例示することができる。架橋剤の含有量は、ポリウレタンの固形分100質量部に対して、1.5〜4質量部である。
【0035】
また、用いるポリウレタンの性質により、発泡コート層形成後の気泡が押圧によってつぶれて気泡の壁が互いに付着したままとなり、元の気泡の状態に復元されない場合には、弾性付与剤を添加することが好ましい。弾性付与剤としては、シリコンオイルを例示することができる。弾性付与剤の含有量は、ポリウレタンの固形分100質量部に対して、0.2〜1.5質量部である。
【0036】
(ポリウレタン不織布)
本発明において、基体層の少なくとも一面に形成された発泡コート層に積層されるポリウレタン不織布は、表面層(銀面層)を構成するもので、ポリウレタンからなり、その目付は、15〜125g/m2で、当該ポリウレタン不織布は、加熱加圧されてフィルム化され、銀面層を形成するものである。
このフィルム化された層、すなわち銀面層は、微細な孔を保っていることが好ましい。このような微細な孔を保つためには、ポリウレタン不織布を極細ポリウレタン繊維からなる不織布で構成することが好ましい。このような極細ポリウレタン繊維からなる不織布で構成することによって、前記した本発明の優れた性能の基本的部分が得られる。
【0037】
本発明のポリウレタン不織布を構成するポリウレタン成分としては、低分子ジオール、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチルペンタンジオール−1,5等から選ばれた少なくとも1種類との縮合重合によって得たポリエステルジオール、ポリエチレンエーテルグリコール、ポリプロピレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレングリコール等のポリエーテルグリコール、ポリカプロラクトングリコール、ポリバレロラクトングリコール等のポリラクトングリコールから選ばれた少なくとも1種類のポリマージオールであって、平均分子量が500〜3000のポリマージオールをソフトセグメントとするポリウレタンである。とりわけ3−メチルペンタンジオール−1,5を主体としたジオールとジカルボン酸との縮合重合によって得た平均分子量700〜3000のポリエステルジオールを用いたポリウレタンが、溶融成形性、溶剤安定性、耐加水分解性、耐候性、柔軟性、耐屈曲性などの点で適しており、特に直径300μm以下の微細孔を100個/cm2以上有し、かつ少なくとも一部の微細孔にはポリウレタン繊維の橋架け構造が存在しているような銀面層を形成させやすい点で好ましい。
【0038】
また、ポリマージオールと反応させる有機ジイシシアネートとしては、例えば4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添キシレンジイソシアネート等の脂肪族又は脂環族ジイソシアネート等から選ばれた少なくとも1種類、又は溶融紡糸性或いは溶融成形性を阻害しない範囲内で有機トリイソシアネート等のイソシアネート基を3個以上有する有機ポリイソシアネートを併用しても良い。
【0039】
そして鎖伸長剤としては、活性水素原子2個有する分子量300以下の化合物、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ヘキサンジオール、3−メチルペンタンジオール−1,5、1,4−シクロヘキサンジオール、キシレングリコール等のジオール類、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン等のジアミン類、アジピン酸ヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等のヒドラジン或いはヒドラジド類等から選ばれた少なくとも1種類が挙げられる。特に好ましくは、1,4−ブタンジオール又は3−メチルペンタンジオール−1,5を主体とした鎖伸長剤を用いたポリウレタンである。なお、該ポリマージオールと鎖伸長剤とのモル比は不織布の物性によって自由に変えることができるが、好ましくは1:2〜7程度である。
【0040】
本発明の銀付調皮革様シートの表面層を形成するポリウレタン不織布の目付が15g/m2未満である場合には、基体層との接着時に、後に述べる熱接着性樹脂の連続線状体を溶融させて基体層と極細繊維ポリウレタン不織布からなる層を接着する際に、溶融した熱接着性樹脂の連続線状体が極細繊維ポリウレタン不織布からなる層の繊維空隙を透過して表面に流出することで表面がざらついた触感の悪い銀面を形成する、あるいは銀面の平滑感等の外観が低下してしまう。一方、125g/m2を超える場合には、熱接着性樹脂への加熱が十分で無い場合があり、また銀面と基体層のバランスが低下することで風合いが低下する傾向にある。さらには熱融着後に、微細孔の径が小さくなる、あるいは微細孔が塞がり、通気性が低下する傾向があるため好ましくない。極細ポリウレタン不織布は、通常の紡糸方法により製造されたポリウレタン繊維を絡合して不織布とする方法、また紡糸と同時に不織布とする方法、例えばスパンボンド法やメルトブローン法等の方法により製造されるものでも良い。特にメルトブローン法を用いて得られる不織布は構成繊維が細く、いわゆる極細繊維と呼称できる範囲であり、かつ、繊維方向がランダム、繊維径が一定でなくある程度の分布を有するものであること等の理由により高級感のある、より天然皮革に近い銀面層が形成されるため好ましい。
なお、本発明において「極細ポリウレタン不織布とは」、不織布を構成する繊維の平均繊維径が10μm以下のものをいう。ここで、繊維の平均繊維径とは、電子顕微鏡写真により極細ポリウレタン繊維不織布の表面を観察し、任意10箇所の繊維径を測定した平均値とする。
【0041】
(銀付調皮革様シートの製造方法)
発泡コート層を介して、ポリウレタン不織布からなる層と基体層を接着し、積層一体化する、本発明の銀付調皮革様シートの製造方法は、接着して得られる銀付調皮革様シートに十分な柔軟性を確保し、より天然皮革に近い感性を発現させることが可能である。特に、天然皮革並みの充実感、柔軟性そして通気透湿性を確保した上で天然皮革並の感性を付与するためには、基体層である繊維層の密度を高く保つとともに、含有される高分子弾性体を少なくすることが重要である。
しかしながら、一方で、基体層に含有される高分子弾性体の含有率が低いことにより、銀面層との接着強度を確保することが困難になるという問題がある。
そこで、基体層に含有された高分子弾性体の比率を出来るだけ低く保ち、十分な柔軟性を確保した状態で、必要十分な接着強度を実現するためには基体層の極表面付近に、より軽量でより厚みのある状態でポリウレタン層を形成することがこの層を接着層として銀面層を形成するのに特に有効である。
本発明においては、基体層上に発泡ポリウレタン樹脂液をコートすることによりこの目的を達成した。すなわち、ポリウレタン樹脂を発泡させた状態で基体層上にコートし、直ぐに乾燥することにより、発泡による見掛け粘度の向上と低密度であることに起因して、コート液が基体層の表面付近に集中した状態でポリウレタン層を形成する。
また、基体層上に極細ポリウレタン不織布層を積層して銀面層を形成する場合に、これらが全面に渡り均一に積層できるように、十分な厚さの樹脂層を基体層の上に確保することが必要なのであるが、この点においても、コートするポリウレタン樹脂層を発泡状態にすることにより、コートにより増える重量を極力低く抑えた状態で十分な厚さの発泡ポリウレタン樹脂コート層を確保可能となり、これにより、均一に極細ポリウレタン不織布からなる銀面層を安定に均一に形成可能になるのである。
【0042】
本発明における基体層とポリウレタン不織布層とを一体化する方法においては、両者の間に、既に述べたような方法で発泡コート層を配した上で熱接着することが出来る方法であれば特に限定されるものではない。しかしながら、より容易かつ安定にこれら3層を一体化すると共に、柔軟性を確保した上で均一かつ強固に積層する方法としては、発泡コート層の表面に、前記ポリウレタン不織布を構成するポリウレタンの軟化温度よりも20℃以上低い温度を有する熱接着性樹脂の溶液を点状に塗布し、直ちに該ポリウレタン不織布を重ね合わせ、該熱接着性樹脂の軟化温度近傍の表面温度を有するエンボスロールで仮接着し、しかる後、該ポリウレタン不織布の軟化温度以上の表面温度を有するエンボスロールで本接着して、前記基体層及び該発泡コート層と該ポリウレタン不織布を積層一体化する方法が好ましい。
【0043】
ここで、これら3層を積層する方法としては、中央の発泡コート層に対してポリウレタン不織布が局所的に偏在するようなことなく、その形態を概ね保った状態で概ね均一に展開するような状態で接着できる方法であれば、特に限定されない。
具体的には、熱エンボスによる加熱プレスが好ましく用いられる。この場合、プレス温度、圧力に関しては特に限定されるものではないが、中央の熱接着性樹脂の連続線状体からなる不織布が均一に十分融けて3層の接着に効率よく寄与することが必要であるので、フラットあるいは細かく浅いシボ(梨地等)のロールを用いることが好ましい。
この時、少なくとも表面層となるポリウレタン不織布の側が熱エンボスロール側に来るように配することが必要である。そして仮接着用に塗布した熱接着性樹脂の軟化点から0〜50℃高い温度で、圧力0.1〜1MPaで加熱加圧することで仮接着することが好ましい。
【0044】
このようにして仮接着により一体化された積層体は、更にポリウレタン不織布の軟化温度以上の温度で本接着して積層一体化処理する、例えば、高温・高圧で熱処理することで、表面のポリウレタン不織布をフィルム化させ、スムースな銀面に仕上げることができるのである。
更に、この本接着による積層一体化処理は、熱接着性樹脂を、基体層およびポリウレタン不織布に浸透させるとともに十分な接着力を発現させるのにも有効である。
【0045】
これらを達成するための方法としては、熱エンボス法が好ましく用いられる。
このときのプレス温度、圧力は特に限定されるものではないが、通常、該ポリウレタン不織布を構成する樹脂の軟化点より0〜80℃高い温度で、かつ/又は圧力1〜10MPaで積層一体化することが好ましい。軟化点に対して低い温度で接着すると銀面層が形成されないか、あるいは銀面の外観不良が起こり、接着性不良も起こる場合がある。一方、軟化点から80℃を超える高い温度では、発泡コート層の微細孔がつぶれすぎて、通気性不良になる場合がある。あるいは、ポリウレタン不織布を構成する樹脂の流動性が上がりすぎて、熱エンボスロールに付着したり、基体層に流れ込むことで表面平滑性を確保できなくなる。
また、積層(貼り合せ)の圧力としては、1MPaより低い圧力で積層すると接着性不良となる場合があり、10MPaより高い圧力では風合が硬くなる傾向がある。なお、本発明において、軟化点は、融点測定装置(YANACO MP−500V)を用いて、目視にて溶融し始めたと判断した温度をその樹脂の軟化点とした。
【0046】
こうして得られたポリウレタン不織布からなる表面層(銀面層)は、直径300μm以下の微細孔を100個/cm2以上有していることが好ましい。ポリウレタン不織布は、加熱・加圧によりフィルム化するが、フィルムには微細孔が残存している。微細孔の直径が300μmを超えると光沢むらを起こし外観が悪化するため、300μm以下であることが必要であり、好ましくは100μm以下である。また、微細孔の存在個数は100個/cm2以上、好ましくは300個/cm2以上であり、この個数を満足することにより通気度が向上する。
なお、本発明において、少量ならば直径300μmを超える気孔が存在しても良い。微細孔直径とは、孔の表面積と同一の面積を有する円の直径と定義する。
【0047】
更に、少なくとも一部の微細孔にはポリウレタン繊維の橋架け構造が存在していることが好ましい。橋架け構造となっているものの割合は特に限定されないが、全微細孔の1割以上であれば光沢むらを解消する傾向にある。好ましくは3割以上を橋架け構造とする。本発明で言う橋架け構造を持った微細孔とは、シートの表面を任意に選び出し電子顕微鏡写真を観察し、微細孔内部に繊維直径3μm以上の繊維が1本以上橋架け状態、すなわち弦のような状態で存在しているものである。ポリウレタン繊維の橋架け構造を有していることが光沢むらを解消する上で、なぜ効果的であるかについては必ずしも明確ではないが、微細孔に入射した光が反射するに際して橋架け繊維によって遮られて、微細孔から出射し難くなるか、あるいは拡散されるためと予測される。
【0048】
また、ポリウレタン不織布からなる層、すなわち銀面層の厚みは、10〜100μmが好ましい。10μmより薄い場合には、銀面層の耐摩耗性が実用上十分でなく、100μmより厚い場合には自然な折れシボが得られず、高級感を損ねる。ここで言う銀面層の厚さとは電子顕微鏡写真により求められる厚さの平均である。
【0049】
本発明の製造方法において、接着に用いる熱接着性樹脂の溶液は、熱接着性樹脂の軟化点が、ポリウレタン不織布を構成するポリウレタンの軟化点より、少なくとも20℃以上低いことが必要である。該銀付調皮革様シートの積層貼り合せは、熱融着することにより、これに加えポリウレタン不織布の繊維が追加的に融着し、接着面積が大きくなり、その結果として接着力が向上する。
その際、接着力の発現は、通気性の低下を抑えるために、表面のポリウレタン不織布の熱融着は、高級感のある銀面層が得られるのに必要な程度に抑えており、主として接着に用いる熱接着性樹脂に基づいている。したがって、軟化点の差が20℃未満或いは接着用樹脂の軟化点の方が高い場合、接着強度が低下し、場合によっては積層物の一体感が損なわれ、あるいはポリウレタン不織布の微細孔が塞がり、通気性が低下する。
【0050】
また、ポリウレタン不織布層(銀面側)と基体層との剥離強度は、後述の測定方法において、30N/2.5cm以上であることが好ましく、30〜150N/2.5cmであることがより好ましい。
剥離強度が30N/2.5cmであれば、銀付調皮革様シートとしての実用に際して、表面のポリウレタン不織布層、すなわち銀面層が基体層から剥離する不具合を殆んど回避できる。
【0051】
このようにして得られた銀付調皮革様シートは、着色等の後加工を行うことが出来る。着色に関しては、もちろん銀付調皮革様シートを構成する成分に染料や顔料を予め添加しておくことも出来る。着色を後加工で行う場合、ジメチルホルムアミドを10質量%未満の量で含む溶剤、樹脂及び着色剤からなる着色剤溶液組成にて着色することができる。それに対し、ジメチルホルムアミドを10質量%以上にすると表面の微細孔がつぶれ透気性が損なわれてしまう。
次いで必要に応じて公知の方法によってエンボス型押し、染色、柔軟処理、モミ処理等の仕上処理を行って、銀付調皮革様シートに仕上げることができる。
【実施例】
【0052】
次に、本発明の実施態様を具体的な実施例で説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の部及び%は断りのない限り、質量に関するものである。
また、ポリウレタン不織布からなる層(銀面側)と基体層との剥離強度、及び皮革様シートの通気度はそれぞれ以下の方法で測定した。
【0053】
[剥離強度]:巾2.5cm×長さ25cmのテストピースの銀面側を、厚さ約4mmのゴム板にウレタン系接着剤で貼りあわせる。このテストピースに2cm間隔で5区間の印をつけた後、水中に10分間浸漬して取り出し、引張り試験機で50mm/分の速度で剥離試験を行なう。得られたチャートから、各区間の最低値を読み取り、その平均値を1cm巾に換算して示した。
【0054】
[通気度]:JIS L−1096の6.27.2のA法により定められた方法にて測定した。
【0055】
製造例1(基体層製造例)
海成分ポリマーとしてエチレン変性ポリビニルアルコール(エチレン単位の含有量8.5モル%、重合度380、ケン化度98.7モル%)、島成分ポリマーとしてポリエチレンテレフタレート(固有粘度0.65)を、それぞれ個別に溶融させた。海成分ポリマー中に均一な断面積の島成分ポリマーが25個分布した断面を形成できる、多数のノズル孔が並列状に配置された複数紡糸用口金に、該溶融ポリマーを断面における海成分ポリマーと島成分ポリマーの平均面積比が海成分/島成分=25/75となるよう圧力バランスで供給し、口金温度250℃でノズル孔より吐出させた。平均紡糸速度が3600m/分となるように気流の圧力を調節したエアジェット・ノズル型の吸引装置で牽引細化させ、平均断面積が177μm2(約2.4dtex)の海島型繊維を紡糸し、これを裏面側から吸引しつつネット上に連続的に捕集した。ネットの移動速度を調節して堆積量を調節し、さらに80℃に保温したエンボスロールにより線圧686N(70kg)/cmで押さえ、目付30g/m2の長繊維ウェブを得た。
【0056】
エンボス後の長繊維ウェブ表面に、鉱物油系の滑り性油剤を主体とし、帯電防止剤を混合した油剤をスプレー付与した後、クロスラッパー装置を用いて長繊維ウェブを連続的に折りたたむことにより、14層の層状長繊維ウェブにした。ついで、層状長繊維ウェブにニードルパンチングを作用させるニードルパンチ法によって三次元絡合処理を行い、海島型繊維の数密度が500個/mm2の絡合不織布を得た。ニードルパンチングの条件は、ニードル番手40番、バーブ深さ40μm、バーブ数1個で正三角形断面のニードルAで、両面側からバーブが厚さ方向に貫通するパンチ深さにて予備絡合、即ち折り畳んだ長繊維ウェブがずれてしまわない程度の絡合を行った後、ニードル番手42番、バーブ深さ40μm、バーブ数6個で正三角形断面のニードルBで、両面側からバーブ3個が厚さ方向に貫通するパンチ深さにて、海島型繊維同士が所望のレベルまで厚さ方向に絡合するように絡合処理を行った。ニードルBでのニードルパンチングは、両面側から合計で1700パンチ/cm2のパンチ数で行った。
【0057】
次いで、この絡合不織布の両面に18℃の水を均一にスプレーした後、直ちに温度75℃、相対湿度95%の雰囲気中を長さ方向、幅方向の何れの方向にも張力や摩擦応力が殆ど作用しないようにしつつ、4分間かけて連続的に通過させるような条件で湿熱収縮処理を行うことにより、成形時に伸長性発現しやすい構造とした。その後、絡合不織布を乾燥させる前に120℃に保温した金属ロール間でプレス処理して表面を圧縮平滑化しつつ乾燥させ、ついで不織布構造体全体を120℃の雰囲気中へ導入して乾燥させることにより、目付1125g/m2で厚さ方向に平行な断面において、海島型繊維の数密度が1900個/mm2であるように極めて緻密な絡合不織布を得た。
【0058】
得られた絡合不織布に高分子弾性体液としてポリカーボネート/エーテル系ポリウレタンを主体とするポリウレタン組成物の水分散液(固形分濃度15%)を含浸し、絡合不織布の質量100に対して高分子弾性体液の含液量が50になるよう金属ロールでプレス(搾液)した後、更に絡合不織布の表面温度が80℃になるような条件で赤外線ヒーターを1分間作用させることで感熱凝固させて、最後に120℃の雰囲気中へ導入して水分を乾燥させ、次いで直ちに150℃の雰囲気中へ導入して2分間キュア処理を行うことで、ポリウレタン組成物を海島型繊維同士の空隙に存在させた。次いで、液流染色機中で90℃の熱水により20分間処理して海島型繊維中の海成分である変性ポリビニルアルコールを抽出除去した後、120℃の雰囲気中へ導入して水分を乾燥させることで、変性ポリエチレンテレフタレートの超極細長繊維束からなる絡合不織布の内部にポリウレタン組成物が含有された厚さ約1.4mmの(人工皮革用)基体層を得た。
【0059】
製造例2(ポリウレタン不織布製造例)
平均分子量1150のポリ−3メチル−1,5ペンチルアジペートグリコールと4,4−ジフェニルメタンジイソシアネートおよび1,4−ブタンジオールを1:4:3のモル比(イソシアネートに基づく理論窒素量4.63%)で仕込み、スクリュー式混練型重合機を用い溶融重合法でポリウレタンを重合した。このポリウレタンの軟化点は172℃であった。得られたポリウレタンを溶融状態のままメルトブロー法で温度260℃に加熱したダイオリフィスから押し出すと共に、その両側にあるスロットから0.4MPaの圧力で噴出す260℃に加熱された高速空気により、25m/分の速度で走行するコンベアネット上に吹き付、オリフィスから押し出された樹脂を極細繊維化しながら平均目付25g/m2の不織布Aを得た。この時、コンベアネットのオリフィスと反対側には、スロットから噴出した熱風の3倍以上の流量の空気を吸引するサクションにより、繊維流の乱れを防ぐと共に、形成されるウェブの所望の均一性を確保した。また、このコンベアとノズルの間隔は25cmとした。得られた不織布は微細繊維のランダムウェブとなっていた。
【0060】
実施例1
製造例1で得られた基体層の上に塗布するコート液として、ポリカーボネート/エーテル系ポリウレタンを主体とするポリウレタン組成物の水分散液(固形分濃度40%)100部に対し、増粘剤(ACSUL810A)1.0部を加え発泡しない程度に軽く混合した後、整泡剤(ノプコDC100A)3.0部を加え、これも発泡しない程度に軽く混合したものを準備した。この時の混合液の粘度は2240poiseであった。この液を機械発泡により2倍に発泡させた発泡液とし、コンマコーターにて前記基体層上に50μmの厚さでコートした後、熱風乾燥機内を6m/分の速度で通過させることで乾燥した。熱風乾燥機内の温度は、70〜120℃まで徐々に上昇するような温度勾配で設定し、発泡液をコートした基体層をこの熱風乾燥機内を約2分かけて通過させることで発泡コート層を形成した。
次いで、発泡コート層と製造例2で得た極細ポリウレタン不織布を重ね合わせて、極細ポリウレタン不織布がエンボスロールに接するようにして、表面温度が160℃のエンボスロールにより、プレス圧0.49MPa(5kg/cm2)の圧力にて、発泡コート層に極細ポリウレタン不織布を溶融接着して銀付調皮革様シートを得た。
この銀付調皮革様シートは、光沢むらのない高級な皮革様外観を有すると共に通気性1.9cm3/cm2/秒であった。そして表面には平均直径10μmの微細孔が約800個/cm2存在しており、電子顕微鏡写真から、約3割の微細孔に橋架けが見られた。また銀面層(被覆層)の厚みは47μmであった。
また、このものの剥離強度は87N/2.5cmであった。
【0061】
実施例2
実施例1において、発泡コート層を形成するためのポリウレタン水分散液として、水系ポリウレタン(日華化学製、エバファノールHA10C)100部に増粘剤(ACSUL810A)1部を加え均一に攪拌後、整泡剤(ノプコDC100A)3部を追加し、泡立たない程度に攪拌し液を混合した。混合後の液の粘度は2300cpsであった液を機械発泡により発泡させ、体積が2倍になるようにし、この発泡液からなるコート液を調製した。このコート液を、コンマコーターを用いて製造例1で得られた基体層(繊維シート)上に50μの厚さでコートし、120℃に設定されたテンター乾燥機中を約1分で走行させて乾燥し、発泡コート層を有する基体層を得た。
得られた発泡コート層を有する基体層に150メッシュのグラビアロールを用いて接着用樹脂としてポリウレタン(SSTC−44:大日精化製、軟化点110℃)の10%ジメチルホルムアミド(以下DMF)溶液を点状に塗布した直後、製造例2で得たポリウレタン不織布を重ね合わせ、110℃の表面梨地様の熱エンボスロールにて、プレス圧0.196MPa(2kg/cm2)にて仮接着して、ポリウレタン不織布が積層された皮革様シートを得た。
この後、エンボスロールの表面温度を160℃に上げ、プレス圧0.49MPa(5kg/cm2)の圧力にて極細ポリウレタン不織布を溶融接着して銀付調皮革様シートを得た。この銀付調皮革様シートは、光沢むらのない高級な皮革様外観を有すると共に通気性0.7cm3/cm2/秒であった。そして表面には平均直径10μmの微細孔が約800個/cm2存在しており、電子顕微鏡写真から、約3割の微細孔に橋架けが見られた。また被覆層の厚みは36μmであった。このものの剥離強度は118N/2.5cmであった。
【0062】
比較例1
製造例1で得られた繊維シート上に150メッシュのグラビアロールを用いて接着用樹脂としてポリウレタン(SSTC−44:大日精化製、軟化点110℃)の10%ジメチルホルムアミド(以下DMF)溶液を点状に塗布した直後、製造例2で得たポリウレタン不織布を重ね合わせ、プレスロールで接着、乾燥して仮固定し、ポリウレタン不織布が積層された皮革様シートを得た。その後表面温度160℃のエンボスロールでプレス圧0.49MPa(5kg/cm2)の圧力にて極細ポリウレタン不織布を溶融接着して銀付調皮革様シートを得た。この銀付調皮革様シートは、光沢むらのない高級な皮革様外観を有すると共に通気性4.3cm3/cm2/秒であった。そして表面には平均直径12μmの微細孔が約750個/cm2存在しており、電子顕微鏡写真から、約3割の微細孔に橋架けが見られた。また被覆層の厚みは22μmであった。このものの剥離強度は26N/2.5cmであった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の銀付調皮革様シートの製造方法は、表面のポリウレタン不織布が橋架け構造を有する微細孔を持った銀面からなり、銀面とその下の発泡コート層と基体層との間で一体感のある風合を有し、かつ、実用上十分な剥離強度を有し、更に透気性、透湿性に優れ特に光沢むらのない極めて優れた外観を有する銀付調皮革様シートを得ることのできる製造方法であり、紳士靴、スポーツシューズ、一般靴等に利用できる銀付調皮革様シートを安定して製造できる方法として有効に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
任意にポリウレタンが含浸された繊維絡合不織布からなる基体層の少なくとも一面に、ポリウレタン水分散液を1.5〜6倍に発泡させた液を塗布・乾燥して、発泡コート層を形成した後、該発泡コート層にポリウレタン不織布を積層一体化することを特徴とする銀付調皮革様シートの製造方法。
【請求項2】
ポリウレタン不織布が、15〜125g/m2の目付からなる請求項1に記載の銀付調皮革様シートの製造方法。
【請求項3】
前記ポリウレタン水分散液中のポリウレタンと、前記繊維絡合不織布に含浸したポリウレタンが同じである請求項1又は2に記載の銀付調皮革様シートの製造方法。
【請求項4】
発泡コート層が、目付3〜40g/m2である請求項1〜3のいずれか1項に記載の銀付調皮革様シートの製造方法。
【請求項5】
前記発泡コート層の表面に、前記ポリウレタン不織布を構成するポリウレタンの軟化温度よりも20℃以上低い温度を有する熱接着性樹脂の溶液を点状に塗布し、直ちに該ポリウレタン不織布を重ね合わせ、該熱接着性樹脂の軟化温度近傍の表面温度を有するエンボスロールで仮接着し、しかる後、該ポリウレタン不織布の軟化温度以上の表面温度を有するエンボスロールで本接着して、前記基体層及び該発泡コート層と該ポリウレタン不織布を積層一体化する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の銀付調皮革様シートの製造方法。
【請求項6】
基体層の繊維絡合不織布が、極細長繊維不織布とその内部にポリウレタンが0〜20質量%含有されてなる請求項1〜5のいずれか1項に記載の銀付調皮革様シートの製造方法。

【公開番号】特開2011−69019(P2011−69019A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−221260(P2009−221260)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】