説明

鋳抜きピン及び金型

【課題】小径軸部を撓み易くして鋳抜きピンの耐応力性を向上させるとともに、固定軸部の外周面と取付孔の内周面との間の隙間に溶湯等が浸入することを抑制する。
【解決手段】鋳抜きピン8は、金型1のキャビティ面3aに開口された取付孔4内に挿入される挿入部10と、キャビティ3に露出する造形部9とを備える。挿入部10は、嵌合部12と小径軸部14と固定軸部16を備える。嵌合部12は、造形部9に連なっており、取付孔4に嵌合する。小径軸部14は、その嵌合部12に連なっている。小径軸部の直径は嵌合部12の直径よりも小さい。固定軸部16は、その小径軸部14に連なっている。固定軸部16の直径は、小径軸部14の直径よりも大きい。固定軸部16の外周には、金型1の材質と比較して剛性が低い低剛性部20が備えられる。低剛性部20は、固定軸部16の外周面と取付孔4の内周面4aとの間の隙間を封止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造用の金型に備えられる鋳抜きピンに関する。
【背景技術】
【0002】
鋳造用の金型に備えられる鋳抜きピンの一例が特許文献1に開示されている。特許文献1の鋳抜きピンは、金型のキャビティ面に開口された取付孔内に挿入される挿入部と、キャビティに露出する造形部とを備える。挿入部は、3つの部分を有している。一つは、造形部に連なっており、取付孔の開口部に嵌合される溶湯封止部である。一つは、溶湯封止部に連なっており、溶湯封止部よりも小径の小径軸部である。一つは、小径軸部に連なっており、小径軸部よりも大径の固定軸部である。溶融封止部がキャビティに近い側に位置し、固定軸部はキャビティから遠い側に位置する。この鋳抜きピンは、固定軸部が取付孔に挿入されて固定されることにより、金型に固定される。また、取付孔と溶湯封止部の間には、溶湯が浸入しない程度の隙間が設けられている。鋳造時において、鋳造金型内の溶湯が凝固すると、鋳抜きピンの造形部に応力が作用することが知られている。造形部が応力に耐え切れなくなったときに造形部は破断する。典型的には造形部の根元が破断する。特許文献1の技術において、上記の隙間と小径軸部とは、応力に対して造形部が動くことを許容するために設けられている。即ち、特許文献1の鋳抜きピンは、固定軸部が金型に固定された状態で小径軸部が撓み、結果、造形部が動いて応力を逃がすように作られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−329446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
造形部に加わる応力をより効率よく逃がすためには、小径軸部が撓み易い方がよい。小径軸部がよりよく撓むように、固定軸部の外周面と取付孔の内周面との間に隙間を設ける場合がある。しかしながら、そのような隙間を設けると、固定軸部の外周面と取付孔の内周面との間の隙間に溶湯等が浸入してしまう虞がある。本明細書は、小径軸部を撓み易くして鋳抜きピンの耐応力性を向上させるとともに、固定軸部の外周面と取付孔の内周面との間の隙間に溶湯等が浸入することを抑制するための技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書は、鋳造用の金型に備えられる鋳抜きピンを開示する。本明細書が開示する鋳抜きピンの一の実施形態は、金型のキャビティ面に開口された取付孔内に挿入される挿入部と、キャビティに露出する造形部とを備える。挿入部は、嵌合部と小径軸部と固定軸部を備える。嵌合部は、造形部に連なっており取付孔に嵌合する。小径軸部は、その嵌合部に連なっている部分である。小径軸部の直径は嵌合部の直径よりも小さい。固定軸部は、その小径軸部に連なっている部分である。固定軸部の直径は、小径軸部の直径よりも大きい。固定軸部の外周には、金型の材質と比較して剛性が低い低剛性部が備えられる。低剛性部は、固定軸部の外周面と取付孔の内周面との間の隙間を封止する。なお「封止」とは、低剛性部の表面と取付孔の内面の間に、溶湯等が通過しない程度の微小な隙間を設けた状態も含む。
【0006】
鋳造時に造形部に応力が作用すると、小径軸部のみならず、固定軸部のうちの小径軸部との連結部分に近い部分も変形しようとする。その際、上記の鋳抜きピンによると、固定軸部の外周に低剛性部が備えられているため、固定軸部のうちの小径軸部との連結部分に近い部分が少ない抵抗で変形する。その結果、鋳造時において小径軸部が撓み易くなる。一方、低剛性部は、固定軸部の外周面と取付孔の内周面との間の隙間を封止する。即ち、低剛性部は、固定軸部の変形を許容するとともに、固定軸部の外周面と取付孔の内周面との間の隙間に溶湯が浸入することを防ぐ。従って、上記の鋳抜きピンは、小径軸部が撓み易く、耐応力性が従来の鋳抜きピンに比べて高く、それでいて、固定軸部の外周面と取付孔の内周面との間の隙間に溶湯等が浸入することを抑制することもできる。
【0007】
上記の鋳抜きピンにおいて、固定軸部の直径が、挿入部の先端側から造形部側(小径軸部側)に向かって漸減していてもよい。即ち、固定軸部の直径が、小径軸部に近づくにつれて小さくなっているとよい。この構成によると、固定軸部のうちの小径軸部との連結部分に近い部分がより撓み易くなる。その結果、小径軸部もより撓み易くなる。また、固定軸部のうちの挿入部先端側の部分の直径は、小径軸部に近い部分に比べて大きいため、取付孔の内周面との間の隙間を小さくすることができ、固定軸部と取付孔の内周面との間の隙間を十分に封止し得る。
【0008】
上記の鋳抜きピンにおいて、低剛性部の固定軸部の径方向の厚みが、挿入部の先端側から造形部側(小径軸部側)に向かって漸増していてもよい。なお、「低剛性部の厚み」の語は、「低剛性部の固定軸部の径方向における長さ」と言い換えてもよい。この構成によると、低剛性部のうち、固定軸部の撓みが起き易い小径軸部に近い部分の厚みが、挿入部先端側部分と比べて厚く形成されていることになる。固定軸部の撓みが起き易い部分の低剛性部が厚く形成されているため、封止性をより確実に確保できる。
【0009】
低剛性部は、固定軸部の外周に、固定軸部の材料と異なる材料製で形成されていてもよい。あるいは、低剛性部は、固定軸部の外周に、固定軸部の周方向に沿って伸びる突条によって形成されていてもよい。突条は、固定軸部の径方向外側に向けて先細りに形成されていることが好ましい。
【0010】
本明細書の鋳抜きピンの他の実施形態は、固定軸部の外周に上記の低剛性部を備えることに代えて、固定軸部の直径を、挿入部の先端側から造形部側に向かって漸減させている。上述の通り、固定軸部のうち、造形部側部分は、挿入部先端側部分と比べて撓み易い。この構成によると、固定軸部のうちの造形部側部分が、小径軸部とともに撓み易くなる。その結果、鋳造時において小径軸部が撓み易くなる。さらに、固定軸部のうちの挿入部先端側部分の直径は、造形部側部分に比べて大きいため、固定軸部の外周面と取付孔の内周面との間の隙間の封止性も確保できる。
【0011】
本明細書は、さらに、新たな金型をも開示する。この金型は、キャビティ面に開口する取付孔を備える。鋳抜きピンは、上記のいずれかの鋳抜きピンであって、挿入部が取付孔内に挿入され、造形部がキャビティに露出するように金型に備えられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1実施例の金型の模式的断面図を示す。
【図2】第1実施例の鋳抜きピンの固定軸部の模式的断面図を示す。
【図3】第1実施例の鋳抜きピンの固定軸部の模式的断面図(複数回鋳造後)を示す。
【図4】第2実施例の鋳抜きピンの固定軸部の模式的断面図を示す。
【図5】第2実施例の鋳抜きピンの固定軸部の模式的断面図(複数回鋳造後)を示す。
【図6】第3実施例の鋳抜きピンの固定軸部の模式的断面図を示す。
【図7】第4実施例の鋳抜きピンの固定軸部の模式的断面図を示す。
【図8】第4実施例の鋳抜きピンの固定軸部の模式的断面図(複数回鋳造後)を示す。
【図9】第5実施例の鋳抜きピンの固定軸部の模式的断面図を示す。
【図10】第6実施例の鋳抜きピンの固定軸部の模式的断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に説明する実施例の技術的特徴を列挙する。
(形態1) 一の実施形態では、固定軸部は合金鋼製であり、低剛性部はチタン合金製である。
(形態2) 他の実施形態では、突条は、固定軸部の周方向に沿ってリング状に形成される。突条は複数本形成される。この場合、突条は固定軸部と同様に合金鋼製である。
【実施例】
【0014】
(第1実施例)
図1〜図3を参照して第1実施例の金型について説明する。図1に示すように、本実施例の金型1は、キャビティに溶融金属(溶湯)を供給して製品を鋳造するための鋳造用金型である。本実施例の金型1は、主な部品として、金型本体2と、鋳抜きピン8とを備える。金型本体2は、他の金型本体(図示省略)と組み合わせることによって製品鋳造用のキャビティ3を形成する。図では造形部9(後述)の周囲の空間がキャビティ3に相当する。金型本体2は、キャビティ3を画定するキャビティ面3aを備える。また、金型本体2のキャビティ面3aには取付孔4が開口している。取付孔4は、キャビティ面3aを開口部とする孔であって、キャビティ面3aと直交する方向に沿って金型本体2内部に形成されている。取付孔4の内周面4aは円筒形状に形成されている。取付孔4の奥側には、取付孔4より大径の大径孔6が形成されている。取付孔4と大径孔6とは連通している。
【0015】
鋳抜きピン8は、キャビティ3内で鋳造される製品に凹部を形成するためのピンである。鋳抜きピン8は、金型本体2に取り付けて使用される。鋳抜きピン8は、キャビティ3に露出する造形部9と、取付孔4内に挿入される挿入部10とを備える。造形部9は、略円錐台形状に形成されている。挿入部10は、嵌合部12と、小径軸部14と、固定軸部16とを備える。嵌合部12は、造形部9に連なっており、取付孔4の開口部付近に嵌合される。嵌合部12は、その外径が取付孔4の内径とほぼ同じ径(厳密には僅かに小さい径)に形成された略円柱形状の部分である。嵌合部12は、取付孔4の開口部を封止する。詳しく言うと、嵌合部12の外周面と取付孔4の内周面との間には、溶湯が浸入しない程度の微小な隙間が設けられている。小径軸部14は、嵌合部12に連なっており、嵌合部12より小径に形成された略円柱形状の部分である。固定軸部16は、小径軸部14に連なっており、小径軸部14よりも大径に形成された略円柱形状の部分である。なお、造形部9と嵌合部12の連結部分、嵌合部12と小径軸部14の連結部分、及び、小径軸部14と固定軸部16の連結部分は、それぞれ、表面が緩やかに連続するように湾曲状(いわゆるR形状、あるいは面取り形状と呼ばれる形状)に形成されている。固定軸部16の先端部(図示省略)は、ボルト等の固定手段によって金型本体2に固定されている。固定軸部16を金型本体2に固定する方法は、ボルト以外の手段であってもよい。なお、以下では、固定軸部16のうちの、取付孔4の奥側に位置する端部を「固定軸部16の先端部」と呼ぶ。本実施例の固定軸部16は、全長に亘って同じ径の円柱形状に形成されている。固定軸部16の外周には、金型本体2と比較して剛性が低い低剛性部20が備えられている。
【0016】
低剛性部20について詳しく説明する。図2に示すように、第1実施例の低剛性部20は、固定軸部16の外周面に形成された層である。低剛性部20は、固定軸部16の外周面を被覆するコーティング層と言い換えてもよい。低剛性部20は、金型本体2及び固定軸部16の材料である合金鋼より剛性の低い材料、例えばチタン合金によって形成されている。なお、チタン合金は、所定の荷重が加わると、塑性変形する。即ち、低剛性部20は、塑性変形する材料で作られている。本実施例の低剛性部20は、固定軸部16の軸方向の全長に亘って備えられている。また、低剛性部20は、固定軸部16の軸方向の全長に亘って均一な厚みに形成されている。低剛性部20は、固定軸部16と取付孔4の内周面4aとの間の隙間を封止する。正確に言うと、図2に示すように、低剛性部20の表面と取付孔4の内周面4aとの間には、溶湯等が通過しない程度の微小な隙間C1が設けられている。
【0017】
本実施例の金型1を用いて製品を鋳造する際の鋳抜きピン8の動作について説明する。キャビティ3内に溶湯が供給され、キャビティ3内の溶湯が凝固すると、造形部9に応力が作用する。造形部9に応力が作用すると、その応力によって小径軸部14が撓み、造形部9が移動し、その結果応力が緩和される。なお、別言すると、小径軸部14が撓むことによって応力が分散する。小径軸部の撓みに伴って、固定軸部16のうち、小径軸部14との連結部分に近い部分も撓む。その際、固定軸部16の外周面に備えられている低剛性部20のうちの一部分が、取付孔4の内周面4aに当たる。上記の一部分を以下、当接箇所と称する。金型1を用いて繰り返し製品が鋳造されると、当接箇所が、取付孔4の内周面4aに繰り返し当たる。その結果、図3に示すように、当接箇所が局所的に変形(塑性変形)する。図3の例では、低剛性部20のうち、取付孔4の内周面4aの端部と繰り返し当たる部分が変形する(へこむ)。当接箇所が変形することによって、鋳造時における固定軸部16の変形が抵抗なく行われるようになる。即ち、固定軸部16のうち、小径軸部14と連結する部分に近い部分が撓み易くなる。その結果、鋳造時に小径軸部14が撓み易くなる。一方、低剛性部20のうち、変形しなかった部分は、引き続き固定軸部16の外周面と取付孔4の内周面4aとの間の隙間を封止する。即ち、低剛性部20は、固定軸部16の変形を許容するとともに、固定軸部16の外周面と取付孔4の内周面4aとの間の隙間への溶湯の浸入を防ぐ。
【0018】
以上、第1実施例の金型1と、その金型1を用いて製品を鋳造する際の鋳抜きピン8の動作について説明した。上述の通り、第1実施例の鋳抜きピン8は、固定軸部16の外周に、金型本体2と比較して剛性が低い低剛性部20を備える。上述の通り、鋳造時において、造形部9に応力が作用する結果、低剛性部20が変形する。低剛性部20が変形することにより、固定軸部16の変形が抵抗なく行われるようになる。即ち、第1実施例の鋳抜きピン8は、低剛性部20を備えるため、鋳造時に固定軸部16が撓むことを許容できる。その結果、上述の通り、鋳造時に小径軸部14が撓み易くなる。一方、低剛性部20のうち、鋳造時に変形しない部分は、固定軸部16の外周面と取付孔4の内周面4aとの間の隙間を引き続き封止する。即ち、低剛性部20は、固定軸部16の変形を許容するとともに、隙間C1への溶湯の浸入を防ぐことができる。従って、鋳抜きピン8は、小径軸部14が撓み易く、耐応力性が従来の鋳抜きピンに比べて高く、それでいて、固定軸部16の外周面と取付孔4の内周面4aとの間の隙間に溶湯等が浸入することを抑制することもできる。
【0019】
(第2実施例)
図4、図5を参照して第2実施例の金型について説明する。第2実施例の金型も、第1実施例の金型1と同様に、金型本体2と鋳抜きピン108とを備える。なお、以下では、第1実施例の金型1と同じ構成のものについては、図1〜図3で用いた符号と同様の符号を用いることとして重複説明を省略する。第2実施例の鋳抜きピン108は、図4に示すように、低剛性部120が形成されている範囲において第1実施例の鋳抜きピン8と相違する。即ち、第2実施例では、低剛性部120は、固定軸部16のうち、造形部9側(小径軸部14側)の端部付近にのみ備えられている。なお、第2実施例の低剛性部120も、第1実施例の低剛性部20と同様に、固定軸部16の外周面に、固定軸部16や金型本体2と比較して剛性の低い材料(例えばチタン合金)で形成された層である。低剛性部120は、固定軸部16と取付孔4の内周面4aとの間の隙間を封止する(図4参照)。正確に言うと、図4に示すように、低剛性部120の表面と取付孔4の内周面4aとの間には、溶湯等が通過しない程度の微小な隙間C2が設けられている。
【0020】
第2実施例の金型を用いて製品を鋳造する際の鋳抜きピン108の動作について説明する。第2実施例においても、鋳造時に造形部9に応力が作用すると、小径軸部14が撓む方向に動き、それに伴って、固定軸部16のうち小径軸部14との連結部分に近い部分も同様に撓む方向に動く。その際、固定軸部16の外周面に備えられている低剛性部120のうちの一部分(当接箇所)が、取付孔4の内周面4aに当たる。繰り返し鋳造が行われると、低剛性部120の当接箇所が、取付孔4の内周面4aに繰り返し当たり、図5に示すように局所的に変形する。図5の例では、低剛性部120は、固定軸部16先端側の端部(図中左側の端部)を中心に変形する(へこむ)。第2実施例でも、低剛性部120の一部分(当接箇所)が変形することによって、固定軸部16の変形が抵抗なく行われるようになる。その結果、小径軸部14が撓み易くなる。一方、低剛性部120のうち、変形しなかった部分は、固定軸部16の外周面と取付孔4の内周面4aとの間の隙間を引き続き封止する。即ち、低剛性部120は、固定軸部16の変形を許容するとともに、隙間C2への溶湯の浸入を防ぐ。従って、鋳抜きピン108も、第1実施例の鋳抜きピンと同様に、小径軸部14が撓み易く、耐応力性が従来の鋳抜きピンに比べて高く、それでいて、固定軸部16の外周面と取付孔4の内周面4aとの間の隙間に溶湯等が浸入することを抑制することができる。
【0021】
(第3実施例)
図6を参照して第3実施例の金型について説明する。第3実施例の金型も、金型本体2と鋳抜きピン208と備える。第3実施例の鋳抜きピン208も、図6に示すように、低剛性部220の形状において第1実施例の鋳抜きピン8と相違する。第3実施例では、低剛性部220は、固定軸部16の周方向に沿って伸びている複数本の突条222によって形成されている。各突条222は、固定軸部16の周方向に沿って伸びているリング状の突条である。各突条222は、固定軸部16の径方向外側に向けて先細りになっている。また、各突条222は、固定軸部16と同様の材料、即ち合金鋼によって形成されている。各突条222は、固定軸部16の外周面と一体に形成されている。また、第3実施例でも、低剛性部220は、固定軸部16のうち、造形部9側(小径軸部14側)の端部付近にのみ備えられている。第3実施例の低剛性部220も、固定軸部16と取付孔4の内周面4aとの間の隙間を封止する。正確に言うと、各突条222の先端(低剛性部220の表面)と取付孔4の内周面4aとの間には、溶湯等が通過しない程度の微小な隙間C3が形成されている。
【0022】
第3実施例の金型を用いて製品を鋳造する際の鋳抜きピン208の動作について説明する。第3実施例においても、鋳造時に造形部9に応力が作用した場合、低剛性部220のうちの一部分が取付孔4の内周面4aに当たる。繰り返し鋳造が行われると、低剛性部220の上記一部分が取付孔4の内周面4aに繰り返し当たり、低剛性部220のうちの一部が局所的に変形する。具体的には、低剛性部220に含まれる複数本の突条222のうち、取付孔4の内周面4aに繰り返し当たる1本以上の突条222の先端が変形する(潰れる)。第3実施例でも、低剛性部220の一部分が変形することによって、鋳造時における固定軸部16の変形が抵抗なく行われるようになる。その結果、鋳造時に小径軸部14が撓み易くなる。一方、低剛性部220のうち、変形しなかった部分は、固定軸部16の外周面と取付孔4の内周面4aとの間の隙間C3を引き続き封止する。即ち、低剛性部220は、固定軸部16の変形を許容するとともに、隙間C3への溶湯の浸入を防ぐ。従って、第3実施例の鋳抜きピン208も、第1実施例の鋳抜きピン8と同様に、小径軸部14が撓み易く、耐応力性が従来の鋳抜きピンに比べて高く、それでいて、固定軸部16の外周面と取付孔4の内周面4aとの間の隙間に溶湯等が浸入することを抑制することができる。
【0023】
(第4実施例)
図7、図8を参照して第4実施例の金型について説明する。第4実施例の金型も、金型本体2と鋳抜きピン308と備える。第4実施例の鋳抜きピン308は、図7に示すように、固定軸部316の形状及び低剛性部320の形状において第1実施例の鋳抜きピン8金型と相違する。第4実施例では、低剛性部320は、その径方向の厚みが、挿入部10の先端側(図中左側)から造形部9側に向かって漸増するように形成されている。なお、第4実施例の低剛性部320も、第1実施例の低剛性部20と同様に、固定軸部316の外周面に、固定軸部16や金型本体2と比較して剛性の低い材料(例えばチタン合金)で形成された層である。これに伴って、固定軸部316は、その直径が、挿入部10の先端側から造形部9側に向かって漸減している。即ち、固定軸部316の直径は、小径軸部14に近づくにつれて小さくなっている。固定軸部316のうち先端側には、低剛性部320が備えられていない。低剛性部320が備えられていない部分の固定軸部316の外径は、取付孔4の内径とほぼ同じ径(厳密には僅かに小さい径)に形成されている。固定軸部316の先端側は、固定軸部316の先端側と取付孔4の内周面4aとの間の隙間を封止する。即ち、固定軸部316の先端側と取付孔4の内周面4aとの間には、溶湯等が通過しない程度の微小な隙間C4が設けられている。また、低剛性部320の表面と取付孔4の内周面4aとの間にも、隙間C4が形成されている。即ち、第4実施例の低剛性部320も、固定軸部316と取付孔4の内周面4aとの間の隙間を封止する。
【0024】
第4実施例の金型を用いて製品を鋳造する際の鋳抜きピン308の動作について説明する。第4実施例においても、鋳造時に造形部9に応力が作用した場合、低剛性部320のうちの一部分(当接箇所)が取付孔4の内周面4aに当たる。繰り返し鋳造が行われると、低剛性部320の当接箇所が取付孔4の内周面4aに繰り返し当たり、図8に示すように、低剛性部320のうちの当接箇所が局所的に変形する(へこむ)。図8の例では、低剛性部320は、低剛性部320のうちの造形部9側(小径軸部14側)の端部を中心に変形する。本例では、低剛性部320が、その造形部9側の端部を中心に変形することにより、固定軸部316のうち、小径軸部14に近い部分が撓み易くなる。その結果、小径軸部14が撓み易くなる。なお、低剛性部320が変形した場合であっても、固定軸部316の先端側と取付孔4の内周面4aとの間の隙間は、固定軸部316の先端側によって引き続き封止される。一方、低剛性部320のうち、変形しなかった部分は、固定軸部316の外周面と取付孔4の内周面4aとの間の隙間を引き続き封止する。即ち、低剛性部320は、固定軸部316の変形を許容するとともに、隙間C4への溶湯等の浸入を防ぐ。
【0025】
第4実施例の鋳抜きピンは、固定軸部316の直径が、挿入部10の先端側から造形部9側(小径軸部14側)に向かって漸減している。そのため、上記の通り、固定軸部316のうち、小径軸部14に近い部分が撓み易くなる。その結果、小径軸部14が撓み易くなる。また、固定軸部316の先端側の部分の直径は、小径軸部14に近い部分に比べて大きいため、固定軸部316の先端側と取付孔4の内周面4aとの間の隙間C4を十分に小さくすることができる。その結果、固定軸部316の先端側と取付孔4の内周面4aとの間の隙間を十分に封止し得る。また、低剛性部320の厚みが、挿入部10の先端側から造形部9側(小径軸部14側)に向かって漸増している。そのため、固定軸部316のうち小径軸部14に近い部分は撓み易い。さらに、固定軸部316のうち小径軸部14に近い部分の外周の低剛性部320が厚いため、封止性を確実に確保できる。
【0026】
(第5実施例)
図9を参照して、第5実施例の金型について説明する。第5実施例の金型も、金型本体2と鋳抜きピン408と備える。第5実施例の鋳抜きピン408は、図9に示すように、その基本的構成は、第4実施例の鋳抜きピン308(図7参照)と共通する。第5実施例の鋳抜きピン408は、図9に示すように、低剛性部420の形状において第4実施例の鋳抜きピン308と相違する。第5実施例では、低剛性部420は、固定軸部16の周方向に沿って伸びている複数本の突条422によって形成されている。複数本の突条422は、第3実施例の突条222(図6参照)と同様のものである。なお、第5実施例の低剛性部420も、第4実施例の低剛性部320と同様に、その径方向の厚み(各突条422の高さ)が、挿入部10の先端側(図中左側)造形部9側に向かって漸増するように形成されている。
【0027】
また、第5実施例の固定軸部416は、第4実施例の固定軸部316(図7参照)と同様に、直径が、挿入部10の先端側から造形部9側に向かって漸減している。即ち、固定軸部416の直径は、小径軸部14に近づくにつれて小さくなっている。固定軸部416の挿入部10先端側には、低剛性部420が備えられていない。低剛性部420が備えられていない部分の固定軸部416の外径は、取付孔4の内径とほぼ同じ径(厳密には僅かに小さい径)に形成されている。固定軸部416の先端側は、固定軸部416の先端側と取付孔4の内周面4aとの間の隙間を封止する。即ち、固定軸部416の先端側と取付孔4の内周面4aとの間には、溶湯等が通過しない程度の微小な隙間C5が設けられている。また、低剛性部420の表面と取付孔4の内周面4aとの間にも、隙間C5が形成されている。即ち、第5実施例の低剛性部420も、固定軸部416と取付孔4の内周面4aとの間の隙間を封止する。
【0028】
第5実施例の金型を用いて製品を鋳造する際の鋳抜きピン8の動作について説明する。第5実施例においても、鋳造時に造形部9に応力が作用した場合、低剛性部420のうちの一部分(当接箇所)が取付孔4の内周面4aに当たる。繰り返し鋳造が行われると、低剛性部420の当接箇所が取付孔4の内周面4aに繰り返し当たり、低剛性部420のうちの当接箇所が局所的に変形する(へこむ)。具体的には、低剛性部420に含まれる複数本の突条422のうち、取付孔4の内周面4aに繰り返し当たる1本以上の突条422の先端が変形することにより、低剛性部420が変形する。図示は省略するが、第5実施例の低剛性部420は、低剛性部420のうちの造形部9側(小径軸部14側)の端部を中心に変形する。低剛性部420が、その造形部9側の端部を中心に変形することにより、固定軸部416のうち、小径軸部14に近い部分が撓み易くなる。その結果、小径軸部14が撓み易くなる。なお、低剛性部420が変形した場合であっても、固定軸部416の先端側と取付孔4の内周面4aとの間の隙間は、固定軸部416の先端側によって引き続き封止される。一方、低剛性部420のうち、変形しなかった部分は、固定軸部416の外周面と取付孔4の内周面4aとの間の隙間を引き続き封止する。即ち、低剛性部420は、固定軸部416の変形を許容するとともに、隙間C5への溶湯等の浸入を防ぐ。
【0029】
上述の通り、第5実施例の鋳抜きピン8も、第4実施例の鋳抜きピン8と同様に、固定軸部416の直径が、挿入部10の先端側から造形部9側(小径軸部14側)に向かって漸減しているため、鋳造時において、固定軸部416のうちの小径軸部14に近い部分が撓み易くなる。その結果、鋳造時に小径軸部14が撓み易くなる。また、固定軸部416のうちの挿入部10の先端側の部分の直径は、小径軸部14に近い部分に比べて大きいため、固定軸部416の先端側と取付孔4の内周面4aとの間の隙間C5を小さくすることができ、固定軸部416の先端側と取付孔4の内周面4aとの間の隙間を十分に封止し得る。また、低剛性部420の厚み(突条422の高さ)が、挿入部10の先端側から造形部9側(小径軸部14側)に向かって漸増しているため、固定軸部416のうち小径軸部14に近い部分は撓み易い。さらに、固定軸部416のうち小径軸部14に近い部分の外周の低剛性部420が厚い(突条422の高さが高い)ため、封止性を確実に確保できる。
【0030】
(第6実施例)
図10を参照して、第6実施例の金型について説明する。第6実施例の金型も、金型本体2と鋳抜きピン508と備える。第6実施例の鋳抜きピン508は、固定軸部516の形状において、第4実施例の鋳抜きピン308と共通するが、固定軸部516の外周に低剛性部が備えられていない点で第4実施例の鋳抜きピン308と相違する。即ち、第6実施例の固定軸部516も、第4実施例の固定軸部316(図7参照)と同様に、直径が、小径軸部14に近づくにつれて小さくなっている。固定軸部516の先端側と取付孔4の内周面4aとの間には、溶湯等が通過しない程度の微小な隙間C6が設けられている。従って、固定軸部316の先端側は、固定軸部316の先端側と取付孔4の内周面4aとの間の隙間を封止している。なお、上述の通り、第6実施例の固定軸部516の外周には、低剛性部が備えられていない。
【0031】
第6実施例の金型を用いて製品を鋳造する際の鋳抜きピン508の動作について説明する。第5実施例においても、鋳造時に造形部9に応力が作用した場合、固定軸部516の直径が、小径軸部14に近づくにつれて小さくなっているため、固定軸部516のうち、小径軸部14に近い部分が撓み易い。その結果、鋳造時において、小径軸部14も撓み易い。なお、固定軸部516の先端側と取付孔4の内周面4aとの間の隙間は、固定軸部516の先端側によって引き続き封止される。即ち、第6実施例の鋳抜きピン508も、固定軸部516の変形を許容するとともに、隙間C6への溶湯等の浸入を防ぐ。
【0032】
上記の通り、第6実施例の鋳抜きピン8の固定軸部516の直径は、小径軸部14に近づくにつれて小さくなっている。また、第6実施例の鋳抜きピン8は低剛性部を備えていない。そのため、固定軸部516のうちの造形部9側部分が、小径軸部14とともに撓み易くなる。その結果、応力に応じて造形部9が移動し易くなる。さらに、固定軸部16のうちの挿入部10先端側部分の直径は、造形部9側部分に比べて大きいため、固定軸部16外周面と取付孔4の内周面4aとの間の隙間の封止性も確保できる。
【0033】
上記の実施例の変形例を以下に列挙する。
(1)上記の各実施例では、鋳抜きピン8の嵌合部12は、その外径が取付孔4の内径とほぼ同じ径に形成された略円柱形の部分である。これに代えて、嵌合部12の外周面に低剛性部を備えてもよい。低剛性部は、第1、第2、第4実施例のように、金型本体や固定軸部と比較して剛性の低い部材(例えばチタン合金)による層によって形成しても、第3、第5実施例のように、複数本の突条によって形成してもよい。なお、低剛性部は、嵌合部と取付孔の内周面との間の隙間を封止する。この場合、嵌合部の外周の低剛性部が変形することにより、鋳造時に造形部に作用する応力を効果的に逃がすことができるとともに、低剛性部によって、嵌合部と取付孔の内周面との間の隙間を封止することによって、取付孔内に溶湯等が浸入することを防ぐことができる。
(2)第1、第2、第4実施例では、低剛性部20、120、320は、塑性材料であるチタン合金によって、固定軸部16、316の外周面に形成される層である。これに代えて、低剛性部20、120、320は、例えばシリコンゴム等の弾性材料によって、固定軸部16、316の外周面に形成される層であってもよい。この場合、鋳造が行われる毎に、低剛性部20、120、320は弾性変形する。その結果、固定軸部16、316のうち、小径軸部14に近い部分が撓み易くなる。
(3)第3、第5実施例において、突条222、422同士の間隔、及び、突条222、422の数は、図6、図9に図示したものに限られない。
(4)また、第3、第5実施例では、固定軸部16、416の外周には、固定軸部16、416の周方向に沿って伸びているリング状の突条222、422が複数本備えられている。これに代えて、固定軸部16、416の外周には、固定軸部16、416の周方向に沿って伸びている螺旋状の突条を備えてもよい。
【0034】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0035】
1:金型
2:金型本体
3:キャビティ
3a:キャビティ面
4:取付孔
4a:内周面
6:大径孔
8、108、208、308、408、508:鋳抜きピン
9:造形部
10:挿入部
12:嵌合部
14:小径軸部
16、316、416、516:固定軸部
20、120、220、320、420:低剛性部
222、422:突条

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造用の金型に備えられる鋳抜きピンであって、
前記金型のキャビティ面に開口された取付孔内に挿入される挿入部と、キャビティに露出する造形部とを備え、
前記挿入部は、
前記造形部に連なっており前記取付孔に嵌合する嵌合部と、
前記嵌合部に連なっており前記嵌合部よりも小径の小径軸部と、
前記小径軸部に連なっており前記小径軸部よりも大径の固定軸部と、
を備えており、
前記固定軸部の外周に、前記金型と比較して剛性が低い低剛性部が備えられ、前記低剛性部は、前記固定軸部の外周面と前記取付孔の内周面との間の隙間を封止することを特徴とする鋳抜きピン。
【請求項2】
前記固定軸部の直径が、前記挿入部の先端側から前記造形部側に向かって漸減していることを特徴とする請求項1に記載の鋳抜きピン。
【請求項3】
前記低剛性部の径方向の厚みが、前記挿入部の先端側から前記造形部側に向かって漸増していることを特徴とする請求項2に記載の鋳抜きピン。
【請求項4】
前記低剛性部は、前記固定軸部の材料と異なる材料で形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の鋳抜きピン。
【請求項5】
前記低剛性部は、前記固定軸部の周方向に沿って伸びているとともに、前記固定軸部の径方向外側に向けて先細りになっている突条によって形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の鋳抜きピン。
【請求項6】
鋳造用の金型に備えられる鋳抜きピンであって、
前記金型のキャビティ面に開口された取付孔内に挿入される挿入部と、キャビティに露出する造形部とを備え、
前記挿入部は、
前記造形部に連なっており前記取付孔に嵌合する嵌合部と、
前記嵌合部に連なっており前記嵌合部よりも小径の小径軸部と、
前記小径軸部に連なっており前記小径軸部よりも大径の固定軸部と、
を備えており、
前記固定軸部の直径が、前記挿入部の先端側から前記造形部側に向かって漸減していることを特徴とする鋳抜きピン。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の鋳抜きピンを備える金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−110909(P2012−110909A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260215(P2010−260215)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】