銅張り積層板および銅めっき被膜の成膜方法
【課題】エッチングによってパターン形成する際に、確実にファインピッチの導体回路を形成できる銅めっき皮膜の成膜方法および銅張り積層板とその製造方法を提供する。
【解決手段】硫酸銅めっき液中に浸漬した樹脂フィルム2に電流を印加することにより、樹脂フィルム2の表面に銅めっき皮膜18を成膜する銅めっき皮膜の成膜方法において、樹脂フィルム2に銅めっきを析出させる負電流密度の析出電流パルスを印加して銅めっきを形成した後に、当該銅めっきを溶解させる正電流密度の溶解電流パルスを印加して銅めっきの表面側を溶解するとともに、析出電流パルスの印加時間に応じて溶解電流パルスの印加時間を変化させることにより、上記銅めっきの析出量と銅めっきの溶解量との比率を9:1以上で18:1以下の範囲内となるように制御することを特徴とする。
【解決手段】硫酸銅めっき液中に浸漬した樹脂フィルム2に電流を印加することにより、樹脂フィルム2の表面に銅めっき皮膜18を成膜する銅めっき皮膜の成膜方法において、樹脂フィルム2に銅めっきを析出させる負電流密度の析出電流パルスを印加して銅めっきを形成した後に、当該銅めっきを溶解させる正電流密度の溶解電流パルスを印加して銅めっきの表面側を溶解するとともに、析出電流パルスの印加時間に応じて溶解電流パルスの印加時間を変化させることにより、上記銅めっきの析出量と銅めっきの溶解量との比率を9:1以上で18:1以下の範囲内となるように制御することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板を製造するために用いられる銅張り積層板および上記銅張り積層板に成膜する銅めっき皮膜の成膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に携帯電話やディスプレイなどに組み込まれているプリント配線板は、銅張り積層板に導体回路を形成することにより製造されている。
【0003】
この銅張り積層板は、被めっき材である樹脂フィルムに、ニッケルクロム合金スパッタ膜と、銅スパッタ膜からなる導電被膜を成膜し、導電被膜の上に銅めっき皮膜を成膜したものであり、パターニング処理を行なって導体回路を形成することにより、上記プリント配線板を得ている。
【0004】
ここで、上記パターニング処理としては、カッターやレーザにより、余分な銅めっき皮膜を切除して、導体回路を形成する方法がある。しかしながら、導体回路の形成に時間を有することや加工が困難である等の問題点があることから、一般的に、サブトラクティブ法が行なわれている。
【0005】
このサブトラクティブ法は、先ず、銅めっき皮膜上の導体回路となる位置にフォトレジストを塗布して、このフォトレジストによるパターンマスクをフォトリソグラフィー法によって形成する。そして、このパターンマスクの上からエッチング液を吹き付けることにより、パターンマスクの開口部に露出している銅めっき皮膜を除去した後に、パターンマスクをエッチング液により除去して導体回路を形成するものである。なお、この銅のエッチング液としては、塩化第2鉄水溶液が主として使用されている。
【0006】
ところで、近年、様々な電子部品の小型化が進むに連れて、これら電子機器に組み込まれる上記プリント配線板も導体回路の配線ピッチを狭めるファインピッチ化が望まれている。このため、エッチングファクターの向上した銅めっき皮膜を成膜することにより、ファインピッチの導体回路を形成することが可能な銅張り積層板を製造する必要があった。
【0007】
しかしながら、従来の銅張り積層板は、サブトラクティブ法により導電被膜や銅めっき皮膜をパターン形成する際に、銅めっき皮膜の表面側がサイドエッチングされてしまう。このため、導体回路は、トップ幅が狭くなるとともにボトム幅が広くなり、その断面形状が台形状になってしまう。
【0008】
従って、導体回路間の電気的絶縁性を確保するまでエッチング処理を施すと、配線ピッチ幅が広くなり過ぎてしまうために、ファインピッチの微細回路を形成することができないという問題点があった。
【0009】
この問題に対し、下記特許文献1〜3に示すように、特定の銅めっき液を調整し、あるいは、特定の電流密度の直流電流を印加することにより、電解めっきによってめっきされる銅の結晶性を制御して、表面側に微細な銅結晶を有するとともに樹脂フィルム側に粗大な銅結晶を有する銅めっき皮膜を成膜する方法が提案されている。これは、表面側に難エッチング構造を有する微細な銅結晶からなる銅めっきを析出し、被めっき材側に易エッチング構造を有する粗大な銅結晶からなる銅めっきを析出することにより、エッチングの深さ方向の進行量に対する水平方向の進行量の比率、即ち、銅めっき皮膜のエッチングファクターを向上させることが可能となる。この結果、エッチング処理のパターン精度を高めることができ、ファインピッチの導体回路を形成することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004―87550号公報
【特許文献2】特開2005―166910号公報
【特許文献3】特開2005―166917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1〜3に記載の方法によって形成された銅めっき皮膜は、表面側に微細な銅結晶からなる銅めっきを析出しても、時間が経過するに連れて、この微細な銅結晶が成長し粗大な結晶構造へと成長してしまう。これにより、実際にエッチングによってパターン形成する際には、銅めっき皮膜全体が易エッチング構造を有する粗大な銅結晶となってしまうために、ファインピッチの導体回路を形成することができないという問題点があった。なお、このように銅結晶が微細な結晶構造から粗大な結晶構造へと成長するのは、微細な銅結晶が大きな歪みを有し、この歪みが自発的な除去作用であるセルフアニーリングを室温にて引き起すことに起因するものであると推測される。
【0012】
本発明は、エッチングによってパターン形成する際に、銅めっき被膜の表面側の銅結晶の成長を抑制して微細なものにするとともに、銅めっき皮膜の表面側をエッチングレートが遅い微細な銅結晶の状態に維持することにより、時間が経過しても、エッチングファクターが向上した状態を維持することが可能な銅めっき皮膜を成膜する方法、および上記銅めっき皮膜を成膜することにより確実にファインピッチの導体回路を形成することが可能な銅張り積層板を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の銅めっき皮膜の成膜方法においては、銅めっき液中に浸漬した被めっき材に電流を印加することにより、上記被めっき材の少なくとも表面に銅めっき皮膜を成膜する銅めっき皮膜の成膜方法において、上記被めっき材に銅めっきを析出させる電流密度の析出電流を印加した後に、析出した上記銅めっきの表面側を溶解させる電流密度の溶解電流を印加することを特徴とするものである。
【0014】
さらに、請求項2に記載の銅めっき被膜の成膜方法は、上記析出電流の印加時間に応じて上記溶解電流の印加時間を変化させることにより、上記銅めっきの析出量と上記銅めっきの溶解量との比率を9:1以上で18:1以下の範囲内となるように制御することを特徴とするものである。
【0015】
そして、請求項3に記載の銅張り積層板は、請求項1ないし請求項2のいずれかに記載の銅めっき皮膜の成膜方法によって、上記被めっき材に、銅めっき皮膜を成膜してなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1または請求項2に記載の銅めっき皮膜の成膜方法によれば、上記被めっき材に銅めっきを析出させる電流密度の析出電流を印加することにより、上記被めっき材に歪みを有する微細な銅めっきを析出・形成する。
【0017】
そこで、この状態において、上記銅めっきの表面側を溶解させる電流密度の溶解電流を印加することにより、上記銅めっきの特に歪みの大きい部分を溶解する。すると、上記析出電流パルスを印加して析出した銅結晶の歪みを小さくすることができ、微細な銅結晶が粗大化することを抑制することが可能となる。そして、析出初期における上記被めっき材近傍に析出した銅結晶は特に歪みが大きいことから、上記析出電流パルスおよび溶解電流パルスを繰り返し印加して成膜した銅めっき皮膜は、上記被めっき材近傍に歪みが大きく、表面側に歪みの小さい結晶を持つ構造となる。これにより、セルフアニーリングが被めっき材近傍のみで生じるため、表面側にエッチングレートの遅い微細な銅結晶を有するとともに上記被めっき材側にエッチングレートの早い粗大な銅結晶を有する銅めっき皮膜を成膜することが可能となり、この結果、エッチングファクターが向上した銅めっき皮膜を成膜することが可能となる。
【0018】
ここで、本発明者は、当該銅めっき皮膜の成膜方法を行なっても、表面側に微細な銅結晶を有するとともに被めっき材側に粗大な銅結晶を有する銅めっき皮膜を成膜することができなくなる場合があるという問題点を発見した。
【0019】
それは、上記銅めっきの析出量と上記銅めっきの溶解量との比率が9:1未満となる場合、微細な銅結晶の歪みを大きく減少させてしまうために、セルフアニーリングが起こらず、図5に示すように、全体に微細な銅結晶を有する銅めっき皮膜が成膜されてしまう。
【0020】
また、上記銅めっきの析出量と上記銅めっきの溶解量との比率が18:1を超える場合、微細な銅結晶の歪みの減少が十分ではなく、銅めっき皮膜全体でセルフアニーリングが起こるために、図9に示すように、全体に粗大な銅結晶を有する銅めっき皮膜が成膜されてしまう。
【0021】
このため、上記銅めっきの析出量と上記銅めっきの溶解量との比率が、上記銅めっきの溶解量を1として、9:1以上で18:1以下の範囲外にある場合、上記銅めっき皮膜全体の組織が略同一の形状となるために、エッチング処理を施した際に、銅めっき皮膜の表面側がサイドエッチングされて、導体回路のトップ幅が狭くなるとともに、ボトム幅が広くなる。この結果、従来の銅めっき皮膜と同様に、導体回路の断面形状が台形状になり、ファインピッチの微細回路を形成することができなくなるという知見を得た。
【0022】
そこで、請求項2に記載の銅めっき被膜の成膜方法によれば、上記析出電流の印加時間に応じて上記溶解電流の印加時間を調整することにより、上記銅めっきの析出量と上記銅めっきの溶解量との比率を9:1以上で18:1以下の範囲内となるように制御しているために、時間が経過しても確実に表面側にエッチングレートの遅い微細な銅結晶を有するとともに被めっき材側にエッチングレートの早い粗大な銅結晶を有する状態に維持することが可能な銅めっき皮膜を成膜することが可能である。即ち、確実にエッチングファクターが向上した状態を維持することが可能な銅めっき皮膜を成膜することが可能となる。
従って、プリント配線板を製造する際に、サブトラクティブ法を行なっても、確実にファインピッチの微細回路を形成することが可能な銅張り積層板を製造することが可能となる。
【0023】
また、請求項3に記載の銅張り積層板によれば、請求項1ないし請求項2のいずれかに記載の銅めっき皮膜の成膜方法によって、上記被めっき材に銅めっき皮膜を成膜してなるために、エッチング処理を行なっても確実にファインピッチ導体回路を形成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る銅張り積層板の一実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図1の銅張り積層板を製造するめっき装置の概略構成図である
【図3】図1の銅張り積層板の銅めっき皮膜を成膜する析出電流パルスと溶解電流パルスの波形を示すグラフである。
【図4】本発明に係る銅めっき皮膜の一実施形態を示す図であって、表面側に微細な銅結晶を有し、樹脂フィルム側に粗大な銅結晶を有している状態を示す顕微鏡写真である。
【図5】実施例1の銅めっき皮膜の実施形態を示す図であって、表面側に微細な銅結晶を有し、樹脂フィルム側に粗大な銅結晶を有している状態を示す顕微鏡写真である。
【図6】実施例1の銅めっき皮膜の他の実施形態を示す図であって、表面側に微細な銅結晶を有し、樹脂フィルム側に粗大な銅結晶を有している状態を示す顕微鏡写真である。
【図7】実施例1の銅めっき皮膜の他の実施形態を示す図であって、表面側に微細な銅結晶を有し、樹脂フィルム側に粗大な銅結晶を有している状態を示す顕微鏡写真である。
【図8】比較例1の銅めっき皮膜の実施形態を示す図であって、全体的に微細な結晶を有している状態を示す顕微鏡写真である。
【図9】比較例1の銅めっき皮膜の他の実施形態を示す図であって、全体的に粗大な銅結晶を有している状態を示す顕微鏡写真である。
【図10】実施例2の銅めっき皮膜の組織を示す図であって、(a)はPRパルスを印加して成膜した銅めっき皮膜の顕微鏡写真、(b)はPPRパルスを印加して成膜した銅めっき皮膜の顕微鏡写真である。
【図11】実施例3のPRパルスを印加して成膜した銅めっき皮膜とPPRパルスを印加して成膜した銅めっき皮膜および従来技術の銅めっき皮膜をエッチング処理して形成した導体回路のエッチングファクターを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
まず、本発明の銅張り積層板1の一実施形態を説明する。
図1に示すように、銅張り積層板1は、20〜50μmの膜厚を有する帯状の樹脂フィルム2の表面全体に、ニッケルクロム合金スパッタ膜3と銅スパッタ膜4とが順に成膜されている。
【0026】
これにより、この銅張り積層板1は、その表面にスパッタ膜3,4からなる膜厚5〜200nmの導電被膜3、4が成膜されている。
【0027】
そして、銅スパッタ膜4の上に銅めっき皮膜18が総厚5μm〜15μmになるように積層されている。
【0028】
ここで、銅めっき皮膜18は、表面側が微細な銅結晶となるように形成され、樹脂フィルム2側が粗大な銅結晶となるように形成されている。
【0029】
次に上記銅めっき皮膜18を成膜するためのめっき装置6について図2を用いて説明する。
まず、当該めっき装置6は、図2に示すように、巻き出し部材によって巻きロール5から巻き出される樹脂フィルム2の下流側に設置された複数(本実施形態においては2槽)の電解銅めっき槽7によって概略構成されている。そして、これらの電解銅めっき槽7は、樹脂フィルム2の搬送方向に沿って一列に配設されており、各電解めっき槽7には、硫酸銅めっき溶液が貯留されている。さらに、めっき装置6には、これら電解銅めっき槽7間ならびに電解銅めっき槽7の上流側および電解銅めっき槽7の下流側にそれぞれ給電水洗槽8が備えられている。
【0030】
ここで、各給電水洗槽8には、それぞれ樹脂フィルム2の表面に接触して、樹脂フィルム2を安定的に搬送させる回転ローラ9とともに銅スパッタ膜4に電気を供給する回転自在な給電ローラ10が設けられている。
【0031】
また、上記電解銅めっき槽7の上流側に設置された給電水洗槽8と、巻き出し部材との間には、銅スパッタ膜4の表面に付着している無機汚染物を分解除去する硫酸が収容された酸洗槽11が設置されている。他方、上記電解銅めっき槽7の下流側に設置された給電水洗槽8の後段に下流側に向けて、順に防錆槽12、水洗槽13、乾燥装置14および巻き取りローラ15が配設されている。
【0032】
次に、本発明に係る銅めっき皮膜の成膜方法の一実施形態について説明する。
まず、樹脂フィルム2の表面を、アルゴン雰囲気によるプラズマ処理によって洗浄することにより親水性が向上した同表面に、真空雰囲気下のスパッタ装置にて、ニッケルクロム合金3スパッタ膜と、このニッケルクロム合金スパッタ膜3の上に銅スパッタ膜4とを連続的に成膜する。
【0033】
次いで、このニッケルクロム合金スパッタ膜3と銅スパッタ膜4とが成膜された樹脂フィルム2をロール状に巻き取った後、この巻きロール5をめっき装置6に付属する巻き出し部材に、軸方向を上下方向に向けて設置する。
【0034】
そして、先ず、めっき装置6により、巻きロール5から巻き出された樹脂フィルム2の銅スパッタ膜4の表面を酸洗槽11によって洗浄した後に、1槽目および2槽目と順に電解銅めっき槽7内において硫酸銅めっき液に浸漬して、給電水洗槽8により交流電流を印加することにより銅めっき皮膜18を成膜する。
【0035】
この際、当該交流電流は、図3に示すように、析出電流による析出電流パルス16および溶解電流による溶解電流パルス17により構成されている。
【0036】
そして、この析出電流パルス16は、繰り返し低電流密度と高電流密度とが印加される複数の波数を有するものであり、低電流密度から高電流密度へのパルスの立ち上がり部と高電流密度から低電流密度へのパルスの立ち下がり部とが垂直となる矩形波により構成されている。
【0037】
また、低電流密度が少なくとも、ゼロを除くマイナス(本実施形態においては−2A/dm2)であり、高電流密度が低電流密度よりも高電流密度、好ましくは−3A/dm2以上であって、−8A/dm2以下の範囲内の低電流密度よりも高い特定の負電流密度(本実施形態においては−5A/dm2)により構成されている。
【0038】
さらに、低電流密度、立ち上がり部、高電流密度及び立ち下がり部からなる1周期が10ミリ秒〜30ミリ秒の範囲内の特定秒数(本実施形態においては20ミリ秒)からなり、この周期の繰り返し、すなわち複数の波数により構成されている。
【0039】
一方、溶解電流パルス17は、2A/dm2以上、8A/dm2以下の範囲内の特定の正電流密度(本実施形態においては5A/dm2以下)により構成されている。
【0040】
そして、当該析出電流パルス16を1000ミリ秒印加した後に、溶解電流パルス17を70ミリ秒印加するように調整することにより、銅めっきの析出量と上記銅めっきの溶解量との比率が10:1となるように制御されている。
【0041】
即ち、上記記載の電流波形(PPRパルス)を利用することにより、図4に示すように、表面側に微細な銅結晶を有するとともに、樹脂フィルム2側に粗大な銅結晶を有する銅めっき皮膜18が成膜されている。
【0042】
そして、銅めっき皮膜18を成膜した樹脂フィルム2は、防錆槽12にて防錆液に浸漬され、次いで、水洗槽13にて水洗されて、乾燥装置14内にて乾燥した後に、巻き取りローラ15に巻き取られる。これにより、銅張り積層板1が得られる。
【0043】
以上の構成からなる銅めっき皮膜18の成膜方法によれば、析出電流パルス16を印加することにより形成された銅めっきの表面側の微細な銅結晶の一部を溶解するために、微細な銅結晶の歪みを取り除いて、微細な銅結晶が粗大化することを抑制することが可能となる。これにより、表面側にエッチングレートの遅い微細な銅結晶を有するとともに樹脂フィルム2側にエッチングレートの早い粗大な銅結晶を有する銅めっき皮膜18を成膜することが可能となり、この結果、エッチングファクターが向上した銅めっき皮膜18を成膜することが可能となる。
【0044】
また、析出電流パルス16の印加時間に応じて溶解電流パルス17の印加時間を調整することにより、上記銅めっきの析出量と上記銅めっきの溶解量との比率を、上記銅めっきの溶解量を1として、9:1以上で18:1以下の範囲内となるように制御しているために、時間が経過しても確実に表面側にエッチングレートの遅い微細な銅結晶を有するとともに樹脂フィルム2側にエッチングレートの早い粗大な銅結晶を有する状態に維持することが可能な銅めっき皮膜18を成膜することが可能である。即ち、確実にエッチングファクターが向上した状態を維持することが可能な銅めっき皮膜18を成膜することが可能となる。
従って、プリント配線板を製造する際に、サブトラクティブ法を行なっても、確実にファインピッチの微細回路を形成することが可能な銅張り積層板を製造することが可能となる。
【0045】
また、析出電流パルス16は、低電流密度と高電流密度を交互に繰り返し印加しているために、直流電流による銅めっき皮膜の成膜方法より成膜スピードが速くなる。これにより、銅張り積層板1の生産性が向上する。
【0046】
そして、電解めっき槽7において、チオ尿素等の添加剤やニッケル等の合金元素を使用しなくとも、エッチングによってパターン形成する際に微細な結晶構造を有するファインピッチの導体回路を形成することが可能である。これにより、生産コストを低減することが可能となる。
【0047】
さらに、電解めっき槽7に貯留されている硫酸銅めっき液に添加剤を加えた場合には、高電流密度の印加時に銅めっき皮膜18における添加剤の取り込み量が多くなるため、添加剤含有量によって銅めっき皮膜18のエッチング速度を調整でき、エッチングのパターン精度の高い銅めっき皮膜18を成膜することができる。
【0048】
なお、上述の銅張り積層板1の実施形態に何ら限定されるものでなく、例えば、樹脂フィルム2の片方の表面だけでなく、両表面が導電性を有して、両表面に銅めっき皮膜が成膜されてもよい。
【0049】
また、上述の銅めっき皮膜18の成膜方法においては、交流電流を印加して銅めっき皮膜18を成膜したが、特定の電流密度である析出電流パルスを印加した後に、析出電流パルスにより析出した銅めっき皮膜の一部を溶解する電流密度である溶解電流パルスを印加する波形(PRパルス)であっても、析出量と溶解量との比率を9:1〜18:1の範囲内に収めていれば対応可能である。
【実施例1】
【0050】
まず、本実施例に係る銅張り積層板を製造する事前準備として、めっき装置6の下流側の電解銅めっき槽7および給電水洗槽8を一槽ずつ取り外して、電解銅めっき槽7を1槽のみとし、当該電解銅めっき槽7に下記表1に記載の硫酸銅めっき液を貯留した。
【0051】
【表1】
【0052】
次に、帯状の樹脂フィルム(東レ・デュポン製 カプトンEN)2の表面を、アルゴン雰囲気によるプラズマ処理によって洗浄することにより親水性も向上した同表面に、真空雰囲気下のスパッタ装置にて、ニッケルクロム合金スパッタ膜3と、ニッケルクロム合金スパッタ膜3の上に銅スパッタ膜4とを順次連続的に成膜した。
【0053】
次いで、これらのスパッタ膜3、4を成膜した樹脂フィルム2をロール状に巻き取った後に、この巻きロール5をめっき装置6に付属する巻きだし部材に、軸方向に向けて設置した。
【0054】
次に、銅スパッタ膜4の表面を酸洗槽11によって洗浄した後に、電解銅めっき槽7の硫酸銅めっき液に浸漬して、給電水洗槽8によって、銅スパッタ膜4に電流密度−3.4A/dm2の析出電流パルスおよび電流密度6.9A/dm2の溶解電流パルスを下記表2に記載の所定の間隔で反転させながら印加することにより銅めっき皮膜19を成膜した。即ちPRパルスを用いるとともに、下記表2に記載の析出電流パルスにより析出される銅めっきの析出量と溶解電流パルスにより溶解される当該銅めっきの溶解量との比率を下記表2のように制御することにより銅めっき皮膜19を成膜した。
【0055】
【表2】
【0056】
そして、上記表2における析出量:溶解量の比率における銅めっき皮膜19の組織の形状を顕微鏡写真にて確認した。
【0057】
この際、比較例1として、電解銅めっき槽7の硫酸銅めっき液に浸漬して、給電水洗槽8によって、銅スパッタ膜4に電流密度−3.4A/dm2の析出電流パルスおよび電流密度6.9A/dm2の溶解電流パルスを下記表3に記載の所定の間隔で反転させながら印加することにより銅めっき皮膜19を成膜した。即ちPRパルスを用いるとともに、下記表3に記載の析出電流パルスにより析出される銅めっきの析出量と溶解電流パルスにより溶解される当該銅めっきの溶解量との比率を下記表3のように制御することにより銅めっき皮膜20を成膜した。
【0058】
【表3】
【0059】
そして、上記表3における析出量:溶解量の比率における銅めっき皮膜20の組織の形状を顕微鏡写真にて確認した。
【0060】
まず表2に記載の上記析出量:溶出量の比率を9:1〜18:1にした時に、銅めっき皮膜19の組織は、図5〜図7に示すように、表面側(図中上側)が微細な銅結晶により構成され、樹脂フィルム2側(図中下側)が粗大な銅結晶により構成されていた。
【0061】
そして、表3に記載の上記析出量:溶解量の比率を8:1にした時に、銅めっき皮膜20の組織は、図8に示すように、全体が微細な銅結晶により構成されていた。
【0062】
また、上記析出量:溶解量の比率を19:1にした時に、銅めっき皮膜20の組織は、図9に示すように、全体が粗大な銅結晶により構成されていた。
【0063】
これにより、析出電流パルス16の印加時間に応じて溶解電流パルス17の印加時間を調整して、銅めっきの析出量および溶解量の比率が9:1〜18:1の範囲内となるように制御することにより、表面側にエッチングレートの遅い微細な銅結晶を有するとともに、樹脂フィルム2側にエッチングレートの早い粗大な銅結晶を有する銅めっき皮膜19を形成することが可能であることを実証できた。
【0064】
また、銅めっきの析出量および溶解量の比率を9:1〜18:1の範囲に制御した銅めっき皮膜19の中でも、比率を10:1に制御した銅めっき皮膜19が、微細な銅結晶の厚みと粗大な銅結晶の厚みをより均一にすることを実証できた。
【実施例2】
【0065】
まず、本実施例に係る銅張り積層板を製造する事前準備として、実施例1と同一構成のめっき装置に同一構成の硫酸銅めっき液を貯留し、次いで電解銅めっき槽7の硫酸銅めっき液に、実施例1と同一条件で表面にニッケルクロム合金スパッタ膜3、銅スパッタ膜4とを順に成膜した樹脂フィルム2を浸漬した。
【0066】
次に、銅スパッタ膜4に、電流密度−2A/dm2以上−5A/dm2以下の複数の波形を有する析出電流パルス16を印加した後に、電流密度5A/dm2の溶解電流パルス17を印加するとともに、当該析出電流パルス16を1000ミリ秒印加した後に、溶解電流パルス17を70ミリ秒印加するように調整することにより、銅めっきの析出量と上記銅めっきの溶解量との比率が10:1となるようにして銅めっき皮膜を成膜した。即ち、PPRパルスを用いるとともに、銅めっきの析出量と当該銅めっきの溶解量との比率を10:1に制御して銅めっき皮膜を成膜した。そして、当該銅めっき皮膜の組織の形状を確認した。
【0067】
図10(a)は、上記実施例1の銅めっきの析出量および溶解量の比率を10:1に制御した銅めっき皮膜の組織を示す顕微鏡写真であり、図10(b)は、上記実施例2の銅めっき皮膜の組織を示す顕微鏡写真である。そして、図10に記載の白い破線は、微細な銅結晶と粗大な銅結晶との境界線を示している
【0068】
そして、上記実施例2の銅めっき皮膜の組織を確認すると、微細な銅結晶の厚みと粗大な銅結晶の厚みが略均一に構成されおり、上記実施例1の銅めっきの析出量および溶解量の比率を10:1に制御した銅めっき皮膜の組織を確認すると、微細な銅結晶の方が、粗大な銅結晶より、僅かに厚みをもって構成されていた。
【0069】
この結果、PPRパルスを印加して成膜した銅めっき皮膜の方が、PRパルスを印加して成膜した銅めっき皮膜より、微細な銅結晶の厚みと粗大な銅結晶の厚みがより均一となることが実証できた。
【実施例3】
【0070】
次に、実施例1において、PRパルスを印加するとともに、銅めっきの析出量および溶解量の比率が10:1となるように制御して成膜した銅めっき皮膜、および実施例2においてPPRパルスを印加するとともに、銅めっきの析出量および溶解量の比率が10:1となるように制御して成膜した銅めっき皮膜の導体回路を形成する位置にフォトレジストを塗布して、このフォトレジストによるパターンマスクをフォトリソグラフィー法によって形成する。そして、このパターンマスクの上から塩化第2鉄水溶液(エッチング液)を吹き付けることにより、パターンマスクの開口部に露出している銅めっき皮膜を除去した後に、パターンマスクをエッチング液により除去して、それぞれ15μmおよび20μmピッチの導体回路を形成した。
【0071】
そして、上記PRパルスを印加して成膜した銅めっき皮膜とPPRパルスを印加して成膜した銅めっき皮膜をエッチング処理することにより形成された導体回路のエッチングの深さ方向の進行量に対する水平方向の進行量の比率、即ちエッチングファクターを確認した。
【0072】
この際、比較例2として、電解銅めっき槽7において、銅スパッタ膜4に電流密度5A/dm2の析出電流のみで構成された直流電流を印加して成膜した銅めっき皮膜、即ち、従来技術の銅めっき皮膜の成膜方法により成膜した銅めっき皮膜を上記と同条件のエッチング処理することにより形成した15μmおよび20μmピッチの導体回路のエッチングファクターを確認した。
【0073】
図11は、PRパルスを印加して成膜された銅めっき皮膜、PPRパルスを印加して成膜された銅めっき皮膜および従来の銅めっき皮膜をエッチング処理することにより形成した導体回路の15μmおよび20μmの時のエッチングファクターを示すグラフである。
【0074】
まず、従来の銅めっき皮膜をエッチング処理することにより形成された15μmおよび20μmピッチの導体回路のエッチングファクターを抽出すると、15μmピッチの導体回路が2.4であり、20μmピッチの導体回路が3.5であった。
【0075】
次に、PRパルスを印加して成膜した銅めっき皮膜をエッチング処理することにより形成された15μmおよび20μmピッチの導体回路のエッチングファクターを抽出すると、15μmピッチの導体回路が3.7であり、20μmピッチの導体回路が7.1であった。
【0076】
さらに、PPRパルスを印加して成膜した銅めっき皮膜をエッチング処理することにより形成された15μmおよび20μmピッチの導体回路のエッチングファクターを抽出すると、15μmピッチの導体回路が4.0であり、20μmピッチの導体回路が7.9であった。
【0077】
これにより、直流電流を印加して成膜した従来の銅めっき皮膜をエッチング処理することにより形成した導体回路より、PRパルスを印加して成膜した銅めっき皮膜をエッチング処理することにより形成した導体回路の方が、エッチングファクターが向上していることを実証できた。
【0078】
さらに、PRパルスを印加して成膜した銅めっき皮膜をエッチング処理することにより形成した導体回路より、PPRパルスを印加して成膜した銅めっき皮膜をエッチング処理した導体回路の方が、エッチングファクターが向上していることを実証できた。
【符号の説明】
【0079】
1 銅張り積層板
2 樹脂フィルム
3 ニッケルクロム合金スパッタ膜(導電皮膜)
4 銅スパッタ膜(導電皮膜)
16 析出電流パルス(析出電流)
17 溶解電流パルス(溶解電流)
18 銅めっき皮膜(銅めっき皮膜)
19 銅めっき皮膜(実施例1の銅めっき皮膜)
20 銅めっき皮膜(比較例1の銅めっき皮膜)
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板を製造するために用いられる銅張り積層板および上記銅張り積層板に成膜する銅めっき皮膜の成膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に携帯電話やディスプレイなどに組み込まれているプリント配線板は、銅張り積層板に導体回路を形成することにより製造されている。
【0003】
この銅張り積層板は、被めっき材である樹脂フィルムに、ニッケルクロム合金スパッタ膜と、銅スパッタ膜からなる導電被膜を成膜し、導電被膜の上に銅めっき皮膜を成膜したものであり、パターニング処理を行なって導体回路を形成することにより、上記プリント配線板を得ている。
【0004】
ここで、上記パターニング処理としては、カッターやレーザにより、余分な銅めっき皮膜を切除して、導体回路を形成する方法がある。しかしながら、導体回路の形成に時間を有することや加工が困難である等の問題点があることから、一般的に、サブトラクティブ法が行なわれている。
【0005】
このサブトラクティブ法は、先ず、銅めっき皮膜上の導体回路となる位置にフォトレジストを塗布して、このフォトレジストによるパターンマスクをフォトリソグラフィー法によって形成する。そして、このパターンマスクの上からエッチング液を吹き付けることにより、パターンマスクの開口部に露出している銅めっき皮膜を除去した後に、パターンマスクをエッチング液により除去して導体回路を形成するものである。なお、この銅のエッチング液としては、塩化第2鉄水溶液が主として使用されている。
【0006】
ところで、近年、様々な電子部品の小型化が進むに連れて、これら電子機器に組み込まれる上記プリント配線板も導体回路の配線ピッチを狭めるファインピッチ化が望まれている。このため、エッチングファクターの向上した銅めっき皮膜を成膜することにより、ファインピッチの導体回路を形成することが可能な銅張り積層板を製造する必要があった。
【0007】
しかしながら、従来の銅張り積層板は、サブトラクティブ法により導電被膜や銅めっき皮膜をパターン形成する際に、銅めっき皮膜の表面側がサイドエッチングされてしまう。このため、導体回路は、トップ幅が狭くなるとともにボトム幅が広くなり、その断面形状が台形状になってしまう。
【0008】
従って、導体回路間の電気的絶縁性を確保するまでエッチング処理を施すと、配線ピッチ幅が広くなり過ぎてしまうために、ファインピッチの微細回路を形成することができないという問題点があった。
【0009】
この問題に対し、下記特許文献1〜3に示すように、特定の銅めっき液を調整し、あるいは、特定の電流密度の直流電流を印加することにより、電解めっきによってめっきされる銅の結晶性を制御して、表面側に微細な銅結晶を有するとともに樹脂フィルム側に粗大な銅結晶を有する銅めっき皮膜を成膜する方法が提案されている。これは、表面側に難エッチング構造を有する微細な銅結晶からなる銅めっきを析出し、被めっき材側に易エッチング構造を有する粗大な銅結晶からなる銅めっきを析出することにより、エッチングの深さ方向の進行量に対する水平方向の進行量の比率、即ち、銅めっき皮膜のエッチングファクターを向上させることが可能となる。この結果、エッチング処理のパターン精度を高めることができ、ファインピッチの導体回路を形成することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004―87550号公報
【特許文献2】特開2005―166910号公報
【特許文献3】特開2005―166917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1〜3に記載の方法によって形成された銅めっき皮膜は、表面側に微細な銅結晶からなる銅めっきを析出しても、時間が経過するに連れて、この微細な銅結晶が成長し粗大な結晶構造へと成長してしまう。これにより、実際にエッチングによってパターン形成する際には、銅めっき皮膜全体が易エッチング構造を有する粗大な銅結晶となってしまうために、ファインピッチの導体回路を形成することができないという問題点があった。なお、このように銅結晶が微細な結晶構造から粗大な結晶構造へと成長するのは、微細な銅結晶が大きな歪みを有し、この歪みが自発的な除去作用であるセルフアニーリングを室温にて引き起すことに起因するものであると推測される。
【0012】
本発明は、エッチングによってパターン形成する際に、銅めっき被膜の表面側の銅結晶の成長を抑制して微細なものにするとともに、銅めっき皮膜の表面側をエッチングレートが遅い微細な銅結晶の状態に維持することにより、時間が経過しても、エッチングファクターが向上した状態を維持することが可能な銅めっき皮膜を成膜する方法、および上記銅めっき皮膜を成膜することにより確実にファインピッチの導体回路を形成することが可能な銅張り積層板を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の銅めっき皮膜の成膜方法においては、銅めっき液中に浸漬した被めっき材に電流を印加することにより、上記被めっき材の少なくとも表面に銅めっき皮膜を成膜する銅めっき皮膜の成膜方法において、上記被めっき材に銅めっきを析出させる電流密度の析出電流を印加した後に、析出した上記銅めっきの表面側を溶解させる電流密度の溶解電流を印加することを特徴とするものである。
【0014】
さらに、請求項2に記載の銅めっき被膜の成膜方法は、上記析出電流の印加時間に応じて上記溶解電流の印加時間を変化させることにより、上記銅めっきの析出量と上記銅めっきの溶解量との比率を9:1以上で18:1以下の範囲内となるように制御することを特徴とするものである。
【0015】
そして、請求項3に記載の銅張り積層板は、請求項1ないし請求項2のいずれかに記載の銅めっき皮膜の成膜方法によって、上記被めっき材に、銅めっき皮膜を成膜してなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1または請求項2に記載の銅めっき皮膜の成膜方法によれば、上記被めっき材に銅めっきを析出させる電流密度の析出電流を印加することにより、上記被めっき材に歪みを有する微細な銅めっきを析出・形成する。
【0017】
そこで、この状態において、上記銅めっきの表面側を溶解させる電流密度の溶解電流を印加することにより、上記銅めっきの特に歪みの大きい部分を溶解する。すると、上記析出電流パルスを印加して析出した銅結晶の歪みを小さくすることができ、微細な銅結晶が粗大化することを抑制することが可能となる。そして、析出初期における上記被めっき材近傍に析出した銅結晶は特に歪みが大きいことから、上記析出電流パルスおよび溶解電流パルスを繰り返し印加して成膜した銅めっき皮膜は、上記被めっき材近傍に歪みが大きく、表面側に歪みの小さい結晶を持つ構造となる。これにより、セルフアニーリングが被めっき材近傍のみで生じるため、表面側にエッチングレートの遅い微細な銅結晶を有するとともに上記被めっき材側にエッチングレートの早い粗大な銅結晶を有する銅めっき皮膜を成膜することが可能となり、この結果、エッチングファクターが向上した銅めっき皮膜を成膜することが可能となる。
【0018】
ここで、本発明者は、当該銅めっき皮膜の成膜方法を行なっても、表面側に微細な銅結晶を有するとともに被めっき材側に粗大な銅結晶を有する銅めっき皮膜を成膜することができなくなる場合があるという問題点を発見した。
【0019】
それは、上記銅めっきの析出量と上記銅めっきの溶解量との比率が9:1未満となる場合、微細な銅結晶の歪みを大きく減少させてしまうために、セルフアニーリングが起こらず、図5に示すように、全体に微細な銅結晶を有する銅めっき皮膜が成膜されてしまう。
【0020】
また、上記銅めっきの析出量と上記銅めっきの溶解量との比率が18:1を超える場合、微細な銅結晶の歪みの減少が十分ではなく、銅めっき皮膜全体でセルフアニーリングが起こるために、図9に示すように、全体に粗大な銅結晶を有する銅めっき皮膜が成膜されてしまう。
【0021】
このため、上記銅めっきの析出量と上記銅めっきの溶解量との比率が、上記銅めっきの溶解量を1として、9:1以上で18:1以下の範囲外にある場合、上記銅めっき皮膜全体の組織が略同一の形状となるために、エッチング処理を施した際に、銅めっき皮膜の表面側がサイドエッチングされて、導体回路のトップ幅が狭くなるとともに、ボトム幅が広くなる。この結果、従来の銅めっき皮膜と同様に、導体回路の断面形状が台形状になり、ファインピッチの微細回路を形成することができなくなるという知見を得た。
【0022】
そこで、請求項2に記載の銅めっき被膜の成膜方法によれば、上記析出電流の印加時間に応じて上記溶解電流の印加時間を調整することにより、上記銅めっきの析出量と上記銅めっきの溶解量との比率を9:1以上で18:1以下の範囲内となるように制御しているために、時間が経過しても確実に表面側にエッチングレートの遅い微細な銅結晶を有するとともに被めっき材側にエッチングレートの早い粗大な銅結晶を有する状態に維持することが可能な銅めっき皮膜を成膜することが可能である。即ち、確実にエッチングファクターが向上した状態を維持することが可能な銅めっき皮膜を成膜することが可能となる。
従って、プリント配線板を製造する際に、サブトラクティブ法を行なっても、確実にファインピッチの微細回路を形成することが可能な銅張り積層板を製造することが可能となる。
【0023】
また、請求項3に記載の銅張り積層板によれば、請求項1ないし請求項2のいずれかに記載の銅めっき皮膜の成膜方法によって、上記被めっき材に銅めっき皮膜を成膜してなるために、エッチング処理を行なっても確実にファインピッチ導体回路を形成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る銅張り積層板の一実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図1の銅張り積層板を製造するめっき装置の概略構成図である
【図3】図1の銅張り積層板の銅めっき皮膜を成膜する析出電流パルスと溶解電流パルスの波形を示すグラフである。
【図4】本発明に係る銅めっき皮膜の一実施形態を示す図であって、表面側に微細な銅結晶を有し、樹脂フィルム側に粗大な銅結晶を有している状態を示す顕微鏡写真である。
【図5】実施例1の銅めっき皮膜の実施形態を示す図であって、表面側に微細な銅結晶を有し、樹脂フィルム側に粗大な銅結晶を有している状態を示す顕微鏡写真である。
【図6】実施例1の銅めっき皮膜の他の実施形態を示す図であって、表面側に微細な銅結晶を有し、樹脂フィルム側に粗大な銅結晶を有している状態を示す顕微鏡写真である。
【図7】実施例1の銅めっき皮膜の他の実施形態を示す図であって、表面側に微細な銅結晶を有し、樹脂フィルム側に粗大な銅結晶を有している状態を示す顕微鏡写真である。
【図8】比較例1の銅めっき皮膜の実施形態を示す図であって、全体的に微細な結晶を有している状態を示す顕微鏡写真である。
【図9】比較例1の銅めっき皮膜の他の実施形態を示す図であって、全体的に粗大な銅結晶を有している状態を示す顕微鏡写真である。
【図10】実施例2の銅めっき皮膜の組織を示す図であって、(a)はPRパルスを印加して成膜した銅めっき皮膜の顕微鏡写真、(b)はPPRパルスを印加して成膜した銅めっき皮膜の顕微鏡写真である。
【図11】実施例3のPRパルスを印加して成膜した銅めっき皮膜とPPRパルスを印加して成膜した銅めっき皮膜および従来技術の銅めっき皮膜をエッチング処理して形成した導体回路のエッチングファクターを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
まず、本発明の銅張り積層板1の一実施形態を説明する。
図1に示すように、銅張り積層板1は、20〜50μmの膜厚を有する帯状の樹脂フィルム2の表面全体に、ニッケルクロム合金スパッタ膜3と銅スパッタ膜4とが順に成膜されている。
【0026】
これにより、この銅張り積層板1は、その表面にスパッタ膜3,4からなる膜厚5〜200nmの導電被膜3、4が成膜されている。
【0027】
そして、銅スパッタ膜4の上に銅めっき皮膜18が総厚5μm〜15μmになるように積層されている。
【0028】
ここで、銅めっき皮膜18は、表面側が微細な銅結晶となるように形成され、樹脂フィルム2側が粗大な銅結晶となるように形成されている。
【0029】
次に上記銅めっき皮膜18を成膜するためのめっき装置6について図2を用いて説明する。
まず、当該めっき装置6は、図2に示すように、巻き出し部材によって巻きロール5から巻き出される樹脂フィルム2の下流側に設置された複数(本実施形態においては2槽)の電解銅めっき槽7によって概略構成されている。そして、これらの電解銅めっき槽7は、樹脂フィルム2の搬送方向に沿って一列に配設されており、各電解めっき槽7には、硫酸銅めっき溶液が貯留されている。さらに、めっき装置6には、これら電解銅めっき槽7間ならびに電解銅めっき槽7の上流側および電解銅めっき槽7の下流側にそれぞれ給電水洗槽8が備えられている。
【0030】
ここで、各給電水洗槽8には、それぞれ樹脂フィルム2の表面に接触して、樹脂フィルム2を安定的に搬送させる回転ローラ9とともに銅スパッタ膜4に電気を供給する回転自在な給電ローラ10が設けられている。
【0031】
また、上記電解銅めっき槽7の上流側に設置された給電水洗槽8と、巻き出し部材との間には、銅スパッタ膜4の表面に付着している無機汚染物を分解除去する硫酸が収容された酸洗槽11が設置されている。他方、上記電解銅めっき槽7の下流側に設置された給電水洗槽8の後段に下流側に向けて、順に防錆槽12、水洗槽13、乾燥装置14および巻き取りローラ15が配設されている。
【0032】
次に、本発明に係る銅めっき皮膜の成膜方法の一実施形態について説明する。
まず、樹脂フィルム2の表面を、アルゴン雰囲気によるプラズマ処理によって洗浄することにより親水性が向上した同表面に、真空雰囲気下のスパッタ装置にて、ニッケルクロム合金3スパッタ膜と、このニッケルクロム合金スパッタ膜3の上に銅スパッタ膜4とを連続的に成膜する。
【0033】
次いで、このニッケルクロム合金スパッタ膜3と銅スパッタ膜4とが成膜された樹脂フィルム2をロール状に巻き取った後、この巻きロール5をめっき装置6に付属する巻き出し部材に、軸方向を上下方向に向けて設置する。
【0034】
そして、先ず、めっき装置6により、巻きロール5から巻き出された樹脂フィルム2の銅スパッタ膜4の表面を酸洗槽11によって洗浄した後に、1槽目および2槽目と順に電解銅めっき槽7内において硫酸銅めっき液に浸漬して、給電水洗槽8により交流電流を印加することにより銅めっき皮膜18を成膜する。
【0035】
この際、当該交流電流は、図3に示すように、析出電流による析出電流パルス16および溶解電流による溶解電流パルス17により構成されている。
【0036】
そして、この析出電流パルス16は、繰り返し低電流密度と高電流密度とが印加される複数の波数を有するものであり、低電流密度から高電流密度へのパルスの立ち上がり部と高電流密度から低電流密度へのパルスの立ち下がり部とが垂直となる矩形波により構成されている。
【0037】
また、低電流密度が少なくとも、ゼロを除くマイナス(本実施形態においては−2A/dm2)であり、高電流密度が低電流密度よりも高電流密度、好ましくは−3A/dm2以上であって、−8A/dm2以下の範囲内の低電流密度よりも高い特定の負電流密度(本実施形態においては−5A/dm2)により構成されている。
【0038】
さらに、低電流密度、立ち上がり部、高電流密度及び立ち下がり部からなる1周期が10ミリ秒〜30ミリ秒の範囲内の特定秒数(本実施形態においては20ミリ秒)からなり、この周期の繰り返し、すなわち複数の波数により構成されている。
【0039】
一方、溶解電流パルス17は、2A/dm2以上、8A/dm2以下の範囲内の特定の正電流密度(本実施形態においては5A/dm2以下)により構成されている。
【0040】
そして、当該析出電流パルス16を1000ミリ秒印加した後に、溶解電流パルス17を70ミリ秒印加するように調整することにより、銅めっきの析出量と上記銅めっきの溶解量との比率が10:1となるように制御されている。
【0041】
即ち、上記記載の電流波形(PPRパルス)を利用することにより、図4に示すように、表面側に微細な銅結晶を有するとともに、樹脂フィルム2側に粗大な銅結晶を有する銅めっき皮膜18が成膜されている。
【0042】
そして、銅めっき皮膜18を成膜した樹脂フィルム2は、防錆槽12にて防錆液に浸漬され、次いで、水洗槽13にて水洗されて、乾燥装置14内にて乾燥した後に、巻き取りローラ15に巻き取られる。これにより、銅張り積層板1が得られる。
【0043】
以上の構成からなる銅めっき皮膜18の成膜方法によれば、析出電流パルス16を印加することにより形成された銅めっきの表面側の微細な銅結晶の一部を溶解するために、微細な銅結晶の歪みを取り除いて、微細な銅結晶が粗大化することを抑制することが可能となる。これにより、表面側にエッチングレートの遅い微細な銅結晶を有するとともに樹脂フィルム2側にエッチングレートの早い粗大な銅結晶を有する銅めっき皮膜18を成膜することが可能となり、この結果、エッチングファクターが向上した銅めっき皮膜18を成膜することが可能となる。
【0044】
また、析出電流パルス16の印加時間に応じて溶解電流パルス17の印加時間を調整することにより、上記銅めっきの析出量と上記銅めっきの溶解量との比率を、上記銅めっきの溶解量を1として、9:1以上で18:1以下の範囲内となるように制御しているために、時間が経過しても確実に表面側にエッチングレートの遅い微細な銅結晶を有するとともに樹脂フィルム2側にエッチングレートの早い粗大な銅結晶を有する状態に維持することが可能な銅めっき皮膜18を成膜することが可能である。即ち、確実にエッチングファクターが向上した状態を維持することが可能な銅めっき皮膜18を成膜することが可能となる。
従って、プリント配線板を製造する際に、サブトラクティブ法を行なっても、確実にファインピッチの微細回路を形成することが可能な銅張り積層板を製造することが可能となる。
【0045】
また、析出電流パルス16は、低電流密度と高電流密度を交互に繰り返し印加しているために、直流電流による銅めっき皮膜の成膜方法より成膜スピードが速くなる。これにより、銅張り積層板1の生産性が向上する。
【0046】
そして、電解めっき槽7において、チオ尿素等の添加剤やニッケル等の合金元素を使用しなくとも、エッチングによってパターン形成する際に微細な結晶構造を有するファインピッチの導体回路を形成することが可能である。これにより、生産コストを低減することが可能となる。
【0047】
さらに、電解めっき槽7に貯留されている硫酸銅めっき液に添加剤を加えた場合には、高電流密度の印加時に銅めっき皮膜18における添加剤の取り込み量が多くなるため、添加剤含有量によって銅めっき皮膜18のエッチング速度を調整でき、エッチングのパターン精度の高い銅めっき皮膜18を成膜することができる。
【0048】
なお、上述の銅張り積層板1の実施形態に何ら限定されるものでなく、例えば、樹脂フィルム2の片方の表面だけでなく、両表面が導電性を有して、両表面に銅めっき皮膜が成膜されてもよい。
【0049】
また、上述の銅めっき皮膜18の成膜方法においては、交流電流を印加して銅めっき皮膜18を成膜したが、特定の電流密度である析出電流パルスを印加した後に、析出電流パルスにより析出した銅めっき皮膜の一部を溶解する電流密度である溶解電流パルスを印加する波形(PRパルス)であっても、析出量と溶解量との比率を9:1〜18:1の範囲内に収めていれば対応可能である。
【実施例1】
【0050】
まず、本実施例に係る銅張り積層板を製造する事前準備として、めっき装置6の下流側の電解銅めっき槽7および給電水洗槽8を一槽ずつ取り外して、電解銅めっき槽7を1槽のみとし、当該電解銅めっき槽7に下記表1に記載の硫酸銅めっき液を貯留した。
【0051】
【表1】
【0052】
次に、帯状の樹脂フィルム(東レ・デュポン製 カプトンEN)2の表面を、アルゴン雰囲気によるプラズマ処理によって洗浄することにより親水性も向上した同表面に、真空雰囲気下のスパッタ装置にて、ニッケルクロム合金スパッタ膜3と、ニッケルクロム合金スパッタ膜3の上に銅スパッタ膜4とを順次連続的に成膜した。
【0053】
次いで、これらのスパッタ膜3、4を成膜した樹脂フィルム2をロール状に巻き取った後に、この巻きロール5をめっき装置6に付属する巻きだし部材に、軸方向に向けて設置した。
【0054】
次に、銅スパッタ膜4の表面を酸洗槽11によって洗浄した後に、電解銅めっき槽7の硫酸銅めっき液に浸漬して、給電水洗槽8によって、銅スパッタ膜4に電流密度−3.4A/dm2の析出電流パルスおよび電流密度6.9A/dm2の溶解電流パルスを下記表2に記載の所定の間隔で反転させながら印加することにより銅めっき皮膜19を成膜した。即ちPRパルスを用いるとともに、下記表2に記載の析出電流パルスにより析出される銅めっきの析出量と溶解電流パルスにより溶解される当該銅めっきの溶解量との比率を下記表2のように制御することにより銅めっき皮膜19を成膜した。
【0055】
【表2】
【0056】
そして、上記表2における析出量:溶解量の比率における銅めっき皮膜19の組織の形状を顕微鏡写真にて確認した。
【0057】
この際、比較例1として、電解銅めっき槽7の硫酸銅めっき液に浸漬して、給電水洗槽8によって、銅スパッタ膜4に電流密度−3.4A/dm2の析出電流パルスおよび電流密度6.9A/dm2の溶解電流パルスを下記表3に記載の所定の間隔で反転させながら印加することにより銅めっき皮膜19を成膜した。即ちPRパルスを用いるとともに、下記表3に記載の析出電流パルスにより析出される銅めっきの析出量と溶解電流パルスにより溶解される当該銅めっきの溶解量との比率を下記表3のように制御することにより銅めっき皮膜20を成膜した。
【0058】
【表3】
【0059】
そして、上記表3における析出量:溶解量の比率における銅めっき皮膜20の組織の形状を顕微鏡写真にて確認した。
【0060】
まず表2に記載の上記析出量:溶出量の比率を9:1〜18:1にした時に、銅めっき皮膜19の組織は、図5〜図7に示すように、表面側(図中上側)が微細な銅結晶により構成され、樹脂フィルム2側(図中下側)が粗大な銅結晶により構成されていた。
【0061】
そして、表3に記載の上記析出量:溶解量の比率を8:1にした時に、銅めっき皮膜20の組織は、図8に示すように、全体が微細な銅結晶により構成されていた。
【0062】
また、上記析出量:溶解量の比率を19:1にした時に、銅めっき皮膜20の組織は、図9に示すように、全体が粗大な銅結晶により構成されていた。
【0063】
これにより、析出電流パルス16の印加時間に応じて溶解電流パルス17の印加時間を調整して、銅めっきの析出量および溶解量の比率が9:1〜18:1の範囲内となるように制御することにより、表面側にエッチングレートの遅い微細な銅結晶を有するとともに、樹脂フィルム2側にエッチングレートの早い粗大な銅結晶を有する銅めっき皮膜19を形成することが可能であることを実証できた。
【0064】
また、銅めっきの析出量および溶解量の比率を9:1〜18:1の範囲に制御した銅めっき皮膜19の中でも、比率を10:1に制御した銅めっき皮膜19が、微細な銅結晶の厚みと粗大な銅結晶の厚みをより均一にすることを実証できた。
【実施例2】
【0065】
まず、本実施例に係る銅張り積層板を製造する事前準備として、実施例1と同一構成のめっき装置に同一構成の硫酸銅めっき液を貯留し、次いで電解銅めっき槽7の硫酸銅めっき液に、実施例1と同一条件で表面にニッケルクロム合金スパッタ膜3、銅スパッタ膜4とを順に成膜した樹脂フィルム2を浸漬した。
【0066】
次に、銅スパッタ膜4に、電流密度−2A/dm2以上−5A/dm2以下の複数の波形を有する析出電流パルス16を印加した後に、電流密度5A/dm2の溶解電流パルス17を印加するとともに、当該析出電流パルス16を1000ミリ秒印加した後に、溶解電流パルス17を70ミリ秒印加するように調整することにより、銅めっきの析出量と上記銅めっきの溶解量との比率が10:1となるようにして銅めっき皮膜を成膜した。即ち、PPRパルスを用いるとともに、銅めっきの析出量と当該銅めっきの溶解量との比率を10:1に制御して銅めっき皮膜を成膜した。そして、当該銅めっき皮膜の組織の形状を確認した。
【0067】
図10(a)は、上記実施例1の銅めっきの析出量および溶解量の比率を10:1に制御した銅めっき皮膜の組織を示す顕微鏡写真であり、図10(b)は、上記実施例2の銅めっき皮膜の組織を示す顕微鏡写真である。そして、図10に記載の白い破線は、微細な銅結晶と粗大な銅結晶との境界線を示している
【0068】
そして、上記実施例2の銅めっき皮膜の組織を確認すると、微細な銅結晶の厚みと粗大な銅結晶の厚みが略均一に構成されおり、上記実施例1の銅めっきの析出量および溶解量の比率を10:1に制御した銅めっき皮膜の組織を確認すると、微細な銅結晶の方が、粗大な銅結晶より、僅かに厚みをもって構成されていた。
【0069】
この結果、PPRパルスを印加して成膜した銅めっき皮膜の方が、PRパルスを印加して成膜した銅めっき皮膜より、微細な銅結晶の厚みと粗大な銅結晶の厚みがより均一となることが実証できた。
【実施例3】
【0070】
次に、実施例1において、PRパルスを印加するとともに、銅めっきの析出量および溶解量の比率が10:1となるように制御して成膜した銅めっき皮膜、および実施例2においてPPRパルスを印加するとともに、銅めっきの析出量および溶解量の比率が10:1となるように制御して成膜した銅めっき皮膜の導体回路を形成する位置にフォトレジストを塗布して、このフォトレジストによるパターンマスクをフォトリソグラフィー法によって形成する。そして、このパターンマスクの上から塩化第2鉄水溶液(エッチング液)を吹き付けることにより、パターンマスクの開口部に露出している銅めっき皮膜を除去した後に、パターンマスクをエッチング液により除去して、それぞれ15μmおよび20μmピッチの導体回路を形成した。
【0071】
そして、上記PRパルスを印加して成膜した銅めっき皮膜とPPRパルスを印加して成膜した銅めっき皮膜をエッチング処理することにより形成された導体回路のエッチングの深さ方向の進行量に対する水平方向の進行量の比率、即ちエッチングファクターを確認した。
【0072】
この際、比較例2として、電解銅めっき槽7において、銅スパッタ膜4に電流密度5A/dm2の析出電流のみで構成された直流電流を印加して成膜した銅めっき皮膜、即ち、従来技術の銅めっき皮膜の成膜方法により成膜した銅めっき皮膜を上記と同条件のエッチング処理することにより形成した15μmおよび20μmピッチの導体回路のエッチングファクターを確認した。
【0073】
図11は、PRパルスを印加して成膜された銅めっき皮膜、PPRパルスを印加して成膜された銅めっき皮膜および従来の銅めっき皮膜をエッチング処理することにより形成した導体回路の15μmおよび20μmの時のエッチングファクターを示すグラフである。
【0074】
まず、従来の銅めっき皮膜をエッチング処理することにより形成された15μmおよび20μmピッチの導体回路のエッチングファクターを抽出すると、15μmピッチの導体回路が2.4であり、20μmピッチの導体回路が3.5であった。
【0075】
次に、PRパルスを印加して成膜した銅めっき皮膜をエッチング処理することにより形成された15μmおよび20μmピッチの導体回路のエッチングファクターを抽出すると、15μmピッチの導体回路が3.7であり、20μmピッチの導体回路が7.1であった。
【0076】
さらに、PPRパルスを印加して成膜した銅めっき皮膜をエッチング処理することにより形成された15μmおよび20μmピッチの導体回路のエッチングファクターを抽出すると、15μmピッチの導体回路が4.0であり、20μmピッチの導体回路が7.9であった。
【0077】
これにより、直流電流を印加して成膜した従来の銅めっき皮膜をエッチング処理することにより形成した導体回路より、PRパルスを印加して成膜した銅めっき皮膜をエッチング処理することにより形成した導体回路の方が、エッチングファクターが向上していることを実証できた。
【0078】
さらに、PRパルスを印加して成膜した銅めっき皮膜をエッチング処理することにより形成した導体回路より、PPRパルスを印加して成膜した銅めっき皮膜をエッチング処理した導体回路の方が、エッチングファクターが向上していることを実証できた。
【符号の説明】
【0079】
1 銅張り積層板
2 樹脂フィルム
3 ニッケルクロム合金スパッタ膜(導電皮膜)
4 銅スパッタ膜(導電皮膜)
16 析出電流パルス(析出電流)
17 溶解電流パルス(溶解電流)
18 銅めっき皮膜(銅めっき皮膜)
19 銅めっき皮膜(実施例1の銅めっき皮膜)
20 銅めっき皮膜(比較例1の銅めっき皮膜)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅めっき液中に浸漬した被めっき材に電流を印加することにより、上記被めっき材の少なくとも表面に銅めっき皮膜を成膜する銅めっき皮膜の成膜方法において、
上記被めっき材に銅めっきを析出させる電流密度の析出電流を印加した後に、析出した上記銅めっきの表面側を溶解させる電流密度の溶解電流を印加することを特徴とする銅めっき被膜の成膜方法。
【請求項2】
上記析出電流の印加時間に応じて上記溶解電流の印加時間を変化させることにより、上記銅めっきの析出量と上記銅めっきの溶解量との比率を9:1以上で18:1以下の範囲内となるように制御することを特徴とする請求項1に記載の銅めっき皮膜の成膜方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の銅めっき皮膜の成膜方法によって、上記被めっき材に、銅めっき皮膜を成膜してなることを特徴とする銅張り積層板。
【請求項1】
銅めっき液中に浸漬した被めっき材に電流を印加することにより、上記被めっき材の少なくとも表面に銅めっき皮膜を成膜する銅めっき皮膜の成膜方法において、
上記被めっき材に銅めっきを析出させる電流密度の析出電流を印加した後に、析出した上記銅めっきの表面側を溶解させる電流密度の溶解電流を印加することを特徴とする銅めっき被膜の成膜方法。
【請求項2】
上記析出電流の印加時間に応じて上記溶解電流の印加時間を変化させることにより、上記銅めっきの析出量と上記銅めっきの溶解量との比率を9:1以上で18:1以下の範囲内となるように制御することを特徴とする請求項1に記載の銅めっき皮膜の成膜方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の銅めっき皮膜の成膜方法によって、上記被めっき材に、銅めっき皮膜を成膜してなることを特徴とする銅張り積層板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図11】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図11】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2010−265499(P2010−265499A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−116298(P2009−116298)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】
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