説明

銅−ニッケル−ケイ素系合金

実質的に、約1.0〜約6.0重量パーセントのNi、最大約3.0重量パーセントのCo、約0.5〜約2.0重量パーセントのSi、約0.01〜約0.5重量パーセントのMg、最大約1.0重量パーセントのCr、最大約1.0重量パーセントのSn、最大約1.0重量パーセントのMn、残部である銅および不純物からなり、耐力および電気伝導率をともに向上された銅基合金。少なくとも約945MPa(137ksi)の耐力、及び少なくとも約25%IACSの電気伝導率を有するように加工される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、参照により本明細書に援用される、2008年4月14日に出願した米国仮特許出願第61/044,900号、2007年12月21日に出願した米国仮特許出願第61/016,441号、及び2008年12月17日に出願した米国実用特許出願第12/336,731号の利益を主張するものである。
【0002】
本発明は、銅基合金、特に、銅−ニッケル−ケイ素系合金に関するものである。
【背景技術】
【0003】
銅−ニッケル−ケイ素系合金は、コネクタ及びリード・フレームなどの高強度電気伝導性部品の生産に広く使用されている。Olin Corporation社によって開発されたC7025は、良好な機械的特性(耐力655MPa(95ksi)〜758MPa(110ksi))及び良好な電気特性(35%のIACS)を備える銅−ニッケル−ケイ素系合金の重要な実例である。参照により本明細書に援用される、米国特許第4,594,221号及び米国特許第4,728,372号を参照のこと。近年、コバルトで変性した銅、ニッケル、およびケイ素の合金であるC7035が、Olin Corporation社とWieland Werke社によって開発された。この合金は、なおいっそう良好な機械的特性(耐力689MPa(100ksi)〜896MPa(130ksi))及び電気特性(40〜55%のIACS)を有することができる。参照により本明細書に援用される米国特許第7,182,823号を参照のこと。
【0004】
重要であると考えられる銅合金の特性として、加工性、伝導性、強度、延性、及び応力緩和に対する抵抗性が挙げられる。
【0005】
加工性は、既知の半径を有するマンドレルの周りで銅ストリップを90度曲げる曲げ試験によって通常は評価される。ローラー曲げ試験では、ローラーを使用して、マンドレルの周りにストリップを形成する。或いは、Vブロック試験において、マンドレルを使用してストリップをオープン・ダイに押し込んで、強制的にマンドレルの半径に適合させる。そこで、両方の試験について、ストリップの厚さ(t)の関数としての最小曲げ半径(mbr)がmbr/tとして報告される。最小曲げ半径は、10×〜20×までの倍率で目に見える亀裂を生じることなくストリップをマンドレルの周りで曲げられるマンドレルの最小半径である。一般的に、mbr/tは、曲げ軸線が圧延方向に対し法線方向にあるものとして定義される良い方向での曲げ、及び曲げ軸線が圧延方向に対し平行であるものとして定義される悪い方向での曲げの両方について報告される。良い方向での曲げと悪い方向での曲げの両方に対する最大4tのmbr/tは、良い加工性をもたらすものとみなされる。より好ましいのは、最大2のmbr/tである。
【0006】
電気伝導率の測定単位は、通常的はIACSのパーセンテージである。IACSとは、「純」銅に20℃での100%のIACSの伝導度値を割り当てる国際焼きなまし銅線標準のことである。本開示全体を通して、すべての電気的及び機械的試験は、別段の指定のない限り室温、公称的に20℃で実施される。修飾表現「約」は、正確さを必要としないことを示し、引用値の+/−10%として解釈されるべきである。
【0007】
通常、強度は耐力として測定される。高強度銅合金は、655MPa(95ksi)を超え、好ましくは758MPa(110ksi)を超える耐力を有する。複数の構成要素に形成された銅合金寸法が減少し、これらの構成要素の小型化が継続しているので、所定の硬度調整に対する強度及び伝導度の組合せが、単独で見たときの強度または伝導度のいずれかよりも重要なものとなる。
【0008】
延性は、伸びで測定できる。伸びの一尺度は、A10伸びであり、これは、破断後の長さの永久伸びを、10mmである元の長さLのパーセンテージで表したものである。
【0009】
応力緩和に対する許容される抵抗性は、3000時間にわたって150℃の温度に試験試料を曝露した後に残留している応力が、与えられた応力の少なくとも70%、及び1000時間にわたって105℃の温度に試験試料を曝露した後に残留している応力が、与えられた応力の少なくとも90%により評価される。
【0010】
応力緩和抵抗性は、リング法[Fox A.、Research and Standards 4 (1964) 480頁]を用いて測定された。この場合、長さ50mmのストリップが鋼鉄リングの外半径上に固定され、ストリップの外面で応力が生じる。高温に曝露した状態では、弾性応力は塑性変形に変化する。この方法は時間、温度、及び鋼鉄リングの半径によって決まる初期応力に依存する。実験は、50℃/96時間〜210℃/384時間で実施された。毎回の焼き鈍し後に、ストリップの残留屈曲が測定され、対応する応力減少が[Graves G.B.: Wire Industry 46 (1979) 421頁]に従って計算される。Larson−Miller−Parameter Pを使用することにより、より高い温度で実行された短時間実験からより低い温度での長時間実験への外挿が実行できる[Boegel A.: Metall 48 (1994) 872頁]。
【0011】
応力緩和は、ASTM(米国材料試験協会)規格E328−86で説明されているようなリフトオフ法でも測定可能である。この試験では、最長3000時間、一定の歪みに保持される銅合金試料の応力減少を測定する。この技術は、片持ち梁の自由端を一定のたわみに制約すること、ある温度での時間の関数として、片持ち梁を制約するために加えられる負荷を測定することとからなる。これは、特別設計の試験架台に片持ち梁試験試料を固定することによって行われる。標準試験条件は、片持ち梁に対し、室温で0.2%耐力の80%の荷重をかけることである。計算されたたわみが約5.1mm(0.2インチ)を超える場合には、初期応力は、たわみが5.1mm(0.2インチ)未満となるまで減少されて、荷重が再計算される。試験手順は、片持ち梁に計算された値の荷重をかけ、たわみを維持するように試験架台内でネジを調整し、ナットでネジを適所に固定する。片持ち梁をネジから持ち上げるのに必要な荷重は、初期荷重である。試験架台を、所望の試験温度に設定された炉に入れる。試験架台を定期的に取り出して、室温まで冷まし、ネジから片持ち梁を持ち上げるために必要な荷重を測定する。選択された対数時間において残留している応力の割合を計算し、残留している応力を縦軸(垂直軸)に、対数時間を横軸(水平軸)にとって半対数方眼紙にデータをプロットする。直線回帰法を使用して、データに対し直線を当てはめる。内挿法及び外挿法を使用して、1時間、1000時間、3000時間、及び100,000時間の応力残留値を求める。
【0012】
応力緩和に対する抵抗性は、方向に対し敏感であり、試験試料の長手寸法がストリップの圧延方向である0°試験が実施され、試験試料のたわみが、ストリップ圧延方向に平行である長手方向(L)で報告してもよい。応力緩和に対する抵抗性は、試験試料の長手寸法がストリップ圧延方向に垂直である90°試験が実施され、試験試料のたわみがストリップ圧延方向に垂直である横断方向(T)で報告してもよい。
【0013】
表1は、発明者らが知っている市販の銅合金のうちのいくつかの合金の機械的特性及び電気的特性をまとめたものである。
【0014】
【表1】

【0015】
これらの合金ほど良く、またその用途も広いが、高強度、特に伝導率、応力緩和に対する抵抗性、及び/又は加工性などの他の望ましい特性を犠牲にすることなく高強度を有する合金の用途がある。ベリリウム銅は、高強度を有するが、そのベリリウム含有量のため、多くの用途に適していない。ベリリウム非含有銅合金のうちで、高強度(例えば、約896MPa(130ksi)よりも大きい耐力)は、通常、他の望ましい特性、特に加工性の著しい減少を伴う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第4,594,221号明細書
【特許文献2】米国特許第4,728,372号明細書
【特許文献3】米国特許第7,182,823号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の一観点は、特に自動車及びマルチメディア業界向けの電気コネクタ及び相互接続部で使用するために、またストリップ、プレート、ワイヤ、又は鋳物において高耐力および中程度に高い電気伝導率を必要とする他の用途向けに、商業的に有用なストリップ製品を作製するために加工されうる時効硬化銅−ニッケル−ケイ素系合金である。本発明の他の観点は、自動車及びマルチメディア業界向けの電気コネクタ及び相互接続部で使用するために、また高耐力および中程度に高い電気伝導率を必要とする他の用途向けに、商業的に有用なストリップ製品を作製するための加工方法である。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の好ましい一具体例によれば、実質的に、約1.0〜約6.0重量パーセントのNi、最大約3.0重量パーセントのCo、約0.5〜約2.0重量パーセントのSi、約0.01〜約0.5重量パーセントのMg、最大約1.0重量パーセントのCr、最大約1.0重量パーセントのSn、最大約1.0重量パーセントのMn、残部である銅および不純物からなり、耐力および電気伝導率がともに向上された銅−ニッケル−ケイ素系合金が提供される。この合金は、少なくとも約945MPa(137ksi)の耐力、及び少なくとも約32%IACSの電気伝導率を有するように加工される。
【0019】
本発明の好ましい他の具体例によれば、実質的に、約3.0〜約5.0重量パーセントのNi、最大約2.0重量パーセントのCo、約0.7〜約1.5重量パーセントのSi、約0.03〜約0.25重量パーセントのMg、最大約0.6重量パーセントのCr、最大約1.0重量パーセントのSn、最大約1.0重量パーセントのMn、残部である銅および不純物からなり、耐力および電気伝導率がともに向上された銅基合金が提供される。この合金は、少なくとも約945MPa(137ksi)の耐力、及び少なくとも約32%IACSの電気伝導率を有するように加工される。
【0020】
本発明の好ましい他の実施例によれば、実質的に、約3.5〜約3.9重量パーセントのNi、約0.8〜約1.0重量パーセントのCo、約1.0〜約1.2重量パーセントのSi、約0.05〜約0.15重量パーセントのMg、最大約0.1重量パーセントのCr、最大約1.0重量パーセントのSn、最大約1.0重量パーセントのMn、残部である銅および不純物からなり、耐力および電気伝導率がともに向上された銅−ニッケル−ケイ素系合金が提供される。この合金は、少なくとも約945MPa(137ksi)の耐力、及び少なくとも約32%IACSの電気伝導率を有するように加工される。
【0021】
これらの合金は、好ましくは、少なくとも約945MPa(137ksi)の耐力、及び少なくとも約38%IACSの電気伝導率を有するように、より好ましくは、少なくとも約986MPa(143ksi)の耐力、及び少なくとも約37%IACSの電気伝導率を有するように、最も好ましくは、少なくとも約1082MPa(157ksi)の耐力、及び少なくとも約32%IACSの電気伝導率を有するように加工される。
【0022】
比(Ni+Co)/(Si−Cr/5)は、好ましくは、約3〜約7、より好ましくは、約3.5〜約5.0である。比Ni/Coは、好ましくは、約3〜約5である。
【0023】
さまざまな具体例の合金及び加工法により、耐力及び電気伝導率がともに向上され、好ましくは応力緩和抵抗性も向上された銅基合金が提供形成される。特に、これらの合金は、妥当な大きさの伝導率を維持しつつ、Cu−Ni−Si合金ですでに達成されているよりも高い強度、及び応力緩和に対するより大きな抵抗性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実例1の合金の処理を示す流れ図。
【図2】実例2の合金の処理を示す流れ図。
【図3】実例3の合金の処理を示す流れ図。
【図4】実例3の合金の耐力対伝導率対を示すグラフ。
【図5】実例3の合金の耐力対曲げ加工性(MBR/t)を示すグラフ。
【図6】実例4の合金の処理を示す流れ図。
【図7】実例4のSA−CR−時効−CR−時効プロセスによって加工された表5の合金の耐力対伝導率を示すグラフ。
【図8】実例4のSA−CR−時効−CR−時効プロセスによって加工された表5の合金の耐力対曲げ加工性(MBR/t)を示すグラフ。
【図9】実例5の合金の処理を示す流れ図。
【図10】実例5の類似の合金化レベルを有するクロムを含まない合金の耐力対Ni/Co比を示すグラフ。
【図11】実例6の合金の処理を示す流れ図。
【図12】実例7の合金の処理を示す流れ図。
【図13】実例7の銅−ニッケル−クロム−ケイ素系合金における耐力に対する化学量論比の影響を示すグラフ。
【図14】実例7の銅−ニッケル−コバルト−ケイ素系合金における耐力に対する化学量論比の影響を示すグラフ。
【図15】実例7の銅−ニッケル−クロム−コバルト−ケイ素系合金における耐力に対する化学量論比の影響を示すグラフ。
【図16】実例7の銅−ニッケル−クロム−ケイ素系合金における電気伝導率に対する化学量論比の影響を示すグラフ。
【図17】実例7の銅−ニッケル−コバルト−ケイ素系合金における電気伝導率に対する化学量論比の影響を示すグラフ。
【図18】実例7の銅−ニッケル−コバルト−ケイ素系合金における電気伝導率に対する化学量論比の影響を示すグラフ。
【図19】実例8の合金の処理を示す流れ図。
【図20】475℃/300℃時効によるSA−CR−時効−CR−時効アプローチで加工された実例8の合金における%IACSに対する化学量論比の影響を示すグラフ。
【図21】475℃/300℃時効によるSA−CR−時効−CR−時効アプローチで加工された実例8の合金における耐力に対する化学量論比の影響を示すグラフ。
【図22】実例9の合金の処理を示す流れ図。
【図23】テーパー・エッジ熱間圧延標本を示す略図。
【図24】大きなエッジ亀裂を示す、熱間圧延K224(Crなし)の写真。
【図25】エッジ亀裂がないことを示している、熱間圧延K225(Crは0.11)の写真。
【図26A】非Cr合金RN033407の工具摩耗試験からの結果を示す写真。
【図26B】Cr含有合金RN834062の工具摩耗試験からの結果を示す写真。
【図27】実例10の合金の処理を示す流れ図。
【図28】475℃/300℃時効によるSA−CR−時効−CR−時効アプローチで加工された実例8及び実例10(低Cr及びMn)の合金における%IACSに対する化学量論比の影響を示すグラフ。
【図29】475℃/300℃時効によるSA−CR−時効−CR−時効アプローチで加工された実例8及び実例10(低Cr及びMn)の合金における耐力に対する化学量論比の影響を示すグラフ。
【図30】実例11の合金の処理を示す流れ図。
【図31】実例12の合金の処理を示す流れ図。
【図32】実例13の合金の処理を示す流れ図。
【図33】実例14の合金の処理を示す流れ図。
【図34】実例15の合金の処理を示す流れ図。
【図35】実例16の合金の処理を示す流れ図。
【図36】実例13、実例14、実例15、及び実例16の合金並びにプロセスに対する90°Vブロック−MBR/t BW対耐力を示すグラフ。
【図37】実例13、実例14、実例15、及び実例16の合金並びにプロセスに対する%IACS対耐力を示すグラフ。
【実施例】
【0025】
良好な応力緩和抵抗性とともに、高い強度及び電気伝導性を有する銅ストリップ合金に対する要求が市場に存在する。このような特性の組合せは、電気コネクタ及び端子のマルチメディア用途において使用するためにさまざまな電気的相互接続部に形成される部品にとって特に重要である。C510(リン青銅)、C7025、C7035、C17410、及びC17460などの市販の銅合金は、強度及び伝導性の一般的に有益な組合せでこれらの用途に使用されている。しかし、これらの合金は、大半の電流を流す用途には十分な強度を有しているが、部品が小型化される継続的な傾向があるために、妥当なコストで、十分に良好な電気伝導性と十分に良好な応力緩和抵抗性とを併せ持つとともに高い強度を示す銅合金が要求される。また、ベリリウムなどの潜在的に有毒な合金元素を最小限度に抑えるか、又はなくすことも望ましい。
【0026】
マルチメディア用の相互接続部に使用される合金は、コネクタ抜き差し時の損傷を回避し、使用中に良好な接触力を維持するために高強度を必要とする。これらの用途に関しては、良好であるが、電気伝導率がとりわけ高くはないことが、必要なすべてである。それは、伝導率は、信号電流を十分に流せるだけの値であればよく、大電力用途において過剰なIR加熱を回避するために必要な高いレベルである必要はないからである。これらの用途では、室温、及びわずかに高い使用温度での機械的安定性に対しなおいっそう厳しい要件があるが、これは、例えば、約100℃での良好な応力緩和抵抗性によって特徴づけられる。
【0027】
本発明の好ましい実施例の合金組成物、及び仕上げ硬度調整に合わせて加工するために使用される方式では、驚いたことに、自動車及びマルチメディアの両方の用途の要件を満たすのに非常に望ましい特性の組合せ、すなわち、中程度の高い伝導率とともに非常に大きい強度がもたらされる。特に、本発明の好ましい実施例の合金は、少なくとも約945MPa(137ksi)の耐力/電気伝導率と少なくとも約38%IACSの伝導率の組合せ、より好ましくは、少なくとも約37%IACSの伝導率とともに、少なくとも約986MPa(143ksi)の耐力、最も好ましくは、少なくとも約32%IACSの伝導率とともに、約1082MPa(157ksi)の耐力を有するストリップ製品に加工することができる。
【0028】
本発明の好ましい実施例の合金は、耐力と電気伝導率とがともに向上され、良好の応力緩和抵抗性を、中程度のレベルの曲げ性とともに有し、実質的に、約1.0〜約6.0重量パーセントのニッケル、約0.5〜約2.0重量パーセントのケイ素、0.0〜約3.0重量パーセントのコバルト、約0.01〜約0.5重量パーセントのマグネシウム、0.0〜約1.0重量パーセントのクロム、0.0〜約1.0重量パーセントのスズおよびマンガンのそれぞれ、残部である銅および不純物からなる。より好ましくは、この合金は、実質的に、約3.0〜約5.0重量パーセントのニッケル、約0.7〜約1.5重量パーセントのケイ素、0.0〜約2.0重量パーセントのコバルト、約0.03〜約0.25重量パーセントのマグネシウム、約0.0〜約0.6重量パーセントのクロム、0.0〜約1.0重量パーセントのスズおよびマンガンのそれぞれ、残部である銅および不純物からなる。最適なレベルの耐力及び電気伝導率が必要な場合、例えば、965MPa(140ksi)YS/30%IACSが必要である場合、最も好ましい合金範囲は、実質的に、約3.5〜約3.9重量パーセンのニッケル、約1.0〜約1.2重量パーセントのケイ素、約0.8〜約1.0重量パーセントのコバルト、約0.05〜約0.15重量パーセントのマグネシウム、0〜約0.1重量パーセントのクロム、0.0〜約1.0重量パーセントのスズおよびマンガンのそれぞれ、残部である銅および不純物からなる、一般的に、合金元素がしめされた上限を実質的に超えている場合に、過剰な粗い第2相が存在する。
【0029】
合金の電気伝導率及び耐力は、比(Ni+Co)/(Si−Cr/5)が、約3〜約7に制御される場合、より好ましくは、約3.5〜約5に制御される場合に最高である。比Ni/Coは、約3〜約5で制御される場合に耐力と伝導率が最適な値となる。
【0030】
マグネシウムは、一般的に、最終製品の応力緩和抵抗性及び軟化抵抗性を高め、したがって、中間時効焼鈍熱処理における軟化抵抗性も高める。Snは、低含有量で存在する場合に、一般的に、固溶強化をもたらし、また、伝導性を過剰に損なうことなく、中間時効焼鈍熱処理時に軟化抵抗性も高める。低含有量のMnは、一般的に、曲げ加工性を改善するが、伝導性を失う。
【0031】
本発明の方法の好ましい実施例は、溶解及び鋳造、熱間圧延(好ましくは、750°〜1050℃)、酸化物を除去するための任意選択のミリング加工、及び任意選択で均質化又は中間ベル焼鈍、溶体化のために都合の良い寸法まで冷間圧延、溶体化焼鈍(好ましくは、800°〜1050℃で10秒〜1時間)、その後に、約20%IACS(11.6MS/m)未満の電気伝導率及び約5〜20μmの等軸粒径を得るための周囲温度への焼き入れ又は急速冷却、0〜75%の減厚率の冷間圧延、時効硬化焼鈍(好ましくは、300〜600℃で10分〜10時間)、及び任意選択により、さらなる10〜75%の減厚率の仕上げ寸法までの冷間圧延、及び第2の時効硬化焼鈍(好ましくは、250〜500℃で10分〜10時間)を含む。その結果得られた合金を、冷間加工を施しながらより低温のベル焼鈍を数回繰り返すことによって中間溶体化熱処理を使用することなく仕上げ寸法までさらに加工することができる。それに加えて、熱間圧延寸法から溶体化に適切な厚さまで減厚する際に1つ又は複数の任意選択の再結晶焼鈍をプロセスに追加することができる。
【0032】
結果として少なくとも約965MPa(140ksi)の耐力及び少なくとも約30%IACSの伝導率を有する合金が得られる好ましい方式は、約900°〜1000℃での溶体化、約25%までの冷間圧延、3〜9時間の間の約450°〜500℃での時効、仕上げ寸法までの約20〜25%の冷間圧延、及び3〜9時間の間の300°〜350℃での時効を含む。
【0033】
本開示は、銅合金ストリップの製造方法を特に対象としているが、本発明の合金及び本発明の方法は、箔、ワイヤ、バー、及びチューブなどの他の銅合金製品の製造にも等しく適している。それに加えて、ストリップ鋳造、粉末冶金、及びスプレー鋳造などの従来の鋳造と異なる方法も、本発明の範囲内に含まれる。
【0034】
好ましい実施例の合金及び方法は、以下の例示的な実例を参照するとよく理解されるであろう。
【0035】
「実例1」合金レベルを高めると強度が高まり、コバルト置換により強度および伝導率の両方が改善される
表2にまとめられている組成を有する一連の4.54kg(10ポンド)実験用インゴットをシリカ質坩堝で溶解し、鉄鋼製鋳型に流し込んでダービル鋳造した。鋳造処理後、約101.6mm×101.6mm×44.5mm(4”×4”×1.75”)となった。図1は、この実例1のプロセスの流れ図である。900℃で2時間均熱処理した後、3パスで27.9mm(1.1”)(40.6mm(1.6”)/34.3mm(1.35”)/27.9mm(1.1”))に熱間圧延し、900℃で10分間再加熱し、さらに3パスで12.7mm(0.50”)(22.9mm(0.9”)/17.8mm(0.7”)/12.7mm(0.5”))にさらに熱間圧延し、その後、水焼き入れし、その後、590℃で6時間均質化又は過時効焼鈍を行った。トリミング及びミリング加工で表面酸化物を除去した後、合金を0.30mm(0.012”)に冷間圧延し、表2に示されている時間と温度で、流動床炉内において溶体熱処理した。時間と温度は、ほぼ一定の粒径となるように選択された。次いで、これらの合金に、強度と伝導率を高めるように設計された400°〜500℃で3時間の時効焼鈍を行った。次いで、これらの合金を0.23mm(0.009”)まで25%冷間圧延し、300°〜400℃で4時間時効した。第2の時効焼鈍の後に測定された特性を表3に示す。このデータは、耐力が三元合金J994からJ999までの合金化レベルの増大とともに、Siレベルが0.8〜1.3%までの範囲のときにそれぞれ876〜972MPa(127〜141ksi)の耐力に増大することを示している。J994、K001及びK002を比較して、0.8%Siの近くで合金に対するCoの影響を調べたところ、Niの代わりにCoを使用すると、耐力および伝導率の両方が高まる。約1.2%Siを含む合金でNiの代わりにCoを使用することを考えると、K003は耐力の減少、及び伝導率の増大を示すが、K004は、J998と比較して耐力の増大、及び伝導率の減少を示す。
【0036】
Ni/Co比を約3(K002及びK004)とすると、特に高いSi含有量において、Ni/Co比1(K001及びK003)よりも大きい強度が得られる。Mn合金K011及びK012は、Niの代わりにMnを使用することで、強度/曲げ特性が改善されるが、伝導率が著しく失われるという証拠を示している。Snは、J994をK036及びK037と比較したときに、固溶強化をもたらすように見える。
【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
「実例2」コバルトで強度を向上させる
実例1の選択された合金を、表2に示されている時間と温度で流動床炉内において溶体化熱処理した。図2は、この実例2のプロセスの流れ図である。その後、これらの合金を0.23mm(0.009”)まで25%冷間圧延し、次いで、400°〜500℃で3時間、時効焼鈍を行った。さらに0.18mm(0.007”)まで22%冷間圧延した後、300°〜400℃の温度で3時間かけて、試料の時効焼鈍を行った。代表的な条件から得られる特性を表4にまとめた。多くの場合における曲げ特性は、実例1のプロセスに比べて類似の強度でいくぶん良い特性となっている。Co(K003及びK004)並びにSn(K037)の追加により、この実例における合金の強度増大が最高になる。
【0040】
【表4】

【0041】
「実例3」コバルト及びクロムの含有量並びに(Ni+Co)/(Si−Cr/5)比
表5にまとめられている組成を有する一連の4.54kg(10ポンド)実験用インゴットをシリカ質坩堝内で溶解し、鉄鋼製鋳型に流し込んでダービル鋳造した。鋳造処理後、約101.6mm×101.6mm×44.5mm(4”×4”×1.75”)となった。図3は、この実例3のプロセスの流れ図である。900℃で2時間均質化熱処理を施した後、3パスで27.9mm(1.1”)(40.6mm(1.6”)/34.3mm(1.35”)/27.9mm(1.1”))に熱間圧延し、900℃で10分間再加熱し、さらに3パスで12.7mm(0.50”)(22.9mm(0.9”)/17.8mm(0.7”)/12.7mm(0.5”))にさらに熱間圧延し、その後、水焼き入れした。次いで、焼き入れしたプレートを、590℃の温度で6時間、均質化熱処理を施して、トリミング、次いで、ミリング加工で、熱間圧延時に形成された表面酸化物を除去した。次いで、これらの合金を、0.30mm(0.012”)に冷間圧延し、表5に示されている温度で60秒間流動床炉内において溶体化熱処理した。温度は、かなり一定した粒径を維持するように選択された。次いで、合金に、強度と伝導率を高めるように設計された400°〜500℃で3時間の時効焼鈍を行った。次いで、これらの合金を0.23mm(0.009”)に25%冷間圧延し、300°〜400℃で4時間、時効した。第2の時効焼鈍の後に測定された特性を表6に示す。このデータから、Co(K068)、Cr(K072)、又はCoおよびCrの両方(K070)のCu−Ni−Siの基合金への添加により、強度、伝導性、及び曲げ加工性の最良の組合せが得られることが観察できる。最高の強度を有する試料は1.2%及びそれを超える比較的高いSiを含有したことにも留意されたい。Snによる強化の証拠がいくつかあったが、これは、曲げ加工性に劣っていた。表5では、比(Ni+Co)/(Si−Cr/5)は、合金の大半について、特にK068、K070、及びK072については、4に非常に近いことがわかる。また、Ni/Co比は、K068及びK070については3に近かった。図4では、耐力が伝導率に対してプロットされ、図5では、曲げ加工性に対してプロットされている。K068、K070、及びK072の値は、特性の異常に良好な組合せを示すものとして識別されている。
【0042】
【表5】

【0043】
【表6】

【0044】
「実例4」強度及び加工性に関するコバルト及びクロム
実例3の合金を、表5に示されている温度で、60秒間、流動床炉内において溶体化熱処理した。図6は、この実例4のプロセスの流れ図である。その後、これらの合金を0.23mm(0.009”)に25%冷間圧延し、次いで、400°〜500℃で3時間、時効焼鈍を行った。さらに0.18mm(0.007”)まで22%冷間圧延した後、300°〜400℃の温度で3時間かけて、試料の時効焼鈍を行った。代表的な条件から得られる特性を表7にまとめた。実例3と同様に、特に注目すべきは、合金K068、K070、及びK072であり、これは、Co、Cr、又は両方の組合せを含む合金が、最高の強度レベルに達することを示している。曲げ加工性データは、両方ともCoを含むK068及びK070がより高い強度で最良の加工性を有することを示している。図7では、耐力が伝導率に対してプロットされ、図8では、曲げ加工性に対してプロットされている。合金K068、K070、及びK072に対する値が顕著である。
【0045】
【表7】

【0046】
「実例5」ニッケル対コバルト比
表8にまとめられている組成を有する一連の4.54kg(10ポンド)実験用インゴットをシリカ質坩堝で溶解し、鉄鋼製鋳型に流し込んでダービル鋳造した。鋳造処理後、約101.6mm×101.6mm×44.5mm(4”×4”×1.75”)となった。図9は、この実例5のプロセスの流れ図である。合金のこのグループは、表5のK068、K070、及びK072に基づいており、全体的な合金化レベル及びNi/Co比は、化学量論比((Ni+Co)/(Si−Cr/5))を4.2に近い値に維持しつつ変化させた。900℃で2時間均質化熱処理した後、3パスで27.9mm(1.1”)(40.6mm(1.6”)/34.3mm(1.35”)/27.9mm(1.1”))に熱間圧延し、900℃で10分間再加熱し、さらに3パスで12.7mm(0.50”)(22.9mm(0.9”)/17.8mm(0.7”)/12.7mm(0.5”))にさらに熱間圧延し、その後、水焼き入れした。次いで、焼き入れしたプレートを、590℃の温度で6時間、均質化熱処理して、トリミング、次いで、ミリング加工で、熱間圧延時に形成された表面酸化物を除去した。次いで、これらの合金を、0.30mm(0.012”)まで冷間圧延し、表8に示されている温度で60秒間流動床炉内において溶体化熱処理した。温度は、かなり一定した粒径を維持するように選択された。次いで、合金に、強度と伝導率を高めるように設計された450°〜500℃で3時間の時効焼鈍を行った。次いで、これらの合金を0.23mm(0.009”)に25%冷間圧延し、300°〜400℃の範囲で4時間、時効した。475℃での第1の時効および300℃での第2の時効を用いるプロセスに対する第2の時効焼鈍の後に測定された特性を表9に示した。Coのみの組成物群(K077〜K085)については、耐力値は、合金成分の増大とともに増える傾向がある。例えば、K078は、Ni+Co+Cr+Si値が6.24であり、1069MPa(155ksi)の耐力を有するが、K084は、Ni+Co+Cr+Si値が5.22であり、958MPa(139ksi)の耐力を有していた。Ni/Co比が3対4であれば、K077(3.62のNi/Co比)及びK078(3.83のNi/Co比)とK079(5.04のNi/Co比)とを比較し、さらにはK080(3.32のNi/Co比)及びK081(3.93のNi/Co比)とK082(4.89のNi/Co比)とを比較したときに、比が5よりも良い強度が得られる。図10の耐力対Ni/Co比のプロットは、K083及びK084よりも高いSi含有量を有するK085を除いてこれを示している。Co及びCrを含有する合金、K086〜K094は、全体的な合金化レベル及びNi/Co比に対して、Coのみの合金ほどは敏感でなかった。Crのみの合金(K095〜K097)も、他の合金タイプに匹敵する特性を有していた。
【0047】
【表8】

【0048】
【表9】

【0049】
表8の合金を、表8に示されている温度で、60秒間、流動床炉内において溶体化熱処理した。その後、これらの合金を0.23mm(0.009”)まで25%冷間圧延し、次いで、450°〜500℃の範囲で3時間、時効焼鈍を行った。さらに0.18mm(0.007”)まで22%冷間圧延した後、300〜400℃の温度で3時間かけて、試料の時効焼鈍を行った。それぞれ、450℃及び300℃で第1の時効と第2の時効を行ったときの試料からの特性を表10にまとめた。Coのみの合金は、Crを含有する合金には見られないこの方式による全体的な合金化レベルに対する感受性を示した。1034MPa(150ksi)の耐力以上のCoのみの合金は、K077及びK078のみであり、すべてのCr含有合金は、その強度に達するか、近づいた。このプロセスに対する強度曲げ特性は、表9に示されているのとかなり類似している。
【0050】
【表10】

【0051】
「実例6」ニッケル対コバルト比
表11にまとめられている組成を有する実験用インゴットを黒鉛坩堝で溶解し、鉄鋼製鋳型に流し込んでタマン鋳造した。鋳造処理後、110.0mm×55.1mm×25.9mm(4.33”×2.17”×1.02”)となった。図11は、この実例6のプロセスの流れ図である。ターゲットである1%のSi含有量及び0.5%のCr含有量では、一方の合金はCoを含み、他方の合金はCoを含まず、Ni含有量は、4.2に近い化学量論比((Ni+Co)/(Si−Cr/5))を維持するように調整される。900℃で2時間均質化熱処理した後、12.0mm(0.472”)まで熱間圧延され、これにより、900℃、10分間でそれぞれのパスの後に再加熱される。最後のパスの後に、バーを水焼き入れした。10.0mm(0.394”)にトリミング及びミリング加工して表面酸化物を除去した後、合金を0.27mm(0.0106”)まで冷間圧延し、表11に示されている時間および温度で、流動床炉内において溶体熱処理した。時間および温度は、20μm未満の粒径となるように選択された。次いで、これらの合金に、強度と伝導率を高めるように設計された450〜500℃で3時間の時効焼鈍を行った。次いで、これらの合金を0.20mm(0.0079”)まで25%冷間圧延し、300〜400℃で3時間、時効した。第2の時効焼鈍の後に測定された特性を表12に示す。加工性は、Vブロックを使って測定された。データは、両方の合金が931MPa(135ksi)の耐力を達成することができることを示しているが、それでも、C含有の変異形BSは、時効焼鈍温度を高めた場合に観察できるよりも良好な軟化抵抗性を示している。変異形BSのわずかに良い悪い方向の曲げ性は、溶体焼鈍の後に粒径がわずかに小さいためであると推定される。
【0052】
【表11】

【0053】
【表12】

【0054】
「実例7」
(Ni+Co)/(Si−Cr/5)比
ベースとして表5からのK068(Coのみ)、K070(Co及びCr)、及びK072(Crのみ)の基本組成物をもう1度使用して合金群を鋳造し、加工したが、この場合、Si含有量を徐々に下げて、(Ni+Co)/(Si−Cr/5)化学量論比を以前の合金の3.6〜4.2よりも高くした。Ni及びCo含有量は、3つの合金タイプのそれぞれについて一定になるように設計された。表11にまとめられている組成を有する一連の4.54kg(10ポンド)実験用インゴットをシリカ質坩堝内で溶解し、鉄鋼製鋳型に流し込んでダービル鋳造した。鋳造処理後、約101.6mm×101.6mm×44.5mm(4”×4”×1.75”)となった。K143〜K146はK072の変更形態であり、K160〜K163はK070の変更形態であり、K164〜K167はK068の変更形態である。図12は、この実例7のプロセスの流れ図である。900℃で2時間均質化熱処理した後、3パスで27.9mm(1.1”)(40.6mm(1.6”)/34.3mm(1.35”)/27.9mm(1.1”))に熱間圧延し、900℃で10分間再加熱し、さらに3パスで12.7mm(0.50”)(22.9mm(0.9”)/17.8mm(0.7”)/12.7mm(0.5”))までさらに熱間圧延し、その後、水焼き入れした。次いで、焼き入れしたプレートを、590℃の温度で6時間、均質化熱処理して、トリミング、次いで、ミリング加工で、熱間圧延時に形成された表面酸化物を除去した。次いで、これらの合金を、0.30mm(0.012”)まで冷間圧延し、表13に示されている温度で60秒間流動床炉内において溶体化熱処理した。温度は、かなり一定した粒径を維持するように選択された。次いで、これらの合金を0.23mm(0.0079”)まで25%冷間圧延し、450、475、及び500℃で3時間、時効した。今回の例の合金、さらにはK068、K070、K072、K078、K087、及びK089のそれぞれの時効温度後の特性を表14にまとめた。それぞれの合金タイプについて、耐力は、化学量論比が約4.5よりも大きくなると減少し、約5.5の比では827MPa(120ksi)未満に下がる。これは、Cr合金(加えてK072データ)、Co合金(加えてK068及びK078データ)、及びCo−Cr合金(加えてK070、K087、及びK089データ)について、それぞれ、図13〜図15に示されている。Co合金及びCr合金では、伝導率は、化学量論比が約4.5よりも大きくなると減少するが、CoおよびCrの両方の合金については、化学量論比と伝導率との間に明確な関係はない。これは、図16〜図18にグラフとして示されている。このデータに基づいて、最良の耐力伝導率の特性は、化学量論比が3.5〜5.0に維持される場合にもたらされることは明らかである。
【0055】
【表13】

【0056】
【表14】

【0057】
「実例8」
(Ni+Co)/(Si−Cr/5)比
表15にまとめられている組成を有する一連の4.54kg(10ポンド)実験用インゴットをシリカ質坩堝で溶解し、鉄鋼製鋳型に流し込んでダービル鋳造した。鋳造処理後、約101.6mm×101.6mm×44.5mm(4”×4”×1.75”)となった。図19は、この実例8のプロセスの流れ図である。900℃で2時間均質化熱処理した後、3パスで27.9mm(1.1”)(40.6mm(1.6”)/34.3mm(1.35”)/27.9mm(1.1”))に熱間圧延し、900℃で10分間再加熱し、さらに3パスで12.7mm(0.50”)(22.9mm(0.9”)/17.8mm(0.7”)/12.7mm(0.5”))にさらに熱間圧延し、その後、水焼き入れした。次いで、焼き入れしたプレートを、590℃の温度で6時間、均質化熱処理して、トリミング、次いで、ミリング加工で、熱間圧延時に形成された表面酸化物を除去した。次いで、これらの合金を、0.30mm(0.012”)まで冷間圧延し、950℃で60秒間流動床炉内において溶体化熱処理した。粒径は、6〜12μmまでの範囲であった。次いで、合金に、強度および伝導率を高めるように設計された450〜475℃で3時間の時効焼鈍を行った。次いで、これらの合金を0.23mm(0.009”)まで25%冷間圧延し、300°Cで4時間、時効した。第2の時効焼鈍の後に測定された特性を表16に示す。
【0058】
表17は、試料を950℃で60秒間、流動床炉内において溶体化熱処理し、0.23mm(0.009”)まで25%冷間圧延し、475℃で3時間かけて時効焼鈍を行い、0.18mm(0.007”)まで22%冷間圧延し、300℃で3時間の最終焼鈍を行った後に測定した特性を示している。これらの結果は、1.0〜1.2%Siであり、Ni/Co比が4であり、化学量論比(((Ni+Co)/(Si−Cr15)))が3.5〜5.0である組成範囲の可能性を示している。これは、図20及び図21にグラフで示されており、これは、表17からの伝導率および耐力のデータと化学量論比とを比較したグラフである。これらのグラフは、25%IACS以上の伝導率と組み合わせた965MPa(140ksi)以上の耐力が、比が3.0〜5.0のときにこのプロセスについて得られることを示している。Crがこの例の合金中で特性に有意な影響を及ぼすと判明することはなかった。
【0059】
ミリング熱間圧延プレートから0.30mm(0.012”)まで冷間圧延され、950℃で60秒間溶体化焼鈍し、0.23mm(0.009”)まで25%冷間圧延し、475℃で3時間かけて時効焼鈍したK188及びK205の試料の応力緩和試験を実行した。長手方向及び横方向の試料に150℃で3000時間の応力緩和試験を実施した。表18の結果は、両方の合金が、優れた応力緩和抵抗性を有し、Cr含有量又は試料方向に関係なく、150℃で1000時間経過した後も85%を超える応力が残ったことを示している。
【0060】
【表15】

【0061】
【表16】

【0062】
【表17】

【0063】
【表18】

【0064】
「実例9」
Crの効果
表19にまとめられている組成を有する一連の4.54kg(10ポンド)実験用インゴットをシリカ質坩堝で溶解し、鉄鋼製鋳型に流し込んでダービル鋳造した。鋳造処理後、約101.6mm×101.6mm×44.5mm(4”×4”×1.75”)となった。図22は、この実例9のプロセスの流れ図である。次いで、これらのインゴットを機械加工して、図23に概略が示されているように、テーパー・エッジを付け、それらのエッジのところにより高い状態の引張応力を生じさせた。この状態は、標準の平坦なエッジに比べてエッジ亀裂を起こしやすく、したがって、合金添加物、この場合はCrの影響を受けやすい。これらの合金を900℃で2時間均質化熱処理し、2パスで28.4mm(1.12”)(35.6mm(1.4”)/28.4mm(1.12”))に圧延し、次いで水焼き入れした。亀裂がないか調べた後、バーを900℃で2時間再加熱し、3パスで12.7mm(0.50”)(22.9mm(0.9”)/17.8mm(0.7”)/12.7mm(0.5”))まで圧延し、その後、水焼き入れした。Crが含まれない場合、最初の数パスの熱間圧延の間にK224は大きな亀裂を生じ、残りのパスで拡大することがわかった。Cr含有合金はどれも、熱間圧延時に大きな亀裂を生じなかった。合金のいくつかは、最初のパスの後の小さな亀裂は鋳造欠陥のせいであると考えられることを示していたが、これらは、その後のパスでは拡大しなかった。Cr効果は、0.11%〜0.55%までのCr含有量に関係なく同じであった。熱間圧延の後のK224及びK225のエッジ状態の例が、図24及び図25に示されている。加えるCrが少量であっても、プラント生産時の亀裂発生が減少し、これにより、熱間圧延及びコイル・ミリング加工の後の収率が改善する。組成が表20に示されている、プラント鋳造バー(つまり、パイロット製品DC鋳造として鋳造されたバー)からのデータは、熱間圧延亀裂を防止し、したがって収率を改善することに対するCrの有益な効果を示している。表21は、6本のCr含有バー及び4本のCr非含有バーの正規化された鋳造プラント収率(CPY)をまとめたもので、正規化されたCPYは以下のようにして得られる。第1に、個別化されたCPYをコイル・ミリング加工重量と鋳造バー重量との比として計算する。第2に、最高のCPYを有するバー、この場合、RN033410に、100%の正規化されたCPYを割り当てる。第3に、すべての他のバーの正規化されたCPYを、それぞれのバーのCPYをRN033410のCPYで除算することによって計算する。Crを含まないバーの正規化されたCPYは、Cr含有バーに対する82%〜100%と比較して48〜82%である。
【0065】
Cr含有量を制限することは、図26に示されている、クロム・ケイ素化物の磨耗性のために、望ましいことであろう。図26Aは、975℃でプラント溶体化焼鈍し、25%冷間圧延し、次いで450℃で時効し、硫酸洗浄したCr非含有試料(RN033407)において、潤滑剤としてラード油を使用したストリップ表面上の100gmの荷重下で76.2m(3000直線インチ)(ストリップのそれぞれの側に38.1m(1500インチ))だけ摺動させた工具鋼ボールの摩耗を示している。図26Bは、Cr含有合金(RN834062)の試料を使用する類似の条件を有している。図26に示されているボールの研磨された外観は、Cr含有合金がかなり大きな摩耗を引き起こし、そのため、著しく大量の材料がボールから除去されることを示している。これは、図26に、Cr含有合金のかなり大きな摩耗痕として示されている。より大きな摩耗痕は、合金のシートをいくつかの部分に型押しする際に、かなりの量の工具摩耗が生じることを示唆している。
【0066】
【表19】

【0067】
【表20】

【0068】
【表21】

【0069】
単一鋳造作業で、表21aに示されている組成の3本のバーを生産した。RN033410が100%とみなされている、表21のデータと同様に正規化されたバーの鋳造プラント収率は、表21bに示されている。低CrバーのCPYは、有利に、表21のCr含有バーに匹敵する。これは、低含有量あっても熱間圧延時にCrが亀裂を低減するためであると考えられている。RN037969は、以前の例のRN033410と比べてこのバーの収率が高かったという事実により100を超える正規化されたCPY%を有する。
【0070】
【表22】

【0071】
【表23】

【0072】
「実例10」Cr、Mnの効果
表22にまとめられた組成を有する一連の4.54kg(10ポンド)実験用インゴットをシリカ質坩堝で溶解し、鉄鋼製鋳型に流し込んでダービル鋳造した。鋳造処理後、約101.6mm×101.6mm×44.5mm(4”×4”×1.75”)となった。図27は、この実例10のプロセスの流れ図である。熱間圧延に対するCrの有益な効果の下限を調べるために、合金K259は、実例9の合金に比べてCr含有量が低い。Mnが本発明の合金における熱間圧延性に影響を及ぼすかどうかを判定するために、合金K251、K254、及びK260は、Mn含有量が低い。次いで、これらのインゴットを機械加工して、図23に概略が示されているように、テーパー・エッジを付け、それらのエッジのところにより高い状態の引張応力を生じさせた。これらの合金を900℃で2時間の均質化熱処理し、2パスで28.4mm(1.12”)(35.6mm(1.4”)/28.4mm(1.12”))に圧延し、次いで水焼き入れした。亀裂がないか調べた後、バーを900℃で2時間再加熱し、3パスで12.7mm(0.50”)(22.9mm(0.9”)/17.8mm(0.7”)/12.7mm(0.5”))に圧延し、その後、水焼き入れした。0.058%のCrを含むK259は、エッジ亀裂を形成することなく熱間圧延された。Mn含有合金は、K261とともに(CrもMnも含まない)、大きなエッジ亀裂を生じた。したがって、好ましい範囲を0.025〜0.1%のCrとして、0.05%に近いCr添加は、熱間圧延性と工具摩耗をもたらす研磨粒子の形成とのバランスをとるのに適しているように思われる。
【0073】
次いで、焼き入れしたバーを、590℃の温度で6時間、均質化熱処理して、トリミング、次いで、ミリング加工で、熱間圧延時に形成された表面酸化物を除去した。次いで、これらの合金を、0.30mm(0.012”)まで冷間圧延し、950℃で60秒間流動床炉内において溶体化熱処理した。次いで、合金に、強度と伝導率を高めるように設計された3時間で475℃の時効焼鈍を行った。次いで、これらの合金を0.23mm(0.009”)まで25%冷間圧延し、300℃で3時間、時効した。或いは、溶体化熱処理した後、合金を0.23mm(0.009”)まで25%冷間圧延し、475℃で3時間の時効焼鈍を行い、0.18mm(0.007”)に22%冷間圧延し、300℃で3時間の最終焼鈍を行った。両方のプロセス経路での最終時効の後の特性を表23に示す。両方のプロセスについて、Cr、Mnが低含有であるか、又はいずれも含まないで、1034MPa(150ksi)の耐力及び少なくとも31%のIACSの例外的に良い特性の組合せが得られる。伝導率及び耐力は、図28及び図29において、実例8からのデータとともに化学量論比((Ni+Co)/(Si−Cr/5))に対してプロットされており、これから、この比が3.0〜5.0に保持されているときに異常に良い特性に達したことがわかる。
【0074】
【表24】

【0075】
【表25】

【0076】
「実例11」加工の効果
表20に組成が示されているプラント鋳造バーRN032037の形材は、厚さ15.2mm(0.600”)のプラント熱間圧延及びコイル・ミリング加工プレートから加工された。図30に示されているさまざまな加工経路によって試料をさらに加工した。プロセスAは、0.30mm(0.012”)までの冷間圧延及び950℃で60秒間の流動床炉における溶体化熱処理、500℃で3時間の時効焼鈍、0.23mm(0.009”)までの25%冷間圧延、及び350℃で4時間の第2の焼鈍を含む。プロセスBでは、金属を1.27mm(0.050”)に圧延し、575℃で8時間の中間ベル焼鈍(「IMBA」)を行った。次いで、試料に対し0.30mm(0.012”)までの冷間圧延及び950℃で60秒間の流動床炉における溶体化熱処理、500℃で3時間の時効焼鈍、0.23mm(0.009”)までの25%冷間圧延、及び350℃で4時間の第2の焼鈍を施した。プロセスCでは、合金を0.61mm(0.024”)に圧延し、950℃で60秒間、流動床炉内で溶体化熱処理し、その後、0.30mm(0.012”)までの冷間圧延及び950℃で60秒間の流動床炉内における第2の溶体化熱処理を行った。その後、このプロセスは、500℃で3時間の時効焼鈍、0.23mm(0.009”)までの25%冷間圧延、及び350℃で4時間の第2の焼鈍を伴った。プロセスDにおいて、0.30mm(0.012”)までの冷間圧延の後に、流動床炉内で950℃で60秒間、溶体化熱処理し、合金を0.23mm(0.009”)に25%冷間圧延し、3時間かけて475℃の時効焼鈍を行い、0.18mm(0.007”)に22%冷間圧延し、300℃で3時間の最終焼鈍を行った。プロセスEでは、金属を1.27mm(0.050”)に圧延し、575℃で8時間の中間ベル焼鈍を行った。次いで、試料を0.61mm(0.024”)に圧延し、950℃で60秒間、流動床炉内で溶体化熱処理し、その後、0.30mm(0.012”)までの冷間圧延及び950℃で60秒間の流動床炉内における第2の溶体化熱処理を行った。その後、このプロセスは、500℃で3時間の時効焼鈍、0.23mm(0.009”)までの25%冷間圧延、及び350℃で4時間の第2の焼鈍を含む。
【0077】
【表26】

【0078】
「実例12」加工の効果
表20に組成が示されているプラント鋳造バーRN032037の形材は、厚さ15.2mm(0.600”)のプラント熱間圧延及びコイル・ミリング加工プレートから加工された。加工条件の範囲を含む行列を調べるためにプロセス変数を系統的に変化させた。図31は、この実例12のプロセスの流れ図である。0.30mm(0.012”)への冷間圧延の後、試料を流動床炉内において925℃、950℃、975℃、及び1000℃の温度で60秒間、溶体化焼鈍した。次いで、クーポンに対して、450℃、475℃、500℃、及び525℃の温度で3時間の時効焼鈍を行った。次いで、減厚率を15%、25%、及び35%と変えつつ試料を最終厚さに冷間圧延した。最後に、試料に対して、300℃、325℃、350℃、及び375℃の温度で4時間の第2の時効焼鈍を行った。表25は、プロセスの残りを一定に保ちつつ異なる溶体化焼鈍温度を有する試料の特性をまとめたものである。溶液温度が上昇すると、耐力は増大するが、伝導率は低下する。したがって、高い溶体化焼鈍温度では、975℃及び1000℃の焼鈍の際に粒径が大きくなるため、曲げ加工性が悪化する。したがって、溶体化焼鈍粒径は20μm未満が好ましい。
【0079】
第1の時効の温度を変化させ、他の処理変数を一定に保つ場合、表26の475℃及び500℃の時効について示されているように、最高の強度レベルは中間時効温度によるものであることが判明している。また、伝導率は、時効温度の増大とともに増大した。したがって、第1の時効温度を操作することにより、強度と伝導率とのさまざまな所望の組合せが構成することができる。
【0080】
第1の時効と第2の時効との間で圧延減少を変化させた場合、耐力は、減厚率増大とともに、この場合は35%まで増大するが、伝導率は影響を受けないことがわかった。25から35%になるときに比べて、15から25%になるときのほうが、強度の増加が大きいことがわかった。曲げ加工性は、減厚率が大きいと悪化することがわかった。圧延減少を操作することによって、生産される材料の強度加工特性に影響を及ぼすことができる。35%を超える圧延減少率を使用することは、加工性に劣るが、ピーク強度を得るのに有益である場合がある。
【0081】
表28は、他の処理変数を一定に保ったときに、第2の時効焼鈍温度が特性に対する大きな影響を有しないことを示している。伝導率は、第2の時効の温度が上昇すると増加するが、わずかの程度であることが判明した。したがって、広い動作範囲が、プロセスのこのステップに対し許容可能である。
【0082】
【表27】

【0083】
【表28】

【0084】
【表29】

【0085】
【表30】

【0086】
Cr非含有プラント鋳造バーRN033407(表20の組成)からの試料を実験室でコイル・ミリング加工状態から圧延して11.68mm(0.460”)を0.30mm(0.012”)にした。その後、試料を、900℃で60秒間流動床炉内において溶体化熱処理した。次いで、クーポンを0.23mm(0.009”)に25%圧延し、425℃、450℃、及び475℃のそれぞれの温度で4時間及び8時間、時効した。その後、試料を0.18mm(0.007”)に22%冷間圧延し、300℃で3時間の最終焼鈍を行った。強度と伝導率の最良の組合せは、表28aに示されているその条件及び他の条件からの特性で、450℃での8時間の時効を行った場合に結果として得られた。450℃/8時間のデータを表25の特性と比較すると、溶体化焼鈍温度を900℃にさらに下げたときに、耐力が低下し、伝導率が増加し、965MPa(140ksi)及び39%IACSの固有の組合せが得られることは明らかである。それに加えて、900℃の溶体化焼鈍温度を含む加工を行うと、より高い溶体化焼鈍温度を伴う加工と比べたときに曲げ加工性が改善した。
【0087】
【表31】

【0088】
「実例13」Si及びMgの効果
表29にまとめられている組成を有する実験用インゴットを黒鉛坩堝で溶解し、鉄鋼製鋳型に流し込んでタマン鋳造した。鋳造処理後、110.0mm×55.1mm×25.9mm(4.33”×2.17”×1.02”)となった。すべての合金はCr含有量が0.5%となるようにした。Si含有量は、1.0%〜1.5%の範囲で変化させた。高Siである1.5%の変更形態では、化学量論比((Ni+Co)/(Si−Cr/5))を約4に固定して、Ni/Co比を4.98〜11.37で変化させた。Mgの影響について、BVと同じ合金組成であるが0.1%のMgをさらに加えた合金BWで試験した。
【0089】
図32は、この実例13のプロセスの流れ図である。900℃で2時間均質化熱処理した後、12.0mm(0.472”)に熱間圧延され、これにより、900℃で10分間、それぞれのパスの後に再加熱される。最後のパスの後に、バーを水焼き入れした。10.0mm(0.394”)にトリミング及びミリング加工して表面酸化物を除去した後、合金を0.30mm(0.012”)に冷間圧延し、表29に示されている時間と温度で、流動床炉内において溶体熱処理した。時間と温度は、20μm未満の粒径となるように選択された。
【0090】
その後、これらの合金を0.23mm(0.009”)に25%冷間圧延し、次いで、450〜475℃で3時間時効焼鈍に曝した。試料の特性を表30にまとめた。加工性は、Vブロックを使って測定された。Si含有量が増えると、耐力は、1.05%のSi合金に対する834MPa(121ksi)から1.51%のSi合金に対する931MPa(135ksi)に増大する。1.16%のSiの変更形態では、Mgが入ることにより35〜48MPa(5〜7ksi)の耐力に有利になる。Ni/Co比を11.37から4.98に下げると、高いSi(1.5%)合金に対する耐力が増大する。ターゲット初期応力を0.8倍の耐力とするリング法によって応力緩和を試験した。表31は、変更形態BV、BW、及びBXに対する応力緩和データを示している。BVとBWを比較すると、Mgが添加されているため、応力緩和抵抗は、150℃/1000時間の条件では66.3%から86.6%に増加し、200℃/1000時間の条件では48.5%から72.3%に増加する。より高いSi含有BXの応力緩和抵抗は、結局、150℃/1000時間の条件では82.3%に、200℃/1000時間の条件では68.7%になる。
【0091】
【表32】

【0092】
【表33】

【0093】
【表34】

【0094】
「実例14」Si及びMgの効果
図33は、この実例14のプロセスの流れ図である。実例13の標本を、その後、22%の冷間圧延で0.18mm(0.007”)に冷間圧延した。その後、試料を300℃〜400℃の温度で3時間、時効焼鈍した。300℃で第2の時効を行った試料からの特性を表32にまとめた。加工性は、Vブロックを使って測定された。
【0095】
最高の耐力は、450℃の第1の時効温度で得られた。Si含有量が増えると、耐力は、1.05%Si合金に対する903MPa(131ksi)から1.51%Si合金に対する1014MPa(147ksi)に増大する。1.16%Siの変更形態では、Mgが入ることで48〜69MPa(7〜10ksi)の耐力に有利になる。Ni/Co比を11.37から4.98に下げると、高いSiの1.5%Si合金に対する耐力が21MPa(3ksi)だけ増大する。ターゲット初期応力を0.8倍の耐力とするリング法によって応力緩和を試験した。表33は、プロセスSA−CR−1.AA450℃−CR−2.AA300℃の場合のBV、BW、及びBXの応力緩和データを示している。
【0096】
BVとBWを比較すると、Mgが添加されているため、応力緩和抵抗は、150℃/1000時間の条件では72.6%から85.6%に増加し、200℃/1000時間の条件では55.8%から69.3%に増加する。より高いSi含有BXの応力緩和抵抗は、結局、150℃/1000時間の条件では81.1%に、200℃/1000時間の条件では66.1%になる。
【0097】
【表35】

【0098】
【表36】

【0099】
「実例15」Si及びMgの効果
表34にまとめられている組成を有する実験用インゴットを黒鉛坩堝で溶解し、鉄鋼製鋳型に流し込んでタマン鋳造した。鋳造処理後、110.0mm×55.1mm×25.9mm(4.33”×2.17”×1.02”)となった。これらの合金は、Crを含まず、化学量論比((Ni+Co)/(Si−Cr/5))は約4.2であった。Ni/Co比は、約4.5であった。2つの合金は、ターゲットとなるSi含有量が1.1%であるが、Mg含有量を変えており、一方の合金は、Si含有量が1.4%であり、さらにMgを有する。図34は、この実例15のプロセスの流れ図である。900℃で2時間均質化熱処理した後、12.0mm(0.472”)に熱間圧延され、これにより、900℃で10分間、それぞれのパスの後に再加熱される。最後のパスの後に、バーを水焼き入れした。10.0mm(0.394”)にトリミング及びミリング加工して表面酸化物を除去した後、合金を0.30mm(0.012”)に冷間圧延し、表34に示されている時間および温度で、流動床炉内において溶体熱処理した。時間と温度は、20μm未満の粒径となるように選択された。
【0100】
その後、これらの合金を0.23mm(0.009”)に25%冷間圧延し、次いで、450〜475℃の範囲で3時間時効焼鈍に曝した。試料の特性を表35にまとめた。Cr非含有FL及びFMの耐力、Vブロックで測定された加工性、及び伝導率は、実例13からのCr含有BV及びBWと類似しており、比較可能なSi含有量1.1%、Ni/Co比、及び化学量論比を有する。実例13のように、0.1%のMgを加えると、結果として、48〜55MPa(7〜8ksi)の耐力に有利になる。
【0101】
Si含有量を1.17%から1.39%に増加させると、耐力は、同じ溶体化焼鈍温度で873から900MPa(126.6から130.5ksi)に増大する。変更形態のFNでは、溶体化焼鈍温度を950℃から1000℃に高めた結果、耐力は69MPa(10ksi)の増大となる。
【0102】
ターゲット初期応力を0.8倍の耐力とするリング法によって応力緩和を試験した。表36は、溶体化焼鈍温度を950℃とするプロセスに対する応力緩和データを示している。実例13のCr含有の1.16%のSiの試料、BV及びBWと比較した場合、FL及びFMの応力緩和は、わずかに低い。実例13と同様に、0.1%のMg添加の結果、応力緩和は、150℃/1000時間の条件では64.6%から82.7%に増加し、200℃/1000時間の条件では44.3%から69.2%に増加する。Mg含有のSi 1.39%の変更形態FNの応力緩和抵抗は、結局、150℃/1000時間の条件では84.1%に、200℃/1000時間の条件では65.9%になる。
【0103】
【表37】

【0104】
【表38】

【0105】
【表39】

【0106】
「実例16」Si及びMgの効果
図35は、この実例16のプロセスの流れ図である。実例15の標本を、その後、22%の冷間圧延で0.18mm(0.007”)に冷間圧延した。その後、試料を300℃〜350℃の温度で3時間、時効焼鈍した。300℃で第2の時効を行った試料からの特性を表37にまとめた。加工性は、Vブロックを使って測定された。最高の耐力は、450℃の第1の時効温度で得られた。
【0107】
FMは、FLと比較してより高い耐力76MPa(11ksi)を示している。すなわち、これは、部分的にはMg含有量によるものであり、また部分的にはわずかに高いSi含有量によるものである。Cr非含有FL及びFMの耐力、曲げ性、及び伝導率は、実例15からのCr含有BV及びBWと類似しており、比較可能なSi含有量、Ni/Co比、及び化学量論比を有する。
【0108】
Si含有量を1.17%から1.39%に増大させると、950℃の溶体化焼鈍温度に対し約993MPa(144ksi)の同じ耐力が得られる。変更形態のFNでは、溶体化焼鈍温度を950℃から1000℃に高めた結果、耐力は986から1089MPa(143から158ksi)に増大する。
【0109】
ターゲット初期応力を0.8倍の耐力とするリング法によって応力緩和を試験した。表38は、プロセスSA950℃−CR−1.AA450℃−CR−2.AA300℃の場合のFL及びFMの応力緩和データを示している。実例15のCr含有の1.16%のSiの試料、BV及びBWと比較した場合、FL及びFMの応力緩和は、2〜3%だけ低い。実例15と同様に、0.1%のMg添加の結果、応力緩和は、150℃/1000時間の条件では70.0%から82.0%に増加し、200℃/1000時間の条件では52.3%から66.9%に増加する。Mg含有のSi 1.39%の変更形態FNの応力緩和抵抗は、結局、150℃/1000時間の条件では85.0%に、200℃/1000時間の条件では66.4%になる。
【0110】
【表40】

【0111】
【表41】

【0112】
「実例16」
図36は、実例13、実例14、実例15、及び実例16の合金並びにプロセスに対する90°−minBR/t BWおよび耐力の関係を示している。両方のプロセスSA−CR−AA及びSA−CR−AA−CR−AAは、特定の加工性対耐力の関係を有する2つの群を形成する。実線は、目で見たときの案内にすぎず、増大するMin BR/t及び増大する耐力を高いSi含有量及び/又はMg添加とともに注目するものである。耐力と加工性(Cr含有の変更形態とCr非含有の変更形態との間の耐力の関係)にほとんど差異ない。
【0113】
図37は、実例13、実例14、実例15、及び実例16の合金並びにプロセスに対する%IACSおよび耐力の関係を示している。Cr非含有合金及びCr含有合金は、高い耐力とともに30%IACSの伝導率を達成する同じ能力のあることを示している。SA−CR−AA−CR−AAプロセスでは、SA−CR−AAプロセスに比べて高い耐力を達成するが、伝導率は同じである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐力及び電気伝導率がともに向上された銅基合金において、実質的に
Ni:約1.0〜約6.0重量パーセント、
Co:最大約3.0重量パーセント、
Si:約0.5〜約2.0重量パーセント、
Mg:約0.01〜約0.5重量パーセント、
Cr:最大約1.0重量パーセント、
Sn:最大約1.0重量パーセント、
Mn:最大約1.0重量パーセント、
残部:銅および不純物
からなり、少なくとも約945MPaの耐力、及び少なくとも約25%IACSの電気伝導率を有するように加工された、銅基合金。
【請求項2】
少なくとも約30%IACSの伝導率を有する請求項1に記載された銅基合金。
【請求項3】
少なくとも約945MPaの耐力、及び少なくとも約38%IACSの電気伝導率を有するように加工された請求項1に記載された銅基合金。
【請求項4】
少なくとも約986MPaの耐力、及び少なくとも約37%IACSの電気伝導率を有するように加工された請求項1に記載された銅基合金。
【請求項5】
少なくとも約1082MPaの耐力、及び少なくとも約32%IACSの電気伝導率を有するように加工された請求項1に記載された銅基合金。
【請求項6】
耐力及び加工性がともに向上された銅基合金において、実質的に
Ni:約1.0〜約6.0重量パーセント、
Co:最大約3.0重量パーセント、
Si:約0.5〜約2.0重量パーセント、
Mg:約0.01〜約0.5重量パーセント、
Cr:最大約1.0重量パーセント、
Sn:最大約1.0重量パーセント、
Mn:最大約1.0重量パーセント、
残部:銅および不純物
からなり、少なくとも約945MPaの耐力、及び良い方向の曲げと悪い方向の曲げの両方に対して4t未満のmbr/tを有するように加工された、銅基合金。
【請求項7】
良い方向の曲げと悪い方向の曲げの両方に対して約2t未満のmbr/tを有する請求項6に記載された銅基合金。
【請求項8】
少なくとも約25%IACSの電気伝導率を有する請求項6に記載された銅基合金。
【請求項9】
少なくとも約30%IACSの電気伝導率を有する請求項8に記載された銅基合金。
【請求項10】
耐力、電気伝導率、及び加工性がともに向上された銅基合金において、実質的に
Ni:約1.0〜約6.0重量パーセント、
Co:最大約3.0重量パーセント、
Si:約0.5〜約2.0重量パーセント、
Mg:約0.01〜約0.5重量パーセント、
Cr:最大約1.0重量パーセント、
Sn:最大約1.0重量パーセント、
Mn:最大約1.0重量パーセント、
残部:銅および不純物
からなり、比(Ni+Co)/(Si−Cr/5)が約3〜約7である、銅基合金。
【請求項11】
良い方向の曲げと悪い方向の曲げの両方に対して約4t未満のmbr/tを有するように加工された請求項10に記載された銅基合金。
【請求項12】
良い方向の曲げと悪い方向の曲げの両方に対して約2t未満のmbr/tを有するように加工された請求項10に記載された銅基合金。
【請求項13】
少なくとも約945MPaの耐力、及び少なくとも約38%IACSの電気伝導率を有するように加工された請求項10に記載された銅基合金。
【請求項14】
少なくとも約986MPaの耐力、及び少なくとも約37%IACSの電気伝導率を有するように加工された請求項10に記載された銅基合金。
【請求項15】
少なくとも約1082MPaの耐力、及び少なくとも約32%IACSの電気伝導率を有するように加工された請求項10に記載された銅基合金。
【請求項16】
箔、ワイヤ、バー、又はチューブの形態をとる請求項1に記載された銅基合金。
【請求項17】
耐力、電気伝導率、及び加工性がともに向上された銅基合金において、実質的に、
Ni:約3.0〜約5.0重量パーセント、
Co:最大約2.0重量パーセント、
Si:約0.7〜約1.5重量パーセント、
Mg:約0.03〜約0.25重量パーセント、
Cr:最大約0.6重量パーセント、
Sn:最大約1.0重量パーセント、
Mn:最大約1.0重量パーセント、
残部:銅および不純物
からなり、比(Ni+Co)/(Si−Cr/5)が約3〜約7である、銅基合金。
【請求項18】
耐力、電気伝導率、及び加工性がともに向上された銅基合金において、実質的に
Ni:約3.0〜約5.0重量パーセント、
Co:最大約2.0重量パーセント、
Si:約0.7〜約1.5重量パーセント、
Mg:約0.03〜約0.25重量パーセント、
Cr:最大約0.6重量パーセント、
Sn:最大約1.0重量パーセント、
Mn:最大約1.0重量パーセント、
残部:銅および不純物
からなり、少なくとも約945MPaの耐力、及び少なくとも約25%IACSの電気伝導率を有するように加工された、銅基合金。
【請求項19】
少なくとも約945MPaの耐力、及び少なくとも約38%IACSの電気伝導率を有するように加工された請求項18に記載された銅基合金。
【請求項20】
少なくとも約986MPaの耐力、及び少なくとも約37%IACSの電気伝導率を有するように加工された請求項18に記載された銅基合金。
【請求項21】
少なくとも約1082MPaの耐力、及び少なくとも約32%IACSの電気伝導率を有するように加工された請求項18に記載された銅基合金。
【請求項22】
耐力、電気伝導率、および応力緩和抵抗性がともに向上された銅基合金において、実質的に
Ni:約3.5〜約3.9重量パーセント、
Co:約0.8〜約1.0重量パーセント、
Si:約1.0〜約1.2重量パーセント、
Mg:約0.05〜約0.15重量パーセント、
Cr:最大約0.1重量パーセント、
Sn:最大約1.0重量パーセント、
Mn:最大約1.0重量パーセント、
残部:銅および不純物
からなり、少なくとも約965MPaの耐力、及び少なくとも約30%IACSの電気伝導率を有するように加工された、銅基合金。
【請求項23】
比(Ni+Co)/(Si−Cr/5)が約3.5〜約5.0である請求項22に記載された銅基合金。
【請求項24】
比Ni/Coが約3〜約5である請求項23に記載された銅基合金。
【請求項25】
前記比Ni/Coが約3〜約5である請求項22に記載された銅基合金。
【請求項26】
ニッケル、ケイ素、コバルト、及びクロムを含む銅基合金を製造する方法において、
前記銅基合金を溶解して鋳造する段階と、
約750°〜約1050℃で熱間圧延する段階と、
溶体化のために都合の良い寸法まで冷間圧延する段階と、
約800℃〜約1050℃で約10秒〜約1時間、前記銅基合金を溶体化処理する段階と、
その後、前記銅基合金を周囲温度まで急冷して約20%IACS(11.6MS/m)未満の電気伝導率及び約5〜20μmの等軸粒径を得る段階と、
前記銅基合金を0〜約75%の減厚率で冷間圧延する段階と、
約300°〜約600℃で約10分〜約10時間、前記銅基合金に硬化焼鈍を施す段階と、
その後、前記銅基合金を約10〜約75%の減厚率で仕上げゲージまで冷間圧延する段階と、
約250〜約500℃で約10分〜約10時間、前記銅基合金に第2の時効硬化処理を施して完成させる段階と
を含む、銅基合金を製造する方法。
【請求項27】
熱間圧延の後に中間再結晶焼鈍をさらに含む請求項26に記載された銅基合金を製造する方法。
【請求項28】
前記銅基合金が、実質的に、
Ni:約1.0〜約6.0重量パーセント、
Co:最大約3.0重量パーセント、
Si:約0.5〜約2.0重量パーセント、
Mg:約0.01〜約0.5重量パーセント、
Cr:最大約1.0重量パーセント、
Sn:最大約1.0重量パーセント、
Mn:最大約1.0重量パーセント、
残部:銅および不純物
からなる請求項26に記載された銅基合金を製造する方法。
【請求項29】
前記銅基合金が、実質的に
Ni:約3.0〜約5.0重量パーセント、
Co:最大約2.0重量パーセント、
Si:約0.7〜約1.5重量パーセント、
Mg:約0.03〜約0.25重量パーセント、
Cr:最大約0.6重量パーセント、
Sn:最大約1.0重量パーセント、
Mn:最大約1.0重量パーセント、
残部:銅および不可避不純物
からなる請求項28に記載された銅基合金を製造する方法。
【請求項30】
比(Ni+Co)/(Si−Cr/5)が約3〜約7である請求項29に記載された銅基合金を製造する方法。
【請求項31】
前記銅基合金が、実質的に、
Ni:約3.5〜約3.9重量パーセント、
Co:約0.8〜約1.0重量パーセント、
Si:約1.0〜約1.2重量パーセント、
Mg:約0.05〜約0.15重量パーセント、
Cr:最大約0.1重量パーセント、
Sn:最大約1.0重量パーセント、
Mn:最大約1.0重量パーセント、
残部:銅および不純物
からなる請求項29に記載された銅基合金を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26A】
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【図26B】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【公表番号】特表2011−508081(P2011−508081A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−539878(P2010−539878)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【国際出願番号】PCT/US2008/087705
【国際公開番号】WO2009/082695
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(510172963)ジービーシー メタルズ、エルエルシー (1)
【出願人】(505090735)ヴィーラント − ヴェルケ アクチエンゲゼルシャフト (3)
【Fターム(参考)】