説明

銅膜の形成方法

【課題】加熱雰囲気温度の均一性の影響を受け易く、基材面に薄膜で且つ均斉な銅膜を形成することが困難であるという、蟻酸銅又はその化合物を熱分解する従来の銅膜の形成方法での課題を解決する。
【解決手段】所定温度に加熱されている基板10を、前記加熱温度で不活性な不活性ガス雰囲気内に載置して、基板10の表面に向けて前記加熱温度で蒸発する溶媒中に蟻酸銅を溶解した蟻酸銅溶液をノズル20から噴霧し、前記加熱温度下で噴霧された蟻酸銅溶液中の溶媒を蒸発すると共に、前記蟻酸銅を熱分解して、基板10の一面側に薄膜の銅膜を形成した後、前記銅膜の表面に形成される酸化膜を還元する還元剤を含有する還元剤溶液を、前記不活性ガス雰囲気内で加熱されている基板10にノズル20から噴霧することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は銅膜の形成方法に関し、更に詳細には基板の所定面に薄膜の銅膜を形成する銅膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板の一面側に所定パターンを形成する際には、通常、基板の一面側の全面に無電解銅めっきによって銅膜を形成することが行われている。
かかる無電解銅めっきには、ホルムアルデヒド等の有害物質を使用せざるを得ず、無電解銅めっき液の廃液処理には煩雑な処理を必要としている。
この様な無電解銅めっきを用いることなく、基板の一面側に銅膜を形成できる銅膜の形成方法として、蟻酸銅を熱分解して銅膜を形成する方法が提案されている。
例えば、下記特許文献1には、減圧雰囲気内で蟻酸銅を熱分解し、ポリイミドフィルムの一面に銅を析出させること、下記特許文献2には、基板の一面側に蟻酸銅溶液を塗布・乾燥した後、レーザ光照射して銅を析出させて銅配線を形成することが提案されている。
また、下記特許文献3には、基材表面にパラジウムを共存させて蟻酸銅を熱分解して銅膜を形成することが提案され、下記特許文献4には、一般式[RCOO][NHCuX(m=1〜3,n=1〜3,p=0〜1)で表される銅化合物を基材表面に配置し、銅の非酸化雰囲気下で加熱処理することによって、基材表面に銅膜を形成できることが提案されている。
【特許文献1】特開平11−193461号公報
【特許文献2】特開2002−271000号公報
【特許文献3】特開平6−93455号公報
【特許文献4】特開2005−35984号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1〜4によれば、無電解銅めっきによらず基板の所定面に銅膜を形成でき、無電解銅めっき液の廃液処理を行う煩雑さを解消できる。
しかし、特許文献1及び特許文献2では、基板上の粉末状の蟻酸銅を熱分解して銅膜を形成しているが、蟻酸銅の熱分解の際に、炭酸ガス等の熱分解ガスが発生し、銅膜がポーラス状となる。このため、充分な導電性を呈し得る銅膜を形成するには、膜厚を2μm程度とする必要がある。
従って、特許文献1及び特許文献2の方法では、膜厚が1μm以下の薄膜で充分な導電性を呈する銅膜を形成することは困難である。
かかる特許文献1,2に対して、特許文献3では、高価なパラジウムを使用するため、膜形成コストが高価となり、且つ基材面でのパラジウムの分散状態が、形成される銅膜の純度等の状態に影響を与えるため、均斉な銅膜を形成することは至難である。
【0004】
また、特許文献4では、一般式[RCOO][NHCuX(m=1〜3,n=1〜3,p=0〜1)で表される銅化合物は、市販されておらず、合成することを必要とし、銅膜の形成コストが高くなる。しかも、この銅化合物は、触媒が存在しなくとも、比較的低温で熱分解するため、加熱雰囲気温度の均一性の影響を受け易く、基材面に均斉な銅膜を形成することは困難である。
そこで、本発明は、加熱雰囲気温度の均一性の影響を受け易く、基材面に薄膜で且つ均斉な銅膜を形成することが困難であるという、蟻酸銅又はその化合物を熱分解する従来の銅膜の形成方法での課題を解決し、安定で取扱性が良好な蟻酸銅を用い、基板面に薄膜で且つ均斉な銅膜を形成できる銅膜の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記課題を解決すべく検討を重ねた結果、窒素雰囲気内で所定温度に加熱されている基板の表面に向けて水に蟻酸銅を溶解した蟻酸銅溶液を噴霧し、この加熱温度下で噴霧された霧滴中の水を蒸発させると共に、蟻酸銅を触媒を用いることなく熱分解することによって、基板面に薄膜で且つ均斉な銅膜を製膜できることを知った。
しかしながら、製膜条件によっては、基板面に形成した銅膜の表面に酸化膜が形成されたり、未分解の蟻酸銅が残留して、良質な銅膜を安定して得られないことが判明した。
このため、本発明者は、基板面に形成した銅膜の表面に形成される酸化膜や残留する未分解の蟻酸銅を還元剤によって還元できれば、形成した銅膜を可及的に純銅膜に近づけることができるものと考え検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、所定温度に加熱されている基板を、前記加熱温度で不活性な不活性ガス雰囲気内に載置して、前記基板の表面に向けて前記加熱温度で蒸発する溶媒中に蟻酸銅を溶解した蟻酸銅溶液を噴霧し、前記加熱温度下で噴霧された蟻酸銅溶液中の溶媒を蒸発すると共に、前記蟻酸銅を熱分解して、前記基板の所定面に薄膜の銅膜を形成し、且つ前記銅膜の表面に形成される酸化膜を還元する還元剤を含有する還元剤溶液を、前記不活性ガス雰囲気内で加熱されている基板に噴霧することを特徴とする銅膜の形成方法にある。
【0006】
かかる本発明において、基板として、銅膜の形成面に露出する銅面に酸化膜が形成されている基板を用いるとき、前記酸化膜を還元して除去する還元剤溶液を前記基板に向けて噴霧した後、蟻酸銅溶液を噴霧することによって、銅面に安定した銅膜を形成できる。
また、基板の所定面に薄膜の銅膜を形成した後、還元剤溶液を噴霧することによって、純銅膜に近似した銅膜を安定して得ることができる。
この還元剤として、蟻酸アンモニウム又は蟻酸を好適に用いることができる。蟻酸アンモニウムや蟻酸は、熱分解して水やCOとなって、基板上に堆積して不純物として残留することがないからである。かかる還元剤を含有する還元剤溶液としては、還元剤の溶液を基板の加熱温度で蒸発する溶媒中に添加して得た還元剤溶液を用いることが、還元剤溶液の残留物が基板上に堆積して不純物として残留することがなく好ましい。
更に、基板に対して蟻酸銅溶液と還元剤溶液とを交互に噴霧することによって、銅膜内に形成された酸化銅が残留することなく可及的に純銅膜に近似した所望厚さの銅膜を基板に形成できる。
本発明において、蟻酸銅を触媒を用いることなく熱分解することによって、高価な触媒を使用することの膜形成コストの増加を抑制でき、且つ基材面での触媒の分散状態に因る銅膜のばらつきを防止でき均斉な銅膜を形成できる。
かかる蟻酸銅溶液と還元剤溶液とを噴霧する雰囲気中の不活性ガスとしては、窒素ガスを用いることが最も経済的である。
更に、基板の加熱温度を130〜200℃とすることによって、基板として樹脂基板を用いた場合でも、樹脂基板に対しても熱損傷を与えることを防止できる。
また、蟻酸銅溶液の噴霧を間欠的に行うことによって、蟻酸銅溶液を噴霧した際の基板の温度低下を可及的に少なくできる。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る銅膜の形成方法によれば、触媒を用いることなく蟻酸銅を熱分解して基板の所定面に均斉で且つ薄膜の銅膜を形成できる。この理由の詳細は不明であるが、次のように考えられる。
基板を所定温度に加熱することによって、基板が載置された雰囲気も加熱雰囲気となっている。この加熱雰囲気中に噴霧された蟻酸銅溶液の霧滴は、加熱雰囲気中に浮遊しつつ、加熱雰囲気から加熱されて溶媒を蒸発させながら基板面に薄膜状に均一に付着する。
かかる加熱雰囲気中を浮遊している蟻酸銅溶液の霧滴は、浮遊中に溶媒が蒸発して蟻酸銅が析出し、更に蟻酸銅の一部が分解されて銅又はその前駆体となって基板面に付着する。
この様に、本発明では、蟻酸銅溶液の霧滴が溶媒を蒸発させながら基板面に薄膜状に均一に付着することと、基板面に銅又はその前駆体も付着することとが相俟って、蟻酸銅の熱分解ガスによる影響を、蟻酸銅溶液を基板面に直接塗布して銅膜を形成する場合に比較して可及的に少なくでき、基板の所定面に均斉で且つ薄膜の銅膜を形成できる。
但し、製膜条件によっては、基板面に形成した銅膜の表面に酸化膜が形成されたり、未分解の蟻酸銅が残留していることがある。
例えば、水を含有する溶媒に蟻酸銅を溶解した蟻酸銅溶液を用いた場合、基板に形成された薄膜の銅膜の表面に酸化膜が形成され易い。蟻酸銅水溶液から成る霧滴中の水が浮遊中に充分に蒸発しきれず、基板面で蒸発して形成された水蒸気が既に基板面に形成されていた銅膜と反応したものと考えられる。
また、基板として用いた樹脂基板の樹脂の変質や劣化等を防止すべく、基板の加熱温度を低温化した場合、或いは基板の加熱温度に温度斑が生じた場合には、未分解の蟻酸銅が残留する箇所が存在することがある。
この点、本発明では、基板に形成した銅膜の表面に形成された酸化膜や基板表面に残留している未分解の蟻酸銅は、噴霧された還元剤溶液中の還元剤によって還元され、純銅膜に近似した銅膜を基板表面に安定して形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明で用いる樹脂製の基板としては、半導体装置や配線基板等に採用されている基板を採用でき、エポキシ系の樹脂製の基板であっても、セラミック等の無機材料から成る基板であっても用いることができる。
かかる基板は、図1に示す様に、下方側に窒素供給口14が設けられていると共に、上方側に窒素ガス及び熱分解ガス等が排出される排ガス出口16が設けられた箱体12内に挿入されている。箱体12内は、窒素供給口14から供給された窒素ガスによって不活性ガス雰囲気となっている。
かかる箱体12内には、ヒータブロック18が設けられており、ヒータブロック18上に基板10が載置されて所定温度に加熱されている。この加熱温度は、窒素供給口14から箱体12内に導入される窒素ガスが不活性状態を維持できる温度とする。具体的には、基板10の温度が130〜200℃となるようにヒータブロック18の加熱温度を調整することが好ましい。
この様に、所定温度に加熱されている基板10の一面側に向けて、基板10の加熱温度で蒸発する溶媒中に蟻酸銅を溶解した蟻酸銅溶液を、噴霧ノズル20から噴霧する。噴霧ノズル20には、箱体12の外側に設けられた蟻酸銅溶液槽22からバルブ26及び配管24を経由して蟻酸銅溶液が供給される。
尚、噴霧ノズル20には、箱体12の外側に設けられた還元剤溶液槽28からバルブ30及び配管24を経由して還元剤溶液が供給される。
【0009】
蟻酸銅溶液槽22に貯留されている蟻酸銅溶液としては、基板10が加熱されている加熱温度で蒸発する溶媒中に蟻酸銅を溶解した蟻酸銅溶液を用いる。この溶媒としては、蟻酸銅が溶解し易く且つ処理が容易な水又はアンモニア水を好適に用いることができる。特に、蟻酸銅溶液としては、蟻酸銅を溶解したアンモニア水をエチルアルコールに添加した蟻酸銅溶液を好適に用いることができる。
また、蟻酸銅としては、入手し易く、室温で安定しており、且つ水又はアンモニア水に溶解し易い等の観点から蟻酸銅四水塩を好適に用いることができる。
かかる蟻酸銅溶液の噴霧ノズル20からの噴霧は、基板10の温度を可及的に維持できるように間欠的に行うことが好ましい。噴霧ノズル20から基板10に向けて蟻酸銅溶液を連続して噴霧していると、噴霧された霧滴中の溶媒の蒸発によって基板10の温度が低下し易くなるからである。
この様に、噴霧ノズル20から基板10に向けて噴霧された蟻酸銅溶液の霧滴は、箱体12内の雰囲気温度及び基板10の加熱温度で溶媒が蒸発して析出した蟻酸銅を触媒を用いることなく熱分解して、基板10の一面側に薄膜の銅膜を形成する。
【0010】
噴霧ノズル20から噴霧された蟻酸銅溶液については、図2に示す種々の経路を辿るものと考えられる。
例えば、噴霧ノズル20から噴霧された蟻酸銅溶液の霧滴の一部は、箱体12内の雰囲気温度で溶媒が蒸発しつつ基板10の一面側に到達し、基板10上で溶媒が完全に蒸発して蟻酸銅が析出する。析出した蟻酸銅は、基板10の加熱温度によって熱分解され、前駆体を経由して銅となる。
また、蟻酸銅溶液の霧滴の一部は、浮遊している間に、箱体12内の雰囲気温度で溶媒が完全に蒸発し、析出した蟻酸銅が基板10の一面側に付着して、基板10の加熱温度によって熱分解され、前駆体を経由して銅となる。
或いは、蟻酸銅溶液の霧滴の一部は、浮遊している間に、箱体12内の雰囲気温度で溶媒が完全に蒸発して析出した蟻酸銅が更に熱分解されて前駆体となって基板10の一面側に付着し、基板10の加熱温度によって熱分解されて銅となる。
この様にして、基板10の一面側に付着した銅によって、基板10の一面側に薄膜の銅膜が形成される。かかる銅膜は、1μm以下の膜厚とすることが好ましい。
【0011】
ところで、蟻酸銅は、水又はアンモニア水に易溶であるため、噴霧ノズル20から噴霧する蟻酸銅溶液として、水を含有する溶媒に蟻酸銅を溶解した蟻酸銅溶液が用いられる。かかる蟻酸銅溶液を噴霧して基板10の一面側に形成した銅膜の表面には、黒色の酸化銅から成る酸化膜が形成されていることがある。かかる酸化膜が形成された銅膜は、純銅膜に比較してシート抵抗等の電気特性に劣る。
この様に、基板10の一面側に形成された銅膜の表面に酸化膜が形成される理由は、以下のように考えられる。
つまり、蟻酸銅は、水又はアンモニア水に易溶であるため、水を含有する溶媒に蟻酸銅を溶解した蟻酸銅溶液が用いられる。このため、蟻酸銅水溶液から成る霧滴中の水が浮遊中に充分に蒸発しきれず、基板面で蒸発して形成された水蒸気が既に基板面に形成されていた銅膜と反応したものと考えられる。
また、基板10として用いた樹脂基板の変質や劣化等を防止すべく、基板10の加熱温度を低温化した場合、或いは基板10の加熱温度に温度斑が生じた場合には、基板10の一面側に未分解の蟻酸銅が残留する箇所が存在し、形成された銅膜の質を低下させる。
この点、本発明では、銅膜の表面に形成された酸化膜や基板10の一面側に残留する蟻酸銅に対し、還元剤溶液槽28中の還元剤溶液を噴霧ノズル20から基板10の一面側に噴霧し、還元剤によって酸化銅を銅に還元する。
かかる還元剤としては、蟻酸アンモニウム又は蟻酸を用いることができ、特に毒性のない蟻酸アンモニウムを好適に用いることができる。これらの還元剤のうち、蟻酸は室温下で液体であり、溶液化することを要しないが、室温下で固体の蟻酸アンモニウムは基板10の加熱温度で蒸発する溶媒中に溶解して溶液化することが好ましい。この溶媒としては、蟻酸アンモニウムが溶解し易く且つ処理が容易な水又はアンモニア水を好適に用いることができる。特に、蟻酸アンモニウムを溶解したアンモニア水をエチルアルコールに添加して得た還元剤溶液を好適に用いることができる。
この様な還元剤溶液の噴霧ノズル20からの噴霧も、基板10の温度を可及的に維持できるように間欠的に行うことが好ましい。噴霧ノズル20から基板10に向けて還元剤溶液を連続して噴霧していると、噴霧された霧滴中の溶媒の蒸発によって基板10の温度が低下し易くなるからである。
以上、述べてきた蟻酸銅溶液と還元剤溶液とを基板10の一面側に交互に噴霧ノズル20から噴霧することによって、基板10の一面側に可及的に純銅膜に近似した所望厚さの銅膜を得ることができる。
基板10の一面側に蟻酸銅溶液と還元剤溶液とを交互に噴霧ノズル20から噴霧するには、図1に示す蟻酸銅溶液槽22のバルブ26と還元剤溶液槽28のバルブ30とを交互に開閉することによって行うことができる。
【0012】
本発明によれば、平坦な基板面に可及的に純銅膜に近似した銅膜を形成できるが、基板面に凹部が形成されている場合にも、凹部の内壁面に沿って銅膜を形成できる。
例えば、図3(a)に示す基板31の一面側に形成した樹脂層32に、レーザによって底面に基板面が露出する図3(b)に示す凹部34を形成した後、凹部34の底面に残留する樹脂残渣を除去すべく凹部34の底面にエッチングを施す。かかるエッチングによって、図3(c)に示す様に、凹部34の底面側に微細なアンダーカット部34aが形成される。
図3(c)に示す凹部34が形成された基板31を、図1に示すヒータブロック18上に載置し、噴霧ノズル20から蟻酸銅溶液と還元剤溶液とを交互に噴霧することによって、図3(d)に示す様に、アンダーカット部34aの内壁面を含む凹部34の内壁面に沿って薄膜の銅膜36を形成できる。
一方、スパッタ法によって、図3(c)に示す、アンダーカット部34aを具備する凹部34に銅膜を形成せんとすると、アンダーカット部34aの内壁面に沿って銅膜を形成できない。
【0013】
また、図4(a)に示す様に、銅から成るパターン38,38・・が形成された基板31の一面側に形成された樹脂層32に、図4(b)に示す様に、パターン38のパッド40が底面に露出する凹部34をレーザによって形成する。
この凹部34に露出したパッド40の露出面(銅面)には、図4(b)に示す様に、樹脂層32の残渣等のスミア42が残留していることがある。このため、スミア42を除去するため、過マンガン酸を用いたデスミア処理を施した後、酸洗・ソフトエッチングを施して凹部34内のクリーニング処理を施す。
かかる一連のクリーニング処理によって、図4(c)に示す様に、凹部34内のスミア42は除去される。
しかし、クリーニング処理を施した基板31に乾燥等を施している間に、凹部34の底面に露出するパッド40の銅面には、図4(c)に示すように酸化膜44が形成される。
この様に、凹部34の底面に露出する銅面に酸化膜44が形成された基板31を図1に示すヒータブロック18上に載置し、噴霧ノズル20から蟻酸銅溶液と還元剤溶液とを交互に噴霧して、凹部34の内壁面を含む樹脂層32の全面に銅膜を形成すると、凹部34の底面に露出する銅面に形成された酸化膜44が残存し易くなる。かかる酸化膜44が銅面との境界に残存する銅膜は、その密着性が低く且つ電気抵抗値も高くなる。
【0014】
この点、凹部34に露出している銅面に酸化膜44が形成された基板31を図1に示すヒータブロック18上に載置し、還元剤溶液槽28のバルブ30を開いて噴霧ノズル20から還元剤溶液に噴霧する。噴霧した還元剤溶液中の還元剤によって、凹部34の底面に露出しているパッド40の銅面から酸化膜44を除去できる。
次いで、噴霧ノズル20から蟻酸銅溶液と還元剤溶液とを交互に噴霧して、凹部34の内壁面を含む樹脂層32の全面に銅膜を形成する。この様に、凹部34の底面に露出するパッド40の銅面上に形成された銅膜は、銅面との間に酸化膜44が存在せず、その密着性が向上され、電気抵抗値も低くできる。
【0015】
以上の説明では、箱体12内を窒素ガス雰囲気としていたが、アルゴンガス等の周期律表O族の不活性ガス雰囲気としてもよい。
更に、蟻酸銅溶液と還元剤溶液とを1個の噴霧ノズル20から噴霧していたが、蟻酸銅溶液と還元剤溶液との各々を専用に噴霧する専用噴霧ノズルを設けてもよい。この様に、専用噴霧ノズルを設けることによって、蟻酸銅溶液と還元剤溶液とを交互に容易に噴霧できる。
また、これまでの説明では、還元剤溶液を、基板10の一面側に銅膜を形成した後に噴霧ノズル20から噴霧していたが、蟻酸銅溶液と還元剤溶液とを混合して噴霧ノズル20から噴霧してもよく、蟻酸銅溶液と還元剤溶液との各々の専用噴霧ノズルを設け、各専用噴霧ノズルから同時に所定溶液を噴霧してもよい。
【実施例1】
【0016】
図1に示す装置を用いて、ソーダライムガラスから成る基板10の一面側に銅膜を形成した。
この基板10の他面側を、箱体12内に設けられているヒータブロック18上に載置し、ヒータブロック18内の加熱ヒータを調整して基板10の一面側を160℃となるように加熱した。
箱体12内には、下方側に設けられた窒素供給口14から窒素ガスを60リットル/分で供給し、上方側に設けられた排ガス出口16から分解ガスを含む窒素ガスを排出した。
かかる基板10の一面側には、その一面側から高さ40cmの箇所に設けた噴霧ノズル20から、蟻酸銅溶液槽22内に貯留されている蟻酸銅溶液を間欠的に噴霧した。蟻酸銅溶液は、蟻酸銅四水和物をアンモニア水に溶解した溶液をエタノールに混合して得たものである。この場合の割合は、蟻酸銅四水和物0.1gに対して、アンモニア水10ml、エタノール40mlであった。
かかる蟻酸銅溶液を100回噴霧した基板10の一面側には、銅膜が形成されたが、その表面には黒色の酸化銅から成る酸化膜が形成されていた。
かかる酸化膜が表面に形成された銅膜に対し、噴霧ノズル20から還元剤溶液槽28内に貯留されている還元剤溶液を間欠的に噴霧した。還元剤溶液は、蟻酸アンモニウムをアンモニア水に溶解した溶液をエタノールに添加して得たものである。この場合の割合は、蟻酸アンモニウム0.11gに対して、アンモニア水3ml、エタノール14mlであった。
この様に、還元剤溶液を30回噴霧した基板10の一面側には、黒色の酸化膜が消滅して銅色の銅膜が形成されていた。
基板10の一面側に形成された銅膜のシート抵抗を測定したところ、0.2〜1Ωであった。
【比較例1】
【0017】
実施例1において、還元剤溶液を基板10の一面側に噴霧することなく表面に黒色の酸化銅から成る酸化膜が形成された銅膜のシート抵抗を測定したところ、80k〜350kΩであった。
【実施例2】
【0018】
実施例1において、ソーダライムガラスから成る基板10に代えて樹脂基板を用いた他は実施例1と同様にして樹脂基板の一面側に銅膜を形成した。形成した銅膜は銅色を呈し、そのシート抵抗は1Ωであった。
【実施例3】
【0019】
実施例1において、ソーダライムガラスから成る基板10に代えて図3(c)に示すアンダーカット部34a付の凹部34が形成された基板31を用い実施例1と同様に基板31の凹部34が形成されている面側に、銅色を呈する銅膜を形成した。
基板31では、図3(d)に示す様に、銅膜36は凹部34のアンダーカット部34aの内壁面に沿っても形成されていた。
【実施例4】
【0020】
実施例1の蟻酸アンモニウムを蟻酸に代えて、蟻酸の割合を0.073mlとした他は実施例1と同様にして基板10の一面側に銅膜を形成した。形成した銅膜は銅色を呈し、そのシート抵抗は0.3〜3.4Ωであった。
【実施例5】
【0021】
実施例1において、蟻酸溶液と還元剤溶液とを混合して槽22に貯留した溶液を噴霧ノズル20から基板10の一面側に100回噴霧した他は、実施例1と同様にして基板10の一面側に銅膜を形成した。形成した銅膜のシート抵抗は420〜41kΩであった。蟻酸溶液のみを基板10の一面側に噴霧して形成した銅膜のシート抵抗の80k〜350kΩ(比較例1)よりも改善されている。
【実施例6】
【0022】
実施例1において、ソーダライムガラスから成る基板10に代えて、図4に示す基板31を用いた。この基板31には、樹脂製の基板31の一面側に形成された、銅から成るパターン38,38・・を覆う樹脂層32が形成されている。この樹脂層32には、底面にパターン38に形成されたパッド40が露出する凹部34が形成されている。かかる基板31には、凹部34の底面に残留するスミア42の除去のために、過マンガン酸によるデスミア処理等の一連のクリーニング処理を施した後、乾燥処理を施した。この凹部34の底面に露出するパッド40の露出面が酸化膜で覆われていることを、パッド40の断面の顕微鏡観察によって確認した。
次いで、基板31を図1に示すヒータブロック18上に載置し、還元剤溶液槽28のバルブ30を開いて噴霧ノズル20から還元剤溶液を噴霧することによって、凹部34の底面に露出するパッド40の露出面が還元処理されていた。このことも、パッド40の断面の顕微鏡観察によって確認した。
その後、基板31に実施例1と同様にして凹部34の内壁面を含む樹脂層32の全面に銅膜を形成した。凹部34の底面に露出するパッド40の銅面と形成した銅膜との境界部断面を顕微鏡観察しても、パッド40の銅面と銅膜との境界面に酸化膜や、酸化膜に起因すると考えられるクラックは存在しなかった。
一方、凹部34の底面に露出するパッド40の露出面が酸化膜で覆われている基板31に、最初に還元剤溶液を噴霧することなく実施例1と同様にして凹部34の内壁面を含む樹脂層32の全面に銅膜を形成した。凹部34の底面に露出するパッド40の銅面と形成した銅膜との境界部断面を顕微鏡観察したところ、パッド40の銅面と銅膜との境界面に酸化膜や、酸化膜に起因すると考えられるクラックが部分的に観察された。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る銅膜の形成方法を実施する装置を説明する概略図である。
【図2】本発明に係る銅膜の形成方法によって薄膜の銅膜ができる原理を説明する概略図である。
【図3】本発明に係る銅膜の形成方法によって薄膜の銅層を形成する凹部が形成された基板について説明する説明図である。
【図4】基板の一面側に形成した銅から成るパターンのパッドを覆う樹脂層にレーザで形成した凹部の底面に露出するパッド面に、酸化膜が形成される状況を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0024】
10,30 基板
12 箱体
14 窒素供給口
16 排ガス出口
18 ヒータブロック
20 噴霧ノズル
22 蟻酸銅溶液槽
24 配管
26,30 バルブ
28 還元剤溶液槽
31 基板
32 樹脂層
34a アンダーカット部
34 凹部
36 銅膜
38 パターン
40 パッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定温度に加熱されている基板を、前記加熱温度で不活性な不活性ガス雰囲気内に載置して、前記基板の表面に向けて前記加熱温度で蒸発する溶媒中に蟻酸銅を溶解した蟻酸銅溶液を噴霧し、前記加熱温度下で噴霧された蟻酸銅溶液中の溶媒を蒸発すると共に、前記蟻酸銅を熱分解して、前記基板の所定面に薄膜の銅膜を形成し、
且つ前記銅膜の表面に形成される酸化膜や残留する未分解の蟻酸銅を還元する還元剤を含有する還元剤溶液を、前記不活性ガス雰囲気内で加熱されている基板に噴霧することを特徴とする銅膜の形成方法。
【請求項2】
基板として、銅膜の形成面に露出する銅面に酸化膜が形成されている基板を用いるとき、前記酸化膜を還元して除去する還元剤溶液を前記基板に向けて噴霧した後、蟻酸銅溶液を噴霧する請求項1記載の銅膜の形成方法。
【請求項3】
基板の所定面に薄膜の銅膜を形成した後、還元剤溶液を噴霧する請求項1又は請求項2記載の銅膜の形成方法。
【請求項4】
還元剤として、蟻酸アンモニウム又は蟻酸を用いる請求項1〜3のいずれか一項記載の銅膜の形成方法。
【請求項5】
還元剤溶液として、還元剤の溶液を基板の加熱温度で蒸発する溶媒中に添加して得た還元剤溶液を用いる請求項1〜4のいずれか一項記載の銅膜の形成方法。
【請求項6】
基板に対して蟻酸銅溶液と還元剤溶液とを交互に噴霧する請求項1〜5のいずれか一項記載の銅膜の形成方法。
【請求項7】
蟻酸銅を触媒を用いることなく熱分解する請求項1〜6のいずれか一項記載の銅膜の形成方法。
【請求項8】
不活性ガスとして、窒素ガスを用いる請求項1〜7のいずれか一項記載の銅膜の形成方法。
【請求項9】
基板の加熱温度を130〜200℃とする請求項1〜8のいずれか一項記載の銅膜の形成方法。
【請求項10】
蟻酸銅溶液の噴霧を間欠的に行う請求項1〜9のいずれか一項記載の銅膜の形成方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−167522(P2009−167522A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277295(P2008−277295)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(000190688)新光電気工業株式会社 (1,516)
【Fターム(参考)】