説明

銅微粒子の製造方法

【課題】粒子径が10nm以下のナノサイズでかつ、粒度分布幅の狭い銅微粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】還元反応水溶液中の水酸化第二銅(Cu(OH))を有機分散剤(D)と還元剤である水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)の存在下に撹拌しながら還元反応させる、銅微粒子の製造方法であって、還元反応中に該水溶液中には水酸化第二銅が溶解して生成する銅イオンと未溶解の水酸化第二銅が共存していて、還元反応の進行により該水溶液中の銅イオンが還元されて銅原子と銅微粒子が生成するのに伴い、前記未溶解の水酸化第二銅が該水溶液中に連続的に溶解して銅イオンを生成して、還元反応が該水溶液中で水酸化第二銅の飽和溶解度ないしそれ以下の濃度で行なわれることを特徴とする、銅微粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元反応水溶液中で、還元剤を用いた水酸化第二銅の還元により、粒度分布の狭いナノサイズの銅微粒子の製造方法、及び該製造方法により得られる銅微粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノサイズ(粒径が1μm以下)の金属、合金等の微粒子は、バルク材料にはない様々な特異な特性を持つことが知られている。そしてこの特性を生かした様々な工学的応用が、現在、エレクトロニクス、バイオ、エネルギー等の各分野で、大いに期待されている。
【0003】
中でも、銅及びその合金からなるナノサイズの微粒子は、導電回路、バンプ、ビア、パッド等の実装部品の形成材料、高密度磁気記憶媒体やアンテナ用の磁性素子、ガス改質フィルタや燃料電池電極用の触媒材料として、大いに期待されている。
【0004】
最近では、銅微粒子を含有するインクを使用して、配線パターンをインクジェット法により形成し、焼成して配線を形成する技術が注目されている。しかし、インクジェット用のインクとして、銅微粒子を含有するインクを使用する場合、インク中において分散性を長期間保つことが重要であり、そのために、インク中において分散性を長期間保つ銅微粒子の製造方法が提案されている。
【0005】
特許文献1には、ポリエチレングリコール溶液、又はその水溶液中で酸化銅又は銅塩化物を還元して金属銅の微粒子を製造する銅微粒子の製造方法が開示されている。その実施例においては水酸化銅(Cu(OH))をヒドラジンで還元して、粒子径が2〜6nmの微粒子をえたことが記載されている。
特許文献2には、(a)塩化銅(CuCl)、硝酸銅(Cu(NO)、硫酸銅(CuSO)、酢酸銅((CHCOO)Cu)、又は水酸化銅(Cu(OH))等からなる銅前駆体とアミン系化合物とを混合して撹拌する段階、(b)混合溶液を90ないし170℃まで昇温させた後、その温度で反応させる段階、(c)反応終了後、非水系溶媒に前記混合溶液を投入して溶液の温度を20ないし50℃に低下させる段階、及び(d)前記混合溶液にアルコール系溶媒を投入してナノ粒子を沈殿させて得る段階、を含むキュービック形態の銅ナノ粒子の製造方法が開示されている。
その実施例にはアセチルアセトナト銅を前記条件で還元して、大きさが約15nmのキュービック形態の粒子を合成したことが記載されている。
【0006】
特許文献3には、(a)塩化銅(CuCl)、硝酸銅(Cu(NO)、硫酸銅(CuSO)、酢酸銅((CHCOO)Cu)、アセチルアセトナト銅、又は水酸化銅(Cu(OH))等の銅塩、分散剤、還元剤及び有機溶媒を含む混合溶液を調製する段階と、(b)前記混合溶液の温度を30ないし50℃に昇温させて撹拌する段階と、(c)前記混合溶液にマイクロ波を照射する段階と、及び(d)前記混合溶液の温度を低下させて銅ナノ粒子を得る段階とを含む銅ナノ粒子の製造方法が開示されている。その実施例には硫酸銅を前記条件で還元して、大きさが30〜50nmの球状銅粒子を得たことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平04−176806号公報
【特許文献2】特開2008−57041号公報
【特許文献3】特開2008−75181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の従来の銅化合物の還元方法においては、得られる銅微粒子の粒子径が大きいか、又は粒度分布の幅が広いとインクジェット用の分散液に添加するとインクジェットのノズルにおいて詰まりが発生し易いばかりでなく、インクの状態で保存すると粒子の凝集が生じてインクの安定性が低下するという問題点があった。このような安定性の低下したインクをインクジェット手段により、基板上にパターニング後、乾燥・焼成すると焼結後の導電性が低下して、所望の導電性配線等を得ることができない。
従って、粒子径が10nm以下のナノサイズでかつ、粒度分布の幅の狭い小さい銅微粒子を還元反応水溶液中において高濃度で得る技術の確立が望まれていた。
本発明は、上記問題点を解決し、粒子径が10nm以下のナノサイズでかつ、粒度分布幅の狭い銅微粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上述した従来の問題点について鋭意研究を重ねた結果、還元反応水溶液中で水溶液中への溶解度が極めて低い水酸化第二銅(Cu(OH))を原料として用いて、有機分散剤と還元剤である水素化ホウ素ナトリウムの存在下に、未溶解の固体状酸化銅を共存させて還元反応させると上記課題が解決できることを見出し本発明に到達した。
【0010】
すなわち本発明は、以下の(1)ないし(9)に記載する発明を要旨とする。
(1)還元反応水溶液中の水酸化第二銅(Cu(OH))を有機分散剤(D)と還元剤である水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)の存在下に撹拌しながら還元反応させる、銅微粒子の製造方法であって、還元反応中に該水溶液中には水酸化第二銅が溶解して生成する銅イオンと未溶解の水酸化第二銅が共存していて、還元反応の進行により該水溶液中の銅イオンが還元されて銅原子と銅微粒子が生成するのに伴い、前記未溶解の水酸化第二銅が該水溶液中に連続的に溶解して銅イオンが生成して、還元反応が該水溶液中で水酸化第二銅の飽和溶解度ないしそれ以下の濃度で行なわれることを特徴とする、銅微粒子の製造方法(以下、「第1の態様」ということがある)。
(2)前記還元反応水溶液中に添加する水酸化第二銅の量が15〜150ミリモル/リットルであることを特徴とする、前記(1)に記載の銅微粒子の製造方法。
(3)前記還元反応水溶液中の銅イオン(I)の濃度が5×10−2ミリモル/リットル以下であることを特徴とする、前記(1)又は(2)に記載の銅微粒子の製造方法。
(4)前記還元反応水溶液に添加する水酸化第二銅の90質量%以上の平均粒子径が0.1〜100μmの範囲内にあることを特徴とする、前記(1)ないし(3)のいずれかに記載の銅微粒子の製造方法。
【0011】
(5)前記還元反応水溶液中に添加する水素化ホウ素ナトリウムと水酸化第二銅の量との割合[(水素化ホウ素ナトリウム)/(水酸化第二銅)](モル比)が0.5〜2.0であることを特徴とする、前記(1)ないし(4)のいずれかに記載の銅微粒子の製造方法。
(6)前記有機分散剤(D)が、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、デンプン、及びゼラチンの中から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする、前記(1)ないし(5)のいずれかに記載の銅微粒子の製造方法。
(7)前記還元反応により得られる銅微粒子の平均一次粒子径が4〜8nmで、変動係数が15%以下であることを特徴とする、前記(1)ないし(6)のいずれかに記載の銅微粒子の製造方法。
【0012】
(8)還元反応水溶液中で有機分散剤(D)と還元剤である水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)の存在下に、水酸化第二銅が溶解して生成する銅イオンと未溶解の水酸化第二銅を共存させた還元反応により得られる、平均一次粒子径が4〜8nmで変動係数が15%以下であることを特徴とする銅微粒子(以下、「第2の態様」ということがある)。
【発明の効果】
【0013】
上記(1)及び(3)に記載した本発明の還元反応において、銅微粒子の原料に水酸化第二銅を使用するので、他の銅塩を使用した場合と比較して、銅原子以外には水素原子と酸素原子しか含まれない点から原料銅化合物に由来する不純物が本質的に少ないという特徴がある。又、水酸化第二銅の水溶液中への溶解度が低いことに起因して、還元反応水溶液中で水酸化第二銅が溶解して生成される銅イオン濃度が低い環境下で還元剤により還元されるので、還元反応により、平均一次粒子径が小さく、かつ粒度分布の狭い銅微粒子が安定的に得られる。
上記(2)に記載した本発明の還元反応において、還元反応水溶液中に未溶解の水酸化第二銅を添加できるので、還元反応により、従来よりも単位還元反応溶液当り高収量で銅微粒子を得ることが可能になる。
上記(4)に記載した本発明の還元反応において、還元反応の原料に使用する水酸化第二銅の粒子径を制御することにより、得られる銅微粒子の平均一次粒子径、及び還元反応時間を制御することが可能になる。
【0014】
上記(5)に記載した本発明の還元反応において、他の金属塩、例えば酢酸銅を使用した場合と比較して、水酸化第二銅は水溶液中でpHが相対的に高いので還元剤である水素化ホウ素ナトリウムの分解を押えて、水素化ホウ素ナトリウムの還元機能を効率よく発揮できるので、(水素化ホウ素ナトリウム)/(水酸化第二銅)](モル比)が0.5〜2.0となる範囲で水酸化第二銅の還元化反応を完了させることが可能になる。
上記(6)に記載した発明において、有機分散剤(D)は、還元反応により生成した銅微粒子を還元反応水溶液に分散させる機能を発揮するので、還元反応により平均一次粒子径が小さく、かつ粒度分布の狭い銅微粒子を得ることが可能になる。
前記(1)〜(6)に記載した銅微粒子の製造方法により、前記(7)に記載した平均一次粒子径が4〜8μmで変動係数が15%以下の銅微粒子が得られる。このような銅微粒子を分散溶液に分散させて得られる銅微粒子分散溶液は、分散安定性に優れるので基板配線用銅インク等に好適に使用することができる。
前記(8)に記載した還元反応を採用すると、平均一次粒子径が4〜8μmで変動係数が15%以下の銅微粒子を得ることが可能になるので、このような銅微粒子を分散溶液に分散させて得られる銅微粒子分散溶液は、分散安定性に優れるので、該微粒子を分散溶液に分散させて得られる銅微粒子分散溶液は、配線材料、色材、光学フィルタ、触媒などの機能性材料として均質な性能を得ることができ、さらに、銅微粒子分散溶液焼成温度(300℃以下)で焼成しても導電性の高い導電材料を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1で得られた銅微粒子の顕微鏡写真による拡大図である。
【図2】実施例1で得られた銅微粒子の粒度分布を示すヒストグラムである。
【図3】実施例2で得られた銅微粒子の粒度分布を示すヒストグラムである。
【図4】実施例3で得られた銅微粒子の粒度分布を示すヒストグラムである。
【図5】比較例1で得られ、酢酸銅を水素化ホウ素ナトリウムで還元して得られた銅微粒子の顕微鏡写真による拡大図である。
【図6】比較例1で得られた銅微粒子の粒度分布を示すヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に〔1〕本発明の「銅微粒子の製造方法」(第1の態様)、及び〔2〕本発明の「銅微粒子」(第2の態様)について説明する。
〔1〕本発明の第1の態様に係る「銅微粒子の製造方法」
本発明の第1の態様に係る「銅微粒子の製造方法」は、還元反応水溶液中の水酸化第二銅(Cu(OH))を有機分散剤(D)と還元剤である水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)の存在下に撹拌しながら還元反応させる、銅微粒子の製造方法であって、
還元反応中に該水溶液中には水酸化第二銅が溶解して生成する銅イオンと未溶解の水酸化第二銅が共存していて、還元反応の進行により該水溶液中の銅イオンが還元されて銅原子と銅微粒子が生成するのに伴い、前記未溶解の水酸化第二銅が該水溶液中に溶解して銅イオンが連続的に生成してきて、還元反応が該水溶液中で水酸化第二銅の飽和溶解度ないしそれ以下の濃度で行なわれることを特徴とする。
以下、本発明の「銅微粒子の製造方法」について説明する。
【0017】
(1)原料として使用する水酸化第二銅、水素化ホウ素ナトリウム、及び有機分散剤(D)について
(1−1)水酸化第二銅
本発明において、銅微粒子の原料に使用する水酸化第二銅は、青白色粉末または青色結晶で水への溶解度は低く、室温(25℃程度)で5.85×10−5モル/リットル程度である。本発明の「銅微粒子の製造方法」において、還元反応水溶液中で還元剤により銅イオンから銅微粒子を形成させる際に、水酸化第二銅の水溶液中への溶解度が低いことに起因して、還元反応水溶液中に溶解している銅イオンの濃度も低いので、低銅イオン濃度から銅微粒子が形成される際に粒子径が小さく、かつ粒度分布の狭い銅微粒子が安定的に得られる。
水酸化第二銅は、粒子状のもの、また粒子状のものを粉砕して微粒子状にしたものを用いることができる。
水酸化第二銅の水溶液中への溶解速度は遅いので、粉砕により粒子径の小さい水酸化第二銅を使用することにより、還元反応を促進すると共に一次粒子径を相対的に大きくすることが可能になる。微粒子状の水酸化第二銅を使用する場合、その90質量%以上の平均粒子径は、0.1〜100μmが好ましい。平均粒子径が100μmを超えると水酸化第二銅の還元反応水溶液中への溶解速が低下して該水溶液中の銅イオン濃度が低下して、還元反応に要する時間が長くなるおそれがある。
水酸化第二銅の粉砕は、乾式ボール微粉砕や湿式微粉砕により行うことができるが、不純物の混入を避けるためにセラミック微粉砕機、セラミックボール微粉砕媒体等を用いて清浄な環境中で実施することが望ましい。
【0018】
(1−2)水素化ホウ素ナトリウム
本発明において還元剤として用いる水素化ホウ素ナトリウムは、還元剤として種々の物質の還元に広く使用されている。水素化ホウ素ナトリウムは、酸性、又は中性の水溶液中で分解して水素を発生するので、還元反応水溶液に水素化ホウ素ナトリウムを添加する際、予め該水溶液に塩基性化合物を添加してアルカリ性としておくか、又は、予め水素化ホウ素ナトリウムをpH10.5〜13の水溶液に溶解したものを還元反応水溶液に添加してもよい。添加する塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物や炭酸塩、アンモニア等のアンモニウム化合物、アミン類等の塩基性化合物を挙げることができる。
【0019】
(1−3)有機分散剤(D)
有機分散剤(D)は、還元反応により生成する銅イオンに配位して銅原子への還元反応を促進すると共に、該銅原子から形成される銅粒子表面に配位して、銅微粒子を水溶液中に均一に分散させる機能も有している。特に、還元反応水溶液中に多量の水酸化銅を添加する場合、平均一次粒子径を小さく、かつ粒度分布の狭い銅微粒子を得るために、該水溶液中で生成する銅微粒子を分散させる機能を発揮する分散剤の添加は重要である。
有機分散剤(D)として好ましいのは、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン等のアミン系の高分子;ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース等のカルボン酸基を有する炭化水素系高分子;ポリアクリルアミド等のアクリルアミド;ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、更にはデンプン、及びゼラチンの中から選択される1種又は2種以上である。
上記例示した有機分散剤(D)の具体例として、ポリビニルピロリドン(分子量:1000〜500、000)、ポリエチレンイミン(分子量:100〜100,000)、カルボキシメチルセルロース(アルカリセルロースのヒドロキシル基Na塩のカルボキシメチル基への置換度:0.4以上、分子量:1000〜100,000)、ポリアクリルアミド(分子量:100〜6,000,000)、ポリビニルアルコール(分子量:1000〜100,000)、ポリエチレングリコール(分子量:100〜50,000)、ポリエチレンオキシド(分子量:50,000〜900,000)、ゼラチン(平均分子量:61,000〜67,000)、水溶性のデンプン等の高分子の有機分散剤(D)が挙げられる。
【0020】
上記かっこ内にそれぞれの高分子の有機分散剤(D)の数平均分子量を示すが、このような分子量範囲にあるものは水溶性を有するので、本発明において好適に使用できる。尚、これらの2種以上を混合して使用することもできる。
また、有機分散剤(D)の添加量は、還元反応水溶液から生成する銅微粒子の濃度にもよるが、該銅原子100重量部に対して、1〜100重量部が好ましく、5〜100重量部がより好ましい。有機分散剤(D)の添加量が前記1未満では凝集を抑制する効果が十分に得られない場合があり、一方、前記100重量部を超える場合には、分散上に支障がなくとも還元反応終了後に凝集促進剤を添加して有機分散剤(D)を除去する際に不都合が生ずるおそれがある。
【0021】
(2)水酸化第二銅の水素化ホウ素ナトリウムによる還元について
(2−1)還元反応水溶液
本発明の銅微粒子の製造方法に使用する、還元反応水溶液には、少なくとも、前記水酸化第二銅、水素化ホウ素ナトリウム、及び有機分散剤(D)が含有され、更に水素化ホウ素ナトリウムの安定剤として、pHがpH10.5〜13程度に調整されるように塩基性化合物が添加されている。該還元反応水溶液に添加される水酸化第二銅は該水溶液中で15〜150ミリモル/リットルとなる範囲が望ましい。前記15ミリモル/リットル以上で還元反応水溶液中での銅微粒子の生産性を向上することができ、一方、前記150ミリモル/リットルを超えると還元反応水溶液における撹拌が困難になるおそれがある。
還元反応水溶液に添加される水素化ホウ素ナトリウムの量は、水素化ホウ素ナトリウムと水酸化第二銅の量との割合[(水素化ホウ素ナトリウム)/(水酸化第二銅)](モル比)が好ましくは0.5〜2.0であり、より好ましくは0.5〜1.0である。
水酸化第二銅に対する水素化ホウ素ナトリウムの添加量が、前記モル比0.5未満では還元反応が充分に進行しないおそれがあり、一方、前記モル比2.0を超えると未反応の水素化ホウ素ナトリウムから大量の水素が発生し、またナトリウムイオンが大量に混入するという不都合を生ずるおそれがある。
【0022】
前記還元反応水溶液中への水素化ホウ素ナトリウムの安定剤である塩基性化合物の添加量が50ミリモル/リットル以上が好ましく、また該塩基性化合物と銅イオンの濃度比([塩基性化合物]/[銅イオン])(モル比)は4.7以上が好ましい。
還元反応水溶液中において、安定剤である塩基性化合物が上記範囲にある場合に還元反応により銅微粒子の生成が容易になる。
又、前記還元反応水溶液中の([BH4−]/[Cu2+])(モル比)は0.2以上が好ましく、かつ([OH]/[Cu2+])/([BH4−]/[Cu2+])が3.2以上であることが好ましい。還元反応水溶液中において、[BH4−]、[Cu2+]、及び[OH]がかかる割合で存在する場合に還元反応により銅微粒子の生成が容易になる。
【0023】
(2−2)還元反応
少なくとも水酸化第二銅、有機分散剤(D)、及び還元剤の水素化ホウ素ナトリウムが添加された還元反応水溶液に好ましくは不活性ガスを通気しながら、撹拌下に還元反応を進行させる。
前記不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウムからなる群より選択される一種類以上であることが望ましい。また、前記還元時の還元反応水溶液温度は60℃以下であることが好ましく、40℃以下がより好ましく、10〜30℃が更に好ましい。
還元反応は、以下の経路で進行するものと推定される。先ず、水酸化第二銅が還元反応水溶液に溶解して銅イオンが形成され、次に、水素化ホウ素ナトリウムが解離して生成した[BH4+]により該銅イオンが還元されて銅原子を生成し、さらに該水溶液で銅原子が過飽和状態になると銅微粒子が生成する。生成した銅微粒子には有機分散剤(D)が配位して還元反応水溶液中に分散して存在する。
還元反応が進行している間は、前記[BH4+]が還元剤として作用した後は水素ガスとして還元反応水溶液から放出されていく。従って、還元反応の終了は水素ガスの発生が止まることにより確認できる。
還元反応時間は、原料の水酸化第二銅の粒子径が小さいほど、短縮される傾向にあることから、該還元反応において、水酸化第二銅が還元反応水溶液中に溶解して銅イオンが形成される工程が律速段階になっていると想定される。
【0024】
(3)銅微粒子の回収
還元反応の終了は、水酸化第二銅を還元するのに必要な量を超える量の水素化ホウ素ナトリウムを添加した場合には、前述の通り還元反応水溶液からの水素の発生の終了で確認することが可能である。この場合、還元反応水溶液中に添加した水酸化第二銅中の銅原子のほぼ全量が還元されて銅微粒子を形成する。
尚、還元反応水溶液中に添加した水酸化第二銅中の銅の全量が還元されない条件の場合には、還元反応終了後に、還元反応水溶液中の攪拌を停止すれば、未反応の水酸化第二銅が存在している場合には、該水溶液の底部に水酸化第二銅が沈降してくるので、未反応の水酸化第二銅は容易に系外に除去することが可能である。
還元反応水溶液に分散している銅微粒子は、凝集剤を添加して銅微粒子を凝集させて回収することができる。凝集剤としては、常温又は操作温度で液状又は気体上であり、還元反応後に水溶液に添加することにより、微粒子を凝集等させ、かつ有機分散剤(D)を析出させないものであればとくに限定されるものではないが、好適な例として、アセトン、ハロゲン系炭化水素等を挙げることができる。該ハロゲン系炭化水素としては、炭素原子数1〜4の塩素化合物、臭素化合物、等のハロゲン化合物、塩素系、臭素系のハロゲン系芳香族化合物が好ましい。
【0025】
前記凝集剤の具体例として、塩化メチル、塩化メチレン、クロロホルム)、四塩化炭素等の炭素原子数1の塩素化合物;塩化エチル、1,1−ジクロルエタン、1,2−ジクロルエタン、1,1−ジクロルエチレン、1,2−ジクロルエチレン、トリクロルエチレン、四塩化アセチレン、エチレンクロロヒドリン等の炭素原子数2の塩素化合物;1,2−ジクロルプロパン、塩化アリル等の炭素原子数3の塩素系化合物;クロロプレン等の炭素原子数4の塩素系化合物;クロルベンゼン、塩化ベンジル、o−ジクロルベンゼン、m−ジクロルベンゼン、p−ジクロルベンゼン、α−クロルナフタリン、β−クロルナフタリン等の芳香族系塩素系化合物;ブロモホルム、ブロムベンゾール等の臭素系化合物;並びにヘキサン(C14)、及びシクロヘキサン(C12)等の炭素数6の炭化水素、の中から選択された少なくとも1種が例示できる。
このような凝集剤(C1)の添加量は、還元反応により形成される、銅微粒子に対して、([凝集剤(モル)]/[微粒子(g)])比で、0.01以上が好ましく、上限に特に制限はないが、実用的な面から0.01〜50がより好ましく、0.1〜20が更に好ましい。前記配合比が0.01未満では添加効果が十分に発揮されないおそれがある。
【0026】
還元反応水溶液中から、未反応の水酸化第二銅を前記方法等により除去後、銅微粒子が分散されている水溶液に例えば凝集剤として比重が水よりも大きいクロロホルムを添加した場合には、撹拌後にデカンテーションすると、水相からなる上相と、凝集剤からなる下相の2相に分離し、微粒子は上相である水相の下部に凝集等している状態で存在する。尚、凝集剤の比重が水よりも小さい場合には、撹拌後に上相が凝集剤相で下相が水相となり、この場合にも金属微粒子は水相の下部に凝集等している状態で存在する場合がある。従って、添加した凝集剤は静置することにより水溶液と分離するので、銅微粒子から凝集剤を効率よく除去することができる。凝集剤を添加、撹拌後の凝集又は沈殿状態には水相の下部に微粒子が濃縮されて浮いている状態も含まれる。
尚、銅微粒子が分散している水溶液中に凝集剤を添加して撹拌し、該微粒子を凝集又は沈殿させた後、水溶液から該凝集又は沈殿した微粒子をろ過等の操作により分離して、銅微粒子を得る際に、該ろ過等の分離・回収操作のみでは銅微粒子から有機分散剤(D)が十分に除去できない場合には、水溶液から微粒子を分離した後に更に銅微粒子を炭素原子数が1〜7程度のアルコール等の溶剤により洗浄することができる。 かくして還元反応水溶液から銅微粒子を回収することができる。
【0027】
(4)還元反応により得られる銅微粒子の形状
前記還元反応により得られる銅微粒子の形状は、平均一次粒子径4〜8nmで変動係数15%以下である。
ここで、「平均一次粒子径」は、透過電子顕微鏡(TEM)(例えば、日本電子(株)製、型式:JEF−3100F)による観察から測定される銅微粒子の一次粒子径の単純平均値である。
「変動係数」は、一次粒子の標準偏差値を上記平均一次粒子径で除した値である。
変動係数=(標準偏差)/(平均一次粒子径)
また、前記還元反応により得られる銅微粒子のモード径は、5.0〜8.0nmである。ここでモード径とは、粒子分布の最大値を示す値である。
尚、該銅微粒子の粒度分布等については、下記の「第2の態様に係る銅微粒子」の項で記載する。
【0028】
〔2〕本発明の第2の態様に係る「銅微粒子」
本発明の第2の態様に係る「銅微粒子」は、還元反応水溶液中で有機分散剤(D)と還元剤である水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)の存在下に、水酸化第二銅が溶解して生成する銅イオンと未溶解の水酸化第二銅を共存させた還元反応により得られ、平均一次粒子径が4〜8nmで変動係数が15%以下であることを特徴とする。
(1)第2の態様における水酸化第二銅の還元反応について
還元反応は、還元反応水溶液中で有機分散剤(D)と還元剤である水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)の存在下に、水酸化第二銅が溶解して生成する銅イオンと未溶解の水酸化第二銅を共存させた還元反応であり、有機分散剤(D)、水素化ホウ素ナトリウム、及び水酸化第二銅については、第1の態様に記載した通りである。
前述の通り、第1の態様の「銅微粒子の製造方法」において、銅微粒子の原料に水酸化第二銅を使用するので、水酸化第二銅の水溶液中への溶解度が低いことに起因して、還元反応水溶液中で水酸化第二銅が溶解して生成される銅イオン濃度が低い環境下で還元剤により還元されるので、還元反応により、以下に記載する平均一次粒子径が4〜8nmで変動係数が15%以下である粒度分布の狭い銅微粒子が安定的に得られる。
【0029】
(2)銅微粒子
第2の態様に係る、銅微粒子の平均一次粒子径は4〜8nmで変動係数は15%以下である。
還元反応水溶液中で還元剤である水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)の存在下に還元する際に銅微粒子の原料として従来広く知られている、水溶液中への溶解度の高い酢酸銅等を使用した場合と比較して、水酸化第二銅を使用すると、特に粒度分布の狭い銅微粒子が安定的に得られることが特徴である。
尚、水酸化第二銅の水溶液への溶解度は、5.85×10−5モル/リットルであり、酢酸の水溶液への溶解度は、3.96×10−1モル/リットルであるので、水酸化第二銅を原料に使用すると還元反応水溶液中の銅イオン濃度が酢酸銅を原料に使用した場合と比較して、極めて低い濃度であることがわかる。
酢酸銅を原料に用いる場合、還元反応で得られる銅微粒子の粒度分布としての変動係数は30%以上となるのに対し、水酸化第二銅を原料に使用すると得られる銅微粒子の変動係数が15%以下となることは特徴的なことである。
平均一次粒子径が10nm以下でかつ粒度分布としての変動係数が15%以下の銅微粒子を分散溶液に分散すると、分散安定性に優れる微粒子分散溶液が得られる。
【0030】
例えば、還元反応水溶液中で水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)の存在下に還元する際に原料として粒度範囲0.1〜100μmの水酸化第二銅粒子を使用すると、平均一次粒子径が10nm以下の銅微粒子が得られる。尚、水酸化第二銅粒子の粒度範囲が相対的に大きい方が還元反応により得られる銅微粒子の平均一次粒子径とモード径は小さくなると共に、還元反応時間は長くなる傾向がある。しかしながら、原料として、水酸化第二銅粒子を使用すれば、水素化ホウ素ナトリウムによる還元反応により得られる銅微粒子の変動係数は殆どの場合に15%以下となることは本発明で得られる顕著な効果である。
【0031】
銅微粒子分散溶液を基板上に塗布(パターニング)して、乾燥後、イナートガス雰囲気下で焼結して得られ導電材料を形成する際に、粒子分散溶液中の銅微粒子の平均一次粒子径が4〜8nmで変動係数が15%以下であると、分散溶液中での保存安定性に優れ、かつ低い焼成温度で焼成しても得られる導電材料は高い導電性を有することが期待できる。
このように、水酸化第二銅を原料に使用すると平均一次粒子径が10nm以下で、変動係数が15%以下である銅微粒子が安定的に得られることは、下記の実施例、比較例において確認されている。
【実施例】
【0032】
次に、実施例により本発明をより具体的に説明する。尚、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の実施例、比較例において、微粒子分散液中の一次粒子の平均粒径は、透過電子顕微鏡(TEM)(日本電子(株)製、型式:JEF−3100F)による観察から求めた。
水酸化第二銅試薬1級品を使用した。実施例1においては試薬をそのまま使用し、実施例2、3においては乳鉢内でそれぞれ15分間、30分間該試薬を粉砕したものを使用した。
酢酸銅は、試薬1級品を使用した。
【0033】
[実施例1]
(1)還元反応水溶液の調製と還元反応
ポリビニルピロリドン(PVP、数平均分子量約3500)10gを蒸留水197.93ミリリットルに溶解させた該水溶液に、銅微粒子の原料として粒度範囲0.1〜100μmの水酸化第二銅(Cu(OH))2.9268g(30ミリモル)を添加した。その後、窒素ガス雰囲気中で攪拌しながら水素化ホウ素ナトリウム15ミリモルと、水酸化ナトリウム48ミリモルを含む水溶液2.073ミリリットルを滴下し、その後該還元反応水溶液を45分間よく攪拌しながら還元反応を行った。
尚、還元反応の終了は反応系からの水素ガスの発生が終了した時点とした。
上記還元反応により、高分子分散剤で少なくとも一部が覆われた銅微粒子が水溶液中に分散している微粒子分散液が得られた。
(2)評価とその結果
得られた銅微粒子分散液をカーボン蒸着された銅メッシュ上に塗布後、乾燥し、上記透過型電子顕微鏡(TEM)で観察を行った。
図1に得られた銅微粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)による写真を示す。図2には、得られた銅微粒子のヒストグラムを示す。
上記透過型電子顕微鏡(TEM)による観察結果、得られた銅微粒子は一次粒子の平均粒径が4.77nm、ヒストグラムから得られるモード径は5.0nmで、変動係数が13.6%であった。
【0034】
[実施例2、3]
(1)還元反応水溶液の調製と還元反応
実施例2、3において、原料として使用する水酸化第二銅の粒度範囲をそれぞれ0.1〜50μm、0.1〜10μmとした以外は実施例1と同様にして、還元反応を行った。
また、水素ガスの発生が終了した時点は実施例2、3において、それぞれ滴下終了後35分、30分であった。
(2)評価とその結果
得られた銅微粒子分散液をカーボン蒸着された銅メッシュ上に塗布後、乾燥し、上記透過型電子顕微鏡(TEM)で観察を行った。
実施例2、3で得られた銅微粒子のヒストグラムを図3、4にそれぞれ示す。
上記透過型電子顕微鏡(TEM)による観察結果、得られた銅微粒子は一次粒子の平均粒径、モード径、及び変動係数を表2に示す。
【0035】
[比較例1]
(1)還元反応水溶液の調製と還元反応
原料として水酸化第二銅の代わりに酢酸銅を用い、還元反応水溶液への仕込み量と還元温度を表1に示した以外は実施例1に記載したと同様の方法で還元反応を行った。
尚、添加した酢酸銅は全量溶解して、均一の水溶液を形成した。
(2)評価とその結果
実施例1に記載したと同様の評価を行った。図5に得られた銅微粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)による写真を示す。図6には、得られた銅微粒子のヒストグラムを示す。
実施例1〜3、及び比較例1の製造条件を表1に、評価結果を表2にまとめて示す。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元反応水溶液中の水酸化第二銅(Cu(OH))を有機分散剤(D)と還元剤である水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)の存在下に撹拌しながら還元反応させる、銅微粒子の製造方法であって、
還元反応中に該水溶液中には水酸化第二銅が溶解して生成する銅イオンと未溶解の水酸化第二銅が共存していて、還元反応の進行により該水溶液中の銅イオンが還元されて銅原子と銅微粒子が生成するのに伴い、前記未溶解の水酸化第二銅が該水溶液中に連続的に溶解して銅イオンを生成して、還元反応が該水溶液中で水酸化第二銅の飽和溶解度ないしそれ以下の濃度で行なわれることを特徴とする、銅微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記還元反応水溶液中に添加する水酸化第二銅の量が15〜150ミリモル/リットルであることを特徴とする、請求項1に記載の銅微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記還元反応水溶液中の銅イオン(I)の濃度が5×10−2ミリモル/リットル以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の銅微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記還元反応水溶液に添加する水酸化第二銅の90質量%以上の平均粒子径が0.1〜100μmの範囲内にあることを特徴とする、1ないし3のいずれか1項に記載の銅微粒子の製造方法。
【請求項5】
前記還元反応水溶液中に添加する水素化ホウ素ナトリウムと水酸化第二銅の量との割合[(水素化ホウ素ナトリウム)/(水酸化第二銅)](モル比)が0.5〜2.0であることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の銅微粒子の製造方法。
【請求項6】
前記有機分散剤(D)が、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、デンプン、及びゼラチンの中から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の銅微粒子の製造方法。
【請求項7】
前記還元反応により得られる銅微粒子の平均一次粒子径が4〜8nmで、変動係数が15%以下であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の銅微粒子の製造方法。
【請求項8】
還元反応水溶液中で有機分散剤(D)と還元剤である水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)の存在下に、水酸化第二銅が溶解して生成する銅イオンと未溶解の水酸化第二銅を共存させた還元反応により得られる、平均一次粒子径が4〜8nmで変動係数が15%以下であることを特徴とする銅微粒子。

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図6】
image rotate

【図1】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−74476(P2011−74476A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229482(P2009−229482)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】