説明

銅被覆アルミニウム合金線

【課題】可撓性、加工性を備え、伸線性が良好であり、高導電で、引張強度がある銅被覆アルミニウム線を提供することを目的とする。
【解決手段】Si:0.15〜0.4質量%、Fe:0.6〜1.7質量%、Cu:0.06〜0.2質量%を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金で形成されたアルミニウム合金線に、銅被覆を施したことを特徴とする銅被覆アルミニウム合金線。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金を主導体として用い、当該主導体の外周に銅を被覆した銅被覆アルミニウム合金線に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車電装用ワイヤーハーネスは一般的なもので重量が約25kg/台となり、電線だけでも約15kg/台を占めており、1kg単位で軽量化が進められている自動車において、電線の軽量化は避けて通ることは出来ない。又、電子機器においても小型化・軽量化が進んでおり、その中で使用されている導体も軽量であることが求められている。
【0003】
従来、導体には銅が用いられてきたが、近年求められている導体、電線の軽量化、コストダウンのために、銅の代替として、アルミニウムの軽さと経済性、銅の耐腐食性、導電性、半田付け性といった両者のよい部分を受け継いだ導体として、アルミニウム線に銅被覆を施した銅被覆アルミニウム線が使用されている。そして、通常芯材のアルミニウムは電気用純アルミニウムを使用している。
【0004】
このような銅被覆アルミニウム線は、体積比にして約80〜90%と大部分がアルミニウムであるので、芯材のアルミニウムの強度やその他の特性がほぼそのまま銅被覆アルミニウム線の強度やその他の特性となる。
【0005】
しかし、芯材として用いられている電気用純アルミニウムは、導電性は61%IACSと比較的良好であるが、一方では、強度は低く問題となっている。
【0006】
そこで、電気用純アルミニウムより強度を上げたものとして、JISに様々なアルミニウム合金の規格がある。
【0007】
ここで、銅被覆アルミニウム合金線の芯材として使用するため、芯材のアルミニウム合金線には、可撓性、加工性が必要であり、高導電で、引張強さと伸びの両立が必要である。
【0008】
しかし、JISで規格されたアルミニウム合金を使用したアルミニウム合金線は、引張強さと伸びの両立は困難であり、伸線性が悪く電線として用いることが出来ない、或いは導電性が50%IACS以下と低く電線としては用いることが出来ないものであった。
【0009】
そこで、JIS6000系のアルミニウム合金の改善が提案され(特許文献1、2参照)、又、JIS1000系の強度と伸びを改善した合金として、JISの8000系のアルミニウム合金、例えばJISの8021や8079がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3378819号公報
【特許文献2】特開2000−212664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、上記特許文献に記載されている改善した6000系のAl合金或いは上記8000系のアルミニウム合金を使用した銅被覆アルミニウム合金線でも、伸線性が良好でなく、高導電と引張強さの両立は困難であった。
【0012】
そこで、本発明は、銅被覆アルミニウム線であって、可撓性、加工性を備え、伸線性が良好であり、高導電で、引張強度がある銅被覆アルミニウム合金線を提供することを目的とする。又、高導電で、伸線性が良好であり、引張強度があり、更に、軽量であり、経済的な導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための本発明は、Si:0.15〜0.4質量%、Fe:0.6〜1.7質量%、Cu:0.06〜0.2質量%を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金で形成されたアルミニウム合金線に、銅被覆を施したことを特徴とする銅被覆アルミニウム合金線である。
【0014】
又、上記の銅被覆アルミニウム合金線を用いて形成したことを特徴とする導体であり、導電体としてワイヤーハーネスやバッテリーケーブル等が含まれる。
【発明の効果】
【0015】
以上のような本発明によれば、銅被覆アルミニウム線において、可撓性、加工性を備え、伸線性が良好であり、高導電で、引張強度がある銅被覆アルミニウム合金線を提供することが可能となった。又、高導電で、伸線性が良好であり、引張強度がある、更に、軽量であり、経済的な導体を提供することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下本発明の実施の形態を説明する。本発明の銅被覆アルミニウム合金線は、Si(珪素):0.15〜0.4質量%、Fe(鉄):0.6〜1.7質量%、Cu(銅):0.06〜0.2質量%を含み、残部がAl(アルミニウム)及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金で形成されたアルミニウム合金線に、銅被覆を施したものである。本発明の銅被覆アルミニウム合金線は、様々な用途に使用することが出来るが、特に自動車用導体や電子機器用導体等に好適に用いることが出来る。
【0017】
本発明で芯材として用いるアルミニウム合金線を形成するアルミニウム合金は、Siを0.15〜0.4質量%含有する。Siの含有量を0.15〜0.4質量%とするのは、Siの含有量が0.15質量%より少ないと、引張強度が低く、0.4質量%より多いと、導電率が低下するからである。
【0018】
本発明で芯材として用いるアルミニウム線を形成するアルミニウム合金は、Feを0.6〜1.7質量%含有する。Feの含有量を0.6〜1.7質量%とするのは、Feの含有量が0.6質量%より少ないと、引張強度が低く、1.7質量%より多いと、導電率が低下するからである。
【0019】
又、本発明で芯材として用いるアルミニウム線を形成するアルミニウム合金は、Cuを0.06〜0.2質量%含有する。Cuの含有量を0.06〜0.2質量%とするのは、Cuの含有量が0.06質量%より少ないと、引張強度が低く、0.2質量%より多いと、導電線への加工時に、割れや断線が発生する虞があるからである。
【0020】
又、残部はAl及び不可避的不純物が含有されている。Alは、導電線の導電率を良好にするために高い純度が望ましく、純度99.95%以上が好ましい。又、不可避的不純物は、導電性を低下させる原因となるので、その含有量は出来るだけ少なくすることが好ましい。
【0021】
銅被覆アルミニウム合金線の銅被覆層は特に限定されないが、銅とアルミニウムの断面積における銅の面積割合である、銅被覆占積率を1〜20%とすることが好ましい。1%未満であると、銅被覆層が破れ易く、断線、接続不良の原因となるからであり、20%以上であると、伸線時に芯材のアルミニウム線が断線し易くなる場合があるからである。
【0022】
本発明に使用する銅テープは純銅のテープが好ましく、その一例として、酸素量10ppmの無酸素銅テープで、厚さ0.4mm、幅42mmのもの等が使用できるが、これに限定されるものではない。
【0023】
次に、本発明の銅被覆アルミニウム合金線の、上述のような組成で形成されたアルミニウム合金線を用いた製造について説明する。先ず、上述のような範囲の組成のSi、Fe、Cu及びAlを溶解し、連続鋳造機にて鋳造して、キャストバーを作製する。そして、キャストバーを熱間圧延してアルミニウム合金線を作製する。通常は連続鋳造機に熱間圧延機がタンデムに接続されている。このアルミニウム合金線の線径は特に限定されないが、9.0〜10.0mm程度とすることが出来る。尚、アルミニウム合金線の製造工程は、上述の方法に限定されず、圧延加工でもよいが、押出加工でもよい等、公知の他の方法を採用することが出来る。
【0024】
このアルミニウム合金線に対して溶体化処理を行う。この溶体化処理は、添加元素を均質に固溶させるために行うもので、500〜580℃で行うことが好ましい。500℃より低い温度で溶体化処理を行うと、添加元素の均質化が不充分となる場合があり、580℃より高いと、線が部分的に溶解してしまう虞があるからである。尚、好ましい処理時間としては、550℃で行う場合には、2時間30分〜3時間30分、より好ましくは3時間である。この溶体化処理の後、水冷等により、線を冷却してもよいが、冷却しなくてもよい。尚、この溶体化処理は行わないこととしてもよい。
【0025】
銅被覆アルミニウム合金線は、公知の装置を用いて、公知の方法を採用して、以下の2工程により製造することが出来る。第一の工程は、アルミニウム合金で形成された芯材となるアルミニウム合金線に銅を被覆して、銅被覆アルミニウム合金線の複合線を製造する工程であり、この工程の具体例として、アルミニウム合金線を芯材供給装置から繰り出し、ストレーナーで伸直化し、表面洗浄装置で洗浄し、電解脱脂し、研磨装置でステンレス製或いは合成樹脂製等のブラシで研磨する。又、銅テープは銅テープ供給装置から繰り出され、研磨装置で研磨する。
【0026】
そして、造管方式を用い、研磨されたアルミニウム合金線及び銅テープを成形装置に導入し、成形装置で銅テープにアルミニウム合金線を縦添えし、アルミニウム合金線を覆うように、銅テープをアルミニウム合金線上に連続的に管状に成形し、銅テープの突合せ部をTIG(タングステンインナートガス)方式で連続的に溶接し、更に、管状に成形、溶接された銅テープを、ロールにより縮径し、芯材のアルミニウム合金線と密着させ、巻取り機に巻取る。
【0027】
第二の工程は、上記第一の工程で得られた銅被覆アルミニウム合金線の複合線を、公知の伸線機を用いて冷間加工により伸線加工し、所定の径まで細線化して銅被覆アルミニウム合金線とする工程である。この工程では、所定の減面率、例えば減面率10〜30%を有するダイスが用いられて、銅被覆アルミニウム合金線の複合線は徐々に細線化され、銅テープとアルミニウム線とが完全に密着して銅被覆アルミニウム合金線が形成される。尚、伸線加工は、冷間加工でなくてもよい。
【0028】
このように作製された銅被覆アルミニウム合金線は、例えば、複数本撚り合わせて撚線としたり、複数本の撚線を更に寄り合わせた撚線としたり、これらの撚線を円形に圧縮した圧縮導体として使用することが出来、これらの撚線や圧縮導体に、合成樹脂を被覆する等の公知の加工が施され、ワイヤーハーネスやバッテリーケーブル等の導体を形成することが出来る。
【実施例】
【0029】
Si、Fe、Cu及びAlを表1の組成で溶解し、連続鋳造機にて鋳造して、線径25mmのキャストバーを作製し、キャストバーを熱間圧延して線径9.5mmのアルミニウム合金線を作製し、550℃で3時間溶体化処理を行い、この溶体化処理の後、水冷により、アルミニウム合金線を冷却し、厚さ0.4mmの酸素量10ppmの無酸素銅テープを使用して、銅被覆占積率15%の銅被覆アルミニウム線の複合線を上述のような工程により形成した後、減面率15〜30%のダイスを用いて伸線機により冷間伸線加工を行い、線径0.2mmの銅被覆アルミニウム合金線を形成した。
【0030】
このようにして作製した銅被覆アルミニウム合金線の特性評価として、JISC3002に準拠して、20℃での引張試験と、20℃での導電率測定を行なった。結果を表1に示す。判定は、引張強度が500MPa以上、導電率が60%IACS以上の双方を満たすものを合格(表中「○」で示す。)とし、片方でも満たさないものは不合格(表中「×」で示す。)とした。
【0031】
【表1】

【0032】
本発明の銅被覆アルミニウム合金線は、実施例1〜8に示すように、引張強さが500MPa以上、且つ導電率が60%IACS以上の条件を満たし、判定は、合格であった。一方、本発明の条件を満たさない銅被覆アルミニウム合金線は、比較例1〜13に示すように、引張強さ、導電率のいずれか或いは双方が目標値に達せず、或いは加工時に割れが発生し、判定は、不合格であった。尚、比較例1のアルミニウム合金はJIS1100であり、比較例2のアルミニウム合金はJIS2017であり、比較例3のアルミニウム合金はJIS3003であり、比較例4のアルミニウム合金はJIS4032であり、比較例5のアルミニウム合金はJIS5052であり、比較例6のアルミニウム合金はJIS6063であり、比較例7のアルミニウム合金はJIS7075である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の銅被覆アルミニウム合金線は、導電線の軽量化、コストダウンを図れ、更に、可撓性、加工性を備え、高導電で、引張強さと伸びが両立するので、導電線に好適に使用でき、自動車用導体や電子機器用導体等の導電体に好適に用いることが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si:0.15〜0.4質量%、Fe:0.6〜1.7質量%、Cu:0.06〜0.2質量%を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金で形成されたアルミニウム合金線に、銅被覆を施したことを特徴とする銅被覆アルミニウム合金線。
【請求項2】
請求項1に記載の銅被覆アルミニウム合金線を用いて形成したことを特徴とする導体。

【公開番号】特開2010−280968(P2010−280968A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−136406(P2009−136406)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】