説明

銅部材のレーザ溶接方法

【課題】第1銅部材と第2銅部材とを、スパッタを発生させることなく、YAGレーザ光によって高品質に容易にレーザ溶接できる銅部材のレーザ溶接方法を提供する。
【解決手段】表面側に電解ニッケルメッキ膜24が露出する第1銅部材20と、表面側に低融点金属メッキ膜27が露出する第2銅部材21とを、第1銅部材20裏面と第2銅部材21の表面とで接触させ、YAGレーザ光30を第1銅部材20の表面側の電解ニッケルメッキ膜24に、該電解ニッケルメッキ膜24は溶融することなく、第1銅部材20の銅の母材23から第2銅部材21の銅の母材25の表面側から少なくとも所定深さに至るまでの溶融部分32を溶融する照射条件で照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1銅部材と第2銅部材とをYAGレーザ光によって溶接する銅部材のレーザ溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、パワーモジュール等の大電流回路のリード、バスバー及びヒートスプレッダ等には導電率が高く、かつ熱伝導性のよい銅材が多用されている。パワー半導体モジュールの銅製パッケージの表面側に銅材からなるリードフレームをYAGレーザ光でレーザ溶接することが開発されている。
【0003】
銅材のYAGレーザ光の吸収率は低く、レーザ溶接をコントロールしにくい。しかしながら、銅材の表面にニッケルメッキ膜を施すことにより吸収率は3倍程度向上する。非特許文献1では、ニッケルメッキの膜質によるYAGレーザ光によるレーザ溶接への影響を把握するために、銅の母材に無電解ニッケルメッキ膜を表面側で施された第1銅部材と銅の母材に電解ニッケルメッキ膜を表面側で施された第2銅部材とを無電解ニッケルメッキ膜にYAGレーザ光を照射してレーザ溶接する場合と、銅の母材に電解ニッケルメッキ膜を表面側で施された第1銅部材と銅の母材に電解ニッケルメッキ膜を表面側で施された第2銅部材とをYAGレーザ光を電解ニッケルメッキ膜に照射してレーザ溶接した場合について、溶接面積、スパッタの発生等の比較がなされている。そして、無電解ニッケルメッキ膜の融点890℃が、電解ニッケルメッキ膜の融点1450℃より低いことに起因して、銅の母材に無電解ニッケルメッキ膜を施した場合の方が電解ニッケルメッキ膜を施した場合より溶接面積が広く、かつスパッタの発生が抑制されると記載されている。
【非特許文献1】吉原克彦、後藤 友彰,「パワーモジュールを対象とした銅材料のレーザ接合技術」,マイクロ接合フォーラム(FMJP2008)講演概要集,産報出版株式会社,平成20年4月11日,p.19−23
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明者は、図4に示すように、銅の母材12に無電解ニッケルメッキ膜13aを表面側で施された第1銅部材11と、銅の母材14にスズ(Sn)メッキ膜15を表面側で施された第2銅部材16とを、第1銅部材11の裏面と第2銅部材16の表面とで接触部18で接触させた状態で、YAGレーザ光10を無電解ニッケルメッキ膜13aに照射して両銅部材を試験的にレーザ溶接した。そして、この場合も、スパッタの発生が多いという試験結果を得た。
【0005】
即ち、発明者が試験的に行ったYAGレーザ光10によるレーザ溶接では、図4(1)に示すように、第1銅部材11と第2銅部材16とが接触された状態で、YAGレーザ光10が第1銅部材11の無電解ニッケルメッキ膜13に向けて照射されると、図4(2)のように、YAGレーザ光10を照射された第1銅部材11の無電解ニッケルメッキ膜13がYAGレーザ光10を吸収して発熱し溶融13cする。このとき、無電解ニッケルメッキ膜13はリン(P)を含むので、沸点が280℃と低いリンが蒸発してスパッタが発生した。
【0006】
YAGレーザ光10の照射を続けると、図4(4)のように、第1銅部材11の銅の母材12から第2銅部材16の銅の母材14の表面側から所定深さに至るまでの溶融部分17がレーザにより溶融し、第1銅部材11と第2銅部材16の金属の合金が溶融部分17の接触部18部分で形成されてレーザ溶接が完了する。
【0007】
しかしながら、前述のようにスパッタが発生し、金属異物が第1銅部材11や第2銅部材16の表面に取り付けられた電子部品や配線等に付着し電子制御装置等の機能に悪影響を与えることがある。また、レーザ溶接が良好に行われたか否かの品質確認は破壊試験で行っていたので、全数確実に品質確認することが困難であった。
【0008】
本発明の目的は、かかる従来の不具合を解消するためになされたもので、第1銅部材と第2銅部材とを、スパッタを発生させることなく、YAGレーザ光によって高品質に容易にレーザ溶接できる銅部材のレーザ溶接方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の構成上の特徴は、銅の母材に施された電解ニッケルメッキ膜が表面側に露出する第1銅部材と、銅の母材又は銅の母材に施された低融点金属メッキ膜が表面側に露出する第2銅部材とを、前記第1銅部材の裏面と前記第2銅部材の表面とで接触させ、前記第1銅部材の電解ニッケルメッキ膜にYAGレーザ光を、前記第1銅部材と前記第2銅部材との接触部に対向する位置で照射することによって前記第1銅部材と前記第2銅部材とを溶融してレーザ溶接する銅部材のレーザ溶接方法において、前記YAGレーザ光を前記第1銅部材の電解ニッケルメッキ膜に、該電解ニッケルメッキ膜は溶融することなく、前記第1銅部材の銅の母材から前記第2銅部材の銅の母材の表面側から少なくとも所定深さに至るまでの溶融部分を溶融する照射条件で照射することである。
【0010】
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、前記第1銅部材の裏面側には、前記銅の母材が露出するか又は前記銅の母材に施された低融点金属メッキ膜が露出することである。
【0011】
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項2において、前記第2銅部材の表面側には、前記銅の母材が露出するか又は前記銅の母材に施された低融点金属メッキ膜が露出することである。
【0012】
請求項4に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至3のいずれか1項において、前記第2銅部材の裏面側には、前記接触部と対向する位置に凹部が形成されていることである。
【0013】
請求項5に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項4のいずれか1項において、前記低融点金属はスズ又は銀であることである。
【発明の効果】
【0014】
上記のように構成した請求項1に係る発明においては、第2銅部材と接触部で接触された第1銅部材の銅の母材に施された電解ニッケルメッキ膜にYAGレーザ光を、該電解ニッケルメッキ膜は溶融することなく、前記第1銅部材の銅の母材から前記第2銅部材の銅の母材の表面側から少なくとも所定深さに至るまでの間を溶融する照射条件で照射する。
【0015】
これにより、電解ニッケルメッキ膜は溶融しないので、スパッタが発生することなく第1銅部材と第2銅部材とをYAGレーザ光でレーザ溶接することができる。従って、金属異物が第1銅部材や第2銅部材に飛散して例えば電子部品や配線に付着し、電子制御装置の機能に悪影響を与えることを防止できる。
【0016】
上記のように構成した請求項2に係る発明においては、前記第1銅部材の裏面側には、銅の母材が露出するか又は銅の母材に施された低融点金属メッキ膜が露出しており、電解ニッケルメッキ膜より融点が低いので、YAGレーザ光が照射される電解ニッケルメッキ膜が溶融しない状態で、前記第1銅部材を裏面側まで溶融することができる。
【0017】
上記のように構成した請求項3に係る発明においては、前記第2銅部材の表面側には、銅の母材が露出するか又は銅の母材に施された低融点金属メッキ膜が露出しており、電解ニッケルメッキ膜より融点が低いので、YAGレーザ光が照射されて発熱する電解ニッケルメッキ膜が溶融しない状態で、前記第1銅部材の銅の母材から前記第2銅部材の銅の母材の表面側から少なくとも所定深さに至るまでの間を溶融することができる。
【0018】
上記のように構成した請求項4に係る発明においては、前記第2銅部材の裏面側には、前記接触部と対向する位置に凹部が形成されているので、レーザ溶接時の第2銅部材の銅の母材の溶融がこの凹部底面まで至っているか否かを識別することによってレーザ溶接の良否を判定することができる。
【0019】
上記のように構成した請求項5に係る発明においては、前記第1銅部材、前記第2銅部材に施された前記低融点金属メッキ膜は、スズ又は銀のメッキ膜であるので、前記第1銅部材、前記第2銅部材のワイヤボンディングや電子部品等のはんだ付けを高品質で容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下本発明の実施の形態に係る銅部材のレーザ溶接方法を図面に基づいて説明する。図1(1)に示すように、リード等の第1銅部材20とリードやスプレッダ等の第2銅部材21とが、第1銅部材20の裏面と第2銅部材21の表面とで接触部22で接触される。第1銅部材20は銅の母材23に電解ニッケルメッキ膜24が表面側に施されたものであり、電解ニッケルメッキ膜24が表面側に露出している。第1銅部材20の裏面側には、低融点金属メッキ膜26を施してもよく、施さなくてもよい。電気ニッケルメッキ膜24や低融点金属メッキ膜26が施してあると、ワイヤボンディングや電子部品等のはんだ付けを高品質で容易に行うことができる。
【0021】
第2銅部材21は銅の母材25に低融点金属メッキ膜27が表面側に施されたものであり、低融点金属メッキ膜27が表面側に露出している。なお、第2銅部材21は銅の母材25に低融点金属メッキ膜27が施されていないものでもよく、この場合は銅の母材25が表面側に露出している。従って、第2銅部材21は、銅の母材25が表面側に露出するか又は銅の母材25に施された低融点金属メッキ膜27が表面側に露出したものである。
【0022】
第2銅部材21の裏面側も、低融点金属メッキ膜28を施してもよく、施さなくてもよい。第2銅部材21に低融点金属メッキ膜28が施してあると、ワイヤボンディングや電子部品等のはんだ付けを高品質で容易に行うことができる。第2銅部材21の裏面側には、接触部22と対向する位置に凹部29が形成されている。低融点金属メッキ膜26〜28は、スズ又は銀メッキ膜とするのがよい。
【0023】
第1銅部材20の電解ニッケルメッキ膜24に波長1064nmのYAGレーザ光30が、第1銅部材20と第2銅部材21との接触部22に対向する位置で照射される。図2に示すように、銅のYAGレーザ光の吸収率は約8%と低く、レーザ溶接のコントロールがしにくい。しかし、第1銅部材20の表面側で銅の母材23に施された電気ニッケルメッキ膜24はYAGレーザ光の吸収率が24%程度であるので、レーザ溶接を良好にコントロールすることができて品質の高いレーザ溶接を容易に行うことができる。
【0024】
YAGレーザ光30は、第1銅部材20の表面側の電解ニッケルメッキ膜24に、該電解ニッケルメッキ膜24は溶融することなく、第1銅部材20の銅の母材23から第2銅部材21の銅の母材25の表面側から少なくとも所定深さに至るまでの溶融部分32を溶融する照射条件で照射される。照射条件はYAGレーザ光30の強さ(ワット)と照射時間で決められる。YAGレーザ光30の照射条件は、電解ニッケルメッキ膜24の温度がその融点1450℃より低い例えば1400℃になるまでの間に第1銅部材20の銅の母材23から第2銅部材21の銅の母材25の表面側から少なくとも所定深さに至るまでの溶融部分32の温度が銅の融点1084℃より高くなるようにすることである。即ち、YAGレーザ光30が電解ニッケルメッキ膜24に照射されると、図1(2)のように、先ず電解ニッケルメッキ膜24の被照射部分31が発熱する。電解ニッケルメッキ膜24の被照射部分31が発熱して高温になると、図1(3)のように、被照射部分31から第1銅部材20の銅の母材23に熱が伝導され、被照射部分31の下方部分33が昇温される。照射時間が所定時間になると、図1(4)のように、電解ニッケルメッキ膜24の被照射部分31の温度がその融点1450℃より低い例えば1400℃になった状態で、第1銅部材20の銅の母材23から第2銅部材21の銅の母材25の表面側から少なくとも所定深さに至るまでの溶融部分32の温度が熱伝導で銅の融点1084℃より高くなり、第2銅部材21の裏面側に形成された凹部29の底面も溶融されて変形する。そして、第1銅部材20と第2銅部材21の金属の合金が溶融部分32の接触部22部分で形成さえレーザ溶接が完了する。
【0025】
このとき、YAGレーザ光30が照射されている電解ニッケルメッキ膜24の被照射部分31は溶融しないので、スパッタの発生がない状態で、第1銅部材20と第2銅部材21とを高品質にレーザ溶接することができる。また、スズ、銀等の低融点金属のメッキ膜26、27が、第1銅部材20の裏面側で銅の母材23に、又は第2銅部材21の表面側で銅の母材25に施された場合に、銅より融点が低い低融点金属のメッキ膜26、27が銅の母材23、25より先に溶けても、YAGレーザ光30が直接照射されるわけではなく、熱伝導で溶けるのでスパッタは発生しない。しかし、無電解ニッケルメッキのようにリン(P)を含むと蒸発してスパッタが発生する可能性があるので、低融点金属はリン(P)を含まないものとする。このように、スパッタによって金属異物が第1銅部材20や第2銅部材21に飛散することがないので、例えば第2銅部材21に設けられた電子部品や配線に金属異物g付着して電子制御装置の機能に悪影響を与えることを防止できる
【0026】
なお、上記実施の形態では、第1銅部材20の銅の母材23に電解ニッケルメッキ膜24を表面側の全域に亘って施しているが、図3に示すように、YAGレーザ光30が照射される被照射部分31のみに電解ニッケルメッキ膜24を施すようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本実施の形態に係る銅部材のレーザ溶接方法を示す図。
【図2】銅及び電解ニッケルメッキ膜のYAGレーザ吸収率を示す図。
【図3】第1銅部材の被照射部分のみに電解ニッケルメッキ膜を施した例を示す図。
【図4】従来の銅部材のレーザ溶接方法を示す図。
【符号の説明】
【0028】
20…第1銅部材、21…第2銅部材、22…接触部、23,25…銅の母材、24…電解ニッケルメッキ膜、26〜28…低融点金属メッキ膜、29…凹部、
30…YAGレーザ光、31…被照射部分、32…溶融部分。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅の母材に施された電解ニッケルメッキ膜が表面側に露出する第1銅部材と、銅の母材又は銅の母材に施された低融点金属メッキ膜が表面側に露出する第2銅部材とを、前記第1銅部材の裏面と前記第2銅部材の表面とで接触させ、前記第1銅部材の電解ニッケルメッキ膜にYAGレーザ光を、前記第1銅部材と前記第2銅部材との接触部に対向する位置で照射することによって前記第1銅部材と前記第2銅部材とを溶融してレーザ溶接する銅部材のレーザ溶接方法において、
前記YAGレーザ光を前記第1銅部材の電解ニッケルメッキ膜に、該電解ニッケルメッキ膜は溶融することなく、前記第1銅部材の銅の母材から前記第2銅部材の銅の母材の表面側から少なくとも所定深さに至るまでの溶融部分を溶融する照射条件で照射することを特徴とする銅部材のレーザ溶接方法。
【請求項2】
請求項1において、前記第1銅部材の裏面側には、前記銅の母材が露出するか又は前記銅の母材に施された低融点金属メッキ膜が露出することを特徴とする銅部材のレーザ溶接方法。
【請求項3】
請求項2において、前記第2銅部材の表面側には、前記銅の母材が露出するか又は前記銅の母材に施された低融点金属メッキ膜が露出することを特徴とする銅部材のレーザ溶接方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項において、前記第2銅部材の裏面側には、前記接触部と対向する位置に凹部が形成されていることを特徴とする銅部材のレーザ溶接方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項において、前記低融点金属はスズ又は銀であることを特徴とする銅部材のレーザ溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−69489(P2010−69489A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−236843(P2008−236843)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】