説明

鋳物製造用構造体

【課題】鋳物のガス欠陥を改善することができる鋳物製造用構造体を提供する。
【解決手段】有機繊維、無機繊維、平均粒子径50〜150μmの無機粒子(A)及びバインダー(a)を含有する構造体であって該構造体の表面に、金属酸化物、及び金属のケイ酸塩からなる群から選ばれる平均粒子径1〜100μmの耐火性無機粒子(B)、粘土鉱物、並びにバインダー(b)を含有する表面層を有する鋳物製造用構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳物の製造時に用いられる鋳型等の構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳物製造において、一般に、鋳物砂で内部にキャビティ(必要に応じて中子)を有する鋳型を成形するとともに、該キャビティに溶融金属を供給する受け口、湯口、湯道及び堰(以下、これらを注湯系ともいう。)を該キャビティに通じるように成形し、更に外部に通じるガス抜き、押湯或いは揚がりは、通常鋳物砂で鋳型とともに一般的に成形したり、注湯系を耐火材料である陶管等を用いて成形しているが、特許文献1等にみられるような有機繊維、無機繊維及びバインダーを含有する構造体からなる湯道(ランナー)を用いて鋳型を成形し、鋳物を製造する方法が提案されている。特に特許文献1では、有機繊維、無機繊維及びバインダーを含有する構造体であって、その表面に無機粒子を付着させ、鋳鋼におけるガス欠陥を改善する鋳物製造用構造体が開示されている。また、特許文献2には、バナジウム等の金属が表面に付着している鋳物製造用構造体が開示されている。また、特許文献3は土状黒鉛及び人造黒鉛から選ばれる1種以上の無機粒子、無機繊維及び熱硬化性樹脂を含有する、通気度が1〜500である鋳物製造用構造体が開示されている。特許文献4はジルコン粉末、水及び無水ケイ酸を含むシリカゾルを含むスラリーを鋳型の表面に塗布することを開示している。特許文献5は鱗状黒鉛とアラビアガム、フェノール樹脂又はリン酸アルミニウムを含む水溶性バインダーを含む塗液組成物による塗膜を表面に有する鋳物製造用構造体を開示している。
【0003】
【特許文献1】特開2007−21578号公報
【特許文献2】特開2008−142755号公報
【特許文献3】特開2009−195982号公報
【特許文献4】特開平8−257673号公報
【特許文献5】特開2010−142840号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1〜3は、ガス欠陥を改善するものであるが、更なる効果の向上が望まれる。
【0005】
本発明の課題は、鋳物の重大な欠陥の一つであるガス欠陥を改善することができる鋳物製造用構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、有機繊維、無機繊維、平均粒子径50〜150μmの無機粒子(A)及びバインダー(a)を含有する構造体であって、該構造体の表面に、金属酸化物、及び金属のケイ酸塩からなる群から選ばれる平均粒子径1〜100μmの耐火性無機粒子(B)、粘土鉱物、並びにバインダー(b)を含有する表面層を有する鋳物製造用構造体に関する。
【0007】
また、本発明は、有機繊維、無機繊維、平均粒子径50〜150μmの無機粒子(A)、バインダー(a)、及び分散媒を含有する原料スラリーから、抄造工程を有する成形法で構造体(I)を製造する工程と、構造体(I)の表面に、金属酸化物、及び金属のケイ酸塩からなる群から選ばれる平均粒子径1〜100μmの耐火性無機粒子(B)、粘土鉱物、並びにバインダー(b)を含有する表面層を形成する工程と、を有する鋳物製造用構造体の製造方法に関する。
【0008】
また、本発明は、上記鋳物製造用構造体を鋳物製造に用いる用途又は上記鋳物製造用構造体を用いて鋳物を製造する方法に関する。
【0009】
本発明は、鋳物の重大な欠陥の一つであるガス欠陥を改善することができる鋳物製造用構造体を提供する。構造体の表面または内面に表面層を形成し、熱分解ガスを遮蔽し、従来よりもガス欠陥を低減する。本発明に適切な比重、粒径を有する無機粒子を用いることにより構造体の成型性と通気度が良好になる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ガス欠陥を改善することができる鋳物製造用構造体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例及び比較例で用いた鋳型を示す概略図である。
【図2】実施例及び比較例で用いた通気度の測定方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の鋳物製造用構造体は、有機繊維、無機繊維、平均粒子径50〜150μmの無機粒子(A)〔以下、無機粒子(A)という場合もある〕及びバインダー(a)を含有する構造体〔以下、構造体(I)という場合もある〕の表面に、金属酸化物、及び金属のケイ酸塩からなる群から選ばれる平均粒子径1〜100μmの耐火性無機粒子(B)〔以下、無機粒子(B)という場合もある〕、粘土鉱物、並びにバインダー(b)を含有する表面層を形成することにより得られるものが好ましい。以下本発明を、その好ましい形態に基づき説明する。
【0013】
本発明に係る構造体(I)は、平均粒子径50〜150μmの無機粒子(A)を使用することで通気性が良好となり、鋳造時における鋳型内のガス圧力が低下し、溶融金属中に侵入するガスが減少する。更に該構造体(I)の表面に、平均粒子径1〜100μmの耐火性無機粒子(B)を含有する表面層を形成することで、鋳型内で発生したガス成分が溶融金属中へ侵入するのが抑制されるため、ガス欠陥が防止できると考えられる。また構造体(I)の通気性が向上したことで、構造体(I)を構成する材料間の空隙が増加し、無機粒子(B)を含有する表面層の構造体(I)への浸透が促進され、構造体(I)からの表面層の耐剥離性が向上すると考えられる。なお、以下、構造体(I)という場合、表面層を除く本発明の鋳物製造用構造体を意味する場合もある。
【0014】
本発明の構造体(I)は、有機繊維、無機繊維、無機粒子(A)、バインダー(a)、及び分散媒を含有するスラリー状組成物(以下、原料スラリーという場合がある)を調製し、抄造・脱水成形用の金型を用いる抄造工程で構造体(I)の中間成形体を抄造し、次に金型を用いる加熱・乾燥工程を経て得られるものが好ましい。また、成形型内に充填し、加熱成形する工程により得られるものも好ましい。以下、その好ましい実施形態に基づき説明する。
【0015】
<原料スラリー>
本発明に係る原料スラリーは、有機繊維、無機繊維、無機粒子(A)、バインダー、及び分散媒を含有する。
【0016】
(i)有機繊維
有機繊維は、構造体(I)において鋳造に用いられる前の状態ではその骨格を成し、鋳造時には溶融金属の熱によって、その一部若しくは全部が燃焼し、鋳物製造後の構造体内部にキャビティを形成する。
【0017】
有機繊維には、木材パルプの他、フィブリル化した合成繊維、再生繊維(例えばレーヨン繊維)等が挙げられ、それらが単独で又は二種以上混合されて用いられる。これらの中でも紙繊維が好ましい。その理由は、抄造により多様な形態に成形でき、脱水、乾燥された成形体の湿態強度特性が優れ、紙繊維の入手性が容易且つ安定的で、経済的である。また、紙繊維には、木材パルプの他、コットンパルプ、リンターパルプ、竹や藁その他の非木材パルプを用いることができる。バージンパルプ若しくは古紙パルプ(回収品)を単独又は二種以上を混合して用いることができる。入手の容易性、環境保護、製造費用の低減等の点から、古紙パルプが好ましい。
【0018】
有機繊維の平均繊維長は0.8〜2mmが好ましく、0.9〜1.8mmがより好ましく、0.9〜1.5mmが更に好ましい。有機繊維の平均繊維長が0.8mm以上であれば成形体の表面にひびが生じたり、衝撃強度等の機械物性に劣ったりすることがなく、また、2mm以下であれば肉厚むらが発生し難くなり、表面の平滑性も良好となる。
【0019】
有機繊維の含有量は、構造体の成形容易性及びガス発生量抑制効果の観点から、構造体(I)100質量部に対して1質量部以上40質量部未満が好ましく、2〜30質量部がより好ましく、5〜25質量部が更に好ましく、10〜20質量部がよりさらに好ましい。有機繊維の含有量が1質量部以上であれば構造体の骨格をなす有機繊維が充分であり、構造体の成形性が良好となり、脱水後や乾燥後の構造体の強度が充分となる。また、40質量部未満であれば鋳造時に燃焼ガスが大量に発生するのを防止しやすくなり、湯口から溶融金属の吹き戻しが発生したり、揚がり(鋳型の上部に設けた細い棒状のキャビティで、溶融金属が鋳型を満たしたのち鋳型上面に上昇する部分)から炎が出たりすることを防止しやすくできる。その結果、鋳造品のガス欠陥を低減でき、鋳物品質が良好となる。有機繊維種は構造体の成形性を向上させる観点及び供給性や経済性の観点から古紙(新聞紙等)を用いることが好ましい。
【0020】
(ii)無機繊維
無機繊維は、主として構造体において鋳造に用いられる前の状態ではその骨格をなし、鋳造時に溶融金属の熱によっても燃焼せずにその形状を維持する。特に、後述する有機バインダーが用いられた場合には、該無機繊維は溶融金属の熱による当該有機バインダーの熱分解に起因する熱収縮を抑えることができる。
【0021】
無機繊維には、炭素繊維、ロックウール等の人造鉱物繊維、セラミック繊維、天然鉱物繊維が挙げられ、それらが単独で又は二以上混合されて用いられる。これらの中でも、前記の熱収縮を抑える点から金属が溶融するような高温でも高強度を有する炭素繊維が好ましい。また、製造費用を抑える点からはロックウールを用いることが好ましい。
【0022】
無機繊維の平均繊維長は0.2〜10mmが好ましく、0.5〜8mm がより好ましく、2〜4mmが更に好ましい。無機繊維の平均繊維長が0.2mm以上であれば濾水が良好で構造体製造時に脱水不良が発生するおそれがない。また、肉厚の構造体(特に、ボトルのような中空立体形状物)の製造時に抄造性が良好となる。一方、無機繊維の平均繊維長が10mm以下であれば均等な肉厚の構造体が得られ、中空の構造体の製造が容易となる。
【0023】
無機繊維の含有量は、構造体(I)100質量部に対して1〜80質量部が好ましく、2〜40質量部がより好ましく5〜35質量部が更に好ましく、8〜20質量部がより更に好ましい。無機繊維の含有量が1質量部以上であれば特に有機バインダーを用いて製造された構造体の鋳造時の強度が充分で、当該バインダーの炭化に起因して構造体の収縮、割れ、壁面の剥離(構造体の壁面が内層と外層とに分離する現象)等が発生するおそれもない。さらに、構造体の一部あるいは鋳物砂が製品部(鋳物)に混入して欠陥となることを抑制しやすくなる。また、無機繊維の含有量が80質量部以下であれば特に抄造工程や脱水工程での構造体の成形性が良好となり、用いられる繊維による原料費用変動の低減につながる。
【0024】
有機繊維と無機繊維の質量比は、無機繊維が炭素繊維の場合には、無機繊維(炭素繊維)/有機繊維で0.1〜50が好ましく0.2〜30がより好ましく、0.5〜1.0が更に好ましい。無機繊維がロックウールの場合には、無機繊維(ロックウール)/有機繊維で10〜90が好ましく20〜80がより好ましい。これらの質量比が前記範囲の上限値以下であれば構造体の抄造、脱水成形における成形性が良好で、脱水後の構造体の強度が充分になって抄造型から取り出すときに構造体が割れたりするのを防止できる。また、この質量比が前記範囲の下限値以上であれば有機繊維や後述の有機バインダーの熱分解に起因して構造体が収縮することを抑制できる。
【0025】
また、無機繊維は、鋳物製造用構造体の熱間強度、鋳物製造用構造体の成形性を向上させる観点から、長軸/短軸比は、好ましくは1〜5000、より好ましくは10〜2000、更に好ましくは50〜1000である。
【0026】
(iii)無機粒子(A)
本発明に係るスラリー状組成物に用いられる平均粒子径50〜150μmの無機粒子(A)としては、黒鉛、雲母、シリカ、中空セラミックス、フライアッシュ等の耐火物の骨材粒子が挙げられる。無機粒子(A)は、これらを単独又は二以上を選択して用いることができる。なお、中空セラミックスとはフライアッシュに含まれる中空の粒子であって、フライアッシュを水を用いて浮遊選別することによって得ることができる。
【0027】
無機粒子(A)の平均粒子径は、構造体(I)の通気性を良くする観点から、50μm以上であり、60μm以上が好ましく、70μm以上がより好ましく、80μm以上が更に好ましい。また構造体(I)の成形性を向上させる観点から、150μm以下であり、130μm以下が好ましく、100μm以下が更に好ましく、90μm以下がより更に好ましい。無機粒子(A)の平均粒子径が50μm以上であれば、構造体(I)の通気性が良くなり、鋳造時の鋳型内のガス圧力が適度に減少する。また、構造体(I)の通気性が上がることで、構造体(I)の材料間の空隙が増加し、塗液組成物の構造体(I)への浸透性が向上し、構造体(I)から表面層が剥離しにくくなる。無機粒子(A)が150μm以下であれば、構造体(I)の表面に無機粒子(A)が露出しにくくなり、成形性が良くなる。
【0028】
無機粒子(A)の見掛け比重は原料分散性の観点から0.5〜2.2が好ましく、更に軽量化の観点から0.5〜1.5がより好ましく、0.5〜1が更に好ましい。見掛け比重とは、中空粒子の内部の中空部分の体積を中空粒子の体積の一部であると仮定した場合の中空粒子の比重であり、内部の中空部分が存在しない中実粒子の場合は真比重と一致する。無機粒子(A)の見掛け比重が前記範囲にあることで、分散媒に水を使用した場合の抄造工程における原料分散性が良好となる。また、成形して得られた構造体(I)の質量を軽量化できる為、取り扱い性が良くなる。なお、構造体(I)の組成は、無機粒子(A)の見掛け比重と共に嵩比重を考慮して決めることができる。嵩比重とは、粒子を一定容積の容器の中に、一定状態で入れたときに、容器内に入る粒子の量を測定し、単位体積あたりの質量を求めたものである。
【0029】
また無機粒子(A)は中空であっても良い。中空粒子を用いることで、見掛け比重の大きな無機粒子の見掛け比重を小さくすることができる。
【0030】
ここで、見掛け比重が1を超える場合には、無機粒子(A)の平均粒子径は下記の第1の測定方法で求められる平均粒子径が200μm以上の場合は、その値を平均粒子径とし、第1の測定方法で求められる平均粒子径が200μm未満の場合には、下記の第2の測定方法で測定することにより求めることができる。また、見掛け比重が1以下の場合は、第1の測定方法で測定する。
【0031】
〔第1の測定方法〕
JIS Z2601(1993)「鋳物砂の試験方法」附属書2に規定する方法に基づいて測定し、質量累積50%をもって平均粒子径とした。前記質量累積は、各ふるい面上の粒子を、JIS Z2601(1993)解説表2に示す「径の平均Dn(mm)」とみなして計算するものとする。
【0032】
〔第2の測定方法〕
【0033】
レーザー回折式粒度分布測定装置(堀場製作所製LA−920)を用いて測定された体積累積50%の平均粒子径である。分析条件は下記の通りである。
・測定方法:フロー法
・屈折率:各種無機粒子によって異なる(LA−920付属のマニュアル参照)
・分散媒:各種無機粒子に適したものを用いる
・分散方法:攪拌、内蔵超音波(22.5kHz)3分
・試料濃度:2mg/100cm3
【0034】
無機粒子(A)の含有量は、熱間強度を向上させる観点から、構造体(I)100質量部に対して10〜80質量部が好ましく、12〜75質量部がより好ましく、30〜70質量部が更に好ましい。
【0035】
(iv)バインダー(a)
本発明では、バインダー(a)は有機バインダー及び/又は無機バインダーを使用することができる。鋳造後の除去性に優れる観点から有機バインダーが好ましい。有機バインダーとしては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フラン樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。これらの中でも、可燃ガスの発生が少なく、燃焼抑制効果があり、熱分解(炭化)後における残炭率が高い等の点からフェノール樹脂を用いることが好ましい。
【0036】
フェノール樹脂としては、ノボラックフェノール樹脂、レゾールタイプ等のフェノール樹脂、尿素、メラミン、エポキシ等で変性した変性フェノール樹脂等が挙げられる。中でも、レゾールタイプのフェノール樹脂を用いる事で、酸、アミン等の硬化剤を必要とせず、構造体(I)成形時の臭気や、構造体(I)を鋳型として用いた場合の鋳物欠陥を低減することができるので、好ましい。
【0037】
ノボラックフェノール樹脂を使用した場合には、硬化剤を要する。該硬化剤は水に溶け易いため、構造体(I)の脱水後にその表面に塗工されるのが好ましい。硬化剤には、ヘキサメチレンテトラミン等を用いることが好ましい。
【0038】
また、無機バインダーとして燐酸系バインダー、珪酸塩等の水ガラス、石膏、硫酸塩、シリカ系バインダー、シリコン系バインダーを用いても良い。有機バインダーは単独又は二種以上混合して用いても良く、有機バインダーと無機バインダーと併用しても良い。
【0039】
バインダー(a)は、鋳込み前において抄造した部品を乾燥成形したときに有機繊維、無機繊維及び無機粒子(A)を強固に結合させる観点から、窒素雰囲気中で1000℃に於ける減量率(TG熱分析測定で)が、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下が望ましい。
【0040】
バインダー(a)の含有量は、強度保持を向上させ及びガス発生量抑制効果をより発現させる観点から、構造体(I)100質量部に対して5〜50質量部が好ましく、10〜40質量部がより好ましく、10〜30質量部が更に好ましい。
【0041】
鋳込みの際に、ガス発生量が増大する原因は、主として有機繊維及び有機バインダーであることから、両者の原料種及び配合量及び質量比率は重要である。
【0042】
バインダー(a)の含有量を適切にすることで、抄造後の乾燥成形時に、構造体の金型への貼り付きが防止でき構造体を金型から分離することが容易となり、硬化したバインダー(a)の金型表面への付着を低減でき、構造体の寸法精度を向上でき、金型表面の清掃頻度も低減できる。
【0043】
(v)分散媒
本発明に係る原料スラリーに用いられる分散媒としては、水の他、エタノール、メタノール、ジクロロメタン、アセトン、キシレンなどの溶剤が挙げられる。これらを単独又は二以上を混合して用いることができる。その中でも、取り扱い易さの点から、水が好ましい。
【0044】
(vi)その他の成分
本発明の構造体(I)には、有機繊維、無機繊維、無機粒子(A)、及びバインダー(a)の他に、紙力強化材を添加してもよい。紙力強化材は、構造体(I)の中間成形体にバインダー(a)を含浸させたときに(後述)、該中間成形体の膨潤を防止する作用がある。
【0045】
紙力強化材としては、ラテックス、アクリル系エマルジョン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリルアミド樹脂、ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂等が挙げられる。
【0046】
紙力強化材の使用量は、固形分として、構造体(I)100質量部に対して0.01〜2質量部、更に0.02〜1質量部が好ましい。紙力強化材の使用量が0.01質量部以上であれば前記の膨潤防止が充分で、添加した粉体が繊維に適切に定着する。一方、2質量部以下であれば構造体の成形体が金型に貼り付きにくくなる。
【0047】
本発明の構造体(I)には、さらに、凝集剤、着色剤等の成分を添加することもできる。
【0048】
構造体(I)の厚みは使用目的等に応じて設定することができるが、少なくとも溶融金属と接する部分の厚みは、0.2〜5mmが好ましく、0.4〜4mmがより好ましく、1.5〜2.5mmが更に好ましく、1.8〜2.1mmがより更に好ましい。この厚みが0.2mm以上であれば構造体としての強度が充分となり、鋳物砂の圧力に負けずに構造体に望まれる形状や機能を維持できる。また、この厚みが5mm以下であれば通気性が適切となり、原料費を低減でき、また成形時間も短縮でき、製造費を抑えることができる。
【0049】
構造体(I)は、表面層が形成される前の状態の圧縮強度は10N以上が好ましく、30N以上がより好ましい。圧縮強度が10N以上であれば、鋳物砂で押されて変形しにくく、構造体としての機能を維持できる。
【0050】
構造体(I)が水を含む原料スラリーを用いて製造された場合は、該構造体の使用前(鋳造に供せられる前)の含水率は10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましい。その理由は、含水率が低いほど、鋳造時の熱分解に起因するガス発生量が低減するからである。表面層が形成された後もこの水分率が好ましい。よって、本発明の鋳物製造用構造体の含水率は10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましい。
【0051】
構造体(I)の密度は3g/cm3以下が好ましく、2g/cm3以下がより好ましい。その理由は、密度が小さいと軽量になり、構造体の取り扱い作業や加工が容易になるからである。
【0052】
<構造体(I)の製造方法>
本発明に係る構造体(I)の製造方法は次のようにして行う。即ち、有機繊維、無機繊維、平均粒子径50〜150μmの無機粒子(A)、バインダー(a)、及び分散媒を含有する原料スラリーから、抄造工程を有する成形法で構造体(I)を製造する。
【0053】
次に、内部が中空の構造体を例として、本発明に係る構造体(I)の製造方法を、構造体(I)の成形性向上の観点から好ましい製造方法である抄造工程を有する製造方法について説明する。この製造方法では、バインダー(a)が熱硬化性樹脂であり、有機繊維、無機繊維、無機粒子(A)及び該バインダー(a)を含む繊維積層体を、100〜300℃で熱処理する工程を有することが好ましい。
【0054】
先ず、有機繊維、無機繊維、無機粒子(A)及びバインダー(a)を所定割合で含む原料スラリーを調製する。原料スラリーは、有機繊維、無機繊維、無機粒子(A)及びバインダー(a)を、所定の分散媒に分散させて調製する。なお、バインダー(a)は、原料スラリーには配合せず、成形体に含浸させてもよい。
【0055】
原料スラリー中の有機繊維及び無機繊維の合計含有量は、0.1〜4質量%が好ましく、0.2〜3質量%がより好ましく、0.5〜1.5質量%が更に好ましい。原料スラリー中の有機繊維及び無機繊維の合計含有量が4質量%以下であれば、成形体に肉厚むらが生じ難く、中空製品の場合には内面の表面性も良好となる。また、この合計含有量が0.1質量%以上であれば、成形体に局所的な薄肉部が発生することを抑制できる。また、原料スラリー中のバインダー(a)の含有量は0.1〜4質量%が好ましく、0.2〜3質量%がより好ましく、0.5〜1.0が更に好ましい。また、原料スラリー中の無機粒子(A)の含有量は0.1〜10質量%が好ましく、0.3〜8質量%がより好ましく、0.5〜5質量%が更に好ましく、0.8〜5質量%がより更に好ましい。
【0056】
原料スラリーには、必要に応じて、紙力強化材、凝集剤、防腐剤等の添加剤を添加することができる。
【0057】
次に、原料スラリーを用い、構造体(I)の中間成形体を抄造する。
【0058】
前記中間成形体の抄造工程では、例えば、2個で一組をなす割型を突き合わせることにより、当該中間成形体の外形に対応した形状のキャビティが内部に形成される抄造・脱水成形用の金型を用いる。そして、該金型の上部開口部から該キャビティ内に所定量の原料スラリーを加圧注入する。これにより、該キャビティ内を所定圧力に加圧する。各割型には、その外部とキャビティとを連通する複数の連通孔をそれぞれ設けておき、また、各割型の内面は、所定の大きさの網目を有するネットによってそれぞれ被覆しておく。原料スラリーの加圧注入には例えば圧送ポンプを用いる。前記原料スラリーの加圧注入の圧力は、0.01〜5 MPaが好ましく、0.01〜3MPaがより好ましく、0.1〜0.5MPaが更に好ましい。
【0059】
前述の通り、前記キャビティ内は加圧されているので、該原料スラリー中の分散媒は前記連通孔から金型の外へ排出される。一方、前記原料スラリー中の固形分が前記キャビティを被覆する前記ネットに堆積されて、該ネットに繊維積層体が均一に形成される。このようにして得られた繊維積層体は、有機繊維と無機繊維が複雑に絡み合い、且つこれらの間にバインダーが介在したものであるため、複雑な形状であっても乾燥成形後においても高い保形性が得られる。また、前記キャビティ内が加圧されるので、中空の中間成形体を成形する場合でも、原料スラリーがキャビティ内で流動して原料スラリーが撹拌される。そのため、キャビティー内のスラリー濃度は均一化され、前記ネットに繊維積層体が均一に堆積する。
【0060】
繊維積層体が形成された後、前記原料スラリーの加圧注入を停止し、前記キャビティ内に空気を圧入して該繊維積層体を加圧・脱水する。その後、空気の圧入を停止し、前記キャビティ内は前記連通孔を通して吸引し、弾性を有し伸縮自在で且つ中空状をなす中子(弾性中子)を該キャビティ内に挿入する。中子は、引張強度、反発弾性及び伸縮性等に優れたウレタン、フッ素系ゴム、シリコーン系ゴム又はエラストマー等によって形成されていることが好ましい。
【0061】
次に、前記キャビティ内に挿入された前記弾性中子内に、加圧流体を供給して弾性中子を膨張させ、膨張した弾性中子により前記繊維積層体を該キャビティの内面に押圧する。これにより、前記繊維積層体は、前記キャビティの内面に押し付けられ、当該繊維積層体の外表面に当該キャビティの内面形状が転写されると共に該繊維積層体の脱水が進行する。
【0062】
前記弾性中子を膨張させるために用いられる前記加圧流体には、例えば圧縮空気(加熱空気)、油(加熱油)、その他各種の液が使用される。また、加圧流体の供給圧力は、成形体の製造効率を考慮すると0.01〜5MPaが好ましく、効率良く製造する観点から0.1〜3MPaがより好ましく、0.1〜0.5MPaが更に好ましい。0.01MPa以上であると繊維積層体の乾燥効率が良好で、表面性及び転写性も充分となり、5MPa以下であれば良好な効果が得られ、装置を小型化できる。
【0063】
このように、前記繊維積層体をその内部からキャビティの内面に押し付けるため、キャビティの内面の形状が複雑であっても、その内面形状が精度良く前記繊維積層体の外表面に転写される。また、製造される成形体が複雑な形状であっても、各部分の貼り合わせ工程が不要なので、最終的に得られる部品には貼り合わせによるつなぎ目及び肉厚部は存在しない。
【0064】
前記繊維積層体の外表面に前記キャビティの内面形状が充分に転写され且つ該繊維積層体を所定の含水率まで脱水できたら、前記弾性中子内の加圧流体を抜き、弾性中子を元の大きさまで自動的に収縮させる。そして、縮んだ弾性中子をキャビティ内より取出し、更に前記金型を開いて所定の含水率を有する湿潤した状態の繊維積層体を取り出す。前述の弾性中子を用いた繊維積層体の押圧・脱水を、省略し、キャビティ内への空気の圧入による加圧・脱水のみによって繊維積層体を脱水成形することもできる。
【0065】
脱水成形された前記繊維積層体は、次に加熱・乾燥工程に移される。
【0066】
加熱・乾燥工程では、前記中間成形体の外形に対応した形状のキャビティが形成される乾燥成形用の金型を用いる。そして、該金型を所定温度に加熱し、該金型内に脱水成形された湿潤状態の前記繊維積層体を装填する。
【0067】
次に、前記抄造工程で用いた前記弾性中子と同様の弾性中子を前記繊維積層体内に挿入し、該弾性中子内に加圧流体を供給して該弾性中子を膨張させ、膨張した該弾性中子で前記繊維積層体を前記キャビティの内面に押圧する。フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂等によって表面改質された弾性中子を用いるのが好ましい。加圧流体の供給圧力は、前記脱水工程と同様の圧力とすることが好ましい。この状態下に、繊維積層体を加熱・乾燥し、前記中間成形体を乾燥成形する。
【0068】
乾燥成形用の前記金型の加熱温度(金型温度)は、表面性を向上させる観点や乾燥時間を短縮する観点から100〜300℃が好ましく、150〜250℃ がより好ましく、190〜240℃が更に好ましい。熱処理時間は、加熱温度によって変わるため一概には言えないが、品質及び生産性を向上させる等の観点から、0.5分〜30分が好ましく、1〜10分がより好ましい。加熱温度が300℃以下であれば中間成形体の表面性が良好であり、また、100℃以上であれば中間成形体の乾燥時間も短縮できる。
【0069】
前記繊維積層体が、充分に乾燥したら、前記弾性中子内の前記加圧流体を抜き、該中子を縮ませて当該繊維積層体から取り出す。そして、前記金型を開いて、前記中間成形体を取り出す。この中間成形体は熱硬化性樹脂が熱処理により硬化し、構造体(I)として使用される。
【0070】
このようにして得られる構造体(I)は、弾性中子によって押圧されているため、内表面及び外表面の平滑性が高い。このため、成形精度も高く、嵌合部やネジ部を有する場合にも精度の高い構造体が得られる。したがって、これらの嵌合部やネジ部で連結された構造体は溶融金属の漏れを確実に抑えることができ、その中を溶融金属がスムーズに流れる
。また、鋳造時の該構造体の熱収縮率も5%未満となるため、構造体のひび割れや変形等による溶融金属の漏れを問題なく防ぐことができる。
【0071】
得られた中間成形体には、さらにバインダー(a)を部分的又は全体に含浸させることができる。一方、中間成形体にバインダー(a)を含浸させ、原料スラリー中に含ませない場合には原料スラリーや白水の処理が簡便になる。バインダー(a)として熱硬化性バインダーを用いた場合、中間成形体を所定温度で加熱乾燥し、熱硬化性バインダーを熱硬化させて構造体(I)の製造を完了する。
【0072】
<鋳物製造用構造体>
本発明の鋳物製造用構造体は、構造体(I)〔好ましくは予め100〜300℃、更に150〜250℃で熱処理した構造体(I)〕の表面に表面層を形成する工程を有する製造方法により製造できる。構造体(I)は前記の製法で得られたものが好ましい。従って、本発明の鋳物製造用構造体の製造方法は、有機繊維、無機繊維、無機粒子(A)、バインダー(a)、及び分散媒、好ましくは更に、凝集剤、及び紙力強化剤を含有する原料スラリーから、抄造工程を有する成形法で構造体(I)を製造する工程と、構造体(I)〔好ましくは予め100〜300℃、更に150〜250℃で熱処理した構造体(I)〕の表面に無機粒子(B)、粘土鉱物、及びバインダー(b)を含有する表面層を形成する工程と、を有することが好ましい。抄造工程を有する成形方法で構造体(I)を製造する工程の後に表面層を形成する工程を有することが好ましい。
【0073】
本発明の鋳物製造用構造体は、表面層中、無機粒子(B)の割合が50質量%以上、更に60質量%以上、更に70質量%以上、より更に90質量%以上であることが好ましい。
【0074】
本発明の鋳物製造用構造体は、少なくとも構造体(I)の溶融金属と接する部分の表面に前記表面層を形成することが好ましい。即ち、構造体(I)の表面に表面層が形成された状態としては、鋳物のガス欠陥を改善する観点から、表面層が溶融金属に接する側に存在することが好ましい。構造体(I)の溶融金属に接する側の表面の50%以上、更に80%以上、より更に90%以上、より更に実質100%が当該表面層で被覆されていることが好ましい。
【0075】
構造体(I)表面の封孔性、構造体(I)と表面層の密着性などの観点から、無機粒子(B)の平均粒子径は1〜100μmであり、3〜80μmが好ましく、3〜70μmがより好ましく、3〜50μmが更に好ましく、5〜40μmが更により好ましく、10〜30μmがより更に好ましい。なお、無機粒子(B)の平均粒子径は、前述の無機粒子(A)の平均粒子径の測定法、特に第2の測定法により求めることができる。
【0076】
本発明では、無機粒子(A)の平均粒子径と耐火性無機粒子(B)の平均粒子径の比が、〔無機粒子(A)の平均粒子径〕/〔耐火性無機粒子(B)の平均粒子径〕で1〜35、更に2〜30、より更に2〜20、より更に3〜6であることが、構造体(I)表面の封孔性の観点から好ましい。
【0077】
耐火性無機粒子(B)について、耐火性であるとは、融点1500℃以上、好ましくは1600℃以上、より好ましくは1700℃以上であることをいう。また、耐火性無機粒子(B)は、金属酸化物、及び金属のケイ酸塩からなる群から選ばれるものが挙げられる。耐火性無機粒子(B)としては、ムライト、ジルコン、ジルコニア、アルミナ、オリビン、ショースピネル、マグネシア、クロマイト等の耐火性無機粒子が挙げられる。鋳物のガス欠陥を改善する観点から、ジルコンが好ましい。耐火性無機粒子(B)は、これらを単独又は二以上を選択して用いることができる。鋳鉄(1.7〜6.67%C)よりも炭素含有量の低い鋳鋼(0.03〜1.7%C)では、炭素質以外の骨材粒子を用いることが好ましく、融点が高く、溶融金属との濡れ性が低いジルコンを用いることが、より好ましい。
【0078】
表面層の厚み(乾燥後の構造体(I)の表面に形成されている表面層の肉厚)は、鋳物品質であるガス欠陥の低減効果を発現させ及び表面層の垂れ性能を向上させる観点から、1〜1000μmが好ましく、更に5〜900μm、より更に20〜800μm、より更に400〜600μmが好ましい。なお、表面層の厚みは、後述の実施例記載の測定法により求めることができる。
【0079】
また、表面層の形成方法として、無機粒子を(B)主成分とする分散液(塗液組成物)を用いた塗布、例えば刷毛塗布、スプレー塗布、静電塗装、焼付塗装、ぶっ掛け塗布、浸漬塗布、タンポ塗布、等の方法が挙げられるが、表面層の厚みの均一性、効率的及び経済的に鋭意検討を行った結果、浸漬塗布が最も好ましい。浸漬塗布では、中空中子のように中空部を有する構造体であって中空部側に表面層を形成することが好ましい場合は、中空部に分散液(塗液組成物)を充填、接触させることで表面層を形成する(以下、方法1という)ことができる。方法1を、中空部が開放状態にある構造体(I)について行う場合は、例えば、中空部の少なくとも一部の開放部分を封鎖して中空部に分散液(塗液組成物)を保持できる状態として、無機粒子(B)を主成分とする分散液(塗液組成物)を、好ましくは分散液が中空部を満たすように、流し込んで、好ましくは所定時間静置後、塗液組成物を排出することで、表面層を形成することができる。いずれの塗布方法においても、塗液組成物の温度は5〜40℃の範囲が好ましく、更に好ましくは15〜30℃、更に好ましくは20〜30℃の範囲で且つ恒温になるように設備設定することが最も好ましい。また、浸漬塗布、中でも方法1では、生産性の面から静置時間は1〜60秒の範囲が好ましく、バッチ又は連続的に行うことができる。なお、いずれの方法においても、表面層の膜厚を調整するために、無機粒子(B)を主成分とする分散液を塗布した構造体(I)に、振動テーブル等で振動を与えることができる。このように、構造体(I)〔好ましくは予め100〜300℃、更に150〜250℃で熱処理した構造体(I)〕表面に無機粒子(B)を付着したものを、より強固な付着状態とするには乾燥工程を経ることが好ましい。乾燥方法としてヒーターによる熱風乾燥、遠赤外乾燥、マイクロ波乾燥、過熱蒸気乾燥、真空乾燥等が挙げられるが、限定されるものではない。熱風乾燥機を用いて乾燥させる場合は乾燥炉内中心部の乾燥温度については100〜500℃の範囲が好ましく、更に有機物やバインダーの熱分解による影響を低減させる観点及び発火による安全性を確保する観点から105〜300℃の範囲が最も好ましい。なお、無機粒子(B)を主成分とする分散液の分散媒としては、水、アルコール等が挙げられ、水が好ましい。また、分散媒は無機粒子(B)を主成分とする分散液中の固形分100質量部に対して、5〜100質量部、更に10〜80質量部、より更に10〜20質量部用いられることが好ましい。
【0080】
表面層は、熱間強度向上の観点と塗布時の粘度を付与する観点から、更に粘土鉱物を含有する。粘土鉱物を、表面層を得るための分散液(塗液組成物)に配合することで、分散液に適度な粘度を付与し、分散液中での原料の沈降防止、原料分散性が向上する。粘土鉱物としては、層状ケイ酸塩鉱物、複鎖構造型鉱物などが挙げられ、これらは天然、合成を問わない。層状ケイ酸塩鉱物としては、スメクタイト属、カオリン属、イライト属に属する粘土鉱物、例えばベントナイト、スメクタイト、ヘクトライト、活性白土、木節粘土、ゼオライト等が挙げられる。複鎖構造型鉱物としては、アタパルジャイト、セピオライト、パリゴルスカイト等が挙げられる。熱間強度向上の観点や塗布時の粘度を確保する観点から好ましくは、アタパルジャイト、セピオライト、ベントナイト、スメクタイトより選ばれる一種以上が挙げられる。より好ましくは、アタパルジャイト、セピオライト群より選ばれる一種以上が挙げられる。なお、粘土鉱物は、層状構造又は複鎖構造である点で、例えば、六方最密充填構造を主に含み、通常、層状構造又は複鎖構造をとらない無機粒子(B)とは区別される。粘土鉱物は、無機粒子(B)100質量部に対して、0.5〜30質量部、更に0.5〜20質量部、より更に1〜2質量部用いられることが好ましい。この比率において粘土鉱物が0.5質量部以上であれば、分散液に適度な粘度を付与することができ、分散液中での原料沈降・浮遊を防止できる。
【0081】
表面層は、熱間強度向上の観点から、更にバインダー(b)を含有する。表面層を形成する際にバインダー(b)を用いることが、鋳物製造用構造体の常温強度及び耐熱性を向上させる観点から好ましい。バインダー(b)としては、有機バインダーと無機バインダーを使用することができる。有機バインダーとしては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フラン樹脂、水溶性アルキド樹脂、水溶性ブチラール樹脂、ポリビニルアルコール、水溶性アクリル樹脂、水溶性多糖類、酢酸ビニル樹脂又はその共重合体などが挙げられる。無機バインダーとしては、硫酸塩、珪酸塩、燐酸塩、リチウムシリケート、ジルコニアゾル、コロイダルシリカ(シリカゾル)、アルミナゾルなど各種ゾルなどが挙げられる。好ましくは無機バインダーであり、無機バインダーの中でもより好ましくは、コロイダルシリカ(シリカゾル)及びリン酸アルミニウムからなる群より選ばれる一種以上、更に好ましくはコロイダルシリカ(シリカゾル)が挙げられる。前記バインダーは単独又は二種以上混合して用いても良く、有機バインダーと無機バインダーとを併用しても良い。前記バインダー(b)は、無機粒子(B)100質量部に対して、有効分換算で、1〜50質量部、更に1〜40質量部、より更に3〜7質量部用いられることが好ましい。
【0082】
これら粘土鉱物及び/又はバインダー(b)は、表面層を均一に付着させる観点から無機粒子(B)を主成分とする分散液(塗液組成物)の調製時に配合して用いることが好ましい。従って、本発明の鋳物製造用構造体の製造方法は、無機粒子(B)及び粘土鉱物を含む塗液組成物を前記構造体(I)の表面に塗布する工程を有することが好ましい。また、本発明の鋳物製造用構造体の製造方法は、無機粒子(B)及びバインダー(b)を含む塗液組成物を前記構造体(I)の表面に塗布する工程を有することが好ましい。また、本発明の鋳物製造用構造体の製造方法は、無機粒子(B)、粘土鉱物及びバインダー(b)を含む塗液組成物を前記構造体(I)の表面に塗布する工程を有することが、より好ましい。
【0083】
本発明の鋳物製造用構造体の製造に用いられる塗液組成物は、前記で述べたように、無機粒子(B)、粘土鉱物及びバインダー等の固形分材料に水やアルコール等の分散媒を添加して、攪拌してスラリー状に製造する。得られた塗液組成物は、水やアルコール等の分散媒で適度に希釈して構造体(I)に前記した手段で塗布する。その後、乾燥工程を経て表面層が構造体(I)の表面に形成され、本発明の鋳物製造用構造体が得られる。
【0084】
本発明の鋳物製造用構造体は、鋳物砂内及びバックアップ粒子(鋳物砂の替わりにショット玉やその他の粒子)内に配し、湯道(注湯系)や揚がり湯道として使用することができ、鋳造欠陥であるガス欠陥を改善する鋳物を製造することができ、特にガス欠陥の発生し易い鋳鋼鋳物の製造に適している。
【0085】
本発明では、構造体(I)に用いる無機粒子(A)と構造体(I)の表面に形成する表面層中の無機粒子(B)の平均粒子径をそれぞれ特定範囲とすることにより、鋳物のガス欠陥を改善できる鋳物製造用構造体を提供することができる。本発明により、鋳物のガス欠陥が改善される理由としては、無機粒子(B)が適切な平均粒子径を有し且つ耐火性であることにより、表面層、好ましくは構造体が溶融金属と接する面に形成されている表面層が鋳造時に流失することなく維持され、溶融金属側へ侵入するガスを遮蔽できること、その一方で、構造体(I)中の無機粒子(A)が適切な平均粒子径を有することにより、溶融金属に接しない面から鋳型外へガスを効率よく排出できることによるものと推定される。
【0086】
本発明の鋳物製造用構造体は、有機繊維、無機繊維、無機粒子(A)及びバインダー(a)の質量の合計の割合が、鋳物製造用構造体(表面層が形成された構造体)の質量基準で、10質量%以上、更に20質量%以上、より更に30質量%以上、より更に40質量%以上であることが好ましい。また、鋳物製造用構造体(表面層が形成された構造体)の質量基準で、80質量%以下、更に70質量%以下、より更に65質量%以下、より更に60質量%以下であることが好ましい。
【0087】
また、本発明の鋳物製造用構造体において、有機繊維、無機繊維、無機粒子(A)及びバインダー(a)の含有量は、それぞれ、以下の範囲が好ましい。
有機繊維:1〜40質量%、更に2〜30質量%、より更に3〜25質量%、より更に4〜12質量%
無機繊維:1〜60質量%、更に2〜50質量%、より更に3〜40質量%、より更に3.5〜20質量%、より更に3.5〜12質量%
無機粒子(A):1〜70質量%、更に2〜60質量%、より更に5〜50質量%、より更に10〜45質量%
バインダー(a):1〜60質量%、更に2〜50質量%、より更に3〜40質量%、より更に5〜25質量%、より更に6〜16質量%
【0088】
また、本発明の鋳物製造用構造体は、表面層の割合が、鋳物製造用構造体(表面層が形成された構造体)の質量基準で10〜80質量%、更に20〜80質量%、更に30〜70質量%、より更に38〜70質量%、より更に38〜60質量%であることが好ましい。
【0089】
また、表面層において、鋳物のガス欠陥を改善する観点から、耐火性無機粒子(B)が、ジルコンであり、粘土鉱物がアタパルジャイトであり、バインダー(b)がコロイダルシリカであることが好ましい。
【0090】
本発明の鋳物製造用構造体の用途として、前述したキャビティを有する鋳型に又は発泡スチロール模型を使用する、所謂フルモールド鋳造法、或いは粘結剤を使用しない消失模型鋳造法或いは鋳型とする主型や中子等の鋳造分野或いは耐熱性等を要求される他分野で本発明の構造体を使用することができ、湯口用ランナーや揚がり用ランナーあるいは中子用として好適である。
【0091】
表面層が形成された本発明の鋳物製造用構造体の通気度は、溶融金属側へ侵入するガスの遮蔽効果を向上させる観点から、好ましくは1以下、より好ましくは0.2以下、更に好ましくは0.12以下である。
【0092】
また、表面層が形成される前の構造体(I)の通気度は、好ましくは0.1〜500、より好ましくは0.3〜100、更に0.4〜10、更により好ましくは0.5〜1である。本発明の鋳物製造用構造体において、表面層により遮蔽されたガスを、表面層の形成されていない面から効率的に排出できる観点から、構造体(I)の通気度は前記範囲が好ましい。
【0093】
鋳物製造用構造体及び構造体(I)の通気度は、実施例記載の測定方法により求めることができる。
【0094】
本発明の鋳物製造用構造体の厚みは、その用途、及び構造体における部位に応じて適宜設定することができるが、溶融金属と接する部分における厚みは、好ましくは0.2〜5mm、より好ましくは0.2〜4mm、更に好ましくは0.4〜4mm、より更に好ましくは2〜3mmである。前記厚みが前記下限値以上であれば、鋳造時に鋳物製造用構造体の形状機能が維持でき、前記上限値以下であれば、鋳造時における熱分解ガス発生量が低減され、鋳物の欠陥が発生しにくくなる。
【0095】
<鋳物の製造方法>
次に、本発明の鋳物製造用構造体を用いた鋳物の製造方法を、その好ましい実施形態に基づいて説明する。本実施形態の鋳物の製造方法では、例えば前述のようにして得られた本発明の鋳物製造用構造体を鋳物砂内の所定位置に埋設して造型する。鋳物砂には、従来からこの種の鋳物の製造に用いられている通常のものを制限なく用いることができる。
【0096】
そして、注湯口から溶融金属を注ぎ入れ、鋳造を行う。このとき、本発明の鋳物製造用構造体は、熱間強度が維持され、熱分解に伴う熱収縮が小さいため、各鋳物製造用構造体のひび割れや、鋳物製造用構造体自体の破損が抑制され、溶融金属の鋳物製造用構造体への差込みや鋳物砂などの付着も生じにくい。
【0097】
鋳造後、所定の温度まで冷却し、鋳枠を解体して鋳物砂を取り除き、さらにブラスト処理によって鋳物製造用構造体を取り除いて鋳物を露呈させる。この時、前記熱硬化性樹脂が熱分解しているため、鋳物製造用構造体の除去処理は容易である。その後必要に応じて鋳物にトリミング処理等の後処理を施して鋳物の製造を完了する。
【実施例】
【0098】
次の実施例は本発明の実施について述べる。実施例は本発明の例示について述べるものであり、本発明を限定するためではない。
【0099】
〔実施例1〕
下記原料スラリーを用いて繊維積層体を抄造した後、該繊維積層体を脱水、乾燥し、図1(図中の寸法はmmである)に示す湯口用のランナー1(ストレート管11、12とエルボ管14、16、構造体(I)に相当)を得た。なお、構造体(I)の組成は表1に示す通りとした。
【0100】
<原料スラリーの調製>
下記配合の有機繊維と無機繊維を水に分散させて約1質量%(水性スラリーに対し、有機繊維及び無機繊維の合計質量が1質量%)の水性スラリーを調製した後、該スラリーに無機粒子(A)とバインダー(a)と下記凝集剤、紙力強化剤を表1記載の構造体(I)を得ることができるように配合し、それぞれの原料スラリーを調製した。なお、有機繊維、無機繊維、無機粒子(A)及びバインダー(a)の合計を100質量部(固形分換算)として、凝集剤は0.625質量部、紙力強化剤は0.025質量部(固形分換算)となるようにスラリーに配合した。尚、表1に示すそれぞれの成分は、下記の通りである。
【0101】
<有機繊維>
・有機繊維:新聞古紙(平均繊維長1mm、フリーネス150cc)
【0102】
<無機繊維>
・無機繊維:炭素繊維〔東レ(株)製、商品名「トレカチョップ」、繊維長3mm、繊維幅11μm(長軸/短軸比=273)〕
【0103】
<無機粒子(A)>
・球状シリカ:〔(株)マイクロン製、「S85−P」、平均粒子径80μm、見掛け比重2.2、嵩比重1.15〕
【0104】
<バインダー(a)>
・フェノール樹脂:〔エア・ウオーター(株)製、商品名「ベルパールS−890」(レゾールタイプ)、窒素雰囲気中で1000℃における減量率44%(TG熱分析測定)〕
【0105】
<凝集剤>
・凝集剤:ポリアミドエピクロロヒドリン(星光PMC(株)製、商品名WS-4002)
【0106】
<紙力強化剤>
・紙力強化剤:カルボキシメチルセルロースの1質量%水溶液
【0107】
<分散媒>
・分散媒:水
【0108】
<抄造・脱水工程>
抄造型として、前記の構造体(ストレート管とエルボ管)に対応するキャビティ形成面を有する金型を用いた。該金型のキャビティ形成面には所定の目開きのネットが配され、キャビティ形成面と外部とを連通する多数の連通孔が形成されている。なお、該金型は、一対の割型からなる。前記原料スラリーをポンプで循環させ、前記抄紙型内に所定量のスラリーを加圧注入する一方で、前記連通孔を通してスラリー中の水を除去し、所定の繊維積層体を前記ネットの表面に堆積させた。所定量の原料スラリーの注入が完了したら、加圧エアーを抄造型内に注入し、該繊維積層体を脱水した。加圧エアーの圧力は、0.2MPa、脱水に要した時間は約30秒であった。
【0109】
<乾燥工程>
乾燥型として、前記の構造体(ストレート管とエルボ管)に対応するキャビティ形成面を有する金型を用いた。当該金型にはキャビティ形成面と外部とを連通する多数の連通孔が形成されている。なお、該金型は一対の割型からなる。前記繊維積層体を抄造型から取り出し、それを200℃に加熱された乾燥型に移載した。そして、乾燥型の上方開口部から袋状の弾性中子を挿入し、密閉された乾燥型内で当該弾性中子内に加圧空気(0.2MPa)を該弾性中子に注入して該弾性中子を膨らませ、該弾性中子で前記繊維積層体を乾燥型の内面に押しつけて、当該乾燥型の内面形状を該繊維積層体表面に転写させつつ乾燥させた。加圧乾燥(60秒間)を行った後、弾性中子内の加圧空気を抜いて当該弾性中子を収縮させて乾燥型内から取り出し、成形体を乾燥型内から取り出して冷却し、熱硬化された構造体(I)を得た。
【0110】
<無機粒子(B)を主成分とする塗液組成物の調製>
無機粒子(B)、粘土鉱物、バインダー(b)の組成及び配合率(質量比率)が表1に示すような固形分材料と、水とを攪拌機にて15分間攪拌し、無機粒子(B)を主成分とする塗液組成物を得た。尚、表1に示すそれぞれの成分は、下記の通りである。また、水の量は、表1記載の固形分濃度(質量%、表中「%」で示す)に調製する量である。
【0111】
<無機粒子(B)>
・ジルコン:ハクスイテック(株)製、商品名「ジルコシルNo1」、平均粒子径20μm
【0112】
<粘土鉱物>
・アタパルジャイト:林化成(株)製、商品名「アタゲル50」
【0113】
<バインダー(b)>
・コロイダルシリカ:日産化学(株)製、商品名「snowtex50」、平均粒子径25nm
【0114】
<表面層の形成>
前記熱硬化された構造体(ストレート管とエルボ管)をそれぞれ片方の開放末端を封鎖した状態とし、それらの内部に、上記で調製した塗液組成物を上端まで流し込んで、10秒間静置後、上下逆転し、塗液組成物を排出した。自然乾燥した後、200℃で30分間、熱風乾燥機で乾燥させ、表面層が形成された鋳物製造用構造体を得た。
【0115】
<構造体(I)及び鋳物製造用構造体の通気度測定方法>
JIS Z2601(1993)「鋳物砂の試験方法」に基づいて規定された、「消失模型用塗型剤の標準試験方法」(平成8年3月 社団法人日本鋳造工学会関西支部)の「5.通気度測定法」に従い、当該刊行物(24ページ図5−2)に記載された通気度測定装置(コンプレッサー空気通気方式)と同等原理の装置を用いて測定した。通気度Pは「P=(h/(a×p))×v」で表わされる。式中はそれぞれ、h:試験片厚み(cm)、a:試験片断面積(cm2)、p:通気抵抗(cmH2O)、v:空気の流量(cm3/min)である。
【0116】
ここで、試験片厚みは、構造体(I)又は鋳物製造用構造体(表面層が形成された鋳物製造用構造体)の肉厚すなわち「(外径−内径)/2」とし、試験片断面積は「内径×円周率×長さ」とした。
【0117】
測定に際して、図2に示すとおり通気度試験器には、前記湯口用ランナーのストレート管又はエルボ管(図2中、測定サンプルと表示)の中空部に漏れなく接続できるようゴムチューブ及び接続冶具(パッキン)を取り付け、更に前記ストレート管又はエルボ管の中空部の片端に前記接続冶具を隙間無く接続し、他方の片端を空気の漏れを防ぐためパッキンで塞ぎ、測定を行った。本例では、2つのストレート管と2つのエルボ管とからなる湯口用ランナーを用いたため、これら4つの構成要素についてそれぞれ通気度を測定し、その平均値を構造体(I)又は鋳物製造用構造体の通気度とした。
【0118】
<表面層の厚み測定>
構造体(I)の表面に形成された表面層の厚みは、表面層形成後の鋳物製造用構造体の厚みと表面層形成前の構造体(I)の厚みを測定し、その差分から求めた。ここで、表面層形成前の構造体(I)の厚みは、目印をつけた任意の10箇所をダイヤルキャリパゲージ〔株式会社ミツトヨ製、コードNo.209−611、符号DCGO−50RL〕で測定しその平均値をとって求めたものであり、表面層形成後の鋳物製造用構造体の厚みは前記構造体(I)で目印をつけた任意の10箇所に相当する部位をダイヤルキャリパゲージ〔株式会社ミツトヨ製、コードNo.209−611、符号DCGO−50RL〕で測定しその平均値をとって求めたものである。
【0119】
<表面層の剥離性測定>
構造体(I)の表面に形成された表面層の剥離性は、表面層形成後の鋳物製造用構造体表面をプラスチックカッターで引掻き、84マス作製し、84マス中における表面層の剥離数を測定した。測定は6つの異なる構造体について行い、剥離数の平均を求めた。表中、「表面層の剥離数」として結果を示した。
【0120】
<鋳造及び鋳物品質の評価>
図1に示すように、上記で得られた鋳物製造用構造体を鋳造用ランナー1(湯道)としてドーナツ状鋳物部品になるキャビティ部2(形状は外径240mm、内径140mm、厚み30mm、揚がり付)に連通し、水溶性フェノール樹脂鋳型を造型した。
【0121】
ここで、鋳造用ランナー1は、鋳型の上型(図中、鋳型見切り面の上方)に埋設されたストレート管11(直径φ50mm、長さ150mm)と、鋳型の下型(図中、鋳型見切り面の下方)に埋設された複合部材とからなり、該複合部材は、ストレート管12(内径φ50mm、長さ30mm)とエルボ管14(内径φ50mm、縦70mm、横90mm)とを嵌合部材13(内径φ53mm、長さ45mm)を用いて連結し、エルボ管14の他端とエルボ管16(内径φ50mm、縦70mm、横110mm)とを嵌合部材15(内径φ53mm、長さ45mm)を用いて連結してなるものである。ストレート管11(直径φ50mm、長さ150mm)とストレート管12とは、造型時に上型と下型を重ねた状態で内径が一致して連通するように位置決めされている。また、嵌合部材13、15は、実施例、比較例で製造した構造体(I)とそれぞれ同じ材質で製造されたものであり、厚みも同じである。
【0122】
また、鋳型の造型に使用した砂は花王クエーカー(株)製、「ルナモス#60」の新砂で、水溶性フェノール樹脂は花王クエーカー(株)製、「カオーステップSL6000」を1.1質量部(対砂100質量部)、硬化剤は花王クエーカー(株)製、「DH−15」を20質量部(対水溶性フェノール樹脂100質量部)用いた。鋳込み質量20kg、鋳型質量100kgであった。
【0123】
鋳鋼鋳物(SCW480、鋳造温度1550〜1580℃)を鋳込んだ後の鋳型における表面層の残存の有無を、表中、「表面層の残存」として示した。
【0124】
また、上記の鋳込みにより得られた鋳物の内部ガス欠陥部面積を測定するため、X線透過写真を使用し、画像解析ソフト「Winroof」を用いて内部ガス欠陥部面積を算出した。内部ガス欠陥部面積が小さい程、ガス欠陥の少ない高品質な鋳物である。結果を表1に示す。
【0125】
〔実施例2〕
実施例2は、溶融金属の材質をSCS11(ステンレス鋳鋼)にして鋳造した以外は実施例1と同様にして鋳物製造用構造体を得た。得られた鋳物製造用構造体について実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0126】
〔実施例3〕
実施例3は、溶融金属の材質をSCS13(ステンレス鋳鋼)にして鋳造した以外は実施例1と同様にして鋳物製造用構造体を得た。得られた鋳物製造用構造体について実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0127】
〔実施例4〕
実施例4は、無機粒子(A)を中空セラミックス〔太平洋セメント(株)製、商品名「E-SPHERES SL125」、平均粒子径80μm、見掛け比重0.8、嵩比重0.34〕に変更し、構造体(I)の組成を表1の通りとした以外は実施例2と同様にして鋳物製造用構造体を得た。得られた鋳物製造用構造体について実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0128】
〔実施例5〕
実施例5は、溶融金属の材質をSCS13にして鋳造した以外は実施例4と同様にして鋳物製造用構造体を得た。得られた鋳物製造用構造体について実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0129】
〔比較例1〕
比較例1は、無機粒子(A)をムライト〔伊藤忠セラテック(株)製、商品名「合成ムライトMM−200mesh」、平均粒子径20μm、見掛け比重2.8、嵩比重0.89〕に変更し、構造体(I)の組成を表1の通りとし、且つ構造体(I)の表面に表面層を形成しない以外は実施例1と同様にして鋳物製造用構造体を得た。得られた鋳物製造用構造体について実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0130】
〔比較例2〕
比較例2は、無機粒子(A)をムライト〔伊藤忠セラテック(株)製、商品名「合成ムライトMM−200mesh」、平均粒子径20μm、見掛け比重2.8、嵩比重0.89〕に変更し、構造体(I)の組成を表1の通りとし、また、表面層を、コロイダルシリカ〔日産化学(株)製、商品名「snowtex50」、平均粒子径25nm、固形分濃度50%〕により形成した以外は実施例1と同様にして鋳物製造用構造体を得た。得られた鋳物製造用構造体について実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。なお、表1では、このコロイダルシリカを便宜的に耐火性無機粒子(B)の欄に示した。
【0131】
〔比較例3〕
比較例3は、無機粒子(A)をムライト〔伊藤忠セラテック(株)製、商品名「合成ムライトMM−200mesh」、平均粒子径20μm、見掛け比重2.8、嵩比重0.89〕に変更し、構造体(I)の組成を表1の通りとした以外は実施例1と同様にして鋳物製造用構造体を得た。得られた鋳物製造用構造体について実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0132】
〔比較例4〕
比較例4は、無機粒子(A)を平均粒子径40μmの球状シリカ〔(株)マイクロン製、「SC30」、見掛け比重2.2、嵩比重1.04〕に変更した以外は実施例1と同様にして鋳物製造用構造体を得た。得られた鋳物製造用構造体について実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0133】
〔比較例5〕
比較例5は、無機粒子(A)を平均粒子径径30μmの黒曜石〔キンセイマテック(株)製、「ナイスキャッチフラワー#330」、見掛け比重2.3、嵩比重0.58〕に変更し、構造体(I)の組成を表1の通りとした以外は実施例1と同様にして鋳物製造用構造体を得た。得られた鋳物製造用構造体について実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0134】
〔比較例6〕
比較例6は、無機粒子(B)をチタン粉(目開き45μmの篩い通過品、表中、平均粒子径を「45未満」として示す)に変更した以外は実施例1と同様にして鋳物製造用構造体を得た。得られた鋳物製造用構造体について実施例1と同様の評価を行った結果を表1に示す。
【0135】
【表1】

【符号の説明】
【0136】
1 鋳造用ランナー(湯道)
2 キャビティ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機繊維、無機繊維、平均粒子径50〜150μmの無機粒子(A)及びバインダー(a)を含有する構造体であって、該構造体の表面に、金属酸化物、及び金属のケイ酸塩からなる群から選ばれる平均粒子径1〜100μmの耐火性無機粒子(B)、粘土鉱物、並びにバインダー(b)を含有する表面層を有する鋳物製造用構造体。
【請求項2】
無機粒子(A)の平均粒子径と耐火性無機粒子(B)の平均粒子径の比が、〔無機粒子(A)の平均粒子径〕/〔耐火性無機粒子(B)の平均粒子径〕で1〜35である請求項1記載の鋳物製造用構造体。
【請求項3】
粘土鉱物の割合が、無機粒子(B)100質量部に対して、0.5〜30質量部である請求項1又は2記載の鋳物製造用構造体。
【請求項4】
表面層の割合が鋳物製造用構造体の質量基準で10〜80質量%である請求項1〜3の何れか1項記載の鋳物製造用構造体。
【請求項5】
該表面層が溶融金属に接する側に存在する、請求項1〜4の何れか1項記載の鋳物製造用構造体。
【請求項6】
該表面層の耐火性無機粒子(B)が、ジルコンであり、粘土鉱物がアタパルジャイトであり、バインダー(b)がコロイダルシリカである、請求項1〜5の何れか1項記載の鋳物製造用構造体。
【請求項7】
有機繊維、無機繊維、平均粒子径50〜150μmの無機粒子(A)、バインダー(a)、及び分散媒を含有する原料スラリーから、抄造工程を有する成形法で構造体(I)を製造する工程と、構造体(I)の表面に、金属酸化物、及び金属のケイ酸塩からなる群から選ばれる平均粒子径1〜100μmの耐火性無機粒子(B)、粘土鉱物、並びにバインダー(b)を含有する表面層を形成する工程と、を有する鋳物製造用構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−24841(P2012−24841A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138172(P2011−138172)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】