説明

銀付調皮革様シート

【課題】二次加工性に優れ、高い機械的物性を有し、かつ環境負荷の少ない銀付調皮革様シートを提供する。
【解決手段】基材の少なくとも一方の面に表面層と1層以上の接着層を含む銀面を有する銀付調皮革様シートであって、
(1)前記表面層が分子内にカルボキシル基および炭素数1〜3のオキシアルキレン繰り返し単位からなるポリオキシアルキレングリコール部位を有する自己乳化型の水分散性ポリウレタン樹脂を含む層であり、
(2)前記表面層の外表面の水分散性ポリウレタン樹脂のカルボキシル基の80モル%以上が架橋することなく残存している、
(3)該水分散性ポリウレタン樹脂の熱軟化温度が150℃以上200℃以下の範囲であり、かつ150℃における貯蔵弾性率(E’)が3.0MPa以上30.0MPa以下の範囲である、及び
(4)該表面層が1層以上の水分散性ポリウレタン樹脂と架橋剤を含む接着層を介して基材と接着されている、
を同時に満足する銀付調皮革様シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二次加工性に優れ、高い機械的物性を有し、かつ環境負荷の少ない銀付調皮革様シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、人工皮革業界においても環境負荷の軽減が謳われるようになり、人工皮革や合成皮革を製造する際の有機溶剤使用量を削減する試みが多くなされている。特に銀付調皮革様シートの銀面層を構成する樹脂を、有機溶剤を必要とするポリウレタン樹脂から水分散性ポリウレタン樹脂へと切り替える動きが見られるようになってきた(たとえば、特許文献1)。
【0003】
しかしながら、水分散性ポリウレタン樹脂は溶剤系の樹脂と比べて多くの問題を含んでいる。まず、水分散性ポリウレタン樹脂は一般に水分散体として使用されるためある程度の親水性が必要があり、これにより樹脂自体の耐水性が悪くなる傾向がある。耐水性を改善するために水分散性ポリウレタン樹脂に外部架橋剤を添加することが知られている。しかし、一般に架橋反応は水分散性ポリウレタン樹脂の極性官能基(親水基など)を利用するため、樹脂の親水性が低くなり、それに伴い濡れ性が低下する。そのため、水分散性ポリウレタン樹脂層間の接着が悪くなり、十分な剥離強力を有する水分散性ポリウレタン樹脂多層構造を得ることが出来ない。銀付調皮革様シートを二次製品へと加工する際には、該シート表面上に熱可塑性樹脂の射出成形体を直接形成したり、熱可塑性樹脂のシートを接着剤を介して接着することが行われている。水分散性ポリウレタン樹脂の親水性が低下し、濡れ性が低下すると、銀付調皮革様シート表面と該射出成形体、シート間の接着力が低下する。これらの問題により二次製品の意匠性が損なわれ、二次加工が困難になり、用途が限られているのが現状である。
【0004】
これらの問題を回避するために、たとえば表面に微細な孔を設けて、物理的なアンカー効果により接着力を高める方法が知られているが、外観の品位が落ちたり、耐水性が悪くなるなどの問題がある。また、コロナ放電処理により表面に極性基を設け、濡れ性を高める方法が提案されているが、余分な工程が増える、処理能力に限界があるなどの問題がある。
【0005】
このように水分散性ポリウレタン樹脂を使用した銀付調皮革様シートにおいて、耐水性などの耐久性を保ちつつ、十分な剥離強力と二次加工性および意匠性を併せ持つ銀付調皮革様シートは未だ提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3946494号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、二次加工性に優れ、高い機械的物性を有し、かつ環境負荷の少ない銀付調皮革様シートに関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果上記問題を解決し、上記目的を達成する銀付調皮革様シートを見出した。すなわち本発明は、基材の少なくとも一方の面に表面層と1層以上の接着層を含む銀面を有する銀付調皮革様シートであって、以下の(1)〜(4)、
(1)前記表面層が分子内にカルボキシル基および炭素数1〜3のオキシアルキレン繰り返し単位からなるポリオキシアルキレングリコール部位を有する自己乳化型の水分散性ポリウレタン樹脂を含む層であり、
(2)前記表面層の外表面の水分散性ポリウレタン樹脂のカルボキシル基の80モル%以上が架橋することなく残存している、
(3)該水分散性ポリウレタン樹脂の熱軟化温度が150℃以上200℃以下の範囲であり、かつ150℃における貯蔵弾性率(E’)が3.0MPa以上30.0MPa以下の範囲である、及び
(4)該表面層が1層以上の水分散性ポリウレタン樹脂と架橋剤を含む接着層を介して基材と接着されている、
を同時に満足する銀付調皮革様シートに関する。
【0009】
本発明の好ましい態様において、前記表面層を構成する水分散性ポリウレタン樹脂は乳化剤を含有しない。
【発明の効果】
【0010】
剥離強力および二次加工性に優れ、高い機械的物性を有し、かつ環境負荷の少ない銀付調皮革様シートが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の銀付調皮革様シートは、基材の少なくとも一方の面に表面層と1層以上の接着層を含む銀面を有する。表面層は、自己乳化型の水分散性ポリウレタン樹脂により主として構成されている。該水分散性ポリウレタン樹脂は分子内にカルボキシル基および炭素数1〜3のオキシアルキレン繰り返し単位からなるポリオキシアルキレングリコール部位を有する。表面層の外表面に存在する水分散性ポリウレタン樹脂のカルボキシル基の80モル%以上、好ましくは90モル%以上、より好ましくは100%が外部架橋剤などにより架橋されることなく、−COOH及び/又は−COO-の形で残存している。該水分散性ポリウレタン樹脂の水分散体において、ペンダントカルボキシル基の一部または全部がアミン類や金属水酸化物によって中和され、カルボキシル基及び/又はカルボキシレート基(−COO-)の状態にあるが、表面層形成後も外表面に存在する水分散性ポリウレタン樹脂のカルボキシル基の80モル%以上が外部架橋剤により架橋されることなく−COOH及び/又は−COO-の形で残存している。外部架橋剤とは、カルボキシル基と高い反応性を有する架橋剤を指し、たとえば、エポキシ化合物、アジリジン化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物などを挙げることができる。
【0012】
前記水分散性ポリウレタン樹脂により構成される表面層の外表面では、親水基であるカルボキシル基及び/又はカルボキシレート基が表面に配向して存在するため、銀面表面(表面層の外表面)の親水性が高く、濡れ性が向上する。それに加えて、前記水分散性ポリウレタン樹脂はノニオン性親水成分として、炭素数1〜3のオキシアルキレン繰り返し単位からなるポリオキシアルキレングリコール部位を含有するので、表面樹脂層表面の親水性がさらに高められ、濡れ性が向上する。このように表面の高い濡れ性により、後述する接着層(架橋剤を含むポリウレタン樹脂層)との密着性が向上し、接着強力が向上する。さらに、水分散性ポリウレタン樹脂のカルボキシル基の80モル%以上が架橋されることなく残っているので、水分散性ポリウレタン樹脂と接着層中の水分散性ポリウレタン樹脂の架橋反応が十分に進行するため、表面層と接着層との接着力が強くなる。
【0013】
また、銀付調皮革様シートをスポーツ靴などに二次加工する際に用いられる熱可塑性樹脂シート、熱可塑性ポリウレタン射出成形体の銀付調皮革様シート表面への接着力も高くなり、二次加工性が向上する。
【0014】
本発明に使用される水分散性ポリウレタン樹脂は、分子内にカルボキシル基および炭素数1〜3のオキシアルキレン繰り返し単位からなるポリオキシアルキレングリコール部位の両方を有する。該水分散性ポリウレタン樹脂の水分散体において、カルボキシル基がアミン類や金属水酸化物により一部あるいは全部中和されてカルボキシレート基に変化し、それにより水分散性ポリウレタン樹脂が水中に分散され易くなる。しかしながら、水分散性ポリウレタン樹脂がイオン性の強いカルボキシル基やカルボキシレート基のみを含む場合、親水性が高くなり過ぎて、実用上十分な銀面の耐水性が得られない。本発明においては、水分散性ポリウレタン樹脂がアニオン性親水基であるカルボキシル基(カルボキシレート基)とノニオン性親水基であるポリオキシアルキレングリコール部位の両方を含有することで、水への分散性と耐水性のバランスをとることができる。
【0015】
本発明の銀付調皮革様シートは、前記の表面層が1層以上の架橋剤を含有する水分散性ポリウレタン樹脂層(接着層)により基材と接着されていることを特徴とする。表面層中の水分散性ポリウレタン樹脂は、前述したように、親水性が高く、濡れ性に優れている。また、水分散性ポリウレタン樹脂のカルボキシル基が80モル%以上架橋されることなく残存しているので、架橋剤を介して接着層中の水分散性ポリウレタン樹脂と結合することができる。このように、表面層と接着層が化学結合(架橋)を伴って接着するので、非常に剥離強力の高い銀付調皮革様シートが得られる。
【0016】
以下に本発明の銀付調皮革様シートの製造工程を説明する。本発明では基材の少なくとも一方の面に銀面を形成する。用いる基材は特に限定されず、織物、編み物、不織布等から適宜選択できるが、風合い等の面から不織布であることが好ましい。また、この不織布を構成する繊維形状は特に限定されないが、銀付調皮革様シートの折れ皺防止や表面品位向上の面から、混合紡糸方式や複合紡糸方式などの方法を用いて得られる極細繊維発生型繊維(例えば、海島型断面繊維や多層積層型断面繊維)を極細化して得られる、平均繊度が0.001〜0.5デシテックスの極細繊維であることが好ましい。
【0017】
以下、極細繊維発生型繊維として海島型繊維を用いた場合について説明するが、海島型繊維以外の極細繊維発生型繊維を用いた場合も同様に本発明を実施することが出来る。極細繊維を形成するポリマー(海島型繊維の島成分)の具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート、スルホイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル;ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリヒドロキシブチレート−ポリヒドロキシバリレート共重合体等の脂肪族ポリエステル;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド10、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6−12等のポリアミド;ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、塩素系ポリオレフィンなどのポリオレフィン;エチレン単位を25〜70モル%含有する変性ポリビニルアルコール等の変性ポリビニルアルコール;およびポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマーなどのエラストマー等が挙げられる。これらのポリマーはそれぞれ単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、ポリエチレンテレフタレート(PET)、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ナイロン6、ナイロン12、ナイロン6−12、前記ポリアミドの共重合体、およびポリプロピレンが、紡糸性などの生産性に優れ、得られる銀付調皮革様シートの力学物性などが優れるので好適である。
【0018】
海島型繊維を極細繊維の繊維束に変換する際に、海成分ポリマーは溶剤または分解剤により抽出または分解除去される。従って、海成分ポリマーは溶剤に対する溶解性または分解剤による分解性が島成分ポリマーよりも大きいことが必要である。海島型繊維の紡糸安定性の点から島成分ポリマーとの親和性が小さく、かつ、紡糸条件において溶融粘度及び/又は表面張力が島成分ポリマーより小さいことが好ましい。このような条件を満たす限り海成分ポリマーは特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−エチレン共重合体、スチレン−アクリル共重合体、ポリビニルアルコール系樹脂などが好ましく用いられる。有機溶剤を用いることなく銀付調皮革様シートを製造することができるので、海成分ポリマーに水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール(水溶性PVA)を用いるのが特に好ましい。
【0019】
次に基材の少なくとも一方の面に銀面(表面層と接着層)を形成する方法について説明する。銀面の形成方法としては、本発明の効果が得られる限り特に限定されないが、品位や風合いの面から、離型紙上に形成した表面層と接着層を基材の表面に接着層を介して接着するいわゆる乾式造面法が好ましい。
【0020】
本発明の表面層に用いられる水分散性ポリウレタン樹脂は、分子内にカルボキシル基および炭素数1〜3のオキシアルキレン繰り返し単位からなるポリオキシアルキレングリコール部位を有する自己乳化型の水分散性ポリウレタン樹脂である。また、この水分散性ポリウレタン樹脂の分子内に含有するカルボキシル基の80モル%以上、好ましくは90モル%以上、より好ましくは100%が外部架橋剤により架橋されずに残存している。通常、水分散性ポリウレタン樹脂は、ポリオール成分、ポリイソシアネート成分、外部架橋剤などの原料から水分散体として製造される。従って、外部架橋剤中のカルボキシル基との反応性を有する官能基の全当量が、水分散性ポリウレタン樹脂の中カルボキシル基の全当量の20%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは0%になるように外部架橋剤の添加量を選ぶことによって、水分散性ポリウレタン樹脂のカルボキシル基の80モル%以上、好ましく90モル%以上、より好ましくは100%が外部架橋剤と反応することなく、遊離カルボキシル基、カルボキシレート基の形で残存する。本発明の銀付調皮革様シートでは、表面層の外表面に存在する水分散性ポリウレタン樹脂中のカルボキシル基の大部分が外部架橋剤との反応で失われることなく表面に存在するため、親水性が向上し濡れ性が高まる。これにより、特にスポーツ靴の製靴時に好適に用いられる熱可塑性ポリウレタン樹脂のインジェクション一体成形や高周波溶接などの二次加工性が向上する。また、種々の接着剤、特に接着界面での膨潤や溶解が起こらない水分散性ポリウレタン樹脂などの接着剤との接着性が向上する。
【0021】
カルボキシル基との反応性を有する外部架橋剤としては、たとえば、エポキシ化合物、アジリジン化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物などを挙げることができる。外部架橋剤は水分散タイプの架橋剤と必要に応じて界面活性剤を配合したものであっても、それ自体が水分散性のものであってもよく、水分散性ポリウレタン樹脂の水分散体へ均一になるまで攪拌しながら添加するなどの方法により添加する。
【0022】
外部架橋剤の添加量は、本発明の目的を損なわない限り特に限定されないが、ポットライフ等への悪影響が生じる場合があるので、水分散性ポリウレタン樹脂中の外部架橋剤と反応可能な官能基の全当量に対して、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、より好ましくは0%である。
【0023】
本発明の水分散性ポリウレタン樹脂は、例えば、高分子ポリオール、有機ポリイソシアネート、鎖伸長剤および架橋剤との反応部位となるヒドロキシル基含有化合物、アミノ基含有化合物、カルボキシル基含有化合物などの製造原料から得ることができる。
【0024】
高分子ポリオールとしては、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオールなどを挙げることができ、銀付調皮革様シートの用途に応じて単独使用しても併用してもよい。高分子ポリオール1分子当たりの水酸基の数は2より大きくてもエマルジョン合成に支障をきたさない限り問題はない。水酸基の数が2より大きい高分子ポリオールを得る方法としては、高分子ポリオールを製造する際に1分子中の水酸基の数が3個以上である低分子ポリオールを使用する方法、ポリウレタン製造の際に高分子ジオールと1分子中の水酸基の数が3個以上である高分子ポリオールを混合する方法を挙げることができる。すなわち水酸基の数が2より大きい高分子ポリオールを製造する方法としては、例えば低分子ジオールと低分子ジカルボン酸を縮合重合してポリエステルジオールを製造する際に、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの3個以上の水酸基を有する低分子ポリオールを低分子ジオールと併用する方法が挙げられる。
【0025】
本発明で使用する水分散性ポリウレタン樹脂は、分子内にカルボキシル基および炭素数1〜3のオキシアルキレン繰り返し単位からなるポリオキシアルキレングリコール部位を有することを特徴とする。該ポリオキシアルキレングリコール部位はノニオン性親水基であり、これが残存するカルボキシル基と共に銀面表面の濡れ性を高め、銀付調皮革様シートの二次加工性を高める。ポリオキシアルキレングリコールの例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体などがあげられる。本発明において該ポリオキシアルキレングリコールの含有量は、高分子ポリオール全重量の好ましくは1〜30%、より好ましくは2〜20%である。含有量が1%以下の場合は水分散性ポリウレタン樹脂に十分な濡れ性を付与することが難しく、30%以上の場合は親水性が高すぎて、耐水性に欠ける銀付調皮革様シートとなる。
【0026】
本発明の水分散性ポリウレタン樹脂にカルボキシル基を導入するためのカルボキシル基含有化合物は、カルボキシル基を少なくとも1個およびカルボキシル基を除く活性水素原子を含む基、例えば水酸基またはアミノ基、を少なくとも2個有する化合物であればよい。例えば、ジヒドロキシアルカン酸が好ましく、より具体的にはジメチロールアルカン酸が好ましい。ジメチロールアルカン酸の例としては2,2−ジメチロールプロピオン酸、ジメチロール酢酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロールペンタン酸を挙げることができ、このなかでも特に2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸が好適に使用できる。カルボキシル基含有化合物中のカルボキシル基は水酸基及びアミノ基と比べてイソシアネート基との反応性が比較的低く、水分散性ポリウレタン樹脂製造時に有機ジイソシアネートとほとんど反応しない。前記カルボキシル基含有化合物はその水酸基またはアミノ基がイソシアネート基と選択的に反応するので、第3級アミン塩や金属塩等を形成し得るペンダントカルボキシル基を有する水分散性ポリウレタン樹脂が得られる。水分散性ポリウレタン樹脂は通常水分散体として製造され、該水分散体が表面層形成にそのまま使用される。水分散体中の水分散性ポリウレタン樹脂のカルボキシル基は第3級アミン、金属水酸化物等で全部塩の形にして中和しても良いが、部分的に中和し、一部を遊離のカルボキシル基の形で残しておいても良い。
【0027】
水分散性ポリウレタン樹脂中のカルボキシル基含量(遊離カルボキシル基+カルボキシレート基)は、水分散性ポリウレタン樹脂重量の好ましくは0.1〜1.5重量%、より好ましくは0.5〜1.0重量%である。カルボキシル基の含有量が0.1%以下である場合、該水分散性ポリウレタン樹脂の安定な水分散体を得ることが難しく、1.5%以上である場合は銀面層の耐水性が実用上不十分である。なお、上記カルボキシル基含量は、すべてのカルボキシル基が遊離カルボキシル基(−COOH)であると見なした場合の含量である。
【0028】
水分散体中の水分散性ポリウレタン樹脂が有するカルボキシル基の一部又は全ては第3級アミン、金属水酸化物等の塩基性化合物と塩を形成していてもよい。銀面の耐水性を考慮して、第3級アミンがより好ましく使用される。第3級アミンとしてはトリメチルアミン、トリエチルアミン、メチルジエチルアミン、トリプロピルアミン等のトリアルキルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジイソプロピルエタノールアミン、N,N−ジメチルプロパノールアミン等のアルカノールジアルキルアミン、N−メチルジエタノールアミン等のジアルカノールアルキルアミン等が好ましく使用される。金属水酸化物の例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属水酸化物が挙げられる。
【0029】
本発明で使用される水分散性ポリウレタン樹脂の水分散体は、乳化剤を使用せず、分子内に導入されたカルボキシレート基の作用により水に分散された自己乳化型水分散体であることが好ましい。乳化剤は銀面の表面にブリードして銀面の曇りの原因となる、銀面の二次加工性を低下させる可能性がある、銀面の耐水性を低下させるなどの理由から、使用しないことが好ましい。
【0030】
イソシアネート化合物についても特に制限はなく、通常の水分散性ポリウレタン樹脂の製造に従来から使用されている公知の脂肪族、脂環族、及び芳香族の有機ジイソシアネートのいずれを使用してもよい。例えば、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。これらの有機イソシアネートは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0031】
鎖伸長剤としては、水分散性ポリウレタン樹脂製造に一般に用いられるジアミノ化合物、ジオール化合物、アミノアルコールなどを挙げることができ、また一部にモノアミノ化合物を併用して分子量を制御したり、アミノカルボン酸を使用して末端にカルボキシル基を導入することもできる。このような化合物としては、例えば、イソシアネート基と反応し得る水素原子を分子中に含有する分子量400以下の低分子化合物を用いることができる。例えば、ヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジンおよびその誘導体、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、ヘキサメチレンジアミン、4,4’−ジアミノフェニルメタン、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミンなどのジアミン類、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、イソブチルアミン、t−ブチルアミン、シクロヘキシルアミンなどのモノアミン、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、ビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、シクロヘキサンジオール、キシリレングリコール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、ネオペンチルグリコールなどのジオール、アミノエチルアルコール、アミノプロピルアルコールなどのアミノアルコール類、ε−アミノカプロン酸(6−アミノヘキサン酸)、γ−アミノ酪酸(4−アミノブタン酸)、アミノシクロヘキサンカルボン酸、アミノ安息香酸などのアミノカルボン酸、水などが挙げられる。これら低分子化合物は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
表面層形成に使用される水分散性ポリウレタン樹脂の熱軟化温度は150℃以上200℃以下であり、好ましくは160℃以上190℃以下である。熱軟化温度が200℃以上である場合、銀付調皮革様シートのスポーツ靴などへの二次加工の際に一般に用いられる熱可塑性樹脂の熱圧着や高周波溶接などにおいて、銀面表面の軟化・溶融が起こり難く、接着性が著しく低下する。一方、熱軟化温度が150℃以下である場合は、耐熱性が不十分で二次加工で銀面が受ける加工温度に耐えられないし、耐摩耗性などの耐久性が低く、品質に劣る銀付調皮革様シートが得られる。
【0033】
本発明に使用される水分散性ポリウレタン樹脂の150℃における貯蔵弾性率(E’)は3.0MPa以上30.0MPa以下、好ましくは4.0MPa以上20.0MPa以下、より好ましくは5.0MPa以上15.0MPa以下である。貯蔵弾性率が3.0MPa以下である場合、水分散性ポリウレタン樹脂の耐摩耗性、耐光性、耐水性などの耐久性が低くなり、品質に劣る銀付調皮革様シートとなる。また30.0MPa以上である場合は、二次加工での一般的な加工温度領域において水分散性ポリウレタン樹脂が軟化せず、二次加工性に欠ける銀付調皮革様シートとなる。
【0034】
熱軟化温度および貯蔵弾性率(E’)は、水分散性ポリウレタン樹脂の分子量、ハードセグメントの組成、ハードセグメントおよびソフトセグメントの比率、相分離構造などを制御することにより適宜調整することができる。
【0035】
本発明の銀付調皮革様シートの銀面の表面(表面層の外表面)は無孔質であることが好ましい。一般的には銀面層の表面に孔を設けることで、物理的なアンカー効果により熱可塑性樹脂のインジェクション一体成形、接着剤での接着などの二次加工性が向上する。しかし、本発明においては、孔を設けなくても銀面表面は十分な二次加工性を発揮する。また、無孔質であると、銀面からの水の浸透を抑えたり、外観の品位を向上させることができる。銀面表面が無孔質である銀付調皮革様シートは、例えば、発泡剤、発泡性物質を添加していない水分散性ポリウレタン樹脂の水分散体を離型紙に塗布し、乾燥して無孔質層を形成した後、接着層を無孔質層上に形成し、次いで、基材と張り合わせる方法によって得られる。なお、本発明の効果に影響をおよぼさない範囲で無孔質表面層と接着層の間に発泡層を形成してもよい。
【0036】
本発明の銀付調皮革様シートでは、表面層が1層以上接着層(架橋剤を含む水分散性ポリウレタン樹脂の層)を介して基材と接着されている。一般に水分散性ポリウレタン樹脂は溶剤系ポリウレタン樹脂のように膨潤、溶解しないので水分散性ポリウレタン樹脂層同士の接着力は低くなる傾向がある。本発明の表面層を構成する水分散性ポリウレタン樹脂は、親水性が高く、濡れ性に優れている。また、水分散性ポリウレタン樹脂のカルボキシル基が80モル%以上架橋されることなく残存しているので、接着層と架橋による化学的な結合を伴った接着が可能である。これにより、非常に剥離強力の強い銀付調皮革様シートが得られる。
【0037】
接着層形成用の水分散性ポリウレタン樹脂としては、例えば2液系接着剤に使用される公知のポリウレタン樹脂が好ましい。このようなポリウレタン樹脂は前記の水分散性ポリウレタン樹脂と同様に、例えば、高分子ポリオール、有機ポリイソシアネート、鎖伸長剤および架橋剤との反応部位となるヒドロキシル基含有化合物、アミノ基含有化合物、カルボキシル基含有化合物、乳化剤などの製造原料から得ることができる。また、接着層形成用の水分散性ポリウレタン樹脂は表面層形成用の水分散性ポリウレタン樹脂と同じであってもよい。
【0038】
接着層に使用される架橋剤としては、公知の架橋剤を使用することが可能であり、たとえば、エポキシ化合物、アジリジン化合物、カルボジイミド化合物、有機ポリイソシアネート化合物、オキサゾリン化合物、メラミンホルムアミド化合物、ユリアメチロール化合物などを挙げることができる。この中でも得られる銀付調皮革様シートの剥離強力が優れることから有機ポリイソシアネート化合物が好適である。架橋剤は水分散タイプの架橋剤と必要に応じて界面活性剤を配合したものであっても、それ自体が水分散性のものであってもよい。架橋剤の添加量は接着層形成用の水分散性ポリウレタン樹脂に含まれる架橋剤と反応可能な官能基の全当量の100〜400%が好ましく、200〜300%がより好ましい。100%未満の場合、一部の架橋剤が水との副反応で失活するため、十分な架橋密度が得られず、物性が低下する。また、400%を超える場合は、架橋反応後の接着層の硬度が高くなりすぎて、風合いが硬化してしまう。接着層は、水分散性ポリウレタン樹脂の水分散体に架橋剤を均一になるまで攪拌しながら添加し、得られた水分散体を塗布し乾燥することにより形成される。本発明の主旨からは、接着層形成用の分散体も有機溶剤を含まないことが好ましい。
【0039】
上記した基材、表面層、接着層を有する銀付調皮革様シートは、例えば、以下のようにして製造することが出来る。まず、水分散性ポリウレタン樹脂を好ましくは20〜60質量%含有する水分散体を離型紙に50〜250g/m2塗布する。次いで、70〜130℃で1〜10分間乾燥して表面層となる樹脂層を形成する。乾燥は一段階で行ってもよいし、温度及び/又は時間を変えて二段階で行ってもよい。
【0040】
次いで、表面層となる樹脂層の上に、接着層形成用水分散体を50〜300g/m2塗布する。該水分散体中の水分散性ポリウレタン樹脂含量は20〜60質量%、架橋剤含量は2〜20質量%であるのが好ましい。次いで、70〜130℃で1〜10分間乾燥することにより接着層が得られる。乾燥は一段階で行ってもよいし、温度及び/又は時間を変えて二段階で行ってもよい。上記のように接着層を形成することにより、表面層となる樹脂層中の水分散性ポリウレタン樹脂と接着層中の水分散性ポリウレタン樹脂が架橋剤により架橋され、表面層と接着層が強固に接着される。形成された接着層上に、同一又は異なる水分散性ポリウレタン樹脂、同一又は異なる架橋剤を含む水分散体を用いて上記と同様の条件で第2、第3などの複数の接着層を形成してもよい。接着層を複数層形成した場合、基材に直接接着する接着層以外の層を中間層と称することがある。
【0041】
次いで、得られた多層体(接着層/表面層/離型紙)を基材表面に接着層を介して戴置し、クリアランスロールなどを用いて常温〜130℃で0.5〜10kgf/cm2の圧で圧着する。その後、70〜130℃で1〜10分間乾燥し、必要に応じて40〜90℃で1〜3日間熟成する。最後に離型紙を剥がすことにより本発明の銀付調皮革様シートが得られる。
【0042】
本発明の銀付調皮革様シートの各層の厚さは用途に応じて異なるが、表面層の厚さは10〜50μm、中間層の厚さは10〜50μm、接着層の厚さは30〜130μm、基材の厚さは0.2〜3.0mmの範囲から選ばれる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下において、部および%は、特にことわりのない限り質量基準であり、評価は次の方法で行った。
【0044】
(1)水分散性ポリウレタン樹脂の熱軟化温度および貯蔵弾性率
水分散性ポリウレタン樹脂にて縦4cm×横0.5cm×厚み400μm±100μmのフィルムサンプルを作成した。サンプル厚みをマイクロメーターで測定後、動的粘弾性測定装置(DVEレオスペクトラー、(株)レオロジー社製)を用いて、周波数11Hz、昇温速度3℃/分の条件で23℃および50℃における動的粘弾性率を測定し、貯蔵弾性率および熱軟化温度を算出した。
【0045】
(2)銀付調皮革様シートの剥離強力
表面を削った巾2.5cmのゴム板に接着剤を均一に塗布し、100℃で2分熱処理した後、23cm(TD)、2.5cm(MD)の銀付調皮革様シートサンプルを張り合わせて試験片を作製した。試験片を2〜4kgf/cm2の圧力でプレスし、室温にて1昼夜放置した。その後、試験片のゴム板先端部を一方のチャックに、銀付調皮革様シートの銀面先端部を他方のチャックに挟み、引張試験機にて速度100mm/分で銀面層と基材を剥離した。得られたSS曲線の平坦な部分の平均値を求めた。試験片3個の平均値をcm当たりに換算して剥離強力とした。
【0046】
(3)銀付調皮革様シート表面の二次加工性
銀付調皮革様シートの表面に剥離強力測定用の熱可塑性ウレタン系ホットメルトテープ(サン化成製 メルコテープ BW−II)を150℃の温度で1kgf/cm2の圧力で20秒間圧着して試験片を作成した。試験片のホットメルトテープ先端部を一方のチャックに、銀付調皮革様シートの銀面先端部を他方のチャックに挟み、引張試験機にて速度100mm/分でホットメルトテープと表面樹脂層を剥離した。得られたSS曲線の平坦な部分の平均値を求めた。試験片3個の平均値をcm当たりに換算した値を二次加工性の指標とした。
【0047】
実施例1
下記の表面層形成用水分散性ポリウレタン樹脂水分散体を、離型紙上に100g/m2で塗布し、90℃で1分、次いで120℃で2分乾燥することにより、厚みが35μmの表面層を形成した。
【0048】
表面層形成用水分散性ポリウレタン樹脂水分散体
ハイドランULK−190(ポリエーテル系ポリウレタン、固形分35%、DIC(株)製) 100部
ハイドランアシスターT−5(増粘剤、DIC(株)製) 1.5部
ダイラックブラウンHS−8640(茶顔料、DIC(株)製) 10部
【0049】
次いで、得られた樹脂膜の上に下記の接着層形成用水分散体を150g/m2塗布し、90℃で3分乾燥して厚みが70μmの接着層を形成した。得られた多層体(接着層/表面層/離型紙)を、平均単繊維繊度0.1デシテックスの極細繊維絡合不織布(厚み:1.0mm)からなる基材表面に接着層を介して載置し、基材の厚みの70%のクリアランスロールで基材に圧着した。その後、100℃で2分間乾燥し、60℃で2日間熟成後、離型紙を剥して銀付調皮革様シートを得た。
【0050】
接着層形成用水分散体
ハイドランWLA−407(ポリエーテル系ポリウレタン、固形分45%、DIC(株)製) 100部
ハイドランアシスターT−5(増粘剤、DIC(株)製) 1.5部
ハイドランアシスターC−5(変性ポリイソシアネート系架橋剤、DIC(株)製) 10部
【0051】
こうして得られた銀付調皮革様シートの表面層の外表面に存在する水分散性ポリウレタン樹脂のカルボキシル基は理論上100%が架橋されることなく残存している。表面層形成に使用した水分散性ポリウレタン樹脂の熱軟化温度は185℃、150℃における貯蔵弾性率(E’)は7.5MPaであった。また、表面層は1層の接着層により基材と強固に接着されていた。
【0052】
上記の銀付調皮革様シートは、耐加水分解性、耐摩耗性に優れ、基材と銀面(接着層/表面層)の剥離強力は4.5kg/cmであり、剥離は基材と接着層間の破壊により生じていた。また、表面の二次加工性評価において、4.5kg/cm以上の応力でもホットメルトテープが剥離せず、結果的には基材と接着層が破壊剥離した。
【0053】
実施例2
実施例1と同様に離型紙上に表面層を形成した後、下記の中間層形成用水分散体を80g/m2塗布し、90℃で1分、次いで120℃で2分乾燥することにより、厚みが30μmの中間層を得た。
【0054】
中間層形成用水分散体
ハイドランULK−190(ポリエーテル系ポリウレタン、固形分35%、DIC(株)製) 100部
ハイドランアシスターT−5(増粘剤、DIC(株)製) 1.5部
ハイドランアシスターC−5(変性ポリイソシアネート系架橋剤、DIC(株)製) 5部
ダイラックブラックHS−9550(黒顔料、DIC(株)製) 10部
【0055】
次いで、得られた中間層の上に実施例1で使用した接着層形成用水分散体を100g/m2塗布し、90℃で3分乾燥して接着層を形成した。得られた多層体(接着層/中間層/表面層/離型紙)を、平均繊維繊度0.1デシテックスの極細繊維絡合不織布(厚み:1.0mm)からなる基材表面に接着層を介して載置し、基材の厚みの70%のクリアランスロールで基材に圧着した。その後、100℃で2分間乾燥し、60℃で2日間熟成後、離型紙を剥して銀付調皮革様シートを得た。
【0056】
こうして得られた銀付調皮革様シートの表面層の外表面に存在する水分散性ポリウレタン樹脂のカルボキシル基は理論上100%が架橋されることなく残存している。表面層形成に使用した水分散性ポリウレタン樹脂の熱軟化温度は185℃、150℃における貯蔵弾性率(E’)は7.5MPaであった。また、表面層は中間層及び接着層により基材に強固に接着されていた。
【0057】
上記の銀付調皮革様シートは、3層構造の銀面(接着層/中間層/表面層)を有しており、意匠性に優れるものであった。また、耐加水分解性、耐摩耗性に優れ、基材と銀面の剥離強力は4.4kg/cmであり、剥離は基材と接着層間の破壊により生じていた。さらに、表面の二次加工性評価において、4.5kg/cm以上の応力でもホットメルトテープが剥離せず、結果的には基材と接着層が破壊剥離した。
【0058】
比較例1
表面層形成用水分散性ポリウレタン樹脂水分散体に、多価カルボジイミド系架橋剤を3部添加した以外は実施例1と同様にして銀付調皮革様シートを得た。表面層の外表面に存在する水分散性ポリウレタン樹脂のカルボキシル基の残存量は理論上50%であった。得られた銀付調皮革様シートは、剥離強力が2.9kg/cmで、表面層と接着層間で一部剥離が起こった。また、二次加工性評価結果が2.0kg/cmで、ホットメルトテープが表面層から剥離した。
【0059】
比較例2
熱軟化温度が210℃、150℃における貯蔵弾性率(E’)が40MPaの水分散性ポリウレタン樹脂を表面層形成用樹脂として使用した以外は実施例1と同様にして銀付調皮革様シートを得た。得られた銀付調皮革様シートは耐加水分解性、耐摩耗性に優れ、剥離強力は4.0kg/cmであったが、二次加工性評価結果が2.5kg/cmで、ホットメルトテープが表面層から剥離した。
【0060】
比較例3
熱軟化温度が140℃の水分散性ポリウレタン樹脂を表面層形成用樹脂として使用した以外は実施例1と同様にして銀付調皮革様シートを得た。得られた銀付調皮革様シートは耐加水分解性、耐光性、耐摩耗性に劣るものであった。
【0061】
比較例4
150℃における貯蔵弾性率(E’)が0.9MPaの水分散性ポリウレタン樹脂を表面層形成用樹脂として使用した以外は実施例1と同様にして銀付調皮革様シートを得た。得られた銀付調皮革様シートは耐加水分解性、耐光性、耐摩耗性に劣るものであった。
【0062】
比較例5
離型紙上に表面層形成した後に、さらにその上に同じ水分散性ポリウレタン樹脂水分散体を用いて第2の表面層を形成した。それ以降は実施例1と同様にして銀付調皮革様シートを得た。得られた銀付調皮革様シートの剥離強力は2.0kg/cmで、表面層と第2の表面層の間で剥離した。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の銀付調皮革様シートは、紳士靴、スポーツシューズ、鞄、ベルト、カメラケース、ランドセルなどの製造に好適に使用することができる。特に、本発明の銀付調皮革様シートは剥離強力および二次加工性に優れ、靴用途、その中でも高い剥離強度を必要とし、製靴時に複雑な成形加工を施されることが多いスポーツシューズの主に甲部分などに用いられる。甲部分と靴底ゴム部とをインジェクション一体化により製靴するスポーツシューズでは銀付調皮革様シートの剥離強力および表面の二次加工性が製品の品質に顕著に影響する。本発明の銀付調皮革様シートはこのような方法で製造されるスポーツシューズに好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも一方の面に表面層と1層以上の接着層を含む銀面を有する銀付調皮革様シートであって、以下の(1)〜(4)、
(1)前記表面層が分子内にカルボキシル基および炭素数1〜3のオキシアルキレン繰り返し単位からなるポリオキシアルキレングリコール部位を有する自己乳化型の水分散性ポリウレタン樹脂を含む層であり、
(2)前記表面層の外表面の水分散性ポリウレタン樹脂のカルボキシル基の80モル%以上が架橋することなく残存している、
(3)該水分散性ポリウレタン樹脂の熱軟化温度が150℃以上200℃以下の範囲であり、かつ150℃における貯蔵弾性率(E’)が3.0MPa以上30.0MPa以下の範囲である、及び
(4)該表面層が1層以上の水分散性ポリウレタン樹脂と架橋剤を含む接着層を介して基材と接着されている、
を同時に満足する銀付調皮革様シート
【請求項2】
前記表面層の水分散性ポリウレタン樹脂が乳化剤を含有しないことを特徴とする請求項1に記載の銀付調皮革様シート。

【公開番号】特開2013−11040(P2013−11040A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145542(P2011−145542)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】