説明

銅製錬炉の操業方法

【課題】 広範囲のベコを効率的に熔解できる銅製錬炉の操業方法を提供する。
【解決手段】 自熔炉3で、銅原料を熔解して自熔炉マット25の層と自熔炉スラグ23の層とに分離して、自熔炉スラグ23を錬カン炉5に流し込む自熔炉工程と、錬カン炉5で、自熔炉3から流し込まれた自熔炉スラグ23を錬カン炉マット31の層と錬カン炉スラグ29の層とに分離し、レードル35を介して錬カン炉マット31を次工程に導出する錬カン炉工程とを有する。レードル35に受け入れられた錬カン炉マット31の量が、通常操業時のマットの回収目標量を下回った場合には、自熔炉工程では、自熔炉マット25の層と自熔炉スラグ23の層との界面を、自熔炉スラグホール9の位置よりも高くすることにより、自熔炉マット25を自熔炉スラグホール9から錬カン炉5に流し込み、錬カン炉工程では、自熔炉マット25により錬カン炉5の炉底27に形成されたFeを主成分とするベコ33を熔解させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非鉄金属製錬に用いられる錬カン炉において、充分な炉内容積を確保するための銅製錬炉の操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非鉄金属製錬は、原料を熔解し、マットとスラグとに比重分離して、マット中に目的金属を濃縮するという方法で行われている。原料を熔解し、比重分離するにあたって、自熔炉、錬カン炉、転炉などの熔錬炉が使用されている。非鉄金属製錬では、後工程に進むほど、得られるマット中の目的金属濃度は上昇する。
【0003】
非鉄金属製錬の一例である銅製錬においては、銅製錬炉(熔錬炉)で銅原料を98%程度の粗銅(熔体)にして、この粗銅をアノード形状に鋳造することで、更に後工程である電解精製において電気銅が得られる。
【0004】
例えば図5に示すように、自熔炉200と錬カン炉300とを備える銅製錬炉100において、自熔炉200で分離されたスラグ(以下、「自熔炉スラグ」という。)400には、回収可能な銅分が含まれている。そのため、自熔炉スラグ400は、自熔炉200から錬カン炉300に装入され、錬カン炉300において、スラグ(以下、「錬カン炉スラグ」という)600とマット(以下、「錬カン炉マット」という)700とに比重分離される。錬カン炉スラグ600は、錬カン炉300から排出された後、図示しない水砕工程に装入され、砂あるいは砂利状に粉砕され、水砕スラグが製造される。水砕スラグは、コンクリート細骨材、ケーソン中詰め材として販売されている。
【0005】
ところで、一般的に、銅製錬炉100の操業を続けることにより、炉の内部にはFeを主成分とする炉底堆積物(以下、「ベコ」ともいう。)が付着することが知られている。
【0006】
例えば、錬カン炉300においては、内部にベコ800が付着すると、例えば図6に示すように炉内容積が小さくなり、錬カン炉300に保有できる熔体量が減少してしまう。これによって、実質的に錬カン炉300内における錬カン炉スラグ600の滞留時間が短くなり、所定の時間内に錬カン炉スラグ600と錬カン炉マット700とへの比重分離が進まないため、錬カン炉スラグ600に含まれる銅の割合(含銅)が高くなる。
【0007】
錬カン炉300の炉内容積が小さくなることは、錬カン炉300から抜き出される錬カン炉マット700の量によって判断することができる。通常、錬カン炉300から抜き出された錬カン炉マット700は、マットホール310から排出されてレードル900内に受け入れられ、次工程に移送される。しかし、錬カン炉300の炉内容積が小さくなってくると、レードル900内に受け入れられる錬カン炉マット700の量が次第に減少し、通常時の50%程度、更には25%程度まで減ってしまう場合もある。
【0008】
上述したように錬カン炉マット700と錬カン炉スラグ600との比重分離が不十分になると、錬カン炉スラグ600中に所定以上の銅が含まれるため、この錬カン炉スラグ600中に含まれる銅が、スラグホール320から製錬プロセス系外に排出されてしまう。したがって、錬カン炉スラグ600中に含まれる銅が回収不能となり、操業上の大きな損失となる。錬カン炉300における錬カン炉スラグ600の滞留時間を充分にとれば錬カン炉マット700と錬カン炉スラグ600との比重分離が進む。
【0009】
このように、ベコ800の付着によって狭くなった銅製錬炉100内の容積を回復するための容易な方法としては、炉全体の再構築という方法がある。しかし、炉全体の再構築は、資材コスト及び操業コストの面から、好ましい方法とは言えない。
【0010】
また、例えば特許文献1には、Feが銅製錬炉100の炉底に固化して形成されたビルドアップ(ベコ)を、鉄を主成分とする金属粒をスラグ湯面の上方から投入することによって、ビルドアップを熔解により除去する方法が記載されている。
【0011】
しかし、特許文献1に記載の方法では、投入する金属粒の安定的な調達及び設備の増設が必要となる。また、特許文献1に記載の方法では、金属粒を過剰に投入した場合、熔体温度を低下させてしまい、銅製錬炉100の炉底のビルドアップを増加させてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−8965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、広範囲のベコを効率的に熔解できる銅製錬炉の操業方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために、自熔炉で生成されたマットを自熔炉から錬カン炉に流しこむことによって、広範囲のベコを効率的に熔解できることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明に係る銅製錬炉の操業方法は、自熔炉と錬カン炉とを備える銅製錬炉の操業方法において、上記自熔炉で銅原料を熔解してマットの層とスラグの層とに分離し、該分離したスラグを上記錬カン炉に流し込む自熔炉工程と、上記自熔炉から流し込まれたスラグを上記錬カン炉でマットの層とスラグの層とに分離し、該マットを受け入れるレードルを介して該マットを次工程に導出する錬カン炉工程とを有し、上記レードルに受け入れられたマットの量が、通常操業時のマットの回収目標量を下回った場合には、上記自熔炉工程では、上記マットの層と上記スラグの層との界面を、該自熔炉に設けられた自熔炉スラグホールの位置よりも高くすることにより、該自熔炉で生成されたマットを該自熔炉スラグホールから上記錬カン炉に流し込み、上記錬カン炉工程では、該自熔炉から流し込まれたマットにより、上記錬カン炉の炉底に形成されたFeを主成分とする炉底堆積物を熔解させることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る銅製錬炉の操業方法は、上記レードルに受け入れられたマットの量が、上記通常操業時のマットの回収目標量を下回った場合には、上記自熔炉で分離されたマットを排出する自熔炉マットホールからのマットの排出を一旦中止し、上記自熔炉のマットの層とスラグの層との界面を上記自熔炉スラグホールの位置よりも所定量上昇させて、該自熔炉スラグホールから該マットを流出させ、所定量のマットが上記錬カン炉に流入したときに該自熔炉スラグホールを閉めることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る銅製錬炉の操業方法は、上記レードルに受け入れられたマットの量が、上記通常操業時のマットの回収目標量に達するまで、上記自熔炉で生成されたマットを上記錬カン炉に流し込む操作を繰り返すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、一般的に自熔炉で生成されたスラグのみしか流し込まない錬カン炉に、自熔炉で生成したマットを流し込むことによって、錬カン炉の炉底に形成されたFeを主成分とする炉底堆積物をマットの熱及びマットの還元反応で効率的に熔解することができる。これにより、本発明では、錬カン炉における炉内の容積を効率的に回復させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】銅製錬炉の構成例を示す断面図である。
【図2】錬カン炉のベコ測定箇所を模式的に示す平面図である。
【図3】本実施の形態に係る銅製錬炉の操業方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【図4】所定期間において測定したベコの厚さと、錬カン炉から一日あたりに産出されたマットの量との関係を示すグラフである。
【図5】銅製錬炉の構成例を示す断面図である。
【図6】銅製錬炉の構成例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を適用した銅製錬炉の操業方法の具体的な実施の形態の一例について、図面を参照しながら以下の順序で説明する。
1.銅製錬炉の構成
2.熔錬炉の操業方法
【0021】
<1.銅製錬炉の構成>
図1に示すように、本実施の形態に係る銅製錬炉の操業方法で用いられる銅製錬炉1は、例えば、自熔炉3と錬カン炉5とを備える。
【0022】
自熔炉3は、例えば、頂部に精鉱バーナー(図示せず)が設けられた反応塔(シャフト)7と、反応塔7の下部に一端が接続され、側面にスラグホール(カラミ抜き口)9(以下、「自熔炉スラグホール9」という)及びマットホール(カワ抜き口)11(以下、「自熔炉マットホール11」という)が設けられたセトラー13と、セトラー13の他端に接続された排煙道(アップテイク)15とを備える。
【0023】
セトラー13は、保持容器として機能し、銅原料を熔解してスラグ(以下、「自熔炉スラグ」という)23と、マット(以下、「自熔炉マット」という)25とを比重差によって分離し、自熔炉スラグ23の層と、自熔炉マット25の層とする。自熔炉スラグホール9では、後に詳述するように、セトラー13で分離した自熔炉スラグ23又は自熔炉マット25を排出する。自熔炉マットホール11は、セトラー13で分離した自熔炉マット25を排出する。
【0024】
また、図2に示すように、銅製錬炉1は、自熔炉3と錬カン炉5とを接続する2つの樋17を備えている。樋17は、例えば断面が円弧状に形成されており、それぞれ自熔炉スラグホール9と連結されている。銅製錬炉1においては、自熔炉3が錬カン炉5よりも高い位置に設置されており、後に詳述するように、樋17を介して自熔炉3から自熔炉スラグ23や自熔炉マット25を錬カン炉5に流し込むことができる。
【0025】
錬カン炉5は、例えば、周壁が耐火レンガで構成された電気炉で構成されている。錬カン炉5は、側面に流入口19と、電極21とを備える。
【0026】
流入口19は、樋17と連結されており、自熔炉3から流出された自熔炉スラグ23や自熔炉マット25を流入することが可能な大きさに形成されている。電極21は、錬カン炉5内のスラグ(以下、「錬カン炉スラグ」という)29や錬カン炉5内のマット(以下、「錬カン炉マット」という)31を抵抗加熱によって保温する機能を有するもの、例えば、ゼーダーベルグ式電極が用いられ、錬カン炉5に対して略垂直方向に挿入される。このように、錬カン炉5は、保持容器として機能し、自熔炉3から流入された自熔炉スラグ23を比重差によって錬カン炉スラグ29と錬カン炉マット31とに分離する。
【0027】
また、錬カン炉5の周壁には、錬カン炉5で分離した錬カン炉マット31を抜き出すためのマットホール(以下、「錬カン炉マットホール」という)20と、錬カン炉5で分離した錬カン炉スラグ29を銅製錬プロセス外に抜き出すためのスラグホール(以下、「錬カン炉スラグホール」という)22とがそれぞれ設けられている。
【0028】
錬カン炉5には、樋17及び流入口19を介して自熔炉スラグホール9から抜き出された自熔炉スラグ23が流入される。錬カン炉5では、自熔炉3から流入した自熔炉スラグ23を加熱しながら、自熔炉スラグ23中に懸垂するマットをセットリングすることにより、比重差によって錬カン炉スラグ29と錬カン炉マット31とに分離する。
【0029】
錬カン炉5で分離された錬カン炉マット31は、錬カン炉マットホール20から抜き出され、レードル24を介して転炉(図示せず)に導出される。また、錬カン炉5で分離された錬カン炉スラグ29は、錬カン炉スラグホール22および水砕設備(図示せず)を介し、水砕スラグとして銅製錬プロセス外に排出される。このようにして、錬カン炉5では、錬カン炉スラグ29に含まれる錬カン炉マット31が分離回収される。
【0030】
<2.熔錬炉の操業方法>
続いて、図1及び図2に示す銅製錬炉1の操業方法の一例について説明する。銅製錬炉1の操業方法は、例えば、マットを造る熔錬工程と、マットから粗銅を得る製銅工程と、粗銅を精製する精製工程とに大別される。この中で、熔錬工程は、例えば、後述するステップS1乃至ステップS5からなる自熔炉3における自熔炉工程と、後述するステップS6からなる錬カン炉5における錬カン炉工程とからなる。なお、製銅工程と、精製工程とについては、その詳細な説明を省略する。
【0031】
具体的に、銅製錬炉1において、粉状の固体硫化物製錬原料である精鉱(硫化銅精鉱)およびフラックス(硅石)の混合物が、反応用酸素富化空気などの反応用ガスとともに、反応塔7の頂部に設けられた精鉱バーナーから反応塔7内に吹き込まれる(ステップS1)。
【0032】
反応塔7内に吹き込まれた精鉱等は、反応塔7の炉壁内の輻射熱、補助燃料の熱などにより昇温され、反応用ガスと反応して熔体となり、セトラー13内に溜められる(ステップS2)。
【0033】
セトラー13内において、銅原料の精鉱等が熔解した熔体は、比重差によって自熔炉スラグ23の層と自熔炉マット25の層とに分離される(ステップS3)。
【0034】
自熔炉3のセトラー13内で分離された自熔炉スラグ23は、自熔炉スラグホール9から抜き出されて錬カン炉5に流入される(ステップS4)。
【0035】
セトラー13内で分離された自熔炉マット25は、自熔炉マットホール11から次工程である転炉(図示せず)のバッチプロセスでの要求に応じて適宜抜き出される(ステップS5)。
【0036】
ステップS4において錬カン炉5に導入された自熔炉スラグ23は、自熔炉スラグ23中にわずかに懸垂した錬カン炉マット31が炉底27に沈澱した後、錬カン炉マットホール20から錬カン炉5の外、例えば錬カン炉マット31を受け入れるためのレードル24を介して転炉(図示せず)に導出される(ステップS6)。
【0037】
ところで、以上のステップS1〜ステップS6のように銅製錬炉1の操業を続けていると、錬カン炉5の内部に上述したFeを主成分とするベコ33が付着していくため、炉内容積が小さくなってしまい、錬カン炉5に保有できる熔体量が減少してしまう。このように錬カン炉5に保有できる熔体量が減少すると、所定の時間内に錬カン炉マット31と錬カン炉スラグ29との比重分離を効率的に進行させることが困難となる。その結果、錬カン炉スラグ29中に所定以上の銅が含まれることとなり、この錬カン炉スラグ29中に含まれる銅が製錬プロセス系外に排出されて回収不能となってしまう。
【0038】
そこで、本実施の形態に係る銅製錬炉1の操業方法においては、錬カン炉5にベコ33が付着した場合には、上述したステップS5において、自熔炉マットホール11からの自熔炉マット25(熔体)の排出を一旦中止し、図1に示すように自熔炉3の自熔炉マット25の層の高さ(マット層のレベル)を上昇させ、自熔炉3の自熔炉スラグホール9の位置(スラグホールレベル)よりも自熔炉マット25の層の高さを高くする。すなわち、自熔炉工程において、自熔炉マット25の層と自熔炉スラグ23の層との界面を自熔炉スラグホール9の位置よりも高くすることにより、ステップS4において、自熔炉3で生成された自熔炉マット25を錬カン炉5に流し込む。
【0039】
ここで、自熔炉3で産出(生成)された自熔炉マット25と、錬カン炉5で産出された錬カン炉マット31とを比較すると、錬カン炉マット31の銅品位の方が自熔炉マット25の銅品位よりも高い。錬カン炉5において、自熔炉3から自熔炉マット25が流入されると、自熔炉マット25に含まれるFeSと、炉底27に付着したベコ33に含まれるFe及び錬カン炉スラグ29中のFeとが、以下の(1)式のように反応する。
FeS(in matte)+3 FeO(in slag)=10 FeO(in slag)+SO(1)
【0040】
すなわち、(1)式に示すように、自熔炉3で生成した自熔炉マット25を錬カン炉5に流し込むことにより、自熔炉マット25の熱及び自熔炉マット25の還元反応で、錬カン炉5の炉底27に付着した広範囲のベコ33を熔解することができる。
【0041】
本実施の形態に係る銅製錬炉1の操業方法においては、一般的に自熔炉3で生成された自熔炉スラグ23のみ流し込む錬カン炉5に、自熔炉3で生成された約1200℃〜1230℃の高温の自熔炉マット25を流し込むことにより、自熔炉マット25の熱で錬カン炉5の炉底27に付着したベコ33を効率的に熔解することができる。一方、錬カン炉5に流入される自熔炉マット25の温度が、1200℃〜1230℃よりも高すぎたり低すぎたりすると、上記(1)式の反応が右の方向に進行しにくくなり、炉底27に付着した広範囲のベコ33を効率的に熔解することができない。
【0042】
次に、図3に示すフローチャートを参照して、レードル24に受け入れられる錬カン炉マット31の量が、通常操業時のマットの回収目標量を下回った場合に行われる銅製錬炉1の操業方法の一例について説明する。ここで、通常操業時のマット回収目標量とは、例えば、炉底27にベコ33が付着していない状態、すなわち、炉内容積が削減されていない状態の錬カン炉5において、自熔炉3から流入した自熔炉スラグ23から分離された錬カン炉マット31が、錬カン炉マットホール20から排出されてレードル24に受け入れられる量をいう。また、レードル24に受け入れられる錬カン炉マット31の量が、通常操業時のマットの回収目標量を下回った場合とは、例えば、レードル24に受け入れられる錬カン炉マット31の量が、通常操業時のマットの回収目標量に対して所定の割合(例えば約50%以下)になったときをいう。
【0043】
ステップS10において、自熔炉マットホール11からの自熔炉マット25の排出を一旦中止する。
【0044】
ステップS11において、セトラー13内の自熔炉マット25の層と自熔炉スラグ23の層との界面が、自熔炉スラグホール9の位置よりも所定量上昇したときに、自熔炉スラグホール9から自熔炉3内の自熔炉マット25が流出し始める。また、ステップS11において、所定量の自熔炉マット25が錬カン炉5に流入したときに、自熔炉スラグホール9を閉める。錬カン炉5に自熔炉マット25が所定量溜まったかどうかは、例えば、検尺を錬カン炉5の上部から挿入することにより確認することができる。
【0045】
ステップS12において、ステップS11で自熔炉スラグホール9を閉めた後、自熔炉マットホール11から自熔炉マット25を流出させ、自熔炉マット25の層と自熔炉スラグ23の層との界面を、自熔炉スラグホール9の位置まで下げて、それ以上錬カン炉5に自熔炉マット25が流入しないようにする。過剰に自熔炉マット25が錬カン炉5に流入し、錬カン炉マット31の層と錬カン炉スラグ29の層とが錬カン炉スラグホール22の位置(レベル)まで達すると、錬カン炉マット31が錬カン炉スラグ29とともに系外に排出され、その後の水砕樋で、錬カン炉マット31と水とが反応し、水蒸気爆発を起こす危険がある。自熔炉マット25の層と自熔炉スラグ23の層との界面が自熔炉スラグホール9の位置より下がったら、自熔炉スラグホール9を再び開ける。
【0046】
ステップS13において、錬カン炉5では、自熔炉3から流し込まれた自熔炉マット25により、錬カン炉5の炉底27に形成されたベコ33を上述した(1)式に示す反応で熔解させ、生成したマットとスラグとを錬カン炉マット31と錬カン炉スラグ29とに比重分離する。
【0047】
ステップS14において、錬カン炉マットホール20を開けて、錬カン炉5内の錬カン炉マット31をレードル24に移す。
【0048】
ステップS15において、所定量、すなわち、通常操業時のマット回収目標量に相当する錬カン炉マット31がレードル24内に回収されたかどうかを判断する。この判断の結果、通常操業時のマット回収目標量に相当する錬カン炉マット31がレードル24内に回収されていない場合には、錬カン炉5内のベコ33が十分に溶解していないため、再びステップS10〜ステップS15の処理を行う。これにより、錬カン炉5内のベコ33を熔解して、錬カン炉5の炉内容積を十分に回復させることができる。一方、ステップS15において、通常操業時のマット回収目標量に相当する錬カン炉マット31がレードル24内に回収された場合には、錬カン炉5内のベコ33が十分に溶解しているため、一連の処理を終了する。
【0049】
以上のように、本実施の形態に係る銅製錬炉の操業方法では、レードル24に受け入れられる錬カン炉5からの錬カン炉マット31の回収量が、通常操業時のマットの回収目標量を下回った場合には、自熔炉3で銅原料を熔解して生成した1200℃〜1230℃であって銅を60〜65重量%含む自熔炉マット25を錬カン炉5に流し込む。これにより、自熔炉マット25の熱及び自熔炉マット25の還元反応で、錬カン炉5の炉底27に形成された広範囲のベコ33を効率的に熔解することができる。すなわち、本実施の形態に係る銅製錬炉の操業方法では、炉全体の再構築や鉄を主成分とする金属粒を錬カン炉5に投入せずに、炉底27に形成されたベコ33を熔解できるため、錬カン炉5の炉内の容積を効率的に回復させることができる。
【0050】
また、本実施の形態に係る銅製錬炉の操業方法では、錬カン炉5の炉内容積を回復させることにより、錬カン炉5内での錬カン炉スラグ29の滞留時間をより増やすことができる。これにより、錬カン炉マット31と錬カン炉スラグ29との比重分離を効率的に進行させることができるため、錬カン炉5における処理能力を向上させることができる。
【0051】
なお、上述した図3に示す銅製錬炉1の操業方法において、例えば、ステップS14において、錬カン炉マット31と錬カン炉スラグ29との比重分離を効率的に行うために、必要に応じて錬カン炉5に挿入された電極21により、錬カン炉5内の熔体(錬カン炉マット31や錬カン炉スラグ29)をさらに温めてもよい。また、図3に示すステップS14において、錬カン炉5では、ベコ33の形成量に応じて、例えば、自熔炉3から流し込まれた自熔炉マット25によって錬カン炉5内を洗い流す程度に保持した後に、錬カン炉マットホール20又は錬カン炉スラグホール22から熔体を排出してもよい。また、上述した通常操業時のマット回収目標量は一例であって、銅製錬炉1の操業条件に応じて、例えばマット回収目標量の8割まで回復させるために、自熔炉3で生成された自熔炉マット25を錬カン炉5に流し込む操作の繰返し回数を適宜変更してもよい。また、上記説明では、銅製錬炉1において、図2に示すように、2つの樋17を用いて自熔炉3から自熔炉スラグ23や自熔炉マット25を錬カン炉5に流し込むものとしたが、この例に限定されず、必要に応じて1つ又は3つ以上の樋17を用いてもよい。
【0052】
また、前記ステップS10において、検尺などで自熔炉3から流し込む自熔炉マット25の量が正確に把握されており、錬カン炉スラグホール22のレベルまで到達することなく、すなわち、錬カン炉スラグホール22から熔体が溢れるおそれが無い場合は、錬カン炉スラグホール22を閉めなくてもよい。
【0053】
また、前記ステップS14において、前記同様、検尺などで自熔炉3から流し込む自熔炉マット25および自熔炉スラグ23の合計量が正確に把握されており、錬カン炉5から熔体が溢れるおそれが無い場合は、自熔炉スラグホール9から自熔炉スラグ23が排出され始めたとしても、自熔炉スラグホール9を閉めなくてもよい。より詳しくは、自熔炉マット25と自熔炉スラグ23とが同時に錬カン炉5内に装入されても、比重差により自熔炉マット25が錬カン炉5の炉底27側に流れ込むため、目的とする錬カン炉5の炉底27のベコ33の熔解が達成されるからである。
【実施例】
【0054】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、下記のいずれかの実施例に本発明の範囲が限定されるものではない。
【0055】
本実施例は、外径12mの錬カン炉のスラグをセットリングし、銅を回収する銅製錬におけるスラグ処理用電気炉で実施した。
【0056】
ベコの熔解状況は、図2に示すように、錬カン炉5の天井からベコの上端まで鉄棒を装入し、計8箇所を測定することにより確認した。測定回数は、1回/週の頻度で行った。
【0057】
図2に示すA点及びB点から、上述した図3に示す手順により、錬カン炉5に1200℃〜1230℃の自熔炉3の自熔炉マット25(Cu60〜65重量%)を複数回装入した。
【0058】
図4は、所定期間において測定したベコの厚さ(mm)と、錬カン炉5から一日あたりに産出された錬カン炉マット31の量(t/d(トンパーデイ))との関係を示すグラフである。図4において、「a」は、炉底に付着したベコの厚さ(mm)を示し、「b」は、錬カン炉から産出されたマットの量(t/d)を示す。なお、ベコの厚さについては、図2の「×」で示すC〜Jの計8か所の各地点の平均値を使用した。
【0059】
錬カン炉5から産出された錬カン炉マット31の量が増加(図4の矢印(A))すると、ベコの厚さが薄く(図4の矢印(B))なっており、相対的に炉内容積が大きくなっていることが確認できる。すなわち、錬カン炉5へのマットの流し込み回数が増加すると、ベコの厚さが薄くなり、相対的に炉内容積が大きくなっていることが確認できる。
【0060】
このように、自熔炉3から1200℃〜1230℃のマットを錬カン炉5に流し込むことにより、錬カン炉5の炉底27に形成されたベコ33を熔解させることができた。
【0061】
したがって、本発明によれば、鉄を主成分とする金属粒などを錬カン炉5に投入せずに、自熔炉マット25の熱及び自熔炉マット25の還元反応で効率的に熔解することができるため、錬カン炉5における炉内容積を効率的に回復できることが分かった。
【符号の説明】
【0062】
1,100 銅製錬炉、3,200 自熔炉、5,300 錬カン炉、7 反応塔、9 自熔炉スラグホール、11 自熔炉マットホール、13 セトラー、15 排煙道、17 樋、19 流入口、20 錬カン炉マットホール、21 電極、22 錬カン炉スラグホール、23 自熔炉スラグ、24 レードル、25 自熔炉マット、27 炉底、29 錬カン炉スラグ、31 錬カン炉マット、33 ベコ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自熔炉と錬カン炉とを備える銅製錬炉の操業方法において、
上記自熔炉で銅原料を熔解してマットの層とスラグの層とに分離し、該分離したスラグを上記錬カン炉に流し込む自熔炉工程と、
上記自熔炉から流し込まれたスラグを上記錬カン炉でマットの層とスラグの層とに分離し、該マットを受け入れるレードルを介して該マットを次工程に導出する錬カン炉工程とを有し、
上記レードルに受け入れられたマットの量が、通常操業時のマットの回収目標量を下回った場合には、上記自熔炉工程では、上記マットの層と上記スラグの層との界面を、該自熔炉に設けられた自熔炉スラグホールの位置よりも高くすることにより、該自熔炉で生成されたマットを該自熔炉スラグホールから上記錬カン炉に流し込み、上記錬カン炉工程では、該自熔炉から流し込まれたマットにより、上記錬カン炉の炉底に形成されたFeを主成分とする炉底堆積物を熔解させることを特徴とする銅製錬炉の操業方法。
【請求項2】
上記レードルに受け入れられたマットの量が、上記通常操業時のマットの回収目標量を下回った場合には、上記自熔炉で分離されたマットを排出する自熔炉マットホールからのマットの排出を一旦中止し、
上記自熔炉のマットの層とスラグの層との界面を上記自熔炉スラグホールの位置よりも所定量上昇させて、該自熔炉スラグホールから該マットを流出させ、所定量のマットが上記錬カン炉に流入したときに該自熔炉スラグホールを閉めることを特徴とする請求項1記載の銅製錬炉の操業方法。
【請求項3】
上記レードルに受け入れられたマットの量が、上記通常操業時のマットの回収目標量に達するまで、上記自熔炉で生成されたマットを上記錬カン炉に流し込む操作を繰り返すことを特徴とする請求項1又は2記載の銅製錬炉の操業方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−241423(P2011−241423A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−113091(P2010−113091)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】