説明

銀陰極活性化の改良

ハロゲン化4−アミノピコリン酸の選択的な電気化学的還元は、約+1.0〜約+1.8ボルトの最終電位にて陰極を活性化することにより改良される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(背景技術)
米国特許第4217185号、第4242183号および第6352635 B2号ならびに米国特許出願公開第2009/0090639号は、対応するより高次のハロゲン化ピリジンおよびピコリン酸誘導体の選択的な電気化学的還元により、特定のハロピリジンおよびハロピコリン酸誘導体を調製することについて記載している。この方法では、銀陰極は、ゼロボルトの初期値から少なくとも+0.3ボルト、好ましくは+0.7ボルトの最終値に電位を増加させることを伴う陽極酸化により活性化される。しかし、不動態化のため、転化が進むにつれて反応速度は通常低下し、バッチを終了するために再陽極酸化により陰極を再活性化することがときには必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
不動態化(passivation)への耐性がより高く、反応時間の短縮が可能になると思われる、陰極を活性化するための改良方法があれば望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0003】
+1.0〜+1.8ボルトの最終電位にて陰極を活性化することにより、反応速度が速まること、また、バッチを終了するために陰極の再活性化がさほどたびたびは必要でないことが今や見出された。より詳細には、本発明は、式I:
【化1】

【0004】
(式中、
Xは、ClまたはBrを表し、
XがClであるとき、YはBrでないことを条件として、Yは、H、F、Cl、Br、またはC〜Cアルキルを表し、
は、ClまたはCOHを表し、
は、HまたはNHを表す。)の3−ハロピリジンまたは3−ハロピコリン酸を調製するための改良方法であり、
式II:
【化2】

【0005】
(式中、
X、Y、R、およびRは、前に定義したとおりであり、ここで、両方のXはClまたはBrのどちらかである。)の3,5−ジハロピリジンまたは3,5−ジハロピコリン酸の溶液中に、Ag/AgCl(3.0M Cl)参照電極に対する−0.4〜−1.7ボルトの陰極電位にて、直流または交流電流を陽極から銀陰極に流す方法において、
前記改良が、+1.0〜+1.8ボルト、好ましくは+1.2ボルトの最終電位で陰極を活性化することを特徴とする改良方法に関する。
【発明の効果】
【0006】
この改良は、4−アミノ−3,5,6−トリクロロピリジン−2−カルボン酸(ピクロラム)からの4−アミノ−3,6−ジクロロピリジン−2−カルボン酸(アミノピラリド)の製造にとって特に有利である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、3,5−ジハロピリジンまたは3,5−ジハロピコリン酸の5−ハロ置換基の選択的な電気化学的還元のための改良方法に関する。本明細書では、「ハロゲン」または「ハロ」という用語は、ClまたはBrを指す。アルカリ金属は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムを意味し、ナトリウムおよびカリウムが好ましい。
【0008】
例えば、4−アミノ−3,5−ジハロピコリン酸の還元に伴う反応は、以下のように表すことができる。
A)中和
【化3】

【0009】
B)陰極反応
【化4】

【0010】
C)陽極反応
【化5】

【0011】
D)全反応
【化6】

【0012】
カルボン酸は、従来の技法により反応混合物を酸性にし、生成物を回収することにより回収する。
【0013】
所望の電解還元は、当技術分野で一般に知られている技法により実施される。一般に、所望の程度の還元が得られるまで十分な電流を電解質の中を流しながら、電解セルに添加される電解質を形成するために、式IIの出発材料を溶媒に溶解する。
【0014】
臭化アリールの還元電位が、比較用の塩化アリールの電位より0.5ボルト高い(負がより小さい)ことを当業者には理解されたい。臭素は常に最初に還元脱離(reduced off)されることになる。したがって、XがClのとき、YはBrではあり得ない。
【0015】
電解セルの設計は柔軟性を有する。電気分解は、バッチ毎に、あるいは連続式または半連続式で行うことができる。セルは、電極を含有する撹拌槽、または任意の従来設計のフローセルであってもよい。いくつかの場合では、セルを別々の陽極室および陰極室に分割するためにセパレータを使用することが望ましいことがある。有用なセパレータ材料の例として、種々のアニオンおよびカチオン交換膜、多孔性テフロン(登録商標)、アスベスト、およびガラスがある。陰極電位が参照電極に対して制御される、3つの電極の使用が好ましいが、別法として、陽極と陰極との2つの電極だけを使用し、セル電流、セル電圧、または両方のいずれかを制御して電気分解を実施することができる。便宜上、電解質が陰極液と陽極液の両方の役割を果たす3電極非分割セルが好ましい。
【0016】
陽極は、例えば、白金、グラファイト、炭素、銀上の酸化銀などの金属酸化物、またはハステロイCなどの合金を含めた、化学的に不活性な任意の材料でもよく、グラファイト、炭素およびハステロイCが好ましい。陰極は主に銀で構成されている。電極は、プレート、ロッド、ワイヤ、スクリーン、ガーゼ、ウール、シートまたはプールの形態を取ることができ、拡張メッシュスクリーンが好ましい。陽極または陰極は、別の材料に施した被覆膜からなることも可能であり、その例としてチタン上に被覆した酸化ルテニウムなどの貴金属酸化物がある。
【0017】
最も好ましい陰極は、米国特許第4217185号および第4242183号に記載されるように調製した活性化銀陰極である。そのような活性化陰極は、導電性基板上に銀の微結晶の層を堆積して、複合体電極を形成することにより、または、銀電極それ自体を陽極酸化することにより調製することができる。例えば、後者を例示するために、非活性化銀電極を苛性陰極水溶液に浸し、または沈め、陽極酸化し、したがって電極の表面にある銀の一部を酸化銀に転化し、同時にその表面を粗くすることができる。次いで、電極の極性を反転し、電極の表面に付着した微結晶の銀の粒子に酸化物を電気分解により転化する。本発明の改良された活性化手順は、ゼロボルトの初期値から少なくとも+1.0ボルト〜+1.8ボルト、最も好ましくは+1.2ボルトの最終値に電位を増加させることを伴う。酸化物堆積物を還元するには、陰極の負の分極が必要である。陰極電位は、酸化段階の間に得られた+1.0〜+1.8ボルトの値から、−0.5ボルト以下の値に徐々に減少する。この方法では、陰極液または塩基水溶液に銀は一切添加する必要はない。
【0018】
陰極は通常、0.5〜4重量%のアルカリ金属の塩化物、臭化物または硫酸塩、好ましくはNaCl、過剰のアルカリ金属水酸化物、好ましくは1.0〜4.0重量%のNaOHの存在下で、および還元されることになる出発材料のさらなる存在下で、活性化される。便宜上、出発材料は、反応フィード中にある場合と同じ濃度、すなわち1〜20重量%、好ましくは8〜12重量%で存在する。
【0019】
水は電気分解にとって最も好ましい溶媒であるが、有機溶媒を単独で、または共溶媒として使用できる場合がある。溶媒または共溶媒系は、出発材料および電解質のすべてまたは大部分を溶解するべきであり、あるいは少なくとも、妥当な速度で還元が進行できるように十分に溶解するべきである。さらに、溶媒または共溶媒系は、電気分解条件に対して不活性となるべきである、すなわち、許容できない程度にまで陰極または陰極液材料を有害に変化させない、あるいはこれと有害に反応しない。水以外では、好ましい溶媒/共溶媒は、水と混和性があり、低分子量アルコール、テトラヒドロフラン、ジオキサンおよびポリグリコールエーテルなどのエーテル、ならびにジメチルホルムアミドまたはジメチルアセトアミドなどの低級アミドを含む。
【0020】
アルカリ金属水酸化物が、支持電解質として必要であり、NaOHおよびKOHが最も好ましい支持電解質である。NaClは好ましい塩であるが、アルカリの塩化物、臭化物、および硫酸塩を含めた他の塩が使用可能である。
【0021】
反応において、3,5−ジハロピコリン酸の場合、1当量の塩基が出発材料を中和するのに必要であり、電気分解で消費される水酸イオンを生成するために追加の1当量が必要である。反応は通常、反応全体を通して過剰の塩基、好ましくは1〜4重量%過剰の塩基を用いて行われる。
【0022】
陰極液またはフィード中の3,5−ジハロピリジンまたは3,5−ジハロピコリン酸の濃度は、1〜20重量%、好ましくは8〜12重量%とすることができる。低濃度では生産性が低下し、高濃度では、通常、収率の低下、生成物純度の低下および電気効率の低下をもたらす。
【0023】
電気分解のための適切な温度は、一般に5〜90℃の範囲にある。好ましい温度範囲は20〜60℃である。30〜50℃が最も好ましい。
【0024】
ハロゲンが選択的に還元される見掛け陰極電位は、例えば、特定基板の構造、セル配置、および電極を隔てる距離を含めた、種々の要因に依存することが当業者には理解されよう。一般に、標準Ag/AgCl(3.0M Cl)電極に対する陰極電位は、Brについては−0.4〜−1.1ボルトの範囲内であり、Clについては−0.8〜−1.7ボルトの範囲内となるべきである。Brについては、陰極電位は、好ましくは−0.6〜−0.9ボルトである。Clについては、陰極電位は、好ましくは−1.0〜−1.4ボルトである。1平方センチメートル当たりのアンペア(amp/cm)で示す電流密度は、少なくとも0.005、好ましくは0.05amp/cm以上となるべきである。
【0025】
酸素分子の発生が好ましいが、他の多くの陽極反応を使用してもよい。例としては、塩素分子または臭素分子の発生、ギ酸塩またはシュウ酸塩などの犠牲種の酸化によるニ酸化炭素の生成、あるいは有機基質の酸化による貴重な副生物の形成が挙げられる。
【0026】
3,5−ジハロピコリン酸のための目下好ましい操作方法において、出発材料を水性の苛性ブライン中に溶解させて、塩基性の水溶液(例えば、約10重量%のハロゲン化4−アミノピコリン酸、約2.5重量%の過剰NaOH、および約1重量%のNaCl)を形成し、その塩基性水溶液を、フィード溶液の存在下で+1.2ボルトでの陽極酸化により活性化された拡張銀メッシュ陰極を有する非分割電気化学セルを通して連続的に再循環させる。反応混合物をアルカリに保ちながら、Ag/AgCl(3.0M Cl)参照電極に対する−0.6〜−1.5ボルトの陰極電位での電気分解を、所望の程度の還元が生じるまで続ける。所望の生成物を通常の技法により回収する。その酸は、例えば、酸性化により反応混合物から沈殿させ、次いで、ろ過、または水に不混和の有機溶媒を用いた抽出のいずれかを行うことができる。
【0027】
以下の実施例は、本発明を例示する。
【実施例】
【0028】
4−アミノ−3,5,6−トリクロロピリジン−2−カルボン酸(ピクロラム)フィード溶液の調製
4リットル(L)のフラスコに2420グラム(g)の熱水、250gの50重量%NaOH、30gのNaCl、および300gのピクロラム(95%)を加えた。溶液を30分間(min)撹拌し、1ミクロンのポリプロピレン膜でろ過し、5Lのフィード循環槽に移した。この溶液の重量は3000gであり、9.5重量%の4−アミノ−3,5,6−トリクロロピリジン−2−カルボン酸、2.0〜2.5%の過剰のNaOH、および1.0%のNaClを含有した。比較例と本開示の改良例の両方でこのフィード溶液を使用した。
【0029】
実施例A
+0.7ボルトでの陽極酸化を伴う4−アミノ−3,6−ジクロロピリジン−2−カルボン酸の調製(比較)
非分割電気化学セルに500gのピクロラムフィード溶液を加えた。このフィード溶液を毎分4リットル(L/min)の速度および43〜45℃の温度で1つの非分割電気化学セルを通して循環させた。銀メッシュ電極のサイズは1.8cm×15.4cmであった。+0.7ボルト(V)での通常の陽極酸化の後に、セルの極性を反転し、電気分解を開始した。陰極の作用電位は、Ag/AgCl(3.0M Cl)参照電極に対して−1.35Vに制御した。フィードを再循環させながら、計10mlの50重量%のNaOHを最初の5時間に渡り添加して、NaOH濃度を1.5〜3.0%過剰に維持した。電流を5.0アンペアで開始し、徐々に減らして24時間で0.6アンペアにした。
【0030】
電気分解を開始した後は、陽極酸化はそれ以上必要ではなかった。8時間でセル排出液はアミノピラリド68%およびピクロラム26%(どちらもHPLCの面積%)を有する。24時間でセル排出液はアミノピラリド88%およびピクロラム3.2%を有していた。
【実施例1】
【0031】
+1.2ボルトでの陽極酸化による4−アミノ−3,6−ジクロロピリジン−2−カルボン酸の調製
実施例Aと同じ非分割電気化学セルに500gのピクロラムフィード溶液を加えた。このフィード溶液を4L/minの速度および43〜45℃の温度で1つの非分割電気化学セルを通して循環させた。+1.2ボルト(V)での通常の陽極酸化の後に、セルの極性を反転し、電気分解を開始した。陰極の作用電位は、Ag/AgCl(3.0M Cl)参照電極に対して−1.35Vに制御した。フィードを再循環させながら、計10mlの50重量%のNaOHを最初の5時間に渡り添加して、NaOH濃度を1.5〜3.0%過剰に維持した。電流を6.5アンペアで開始し、ゆっくり減らして24時間で0.7Vにした。
【0032】
電気分解を開始した後は、陽極酸化はそれ以上必要ではなかった。8時間でセル排出液はアミノピラリド76%およびピクロラム17%(どちらもHPLCの面積%)を有していた。24時間でセル排出液はアミノピラリド88%およびピクロラム1.2%を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:
【化7】

(式中、
Xは、ClまたはBrを表し、
XがClであるとき、YはBrでないことを条件として、Yは、H、F、Cl、Br、またはC〜Cアルキルを表し、
は、ClまたはCOHを表し、
は、HまたはNHを表す。)の3−ハロピリジンまたは3−ハロピコリン酸を調製するための改良方法であり、
式II:
【化8】

(式中、
X、Y、R、およびRは、前に定義したとおりであり、ここで、両方のXはClまたはBrのどちらかである。)の3,5−ジハロピリジンまたは3,5−ジハロピコリン酸の溶液中に、Ag/AgCl(3.0M Cl)参照電極に対する−0.4〜−1.7ボルトの陰極電位にて、直流または交流電流を陽極から銀陰極に流す方法において、
前記改良が、+1.0〜+1.8ボルトの最終電位で前記陰極を活性化することを特徴とする改良方法。
【請求項2】
前記銀陰極が、+1.2ボルトの電位での陽極酸化、次いで逆分極により活性化される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
式Iの前記3−ハロピコリン酸がアミノピラリドであり、式IIの前記3,5−ジハロピコリン酸がピクロラムである、請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2013−508564(P2013−508564A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−536945(P2012−536945)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【国際出願番号】PCT/US2010/054082
【国際公開番号】WO2011/053582
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(501035309)ダウ アグロサイエンシィズ エルエルシー (197)
【Fターム(参考)】