説明

銅微粒子及びその製造方法

【課題】 銅微粒子表面に銅酸化物を生成させない、耐酸化性に優れた銅微粒子を提供する。
【解決手段】 一般式(1)で表される化合物(A)を含有する被覆剤で表面を被覆されてなることを特徴とする銅微粒子。
【化1】


[式中、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数4〜18の炭化水素基であって、R1とR2が同時に水素原子となることはなく、R3及びR4はそれぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基、X+は1価のカチオンである。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅微粒子及びその製造方法に関するものである。更に詳しくは、微細かつ粒子径が均一で、低温焼成が可能であり、特に電子材料の配線形成や異方性導電接着剤用として有用な銅微粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属微粒子は、電子回路形成用、あるいはセラミックコンデンサーの外部電極用の導電ペースト、プリント配線板と電子部品との接続等に利用されている。導電ペーストに用いる導電フィラーとしては、銅、ニッケル及び銀等が挙げられるが、なかでも銅は安価であるうえに導電率が良く、更に耐マイグレーション性に優れることから、現在では銅が多く使用されている。特に粒子径が100nm以下の金属微粒子は、通常のサブミクロン以上の粒子と異なり焼成温度が極めて低くできるため、低温焼成ペースト等への応用が検討されている。
【0003】
最近では、インクジェットプリンターを用いて金属微粒子を含有するインクにより配線パターンの印刷を行い、焼成して配線を形成する技術が着目され、研究開発が進められている。しかし、銅ペーストは酸化されやすいため、導電率を回復するのに高温での焼結が必要となっているが、半導体に悪影響を及ぼしてしまう。そこで、低温焼結で導電性が確保できるような耐酸化性のよい銅微粒子が必要とされている。
【0004】
銅微粒子を得る方法として、銅の酸化物、水酸化物又は塩を、エチレングリコール、ジエチレングリコール又はトリエチレングリコールの溶液中で、核生成のために貴金属イオンを添加すると共に、分散剤としてポリビニルピロリドンやアミン系有機化合物を添加し、必要に応じてアルカリ性無機化合物を添加して加熱還元し、銅微粒子を得る方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、この方法では、保護層のある銅微粒子を得ることはできるが、酸化防止性が十分ではないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−240088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記問題に鑑みなされたものであり、本発明の課題は、銅微粒子表面に銅酸化物を生成させない、耐酸化性に優れた銅微粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の化合物で銅微粒子の表面を被覆することにより耐酸化性に優れる銅微粒子が得られることを見出し、本発明に到達した。即ち本発明は、一般式(1)で表される化合物(A)を含有する被覆剤で表面を被覆されてなることを特徴とする銅微粒子並びに水及び/又は有機溶媒中で、前記一般式(1)で表される化合物(A)、又は前記(A)と一般式(5)で表される化合物(B)を含有する被覆剤の存在下に、銅化合物と還元剤とを反応させて金属銅を析出させることを特徴とする銅微粒子の製造法である。
【0008】
【化1】

[式中、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数4〜18の炭化水素基であって、R1とR2が同時に水素原子となることはなく、R3及びR4はそれぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基、X+は1価のカチオンである。]
【0009】
【化2】

[式中、R8及びR9はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数4〜18の炭化水素基であって、R8とR9が同時に水素原子となることはなく、Y+及びZ+はそれぞれ独立に1価のカチオンである。]
【発明の効果】
【0010】
本発明の銅粒子は、耐酸化性に優れると共に微粒子状であるため、その焼成温度を極めて低くできるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の銅微粒子の表面を被覆する一般式(1)で示される化合物におけるR1及びR2は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数4〜18の炭化水素基である。但し、R1とR2が同時に水素原子となることはなく、一方が水素原子で他方は炭素数4〜18の炭化水素基、又は両方が炭素数4〜18の炭化水素基である。
炭素数4〜18の炭化水素基としては炭素数4〜18の脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0012】
炭素数4〜18の脂肪族炭化水素基としては、直鎖状又は分岐状の鎖式炭化水素基及び脂環式炭化水素基が挙げられる。
【0013】
炭素数4〜18の直鎖状炭化水素基としては、直鎖状アルキル基及び直鎖状アルケニル基が挙げられる。直鎖状アルキル基としては、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基及びオクタデシル基等が挙げられる。
直鎖状アルケニル基としては、ブテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基及びオレイル基等が挙げられる。
【0014】
炭素数4〜18の分岐状炭化水素基としては、分岐状アルキル基及び分岐状アルケニル基が挙げられる。分岐状アルキル基としては、t−ブチル基、2−エチルへキシル基、2,4,6−トリメチルヘプチル基、2,4,6,8−テトラメチルノニル基、2−n−ブチルテトラデシル基及びプロピレンテトラマーの水添化物又はブテントリマーの水添化物から水素原子を除いた残基等が挙げられる。
分岐状アルケニル基としては、t−ブテニル基、2−エチルへキセニル基、2,4,6−トリメチルヘプテニル基、2,4,6,8−テトラメチルノネニル基、2−n−ブチルテトラデセニル基及びプロピレンテトラマー又はブテントリマーから水素原子を除いた残基等が挙げられる。
【0015】
炭素数4〜18の脂環式炭化水素基としては、シクロヘキシル基、シクロヘキセニル基及びシクロヘプチル基等が挙げられる。
【0016】
炭素数4〜18の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、キシリル基、ナフチル基、オクチルフェニル基及びノニルフェニル基等が挙げられる。
【0017】
1及びR2の内、銅表面の耐酸化性及び原料入手のし易さの観点からは、いずれか一方が水素原子で、他方が4〜18の炭化水素基であることが好ましく、該4〜18の炭化水素基の内更に好ましいのは炭素数8〜18の脂肪族炭化水素基、特に好ましいのは炭素数8〜18の直鎖状又は分岐状のアルケニル基である。
【0018】
1及びR2の内一方が水素原子の場合、一般式(1)におけるR1及びR2はどちらが炭化水素基でもよく、R1が炭化水素基であるもの単独、R2が炭化水素基であるもの単独、又はこれらが混在したものでもよい。
【0019】
一般式(1)におけるR3及びR4はそれぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基である。
炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、直鎖又は分岐のプロピル基、ブチル基、ペンチル基及びヘキシル基等が挙げられ、炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基としては、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシプロピル基、4−ヒドロキシブチル基、2−ヒドロキシブチル基、3−ヒドロキシブチル基及び3−ヒドロキシ−2−メチルプロピル基等が挙げられる。この内、銅表面の耐酸化性に優れるという観点から、好ましいのは炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基であり、特に好ましいのは2−ヒドロキシエチル基である。
【0020】
一般式(1)におけるX+は1価のカチオンであり、プロトン、アルカリ金属カチオン、アンモニウムカチオン、炭素数1〜12のアミンにプロトンが付加したカチオン及び炭素数4〜12の第4級アンモニウムカチオンが挙げられる。
【0021】
アルカリ金属カチオンとしては、ナトリウムカチオン、カリウムカチオン、リチウムイオン及びセシウムカチオン等が挙げられる。
【0022】
炭素数1〜12のアミンにプロトンが付加したカチオンを構成するアミンとしては、モノメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノ−n−ブチルアミン、ジ−n−ブチルアミン及びトリ−n−ブチルアミン等の炭素数1〜12のモノ、ジ又はトリアルキルアミン;シクロヘキシルアミン及び1,4−シクロヘキサンジアミン等の炭素数4〜12の脂環式アミン;モルホリン及びピペラジン等の炭素数4〜12の複素環式アミン;並びに、下記一般式(2)で表されるヒドロキシアルキル基含有アミン等が挙げられる。
【0023】
【化3】

【0024】
式中、R5は水素原子、炭素数1〜18の1価若しくは2価の炭化水素基又は炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基、R6は水素原子、炭素数1〜18の1価の炭化水素基又は炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基、R7は炭素数2〜4のアルキレン基、pはR5が水素原子、炭素数1〜18の1価の炭化水素基又は炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基の場合は1、R5が炭素数1〜18の2価の炭化水素基の場合は2である。
【0025】
5及びR6における炭素数1〜18の1価の炭化水素基としては前記一般式(1)におけるR1の例として挙げた炭素数4〜18の炭化水素基の他に、メチル基、エチル基及びプロピル基が挙げられる。
5における炭素数1〜18の2価の炭化水素基としては前記一般式(1)におけるR3の例として挙げた炭素数2〜4のアルキレン基の他に、メチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、デカメチレン基、ウンデカメチレン基、ドデカメチレン基、テトラデカメチレン基、ペンタデカメチレン基及びオクタデカメチレン基等の直鎖状アルキレン基;プロペニレン基、ブテニレン基、ヘキセニレン基、オクテニレン基及びオクタデセニレン基等の直鎖状アルケニレン基;2−エチルへキシレン基、2,4,6−トリメチルヘプチレン基及び2,4,6,8−テトラメチルノニレン基等の分岐状アルキレン基;2−メチルプロペニレン基、2,2−ジメチルブテニレン基及び2−メチルオクテニレン基等の分岐状アルケニレン基;1,4−シクロヘキシレン基、1,4−シクロヘプチレン基及び1,4−シクロヘキサンジメチレン基等の2価の脂環式炭化水素基;フェニレン基、キシリレン基及びナフチレン基等の2価の芳香族炭化水素基等が挙げられる。
【0026】
5の内好ましいのは、耐酸化性の観点等から、水素原子又は炭素数2〜12の1若しくは2価の脂肪族炭化水素基であり、更に好ましいのは水素原子、炭素数3〜12の2価の鎖式炭化水素基及び炭素数5〜8の1価の脂環式炭化水素基、特に好ましいのは水素原子又はシクロヘキシル基である。
【0027】
6における炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基としては、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシプロピル基、4−ヒドロキシブチル基、2−ヒドロキシブチル基、3−ヒドロキシブチル基及び3−ヒドロキシ−2−メチルプロピル基等が挙げられる。
【0028】
6の内好ましいのは、耐酸化性の観点から、水素原子、炭素数2〜12の脂肪族炭化水素基及び炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基であり、更に好ましいのは水素原子、炭素数3〜12の鎖式炭化水素基、炭素数6の脂環式炭化水素基及び炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基であり、特に好ましいのは2−ヒドロキシエチル基である。
【0029】
7における炭素数2〜4のアルキレン基としては、前記R3で例示した基と同様の基が挙げられる。
【0030】
7の内、好ましいのは原料入手のし易さの観点から、エチレン基、1,3−プロピレン基及び1,2−プロピレン基であり、更に好ましいのはエチレン基である。
【0031】
pはR5が水素原子、炭素数1〜18の1価の炭化水素基又は炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基の場合は1、R5が炭素数1〜18の2価の炭化水素基の場合は2である。
【0032】
一般式(2)で表されるアミンの具体例としては、モノアルカノールアミン[モノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン及びモノブタノールアミン等];ジアルカノールアミン[ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン及びN−ヒドロキシエチルイソプロパノールアミン等];トリアルカノールアミン[トリエタノールアミン、N−ヒドロキシエチルジイソプロパノールアミン等];モノアルカノールアルキルアミン[モノエタノールエチルアミン、モノイソプロパノールエチルアミン及びモノエタノールブチルアミン等];モノアルカノールシクロアルキルアミン[モノエタノールシクロヘキシルアミン、モノイソプロパノールシクロヘキシルアミン及びモノn−ブタノールシクロヘキシルアミン等];ジアルカノールシクロアルキルアミン[N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−N−シクロヘキシルアミン、N,N−ビス(2−ヒドロキシイソプロピル)−N−シクロヘキシルアミン及びN,N−ビス(2−ヒドロキシイソブチル)−N−シクロヘキシルアミン等];テトラアルカノールアルキレンジアミン[N,N,N’,N’−テトラキス(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン及びN,N,N’,N’−テトラキス(2−ヒドロキシエチル)−1,6−ヘキサメチレンジアミン等]が挙げられる。
【0033】
+として好ましいのは、水溶性に優れ、臭気が少ないという観点から、ナトリウムカチオン、カリウムカチオン、炭素数1〜12のアミンにプロトンが付加したカチオン及び一般式(2)で表されるアミンにプロトンが付加したカチオンであり、銅表面の耐酸化性の観点から、更に好ましいのは炭素数1〜4のアミンにプロトンが付加したカチオン及び一般式(2)で表されるアミンにプロトンが付加したカチオン、特に好ましいのは一般式(2)で表されるアミンにプロトンが付加したカチオンである。
【0034】
一般式(1)で表される化合物(A)の具体例としては、ドデセニルコハク酸ジエタノールアミドのナトリウム塩、ドデセニルコハク酸ジエタノールアミドのジエタノールアミン塩、ドデセニルコハク酸ジエタノールアミドのN,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−N−シクロヘキシルアミン塩、オクテニルコハク酸ジエタノールアミドのN,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−N−シクロヘキシルアミン塩、ドデセニルコハク酸ジエタノールアミドのN,N,N’,N’−テトラキス(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン塩、ペンタデセニルコハク酸ジエタノールアミドのN,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−N−シクロヘキシルアミン塩、ドデセニルコハク酸ジエタノールアミドのN,N,N’,N’−テトラキス(2−ヒドロキシエチル)−1,6−ヘキサメチレンジアミン塩、及びドデセニルコハク酸ジエチルアミドのジエタノールアミン塩等が挙げられる。
【0035】
化合物(A)は、一般式(3)で表される酸無水物に、一般式(4)で表される化合物を反応させる方法等により製造できる。
【0036】
【化4】

【0037】
式中、R1及びR2は一般式(1)におけるR1及びR2と同じである。
【0038】
【化5】

【0039】
式中、R3及びR4は一般式(1)におけるR3及びR4と同じである。
【0040】
一般式(3)で表される酸無水物に対する一般式(4)で表される化合物の仕込みモル比は1/1.0〜1/3.0が好ましい。反応は、温度−5〜150℃、圧力0〜0.6MPa、反応時間2〜15時間で行うことが好ましい。反応温度が高いとエステル化合物が副生しやすいため、−5〜80℃で反応することが特に好ましい。
【0041】
本発明における被覆剤は、一般式(1)で表される化合物(A)のみからなっていてもよいが、更に一般式(5)で表される化合物(B)を含有していてもよい。
【0042】
【化6】

【0043】
一般式(5)におけるR8及びR9はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数4〜18の炭化水素基であって、R8とR9が同時に水素原子となることはない。炭素数4〜18の炭化水素基としては、一般式(1)におけるR1及びR2として例示したものと同様のものが挙げられ、好ましいものも同様である。
+及びZ+はそれぞれ独立に1価のカチオンであり、一般式(1)におけるX+として例示したものと同様のものが挙げられ、好ましいものも同様である。
【0044】
化合物(B)の具体例としては、ドデセニルコハク酸のモノ又はジナトリウム塩、ドデセニルコハク酸のモノ又はジジエタノールアミン塩、ドデセニルコハク酸のモノ又はジN,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−N−シクロヘキシルアミン塩、ドデセニルコハク酸のモノN,N,N’,N’−テトラキス(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン塩及びドデセニルコハク酸のモノN,N,N’,N’−テトラキス(2−ヒドロキシエチル)−1,6−ヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。
【0045】
被覆材が、化合物(B)を含有する場合、その含有量は化合物(A)と化合物(B)の合計重量に対して、好ましくは0.1〜40重量%、更に好ましくは0.1〜20重量%である。
【0046】
化合物(B)は、前記一般式(3)で表される酸無水物を加水分解したジカルボン酸に前記一般式(4)で表される化合物を反応させることにより得ることができる。
【0047】
水及び/又は有機溶媒中で、前記一般式(1)で表される化合物(A)を含有する被覆剤の存在下に、銅化合物と還元剤とを反応させて金属銅微粒子を析出させ、固液分離して水洗後、乾燥することより、化合物(A)を含有する被覆剤で被覆された銅微粒子を得ることができる。
また、被覆剤に更に一般式(5)で表される化合物(B)を含有させることにより、同様にして化合物(A)及び化合物(B)からなる被覆剤で被覆された銅微粒子を得ることができる。
銅微粒子が化合物(A)等で被覆されていることは、銅表面の赤外吸収スペクトルを測定することにより確認できる。
【0048】
水としては、特に制限はなく、水道水、イオン交換水、超純水及び蒸留水等いずれも使用できる。
有機溶媒としては、炭素数1〜6の1価又は2価のアルコール(メチルアルコール、エチルアルコール、n−又はiso−プロピルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル及びジエチレングリコールモノメチルエーテル等)及び炭素数3〜9のケトン(アセトン及びエチルメチルケトン等)等が挙げられる。
【0049】
銅化合物としては、例えば、銅の酸化物、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩及び酢酸塩等が挙げられる。
【0050】
還元剤としては公知のものを用いることができ、例えば、(1)ヒドラジン又はその水和物、(2)ヒドラジン系化合物(塩酸ヒドラジン及び硫酸ヒドラジン等)、(3)アルデヒド類[(a)脂肪族アルデヒド類(ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド及びイソブチルアルデヒド等)、(b)芳香族アルデヒド類(ベンズアルデヒド等)及び(c)複素環式アルデヒド類等]、(4)アミン類[(a)1級アミン類(ブチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン及びエチレンジアミン等)、(b)2級アミン類(ジブチルアミン、ジエチルアミン及びジプロピルアミン等)、(c)3級アミン類(トリブチルアミン、トリエチルアミン及びトリプロピルアミン等)等]、(5)アミノアルデヒド類(アミノアセトアルデヒド等)、(6)アルカノールアミン類(エタノールアミン、ジエタノールアミン及びトリエタノールアミン等)、(7)還元糖(ショ糖、トレパース、マルトース及びラクトース等)、(8)水素化合物(水素化ホウ素ナトリウム等)、(9)低次無機酸素酸(亜硫酸、亜硝酸、次亜硝酸、亜リン酸及び次亜リン酸等)及びその水化物(亜硫酸水素等)又はそれらの塩(ナトリウム等のアルカリ金属塩等)等が挙げられ、これらは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0051】
水及び/又は有機溶媒中の銅化合物の濃度は、銅化合物が溶解又は分散する範囲であれば特に制約はないが、生産性の観点からは5ミリモル/リットル以上とすることが好ましい。
【0052】
被覆剤の使用量は、耐酸化性及びコストの観点から、銅化合物100重量部に対して10〜5000重量部である。
【0053】
還元剤の使用量は、還元反応速度、生成する銅粒子の粒子径制御及びコストの観点から、銅化合物100重量部に対して10〜2000重量部好ましくは、20〜1,000重量部である。
【0054】
還元反応時の温度は10〜90℃程度に保持することが望ましく、更に好ましくは40〜60℃である。10℃未満では還元反応の進行が遅くなり、90℃を超えると反応が激しくなって二次核が発生しやすくなり、粒子径の制御が困難になる傾向にある。
【0055】
還元反応時の溶液又は分散液のpHは、銅化合物の溶解性又は均一分散性及び還元反応の効率向上の観点から7〜14であることが好ましく、更に好ましくは8〜13、特に好ましくは8〜12である。
pH調整には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化カルシウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物や炭酸塩、アンモニアやアミン類等の塩基性化合物を用いることができる。
【0056】
固液分離の方法は、特に限定されず、例えば濾過器や遠心分離機による方法が挙げられる。
乾燥する方法としては、流動層式乾燥機、減圧乾燥機及び循風乾燥機等公知の設備を用いて行うことができる。乾燥温度は、通常30〜200℃、好ましくは50〜100℃、乾燥時間は通常1〜10時間、好ましくは2〜5時間である。
【0057】
本発明の銅微粒子の平均粒子径は、使用する用途により好ましい範囲が異なるが、還元剤と被覆剤の濃度や還元反応中の攪拌速度を調整することで1nmから100μmの範囲における所望の平均粒子径に適宜調節することできる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下において部は重量部を表す。
【0059】
[実施例1]
塩化銅25.5部をイオン交換水750部中に溶解させ、下記構造式(6)で表される被覆剤15部を加えて攪拌しながら40℃に加熱した。その後、還元剤として5%ヒドラジン水溶液750部及びアンモニア22.5部を加えpHを10にし、60℃まで1時間かけて昇温し、更に60℃で1時間保持しながら還元反応を進行させた。反応液を遠心分離機で固液分離し、回収された固形分を水洗、乾燥して銅微粒子を得た。
【0060】
【化7】

【0061】
[実施例2]
前記構造式(6)で表される被覆剤を下記構造式(7)で表される被覆剤に代えた以外は、実施例1と同様にして銅微粒子を得た。
【0062】
【化8】

【0063】
[実施例3]
硝酸銅25.5部をイオン交換水750部中に溶解させ、前記構造式(6)で表される被覆剤15部を加えて攪拌しながら40℃に加熱した。その後、還元剤として5%ヒドラジン水溶液750部及びアンモニア22.5部を加えpHを10にし、60℃まで1時間かけて昇温し、更に60℃で1時間保持しながら還元反応を進行させた。反応液を遠心分離機で固液分離し、回収された固形分を水洗、乾燥して銅微粒子を得た。
【0064】
[比較例1]
前記構造式(6)で表される被覆剤を重量平均分子量3000のポリビニルピロリドンに代えた以外は、実施例1と同様にして銅微粒子を得た。
【0065】
[比較例2]
前記構造式(6)で表される被覆剤をオレイン酸に代えた以外は、実施例1と同様にして銅微粒子を得た。
【0066】
実施例1〜4、比較例1及び2で得られた銅微粒子の表面の赤外吸収スペクトルを測定し、使用したそれぞれの被覆剤で被覆されていることを確認した。
実施例1〜4、比較例1及び2で得られた銅粒子について平均粒子径及び導電率を以下の試験法により測定した結果を表1に示す。
<平均粒子径の測定方法>
走査型電子顕微鏡[(株)日本電子製「JSM−7000」]を用いて、撮影倍率10万倍で、視野から200個の銅微粒子を無作為に選択して粒子径を測定し、その平均値を平均粒子径とした。
【0067】
<導電率の測定方法>
銅微粒子1.33部、ポリフッ化ビニリデン0.12部及びN−メチルピロリドン0.88部を混合し、ガラスの板に乾燥後の膜厚が100μmとなるように塗布し、80℃で30分間減圧乾燥させた。得られた塗膜を空冷した後、塗膜の導電率を、ロレスタ−GP型低抵抗率計(三菱化学社製)を用いて測定した。導電率が大きい程導電性が高いことを表す。
【0068】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の銅微粒子は、微細配線の形成不良を防ぎ、且つ電気的安定性に優れた導体形成が可能とな、電子材料の配線形成や異方性導電接着剤用として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される化合物(A)を含有する被覆剤で表面を被覆されてなることを特徴とする銅微粒子。
【化1】

[式中、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数4〜18の炭化水素基であって、R1とR2が同時に水素原子となることはなく、R3及びR4はそれぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基、X+は1価のカチオンである。]
【請求項2】
前記一般式(1)におけるR1及びR2の内、いずれか一方が水素原子で、他方が炭素数8〜18のアルケニル基である請求項1記載の銅微粒子。
【請求項3】
前記一般式(1)におけるR3及びR4が、炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基である請求項1又は2記載の銅微粒子。
【請求項4】
前記一般式(1)におけるX+が、一般式(2)で表されるアミンにプロトンが付加した1価のカチオンである請求項1〜3のいずれか記載の銅粒子。
【化2】

[式中、R5は水素原子、炭素数1〜18の1価若しくは2価の炭化水素基又は炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基、R6は水素原子、炭素数1〜18の1価の炭化水素基又は炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基、R7は炭素数2〜4のアルキレン基、pはR5が水素原子、炭素数1〜18の1価の炭化水素基又は炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基の場合は1、R5が炭素数1〜18の2価の炭化水素基の場合は2である。]
【請求項5】
前記被覆剤が、更に一般式(5)で表される化合物(B)を含有し、前記化合物(A)と前記化合物(B)の合計重量に対する前記化合物(B)の割合が、0.1〜40重量%である請求項1〜4のいずれか記載の銅微粒子。
【化3】

[式中、R8及びR9はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数4〜18の炭化水素基であって、R8とR9が同時に水素原子となることはなく、Y+及びZ+はそれぞれ独立に1価のカチオンである。]
【請求項6】
水及び/又は有機溶媒中で、前記一般式(1)で表される化合物(A)、又は前記(A)と一般式(5)で表される化合物(B)を含有する被覆剤の存在下に、銅化合物と還元剤とを反応させて金属銅を析出させることを特徴とする請求項1〜5の何れか記載の銅微粒子の製造法。
【請求項7】
還元反応開始時の溶液又は分散液のpHが7〜14である請求項6記載の銅微粒子の製造法。

【公開番号】特開2011−46992(P2011−46992A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195340(P2009−195340)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】